説明

射出成形方法

【課題】電動モーターを用いて型締め力を発生させる場合、電動モーターが過負荷となってしまったり、可塑化した材料が金型のキャビティから漏出してしまう可能性があった。
【解決手段】可動側金型11Mを第1の駆動トルクT1にて駆動してこれを固定側金型11Sに密着させる型締めステップと、第1の駆動トルクT1よりも小さな第2の駆動トルクT2にて可動側金型11Mを固定側金型11Sに押し当てる保圧ステップと、可塑化された材料をこれら2つの金型11M,11Sの間に画成されたキャビティ14内に少なくとも保圧ステップ中に射出する射出ステップとを具えた本発明による射出成形方法は、型締めステップと保圧ステップとの間に第1の駆動トルクT1から第2の駆動トルクT2へと可動側金型11Mに対する駆動トルクを低減させるステップをさらに具え、このトルク低減ステップの終了時期t3を射出ステップの終了時期t4よりも前に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化した材料を固定側金型と可動側金型との間に画成されるキャビティ内に射出してキャビティに対応した形状に成形する射出成形方法に関し、特に電動モーターを使用して型締めを行う小型の射出成形機に好適である。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、樹脂を溶融混錬して金型に射出する射出装置と、この射出装置に対して金型を離型可能に固定保持し得る型締め装置とを基本的な構成としている。
【0003】
操作手順は、射出成形機にカセット型の金型をセットし、射出シリンダやノズルおよび金型などの温度設定を行う。続いて材料をホッパーにセットし、先の射出シリンダなどの温度が設定された成形温度に到達したならばパージングを行い、溶融樹脂が射出シリンダから円滑に射出されるか否かを確認する。その後、射出圧力などの成形条件の設定を行い、成形動作を開始する。
【0004】
金型を開閉するための型締め装置として、電動モーターのみを用いて型締めを行う、いわゆる直圧式のものが特許文献1に開示されている。このような直圧式の型締め装置においてはトグル機構が不要であり、また直圧式であっても長尺の油圧シリンダを用いた場合のような設置スペースが不要であるなどの理由により、装置全体を小型軽量化させることができる。
【0005】
また、可塑化された材料を金型のキャビティに射出した後、金型保護や消費電力の節約のため、金型の型締め圧を低下させた状態に保持することが一般的に行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−94488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
型締め装置を用いて金型の開閉を行う射出成形機においては、成形材料の射出動作に伴って金型に射出圧が加わるため、この射出圧によって金型が開いて材料が漏出してしまう可能性がある。このため、型締め動作を開始してから射出動作が終了するまでの間、型締め装置は型締め力を発生し続けなければならない。
【0008】
ところが、特許文献1に開示されたような電動モーターを用いた直圧式の型締め機構の場合、成形材料の射出期間中に電動モーターが型締めのための高駆動トルクを発生し続けると、小型の故に電動モーターが過負荷状態となってしまう。この結果、安全装置が働いて射出成形機の運転が停止してしまい、稼働率の低下を招来する可能性があった。定格の充分に大きな電動モーターを使用した場合には、このような不具合を回避することができるものの、射出成形機の小型軽量化を図ることができない。
【0009】
そこで、高駆動トルクにて型締めを行う時間を短くするため、本発明者らは射出動作が終了する前の段階で電動式モーターに対する駆動トルクを低下させることを試みた。この場合、電動モーターが与える駆動トルクは、成形材料の射出圧に打ち勝って型が閉じ続けられるような型締め力であることが必要であることは言うまでもない。しかしながら、射出動作が終了する前の段階で電動式モーターに対する駆動トルクを急激に低下させると、高駆動トルクから解放された金型に反発力が働いて金型が開いてしまうことがあり、樹脂漏れなどの不具合が発生してしまうことがあった。
【0010】
本発明の目的は、このような観点に鑑み、定格の小さな小型の電動モーターを用いた直圧式の型締め装置を用いた場合でも、電動モーターの過負荷に伴って安全装置が作動してしまうような不具合を回避するとともに、射出動作中に金型から成形材料の漏洩を防止し、より安定した成形加工が可能となる射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による射出成形方法は、可動側金型を第1の駆動トルクにて駆動してこの可動側金型を固定側金型に密着させる型締めステップと、前記第1の駆動トルクよりも小さな第2の駆動トルクにて前記可動側金型を前記固定側金型に押し当てる保圧ステップと、可塑化された材料を前記可動側金型と前記固定側金型との間に画成されたキャビティ内に射出する射出ステップとを具えた射出成形方法であって、前記型締めステップと前記保圧ステップとの間に前記第1の駆動トルクから前記第2の駆動トルクへと前記可動側金型に対する駆動トルクを低減させるトルク低減ステップをさらに具え、このトルク低減ステップの終了時期が前記射出ステップの終了時期よりも前に設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、第1の駆動トルクから第2の駆動トルクへと可動側金型に対する駆動トルクを低減させるトルク低減ステップの開始時点以降に射出ステップが開始されることとなる。
【0013】
本発明による射出成形方法において、射出ステップがトルク低減ステップの少なくとも一部を含むものであってよい。つまり、トルク低減ステップの少なくとも途中から射出ステップを開始させるようにしてもよい。
【0014】
トルク低減ステップは、10ミリ秒当たり第1の駆動トルクの10%以下の割合で連続的またはステップ状に駆動トルクを低減させることが好ましい。10ミリ秒当たり第1の駆動トルクの10%を越えるような割合で駆動トルクを急激に低減させた場合、キャビティ内に射出される材料の射出圧と相俟って慣性により金型がわずかに開いてしまう可能性がある。
【0015】
キャビティ内に射出された材料を冷却する冷却ステップと、可動側金型を固定側金型から引き離して型開きを行うステップとをさらに具え、冷却ステップが第2の駆動トルクよりも小さな第3の駆動トルクにて可動側金型を固定側金型に押し当てる第2保圧ステップを含むものであってよい。
【0016】
トルク低減ステップの開始時期は、固定側金型に対する可動側金型の接触開始時点と、この接触開始時点から冷却ステップの開始時点に至る期間の中間点との間にあることが好ましい。トルク低減ステップの開始時期が、固定側金型に対する可動側金型の接触開始時点から冷却ステップの開始時点に至る期間の中間点よりも後にある場合、可動側に対する駆動トルクを第1の駆動トルクに保持しておく期間が長くなり、駆動源が高負荷の状態に保持される結果、安全装置が作動してしまう可能性がある。
【0017】
可動側金型が電動モーターにより駆動され、電流値を変化させることによって駆動トルクを制御するものであってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の射出成形方法によると、型締めステップと保圧ステップとの間に第1の駆動トルクから第2の駆動トルクへと可動側金型に対する駆動トルクを低減させるトルク低減ステップを具え、このトルク低減ステップの終了時期が射出ステップの終了時期よりも前に設定されているので、射出ステップ中に可動側金型に対する駆動トルクを第1の駆動トルクに保持する必要がなくなり、可動側金型を駆動するための駆動源に対する負荷を軽減させることができる。
【0019】
射出ステップがトルク低減ステップの少なくとも一部を含む場合、材料を射出成形するサイクルをより短縮化させることができる。
【0020】
トルク低減ステップにおいて、10ミリ秒当たり第1の駆動トルクの10%以下の割合で連続的またはステップ状に駆動トルクを低減させる場合、キャビティ内に射出された材料の一部が漏出するような不具合を防止することができる。
【0021】
キャビティ内に射出された材料を冷却する冷却ステップと、可動側金型を前記固定側金型から引き離して型開きを行うステップとをさらに具え、冷却ステップが第2の駆動トルクよりも小さな第3の駆動トルクにて可動側金型を固定側金型に押し当てる第2保圧ステップを含む場合、安定した品質の射出成形品を得ることができる。
【0022】
トルク低減ステップの開始時期が、固定側金型に対する可動側金型の接触開始時点と、この接触開始時点から冷却ステップの開始時点に至る期間の中間点との間にある場合、可動側金型を駆動するための駆動源に対する負荷をより確実に軽減させることができる。
【0023】
可動側金型が電動モーターにより駆動され、電流値を変化させることによって駆動トルクを制御するものである場合、電動モーターの過負荷に伴う射出成形機の安全機構を働かせることなく、継続的に射出成形機を稼働させることができる。この結果、可動側金型に対する駆動トルクの制御を容易に行うことができ、より小型の電動モーターを使用して射出成形機全体をよりコンパクト化させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による射出成形方法を実施し得る射出成形機の一実施形態について、図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明方法はこのような射出成形機に限らず、任意の射出成形機で実施し得るものであるが、特に金型を開閉するための駆動源として、小型の電動モーターを利用したタイプの射出成形機において有効である。
【0025】
本実施形態における射出成形機の外観を図1に示し、その平面形状を一部破断して図2に示し、その型締め装置の部分の側面形状を抽出拡大して図3に示す。すなわち、本実施形態における射出成形機10は、成形材料である樹脂を可塑化してこれを金型ユニット11に所定量ずつ射出するための射出装置12と、金型ユニット11の型締めを行うための型締め装置13とを含む。
【0026】
金型ユニット11は、固定側金型11Sと、可動側金型11Mとを有し、これらの間に成形品の形状に対応したキャビティ14が画成される。
【0027】
射出装置12は、所定量の溶融樹脂を金型ユニット11に画成されたキャビティ14に圧送するための計量射出部15と、樹脂材料を可塑化して計量射出部15に送出するための可塑化送出部16とを有する。
【0028】
可塑化送出部16は、後述する固定側ダイプレート17およびケーシング18に跨がって収容されるバレル19と、ローター20と、螺旋溝21と、ローター駆動モーター22と、加熱用ヒーター23とを含む。図2におけるバレル19とローター20の部分を抽出拡大した図4に示すように、バレル19は、樹脂流入通路24が一端面19Fに開口する。樹脂流入通路24の途中には溶融樹脂の逆流を防止するための逆止め弁25が組み込まれている。この逆止め弁25は、樹脂流入通路24と、後述する可塑化混練通路26側から樹脂が供給されるチャンバー27との接続部分よりも樹脂流入通路24の上流側に配されている。固定側ダイプレート17と一体に組み付けられたケーシング18内に回転自在に収容されるローター20は、バレル19の一端面19Fに摺接する端面20Fを有する。螺旋溝21は、このローター20の端面20Fに形成され、バレル19の一端面19Fとの間に樹脂の可塑化混練通路26を画成する。この螺旋溝21は、外側端部21Oから樹脂が供給されると共に内側端部21Iがバレル19の樹脂流入通路24に連通するようになっている。ケーシング18に設置されたローター駆動モーター22は、バレル19の樹脂流入通路24を中心としてローター20を駆動回転させる。なお、このローター20の駆動回転による樹脂の流動原理などに関しては、例えば特開2005−306028号公報などに詳述されているように周知である。バレル19内に組み込まれた加熱用ヒーター23は、樹脂流入通路24および可塑化混練通路26内に介在する樹脂を加熱して軟化溶融させるためのものである。
【0029】
ペレット状をなす樹脂材料は、ケーシング18に取り付けられたホッパー28内に貯溜され、ここからケーシング18を介してローター20の螺旋溝21の外側端部21Oへと供給される。そして、ローター駆動モーター22の作動によるローター20の回転に伴い、ローター20とバレル19との間に形成された可塑化混練通路26内を流動する。この間に、ヒーターにより軟化溶融して混練されつつローター20の回転中心またはその近傍へと移動する。
【0030】
計量射出部15は、固定側金型11Sを保持する固定側ダイプレート17と、固定側金型11Sに挿通されるノズル29と、射出プランジャー30と、射出・計量用モーター31とを含む。先端がキャビティ14に臨むノズル29は、バレル19に形成された樹脂流入通路24に連通する樹脂通路32が形成されている。上述したように、バレル19には樹脂流入通路24に対して連通するチャンバー27がその側方に画成され、射出プランジャー30は、このチャンバー27に対して摺動自在に嵌合し、チャンバー27内に介在する樹脂をノズル29の樹脂通路32側に所定量ずつ圧送する。射出プランジャー30は、減速機33および図示しない動力伝達機構を介して射出・計量用モーター31に機械的に連結されており、樹脂をキャビティ14内に射出するための前進端と、樹脂をチャンバー27内に計量して引き込むための後退端との間を移動する。
【0031】
従って、先のローター駆動モーター22によるローター20の回転と、射出・計量用モーター31の逆転駆動による射出プランジャー30の後退動作(図4中、右方向移動)とを組み合わせ、可塑化混練通路26から樹脂流入通路24へと導かれる樹脂をチャンバー27内に収容する。しかる後、射出・計量用モーター31の正転駆動による射出プランジャー30の前進動作(図4中、左方向移動)によって、チャンバー27内に収容された樹脂をノズル29から金型ユニット11のキャビティ14内に射出することができる。
【0032】
本実施形態における型締め装置13は、ベース34と、このベース34に取り付けられた型締め用モーター35と、可動側ダイプレート36と、この可動側ダイプレート36と型締め用モーター35とを機械的に接続するボールねじ機構37とを含む。金型ユニット11の可動側金型11Mを保持する可動側ダイプレート36は、ベース34に突設された支柱38に対して摺動自在に嵌合され、型締めが行われる前進端と、型開き状態となる後退端との間を往復動する。ボールねじ機構37は、型締め用モーター35に連結されるボールねじ軸37Aと、可動側ダイプレート36に取り付けられるボールナット37Nと、可動側ダイプレート36の前進端の直近の位置を検出するための図示しないセンサーとを含む。このセンサーよりも前進端側における可動側ダイプレート36の移動速度は、センサーよりも後退端側における可動側ダイプレート36の移動速度よりも遅くなるように、ボールねじ軸37Aの回転速度が制御される。また、型締めの際に可動側ダイプレート36を介して可動側金型11Mに与えられる駆動トルクは、型締め用モーター35に供給される電流値を変更することによって制御される。
【0033】
従って、本発明における電動モーターとしての型締め用モーター35を駆動することにより、可動側ダイプレート36を可動側金型11Mと共に支柱38に沿って移動させることができる。より具体的には、型締め操作の場合、その後退端にある可動側金型11Mを所定位置まで高速で前進させ、センサーが可動側ダイプレート36の位置を検出した時点でその前進速度を低下させ、可動側金型11Mが固定側金型11Sに押し当たるまで前進を継続させ、所定の電流値を型締め用モーター35に与えることによって、所定の型締め力を得る。型開き操作の場合、可動側金型11Mを固定側金型11Sから引き離す。
【0034】
なお、可動側ダイプレート36には、成形品を可動側金型11Mから取り出すためのエジェクター装置39が組み込まれている。このエジェクター装置39は、金型ユニット11の型開き動作を利用してエジェクタープレート40がばね41を介して可動側金型11Mに対して相対移動する。これによって、可動側金型11Mを摺動可能に貫通するエジェクターピン42がキャビティ14内に突出するように移動することによって、成形品を可動側金型11Mの外に排出するようになっている。これら金型ユニット11や型締め装置13およびエジェクター装置39に関しては、他の既知の射出成形機と同じ構成のものを採用することが可能である。
【0035】
このような型締めから型開きに至る可動側金型11Mに対して与えられる駆動トルクの変化を模式的に図6に示す。最初に型締め用モーター35に通電され、後退端にある可動側金型11Mを所定位置まで高速で前進させ、センサーが可動側ダイプレート36の位置を検出した時点でその前進速度を低下させる。このようにして低速で前進を続ける可動側金型11Mが固定側金型11Sに押し当たると、電流値が急上昇し、これが所定の電流値となるように型締め用モーター35に与えられる電流値を制御する。この結果、可動側金型11Mが第1の駆動トルクT1にて固定側金型11Sに密着状態で押し当たり(時刻t1参照)、型締めが始まる。
【0036】
可動側金型11Mを固定側金型11Sに第1の駆動トルクT1にて時刻t2まで所定時間(t2−t1)押し当てて型締めステップを継続する。つまり、本発明における型締めステップは、可動側ダイプレート36がその後退端から前進端まで移動し、可動側金型11Mが固定側金型11Sに第1の駆動トルクT1にて所定時間押し当たる動作に相当する。しかる後、型締め用モーター35に供給される電流値を変更し、可動側金型11Mに与えられる駆動トルクを第1の駆動トルクT1よりも小さな第2の駆動トルクT2に低減し、これを時刻t4まで所定時間(t4−t3)保持する保圧ステップを行う。
【0037】
可動側金型11Mに与えられる駆動トルクを第1の駆動トルクT1よりも小さな第2の駆動トルクT2に低減する場合、型締めステップから保圧ステップへと駆動トルクを急激に低減すると、高圧の型締め力から解放された金型に反発力が働いて金型ユニット11が開いてしまい、樹脂漏れなどの不具合が発生する。このため、10ミリ秒当たり第1の駆動トルクT1の10%以下の割合で連続的またはステップ状に駆動トルクを低減させるトルク低減ステップが実行される。つまり、時刻t2から時刻t3に至る期間がトルク低減ステップであり、時刻t3から時刻t4までの期間が保圧ステップとなる。この場合、トルク低減ステップの終了時期t3は、射出ステップの終了時期よりも前、つまり少なくとも時刻t4よりも前に設定される。また、このトルク低減ステップの開始時期は、固定側金型11Sに対する可動側金型11Mの接触開始時点t1と、この接触開始時点t1から冷却ステップの開始時点t4に至る期間の中間点((t4−t1)/2)との間にあることが好ましい。中間点((t4−t1)/2)よりも後にトルク低減ステップを開始すると、上述した型締めステップの期間が長くなりすぎてしまい、型締め用モーター35が過負荷となって安全装置が働き、射出成形機10の作動が強制的に停止してしまう不具合が発生する。
【0038】
先のトルク低減ステップの開始と同時に、射出・計量用モーター31を駆動して射出プランジャー30をその後退端から前進端まで移動させ、チャンバー27内に収容された樹脂をノズル29から金型ユニット11のキャビティ14内に射出する射出ステップが実行される。本発明における射出ステップは、射出プランジャー30がその後退端から前進端まで移動してチャンバー27内に収容された樹脂をノズル29から金型ユニット11のキャビティ14内に射出させ、射出・計量用モーター31による射出プランジャー30への駆動トルクが与えられ続けている期間に相当する。この保圧ステップに要する時間は予め設定されており、期間(t4−t2)が射出プランジャー30の前進端までの移動に要する時間よりも多少多めとなるように、すなわちt4の時刻には射出プランジャー30がその前進端までほぼ移動し終えているように、保圧ステップの終了時期t4が設定される。
【0039】
本実施形態では射出ステップをトルク低減ステップと同時に開始するようにしているが、トルク低減ステップの途中から射出ステップを開始したり、あるいは保圧ステップの開始以降に射出ステップを開始したりすることも可能である。
【0040】
保圧ステップの終了後、キャビティ14内に射出された材料を冷却する冷却ステップに移行する。この冷却ステップにおいては、第2の駆動トルクT2よりも小さな第3の駆動トルクT3にて可動側金型11Mを固定側金型11Sに時刻t5まで押し当てる第2保圧ステップと、型締め用モーター35に対する通電を切ったままで時刻t6まで保持する第3保圧ステップとが実行される。保圧ステップから第2保圧ステップに移行する際に、第2の駆動トルクT2から第3の駆動トルクT3へのトルクダウンを急激に行うことは、特に問題とならない。同様に、第2保圧ステップから第3保圧ステップに移行する際に、第3の駆動トルクT3からのトルクダウンを急激に行うことも特に問題とならない。なお、本実施形態においては、第2保圧ステップにおいても、射出・計量用モーター31により所定の駆動トルクが射出プランジャー30に与えられ、キャビティ14内での樹脂の冷却に伴うヒケが発生しないように配慮している。
【0041】
冷却ステップが終了する時刻t6において、型締め用モーター35を逆転させて可動側金型11Mを固定側金型11Sから引き離して型開きを行い、エジェクター装置39によって成形された製品をキャビティから取り出す。
【0042】
このように、型締めステップと保圧ステップとの間にトルク低減ステップを行うことにより、型締め用モーター35が過負荷状態となって安全装置が働き、射出成形機10の稼働率低下をもたらすような不具合を未然に防止することができる。しかも、トルク低減ステップのトルクダウンを所定期間(t3−t2)の間に徐々に行うことにより、樹脂の漏出を防止して型締め状態を維持することが可能である。この結果、型締め用モーター35として小型のサーボモーターを使用し、射出成形機10全体を小型化することができる。
【0043】
なお、型締め開始までの可動側金型11Mの移動速度や、保圧ステップ以降の駆動トルクの制御などに関しては、本実施形態に限らず、既知の方法を必要に応じて任意に採用することができる。また、上述した実施形態では、射出装置12としてバレル19およびローター20を用いた、いわゆるスクロールタイプの射出成形機10について説明したが、樹脂材料を混練するスクリューを用いた一般的なタイプの射出装置を用いた射出成形機に本発明を適用することも当然可能である。
【0044】
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による射出成形方法を実施し得る射出成形機の一実施形態の外観を表す立体投影図である。
【図2】図1に示した実施形態における主要部の内部構造を模式的に表す破断平面図ある。
【図3】図1に示した実施形態における主要部の内部構造を模式的に表す破断正面図ある。
【図4】図2に示した主要部をさらに抽出拡大した断面図である。
【図5】可動側金型に与えられる駆動トルクの変化の一例を模式的に表すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
10 射出成形機
11S 固定側金型
11M 可動側金型
12 射出装置
13 型締め装置
14 キャビティ
17 固定側ダイプレート
19 バレル
20 ローター
22 ローター駆動モーター
27 チャンバー
30 射出プランジャー
31 射出・計量用モーター
35 型締め用モーター
36 可動側ダイプレート
37 ボールねじ機構
1〜T3 型締め用モーターに与えられる駆動トルク
1〜t6 時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型を第1の駆動トルクにて駆動してこの可動側金型を固定側金型に密着させる型締めステップと、
前記第1の駆動トルクよりも小さな第2の駆動トルクにて前記可動側金型を前記固定側金型に押し当てる保圧ステップと、
可塑化された材料を前記可動側金型と前記固定側金型との間に画成されたキャビティ内に射出する射出ステップと
を具えた射出成形方法であって、前記型締めステップと前記保圧ステップとの間に前記第1の駆動トルクから前記第2の駆動トルクへと前記可動側金型に対する駆動トルクを低減させるトルク低減ステップをさらに具え、このトルク低減ステップの終了時期が前記射出ステップの終了時期よりも前に設定されていることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記射出ステップが前記トルク低減ステップの少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記トルク低減ステップは、10ミリ秒当たり前記第1の駆動トルクの10%以下の割合で連続的またはステップ状に駆動トルクを低減させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記キャビティ内に射出された材料を冷却する冷却ステップと、
前記可動側金型を前記固定側金型から引き離して型開きを行うステップと
をさらに具え、前記冷却ステップは、前記第2の駆動トルクよりも小さな第3の駆動トルクにて前記可動側金型を前記固定側金型に押し当てる第2保圧ステップを含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の射出形成方法。
【請求項5】
前記トルク低減ステップの開始時期は、前記固定側金型に対する前記可動側金型の接触開始時点と、この接触開始時点から前記冷却ステップの開始時点に至る期間の中間点との間にあることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の射出成形方法。
【請求項6】
前記可動側金型が電動モーターにより駆動され、電流値を変化させることによって駆動トルクを制御することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−105196(P2010−105196A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276926(P2008−276926)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】