説明

寒天のゲル強度調整剤、ゲル化剤及び寒天組成物

【課題】容易に寒天のゲル強度の強弱を調整することが可能な寒天のゲル強度調整剤、様々な温度で寒天溶液をゲル化させる寒天のゲル化剤、及び寒天組成物を提供することである。
【解決手段】タンニンが含まれていることを特徴とする寒天のゲル強度調整剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天のゲル強度を調整するゲル強度調整剤、ゲル化しない状態に調整された寒天をゲル化させるゲル化剤、及び寒天組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、D−ガラクトースと3,6アンヒドロ−L−ガラクトースが交互に繰り返されたアガロースを主成分とする多糖類であり、食物繊維を多く含むことから、様々な食品に使用されている。また、寒天は、ハイドロコロイドとして熱可逆性のゲルを形成するという特性を有することから、食品以外にも医療やバイオテクノロジーなど様々な用途で利用されており、その用途に応じてゲル強度を変化させて使用されている。天然物のゲル強度を調整する方法としては、寒天の分子量を変えたり、アガロース以外の多糖類であるアガロペクチンの含有比率を変化させる方法が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、一部の基を親水性のある反応基であるカルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、アミノ基(−NH2)、及びスルホ基(−SO3H)の少なくとも1種で置換したポリマー、あるいは該反応基を有するポリマー及びその水溶液からなる官能基を有する樹脂粉末あるいはその水溶液からなるゲル強化剤をゾル状態で添加することにより、ゾル・ゲル変態を起こす天然多糖類のゲル状態でのゲル強度を著しく向上させることができることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平06−313064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、寒天が天然物であることから、寒天の分子量を変化させたり、アガロース以外の多糖類であるアガロペクチンの含有比率を変化させる作業は、煩雑であり、ゲル強度を容易に変化させることはできない。また、特許文献1に開示された方法は、ゲル強度を向上させることができるものの、ゲル強度を弱くすることができないという問題がある。また、特許文献1に開示された方法は、合成反応であるため、ゲル強度を用時に任意に変化されることができないという問題がある。さらに、寒天の凝固温度は、1.5重量%において35℃〜45℃であるが、例えば、沸点の低い揮発成分を混合する場合などの用途においては、低い温度でゲル化させるなどゲル化温度を調整することも望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、容易に寒天のゲル強度の強弱を調整することが可能な寒天のゲル強度調整剤、様々な温度で寒天溶液をゲル化させる寒天のゲル化剤、及び寒天組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、寒天にタンニンを含ませることによって、寒天のゲル強度の強弱を調整することができることを見出した。すなわち、本発明は、タンニンが含まれていることを特徴とする寒天のゲル強度調整剤である。本発明において、タンニンは、植物の葉などに含まれるポリフェノールの総称で、タンニン酸としての構造も含む。
【0008】
また、本発明者らは、前記ゲル強度調整剤の含有量が所定の範囲を超えると、ゲル化が阻害されて凝固しないことを見出し、さらに、これらゲル化が阻害された溶液にタンニン活性阻害剤を加えることにより寒天溶液がゲル化することを見出した。すなわち、本発明は、タンニン活性阻害剤を含み、前記寒天のゲル強度調整剤によってゲル化が阻害された寒天に加えることにより、ゲル化させる寒天のゲル化剤である。この寒天のゲル化剤によれば、例えば、ゲル化が阻害された寒天溶液を低い温度でゲル化させることができる。
【0009】
さらに、本発明は、タンニンと寒天が含まれたことを特徴とする寒天組成物である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、容易に寒天のゲル強度の強弱を調整することが可能な寒天のゲル強度調整剤、様々な温度で寒天溶液をゲル化させる寒天のゲル化剤、及び寒天組成物を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る寒天のゲル強度調整剤は、タンニンの濃度が0%超から0.3%以下、好ましくは0.01%以上0.2%以下になるように寒天に添加することによって、寒天のゲル強度を向上させることができる。また、本発明に係る寒天のゲル強度調整剤は、タンニンの濃度が0.3%以上になるように寒天に添加することによって、寒天のゲル強度を低くすることができ、タンニンの濃度が0.5%以上になるように寒天に添加することによって、ゲル化を阻害して、ゲル化させない程度にゲル強度を低くすることができる。
【0012】
本発明に係るゲル化剤に含まれるタンニン活性阻害剤としては、苛性ソーダや苛性カリ、炭酸ソーダ、水酸化カルシウムなどの無機アルカリ化合物、塩酸、酢酸などの酸、及びタンナーゼなどのタンニンを分解する酵素などがある。このように、タンニンによってゲル化が阻害された寒天溶液にゲル化剤を添加することによって、寒天がゲル化するのは、タンニン活性阻害剤によって、タンニンのエステル結合が切れて没食子酸になることによりタンニンの寒天に対する効果が失われるためであると考えられる。
【0013】
本発明に係る寒天のゲル強度調整剤、ゲル化剤及び寒天組成物において、タンニンとしては、加水分解型タンニンと縮合型タンニンがある。加水分解タンニンは、酸加水分解される性質をもつものであり、縮合型タンニンは、カテキンやエピカテキンなどが複数で結合した構造を持ち、酸加水分解されないものである。具体的には、ケブラコ、ワットル、クリ、ミロバラン、ガンビール、ヘムロック、オーク、カッチ、クルミ及びタラなどのタンニンエキス、ウコギ科ヌルデに寄生している五倍子、タデ科ダイオウからのガロイル、ゲンノショウコのゲラニイン、シソ科ローズマリーやシソ、ウツボグサ、及びヤクヨウサルビアなどのシソ科タンニン、渋柿並びに茶に含まれる茶タンニンなどから、既知の方法で得ることができる。
【0014】
本発明に係る寒天のゲル強度調整剤を用いて、寒天のゲル強度を向上させた場合の用途としては、例えば、歯科印象材、食品サンプルやファントム(人体模倣)、建材などの母型材、衝撃吸収材、床ずれ予防のクッション材、CIM(Ceramics Injection Molding)MIM(Metal Injection Molding)など従来から強度をさらに必要とされている用途がある。一方、本発明に係る寒天のゲル強度調整剤を用いて、寒天ゲル強度を弱くする場合の用途としては、例えば、化粧品や医薬品などにおいてゲルを壊してペースト状態を作っていたクリームやペーストジェルなどがある。また、本発明にかかる寒天のゲル化剤の用途としては、例えば、パック剤などの化粧品用途、芳香剤、ワックス、換気扇など油汚れ防止剤などの日用雑貨、水漏れ防止用途、汚泥処理用途などの工業用途など、従来寒天のゲル化温度においては、その用途に適合できなかった用途に利用することができる。さらに、本発明に係る寒天組成物は、その配合比により、用時に調整することなく事前に配合されているため、その寒天組成物を前記用途により容易に利用することができる。
【実施例】
【0015】
次に、本発明に係る寒天のゲル強度調整剤の実施例について説明する。先ず、寒天(伊那寒天S−7)の1%溶液を作り、これに本実施例に係るゲル強度調整剤であるタンニン(タラタンニン:インディノール社製)をその濃度が0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、0.8%、1.0%になるように、それぞれ添加して均一な溶液を作り、自然放冷により凝固させることによって実施例1乃至6に係る寒天組成物を得た。その後、日寒水式の測定法によって、これら寒天組成物についてゲル強度を測定した。また、比較例としてタンニンを添加しないものについても、同様にゲル強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1から明らかなように、タンニンが低濃度になるように添加することによって、ゲル強度を増加させることができ、濃度を増やすことによってゲル強度を低下させ、ゲル化を阻害できることが分かる。
【0018】
次に、ゲル化が阻害されたタンニン0.8%及び1.0%の寒天溶液に、ゲル化剤として0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を添加することによって、pH7.0以上に中和したところ、これら寒天溶液は、ゲル化して、従来に近いゲル強度の寒天ゼリーができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンが含まれていることを特徴とする寒天のゲル強度調整剤。
【請求項2】
タンニン活性阻害剤を含み、請求項1記載の寒天のゲル強度調整剤によってゲル化が阻害された寒天溶液に加えることにより、寒天をゲル化させる寒天のゲル化剤。
【請求項3】
タンニンと寒天が含まれたことを特徴とする寒天組成物。


【公開番号】特開2006−182922(P2006−182922A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378539(P2004−378539)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】