説明

寸法測定治具

【課題】耐摩耗性と密着性に優れる硬質膜を表面に有し、長寿命で交換回数を大幅に削減し得る寸法測定治具を提供する。
【解決手段】基材2の表面に硬質膜1が成膜されてなる寸法測定治具であり、硬質膜1は、基材2の表面上に直接成膜されるクロムを主体とする下地層1aと、下地層1aの上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層1bと、該混合層1bの上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層1cとからなる構造の膜であり、混合層1bは、下地層1a側から表面層1c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層1b中のタングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層1b中のダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械部品や各種成形金型の寸法、締め付けトルク、形状などを測定する際に使用する、ゲージ類、定盤、模範部品などの寸法測定治具に関し、特に、表面にダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜を成膜した寸法測定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i−カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
【0003】
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性などに優れる。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。
【0004】
一方、各種機械部品や各種成形金型などの寸法、締め付けトルク、形状などを測定する際に使用する、治具・器具・部品(以下、本発明において「寸法測定治具」という)として、ブロックゲージ、ピンゲージ、ダイヤルゲージ、栓ゲージ、プラグゲージ、フィルムゲージなどの各種ゲージ類、ブロックゲージを用いた寸法測定時に使用する定盤、製品形状の寸法模範(軸受内・外輪、ケージ、転動体)や締め付けトルク確認用模範などの模範部品、ノギス、マイクロメータなどの寸法測定器具などが知られている。
【0005】
機械部品の寸法管理用の模範部品の一例として、めねじの寸法を測定するプラグゲージがある。プラグゲージは、めねじのねじ穴内に嵌合されて寸法を検査するものである。めねじに対応するおねじが設けられたゲージ部を有し、めねじに外径や有効径、ピッチ径などを検査する通り側および止め側のねじプラグゲージや、めねじの内径に対応する円柱形状のゲージを有してめねじの内径を検査する内径用プラグゲージがJISなどで規定されている。
【0006】
このようなプラグゲージにおいて、表面にTiN、CrNなどの硬質被膜をコーティングすることにより、耐摩耗性を向上させる技術が提案されている。しかし、TiN膜やCrN膜は膜厚のばらつきが大きいため、プラグゲージに要求される高い寸法精度を満たすことが難しく、実質的に適用が困難である。また、TiN膜やCrN膜はAIP(アークイオンプレーティング)法で成膜されるため、ドロップレットと呼ばれる粗大粒子(アーク放電部で発生)が付着するので表面粗さが粗くなり、潤滑性が損なわれてプラグゲージとめねじの嵌合部で引っ掛かりが生じて作業性が悪化するという課題、あるいは耐摩耗性が十分でなく交換間隔が短いなどの課題があった。
【0007】
この課題に対して、プラグゲージの表面に2μm以下のDLC膜をCVD法で形成するものが提案されている(特許文献1参照)。また、対象物に加工した穴などの内径寸法を測定するのに使用する栓ゲージの表面にDLC膜を形成するものが提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
その他、DLC膜を形成する方法として、例えば、アーク放電部の陰極から発生するドロップレットと呼ばれる陰極材料粒子を除去できる機構を取り付け、表面に凹凸の少ないDLC膜を形成し得るアークイオンプレーティングのフィルタードアーク法が提案されている(特許文献3参照)。また、UBMS法でDLC膜を形成することで、密着性に優れるDLC膜が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−208116号公報
【特許文献2】特開2006−177908号公報
【特許文献3】特開2007−046144号公報
【特許文献4】特開2002−256415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のようにCVD法で成膜したDLC膜は、PVD法で成膜したDLC膜と比較して、耐摩耗性および密着性が劣ることから、寸法管理用の模範部品として最適とはいえない。また、特許文献1では、中間層を設けるなどの密着性向上対策がなされていない。
【0011】
また、特許文献2では、UBMS法を用いて成膜しており、DLC層と基材との間にめっき層を設けているが、めっき層と基材との密着力は、UBMS法で成膜した中間層と比べて大幅に劣る。このため、膜全体としての密着力としては十分とはいえない。また、めっき層の膜厚の管理は難しく、薄肉化が困難であるため、模範部品として最適とはいえない。また、密着性を高めるため、中間層に金属元素を使用する旨が提案されているが、中間層の膜構造や成膜条件などによっては、密着性向上が図れない場合もある。
【0012】
このように、既存の模範部品は、その表面に硬質膜処理(CrN、TiN、DLCなど)を施し、長寿命化を試みているものの、寸法精度、耐摩耗性、密着性の面で不十分であり、長期間使用することが困難である。
【0013】
寸法測定治具の表面の曲面部などにDLC膜を成膜する場合では、その膜構造や成膜条件によっては、膜内の残留応力が大きくなり、成膜直後に剥離するおそれがある。成膜直後には剥離しなくとも、使用時に負荷を受けると剥離するおそれがある。このため、高い密着性が要求される。また、締め付けトルク確認用模範部品の場合、ハウジングの寸法を管理するため、該模範部品を圧入し、模範部品を往復摺動させた時のトルクを検出するものであり、摩耗粉が摺動界面に残存し易く、高い耐摩耗性が要求される。
【0014】
DLC膜の形成方法として、特許文献3の方法では、耐摩耗性を優先しており、密着性に劣るため、寸法測定治具への適用は困難であると考えられる。また、特許文献4の方法では、基材との密着性のみに着目しているため、従来の成膜条件では、寸法測定治具としての十分な耐摩耗性を付与することは困難であると考えられる。
【0015】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、耐摩耗性と密着性に優れる硬質膜を表面に有し、長寿命で交換回数を大幅に削減し得る寸法測定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明寸法測定治具は、基材の表面に硬質膜が成膜されてなり、上記硬質膜は、上記基材の表面上に直接成膜されるクロム(以下、Crと記す)を主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイト(以下、WCと記す)とDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層であることを特徴とする。
【0017】
上記基材の表面に、曲面部を有することを特徴とする。ここで、曲面部とは、硬質膜が成膜される基材表面の少なくとも一部を構成する部分であり、かつ、平面でない部分である。
【0018】
上記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることを特徴とする。
【0019】
上記硬質膜は、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする。
【0020】
上記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする。
【0021】
上記表面層は、上記混合層との隣接側に、上記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする。
【0022】
上記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴン(以下、Arと記す)ガスを用いたUBMS装置を使用して成膜した層であり、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、上記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、上記基材に印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、上記混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする。また、上記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする。
【0023】
なお、基材に対するバイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧150Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が−150Vであることを示す。
【0024】
上記表面層の傾斜層部分は、上記基材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜されたものであることを特徴とする。
【0025】
上記下地層および上記混合層は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用して成膜した層であり、上記混合層は、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜されたものであることを特徴とする。
【0026】
上記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める上記表面層の厚さの割合が0.8以下であることを特徴とする。
【0027】
上記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする。また、上記硬質膜が形成される面において、上記硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする。また、上記窒化処理が、プラズマ窒化処理であり、上記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする。
【0028】
上記寸法測定治具が、ゲージ類、定盤、および模範部品、または、これらを構成する部材であることを特徴とする。また、上記寸法測定治具が、マイクロメータまたはノギスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の寸法測定治具は、基材の表面にDLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。各面上に直接成膜されるCrからなる下地層は鉄系材料等と相性がよく、WやSiと比較して密着性に優れる。また、混合層に用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、WCとDLCとの混合層を傾斜組成とすることで、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている。
【0030】
該硬質膜は、上記構造により、往復摺動などされる寸法測定治具の基材表面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の寸法測定治具は、表面の硬質膜の密着性や耐摩耗性に優れ、長寿命で交換回数を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の寸法測定治具に成膜される硬質膜の構造を示す模式断面図である。
【図2】UBMS法の成膜原理を示す模式図である。
【図3】AIP機能を備えたUBMS装置の模式図である。
【図4】摩擦試験機を示す図である。
【図5】密着性評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件、基材形状の影響を受け大きく異なる。本発明者らは、鋭意検討の結果、寸法測定治具の基材表面に形成する硬質膜を、下地層(Cr)と混合層(WC/DLCの傾斜)と表面層(DLC)とからなる所定の構造に限定することで、基材表面に曲面部を含む場合であっても、耐剥離性の大幅な向上が図れ、治具の使用時に該硬質膜の剥離や摩耗を防止できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
【0033】
本発明の対象とする寸法測定治具は、各種機械部品や各種成形金型などの寸法、締め付けトルク、形状などを測定する際に使用する治具・器具・部品である。例えば、ブロックゲージ、ピンゲージ、ダイヤルゲージ、栓ゲージ、プラグゲージ、フィルムゲージなどの各種ゲージ類、ブロックゲージを用いた寸法測定時に使用する定盤(ブロックゲージや製品との摺動あり)、製品形状の寸法模範(軸受内・外輪、ケージ、転動体)や締め付けトルク確認用模範などの模範部品、ノギス、マイクロメータなどの寸法測定器具などが挙げられる。模範部品は、具体的には、軸受内輪内径、軸受外輪外径、もしくは転動体の寸法測定時に使用をするものや、球面軸受外輪をはめ込んで使用するハウジングの内径寸法測定時に使用をするものなどがある。
【0034】
本発明の寸法測定治具の基材の材質としては、特に限定されないが、超硬合金材料または鉄系材料を用いることができる。超硬合金材料としては、機械的特性が最も優れるWC−Co系合金の他に、切削工具として、耐酸化性を向上させた、WC−TiC−Co系合金、WC−TaC−Co系合金、WC−TiC−TaC−Co系合金などが挙げられる。鉄系材料としては、炭素工具鋼、高速度工具鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼、軸受鋼、快削鋼などが挙げられる。
【0035】
これらの基材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
【0036】
硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
【0037】
硬質膜が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。
【0038】
硬質膜の構造を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の寸法測定治具において基材表面に成膜される硬質膜1の構造を示す模式断面図である。図1に示すように、該硬質膜1は、(1)基材2の表面2a上に直接成膜されるCrを主体とする下地層1aと、(2)下地層1aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層1bと、(3)混合層1bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層1cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層1bは、下地層1a側から表面層1c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。
【0039】
下地層1aがCrを主体とする層であることから、超硬合金材料や鉄系材料からなる基材との相性がよく、W、Ti、Siなどを用いる場合と比較して基材との密着性に優れる。
【0040】
混合層1bに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。後述の各比較例に示すように、下地層をCr以外とする場合や、下地層に合わせて混合層をCrとDLCとを主体とする層とする場合では、ロックウェル圧痕試験での剥離性に劣る。このように、寸法測定治具の表面において、耐剥離性に優れたDLCを含む硬質膜を形成しようとする場合では、中間層(下地層1aおよび混合層1b)における材料選定も重要な要素となる。
【0041】
また、混合層1bが表面層1c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層1aと表面層1cとの両面での密着性に優れる。特に、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となり、表面層1c側ではDLC含有率が高められているので、表面層1cと混合層1bとの密着性に優れる。
【0042】
表面層1cは、DLCを主体とする膜である。表面層1cにおいて、混合層1bとの隣接側に、混合層1b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分1dを有することが好ましい。これは、混合層1bと表面層1cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分1dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層1bと表面層1cとの密着性がさらに優れる。
【0043】
硬質膜1の膜厚(3層の合計)は0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該硬質膜1の膜厚に占める表面層1cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層1bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となるため、密着性が劣化する可能性が高い。
【0044】
硬質膜1を以上のような組成の下地層1a、混合層1b、表面層1cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。
【0045】
硬質膜1の物性としては、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることが好ましい。該試験で比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であれば、耐摩耗性に優れ、治具を往復摺動させた場合でも摩耗粉の発生を防止し得る。
【0046】
また、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることが好ましい。この範囲であると、摺動面に硬質な異物が介入した場合に発生するアブレッシブ摩耗にも高い効果を発揮する。
【0047】
また、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることが好ましい。スクラッチテストにおける臨界剥離荷重の測定方法は、後述の実施例に示すとおりである。臨界剥離荷重が50N未満である場合には、高荷重条件で治具を使用した場合に硬質膜が剥離する可能性が高い。また、臨界剥離荷重が50N以上であっても、本発明のような膜構造でなければ場合によっては容易に剥離することもある。
【0048】
以下、硬質膜の形成方法について説明する。硬質膜は、寸法測定治具の基材表面に対して、下地層1a、混合層1b、表面層1cをこの順に成膜して得られる。
【0049】
下地層1aおよび混合層1bの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図2に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材12は、成膜対象の寸法測定治具の基材であるが、模式的に平板で示してある。図2に示すように、丸形ターゲット15の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石14a、外側磁石14bが配置され、ターゲット15付近で高密度プラズマ19を形成しつつ、上記磁石14a、14bにより発生する磁力線16の一部16aがバイアス電源11に接続された基材12近傍まで達するようにしたものである。この磁力線16aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材12付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材12付近まで達する磁力線16aに沿って、Arイオン17および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット18をより多く基材12に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)13を成膜できる。
【0050】
ターゲット15として、下地層1aを形成する際にはCrターゲットを用い、混合層1bを形成する際にはWCターゲットおよび黒鉛ターゲットを併用する。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。
【0051】
混合層1bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層1c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
【0052】
表面層1cの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。より詳細には、表面層1cは、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜5とし、上記装置内の真空度を0.2〜0.8Paとし、基材に印加するバイアス電圧を70〜150Vでとした条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、混合層1b上に堆積させて成膜されたものとすることが好ましい。この好適条件について以下に説明する。
【0053】
炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、混合層1bとの密着性を向上させることができる。炭化水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス、ベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。
【0054】
上記炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して1〜5(体積部)とすることで、表面層1cの耐摩耗性などを悪化させずに、混合層1bとの密着性の向上が図れる。
【0055】
UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は上記のとおり0.2〜0.8Paであることが好ましい。より好ましくは、0.25〜0.8Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.8Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0056】
基材に印加するバイアス電圧は上記のとおり70〜150Vであることが好ましい。より好ましくは、100〜150Vである。バイアス電圧が70V未満であると、緻密化が進行せず、耐摩耗性が極端に悪化するので好ましくない。また、バイアス電圧が150Vをこえると、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。また、バイアス電圧が高すぎると、表面層が硬くなりすぎ、治具の使用時に剥離しやすくなるおそれがある。
【0057】
また、スパッタリングガスであるArガスの導入量は40〜150ml/minであることが好ましい。より好ましくは50〜150ml/minである。Arガス流量が40ml/min未満であると、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、Arガス流量が150ml/minよりも多いと、逆スパッタ現象が起こり易くなるため、耐摩耗性が悪化するおそれがある。Arガス導入量が多いと、成膜チャンバー内でAr原子と炭素原子の衝突確率が増す。その結果、膜表面に到達するAr原子数が減少し、Ar原子による膜の押し固め効果が低下し、膜の耐摩耗性が悪化する。
【0058】
表面層1cの傾斜層部分1dは、上記のように、基材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜することで得られる。
【実施例】
【0059】
本発明の寸法測定治具に形成する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関する評価した。これらを実施例、比較例、参考例として以下に説明する。
【0060】
硬質膜の評価用に用いた基材、UBMS装置、スパッタリングガス、下地層および混合層の形成条件は以下のとおりである。
(1)基材材質:各表に示す基材
(2)基材寸法:鏡面(Ra0.005μm程度)の円板(φ48mm×φ8mm×7mm)
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202/AIP複合装置
(4)スパッタリングガス:Arガス
(5)下地層および混合層の形成条件
下地層:成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットを用いCr層を形成した。なお、Cr以外の下地層とする場合は、対応するターゲットを用いる以外は、同条件で形成した。
混合層:成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面(または上記Cr層表面)をエッチング後、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させた。なお、WC以外との混合層とする場合は、対応するターゲットを用いる以外は、同条件で形成した。
(6)表面層の形成条件は、各表に示す。
【0061】
UBMS202/AIP複合装置の概要を図3に示す。図3はアークイオンプレーティング(以下、AIPと記す)機能を備えたUBMS装置の模式図である。図3に示すように、UBMS202/AIP複合装置は、円盤22上に配置された基材23に対し、真空アーク放電を利用して、AIP蒸発源材料21を瞬間的に蒸気化・イオン化し、これを基材23上に堆積させて被膜を成膜するAIP機能と、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)24を非平衡な磁場により、基材23近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図2参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、AIP被膜および複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材に、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。
【0062】
実施例1〜実施例8、実施例10、実施例11、比較例1〜比較例4、参考例1〜参考例7
表1〜表3に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて各表に示す材質の下地層および混合層を形成した。その上に、各表に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、各表における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を以下に示す摩耗試験、ロックウェル圧痕試験(参考例以外)、膜厚試験、硬度試験、およびスクラッチテストに供した。結果を各表に併記する。
【0063】
実施例9
日本電子工業社製:ラジカル窒化装置を用いてプラズマ窒素処理が施された基材(ビッカース硬さHv1000)をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて表1に示す材質の下地層(Cr)および混合層(WC/DLC)を形成した。その上に、表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。得られた試験片について、実施例1と同様の試験に供し、その結果を表1に併記する。
【0064】
<摩擦試験>
得られた試験片を、図4に示す摩擦試験機用いて摩擦試験を行なった。図4(a)は正面図を、図4(b)は側面図を、それぞれ表す。表面粗さRaが0.01μm以下であり、ビッカース硬度Hvが780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材32として回転軸に取り付け、試験片31をアーム部33に固定して所定の荷重34を図面上方から印加して、ヘルツの最大接触面圧0.5GPa、室温(25℃)下、0.05m/sの回転速度で30分間、試験片31と相手材32との間に潤滑剤を介在させることなく、相手材32を回転させたときに、相手材32と試験片31との間に発生する摩擦力をロードセル35により検出した。これより、比摩耗量を算出した。
【0065】
<ロックウェル圧痕試験>
ダイヤモンド圧子を150kgの荷重で試験片基材に打ち込んだ際、その圧痕周囲の剥離発生状況を観察した。観察した剥離発生状況を図5に示す評価基準により、試験片の密着性を評価した。剥離発生量が図5(a)に示すように軽微であれば密着性に優れると評価して「○」印を、剥離が図5(b)に示すように部分的に発生している場合は密着性が劣ると評価して「△」印を、剥離が図5(c)に示すように全周に発生している場合は密着性に著しく劣ると評価して「×」印を記録した。
【0066】
<膜厚試験>
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。
【0067】
<硬度試験>
得られた試験片の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定している。
【0068】
<スクラッチテスト>
得られた試験片について、ナノテック社製:レベテストRSTを用いてスクラッチテストを行ない臨界剥離荷重を測定した。具体的には、得られた試験片について、先端半径200μmのダイヤモンド圧子で、スクラッチ速度10mm/min、荷重負荷速度10N/mm(連続的に荷重を増加)で試験し、試験機画面で判定し、画面上の摩擦痕(摩擦方向長さ375μm、幅約100μm)に対し露出した基材の面積が50%に達する荷重を臨界剥離荷重として測定した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表1に示すように、各実施例の硬質膜は、耐摩耗性や密着性に優れることが分かる。また、下地層や中間層が本発明と異なる比較例1〜4では、ロックウェル圧痕試験において剥離が見られた。
【0073】
次に、寸法測定治具の耐久性を確認するため、以下の試験を行なった。
【0074】
<栓ゲージ試験A>
栓ゲージ材質:SUJ2(ビッカース硬度780Hv)、φ22mm×φ8mm×t6mmの焼結金属部品(銅−鉄系)について、φ8の孔に栓ゲージ通し試験を実施した。試験に使用した焼結金属部品の内径寸法は、φ8.01mm±0.01mmの寸法に入るように調整してある。この焼結部品内径部に、表4に示す条件で表面処理を施した栓ゲージ(φ8mm±0.005mm×L50mm、Ra=0.01μm、真円度0.001mm)を通し、内径寸法を確認した。焼結部品内径部と栓ゲージは摺動するため、通し回数が増加すると栓ゲージに傷、摩耗が生じる。なお、真円度測定には、テーラーホブソン社製タリロンド365を用いた。100万個の焼結金属部品について通し試験を行ない、栓ゲージの真円度が0.002mm未満(変化量0.001mm未満)のものを「○」、真円度が0.002〜0.004mmのものを「△」、真円度が0.004mmをこえるものを「×」として記録した。結果を表4に示す。
【0075】
<栓ゲージ試験B>
栓ゲージ材質:SUJ2(ビッカース硬度780Hv)、φ50mm×φ100mm×t50mmのFC200(鋳鉄)製ハウジングについて、φ50mmの孔に栓ゲージ通し試験を実施した。試験に使用したFC200製ハウジングの内径寸法は、φ50(0.000〜+0.02mm)の寸法に入るように調整してある。このハウジングに、表4に示す条件で表面処理を施した栓ゲージ(φ50mm±0.002mm×L80mm、Ra=0.5μm)を通し、内径寸法を確認した。ハウジングと栓ゲージは摺動するため、通し回数が増加すると栓ゲージに傷、摩耗が生じる。10万個のハウジングについて通し試験を行い、栓ゲージの真円度が0.002mm未満(変化量0.001mm未満)のものを「○」、真円度が0.002〜0.004mmのものを「△」、真円度が0.004mmをこえるものを「×」として記録した。結果を表4に示す。
【0076】
<ノギス測定試験>
ノギス材質:SUS304(ビッカース硬度780Hv)、ノギス稼動部:0〜150mm(寸法測定用の圧子平坦部:4mm×10mm、平坦部の面粗さ:0.005μm、この部分で製品寸法を測定、寸法測定時の押し付け力:100g)のノギスを用いて、608相当軸受100万個の外輪外径を測定し、ノギス平坦部の摩耗状況を観察した。表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用い、基準面に対する摩耗深さを求めた。摩耗深さが1μm未満の場合を「○」、1μm以上かつ3μm未満の場合を「△」、3μm以上の場合を「×」として記録した。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
表4に示すように、本発明の寸法測定治具は、10万〜100万個の製品測定後においても、変形量が小さく、大幅に寿命が延長できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の寸法測定治具は、耐摩耗性と密着性に優れる硬質膜を表面に有し、長寿命で交換回数を大幅に削減できるので、各種機械部品や各種成形金型の寸法、締め付けトルク、形状などを測定する際に使用する、ゲージ類、定盤、模範部品などとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 硬質膜
2 基材
11 バイアス電源
12 基材
13 膜(層)
15 ターゲット
16 磁力線
17 Arイオン
18 イオン化されたターゲット
19 高密度プラズマ
21 AIP蒸発源材料
22 円盤
23 基材
24 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
31 試験片
32 相手材
33 アーム部
34 荷重
35 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に硬質膜が成膜されてなる寸法測定治具であって、
前記硬質膜は、前記基材の表面上に直接成膜されるクロムを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、
前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であることを特徴とする寸法測定治具。
【請求項2】
前記基材の表面に、曲面部を有することを特徴とする請求項1記載の寸法測定治具。
【請求項3】
前記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、前記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm/(N・m)未満であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の寸法測定治具。
【請求項4】
前記硬質膜は、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする請求項3記載の寸法測定治具。
【請求項5】
前記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の寸法測定治具。
【請求項6】
前記表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項7】
前記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング装置を使用して成膜した層であり、
炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、前記アルゴンガスの前記装置内への導入量100に対する前記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、前記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、前記基材に印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、前記炭素供給源から生じる炭素原子を、前記混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項8】
前記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項7記載の寸法測定治具。
【請求項9】
前記表面層の傾斜層部分は、前記基材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜されたものであることを特徴とする請求項6、請求項7または請求項8記載の寸法測定治具。
【請求項10】
前記下地層および前記混合層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング装置を使用して成膜した層であり、
前記混合層は、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、タングステンカーバイトターゲットに印加する電力を下げながら成膜されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項11】
前記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める前記表面層の厚さの割合が0.8以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項12】
前記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項13】
前記硬質膜が形成される面において、前記硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする請求項12記載の寸法測定治具。
【請求項14】
前記窒化処理が、プラズマ窒化処理であり、前記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする請求項13記載の寸法測定治具。
【請求項15】
前記寸法測定治具が、ゲージ類、定盤、および模範部品、または、これらを構成する部材であることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項記載の寸法測定治具。
【請求項16】
前記寸法測定治具が、マイクロメータまたはノギスであることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項記載の寸法測定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−208073(P2012−208073A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75361(P2011−75361)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】