説明

射出成形システム

【課題】加熱・冷却を繰り返しても、配管のフランジ部と管状部との継ぎ目の部分に亀裂が生じるのを防ぎ、信頼性を高めることのできる射出成形システムを提供することを目的とする。
【解決手段】配管部材110、120のフランジ部112、122どうしを連結する環状プレート170、170が環状とされることで、管状体111、121とは接触せず、管状体111、121との間に空気による断熱層Aが存在するようにした。これにより配管部材110、120と、これらを互いに連結する環状プレート170、170との熱伝達が行われにくく、環状プレート170、170による熱影響を抑える。さらに、フランジ部112、122が熱膨張・収縮するときには、フランジ部112、122と環状プレート170との間で滑りが生じるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や蒸気を用いて金型を加熱・冷却しながら射出成形を行う射出成形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出充填工程において、射出装置から金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂の表面は、金型のキャビティ面に接触した瞬間から急速に固化する。この際、成形品に対する金型のキャビティ面の転写が不十分となったり、また、成形品表面に、ウエルドライン、シルバー(銀状)と呼ばれる欠陥が生じたりすることがある。
これらを防止し成形品の品質を向上させるために、射出充填、保圧、冷却、型開閉といった一連の工程において、金型の熱媒体通路に、樹脂の充填を開始するまでの間に加熱媒体を供給して金型を加熱し、樹脂の充填開始後の所定時間経過後から型開きまでの間に冷却媒体を供給して金型を冷却する成形方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、予め樹脂の熱変形温度以上の温度まで加熱した金型に溶融樹脂を充填して樹脂表面の固化を遅らせ、樹脂の充填後、金型を樹脂のガラス転移温度、又は、熱変形温度以下まで冷却してから型開きを行うことができ、上記のような欠陥の発生を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−110905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような加熱・冷却機構を備えた射出成形機においては、一般に金型を経た加熱媒体および冷却媒体は、金型から共通の戻り配管を経て、熱媒体供給装置へと循環される。この共通の戻り配管において、高温の加熱媒体と低温の冷却媒体が交互に流れるため、熱媒体の切り替え時に配管同士を接続するフランジ部と配管の管状部との継ぎ目の部分などに温度変化が生じる。一般にフランジ部と配管の管状部との継ぎ目は溶接などにより一体化することが多いが、前述の温度変化により継ぎ目部の溶接箇所に熱応力が発生し、場合によっては亀裂が生じ、加熱媒体や冷却媒体が漏れてしまうという問題が存在する。加熱媒体や冷熱媒体が漏れてしまうと、安定した成形運転を阻害するとともに設備のさびや故障の発生、特に高温の媒体が漏れた場合には周囲への安全性に大きな影響を与える。
【0005】
これは、配管の管状部とフランジ部とでは、例えば、管状部の肉厚が2.8mmと薄肉であるのに対し、フランジ部は配管どうしをボルトなどにより連結するための連結構造部材として用いるために、配管どうしを十分な剛性を持って連結できるように、フランジ部は径方向の肉厚つまりフランジ径から配管内径を除いた部分の厚さが約45mm、配管が連続する方向における厚さつまりフランジの厚みが16mmといった厚肉寸法となる。このため、管状部とフランジ部でその寸法が大きく異なり、熱容量に大きな差が生じることになる。つまり、肉厚の小さな管状部は、配管内を通過する加熱媒体や冷却媒体の温度により、温度が変動しやすいのに対し、肉厚の大きく熱容量の大きいフランジ部は、温度が上がりにくく、また温度が下がりにくいため、温度の変動速度が遅い。その結果、管状部とフランジ部とで、温度差が生じやすくなる。
金型では、製品の射出成形を行う射出成形サイクルごとに、加熱媒体による加熱と、冷却媒体による冷却とを繰り返す。多数の製品を連続的に生産するために、射出成形サイクルを多数回繰り返すと、配管の管状部とフランジ部とで熱による膨張・収縮の度合いが異なるため、管状部とフランジ部との継ぎ目に熱応力が作用し、その結果、継ぎ目に亀裂等が生じてしまうのである。特に管状部とフランジ部を溶接などで一体化した場合は、管状部で受けた熱が熱容量の大きなフランジ部に奪われてしまい、管状部とフランジ部と温度差が大きくなり、温度境界である溶接部(継ぎ目部)に熱応力による亀裂が発生しやすくなる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、加熱・冷却を繰り返しても、配管のフランジ部と管状部との継ぎ目の部分に亀裂が生じるのを防ぎ、信頼性を高めることのできる射出成形システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもとになされた本発明の射出成形システムは、金型を開閉する型締装置、および金型のキャビティに成形材料を射出する射出装置を備えた射出成形機と、キャビティを加熱するため金型に形成された熱媒体通路に加熱媒体を供給する加熱媒体供給装置と、キャビティを冷却するため熱媒体通路に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、加熱媒体供給装置、冷却媒体供給装置における加熱媒体、冷却媒体の供給を制御する加熱・冷却制御装置と、加熱媒体供給装置または冷却媒体供給装置から加熱媒体または冷却媒体を熱媒体通路に送り込むための第1の共通配管と、熱媒体通路を経て加熱媒体供給装置または冷却媒体供給装置または排水経路に戻すための第2の共通配管と、を備える。そして、第1の共通配管と第2の共通配管の少なくとも一方の共通配管は、管状体の端部にフランジ部を備えた配管部材を複数連結することによって構成され、複数の配管部材どうしの連結部分は、フランジ部と管状体との間に生じる熱応力を抑えるため、互いに対向する配管部材のフランジ部どうしを挟み込むよう配置され、配管部材の管状体の外径よりも大きな内径を有した一対の環状のプレートと、フランジ部の外周側において一対の環状のプレートどうしを締結する締結部材と、を含む断熱構造部を有することを特徴とする。
このような断熱構造部においては、環状のプレートは、フランジ部と一体に締結されているわけではなく、フランジ部の外周側において一対の環状のプレートどうしでフランジ部を挟み込んで連結している。したがって、フランジ部が熱膨張・収縮するときには、その径方向に膨張・収縮した場合、フランジ部の変形を環状のプレートが強固に拘束することなく、フランジ部と環状のプレートとの間で滑りを許容するので熱応力を逃がすことができる。
またフランジ部と環状のプレートの接触面(挟み込み面)は、一般に粗さとうねりのために真平面ではなく微少な凹凸が連なっている。つまり当該接触面では対向した微少な凸部同士が点接触するのみで全面的に接触するものではない。よって挟み込み面内において接触している凸部以外の箇所には、金属に比べて十分に熱伝導率が低く断熱作用の大きな空気の層が存在するので、フランジ部と環状のプレートを断熱することができる。これによりフランジ部の熱が環状のプレートに奪われることに起因した、フランジ部と管状体の温度差を抑制することができる。
更には、環状のプレートが、管状体の外径よりも大きな内径を有することで、管状体の胴部外周とは接触せず、あるいは局部的にしか接触せず、管状体との間に空気による断熱層が存在することになる。これにより配管部材と、これらを互いに連結する環状のプレートとの熱伝達が行われにくく、これによる熱影響を抑えることができる。また環状プレートの内径は、管状体が熱膨張した際の管状体外径よりも大きくすることが好ましい。これによると管状体が熱膨張した場合でも管状部の外周部が環状プレートの内周部に接触することがないので、管状体の熱が環状プレートに奪われることによる熱応力を防止するのに有効である。
よって、配管どうしをボルトなどにより連結するための連結構造部材をフランジ部ではなく環状のプレートとし、配管部材の一端に備えられたフランジ部は環状のプレートで挟み込むための鍔としたところの、寸法が大きく熱容量が大きな環状のプレートと、熱容量の小さい配管部材とが別体である締結構造を用いて、固定部の滑りを許容するとともに、フランジ部と締結部を断熱構造とすることができるので、熱応力による配管継ぎ目部の亀裂の発生を防止することができる。
【0007】
ここで、断熱構造部は、フランジ部の厚さt1と管状体の厚さt2とが、
t2≦t1≦2×t2
を満たすようにするのが好ましい。このようにしてフランジ部と管状体における熱容量の差を小さくすることで、加熱媒体や冷却媒体の流通によって温度変化が生じた場合のフランジ部と管状体の温度変化プロファイルの差を抑えることができる。
【0008】
さらに、このような本発明の射出成形システムは、共通配管に供給される加熱媒体の温度が110〜250℃であり、共通配管に供給される冷却媒体の温度が0〜80℃であり、共通配管に供給する媒体を加熱媒体から冷却媒体に切り替えるときの金型キャビティ表面近傍の温度変化の速度が0.5〜10℃/secであり、1回の射出成形サイクルに要する時間が30〜120secであるような、共通配管における温度変化が激しい場合に特に有効である。
【0009】
このように、高温の加熱媒体と低温の冷却媒体が交互に流れる配管部材において、配管部材の締結構造部を、少なくとも配管部材と締結部材に分離し、配管部材はフランジ部を一端に設けた管状体とし、締結部材は配管部材の管状体の胴部外径よりも大きく、且つフランジ部の外径よりも小さい内径を有した一対の環状のプレートとし、環状のプレートによって、互いに対向する管状体のフランジ部の外周側どうしを挟み込んで配管部材を連結する締結構造とすることで、配管部材と締結部材とを断熱し、配管部材の温度変化を均一化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フランジ部が熱膨張・収縮するときには、その径方向に膨張・収縮することになるが、膨張・収縮によるフランジ部の変形が生じた場合、フランジ部と環状のプレートとの間で滑りが生じる。これにより、フランジ部の変形が阻害されず、熱による変形時にフランジ部と管状体との溶接部分等に応力が集中するのを防ぐことができる。
また、環状のプレートとフランジ部または管状体との間に空気による断熱層が存在するので、配管部材の熱が環状のプレートに奪われて局部的に低温となる部分が無くなるので、熱応力を抑制することができる。
また、フランジ部の厚さと管状体の厚さを適切に設定することで、フランジ部と管状体における熱容量の差を小さくすることで、加熱媒体や冷却媒体の流通によって温度変化が生じた場合のフランジ部と管状体の温度差を抑えることができる。
したがって、配管における温度変化が激しい場合においても、配管のフランジ部と管状部との継ぎ目の部分に亀裂が生じるのを防ぐことができ、信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態における射出成形機の全体構成を示す図である。
【図2】金型の温度調整を行うための構成を示す図である。
【図3】戻り配管部の一例を示す図である。
【図4】配管どうしの連結部の構成を示す断面図である。
【図5】配管どうしの連結部の構成の他の例を示す断面図である。
【図6】比較例における配管どうしの連結部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における射出システムを構成する射出成形機10の概略構成を説明するための図である。
図1に示すように、射出成形機10の型締装置は、基台11に固定ダイプレート12が固設され、固定ダイプレート12に固定側金型(金型)13が取り付けられている。固定側金型13に対向する可動側金型(金型)14は、固定ダイプレート12に対向して配置された可動ダイプレート15に取り付けられている。可動ダイプレート15は、基台11に敷設されたガイドレール16にガイドされ、リニアベアリングを介して固定ダイプレート12に対向して移動可能とされている。型開閉のための可動ダイプレート15の移動には電動ボールねじ17が用いられる。なお、可動ダイプレート15の移動には図示しない油圧シリンダを用いても支障ない。
【0013】
複数のタイバー18が、固定ダイプレート12に内蔵する複数の型締油圧シリンダ12a内で摺動するラム19に直結して設けられている。各タイバー18の先端部は、可動ダイプレート15の貫通孔を貫通している。タイバー18の先端部にはねじ溝18aが形成されており、このねじ溝18aに可動ダイプレート15の反金型側に配置された半割りナット18bが係合することで、タイバー18の引張方向を固定拘束している。
【0014】
射出ユニット(射出装置)20は、電動駆動方式または油圧駆動方式で、固定側金型13の樹脂入り口に当接しているノズルを備えた射出シリンダ21には、射出シリンダ21と一体のフレーム21aが設けられている。このフレーム21aに射出シリンダ21の中心線の両側に対称に、一対の射出駆動サーボモータ22、22が取り付けられ、射出駆動サーボモータ22、22の出力軸にボールねじ軸23、23が直結されている。ボールねじ軸23、23には、移動フレーム24に取り付けられた一対のボールねじナット25、25が螺合している。一対の射出駆動サーボモータ22、22が同期回転駆動されることにより、射出スクリュ21bは射出シリンダ21の中を軸方向に前後進する。
射出シリンダ21の射出スクリュ21bは、移動フレーム24に取り付けられた射出スクリュ回転駆動モータ26によって回転駆動され、射出シリンダ21内の樹脂の回転送り出しと可塑化を行う。
【0015】
射出成形制御装置50は、成形工程のプログラムに従って、型締油圧シリンダ12aに作動油を送り、射出ユニット20の射出駆動サーボモータ22、22に電流を送って射出スクリュ21bを前後進させ、射出スクリュ21bの射出スクリュ回転駆動モータ26に電流を送って樹脂の可塑化を指示する。
【0016】
射出ユニット20は、固定側金型13と可動側金型14が型締されることによって形成された金型キャビティの中に溶融樹脂を射出させる。成形品が冷却固化した後は、可動側金型14は固定側金型13との型締結合を解き、移動用の電動ボールねじ17の作動により固定側金型13から離れて成形品を取出すようになっている。
【0017】
固定側金型13、可動側金型14には、金型表面を加熱、冷却するための熱媒体通路30、31が形成されている。熱を早く伝達して金型キャビティ面を急速に加熱冷却するため、熱媒体通路30、31は金型キャビティにできるだけ近い位置に形成されている。そして、この熱媒体通路30、31には、外部から熱媒体を熱媒体通路30、31に送り込むための熱媒体供給管32Iと、熱媒体通路30、31から熱媒体を外部に排出するための熱媒体排出管32Oとが、それぞれ接続されている。
【0018】
図2に示すように、熱媒体供給管32Iには、蒸気、加圧熱水等の加熱媒体を供給する加熱媒体供給装置33と、水、エアー等の冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置34とが接続されている。
加熱媒体供給装置33は、加熱媒体を図示しないポンプによって熱媒体供給管32Iを通して熱媒体通路30、31に送り込むとともに、熱媒体通路30、31を経た加熱媒体を、熱媒体排出管32Oを通して加熱媒体供給装置33に循環させる。このとき加熱媒体は加熱媒体供給装置に循環させることなく、図示しない排水経路から外部に排出しても支障ない。
冷却媒体供給装置34は、冷却媒体を図示しないポンプによって熱媒体供給管32Iを通して熱媒体通路30、31に送り込むとともに、熱媒体通路30、31を経た冷却媒体を、熱媒体排出管32Oを通して冷却媒体供給装置34に循環させる。
なお、熱媒体供給管32Iと熱媒体排出管32Oは、加熱媒体と冷却媒体が交互にあるいは同時に流通する共通配管である。
【0019】
これら加熱媒体供給装置33、冷却媒体供給装置34は、温度調整装置60に接続されている。温度調整装置60には、熱媒体供給管32Iに供給する熱媒体を切り替えるために、加熱媒体供給装置33、冷却媒体供給装置34からの加熱媒体、冷却媒体の送給管をそれぞれ開閉可能な開閉弁(図示無し)が設けられている。
【0020】
温度調整装置60の各開閉弁は、金型温度制御装置(加熱・冷却制御装置)70により、予め定められたプログラムに基づいてその開閉が制御され、加熱媒体、冷却媒体の熱媒体供給管32Iへの供給・遮断を切り替える。すなわち、固定側金型13、可動側金型14を加熱するときには、加熱媒体供給装置33で加熱された加熱媒体を熱媒体供給管32Iに送り込み、固定側金型13、可動側金型14を冷却するときには、冷却媒体供給装置34から供給される冷却媒体を熱媒体供給管32Iに送り込む。
【0021】
図1、図2に示したように、固定側金型13、可動側金型14のキャビティ面に接して、金型温度センサ40が配置されている。金型温度センサ40で検出した金型温度の信号は金型温度制御装置(加熱・冷却制御装置)70に送られる。
また、図2に示したように、熱媒体供給管32Iには、管内の熱媒体の温度を検出するための熱電対等の熱媒体温度センサ41や、熱媒体の圧力を検出するための圧力センサ42など管内の熱媒体の状態を検知するための検知手段が設けられることもある。この場合、これら熱媒体温度センサ41、圧力センサ42で検出した熱媒体の温度、圧力の信号は、金型温度センサ40で検出した金型温度の信号と同様に金型温度制御装置70に送られる。
【0022】
金型温度制御装置70では、金型温度センサ40で検出された金型温度に基づき、また熱媒体温度センサ41、圧力センサ42を用いた場合は、金型温度センサ40で検出された金型温度に加えて、熱媒体温度センサ41、圧力センサ42で検出された熱媒体の温度、圧力に基づき、温度調整装置60を制御して、加熱媒体供給装置33、冷却媒体供給装置34の開閉弁(図示無し)を開閉させ、熱媒体供給管32Iへの加熱媒体、冷却媒体の供給タイミングを制御する。
【0023】
一連の射出成形サイクル中、金型温度制御装置70は、予め導入されたコンピュータプログラムに基づいて定められた処理を実行し、熱媒体供給管32Iへの加熱媒体、冷却媒体の供給を制御することで、以下に示すような温度コントロールを行う。
型閉から昇圧の工程においては、金型温度制御装置70で温度調整装置60を制御して、加熱媒体供給装置33で加熱された加熱媒体を熱媒体供給管32Iに送り込み、固定側金型13、可動側金型14を加熱する。ここで、加熱媒体には、110〜250℃のものを用いるのが好ましい。
そして、固定側金型13、可動側金型14の加熱後、固定側金型13と可動側金型14が型締されることによって形成された金型キャビティへの溶融樹脂の射出を開始する。射出中あるいは射出後、加熱媒体供給装置33から熱媒体供給管32Iへの加熱媒体の供給を停止する。加熱媒体の供給停止は、金型温度制御装置70で温度調整装置60を制御して行う。
樹脂の射出が完了した時点で、金型キャビティ内の保圧を行うこともできる。また射出〜保圧の間、固定側金型13、可動側金型14の温度は、加熱媒体の供給停止後、直ぐに冷却媒体を供給しても良いし、直ぐに冷却媒体を供給しないで、エアーを供給する又は何も媒体を供給せず、金型キャビティを自然放熱状態として保温あるいは徐冷しても良い。
【0024】
次に固定側金型13、可動側金型14の冷却工程について説明する。固定側金型13、可動側金型14の冷却は、金型温度制御装置70で温度調整装置60を制御して、冷却媒体供給装置34から供給される冷却媒体を、熱媒体供給管32Iに送り込む。ここで、冷却媒体には、0〜80℃のものを用いるのが好ましい。
冷却媒体の送り込みによって固定側金型13、可動側金型14は急冷される。このとき、加熱媒体の供給停止から、冷却媒体の供給に切り替えたときの金型表面近傍の温度変化の速度は、0.5〜10℃/secいったものとなる。固定側金型13、可動側金型14の温度が低下したら、金型温度制御装置70で温度調整装置60を制御して熱媒体供給管32Iへの冷却媒体の供給を停止する。
樹脂が冷却固化し、金型キャビティ内に成形品が形成された後は、可動側金型14は固定側金型13との型締結合を解いて型開きする。続いて、さらに可動側金型14を移動用の電動ボールねじ17の作動により固定側金型13から離し、成形品を取出す。
この後は、上記と同様の射出成形サイクルを繰り返すことで、成形品を順次射出成形し生産することができる。上記と同様の射出成形サイクルを繰り返す際には、加熱媒体の供給を再開するが、このとき、冷却媒体から加熱媒体に切り替えたときの温度変化の速度は、0.5〜10℃/secといったものとなる。ここで、1回の射出成形サイクルは、30〜120secとするのが好ましい。
【0025】
さて、ここで、熱媒体通路30、31を経た加熱媒体、冷却媒体を、冷却媒体供給装置34に循環させるための熱媒体排出管32Oには、以下に示すような戻り配管部(第2の共通配管)100が備えられている。
図3に示すように、戻り配管部100は、熱媒体通路30、31から送り出された熱媒体をそのまま加熱媒体供給装置33、冷却媒体供給装置34に送り込むメイン配管101と、熱媒体通路30、31から送り出された熱媒体が蒸気である場合に、蒸気の少なくとも一部を冷却して復水させる復水機102と、メイン配管101から復水機102へと熱媒体を分岐させる分岐管103と、を備えている。
メイン配管101には、自動開閉弁104が設けられており、金型温度制御装置70による制御によって、その開閉・開度が自動的に調整制御される。
【0026】
分岐管103は、復水機102の上流側において二本の管路103A、103Bに分岐している。一方の管路103Aには、手動開閉弁105が設けられており、これは通常は常時開とされている。
他方の管路103Bには、自動開閉弁106が設けられており、金型温度制御装置70による制御によって、その開閉・開度が自動的に調整制御され、復水機102に送り込む蒸気の圧力を調整できるようになっている。
【0027】
上記のような戻り配管部100において、自動開閉弁104、106は、所定長の配管部材110の一部として、管状体111の中間部に組み込まれている。配管部材110は、管状体111の端部に、管状体111から外周側に向けて張り出す円環板状のフランジ部112が一体に設けられている。
このような自動開閉弁104、106は、両端のフランジ部112を、メイン配管101、分岐管103の管路103Bを構成する配管部材120の端部に設けられたフランジ部122に連結させている。
【0028】
以下、このような配管部材110と、配管部材120との連結部の断熱構造部の構成について説明する。
図4に示すように、配管部材110、120のフランジ部112、122どうしは、環状プレート170を用いて接続されている。
配管部材110、120のフランジ部112、122どうしは、環状のシールパッキン171を介して対向している。
そして、フランジ部112,122を挟んだその両側に、環状プレート170、170が配置されている。環状プレート170は、内径がフランジ部112、122の外径よりも小さく、かつ配管部材110、120の管状体111、121の外径よりも大きな環状で、管状体111、121とは接触しないよう設けられている。これら環状プレート170、170は、その外周部において、ボルト・ナット(締結部材)172、172によって締結されている。なお環状プレート170は、図示した一体リング形状の他、割りリング形状などのフランジ部を挟み込める形状であれば、どのような形状でも良い。また図4ではフランジ部112、122を環状プレート170で直接挟み込んでいるが、フランジ部112、122と環状プレート170の間に、断熱材を挿入しても良い。断熱材としては繊維系断熱材、発泡系断熱材、樹脂系断熱材でも良いし、真空断熱材などでもよい。あるいは各種断熱材を組み合わせて使用しても良い。
【0029】
ここで、フランジ部112、122の厚さをt1とし、管状体111、121の厚さをt2としたとき、
t2≦t1≦2×t2
となるように設定するのが好ましい。
【0030】
また、配管部材110、120は、SUS304等の鋼材により形成するのが好ましい。環状プレート170、170は、配管部材110、120と同材料で形成することもできるし、配管部材110、120よりも熱伝導性の低い材料、例えばSUS420J2等によって形成することもできる。
【0031】
また、環状プレート170の表面は、表面粗さを粗くしたり、凹凸を形成することで環状プレート170、170と配管部材110、120のフランジ部112、122との接触面積が小さくなる。これにより、環状プレート170、170と配管部材110、120のフランジ部112、122との間における断熱効果を大きくすることができる。
【0032】
このような構成においては、配管部材110、120のフランジ部112、122どうしを連結する環状プレート170、170が環状とされることで、管状体111、121とは接触せず、管状体111、121との間に空気による断熱層Aが存在することになる。これにより配管部材110、120と、これらを互いに連結する環状プレート170、170との熱伝達が行われにくく、環状プレート170、170による熱影響を抑えることができる。
さらに、環状プレート170の表面の表面粗さを粗くしたり、凹凸を形成することで環状プレート170、170と配管部材110、120のフランジ部112、122との接触面積を小さくすると、環状プレート170、170と配管部材110、120のフランジ部112、122との間における熱伝導がしにくくなる。これにより環状プレート170、170による熱影響を抑えることができる。
さらに、フランジ部112、122が熱膨張・収縮するときには、その径方向に膨張・収縮することになるが、膨張・収縮によるフランジ部112、122の変形が生じた場合、フランジ部112、122と環状プレート170との間で滑りが生じる。これにより、フランジ部112,122の変形が阻害されず、熱による変形時にフランジ部112、122やフランジ部112、122と管状体111、121との間の熱応力を抑制することができる。
【0033】
加えて、フランジ部112,122と管状体111、121の厚さt1、t2を上記したような範囲で適切に設定することにより、フランジ部112、122と管状体111、121との熱容量の差を小さくして温度差を抑えることができる。これによっても、熱による変形時にフランジ部112、122やフランジ部112、122と管状体111、121との間の熱応力を抑制することができる。
【0034】
したがって、一体となっている配管部材110、120の管状体111、121とフランジ部112、122とに温度差が生じるのを抑えることができる。なお、フランジ部112、122は、配管部材110、120に対して、絞り加工や削り加工などいかなる形態で設けてもよい。特にフランジ部112、122の厚さt1と管状体の厚さt2とが、t2≦t1≦2×t2を満たす場合は、溶接によって配管部材110、120にフランジ部112、122を設けても良い。その結果、熱影響により配管部材の管状体111、121とフランジ部112、122との継ぎ目に熱応力が作用して継ぎ目に亀裂等が生じてしまうのを防ぐことができる。これにより、配管部材110と配管部材120との連結部の信頼性を高めることができる。
【0035】
なお、配管部材110、120のフランジ部112、122は、管状体111、121に対していかなる形態で設けてもよい。例えば、図5に示すように、フランジ部112、122と管状体111、121とが一体化された部材を別の管状体115、125に溶接部Wにおいて溶接することで、配管部材110、120を形成してもよい。
このような場合、熱容量の大きくなりやすいフランジ部112、122から十分離れており、フランジ部112、122の熱的影響を受けない位置に溶接部Wを設けることで、例え管状体111、121が溶接構造であったとしても、熱応力により溶接部Wが割れたりするのを防ぐことができる。
【0036】
ところで、上記各実施形態で示したような構成を採用する射出成形機10においては、以下のような構成を採用することもできる。
すなわち、図3に示したように、自動開閉弁106が設けられた管路103Bは、管路103Aに対して直交するよう、T字型のエルボ180により管路103Aに接続されている。そして、管路103Aは、T字型のエルボ180の両側において、螺旋状に1回転ループしたループ部181が形成されている。自動開閉弁106が設けられた管路103Bがその軸線方向に伸縮した場合、ループ部181が、その直径が拡大・縮小するよう、閉じたり開いたりして伸縮する。これにより、管路103Bの熱膨張による変形を許容することが可能となる。
また図示しないが、ループ部181と同様のループ形状配管は、屈曲部や長配管部においても適用することができる。長配管部は温度変化による熱膨張量あるいは熱収縮量も大きいことから、単純な直線配管を使用した場合、配管継ぎ部間を押し広げて、あるいは引っ張り込んで熱応力を発生させてしまうことになる。この場合に対してループ形状配管を使用すれば、長配管が軸線方向に伸縮した場合、ループ形状配管がその直径が拡大・縮小するよう、閉じたり開いたりして伸縮して熱応力を緩和できる。屈曲部は配管の温度変化に起因した熱膨張あるいは熱収縮によって屈曲角度が拡大あるいは縮小しようとして熱応力が発生する場合がある。この場合に対してもループ形状配管を使用すれば、ループ形状配管がその直径が拡大・縮小するよう、閉じたり開いたりして、屈曲部の熱応力を緩和することができる。
これによっても、管状体111、121とフランジ部112、122との連結部近傍に与えられるストレスを抑えることができる。
【0037】
また、上記したような各実施形態に示す構成を備えたとしても、配管部100に亀裂が生じて液体が漏出してしまう可能性がある。
そのような場合に備え、液体漏出センサ190を備え、液体漏出センサ190で液体の漏出を検知した場合には、射出ユニット20の熱媒体通路30、31への熱媒体の供給を遮断するよう、射出ユニット20で制御しても良い。
【0038】
ここで、液体漏出センサ190としては、熱応力により破損が生じやすい場所の近傍に、湿度センサ191を備えることができる。さらに、射出ユニット20の装置の下方にドレンパン192を設け、このドレンパン192内に水漏れセンサを備えることがある。
【0039】
なお、上記実施の形態では、金型から排出された熱媒体を加熱媒体供給装置または冷却媒体供給装置または排水経路に戻す第2の共通配管を構成する配管部材110、120の連結部分に本発明を適用する例を挙げたが、熱媒体を加熱媒体供給装置または冷却媒体供給装置から金型に供給する共通配管(第1の共通配管)上の連結部分(図示無し)に本発明を適用しても良い。また連結部分以外の射出成形機の構成については、上記に挙げた以外の構成とすることもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【実施例1】
【0040】
さてここで、上記したような本実施形態における構成による効果について検証したので、その結果を示す。
(実施例)
検証対象とした配管部材の連結部は、図4に示した構成であり、フランジ部112、122の厚さt1を2.8mm、管状体111、121の厚さt2を2.8mm、管径を25mmとした。
(比較例1)
これに対し、比較対象として、図6(a)に示すような構成のものを用意した。すなわち、従来の配管部材の連結部の構成である、フランジ部201、201どうしをボルト・ナット202で直接連結したものとした。ここで、フランジ部201の厚さt1’を14mm、管状体203の厚さt2’を2.8mm、管径を25mmとした。
ここで、実施例、比較例とも、配管部材の材質はSUS304とした。
(比較例2)
さらに、比較対象として、図6(b)に示すような構成のものを用意した。これは、図6(a)に示した構成に加え、配管部材の連結部に、樹脂系断熱材であるPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)からなる筒状のスリーブ205を設けた。スリーブ205の厚さは2mm、長さLは30mmとした。
【0041】
上記したような実施例、比較例1、2において、190℃の水蒸気を流通させることによる加熱を60sec、30℃の水を流通させることによる冷却を60sec行い、全体で120secのサイクルを繰り返すことで、図6中のX部において配管部材に生じる応力の振幅を歪みゲージにより計測した。
【0042】
その結果を、フランジ部201、201どうしをボルト・ナット202で直接連結した比較例1においては、応力振幅が438MPaであり、さらに断熱材からなるスリーブ205を設けた比較例2においては、応力振幅が262MPaであった。
これに対し、本実施形態における構成に相当する実施例1においては応力振幅が182MPaであり、断熱材を備えずとも、本実施形態における構成により、配管部材の連結部に生じる応力を大幅に低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0043】
10…射出成形機、20…射出ユニット(射出装置)、21…射出シリンダ、30…熱媒体通路、32I…熱媒体供給管、32O…熱媒体排出管、33…加熱媒体供給装置、34…冷却媒体供給装置、50…射出成形制御装置、60…温度調整装置、70…金型温度制御装置(加熱・冷却制御装置)、100…配管部(第2の共通配管)、110、120…配管部材、111、121…管状体、112、122…フランジ部、170…環状プレート、171…シールパッキン、172…ボルト・ナット(締結部材)、A…断熱層、W…溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を開閉する型締装置、および前記金型のキャビティに成形材料を射出する射出装置を備えた射出成形機と、
前記キャビティを加熱するため前記金型に形成された熱媒体通路に加熱媒体を供給する加熱媒体供給装置と、
前記キャビティを冷却するため前記熱媒体通路に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、
前記加熱媒体供給装置、前記冷却媒体供給装置における前記加熱媒体、前記冷却媒体の供給を制御する加熱・冷却制御装置と、
前記加熱媒体供給装置または前記冷却媒体供給装置から前記加熱媒体または前記冷却媒体を前記熱媒体通路に送り込むための第1の共通配管と、前記熱媒体通路を経て前記加熱媒体供給装置または前記冷却媒体供給装置または排水経路に戻すための第2の共通配管と、を備え、
前記第1の共通配管と前記第2の共通配管の少なくとも一方の共通配管は、管状体の端部にフランジ部を備えた配管部材を複数連結することによって構成され、
前記複数の配管部材どうしの連結部分は、前記フランジ部と前記管状体との間に生じる熱応力を抑えるため、
互いに対向する前記配管部材の前記フランジ部どうしを挟み込むよう配置され、前記配管部材の前記管状体の外径よりも大きな内径を有した一対の環状のプレートと、
前記フランジ部の外周側において、一対の前記環状のプレートどうしを締結する締結部材と、を含む断熱構造部を有することを特徴とする射出成形システム。
【請求項2】
前記断熱構造部は、前記フランジ部の厚さt1と前記管状体の厚さt2とが、
t2≦t1≦2×t2
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の射出成形システム。
【請求項3】
前記共通配管に供給される前記加熱媒体の温度は110〜250℃であり、
前記共通配管に供給される前記冷却媒体の温度は0〜80℃であり、
前記共通配管に供給する媒体を前記加熱媒体から前記冷却媒体に切り替えるときの金型キャビティ表面近傍の温度変化速度が0.5〜10℃/secであり、
1回の射出成形サイクルに要する時間が30〜120secであることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152973(P2012−152973A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12673(P2011−12673)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(505139458)三菱重工プラスチックテクノロジー株式会社 (50)
【Fターム(参考)】