説明

容器詰飲料の製造方法

【課題】飲料内容物が加熱殺菌による高温にさらされるために内容成分が変化することを防止し、抽出時の香りや味を保存するとともに、カテキン成分が加熱による熱異性化することを防止し、特に(−)エピガロカテキンおよび(−)エピガロカテキンガレートの含有量の減少を防止することができる新規な容器詰飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】容器詰飲料の原料となる主原料と副原料の混合原料にγ線を照射して商業的無菌状態とした後、この混合原料に無菌水を注ぎ、得られた混和液または抽出液を、必要に応じて無菌水で希釈して内容物とし、この内容物を予め無菌化した容器に無菌充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑茶飲料等の容器詰飲料の製造方法に関し、特に煎茶葉等原料を抽出した後の後殺菌または容器に茶飲料等の内容物を充填した後の後殺菌がまったく不要な容器詰飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来無炭酸容器詰飲料は、内容物のpHによって次の3つに大別されている。すなわち、果実飲料等のpH4.0未満の高酸性飲料、pH4.0〜4.6未満の中高酸性飲料、pH4.6以上の低酸性飲料である。高酸性飲料の場合は、内容物を一度93℃付近まで温度を上げて加熱殺菌後、80〜85℃に品温を低下させて容器に充填密封し、冷却することによって製品としている。
【0003】
低酸性飲料である茶類等の容器詰飲料の殺菌方法としては、レトルト殺菌方法と高温短時間殺菌方法の2種類が知られており、広く行われている。レトルト殺菌方法は、原料を湯で抽出後の溶液を約80℃に加熱後容器に充填、密封し、レトルト殺菌機により120℃で20〜30分間殺菌後冷却する方法であり、飲料は容器に充填後加熱される。高温短時間殺菌方法は、ホットパック充填と無菌充填の2種類があり、ホットパック充填は、抽出後の溶液をUHT殺菌装置を用いて135℃で30秒間保持することにより殺菌後、90〜95℃まで冷却し、薬剤等で殺菌洗浄した容器に約85℃で充填し密封、冷却する方法であり、無菌充填は、抽出後の溶液をUHT殺菌装置を用いて135℃で30秒間保持して殺菌後、装置内で約35℃まで冷却した後薬剤等で殺菌洗浄した容器に無菌雰囲気下で充填する方法である。いずれの方法においても飲料は抽出後に高温にさらされる。
【0004】
従来の容器詰飲料の製造方法においては、このように抽出後の内容物は高温にさらされるため、成分内容が変化し、抽出時の香りや味が充分に保存され難いという問題点がある。
【0005】
また、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶類はカテキン類を豊富に含み、抗酸化活性、抗菌作用、コレステロール上昇抑制等健康上有益な生体機能に対する各種効果を有することが知られており、カテキン類を良好な状態で保存する方法として、特許文献1〜3等において種々の容器詰茶飲料の製造方法が提案されているが、これらの方法は、いずれも茶葉の抽出後に上記加熱方法のいずれかを用いて加熱殺菌を行うため、カテキン類中特に(−)エピガロカテキンおよび(−)エピガロカテキンガレートが熱異性化し、これらの含有量が減少することを免れない。緑茶の場合抽出直後の(−)エピガロカテキンの含有量はカテキンすなわち天然カテキン((+)カテキン)と熱異性化カテキン((−)カテキン)の合計含有量の約20倍であるが、これら従来の容器詰茶飲料においては、抽出後の加熱殺菌により(−)エピガロカテキンの含有量は(+)カテキンと(−)カテキンの合計含有量の3倍未満にまで減少することが判った。また、同様に、緑茶の場合、抽出直後の(−)エピガロカテキンガレートの含有量は(+)カテキンと(−)カテキンの合計含有量の約18倍であるが、これら従来の容器詰茶飲料においては、抽出後の加熱殺菌により(−)エピガロカテキンガレートの含有量は(+)カテキンと(−)カテキンの合計含有量の6倍未満にまで減少することが判った。したがって、従来の容器詰飲料の製造方法は、茶飲料の製造に適用した場合、加熱殺菌によりカテキン類の有する有益な生体機能上の効果もそれだけ失われるという問題点を有するものである。
【0006】
さらに、従来の容器詰飲料の製造方法において加熱殺菌方法としてホットバック充填を使用する場合は、85℃で充填した内容物を35℃まで冷却後流通させるので、充填後50℃も品温を低下させる必要があり、容器ごと冷却を行う必要があるので冷却媒体が多量に必要であり、コスト高となる欠点がある。
【0007】
また、従来の容器詰飲料の製造方法においては、製品の加熱殺菌中及び製品保存中の内容物の酸化による劣化を防止するため内容物に酸化防止剤を添加する場合は、内容物の調整(抽出)中に酸化防止剤を添加するので、この酸化防止剤は主原料である茶葉等の原料の抽出工程前の輸送中や貯蔵中の酸化を防止するのには役立たないという無駄があった。
【特許文献1】特開平5−168407号公報
【特許文献2】特開平6−343389号公報
【特許文献3】特開2002−84973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の容器詰飲料の製造方法の問題点にかんがみなされたものであって、飲料内容物が加熱殺菌による高温にさらされるために内容成分が変化することを防止し、抽出時の香りや味を保存するとともに、内容物が茶類飲料の場合はカテキン成分が加熱による熱異性化することを防止し、特に(−)エピガロカテキンおよび(−)エピガロカテキンガレートの含有量の減少を防止することができる新規な容器詰飲料の製造方法を提供しようとするものである。
【0009】
また、本発明は、従来のホットパック充填法において充填後50℃も品温を低下させるために多量の冷却媒体を必要としていた欠点を是正した新規な容器詰飲料の製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
さらに、本発明は、従来の容器詰飲料の製造方法における、酸化防止剤は主原料である茶葉等の原料の抽出工程前の輸送中や貯蔵中の酸化を防止するのには役立たないという無駄を省き、原料の保管中から輸送、製造、製品の貯蔵中まで一貫して酸化防止剤を有効に機能させることができる新規な容器詰飲料の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意研究と実験を重ねた結果、容器詰飲料の主原料となるたとえば茶葉等の物質に酸化防止剤等の副原料を混和後、γ線照射して商業的無菌的状態とした後、その原料に無菌水を注ぎ抽出、もしくはその原料を無菌水と混和後、滅菌済みの容器に無菌充填することにより、従来加熱殺菌後に容器に内容物を充填する、または容器に内容物を充填後に殺菌するという抽出後もしくは充填後の後殺菌のための加熱がまったく不要となり、加熱による内容物の成分変化が少なくなるとともにホットパック充填において必要とされていた多量の冷却媒体の量も大幅に減少できることを見出し、上記目的が一挙に達成できることを確認し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の上記目的を達成する容器詰飲料の製造方法は、容器詰飲料の原料となる主原料と副原料の混合原料にγ線を照射して商業的無菌状態とした後、該混合原料に無菌水を注ぎ、得られた混和液または抽出液を、必要に応じて無菌水で希釈して内容物とし、該内容物を予め無菌化した容器に無菌充填することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の1側面において、該副原料、またはその一部が食品添加物であって、飲料の製造に先立って主原料と調合することを特徴とする。
【0014】
本発明の1側面においては、該主原料および副原料の水分含有率が20%以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の1側面においては、該主原料および/または該副原料の形態が粉状であることを特徴とする。
【0016】
本発明の1側面においては、該内容物を容器に無菌充填する際に、容器のヘッドスペースを不活性ガスで置換することを特徴とする。
【0017】
本発明の1側面においては、該主原料が麦類または豆類であることを特徴とする。
【0018】
本発明の1側面においては、該主原料が煎茶葉、紅茶葉またはウーロン茶葉であることを特徴とする。
【0019】
本発明の1側面においては、該主原料が煎茶葉である場合において、少なくとも充填後3ヶ月の間該内容物中の(−)エピガロカテキン含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の3倍以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の他の側面においては、該主原料が煎茶葉である場合において、少なくとも充填後3ヶ月の間該内容物中の(−)エピガロカテキンガレート含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の6倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、容器詰飲料の原料となる主原料と副原料の混合原料にγ線を照射して商業的無菌状態とした後、該混合原料に無菌水を注ぎ、得られた混和液または抽出液を、必要に応じて無菌水で希釈して内容物とし、該内容物を予め滅菌した容器に無菌充填することにより、従来の方法において必要であった内容物抽出後もしくは充填後の後殺菌のための加熱がまったく不要となり、加熱による内容物の成分変化が少なくなり、抽出時の香りや味が保存されるとともに、内容物が茶類飲料の場合カテキン成分が加熱による熱異性化することが防止することができ、特に(−)エピガロカテキンおよび(−)エピガロカテキンガレートの含有量の大幅な減少を防止することができる。また、本発明によれば、混合原料の抽出、充填は約50℃という比較的低温で行うことができるので、50℃から35℃まで品温を下げるだけですみ、容器ごと冷却する際の冷却媒体を大幅に減少させることができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、γ線照射による殺菌前に主原料と副原料を混合しておくので、副原料として酸化防止剤を使用する場合は、ガンマ線照射による殺菌工程中の主原料の酸化を防止することができる上に、殺菌工程以前の混合原料の輸送、貯蔵中の酸化も防止することができ、従来の方法における酸化防止剤の無駄をなくすことができ、有利である。副原料として酸化防止剤以外の、例えばpH調整剤などの食品添加物を加える場合でも、殺菌後(または殺菌中)の抽出液(または混和液)に順次添加する方法では個々に殺菌、無菌雰囲気中への搬入が必要であり、微生物に汚染される危険性が増大するが、飲料の製造に先立って主原料と調合しておけば、微生物汚染の危険性を極力排除でき、工程も簡略化できる。
【0023】
本発明の1側面によれば、主原料が煎茶葉である場合において、内容物中の(−)エピガロカテキン含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の3倍以上であるので、従来の方法と比較して製品中の(−)エピガロカテキンの含有量を有意に増加させることができ、有利である。
【0024】
本発明の他の側面においては、該主原料が煎茶葉である場合において、該内容物中の(−)エピガロカテキンガレート含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の6倍以上であるので、従来の方法と比較して製品中の(−)エピガロカテキンガレートの含有量を有意に増加させることができ、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に係る容器詰め飲料の製造方法において使用される容器は、金属缶、ガラスびん、プラスチック容器、パウチ、紙容器および金属箔やプラスチックフイルムと複合された紙容器等であり、プラスチック容器の場合はPETボトルや、ポリオレフインを主体とし、中間層にエチレン/酢酸ビニル鹸化物共重合体(EVOH)やポリ塩化ビニリデンの酸素バリヤー層を含む多層成形容器(カップ状成形物を含む)等を使用することができる。
【0026】
容器詰め飲料の原料となる主原料としては、煎茶葉、紅茶葉、ウーロン茶葉等の茶葉が最も好適なものとして挙げられ、その他大麦、小麦、オート麦等の麦類を煎ったものや黒大豆や大豆等の豆類を煎ったものにも本発明の方法を適用することができる。本発明はその他粉状寒天、粉状ゼラチン等容器詰飲料の原料となる食品原料を主原料として使用する場合等広く適用することができる。
【0027】
主原料と混合されて混合原料を構成する副原料としては、容器詰飲料において主原料とともに通常添加される酸化防止剤、アスコルビン酸ナトリウム等のpH調整剤、粉末の糖、クエン酸等の酸味料、アミノ酸等の調味料、各種ビタミン、重曹、粉末香料、各種ミネラル、食品添加物等を挙げることができ、特に限定はない。
【0028】
主原料と副原料は充分に混合することにより混合原料とする。混合原料の主原料および/または副原料はその形態が粉状であってもよい。
【0029】
混合原料の主原料および副原料の水分含有率が20%を越えると、γ線殺菌により香味が悪くなることがあり、好ましくない。
【0030】
この混合原料はγ線照射により殺菌することにより商業的無菌状態とする。この場合γ線照射量は、混合原料の種類や必要とされる殺菌値等に応じて充分な量とする。ここで、「商業的無菌状態」とは、6Dとした状態を意味する。D値は、微生物の生存数が1/10になる殺菌条件(放射線殺菌の場合は放射線量、加熱殺菌の場合は加熱温度と時間)であり、一般に6D(生存数が百万分の1になる条件)を確保すれば、商業的無菌状態と判断される。
【0031】
商業的無菌状態を達成した混合原料は、無菌状態を維持したまま無菌的に次工程に搬送され、クリーンルーム等の無菌的雰囲気下で無菌化された装置および器具を使用して無菌水を注ぐことにより目的とする内容液を抽出するか、もしくは混和液を得る。なお、その後の内容液の容器への充填、密封までの工程はすべて無菌的雰囲気下で行われる。
【0032】
抽出液を得る場合は、たとえば、イオン交換水をUHT殺菌装置により135℃で30秒間保持して殺菌を行うことにより得た無菌水を50℃まで冷却し、この温度で混合原料の抽出を行うことにより抽出液を得る。無菌水はUHT殺菌のほか、紫外線水殺菌装置による殺菌、ろ過除菌等によっても得ることができる。
【0033】
混合原料を構成する主原料および副原料がすべて粉状である場合は、抽出によらず、無菌水を注いで攪拌するだけで混和液を得ることができる場合が多い。この場合無菌水は常温まで冷却して使用するので、混和液を充填後冷却する必要がまったくなく、冷却工程を省略することができるので、冷却媒体が節約できるとともに製造時間も短縮できる。
【0034】
次にこうして得た抽出液または混和液を、必要に応じて無菌水で希釈した後、予め無菌化したPETボトル、ガラスびん、金属缶、パウチ、紙パック、プラスチックカップ等の容器に無菌的に充填し、予め無菌化した蓋材で密封する。容器の滅菌、充填機やキャッパーの滅菌等無菌充填の方法は、温水や薬剤による殺菌、温水による洗浄等公知の方法を用いることができる。
【0035】
内容液を容器に充填する際に、内容液の酸化防止のために、窒素ガスの噴射により容器のヘッドスペース内の空気を排除するか、液体窒素を容器内の内容液中に滴下する等公知の方法により容器のヘッドスペース内の空気を窒素ガス等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0036】
前記のように50℃の無菌水を注ぐことにより抽出液を得た場合は、この抽出液を35℃まで冷却した後容器詰飲料として搬出する。
【実施例1】
【0037】
γ線照射茶葉を用いた容器詰緑茶飲料の製造
日本理化学機械株式会社製HC−53ナイロンフイルターネットを素材として13cm×10cmの袋を作り、そこに煎茶用の茶葉35g、アスコルビン酸ナトリウム1.05g、重曹0.07gを入れ、よく混合後、ヒートシールしてテイーバッグを作成した。これを、東洋製罐株式会社製のレトルトパウチに入れヒートシール後、大阪府立大学先端科学研究所においてγ線を10kGy照射した。
【0038】
マイクロ・サーミックス(Micro Thermics)社製のラボ用UHTシステムの無菌化ブース内に、γ線殺菌済みのテイーバッグを入れた蒸気殺菌済みステンレスビーカーと薬匙を投入しておき、同システムでイオン交換水を吸引させ135℃で30秒間UHT殺菌後50℃まで冷却した無菌水を作り、この無菌水を無菌化ブース内でステンレスビーカーに3.5リットル注入し、薬匙で攪拌しながら12分間緑茶の抽出を行った。
【0039】
株式会社ステリテックにおいてガス滅菌済みの東洋製罐株式会社製の280mL容PETボトルに緑茶を充填し、同様に滅菌したキャップをキャッピングした後無菌ブースから出して、冷却水で品温が30℃になるまで冷却し、後殺菌を施していない容器詰緑茶飲料を得た。
【0040】
この容器詰緑茶飲料を試料として、芽胞の生残を変法TGC培地で行い、また無菌性の確認を無菌培地で行った。各培地に試料を懸濁後、変法TGC培地は55℃の恒温庫に1週間入庫し、無菌培地は30℃の恒温庫に2週間入庫し、それぞれ状態を観察した。その結果、変法TGC培地に変化は見られず、耐熱性芽胞は生残していないことが判明した。また無菌培地でも、対照試験管と違いはなく、無菌性が確保されていることが判明した。
【0041】
よって、この容器詰緑茶飲料は、後殺菌がなくても無菌性が確保されていることが確認された。
【実施例2】
【0042】
γ線照射茶葉を用いた容器詰緑茶飲料におけるカテキン濃度の変化
実施例1において製造した容器詰緑茶飲料を室温(20〜30℃)で保存し、3ヶ月間にわたり、γ線殺菌による実施例1の緑茶飲料について、この飲料に含まれる5種のカテキンとカフエインの濃度変化を調べた。対照として、γ線殺菌によらず、抽出した緑茶を135℃で30秒間UHT殺菌することにより殺菌した以外は実施例1と同一方法により調製した容器詰緑茶飲料について同様に濃度変化を調べた。測定したカテキン名を表1に示す。カテキンには天然型と熱異性化型があるが、両者を分離することはできず、天然型と熱異性化型の合計をカテキン含有量とした。
【表1】

【0043】
5種のカテキンの濃度を、製造直後、1週願、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月貯蔵後について、それぞれHPLCを用いて測定した。
【0044】
HPLC測定条件は以下のとおりである。
島津製作所HPLCのLC−10AにODS−C−18 Chemco PaKカラム(充填剤CHEMCOSORB 5-ODS-H、250×4.6mm)を取り付け、2種の移動相を流した。A液は水/アセトニトリル/リン酸/N−Nジメチルホルムアミド(94.79:0.1:0.12:4.99)とし、B液はアセトニトリル(100)とした。時間によってB液を流す量を変化させて、濃度勾配を以下のようにつけた。B液を0分1%、0.1分から58分まで20%、58.01分から65分まで95%、65.01分から79分まで1%で流した。流速は1.0mL/分、オーブン温度43℃、検出UV280nmで行った。試料は10μL注入した。
【0045】
実施例1の容器詰緑茶飲料の5種のカテキンの濃度の経時変化を図1に示す。同様に、対照緑茶飲料の5種のカテキンとカフエインの濃度の経時変化を図2に示す。
【0046】
図2のUHT殺菌による対照品では、緑茶葉から抽出直後(−)−EGCは30.4mg/100mLであったが、UHT殺菌直後は14.9mg/mLとなりほぼ半減した。その後の減少は少なく、3ヶ月貯蔵後は9.4mg/100mLであった。一方図1の実施例1の飲料においては、緑茶葉より抽出直後(−)−EGCは30.4mg/100mL存在していたが、γ線殺菌、低温抽出を経たボトリング直後は30.9mg/100mLであり、ボトリング後もほとんど変化は見られなかった。その後やや減少したものの、3ヶ月貯蔵後は25.0mg/100mLであった。
【0047】
(−)−EGCgについてみると、図2の対照品では、緑茶葉より抽出直後に26.3mg/100mLであったが、UHT殺菌直後は13.6mg/100mLとなった。その後ゆるやかに減少して3ヶ月貯蔵後は11.4mg/100mLであった。一方図2の実施例1の飲料では、緑茶葉より抽出直後(−)−EGCgは26.3mg/100mLであったが、γ線殺菌後、低温抽出を経たボトリング直後は26.5mg/100mLで、ボトリング後もほとんど変化が見られず、その後おだやかに減少し、3ヶ月貯蔵後は17.9mg/100mLであった。
【0048】
カフエインは経時中15.5mg/100mL附近で推移し、ほとんど変化がなかった。
【0049】
(+)−Cは熱異性化により(−)−ECとなり、(−)−ECは熱異性化により(−)−Cとなるといわれている。(+)−Cと(−)−Cは分離できないため、(+)−Cと(−)−Cの合計量をカテキン濃度とした。本実施例においては、対照品では、UHT殺菌時に(−)−ECが減少し、(−)−Cが増加した。図2の対照品では、抽出直後は(+)−Cと(−)−Cの合計量は1.5mg/100mLであったが、UHT殺菌直後は5.3mg/100mLに増加した。その後ほとんど減少せず、3ヶ月貯蔵後は4.8mg/100mLであった。一方図1の本実施例の飲料では、緑茶葉中では(+)−Cと(−)−Cの合計量は1.5mg/100mLであったが、γ線殺菌、低温抽出を経たボトリング直後も1.5mg/100mLとほとんど変化がなかった。その後はおだやかに増加し、3ヶ月貯蔵後は2.1mg/100mLであった。
【0050】
実施例1の緑茶飲料と対照品の品質差異が顕著に表れたのは、実施例1の緑茶飲料においては、(−)−EGCと(−)−EGCgという天然型カテキン2種がほとんど熱異性化せずに保持されたことである。
【0051】
この点については、具体的には以下に示す指標により述べる。(+)−Cと(−)−Cの合計量を分母とし、(−)−EGCおよび(−)−EGCgを分子とした値を指標とする。これらの指標の値が大きいほど熱異性化していないことを示すことになる。この指標によると、γ線殺菌法では、天然型カテキン2種がほとんど熱異性化せずに保持されることがわかった。以下にこの指標による計算結果を示す。
【0052】
対照品の貯蔵3ヶ月では(−)−EGC/(+)−Cと(−)−Cの合計=9.4/4.8=1.96
対照品の貯蔵3ヶ月では(−)−EGCg/(+)−Cと(−)−Cの合計=11.4/4.8=2.38
一方本実施例の飲料の貯蔵3ヶ月では(−)−EGC/(+)−Cと(−)−Cの合計=25.0/2.1=11.9
本実施例の飲料の貯蔵3ヶ月では(−)−EGCg/(+)−Cと(−)−Cの合計=17.9/2.1=8.52
【0053】
すなわち、上記指標の値が大きいほど熱異性化していないことを示すことから、γ線殺菌法により殺菌する場合は加熱殺菌法により殺菌する場合よりもはるかに天然型カテキン2種が熱異性化せずに保持されることが明らかとなり、茶飲料の品質保持の見地から見たγ線殺菌の優位性が確認された。
【実施例3】
【0054】
大塚製薬株式会社製のポカリスエット(登録商標)74g入りの粉末製品4袋、計296gを東洋製罐株式会社製のレトルトパウチに入れ、ヒートシール後実施例1と同様にγ線を10kGy照射した。
【0055】
Micro Thermics社製のラボ用UHTシステムの無菌化ブース内に蒸気滅菌済みステンレススビーカーおよび薬匙、さらにγ線照射済みポカリスエット入りパウチを入れた。同システムでイオン交換水を吸引させUHT殺菌後50℃まで冷却した無菌水を作った。
【0056】
無菌化ブース内でポカリスエット入りのパウチを開封し、ステンレスビーカー内に投入後、無菌水を4L注入し、薬匙で攪拌し溶かし、ポカリスエット溶液を得た。そして、ガス滅菌済みの東洋製罐株式会社製の280mL容PETボトルにポカリスエット溶液を充填し、同様に滅菌したキャップをキャッピング後無菌ブースから出し、後殺菌を施していない粉末原料由来の飲料を得た。
【0057】
この飲料を試料として、実施例1と同様に芽胞の生残を変法TGC培地で確認したところ耐熱性芽胞は生残していないことが判明した。
【0058】
よって、この粉末原料由来の飲料においても、後殺菌がなくても無菌性が確保されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例に係るPETボトル詰め緑茶飲料におけるカテキン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図2】対照品であるPETボトル詰め緑茶飲料におけるカテキン濃度の経時的変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰飲料の原料となる主原料と副原料の混合原料にγ線を照射して商業的無菌状態とした後、該混合原料に無菌水を注ぎ、得られた混和液または抽出液を、必要に応じて無菌水で希釈して内容物とし、該内容物を予め無菌化した容器に無菌充填することを特徴とする容器詰飲料の製造方法。
【請求項2】
該副原料、またはその一部が食品添加物であって、飲料の製造に先立って主原料と調合することを特徴とする請求項1記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項3】
該主原料および副原料の水分含有率が20%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項4】
該主原料および/または該副原料の形態が粉状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項5】
該内容物を容器に無菌充填する際に、容器のヘッドスペースを不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項6】
該主原料が麦類または豆類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の容器詰食品の製造方法。
【請求項7】
該主原料が煎茶葉、紅茶葉またはウーロン茶葉であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項8】
該主原料が煎茶葉であって、少なくとも充填後3ヶ月の間該内容物中の(−)エピガロカテキン含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の3倍以上であることを特徴とする請求項7記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項9】
該主原料が煎茶葉であって、少なくとも充填後3ヶ月の間該内容物中の(−)エピガロカテキンガレート含有量が、内容物中の(−)カテキンと(+)カテキンの合計含有量の6倍以上であることを特徴とする請求項7または8記載の容器詰飲料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−82502(P2007−82502A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277855(P2005−277855)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】