説明

射出成形方法

【課題】溶融樹脂に気体を吹き込んで樹脂製品を中空成形する場合であっても、材料の歩留まりがよい射出成形方法を提供すること。
【解決手段】射出成形方法は、ショートショット状態となるようにキャビティ50の一方から射出によって溶融樹脂Mを注入する第1の工程と、この第1の工程が終了する直前または第1の工程の後に、キャビティ50の一方から第1の気体を吹き込む第2の工程と、この第2の工程の後に、キャビティ50の他方から第1の気体の圧力より高い圧力を有する第2の気体を吹き込むと共に、この吹き込んだ第2の気体をキャビティ50の一方から排出する第3の工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法に関し、詳しくは、一つの射出ユニットから複数の金型の各キャビティに溶融樹脂をそれぞれ注入し、これら注入した溶融樹脂に気体をそれぞれ吹き込んで樹脂製品を中空成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一つの射出ユニットから複数の金型の各キャビティに溶融樹脂をそれぞれ注入し、これら注入した溶融樹脂に気体をそれぞれ吹き込んで樹脂製品を中空成形する射出成形方法、いわゆる、中空射出成形方法が既に知られている。ここで、下記特許文献1には、吹き込んだ気体の断熱膨張効果により中空成形品を冷却する射出成形方法が開示されている。これにより、肉厚で大型の中空成形品を成形する場合でも、ソリの発生を抑制できるようにすると共に、冷却時間を確実かつ大幅に短縮することができる。
【特許文献1】特開2003−127176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した射出成形方法では、キャビティに注入した溶融樹脂にエア等の気体を吹き込んで樹脂製品を中空成形するとき、捨てキャビティ方式(キャビティの全てに行き亘るように溶融樹脂を射出し、射出した溶融樹脂に高圧エアー(例えば、15MPa位の高圧エアー)を吹き込んで、出来上がった樹脂製品の中空部に相当する部分の溶融樹脂をキャビティの外部に排出する方式)を採用しているため、材料の歩留まりが悪いという問題が発生していた。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、溶融樹脂に気体を吹き込んで樹脂製品を中空成形する場合であっても、材料の歩留まりがよい射出成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、一つの射出ユニットから複数の金型の各キャビティに溶融樹脂をそれぞれ注入し、これら注入した溶融樹脂に気体をそれぞれ吹き込んで樹脂製品を中空成形する射出成形方法であって、ショートショット状態となるようにキャビティの一方から射出によって溶融樹脂を注入する第1の工程と、この第1の工程が終了する直前または第1の工程の後に、キャビティの一方から第1の気体を吹き込む第2の工程と、この第2の工程の後に、キャビティの他方から第1の気体の圧力より高い圧力を有する第2の気体を吹き込むと共に、この吹き込んだ第2の気体をキャビティの一方から排出する第3の工程とを備えていることを特徴とする方法である。
この方法によれば、捨てキャビティ方式を採用しなくても中空成形することができる。そのため、材料の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る射出成形機の概略構成を示す平面図であり、一部を断面で示している。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る射出成形機の概略構成を示す正面図であり、一部を断面で示している。
【図3】図3は、本発明の実施例に係る射出成形機の概略構成を示す側面図である。
【図4】図4は、図1の第1の型締ユニットの断面模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る射出成形機のエア供給部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜5を用いて説明する。まず、図1〜5を参照して、本発明の実施例に係る射出成形機1の概略構成を説明する。この射出成形機1は、溶融樹脂Mの供給と射出を行う樹脂供給部2と、射出した溶融樹脂Mにエアを供給するエア供給部3とから構成されている。以下に、これら供給部2、3を個別に説明していく。
【0008】
はじめに、図1〜4を参照して、樹脂供給部2を説明する。樹脂供給部2は、溶融樹脂Mを射出する1つの射出ユニット10と、この射出ユニット10から射出された溶融樹脂Mに後述する低圧エアと高圧エアとを吹き込んで樹脂製品Wを中空成形(ブロー成形)する4個の型締ユニット(第1の型締ユニット12、第2の型締ユニット14、第3の型締ユニット16、第4の型締ユニット18)とから構成されている。
【0009】
射出ユニット10は、例えば、モータ20の回転駆動を駆動源とする押出機22と、この押出機22から続く筒形状の加熱筒24と、この加熱筒24から続くノズル26と、このノズル26から続く矩形状のマニホールド28とを備えている。このノズル26は、マニホールド28の軸方向の一端側(図1において、右側)に密着されている。
【0010】
そして、ホッパ32から供給される粒状の樹脂材料(図示しない)を加熱筒24の内部に配置されたスクリュ34の回転および加熱筒24に巻き付けられたバンドヒータ(図示しない)によって溶融させ、この溶融させた樹脂材料(以下、「溶融樹脂M」と記す)をスクリュ34の前進によってノズル26を介してマニホールド28へ充填させている。なお、モータ20には、制御装置(図示しない)が電気的に接続されている。この制御装置は、スクリュ34が所望する速度で前進できるようにモータ20を制御することができる。
【0011】
マニホールド28の軸方向に沿った両側面(図2において、上下面)には、2個のバルブゲート30、30がそれぞれ設けられている。すなわち、マニホールド28には、計4個のバルブゲート30、30、30、30が設けられている。この各バルブゲート30には、後述する固定金型42と可動金型46との型締めによって形成されるキャビティ50の一端側(図2において、キャビティ50の左側)から溶融樹脂Mを射出可能な樹脂ノズル30aが設けられている。
【0012】
なお、上述したモータ20、押出機22、スクリュ34を内蔵した加熱筒24、ノズル26およびホッパ32は、床面フロアFに設けられた台座Bの上面にスライド機構Sを介して組み付けられている。このスライド機構S(例えば、公知のボールネジ、ボールナットによるスライド機構)により、マニホールド28に対するノズル26の着脱を容易に行うことができる。
【0013】
次に、4個の型締ユニット(第1の型締ユニット12、第2の型締ユニット14、第3の型締ユニット16、第4の型締ユニット18)を説明する。なお、これら型締ユニット12、14、16、18は、いずれも同一構成であるため、第1の型締ユニット12のみを説明することで、残りの第2の型締ユニット14、第3の型締ユニット16、第4の型締ユニット18の説明を省略することとする。
【0014】
第1の型締ユニット12は、固定盤40に固着された固定金型42と、この固定盤40に対して4本のロッド48、48、48、48を介して離間可能な可動盤44に固着された可動金型46とを備えている。この離間は、シリンダ52の駆動によって行われている。これら両金型42、46には、互いを型締めすると、所望する樹脂製品W(この例では、自動車のアシストグリップ)を成形可能なキャビティ50が形成されている。なお、各型締ユニット12、14、16、18は、上述した4個のバルブゲート30、30、30、30に対応するように設けられている。樹脂供給部2は、このように構成されている。
【0015】
次に、図5を参照して、エア供給部3を説明する。取入口60から取り入れられたエア(大気)は、ポンプ62を介して高圧エア(この例では、1MPaのエア)にされてタンク64に貯蔵されている。これらポンプ62およびタンク64は、上述した台座Bの内部に収納されている(図1参照)。これにより、射出成形機1をコンパクトにすることができる。
【0016】
図5に戻って、この高圧エアは、ドライヤ66を通して乾燥された後に、第1の減圧弁68および第2の減圧弁72を介して低圧エア(この例では、0.8MPaのエア)に減圧されている。この低圧エアは、第1の電磁弁76と第1の流量調整弁78とを介して第1のエアノズル82からキャビティ50の一端側(図4において、キャビティ50の左側)に供給可能となっている。
【0017】
一方、第1の減圧弁68を介した高圧エアは、上述したように第2の減圧弁72だけでなく、第2の電磁弁84と第2の流量調整弁86とを介して第2のエアノズル90からキャビティ50の他端側(図4において、キャビティ50の右側)に供給可能となっている。
【0018】
なお、第1の電磁弁76、第1の流量調整弁78、第2の電磁弁84および第2の流量調整弁86は、上述した制御装置に電気的に接続されている。この制御装置は、これら各弁76、78、84、86が予め決定の動作をするように各弁76、78、84、86の開閉を制御することができる。また、第1の減圧弁68の出口側には第1の圧力計70が設けられており、第2の減圧弁72の出口側にも第2の圧力計74が設けられている。
【0019】
また、第1の流量調整弁78の出口側には第1の流量センサ80が設けられており、第2の流量調整弁86の出口側にも第2の流量センサ88が設けられている。そして、これら各圧力計70、74および各流量センサ80、88からの信号は、上述した制御装置に取り込まれている。これにより、エアの圧力およびエアの流量の異常を早期に検出することができるため、成形不良の発生を防止できる。
【0020】
また、エアの流量の異常を早期に検出することにより、両エアノズル82、90の詰まりを検出できるため、効率よく、両エアノズル82、90のメンテナンスを行うことができる。エア供給部3は、このように構成されている。
【0021】
続いて、上述した樹脂供給部2とエア供給部3とから構成されている射出成形機1の動作を説明する。なお、既に説明したように、各型締ユニット12、14、16、18は、いずれも同一構成であるため、第1の型締ユニット12の動作のみを説明することで、残りの第2の型締ユニット14、第3の型締ユニット16、第4の型締ユニット18の動作の説明を省略することとする。
【0022】
なお、第2の型締ユニット14は、第1の型締ユニット12の一連の成形動作(型締めから樹脂製品Wの取り出しに至る動作)を1周期とする1/4周期だけ遅れたタイミングで動作し始め、第3の型締ユニット16は、第1の型締ユニット12の一連の動作を1周期とする2/4周期だけ遅れたタイミングで動作し始め、第4の型締ユニット18は、第1の型締ユニット12の一連の動作を1周期とする3/4周期だけ遅れたタイミングで動作し始めている。
【0023】
まず、第1の型締ユニット12の両金型42、46の型締め動作が行われる。次に、スクリュ34を前進させて溶融樹脂Mをマニホールド28へ流し込むと共に、流し込んだ溶融樹脂Mを樹脂ノズル30aを介してキャビティ50へ射出する。このとき、ショートショット状態となるように、溶融樹脂Mをキャビティ50へ射出する(図4(A)、図5(A)参照)。この記載が、特許請求の範囲に記載の「ショートショット状態となるようにキャビティの一方から射出によって溶融樹脂を注入する第1の工程」に相当する。
【0024】
このショートショットとは、キャビティ50の容積に対して、所定の割合(例えば、73%)だけ溶融樹脂Mを射出することである。この場合、射出後のキャビティ50には、27%の空間が残されることとなる。この所定の割合は、成形される樹脂製品Wに応じて決められる、設計的な事項である。
【0025】
また、このとき、スクリュ34の前進速度を段階的(この例では、4段階)に切り替えて、溶融樹脂Mをキャビティ50へ射出する。例えば、樹脂の射出が進むに従ってスクリュ34の前進速度を200rpm、80rpm(低速充填)、450rpm(高速充填)、80rpmというように切り替えることにより、出来上がった樹脂製品Wのウエルド(外観不良)を防止できる。
【0026】
なお、第1の型締ユニット12のキャビティ50に射出が行われているとき、残りの3個の型締ユニット14、16、18の各樹脂ノズル30aは閉ざされている。このことは、第2の型締ユニット14のキャビティ50に射出が行われているとき、第3の型締ユニット16のキャビティ50に射出が行われているとき、および第4の型締ユニット18に射出が行われているときも同様である。
【0027】
続いて、第1のエアノズル82から低圧エアをキャビティ50に吹き込んで、溶融樹脂Mをキャビティ50の内面に行き亘らしていく(図4(B)、図5(B)参照)。この記載が、特許請求の範囲に記載の「この第1の工程が終了する直前または第1の工程の後に、キャビティの一方から第1の気体を吹き込む第2の工程」に相当する。
【0028】
なお、吹き込む低圧エアの容量がキャビティ50に残された空間の容量(この例では、27%)と一致するように、第1の電磁弁76と第1の流量調整弁の開タイミングは設定されている。このとき、第2のエアノズル90に低圧エアが入り込まないように、第2の電磁弁84を閉じておく。このように低圧エアを吹き込むことで、従来技術で説明した捨てキャビティ方式を採用しなくても中空成形することができる。
【0029】
続いて、第2のエアノズル90から高圧エアをキャビティ50に吹き込んで、キャビティ50内部の低圧エア(溶融樹脂Mの内部の低圧エア)を排出させる(図4(C)、図5(C)参照)。このとき、溶融樹脂Mの部位のうち、キャビティ50の他端側に位置する部位を破る格好となるように、キャビティ50内部の低圧エアを排出させる。この記載が、特許請求の範囲に記載の「この第2の工程の後に、キャビティの他方から第1の気体の圧力より高い圧力を有する第2の気体を吹き込むと共に、この吹き込んだ第2の気体をキャビティの一方から排出する第3の工程」に相当する。
【0030】
この排出された低圧エアは、例えば、第2の減圧弁72から系外へと排出されている。このとき、第2のエアノズル90に低圧エアが入り込むように、第2の電磁弁84を開けておくことは言うまでもない。
【0031】
そして、高圧エアの吹き込みが完了すると、両金型42、46の冷却を行いながら、スクリュ34の回転を継続させて、次回の射出に備えて樹脂材料の溶融を行っておく。最後に、この冷却の終了に伴って、両金型42、46の型開き動作を行って樹脂製品Wの取り出しを行う。このようにして、樹脂材料から所望する樹脂製品Wを成形することができる。
【0032】
本発明の実施例に係る射出成形機1は、上述したように構成されている。この構成によれば、捨てキャビティ方式を採用しなくても中空成形することができる。そのため、材料の歩留まりを向上させることができる。また、高圧エアを吹き込んでキャビティ50内部の低圧エア(溶融樹脂Mによって暖められた低圧エア)を排出させるため、溶融樹脂Mの冷却効果を高めることができる。
【0033】
また、この構成によれば、1MPa程度のエアで中空成形できるため、高い圧力のエア(例えば、10MPa以上のエア)を必要とすることなく、簡便に実施することができる。また、この構成によれば、ドライヤ66を採用しているため、吹き込みエアを簡便に確保することができる。
【0034】
また、この構成によれば、溶融樹脂Mの部位のうち、キャビティ50の他端側に位置する部位を破る格好となるように、キャビティ50内部の低圧エアを排出させるため、応力が集中し、樹脂製品Wの中空内部全体を高圧にしなくても容易に排出させることができる。そのため、両エアノズル82、90を固定式にでき、簡素な構造で実施することができる。
【0035】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、出来上がった樹脂製品Wがアシストグリップである例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、樹脂で成形されるものであれば、どのような製品であっても構わない。
【0036】
また、実施例では、射出成形機1は、マニホールド28における長手方向の左右に2個ずつ、計4個の型締ユニット12、14、16、18を備えた構成を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、例えば、マニホールド28における長手方向の左右に4個ずつ、計8個の金型を備えた構成でも構わない。
【0037】
また、実施例では、溶融樹脂Mに吹き込む気体の例として、エアを例に説明した。しかし、これに限定されるものでなく、各種の気体(例えば、窒素ガス等)であっても構わない。なお、窒素ガスを使用する場合と比較すると、安価に実施できるため、コスト削減を図ることができる。
【0038】
また、実施例では、第1の工程(溶融樹脂Mを射出する工程)の後に、第2の工程(低圧エアをキャビティ50に吹き込む工程)を実施する形態を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、第1の工程が終了する直前(例えば、射出する溶融樹脂Mの90%を射出した段階)に、第2の工程を実施する形態でも構わない。このように実施すると、キャビティ50の内部で溶融樹脂Mの流れを止めることなく成形できるため、出来上がった樹脂製品Wの表面にヘジテーションマーク(不良扱いとなる模様)が生じることを防止できる。
【符号の説明】
【0039】
1 射出成形機
10 射出ユニット
12 第1の型締ユニット
14 第2の型締ユニット
16 第3の型締ユニット
18 第4の型締ユニット
50 キャビティ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの射出ユニットから複数の金型の各キャビティに溶融樹脂をそれぞれ注入し、これら注入した溶融樹脂に気体をそれぞれ吹き込んで樹脂製品を中空成形する射出成形方法であって、
ショートショット状態となるようにキャビティの一方から射出によって溶融樹脂を注入する第1の工程と、
この第1の工程が終了する直前または第1の工程の後に、キャビティの一方から第1の気体を吹き込む第2の工程と、
この第2の工程の後に、キャビティの他方から第1の気体の圧力より高い圧力を有する第2の気体を吹き込むと共に、この吹き込んだ第2の気体をキャビティの一方から排出する第3の工程と、を備えていることを特徴とする射出成形方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−101999(P2011−101999A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258161(P2009−258161)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(308039838)テクノハマ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】