射出成形方法
【課題】成形材料、特に粉体を多く含む成形材料を直接投入成形法によって射出成形装置に直接投入した場合の詰まり、混練不足を解消する。
【解決手段】射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をシリンダ14先端部に貯蔵すると共に、スクリュー16が計量設定位置まで後退した後にスクリューの回転を停止する射出成形方法において、計量工程では、背圧を所定値に設定しスクリュー回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて成形材料を投入口から自重でシリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、シリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、これにより、計量時間をスクリューの回転数及び背圧設定値とは無関係に制御する。
【解決手段】射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をシリンダ14先端部に貯蔵すると共に、スクリュー16が計量設定位置まで後退した後にスクリューの回転を停止する射出成形方法において、計量工程では、背圧を所定値に設定しスクリュー回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて成形材料を投入口から自重でシリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、シリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、これにより、計量時間をスクリューの回転数及び背圧設定値とは無関係に制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法に係り、特に、粉体を大量に含む成形材料をホッパーからシリンダ内に直接投入する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂(プラスチック)成形の代表的な成形方法の一つとして射出成形方法がある。射出成形方法は、雄型と雌型からなる金型(mold)のキャビティ部に、加熱シリンダ(単にシリンダとも称す)内で溶融した樹脂成形材料をスクリュー又はプランジャーにて充填し、急冷した後で金型から取り出すことにより成形品を得る方法である。
【0003】
射出成形の成形サイクルは、一般的に、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、離型工程、とで構成される。
【0004】
ここで計量工程について詳しく説明すると、計量工程はシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて、スクリューが所定の計量設定位置まで後退した後にスクリューの回転を停止して計量を終了する。この場合、スクリューの回転数、即ち成形材料の材料送り能力を上回る量の成形材料をホッパーに充填しておき、スクリューの材料送り能力に合わせて成形材料の自重によりホッパー内の材料を、シリンダ内部に充満供給するノーマル供給方法が一般的である。したがって、背圧設定値が一定の場合にはスクリューの回転数が高いほど計量時間が短くなり、回転数が低いほど計量時間が長くなる。逆に、スクリュー回転数が一定の場合には背圧を低く設定するほど計量時間が短くなり、高いほど計量時間が長くなる。
【0005】
ところで、射出成形に使用される樹脂成形材料としては、従来から石油系樹脂が主として使用されていたが、大気汚染、地球温暖化、オゾン層破壊といった問題が顕在化しており、この対策として循環型の省エネルギー社会を構築する試みがなされている。その1つとして、石油系樹脂の成形材料から植物などの生物由来の植物系樹脂の成形材料への転換が図られている。
【0006】
植物系の樹脂成形材料としては、いわゆるバイオマス樹脂(バイオマスプラスチック又はバイオプラスチックとも称す)があり、これを成形材料として種々の製品を製造する試みがなされている。
【0007】
バイオマス樹脂の代表例としては、ポリ乳酸(ポリ乳酸樹脂又はPLAとも称す)やセルロース系樹脂が挙げられる。これらのバイオマス樹脂は地球環境において二酸化炭素の取込みと発生とが差し引きゼロになる効果が期待でき、この考えはカーボンニュートラルと呼ばれている。
【0008】
しかし、バイオマス樹脂を成形材料として射出成形により成形品を製造する場合、バイオマス樹脂の耐熱性の低さが問題となる。バイオマス樹脂は、熱溶解して容易に流動できるようになる温度と樹脂の分解温度との差が石油系樹脂に比べて小さいため、射出成形や、その前処理としての加工工程において使用可能な温度設定範囲が狭く制限されるという問題がある。例えば射出成形装置に供給する前の前処理においてバイオマス樹脂と添加物とを混練機で混練してペレット化するときに、高熱に長い時間曝すと、樹脂が着色したり低分子化したりし易い。特に、バイオマス樹脂を難燃化するためには、バイオマス樹脂に大量の難燃剤(通常粉体)を練り込む必要があり、バイオマス樹脂と難然剤とを予め混練機でペレット化してから射出成形装置に供給することが好ましい。しかし、混練機での加熱加工時にバイオマス樹脂が分解してしまい、成形品の強度が低下してしまうという問題がある。
【0009】
また、バイオマス樹脂は強度的に脆い性質があり、強度がでにくいという問題もある。特に、バイオマス樹脂は上述の通り難燃剤を大量に練り込む必要があるため、強度的に益々脆くなる。このため、バイオマス樹脂は難燃剤を練り込んで難燃性を確保した場合には、補強剤を添加して強度アップを図る必要がある。
【0010】
バイオマス樹脂の強度アップの方法としては、石油系樹脂を混合することによっても達成できるが、これでは環境負荷低減の本質的な解決にはならない。別の方法として、ガラス繊維などの無機繊維や石油系の有機繊維を添加する方法があり、こちらの方が成形品の植物度をあまり下げることなく強度を得ることができ、好ましい。更に別の方法として、竹やケナフ繊維など天然の成形材料を繊維化して添加する方法もあり、この場合は繊維部分もカーボンニュートラルな素材に置き換えることができる。
【0011】
このように、バイオマス樹脂を射出成形のための成形材料として使用するためには、難燃剤や繊維等の添加物を添加することが一般的である。そして、バイオマス樹脂の耐熱性の低さを考慮すると、バイオマス樹脂と添加物とを混練混合してペレット化するための前処理を行わず、バイオマス樹脂や添加物を射出成形装置に直接投入して成形する直接投入成形法(Direct Mixing:DM法と称す)を採用することが成形品の品質にとって好ましい。
【0012】
しかし、射出成形装置は本来ペレットでの供給を前提とした装置として作られており、例えば大量の粉体材料(繊維状も含む)、ペレット材料、及び液状材料のうちの少なくとも粉体材料とペレット状材料とで構成される成形材料を、射出成形装置のホッパーを介してシリンダ内に直接供給する場合には、次の2つの問題がある。
【0013】
1つ目の問題は、粉体材料とペレット状材料を直接供給しようとすると、ホッパーでの圧縮によるブリッジ等により、ホッパー出口やシリンダ内で詰まりが発生して安定供給できない等の問題がある。また、投入できたとしても、シリンダ内で粉体材料とペレット状材料とが分離して不均一になり易く、十分に均一混練されないという問題がある。特に成形材料に多量の粉体材料が含まれる場合には、直接投入成形法によって均一混練を行うことは困難である。特に、成形材料中の粉体(粉体に準ずる細かい繊維状態の成形材料を含む)比率が30重量%をこえると従来の射出成形方法では均一混練が不可能になる。
【0014】
2つ目の問題は、例えば粉体材料とペレット状材料を直接供給するために攪拌機等により一旦混合した各々の材料をホッパーに供給しても、射出成形を繰り返している間に、射出成形装置の振動や、各々の材料の形状や比重差等により分離してしまうことである。この結果、ホッパーからシリンダ内に供給する粉体材料とペレット状材料が設計通りの比率にならなくなるので、均一な品質の成形品を安定製造することが困難になる。
【0015】
射出成形装置の詰まりやガス抜き等の問題を解消する技術としては例えば特許文献1があり、直接投入成形法を行う従来技術としては例えば特許文献2がある。
【0016】
特許文献1には、射出成形装置のシリンダ内にガス成分(成形材料から発生)を分離する空間を形成するように、成形材料を自重供給ではなく定量フィーダ機構により定量供給する、いわゆるハングリーフィードが記載されている。これにより、シリンダ内に成形材料が詰まることなくガス抜きを確実に行うことができるので、良好な品質の成形品を安定製造できるとされている。
【0017】
また、特許文献2には、射出成形装置のシリンダ内にベース樹脂自体の自重で供給されるベース樹脂に対して、添加剤をスクリュー部に直接供給することが提案されており、添加剤を計量工程だけではなく、射出工程や保圧工程でも供給し続けることを特徴としている。即ち、射出工程でもベース樹脂が供給されていることに着目し、それを補う形で射出工程でも添加剤を供給するものである。これによりシリンダ内のシリンダ長さ方向における添加剤の濃度ムラを改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005−319813号公報
【特許文献2】特開2001−277296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1の技術を、バイオマス樹脂と添加物(難燃剤、繊維等)から成る成形材料の射出成形、特に直接投入成形法に適用しても、良好な品質の成形品を得ることができないという問題がある。特許文献1は元々ペレットの状態でシリンダに供給することを前提としたものであり、大量の粉体や繊維を成形材料として供給する場合には、ホッパーからシリンダ内に直接供給しても均一混練を行うことができないので、安定的な品質の成形品を得ることはできない。
【0020】
ちなみに、従来技術である特許文献2では、計量工程中に重力によって自然供給される樹脂ペレットと同時に添加剤も計量添加されるが、添加剤だけは計量中以外(例えば射出工程中など)のスクリューが回転せずに動作する際にも計量添加を継続し、これにより成形品中の添加剤の量(むら)をより安定化させるものである。この方法を用いると、スクリューが回転せずに前進する、射出工程のような状態でも添加剤が供給され、従来の方法と比べると添加剤濃度のばらつきや着色剤の色ムラを低減することは可能である。
【0021】
しかし、例えば射出工程中のスクリューが前進している間は、計量工程中とは異なり、樹脂ペレットの供給量が変化するため、重力によって落下する樹脂ペレットと、定量供給している添加剤との比率を制御することはできない。更には、材料投入口(特許文献2における図1のC2部分)の材料の滞留が多くなり易いため、材料の再分離が起こり易い。特に本発明のように、成形材料中の添加剤比率即ち粉体材料比率が大きい場合や、粉体材料の見かけ比重が小さい場合には、成形材料を充分均質にすることができない。
【0022】
事実、ペレット状のバイオマス樹脂に大量の粉体状の添加物を含む成形材料について、特許文献1や2の技術を適用して直接投入成形法で射出成形した成形品を検査すると、添加物がバイオマス樹脂に均一に分散されておらず、目的とする品質の成形品を得ることができない。
【0023】
このような背景から、予めバイオマス樹脂と添加物を混練機で混練してペレットとして成形し、このペレットを射出成形装置に投入して成形せざるを得ないのが実情である。
【0024】
しかし、上述したようにバイオマス樹脂は耐熱性が低く、混練機による前処理で高熱が加わることにより、射出成形装置に供給する前に成形材料が劣化して分子量が低下したり、着色したりしてしまう。この結果、折角、射出成形装置に適したペレット形状に成形材料を加工できても、樹脂の分子量が下がって成形品の強度がでなかったり、成形品が着色したりしてしまい品質が低下するという問題がある。
【0025】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、成形材料、特に粉体を多く含む成形材料を直接投入成形法によって射出成形装置に直接投入しても詰まることがないようにできると共に、シリンダ内で成形材料を十分に均一混練することができるので、例えば耐熱性が低いバイオマス樹脂を使用しても高品質な成形品を安定的に製造することができる射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の射出成形方法は前記目的を達成するために、射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて前記スクリューが計量設定位置まで後退した後に前記スクリューの回転を停止する計量工程を備えた射出成形方法において、前記計量工程では、前記スクリューに加える背圧を所定値に設定して前記スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、前記計量工程では、前記スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて前記成形材料を投入口から自重で前記シリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、前記シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、前記SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、これにより前記計量時間を前記スクリューの回転数及び前記背圧設定値とは無関係に制御することを特徴とする。
【0027】
ここで成形材料の供給速度は、単位時間当たりの成形材料の供給量である。
【0028】
本発明によれば、従来のようにスクリューの回転数、即ちシリンダ内で成形材料を送る材料送り能力や背圧設定値によって計量時間が決まってしまうのではなく、スクリューの回転数や背圧設定値とは全く無関係に成形材料の供給速度を調整することで、スクリューの送り能力や背圧設定値とは関係ない形で計量時間を制御するようにした(以下、「計量時間制御」という)。即ち、計量時間制御では、背圧を所定値に設定したときにスクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の高い混練性能が得られる一定回転数に設定しておく一方、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、シリンダ内に成形材料を充満させるノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整するようにした。
【0029】
スクリュー回転数としては150〜200rpmがより好ましく、計量時間としては、SNの5倍秒以上SNの20倍秒以下であることがより好ましい。
【0030】
これにより、スクリューの回転数を混練に適した速度で回転させ、しかも計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維等から構成される成形材料をシリンダ内に直接供給しても、その成形材料を均一混練するのに必要なスクリュー回転数や必要混練時間を十分に確保することができる。
【0031】
この場合、スクリューの回転数としては混練性能の向上と剪断発熱による劣化の両方を考慮して50rpm以上、300rpm以下の回転に設定する。なお、背圧設定値については、所望の値に設定することができるが、5〜150kg/m2の範囲が好ましい。
【0032】
更には、計量時間をスクリューの回転数や背圧設定値に関係なく長くとることができるので、スクリューの材料送り能力に対して成形材料の供給量を遥かに少なくできる。これにより、例えばブリッジや詰まりを生じ易い粉体を含む成形材料をシリンダ内に直接供給してもブリッジや詰まりを生じることがない。なお、粉体を含む成形材料とは、成形材料の一部が粉体である以外に、100%粉体である場合も含む。
【0033】
本発明において、前記シリンダ内を、前記成形材料の投入口から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分したときに、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことが好ましい。
【0034】
ここで、成形材料を充満させないとは、成形材料がシリンダ内を密の状態ではなく疎の状態で搬送されることを言い、シリンダ内に密状態と疎状態とが交互に形成される場合も含む。
【0035】
これは、シリンダ内における成形材料の充満度を規定したものであり、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことにより、特に均一混練を行う上で重要なゾーンである圧縮ゾーンにおいも、材料の供給が少なくなり、スクリューの後退に必要な背圧が立つのに長い時間を要するようになる。即ち、必要な混練、分散時間を充分確保できるようになる。この場合、射出成形の開始時に、「前記少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させない状態」を形成し、この状態で定量供給装置から前記ノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を前記シリンダ内に補給する。これにより、射出成形の開始時の成形材料を充満させない状態を、射出成形の継続後も維持することができる。
【0036】
特に、粉体を大量に含む成形材料の場合には、圧縮ゾーンにおいてスクリューシャフト周囲近傍の成形材料が溶融しないまま残り、スクリューシャフトに巻きついた状態で計量ゾーンに送られ易い。これにより、十分に均一混練されていない成形材料が計量ゾーンに達してしまうので、射出された成形品の品質が悪くなる。
【0037】
本発明では、計量時間をノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下にすることにより、スクリュー回転数による成形材料の材料送り能力よりも成形材料の供給量を少なくできる。したがって、圧縮ゾーンにおける成形材料の充満度を低下して過大なせん断発熱を抑制し、且つ混練時間を長く取ることができるので、粉体を大量に含む成形材料であっても均一混練を行うことが可能となる。
【0038】
本発明において、計量時間を、成形材料の必要混練時間に応じて制御することが好ましい。ここで、成形材料の必要混練時間は、上記したように、成形材料がシリンダ内において均一に混練されるまでに必要な時間を言い、予備試験等により求めることができる。ただし、必要混練時間が上記180秒を超える場合には、180秒に設定する。
【0039】
また、本発明において、計量時間を、射出成形サイクルのうちの冷却工程開始から離型工程終了までの時間に応じて制御することが好ましい。これにより、冷却工程開始から離型工程終了までにスクリューの回転が停止する時間(待ち工程)を設ける必要がない。したがって、成形材料の混練を十分に行うことができるだけでなく、スクリューが停止することによる成形材料の加熱の偏りも防止できる。
【0040】
本発明は、ペレット形態である成形材料にも適用できるが、成形材料はベース樹脂と添加物とで構成され、ベース樹脂及び添加物のうちの少なくとも1つが粉体であると共に、成形材料をペレット化することなく前記シリンダ内に直接供給することが好ましい。特に、ベース樹脂がポリ乳酸樹脂、セルロース系樹脂の少なくとも1つであると共に、添加物が難燃剤、繊維の少なくとも1つであることが好ましい。この場合、成形材料中のバイオマス樹脂の比率としては、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることが特に好ましい。これにより、環境負荷低減に寄与できるからでる。
【0041】
ここで、成形材料をシリンダ内に直接供給するとは、混練機等により成形材料を予め混練混合してペレット化する前処理加工を行わないことを意味する。
【0042】
このように、耐熱性が低いバイオマス樹脂と、大量に添加され且つ均一混練が難しい粉体状又は繊維状の添加物(例えば難燃剤や繊維)とをシリンダに直接供給して射出成形する場合にも、高品質な成形品を安定的に製造することができるからである。
【0043】
前記成形材料のうち、前記粉体の比率が30重量%以上であることが好ましい。このような高い粉体比率において本発明は特に有効だからである。特に粉体比率は50重量%以上でることが好ましい。
【0044】
また、本発明においては、成形材料をシリンダ内に少量連続供給するか、又はシリンダ内に間欠供給することにより、供給速度を調整することが好ましい。
【0045】
これにより、供給速度を遅くでき、しかも供給速度を均等化し易いので、計量工程での混練のバラツキを生じにくい。
【発明の効果】
【0046】
本発明の射出成形方法によれば、成形材料、特に粉体を大量に含む成形材料を直接投入成形法によって射出成形装置に直接投入しても詰まることがないようにできると共に、シリンダ内で成形材料を充分均一混練することができるので、例えば耐熱性が低いバイオマス樹脂を使用しても高品質な成形品を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の射出成形方法を実施する射出成形装置の概略構成図
【図2】射出成形装置のゾーン構成を説明する説明図
【図3】一般的な射出成形サイクルを説明する説明図
【図4】背圧の上昇速度とスクリュー回転数との一般的な関係を説明する説明図
【図5】ペレット100%の成形材料を射出成形する場合の圧縮ゾーンでの挙動を説明する説明図
【図6】粉体を30重量%以上含む成形材料を射出成形する場合の圧縮ゾーンでの挙動を説明する説明図
【図7】本発明の計量工程におけるスクリューの位置を説明する説明図
【図8(A)】試験Aの実施例における射出条件と結果を示した表図
【図8(B)】試験Aの比較例における射出条件と結果を示した表図
【図9】試験Aにおいてスクリューシャフトへの粉体材料の付着状況を実施例と比較例とで対比した写真
【図10(A)】試験Bの実施例における射出条件と結果を示した表図
【図10(B)】試験Bの比較例における射出条件と結果を示した表図
【図11(A)】ノーマル供給を説明する説明図
【図11(B)】ハングリーフィードを説明する説明図
【図11(C)】本発明における「パラパラ供給」を説明する説明図
【図11(D)】本発明における「パラパラ供給」の更に進んだ状態の説明図
【図11(E)】本発明における「パラパラ供給」の極限状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面に従って本発明の射出成形方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0049】
図1は、本発明の射出成形方法を実施する射出成形装置の一例を示す概略構成図である。
【0050】
図1に示すように、射出成型装置10は、先端にノズル12を有するシリンダ14を備え、シリンダ14内にスクリュー16が回転可能に配設される。ノズル12の対向端部であってスクリュー16の後端には、スクリュー16を回転させるモータ18と、圧力・速度の設定値に基づいてスクリュー16を軸方向(図1の左右方向)へ一定のストロークで進退動作させるピストン装置20を備えたモータ・ピストン装置22が設けられる。ピストン装置20によりスクリュー16が図1の左方向に進むことにより射出動作を行う。また、ピストン装置20には、計量工程においてスクリュー16が後退する背圧を検出するための背圧センサー17が設けられ、測定値が後記するコントローラ41に入力される。また、コントローラ41には、モータ・ピストン装置22から計量工程の開始と終了を知らせる計量信号が入力される。
【0051】
シリンダ14の外周にはヒータ24が巻回して設けられ、シリンダ14が射出成形される成形材料の溶融温度(可塑化温度)等に基づいて所定温度に加熱される。また、ノズル12の先端は、内部にキャビティ28を形成する金型30のゲート32に接続される。金型30は、固定金型30Aと可動金型30Bとで構成され、可動金型30Bが固定金型30Aに対して開閉動作を行う。
【0052】
シリンダ14の長さ方向において、ノズル12の対向端部には成形材料であるベース樹脂及び添加物等をシリンダ14内に供給する投入口25が形成されると共に、この投入口25にホッパー26が取り付けられる。
【0053】
図2に示すように、シリンダ14内は、成形材料の投入口25から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分される。投入口25を介してホッパー26から供給ゾーンに投入された成形材料は、スクリュー16の回転によりシリンダ14内をスクリュー先端側に搬送される。シリンダ14内を搬送される成形材料は、回転するスクリュー16表面とシリンダ14内面との間で発生する剪断熱、及びシリンダ14の外周に設けられたヒータ24からの熱によって徐々に溶融される。圧縮ゾーンにおいて成形材料の溶融混練が開始される。圧縮ゾーンで溶融混練された成形樹脂は更に前方に搬送され、計量ゾーンに達する。そして、溶融混練された成形材料がシリンダ14先端部に溜まるにしたがってスクリュー16は後退し、計量設定位置に到達すると後退は停止する。
【0054】
材料供給装置34は、主として、成形材料を構成する例えばベース樹脂や添加物を混ぜ合わせる混合機36と、粉粒体定量供給機38と、計量制御フィーダ40と、成形材料の供給を制御するコントローラ41と、で構成される。混合機36としては、ベース材料と添加物とを均一に混合できるものであればよく、攪拌式、振動式、気流式等を使用することができる。また、粉粒体定量供給機38としては、テーブルフィーダ、ベルトフィーダ、スクリューフィーダ、ロータリフィーダ、ビンディスチャージャー、サークルフィーダ等があり、成形材料の性状において適宜使用することができる。
【0055】
混合機36においてベース樹脂と添加物とが混合された成形材料は、粉粒体定量供給機38で所定量が切り出される。切り出された成形材料は、シューター42を経由して計量制御フィーダ40に送られる。計量制御フィーダ40にはセンサー44が設けられ、センサー44が計量制御フィーダ40内の成形材料の貯留の有無を検知してコントローラ41に送信する。コントローラ41は、計量制御フィーダ40が待機している時間帯、即ち計量制御フィーダ40の貯留無しの時間帯に粉粒体定量供給機38から計量制御フィーダ40に計量工程の1サイクル分に必要な一定量の成形材料を送り込む。
【0056】
コントローラ41には、成形材料の種類(樹脂の種類や添加物の種類等)、材料の形状(粉体、粒体、液体、ペレット)、混合比率(ベース樹脂と添加物との割合)、射出成形条件(1ショットの射出量、シリンダの加熱温度、スクリューの回転数、背圧設定値等)等の諸因子に応じて、成形材料が均一且つ十分に混練されるための必要混練時間データが入力されている。これらの必要混練時間データは予め予備試験等により得ることができる。また、コントローラ41には、必要混練時間を確保するための計量時間と、計量制御フィーダ40からの成形材料の供給速度との関係が入力されている。
【0057】
そして、コントローラ41は、背圧を所定値に設定すると共にスクリュー16の回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定する一方、スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて成形材料を投入口25から自重でシリンダ14内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、シリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整する。即ち、コントローラ41は、計量制御フィーダ40からホッパー26を介してシリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、スクリュー16の回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間をSNの2倍秒以上180秒以下の範囲内において成形材料の必要混練時間に応じて制御する(「計量時間制御」)。計量時間制御におけるより好ましい計量時間はSNの5倍秒以上SNの20倍秒以下の範囲内である。
【0058】
これにより、スクリューの回転数を混練に適した速度で回転させ、しかも計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維等から構成される成形材料をシリンダ内に直接供給しても、その成形材料を均一混練するのに必要なスクリュー回転数や必要混練時間を十分に確保することができる。
【0059】
この場合、スクリューの回転数としては混練性能の向上と剪断発熱による劣化の両方を考慮して50rpm以上、300rpm以下の回転に設定することが好ましい。より好ましくは150〜200rpmの範囲に設定する。スクリュー回転数が50rpm未満では、十分に均一混練を行うことができず、300rpmを超えると剪断発熱によって成形材料が劣化する虞がある。特に、成形材料のベース樹脂がバイオマス樹脂の場合には、300rpmを超えると劣化の危険が大きくなる。
【0060】
また、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、シリンダ内に成形材料を充満させるノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒未満にすると、均一混練を行うことができない。一方、計量時間が180秒を超えて長くなると、均一混練はできてもベース樹脂の分解による低分子化が生じ、射出成形により得られる成形品の強度が低下する。したがって、仮に予備試験によって得られた必要混練時間が180秒を超える場合には、180秒に設定することが好ましい。
【0061】
ここで、図3を用いて、射出成形装置の射出成形サイクルについて説明する。
【0062】
射出成形サイクルは、一般的に、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、離型工程とで構成される。
【0063】
計量工程は、ホッパー26から加熱されたシリンダ14内に供給された成形材料をスクリュー16の回転により混練して溶融(可塑化)しつつ圧送し、溶融した成形材料をシリンダ先端部14Aに貯蔵していく。そして、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて、スクリュー16は回転しながら後退し、予め設定された計量値に達するとスクリューの回転を停止して計量を終了する。計量工程に要する時間を計量時間という。
【0064】
型締工程は、型開状態にある可動金型30Bと固定金型30Aとの金型30を閉じる工程であり、型締シリンダ(図示せず)により可動金型30Bを固定金型30Aの方向に移動させて当接させることにより金型30を閉める。
【0065】
射出工程(充填工程とも言う)は、シリンダ14内で溶融し流動状態になった成形材料をスクリュー16の前進によりノズル12を通って金型30内に射出する。これにより、溶融した成形材料が金型30のキャビティ28内に充填される。
【0066】
保圧工程は、射出工程で溶融した成形材料が金型30のキャビティ28内に充填された後も、スクリュー16によってキャビティ28内に圧力が加えられる。これにより、キャビティ28内の成形材料をキャビティ形状に形作る。
【0067】
冷却工程では、成形品が離型の際に十分な剛性を有するように成形材料を冷却固化する。
【0068】
離型工程では、型締シリンダにより可動金型30Bを固定金型30Aから離れる方向に移動させて金型30を開く。これにより、成形品が金型30から離型される。
【0069】
上記各工程の中では、保圧が完了した後は、スクリュー16は自由に動けるようになるので、図3に示すように、nサイクル目の冷却工程に、n+1サイクル目の計量工程をできるだけオーバーラップさせることで成形サイクルの効率化を図っている。
【0070】
図4は上記した計量工程における背圧の上昇速度とスクリュー16回転数との一般的な関係を示す図である。図4の右肩上がりの直線から分かるように、スクリュー16の回転数が高くなればなるほど、背圧の上昇速度が速くなる。したがって、スクリュー16の回転数を高くして成形材料に対する剪断力を上げようとすると短時間で背圧が上昇し、計量工程が終了してしまう。これにより、成形材料を混練するための時間を長く確保できない。
【0071】
逆に、スクリュー16の回転数を低くすると背圧が上昇する時間を遅くでき混練時間を長く確保できるが、スクリュー16の回転数が低いことにより成形材料に十分な混練を行うための剪断力を付与できない。
【0072】
したがって、スクリュー16の回転数や背圧設定値が基準となって計量工程の計量時間が決まってしまう従来の射出成形方法では、混練時間を長く確保することができない。また、冷却工程に要する冷却時間が計量工程の計量時間より長い場合には、図3の射出成形サイクルに示すように、計量工程から型締工程までの間に計量工程が終了した後の待ち工程が必要になる。待ち工程は、計量工程が終了し、スクリュー16が停止した状態であるので、混練が停止した状態で待つことになる。これにより、成形材料の混練時間を十分に確保できない虞があると共に、スクリュー16が停止することにより成形材料の加熱が偏在し、可塑性分布が生じ易い。
【0073】
特に、バイオマス樹脂のように、品質改善のために難燃剤や繊維等の添加物を大量に添加する必要のある成形材料では、計量工程において材料を充分攪拌、混練する必要があり、冷却工程開始から離型工程終了までの時間を混練のためにフルに活用することが重要になる。
【0074】
したがって、図4のAゾーンのように、スクリュー16の回転数が高いにも係わらず、背圧の上昇速度が遅いようにすることができれば、高い剪断力と混練時間の両方を満足することができる。
【0075】
そこで、本発明の射出成形方法では、上記したように、ホッパー26からシリンダ14内に供給する成形材料の供給速度をスクリュー16の回転数や背圧設定値に関係なく調整して、必要混練時間に応じて計量時間を制御するようにした。
【0076】
即ち、コントローラ41に成形材料の種類、成形条件等の上記諸因子が入力されると、コントローラ41は入力されている必要混練時間データから成形材料に必要な計量時間を選択する。また、コントローラ41は、計量制御フィーダ40に貯留されている1サイクル分の成形材料について、計量を開始してから終了するまでの計量時間が必要混練時間になるための供給速度を演算し、計量制御フィーダ40に設定する。これにより、計量制御フィーダ40は、1サイクル分の成形材料を、演算された供給速度に基づいて、ホッパー26を介してシリンダ14内に供給する。
【0077】
例えば、バイオマス樹脂と添加物(難燃剤+ガラス繊維)とを均一且つ十分に混練するために必要な必要混練時間が20秒であるとした場合、計量工程での計量時間が少なくとも20秒以上になるように、計量制御フィーダ40に貯留されている1サイクル分の成形材料の供給速度を制御する。この場合、計量工程開始から計量工程終了までの供給速度はできるだけ均等であることが好ましい。したがって、成形材料を計量制御フィーダ40からホッパー26に少量ずつ連続的にぱらぱら落とす少量連続供給方法(パラパラ入れ)か、計量制御フィーダ40からホッパー26に一定間隔で一定量を間欠的に落とす間欠供給方法を採用することが好ましい。
【0078】
これにより、スクリュー16の回転数を混練に適した高速で回転させ、しかもスクリュー16が回転動作している計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維から構成される成形材料をシリンダ14内に直接供給しても十分な混練を行うことができる。
【0079】
また、計量時間をスクリュー16の回転数に関係なく長くとることができるので、粉体を含む成形材料をシリンダ14内に直接供給しても、成形材料の供給速度に対してスクリュー16の材料送り能力の方が断然大きいので、成形材料がホッパー26出口やシリンダ14内で詰まることもない。
【0080】
特に、成形材料のうち、粉体の比率が30重量%以上である場合には、本発明の射出成形方法を行うことにより均一混練が可能となると共に、成形材料がホッパー26出口やシリンダ14内で詰まることなく射出成形することが可能となる。
【0081】
即ち、石油系樹脂のように耐熱性が良く、添加物として粉体材料を有する場合でも射出成形の前処理として混練機によるペレット化ができるので、成形材料全てをペレット状態でシリンダ14内に投入することが可能となる。しかし、バイオマス樹脂のように耐熱性が悪く、添加物として大量の粉体材料を有する場合には、射出成形の前処理として混練機でのペレット化ができないので、大量の添加物を粉体のままシリンダ14内に直接投入することになる。
【0082】
そして、ペレット100%の成形材料をシリンダ14内に直接投入(DM法)した場合と、粉体を30重量%以上、特には50重量%以上含む成形材料をシリンダ14内に直接投入(DM法)した場合には、圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動は全く異なる。即ち、添加剤として使用される難燃剤、相溶剤、分解防止剤等の粉体材料(繊維状も含む)の殆どは溶融しない。そのため、樹脂ペレットに剪断をかけるときと同じように剪断をかけても粉体材料とシリンダ内壁面との摩擦で急激な発熱が起きて樹脂が劣化する。また粉体材料はペレットに比べて嵩が高くシリンダ内で隙間ができ易いために、シリンダ外周に設けられたヒータ24の熱が伝わりにくく。このため、圧縮ゾーンにおいてシリンダ14の内壁面近傍の成形材料のみが高温になって溶融するが、スクリュー16のシャフト側の成形材料には熱が伝わりにくく溶融しにくい。そのため、短時間の計量では、スクリュー16のシャフト側近傍の成形材料は溶融されないまま計量ゾーンを介してスクリュー先端まで送られてしまう。これにより、粉体材料を大量に含む成形材料は均一混練を行うことができず、射出成形により得られた成形品の品質(強度、難燃性、外観の色等)が低下する。事実、粉体材料を30重量%以上含む成形材料を従来の成形方法で成形し、そのときにスクリュー16をシリンダ14から抜いて観察すると、圧縮ゾーン終了位置においてシリンダ14内壁面近傍の成形材料は溶融しているが、スクリュー16のシャフト近傍の成形材料は溶融せずに粉体のまま残っている。このことを図5及び図6により詳しく説明する。
【0083】
図5は、シリンダ14内に成形材料を充満供給する従来のノーマル供給方法によって、100%ペレットの成形材料をシリンダ内に供給した場合の圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動である。圧縮ゾーン入口部分では図5(A)に示すように、未溶融の成形材料がソリッドベッド層S形成すると共に、シリンダ14の内壁面部分に成形材料が溶融したメルトフィルム層Mを形成する。このメルトフィルム層Mが形成されると、剪断エネルギーによる発熱によりソリッドベッド層Sを溶融していき、圧縮ゾーン中央部分では図5(B)に示すように未溶融の成形材料が分散するメルトプールPが形成される。そして、図5(C)に示すように圧縮ゾーン出口部分ではメルトプールP中に未溶融の成形材料が殆どなくなる。これにより均一混練を行うことができる。
【0084】
図6は、従来のノーマル供給方法によって、粉体を30重量%以上含む成形材料(残りはペレット状態)をシリンダ14内に供給した場合の圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動である。圧縮ゾーン入口部分では図6(A)に示すように、スクリュー16の搬送中に粉体とペレットとが分離され、シリンダ14側にペレット層Xが形成され、スクリュー16のシャフト側に粉体層Yが形成される。そして、シリンダ14側に近いペレット層Xから溶融され、図6(B)のようにメルトフィルム層Mを形成する。しかし、粉体層Yがある場合には、100%ペレットのように圧縮ゾーン全体にメルトプールPを形成することはなく、圧縮ゾーン全体への熱伝達が悪くなる。これにより、図6(C)のように圧縮ゾーン出口においてもスクリュー16のシャフト周囲近傍に粉体層Yが付着し、スクリュー16のシャフトに巻きついた状態で計量ゾーンに送られる。これにより、十分に均一混練されていない成形材料が計量ゾーンに達してしまうので、射出された成形品の品質が悪くなる。
【0085】
また、ベース樹脂としてバイオマス樹脂、例えばポリ乳酸を使用した場合、ポリ乳酸の融点は170℃付近であるが、分解が220℃付近から急速に始まる。このように、融点温度と分解温度が近いために、加熱溶融が非常に難しい。融点付近では流動性が非常に悪いために、できるだけ温度を上げて溶融したい。特に、ポリ乳酸のベース樹脂に上記したように溶融しにくい粉体を30重量%以上含む成形材料では、成形設定温度を200℃程度まで挙げないと加熱溶融することができない。しかし、粉体材料を大量に含む成形材料は、剪断発熱によってシリンダ14の成形設定温度よりも15〜25℃上昇し、シリンダ内部温度が220℃程度まで加熱してしまう。
【0086】
しかし、粉体を30重量%以上含む成形材料をシリンダ内に直接供給した場合であっても、スクリュー回転数や背圧設定値に関係なく計量時間を長く確保することによって、混練に必要なスクリュー回転数を確保しつつ、シリンダ14内、特に圧縮ゾーンでの成形材料密度を顕著に低くすることが可能となる。これにより、成形材料に過大な剪断がかからないので、剪断発熱によるシリンダ内部温度の温度上昇を抑制できる。また、シリンダ内の成形材料密度が低くても計量時間を長く確保することによりシリンダ14側の熱がスクリュー16のシャフト側へゆっくりと伝達されると共に、長い計量時間を確保したままスクリュー回転数を高くできるので混練効率が向上する。これにより、粉体を30重量%以上含む成形材料であっても、圧縮ゾーン全体にメルトプールPを形成し易いので、成形品の品質低下を発生させることなく均一混練を行うことができる。
【0087】
そして、成形品の品質低下を発生させることのない均一混練は、背圧を所定値に設定したときにスクリュー16の回転数は混練に適した50〜300rpmの一定回転数に設定する一方、成形材料の供給速度を、スクリュー16の回転数や背圧設定値とは関係なく、ノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整して計量時間を確保することにより達成できる。
【0088】
この場合、シリンダ内の供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンにおいて少なくとも圧縮ゾーンの手前まで成形材料を充満させないように、成形材料を供給することが好ましい。即ち、射出成形の開始時に、少なくとも圧縮ゾーンの手前まで成形材料を充満させない状態を形成し、この状態で定量フィーダ40からノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を補給することが好ましい。これにより、射出成形の開始時の成形材料を充満させない状態を、射出成形の継続後も維持することができる。
【0089】
特に圧縮ゾーンにおいて、成形材料を充満させないことにより、シリンダ14側からスクリュー16のシャフト側への熱伝達が向上し、これによりシャフト側に形成される粉体層の溶融を促進する。
【0090】
計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の範囲内で必要計量時間を幾つに設定するかは、成形材料の組成や射出成形装置の条件等により予め試験等により適宜決めることができる。また、計量時間SNの2倍秒以上180秒以下は、粉体を30重量%以上含む成形材料であっても問題ない範囲であり、100%ペレットの成形材料のように成形条件が厳しくないものに対しても適用できることは勿論である。
【0091】
なお、必要混練時間に応じて制御する計量時間は、冷却工程と離型工程との合計時間内で、材料の混合性を確認して任意に設定することができるが、冷却工程と離型工程との合計時間と一致させると、より高い混練性能が得られるので、好ましい。
【0092】
これにより、上記した待ち工程をなくすことができるので、計量工程中は常にスクリュー16が回転した状態を維持することができる。
【0093】
また、計量時間が前記合計時間よりも長くなる場合には、必要混練時間データの中からスクリュー16の回転数を上げた条件を選択して、計量時間を合計時間に一致させるとよい。
【0094】
図7は、必要混練時間に応じて制御する計量時間が冷却工程と離型工程との合計時間と一致する場合の計量工程のイメージを図で示したものである。このときの成形材料の供給速度が1分当たりQgであるとする。図7(A)は冷却工程の開始、図7(B)は冷却工程の終了、図7(C)は離型工程の終了を示す図である。また、スクリュー16が進退するストロークのうち、最も前進した位置(図7の左側位置)をX位置、最も後退した位置をY位置として示す。
【0095】
図7(A)の冷却工程開始と同時に、成形材料をQg/分の供給速度でシリンダ14内に供給し計量工程を開始する。このときのスクリュー16位置はスクリューの進退ストロークのうち最もノズル側のX位置にある。
【0096】
成形材料の供給につれて背圧が上昇し、その背圧によってスクリュー16回転しながら徐々に後退する。そして、図7(B)のように、冷却工程終了時点において、スクリュー16はX位置とY位置の中間よりも少しY側に寄って位置する。更に成形材料の供給が続くにつれてスクリューが後退し、図7(C)のように、離型工程終了と同時にY位置に達する。
【0097】
このように、本発明の射出成形方法では、必要混練時間に応じて計量時間を制御することができるので、混練に長い時間を要する成形材料であっても、均一且つ十分に混練を行うことができる。したがって、本発明はバイオマス樹脂の直接供給法による射出成形の成形方法として特に有効である。
【0098】
次に、本発明に使用する成形材料等の好ましい条件について説明する。
【0099】
本発明は、石油系樹脂にも適用可能であるが、ポリ乳酸樹脂やセルロース系樹脂のバイオマス樹脂に適用することが好ましい。
【0100】
ポリ乳酸系樹脂は、各種のものが利用可能であり、例えば、乳酸単独重合体樹脂、乳酸共重合体樹脂が挙げられる。また、ポリ乳酸系樹脂の原料である乳酸成分も特に限定されず、例えばL−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸またはこれらの混合物、または乳酸環状2量体であるL−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド、またはこれらの混合物を使用できる。
【0101】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の製造方法も特に限定されず、従来公知の方法で合成した樹脂が、各種、利用可能である。乳酸単独重合体樹脂は、例えば、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸等または、これらの混合物を直接脱水縮合するか、またはL−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド、または、これらの混合物等の開環重合によって得ることができる。また、乳酸共重合体樹脂は、例えば、乳酸モノマーまたはラクチドと、前記モノマーと共重合可能な他の成分とを共重合して得ることができる。共重合可能な他の成分としては、例えば、分子内に2個以上のエステル結合形成性の官能基をもつジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、および、これらの種々の構成成分よりなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0102】
また、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量も、特に限定はないが、50,000〜500,000が好ましく、より好ましくは100,000〜250,000である。
【0103】
重量平均分子量が50,000以上であると、得られる本発明の成形品の強度がより高まるので好ましい。重量平均分子量が500,000以下であると射出成形に供する成形材料が均一になり易く、それによって得られる成形品の強度が、より高まる傾向があるので好ましい。
【0104】
セルロース系樹脂は特に限定されないが、ジアセチルセルロース(DAC)やトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を好ましく使用できる。セルロース系樹脂メーカーから供給されているセルロース系樹脂の粒径は、一般的に1〜30mmの範囲で不揃いな粒状体としてユーザに供給される。
【0105】
本発明において、射出成形装置に供給される成形材料のベース樹脂であるバイオマス樹脂の含有量は、30質量%以上含有するのが好ましく50質量%以上含有するのが更に好ましい。このような構成とすることにより、成形した繊維含有射出成形品に優れた環境性能を付与することができる。
【0106】
本発明において添加物として用いられる難燃剤(難燃化剤)には特に限定はなく、樹脂(成形品)を難燃化するために用いられる公知の難燃剤が、各種利用可能である。一例として、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との混練時や成型加工時に機器や金型の腐食が少なく、成形品を焼却廃棄する際に、環境に悪影響を与える可能性が少なく、難燃効果の大きいリン含有難燃剤が好ましい。
【0107】
リン含有難燃剤としては特に限定はなく、公知のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が例示さされる。具体的には、リン酸エステルとしては、一例として、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が例示される。
【0108】
また、リン酸縮合エステルとしては、一例として、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等が例示される。
【0109】
更に、リン酸、ポリリン酸と周期律表IA族〜IVB族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。
【0110】
ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0111】
また、本発明においては、これらのリン含有難燃剤やケイ素含有難燃剤以外に、他の難燃剤を、必要に応じて用いてもよい。例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物酸、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛などの無機系難燃剤を用いることができる。
【0112】
本発明の射出成形方法において添加物として用いられる繊維は、3〜10mmの長さのペレット状に接着または包埋されて成形されたものであるのが好ましい。また、接着または包埋に用いる樹脂は、バイオマス樹脂を含むのが好ましい。繊維は合成繊維、無機いずれの繊維も使用することが出来る。中でも合成繊維ではポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、等の繊維が安定した品質が得られ、機能を充分発揮する点で好ましく中でも、ポリエステル繊維がより好ましい。
【0113】
成形品を強化するための繊維として、熱溶融性合成繊維を用いると、成形品に着火した際に、繊維が溶融により収縮して成形品表面に突出せず、炭化層の均一な生成を妨げないなどの点で好ましい。
【0114】
ポリエステル樹脂は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、ポリエステル樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPT(ポリペンタメチレンテレフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)等のみならず、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0115】
ジカルボン酸成分には、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられ、中でも、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0116】
芳香族ジカルボン酸としては、一例として、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が例示される。
【0117】
中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0118】
脂肪族ジカルボン酸としては、一例として、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸等が例示される。脂環族ジカルボン酸としては、一例として、シクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。このような脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸の中では、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0119】
オキシカルボン酸としては、一例として、p−オキシ安息香酸等が例示される。
【0120】
さらに、多官能酸としては、一例として、トリメリット酸、ピロメリット酸等が例示される。
【0121】
他方、ジオール成分にも、特に限定はなく、目的に応じて、適宜、選択することができる。一例として、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ボリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0122】
脂肪族ジオールとしては、一例として、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール等が例示され、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0123】
脂環族ジオールとしては、一例として、シクロヘキサンジメタノール等が例示される。さらに、芳香族ジオールとしては、一例として、ビスフェノールA、ビスフェノールS等が例示される。
【0124】
本発明に用いるポリエステル繊維の重合度は、特に限定は無いが、固有粘度0.50dL/g以上が好ましく、優れた力学特性を発現させる場合には0.70dL/g以上がより好ましい。なお、固有粘度の上限は3.00dL/g程度である。
【0125】
また、本発明で繊維として用いるポリエステル樹脂は、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60dL/g、特に0,52〜1.35dL/gの範囲にあるものが好ましい。このような固有粘度を有するポリエステル樹脂を用いることにより、機械的特性、成形性の点で、好ましい。
【0126】
本発明において、この様な繊維は、引っ張り強さが2cN/dtex以上、であることが好ましく、5cN/dtex以上であることがより好ましい。
【0127】
このような繊維を用いることにより、得られる繊維含有射出成形品の強度を向上することができ、特に、混合物中にバイオ樹脂を40重要%以上含有した場合でも、JISK7110に準ずるシャルピー試験において、当該混合物の成形品が4KJ/m2以上の衝撃強度を保てる点で、好ましい。
【0128】
また、本発明において用いる繊維の断面形状には、特に限定は無い。一例として、円状
であってもよく、この場合には、繊維の製造コストが低くなり、加えて樹脂組成物中での分散性が高まるので好ましい。あるいは、星状、多角形、不定形、凹凸のある形状などの異型断面や異型断面複合断面であってもよい。この場合、混合物において、樹脂との接触面積が多くなり密着性が高まり、本発明の繊維含有射出成形品の強度が高まる傾向があるので好ましい。なお、断面形状が円状ではない繊維の場合は、一例として、面積円相当径(Heywood径)を意味するものとする。
【0129】
なお、本発明において、繊維の太さには、特に限定はなく、繊維によって強化した樹脂成形品において用いられるものを用いればよく、例えば、射出成形品の用途、使用する射出成形装置、樹脂ペレットのサイズ等に応じて、適切な太さを、適宜、選択すればよい。
【0130】
また、本発明において、射出成形装置に供給される材料は、核剤を含んでいても良い。核剤を含むことにより、成形性、耐熱性、製品強度を向上することができる。使用する核剤には、特に限定はなく、樹脂(ポリマー)の核剤として配合される公知のものを用いることができる。核剤は、無機系核剤でも有機系核剤でも良い。
【0131】
無機系核剤としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などが挙げられる。
【0132】
他方、有機系核剤として、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられる。
【0133】
これらの無機系核剤および有機系核剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用して用いてもよい。無機系と有機系を混合して用いてもよい。
【0134】
本発明の射出成形方法に用いる成形材料として核剤を含有させる場合、その含有量は、ポリ乳酸樹脂等の樹脂100質量部に対して、0.005〜5質量部の割合が好ましく、0.1〜1質量部の割合が更に好ましい。
【0135】
また、本発明の射出成形方法に用いられる成形材料は可塑剤を含有してもよい。
【0136】
使用する可塑剤には、特に限定は無く、樹脂の成形に一般的に用いられる可塑剤が、各種利用可能であり、例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ボリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が例示される。
【0137】
ポリエステル系可塑剤としては、一例として、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸・イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が例示される。
【0138】
これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0139】
グリセリン系可塑剤としては、一例として、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネート等が例示される。ことができる。
【0140】
多価カルボン酸系可塑剤としては、一例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジへブチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリへキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチルーn一デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジー2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジー2−エチルヘキシル等が例示される。
【0141】
ポリアルキレングリコール系可塑剤としては、一例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのボリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物等が例示される。
【0142】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0143】
また、可塑剤としては、これ以外にも、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルプチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等も、例示される。
【0144】
本発明の射出成形方法で使用する成形材料に可塑剤を含有させる場合、その含有量は、ポリ乳酸等の樹脂100質量部に対して、1〜30質量部の割合が好ましく、5〜10質量部が更に好ましい。成形材料が上記好ましい範囲の含有率で可塑剤を含むと、本発明の成形品の製造時において、成形温度を10℃程度低減することができる。
【0145】
本発明の射出成形方法に用いられる成形材料においては、核剤及び可塑剤以外にも、必要に応じて、界面活性剤、エラストマー、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、中和剤、顔料等の着色剤、分散剤、ロジン、合成ゴム類、無機質添加剤、抗菌剤、香料、離型剤、加水分解防止剤などの成分を含んでもよい。
【0146】
本発明で用いられる成形材料において、樹脂、難燃剤、および繊維以外の成分は、合計で20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0147】
以上、本発明の射出成形方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんのことである。
【実施例】
【0148】
[試験A]
次に、試験Aにより本発明の射出成形方法の具体的な実施例を説明する。
【0149】
[成形材料]
・ポリ乳酸樹脂(ペレット状)…三井化学製 LACEA H100 100重量部
・相溶化剤(粉状)…伏見製薬所製 ラビトルFP110 20重量部
・分解防止剤(粉状)…日清紡製 カルボジライトLA1 5重量部
・難燃剤(粉状)…ADEKA アデカスタブFP2100 35重量部
・ガラス繊維…オーウェンスコーニンク゛FT592 15重量部
(繊維をペレット様に固めたもの)
〈合 計〉 175重量部
なお、ポリ乳酸樹脂は予め熱風乾燥機で80℃−5時間乾燥したものを使用した。また、難燃剤は予め減圧乾燥機で80℃−5時間減圧乾燥したものを使用した。上記成形材料のうち粉体比率は34重量%である。
【0150】
[射出成形装置]
試験に供した射出成形装置は、FANUC社製のα50−Aを用い、この射出成形装置にシャルピー試験片と、UL試験片(厚み1.6mm)が同時に射出成形できる金型をセットした。射出成形装置のヒータ温度は、ノズル側から195℃―195℃―190℃―180℃―30℃に設定した。また、1ショットの射出量は25gになるようにした。
【0151】
そして以下に示す実施例1〜6及び比較例1〜7の射出成形条件で行って成形した試験片について「シャルピー衝撃」、「燃焼性」「分散性」の3項目について評価した。
各評価の試験方法は次の通りである。
【0152】
(シャルピー衝撃試験)
シャルピー衝撃試験片をJISK−7111に準じて、長さ80mm±2mm、幅10mm±0.2mm、厚さ4mm±0.2mmとし、ノッチ加工(ノッチ半径0.25mm±0.05mm、ノッチ部の幅8.0mm±0.2mm)を行った。ノッチ付き試験片の質量は4.2gであった。試験装置はTOYOSEIKI社製のIMPACTTESTER(アナログ式)を用いた。そして、上記の実施例及び比較例で得られた試験片をJISK−7111に準じてシャルピー衝撃試験に供し、5(KJ/m2)以上を合格とした。
【0153】
(燃焼性試験:UL94−V)
テストピースは、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの射出成形テストピースを用いた。UL94−Vはプラスチック部品などの燃焼性試験のうちでも最も基本的なもので、規定された寸法の試験片にガスバーナーの炎を当てて試験片の燃焼の程度を調べる。その等級は、難燃性が高い方から順に5VA,5VB,V−0,V−1,V−2,そしてHBがあり、V−1以上(5VA〜V−1)の難燃性を合格とした。
【0154】
(分散性試験)
テストピースはUL94に準じて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの射出成形テストピースを用いた。このテストピースを、照度3800Lx〜4200Lxのライトテーブル(白色光)上に置き、テストピースを透過する透過光によって分散性の良し悪しを目視にて観察した。そして、次の◎〜××の5段階評価を行った。
【0155】
◎…テストピース中に凝集体が見られず、色味も均一状態である。
【0156】
○…テストピース中に凝集体が見られないが、色味にムラが観察される。
【0157】
△…テストピース中に長さ0.5mm以上の微小な凝集体が僅かに観察される。
【0158】
×…テストピース中に長さ0.5mm以上の凝集体が5個以上観察される。
【0159】
××…テストピース中に長さ1mm以上の凝集体が10個以上観察される。
【0160】
(判定)
上記した3つの評価項目が全て合格の場合に、判定において合格であると評価し、1つでも不合格がある場合は判定において不合格であると評価した。
【0161】
[試験Aにおける実施例及び比較例の射出成形条件及び結果]
実施例の射出成形条件及び結果を図8(A)に示し、比較例の射出成形条件及び結果を図8(B)に示した。
【0162】
(実施例1)
実施例1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が20秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を20秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が7.1(KJ/m2)、難燃性がV−0、分散性が◎であり、判定が合格であった。図9(A)は実施例1における射出成形装置のスクリューシャフトの写真であり、白く見える部分がシャフトに付着している粉体材料である。図9(A)から分かるように、圧縮ゾーンにおいて粉体材料のシャフトへの付着は殆ど見られず、成形材料の均一混練が十分になされていることが分かる。
【0163】
ちなみに、後記する比較例1が背圧設定値30kg/cm2及びスクリュー回転数200rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは4秒であった。
【0164】
(実施例2)
実施例2では、背圧を150kg/cm2に上げた以外は実施例1と同様に射出成形を行った。即ち、実施例2は、スクリュー回転数及び計量時間が実施例1と同じで背圧を大きく設定したときの本発明への影響を調べたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.9(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。また、背圧設定値を30kg/cm2から150kg/cm2に大きくしても、スクリュー回転数と計量時間を本発明の条件に設定すれば、成形品の品質に殆ど影響ないことが分かった。このことから、背圧は所定値に設定することができる。ちなみに、後記する比較例2が設定値150kg/cm2及びスクリュー回転数200rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは7秒であった。
【0165】
(実施例3)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を50rpmに設定し、計量時間が40秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例3は、スクリュー回転数が遅くなったことによる混練性能の低下を、計量時間を40秒に長くすることで補うようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0166】
(実施例4)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が8秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例4は、背圧設定値及びスクリュー回転数を実施例1と同様とし、計量時間を本発明の下限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.0(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり、判定が合格であった。
【0167】
(実施例5)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が180秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例5は、背圧設定値及びスクリュー回転数を実施例1と同様とし、計量時間を本発明の上限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.1(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、計量時間が長いためにシャルピー衝撃試験結果が合格ライン近傍であった。これは、計量時間が長いためにポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0168】
(実施例6)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を300rpmに設定し、計量時間が20秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例6は、背圧設定値と計量時間を実施例1と同様とし、スクリュー回転数を本発明の上限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり判定が合格であったが、スクリュー回転数が高かったため、シャルピー衝撃試験結果が合格ライン近傍であった。これは、スクリュー回転数が高いことによって剪断発熱が大きく発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0169】
(比較例1)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ4秒であった。即ち、比較例1は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が4秒になったものである。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.7(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0170】
図9(B)は比較例1における射出成形装置のスクリューシャフトの写真であり、白く見える部分がシャフトに付着している粉体材料である。図9(B)から分かるように、圧縮ゾーンにおいて粉体材料のシャフトへの付着が多く見られ、成形材料の均一混練が不十分であることが分かる。
【0171】
(比較例2)
背圧を150kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ7秒であった。即ち、比較例2は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が7秒になったものである。この場合、背圧の設定を比較例1の30kg/cm2から150kg/cm2に大きくしたことによって、ノーマル供給方法での計量時間が比較例1の4秒から7秒に長くなった。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.1(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が××であり、判定が不合格であった。
【0172】
(比較例3)
実施例1と同様に背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に供給されるようにした。その結果、シリンダの投入口で成形材料がブロッキングして詰まり、安定した成形品のサンプルを採ることができなかったため、途中で試験を中止した。このように、成形材料に大量の粉体を含む場合には、何かのきっかけで目詰まりが発生してしまう。
【0173】
(比較例4)
比較例4は、特許文献1のハングリーフィードに準じて試験したものである。即ち、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、シリンダの投入口を見ながら、スクリューが1/4〜3/4隠れるように成形材料を供給した。このときの計量時間を測定したところ、比較例1のノーマル供給方法での計量時間4秒と同じであった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)で合格であったものの、難燃性がV−2、分散性が×と不合格であり、判定が不合格であった。
【0174】
(比較例5)
比較例5は特許文献2に準じて試験したものである。即ち、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、東洋精機製作所の定量フィーダF3を手動でON−OFF操作して、特許文献2の供給方法により成形材料をシリンダ内に供給した。このときの計量時間を測定したところ、5秒であった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が5.2(KJ/m2)合格であったものの、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0175】
(比較例6)
比較例6では、計量時間が200秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給しする以外は実施例1と同様に行った。即ち、比較例6は、背圧設定値及びスクリュー回転数は本発明を満足するが計量時間が本発明の上限を超えて長くなるようにしたものである。その結果、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、計量時間が長過ぎたためにシャルピー衝撃試験結果が合格ライン以下の4.5(KJ/m2)になった。これは、計量時間が長過ぎるためにポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こったことによると考察される。
【0176】
(比較例7)
比較例7では、スクリューの回転数を350rpmに設定した以外は実施例1と同様に行った。即ち、比較例7は、背圧設定値及び計量時間は本発明を満足するがスクリュー回転数が本発明の上限を超えて大きくなるようにしたものである。その結果、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、スクリュー回転数が高かったため、シャルピー衝撃試験結果が合格ライン以下の4.2(KJ/m2)になった。これは、スクリュー回転数が高過ぎたことによって剪断発熱が過度に発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0177】
[試験Aの結果と考察]
上記実施例1と比較例1との対比、及び実施例2と比較例2との対比から分かるように、スクリュー回転数や背圧設定値に関係なく、計量時間が制御されるように成形材料の供給速度を調整する本発明の射出成形方法を行うことにより、シャルピー衝撃試験、難燃性、分散性の全ての点で良い結果を得ることができる。
【0178】
また、本発明の射出成形方法に一見近いと思われる比較例4及び5についても、比較例1〜3に比べてシャルピー衝撃試験が改良されているものの、難燃性、分散性の点で実施例1〜3よりも劣っており、満足のいく結果が得られなかった。
【0179】
また、スクリューの回転数が300rpmを超えたり、計量時間が180秒を超えると、均一混練は達成できてもポリ乳酸樹脂の低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が悪くなることが分かった。したがって、スクリューの回転数を50rpm(十分な混練を行うことのできる最低回転数)以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定し、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、ノーマル供給における計量時間SNの2倍秒以上180秒以下に制御することが必要になる。
【0180】
なお、本実施例では、ベース樹脂として耐熱性の悪いポリ乳酸樹脂(PLA)を使用したが、ポリ乳酸樹脂よりも耐熱性の良いベース樹脂にも本発明を適用できることは勿論である。
【0181】
[試験B]
試験Bは、試験Aとは成形材料及び射出成形装置を変えて行った。
【0182】
[成形材料]
・ポリ乳酸樹脂(粒状)…ネーチャーワークス製 4032D 100重量部
・難然剤(粉状)…ADEKA アデカスタブFP2200 40重量部
・相溶剤(粉状)…伏見製薬所製 ラビトルFP110 20重量部
・分解防止剤(粉状)…三菱レイヨン製 メタブレンW600A 5重量部
・PTFEドリップ防止剤(粉状)…ダイキン工業製 FA500H 0.5重量部
・加水分解防止剤(粉状)…ラインケミー製 スタハ゛クソ゛ール1FL 3重量部
・フィラー(微粉末)…日本タルク工業製 P3 8重量部
〈合 計〉 176.5重量部
なお、ポリ乳酸樹脂は予め熱風乾燥機で80℃−5時間乾燥したものを使用した。また、難然剤は予め減圧乾燥機で80℃−5時間減圧乾燥したものを使用した。上記成形材料のうち粉体比率は43重量%である。
【0183】
[射出成形装置]
試験に供した射出成形装置は、住友重機械工業社製のSG150U−3を用い、この射出成形装置にシャルピー試験片と、UL試験片(厚み1.6mm)が同時に射出成形できる金型をセットした。射出成形装置のヒータ温度は、ノズル側から195℃―195℃―190℃―180℃―30℃に設定した。また、1ショットの射出量は120gになるようにした。
【0184】
そして、試験Aと同様に本発明を満足する場合、満足しない場合について実施し、シャルピー衝撃試験、難燃性試験、分散性試験の3項目について評価した。3項目の試験方法及び評価基準は試験Aと同様である。
【0185】
[試験Bにおける実施例及び比較例の射出成形条件及び結果]
実施例の射出成形条件及び結果を図10(A)に示し、比較例の射出成形条件及び結果を図10(B)に示した。
【0186】
(実施例1−1)
実施例1−1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量時間が40秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例1−1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を40秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が6.4(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0187】
ちなみに、後記する比較例1が背圧設定値5kg/cm2及びスクリュー回転数150rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは3秒であった。
【0188】
(実施例2−1)
実施例2−1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を25kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量時間が60秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例2−1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を60秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が6.8(KJ/m2)、難燃性がV−0、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0189】
(実施例3−1)
実施例3−1では、スクリュー回転数を本発明の下限である50rpmに設定した以外は実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.1(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。これにより、スクリュー回転数を本発明の下限である50rpmに設定したが、ペレット状の材料と粉体状の材料とが十分に均一混練されていることが分かる。
【0190】
(実施例4−1)
実施例4−1では、スクリュー回転数を本発明の上限である300rpmに設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。スクリュー回転数を本発明の上限である300rpmに設定したことによって、剪断発熱が発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が多少悪くなったものと考察される。
【0191】
(実施例5−1)
実施例5−1では、計量時間を本発明の上限である180秒に設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.4(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。計量時間を本発明の上限である180秒と長くしたため、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が多少悪くなったものと考察される。
【0192】
(実施例6−1)
実施例6−1では、計量時間を本発明の下限であるノーマル供給での計量時間SNの2倍である6秒に設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。ちなみに、比較例1−1がノーマル供給での計量時間であり、3秒となる。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.0(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり、判定が合格であった。計量時間を本発明の下限である6秒と短かったが、シャルピー衝撃試験、難燃性、分散性ともの合格となる程度の均一混練を達成することができた。
【0193】
(比較例1−1)
背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が250mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ3秒であった。即ち、比較例1−1は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が3秒になったものである。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.3(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0194】
(比較例2−1)
比較例2−1では、計量時間を200秒とした以外は、実施例1−1と同様に行った。即ち、比較例2−1は計量時間が本発明の上限を超えて長い場合である。その結果、分散性は◎で合格であったものの、シャルピー衝撃試験結果が3.2(KJ/m2)、難燃性がV−2であり、判定が不合格であった。これは、計量時間を200秒と長過ぎたために、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こり、シャルピー衝撃試験結果が不合格になったものと考察される。
【0195】
(比較例3−1)
比較例3−1では、スクリュー回転数を350rpmとした以外は、実施例1−1と同様に行った。即ち、比較例3−1はスクリュー回転数が本発明の上限を超えて高い場合である。その結果、分散性は◎で合格であったものの、シャルピー衝撃試験結果が3.5(KJ/m2)、難燃性がV−2であり、判定が不合格であった。これは、スクリュー回転数が高過ぎるために、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こり、シャルピー衝撃試験結果が不合格になったものと考察される。
【0196】
(比較例4−1)
比較例4−1は、特許文献1のハングリーフィードに準じて試験したものである。即ち、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、シリンダの投入口を見ながら、スクリューが1/4〜3/4隠れるように成形材料を供給した。このときの計量時間を測定したところ、比較例1−1のノーマル供給方法での計量時間3秒と同じであった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.5(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0197】
(比較例5−1)
比較例5−1は特許文献2に準じて試験したものである。即ち、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、東洋精機製作所の定量フィーダF3を手動でON−OFF操作して、特許文献2の供給方法により成形材料をシリンダ内に供給した。このときの計量時間を測定したところ、4秒であった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.3(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0198】
[試験結果の考察]
試験Bの結果も試験Aと同様の傾向であり、成形材料及び射出成形装置の違いは本発明に影響ないことが分かった。
【0199】
試験A及びBの結果から、本発明の射出成形方法のように、スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲で高速回転を行いつつ、計量時間をスクリューの回転数及び背圧設定値とは無関係に制御して、SN(ノーマル供給の計量時間)の2倍秒以上180秒以下の計量時間とすることより、粉体を大量に含む成形材料をホッパーからシリンダ内に直接投入しても、均一混練を行うことができることが証明された。
【0200】
なお、比較例として行ったハングリーフィードの計量時間がノーマル供給での計量時間と差がなく、本発明における「パラパラ供給」に比べて短い計量時間であった。
【0201】
この点について、図11(A)〜図11(E)を使用して、「ノーマル供給」、「ハングリーフィード」、及び本発明における「パラパラ供給」の違いを説明する。
【0202】
図11(A)〜図11(E)では、成形材料として樹脂ペレットの例で説明し、ペレットをAで示し、ペレットが溶融した溶融樹脂をA1で示す。
【0203】
(計量工程)
一般的に射出成形において計量工程で行う可塑化とは、シリンダ14内のペレットAをスクリュー16で前方に搬送しながら、シリンダ14外部のヒータ24からの伝熱と、ペレットA同士の摩擦熱(剪断エネルギー)により、均一に溶融し、予め設定された一定量の溶融樹脂A1をシリンダ14先端に貯蔵することを言う。
【0204】
即ち、スクリュー16が回転することによってシリンダ14先端に溶融樹脂A1が貯蔵され始めると、溶融樹脂A1が先端より漏れることがなければ、スクリュー16の回転によって順次送り込まれてくるペレットA自身の圧力でスクリュー16は後退して行く。この場合、スクリュー16の回転が速いほど(回転数が大きいほど)送り込まれるペレットAの量が増え、スクリュー16が後退する速度が増すことになる。
【0205】
これにより、予め設定された一定量のストローク位置(計量設定位置)に、スクリュー回転の停止信号を与えてやれば、その位置でスクリュー16の後退は停止する。これが計量工程である。
【0206】
したがって、同じ材料、同じ条件であれば、スクリュー16の回転速度が一定なら、予め設定された一定量のストローク位置に到達するまでの時間、すなわち計量が完了するのに要する時間は略一定になる。
【0207】
また、スクリュー16の回転速度が速くなれば、ペレットAの送り量が増えるため、同じストローク位置に到達するまでの時間、即ち計量が完了するまでの時間は短くなる。
【0208】
上記説明を踏まえて、「ノーマル供給」、「ハングリーフィード」、及び本発明の「パラパラ入れ」との違いを比較する。
【0209】
(ノーマル供給)
先ず初めに、射出成形装置に取り付けたホッパー26内にペレットAを積み上げる『ノーマル供給』について説明する。ホッパー26へのペレットAの供給は、定量フィーダ40(定量供給装置)を用いてその供給量を任意に調整できるものとする。射出成形を開始する前に、ペレットAをホッパー26に満タンに供給しておく。この時のスクリュー16のネジ溝内やホッパー26内のペレットAの概略状態を図11(A)に示す(バルブ等は省略した概念図)。
【0210】
図11(A)から分かるように、スクリュー16のネジ溝内には、常にペレットAや成形材料が溶融した溶融樹脂A1で満たされており、スクリュー16によってペレットAを前方に送り出す力は常に発生しており、短時間で計量が完了する。これにより、ホッパー26内に貯留されるペレットAのレベルは、ペレットAの消費によって徐々に低下する。
【0211】
そして、ペレットAのレベルがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)まで減った時に、射出成形サイクルで消費されるペレットAの量よりも速い供給速度で、ペレットAをホッパー26に供給して再び満タン状態とする。このように、ノーマル供給は、図11(A)のH位置を基準として、ホッパー26におけるペレットAの消費と満タンとを繰り返す。
【0212】
(ハングリーフィード)
次に『ハングリーフィード』について説明する。
【0213】
前述の『ノーマル供給』状態で射出成形を継続している状態から、ペレットAが徐々に消費される。そして、ペレットAがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)に来た状態でペレットAを補充し、ホッパー26内の貯留レベルを再度上昇させると『ノーマル供給』になる。
【0214】
しかし、ハングリーフィードの場合には、ペレットAがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)に来てもペレットAをホッパー26に補充せずにしばらく射出成形を継続する。するとペレットAのレベルはホッパー26の下端よりも更に低下し、投入口25の下(図11(A)のL位置)に達する。この状態で、定量フィーダ40により、ペレットAの平均消費量に等しい量のペレットAをホッパー26に供給する。即ち、ペレットAの平均消費量と、ペレットAの平均供給量が等しくなるようにする。したがって、シリンダ14内のペレットAの後端位置は、ペレットAの間欠的な消費に応じて図11(B)に示す位置にくる。これにより、投入口25の様子をホッパー26側から観察すると、ペレットAが見え隠れしている。換言すると、スクリュー16が見え隠れする。これがハングリーフィードの状態である。
【0215】
したがって、ハングリーフィードは、ホッパー26内及び投入口25下までの投入経路においてペレットAが存在しないことはあるが、ホッパー26にペレットAが供給された時点で、シリンダ14内のペレットAの後端位置と連続した状態になる。即ち、スクリュー16先端に貯蔵される溶融樹脂A1は、連続性が途切れることなく、スクリューのネジ溝内にあるペレットAにより常に必要量の供給がなされることになる。換言すると、スクリュー16の後退に必要な充分な量のペレットAが供給可能な状態が『ノーマル供給』と同様に維持されるのである。
【0216】
『ノーマル供給』と違うところは、上記したようにスクリュー16からホッパー26への空隙部分が多くなるため、ハングリーフィードが課題とする水分や分解ガスが投入口25から外部へ容易に抜けることが可能になっている点である。
【0217】
(パラパラ入れ)
それでは本発明における『パラパラ入れ』とはどのようなものかを説明する。
【0218】
先ず、上記したハングリーフィードにおける図11(B)の状態を考えると、「パラパラ入れ」は、この状態でペレットAの供給を一旦停止する。するとスクリュー16のネジ溝内にあるペレットAや溶融樹脂A1は、射出成形によって更に消費されて、図11(C)や図11(D)のような状態になり、スクリュー16が回転しても樹脂ペレットや溶融樹脂が前方に送られ難く状態が形成される。即ち、供給ゾーン、あるいは供給ゾーンから圧縮ゾーンにかけてペレットAが充満されない状態が形成される。実際に、図11(C)において、ホッパー26を外して投入口25からシリンダ14内部の成形材料の疎密状態を観察したが、疎の状態であり、充満している様子はなかった。
【0219】
ペレットAや溶融樹脂A1は、スクリュー16のネジ溝内にたくさん入っている方がネジ溝の力で前方に送り易くなる。しかし、『パラパラ入れ』の場合には、そのネジ溝に存在する成形材料が極端に少なくなってしまうため、スクリュー16が回転してもペレットAや溶融樹脂A1が前方に送られ難くなる。図11(E)の状態になれば当然のことながら、成形材料はもはや前に送られることはないため、もはや背圧を立てることができず、スクリュー16が後退することができない。したがって、少なくともスクリュー16のネジ溝内に、あるレベルまで成形材料が充満していることが必要である。そうなると、スクリュー16は一定のストローク位置まで後退するまでは回転を止めないため、スクリュー16が回転してネジ溝内のペレットAや溶融樹脂A1を混練しながら、ペレットAの補給を待つという状態になる。即ち、『パラパラ入れ』の場合には、射出成形の開始時において、スクリュー16が回転してもペレットAや溶融樹脂A1が前方に送られ難い状態、即ち供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの少なくとも供給ゾーンにおいてペレットAを充満させない図11(C)や図11(D)のような状態を作り出す。そして、この状態で定量フィーダ40から『ノーマル供給』時のペレットAの平均消費量よりも少なくなる供給速度でペレットAをホッパー26に補給する。これにより、スクリュー16のネジ溝内にペレットAや溶融樹脂A1が充填されて次第にスクリュー先端の背圧が上がってくるので、スクリュー16がゆっくりと後退する。このように、『パラパラ入れ』は、スクリュー16は回転していても、ペレットAの補給を待つ状態が続くので、計量時間を長くとることができるのである。
【0220】
ペレットAがどの位置まで充填されれば、スクリュー16が後退できるようになるのかは、射出成形条件、特に背圧や、スクリュー形状、成形材料の性状によって異なるが、図11(C)から図11(D)を経て図11(E)になるまでのいずれかの状態で、本発明を達成することができる。少なくとも供給ゾーンにおけるペレットAの量が相当減ることが必要で、それによって圧縮ゾーンでのペレットAや溶融樹脂A1の押し込まれ具合が変わってくる。これにより、圧縮ゾーンでの過度の剪断を減少でき、実質温度が制御温度を大きく越えてペレットAを劣化させることがない。また、成形材料としてペレットと粉体とを有する場合にも、樹脂粘度の急激な低下によって、粉体の混練分散性が低下させたりすることを抑制できる。
【符号の説明】
【0221】
10…射出成形装置、12…ノズル、14…シリンダ、16…スクリュー、17…背圧センサー、18…油圧モータ、20…射出シリンダ、22…モータ・シリンダセット、24…ヒータ、26…ホッパー、28…キャビティ、30…金型、32…ゲート、34…材料供給装置、36…混合機、38…粉粒体定量供給機、40…計量フィーダ、42…シューター、44…センサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法に係り、特に、粉体を大量に含む成形材料をホッパーからシリンダ内に直接投入する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂(プラスチック)成形の代表的な成形方法の一つとして射出成形方法がある。射出成形方法は、雄型と雌型からなる金型(mold)のキャビティ部に、加熱シリンダ(単にシリンダとも称す)内で溶融した樹脂成形材料をスクリュー又はプランジャーにて充填し、急冷した後で金型から取り出すことにより成形品を得る方法である。
【0003】
射出成形の成形サイクルは、一般的に、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、離型工程、とで構成される。
【0004】
ここで計量工程について詳しく説明すると、計量工程はシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて、スクリューが所定の計量設定位置まで後退した後にスクリューの回転を停止して計量を終了する。この場合、スクリューの回転数、即ち成形材料の材料送り能力を上回る量の成形材料をホッパーに充填しておき、スクリューの材料送り能力に合わせて成形材料の自重によりホッパー内の材料を、シリンダ内部に充満供給するノーマル供給方法が一般的である。したがって、背圧設定値が一定の場合にはスクリューの回転数が高いほど計量時間が短くなり、回転数が低いほど計量時間が長くなる。逆に、スクリュー回転数が一定の場合には背圧を低く設定するほど計量時間が短くなり、高いほど計量時間が長くなる。
【0005】
ところで、射出成形に使用される樹脂成形材料としては、従来から石油系樹脂が主として使用されていたが、大気汚染、地球温暖化、オゾン層破壊といった問題が顕在化しており、この対策として循環型の省エネルギー社会を構築する試みがなされている。その1つとして、石油系樹脂の成形材料から植物などの生物由来の植物系樹脂の成形材料への転換が図られている。
【0006】
植物系の樹脂成形材料としては、いわゆるバイオマス樹脂(バイオマスプラスチック又はバイオプラスチックとも称す)があり、これを成形材料として種々の製品を製造する試みがなされている。
【0007】
バイオマス樹脂の代表例としては、ポリ乳酸(ポリ乳酸樹脂又はPLAとも称す)やセルロース系樹脂が挙げられる。これらのバイオマス樹脂は地球環境において二酸化炭素の取込みと発生とが差し引きゼロになる効果が期待でき、この考えはカーボンニュートラルと呼ばれている。
【0008】
しかし、バイオマス樹脂を成形材料として射出成形により成形品を製造する場合、バイオマス樹脂の耐熱性の低さが問題となる。バイオマス樹脂は、熱溶解して容易に流動できるようになる温度と樹脂の分解温度との差が石油系樹脂に比べて小さいため、射出成形や、その前処理としての加工工程において使用可能な温度設定範囲が狭く制限されるという問題がある。例えば射出成形装置に供給する前の前処理においてバイオマス樹脂と添加物とを混練機で混練してペレット化するときに、高熱に長い時間曝すと、樹脂が着色したり低分子化したりし易い。特に、バイオマス樹脂を難燃化するためには、バイオマス樹脂に大量の難燃剤(通常粉体)を練り込む必要があり、バイオマス樹脂と難然剤とを予め混練機でペレット化してから射出成形装置に供給することが好ましい。しかし、混練機での加熱加工時にバイオマス樹脂が分解してしまい、成形品の強度が低下してしまうという問題がある。
【0009】
また、バイオマス樹脂は強度的に脆い性質があり、強度がでにくいという問題もある。特に、バイオマス樹脂は上述の通り難燃剤を大量に練り込む必要があるため、強度的に益々脆くなる。このため、バイオマス樹脂は難燃剤を練り込んで難燃性を確保した場合には、補強剤を添加して強度アップを図る必要がある。
【0010】
バイオマス樹脂の強度アップの方法としては、石油系樹脂を混合することによっても達成できるが、これでは環境負荷低減の本質的な解決にはならない。別の方法として、ガラス繊維などの無機繊維や石油系の有機繊維を添加する方法があり、こちらの方が成形品の植物度をあまり下げることなく強度を得ることができ、好ましい。更に別の方法として、竹やケナフ繊維など天然の成形材料を繊維化して添加する方法もあり、この場合は繊維部分もカーボンニュートラルな素材に置き換えることができる。
【0011】
このように、バイオマス樹脂を射出成形のための成形材料として使用するためには、難燃剤や繊維等の添加物を添加することが一般的である。そして、バイオマス樹脂の耐熱性の低さを考慮すると、バイオマス樹脂と添加物とを混練混合してペレット化するための前処理を行わず、バイオマス樹脂や添加物を射出成形装置に直接投入して成形する直接投入成形法(Direct Mixing:DM法と称す)を採用することが成形品の品質にとって好ましい。
【0012】
しかし、射出成形装置は本来ペレットでの供給を前提とした装置として作られており、例えば大量の粉体材料(繊維状も含む)、ペレット材料、及び液状材料のうちの少なくとも粉体材料とペレット状材料とで構成される成形材料を、射出成形装置のホッパーを介してシリンダ内に直接供給する場合には、次の2つの問題がある。
【0013】
1つ目の問題は、粉体材料とペレット状材料を直接供給しようとすると、ホッパーでの圧縮によるブリッジ等により、ホッパー出口やシリンダ内で詰まりが発生して安定供給できない等の問題がある。また、投入できたとしても、シリンダ内で粉体材料とペレット状材料とが分離して不均一になり易く、十分に均一混練されないという問題がある。特に成形材料に多量の粉体材料が含まれる場合には、直接投入成形法によって均一混練を行うことは困難である。特に、成形材料中の粉体(粉体に準ずる細かい繊維状態の成形材料を含む)比率が30重量%をこえると従来の射出成形方法では均一混練が不可能になる。
【0014】
2つ目の問題は、例えば粉体材料とペレット状材料を直接供給するために攪拌機等により一旦混合した各々の材料をホッパーに供給しても、射出成形を繰り返している間に、射出成形装置の振動や、各々の材料の形状や比重差等により分離してしまうことである。この結果、ホッパーからシリンダ内に供給する粉体材料とペレット状材料が設計通りの比率にならなくなるので、均一な品質の成形品を安定製造することが困難になる。
【0015】
射出成形装置の詰まりやガス抜き等の問題を解消する技術としては例えば特許文献1があり、直接投入成形法を行う従来技術としては例えば特許文献2がある。
【0016】
特許文献1には、射出成形装置のシリンダ内にガス成分(成形材料から発生)を分離する空間を形成するように、成形材料を自重供給ではなく定量フィーダ機構により定量供給する、いわゆるハングリーフィードが記載されている。これにより、シリンダ内に成形材料が詰まることなくガス抜きを確実に行うことができるので、良好な品質の成形品を安定製造できるとされている。
【0017】
また、特許文献2には、射出成形装置のシリンダ内にベース樹脂自体の自重で供給されるベース樹脂に対して、添加剤をスクリュー部に直接供給することが提案されており、添加剤を計量工程だけではなく、射出工程や保圧工程でも供給し続けることを特徴としている。即ち、射出工程でもベース樹脂が供給されていることに着目し、それを補う形で射出工程でも添加剤を供給するものである。これによりシリンダ内のシリンダ長さ方向における添加剤の濃度ムラを改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005−319813号公報
【特許文献2】特開2001−277296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1の技術を、バイオマス樹脂と添加物(難燃剤、繊維等)から成る成形材料の射出成形、特に直接投入成形法に適用しても、良好な品質の成形品を得ることができないという問題がある。特許文献1は元々ペレットの状態でシリンダに供給することを前提としたものであり、大量の粉体や繊維を成形材料として供給する場合には、ホッパーからシリンダ内に直接供給しても均一混練を行うことができないので、安定的な品質の成形品を得ることはできない。
【0020】
ちなみに、従来技術である特許文献2では、計量工程中に重力によって自然供給される樹脂ペレットと同時に添加剤も計量添加されるが、添加剤だけは計量中以外(例えば射出工程中など)のスクリューが回転せずに動作する際にも計量添加を継続し、これにより成形品中の添加剤の量(むら)をより安定化させるものである。この方法を用いると、スクリューが回転せずに前進する、射出工程のような状態でも添加剤が供給され、従来の方法と比べると添加剤濃度のばらつきや着色剤の色ムラを低減することは可能である。
【0021】
しかし、例えば射出工程中のスクリューが前進している間は、計量工程中とは異なり、樹脂ペレットの供給量が変化するため、重力によって落下する樹脂ペレットと、定量供給している添加剤との比率を制御することはできない。更には、材料投入口(特許文献2における図1のC2部分)の材料の滞留が多くなり易いため、材料の再分離が起こり易い。特に本発明のように、成形材料中の添加剤比率即ち粉体材料比率が大きい場合や、粉体材料の見かけ比重が小さい場合には、成形材料を充分均質にすることができない。
【0022】
事実、ペレット状のバイオマス樹脂に大量の粉体状の添加物を含む成形材料について、特許文献1や2の技術を適用して直接投入成形法で射出成形した成形品を検査すると、添加物がバイオマス樹脂に均一に分散されておらず、目的とする品質の成形品を得ることができない。
【0023】
このような背景から、予めバイオマス樹脂と添加物を混練機で混練してペレットとして成形し、このペレットを射出成形装置に投入して成形せざるを得ないのが実情である。
【0024】
しかし、上述したようにバイオマス樹脂は耐熱性が低く、混練機による前処理で高熱が加わることにより、射出成形装置に供給する前に成形材料が劣化して分子量が低下したり、着色したりしてしまう。この結果、折角、射出成形装置に適したペレット形状に成形材料を加工できても、樹脂の分子量が下がって成形品の強度がでなかったり、成形品が着色したりしてしまい品質が低下するという問題がある。
【0025】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、成形材料、特に粉体を多く含む成形材料を直接投入成形法によって射出成形装置に直接投入しても詰まることがないようにできると共に、シリンダ内で成形材料を十分に均一混練することができるので、例えば耐熱性が低いバイオマス樹脂を使用しても高品質な成形品を安定的に製造することができる射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の射出成形方法は前記目的を達成するために、射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて前記スクリューが計量設定位置まで後退した後に前記スクリューの回転を停止する計量工程を備えた射出成形方法において、前記計量工程では、前記スクリューに加える背圧を所定値に設定して前記スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、前記計量工程では、前記スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて前記成形材料を投入口から自重で前記シリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、前記シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、前記SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、これにより前記計量時間を前記スクリューの回転数及び前記背圧設定値とは無関係に制御することを特徴とする。
【0027】
ここで成形材料の供給速度は、単位時間当たりの成形材料の供給量である。
【0028】
本発明によれば、従来のようにスクリューの回転数、即ちシリンダ内で成形材料を送る材料送り能力や背圧設定値によって計量時間が決まってしまうのではなく、スクリューの回転数や背圧設定値とは全く無関係に成形材料の供給速度を調整することで、スクリューの送り能力や背圧設定値とは関係ない形で計量時間を制御するようにした(以下、「計量時間制御」という)。即ち、計量時間制御では、背圧を所定値に設定したときにスクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の高い混練性能が得られる一定回転数に設定しておく一方、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、シリンダ内に成形材料を充満させるノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整するようにした。
【0029】
スクリュー回転数としては150〜200rpmがより好ましく、計量時間としては、SNの5倍秒以上SNの20倍秒以下であることがより好ましい。
【0030】
これにより、スクリューの回転数を混練に適した速度で回転させ、しかも計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維等から構成される成形材料をシリンダ内に直接供給しても、その成形材料を均一混練するのに必要なスクリュー回転数や必要混練時間を十分に確保することができる。
【0031】
この場合、スクリューの回転数としては混練性能の向上と剪断発熱による劣化の両方を考慮して50rpm以上、300rpm以下の回転に設定する。なお、背圧設定値については、所望の値に設定することができるが、5〜150kg/m2の範囲が好ましい。
【0032】
更には、計量時間をスクリューの回転数や背圧設定値に関係なく長くとることができるので、スクリューの材料送り能力に対して成形材料の供給量を遥かに少なくできる。これにより、例えばブリッジや詰まりを生じ易い粉体を含む成形材料をシリンダ内に直接供給してもブリッジや詰まりを生じることがない。なお、粉体を含む成形材料とは、成形材料の一部が粉体である以外に、100%粉体である場合も含む。
【0033】
本発明において、前記シリンダ内を、前記成形材料の投入口から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分したときに、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことが好ましい。
【0034】
ここで、成形材料を充満させないとは、成形材料がシリンダ内を密の状態ではなく疎の状態で搬送されることを言い、シリンダ内に密状態と疎状態とが交互に形成される場合も含む。
【0035】
これは、シリンダ内における成形材料の充満度を規定したものであり、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことにより、特に均一混練を行う上で重要なゾーンである圧縮ゾーンにおいも、材料の供給が少なくなり、スクリューの後退に必要な背圧が立つのに長い時間を要するようになる。即ち、必要な混練、分散時間を充分確保できるようになる。この場合、射出成形の開始時に、「前記少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させない状態」を形成し、この状態で定量供給装置から前記ノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を前記シリンダ内に補給する。これにより、射出成形の開始時の成形材料を充満させない状態を、射出成形の継続後も維持することができる。
【0036】
特に、粉体を大量に含む成形材料の場合には、圧縮ゾーンにおいてスクリューシャフト周囲近傍の成形材料が溶融しないまま残り、スクリューシャフトに巻きついた状態で計量ゾーンに送られ易い。これにより、十分に均一混練されていない成形材料が計量ゾーンに達してしまうので、射出された成形品の品質が悪くなる。
【0037】
本発明では、計量時間をノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下にすることにより、スクリュー回転数による成形材料の材料送り能力よりも成形材料の供給量を少なくできる。したがって、圧縮ゾーンにおける成形材料の充満度を低下して過大なせん断発熱を抑制し、且つ混練時間を長く取ることができるので、粉体を大量に含む成形材料であっても均一混練を行うことが可能となる。
【0038】
本発明において、計量時間を、成形材料の必要混練時間に応じて制御することが好ましい。ここで、成形材料の必要混練時間は、上記したように、成形材料がシリンダ内において均一に混練されるまでに必要な時間を言い、予備試験等により求めることができる。ただし、必要混練時間が上記180秒を超える場合には、180秒に設定する。
【0039】
また、本発明において、計量時間を、射出成形サイクルのうちの冷却工程開始から離型工程終了までの時間に応じて制御することが好ましい。これにより、冷却工程開始から離型工程終了までにスクリューの回転が停止する時間(待ち工程)を設ける必要がない。したがって、成形材料の混練を十分に行うことができるだけでなく、スクリューが停止することによる成形材料の加熱の偏りも防止できる。
【0040】
本発明は、ペレット形態である成形材料にも適用できるが、成形材料はベース樹脂と添加物とで構成され、ベース樹脂及び添加物のうちの少なくとも1つが粉体であると共に、成形材料をペレット化することなく前記シリンダ内に直接供給することが好ましい。特に、ベース樹脂がポリ乳酸樹脂、セルロース系樹脂の少なくとも1つであると共に、添加物が難燃剤、繊維の少なくとも1つであることが好ましい。この場合、成形材料中のバイオマス樹脂の比率としては、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることが特に好ましい。これにより、環境負荷低減に寄与できるからでる。
【0041】
ここで、成形材料をシリンダ内に直接供給するとは、混練機等により成形材料を予め混練混合してペレット化する前処理加工を行わないことを意味する。
【0042】
このように、耐熱性が低いバイオマス樹脂と、大量に添加され且つ均一混練が難しい粉体状又は繊維状の添加物(例えば難燃剤や繊維)とをシリンダに直接供給して射出成形する場合にも、高品質な成形品を安定的に製造することができるからである。
【0043】
前記成形材料のうち、前記粉体の比率が30重量%以上であることが好ましい。このような高い粉体比率において本発明は特に有効だからである。特に粉体比率は50重量%以上でることが好ましい。
【0044】
また、本発明においては、成形材料をシリンダ内に少量連続供給するか、又はシリンダ内に間欠供給することにより、供給速度を調整することが好ましい。
【0045】
これにより、供給速度を遅くでき、しかも供給速度を均等化し易いので、計量工程での混練のバラツキを生じにくい。
【発明の効果】
【0046】
本発明の射出成形方法によれば、成形材料、特に粉体を大量に含む成形材料を直接投入成形法によって射出成形装置に直接投入しても詰まることがないようにできると共に、シリンダ内で成形材料を充分均一混練することができるので、例えば耐熱性が低いバイオマス樹脂を使用しても高品質な成形品を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の射出成形方法を実施する射出成形装置の概略構成図
【図2】射出成形装置のゾーン構成を説明する説明図
【図3】一般的な射出成形サイクルを説明する説明図
【図4】背圧の上昇速度とスクリュー回転数との一般的な関係を説明する説明図
【図5】ペレット100%の成形材料を射出成形する場合の圧縮ゾーンでの挙動を説明する説明図
【図6】粉体を30重量%以上含む成形材料を射出成形する場合の圧縮ゾーンでの挙動を説明する説明図
【図7】本発明の計量工程におけるスクリューの位置を説明する説明図
【図8(A)】試験Aの実施例における射出条件と結果を示した表図
【図8(B)】試験Aの比較例における射出条件と結果を示した表図
【図9】試験Aにおいてスクリューシャフトへの粉体材料の付着状況を実施例と比較例とで対比した写真
【図10(A)】試験Bの実施例における射出条件と結果を示した表図
【図10(B)】試験Bの比較例における射出条件と結果を示した表図
【図11(A)】ノーマル供給を説明する説明図
【図11(B)】ハングリーフィードを説明する説明図
【図11(C)】本発明における「パラパラ供給」を説明する説明図
【図11(D)】本発明における「パラパラ供給」の更に進んだ状態の説明図
【図11(E)】本発明における「パラパラ供給」の極限状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面に従って本発明の射出成形方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0049】
図1は、本発明の射出成形方法を実施する射出成形装置の一例を示す概略構成図である。
【0050】
図1に示すように、射出成型装置10は、先端にノズル12を有するシリンダ14を備え、シリンダ14内にスクリュー16が回転可能に配設される。ノズル12の対向端部であってスクリュー16の後端には、スクリュー16を回転させるモータ18と、圧力・速度の設定値に基づいてスクリュー16を軸方向(図1の左右方向)へ一定のストロークで進退動作させるピストン装置20を備えたモータ・ピストン装置22が設けられる。ピストン装置20によりスクリュー16が図1の左方向に進むことにより射出動作を行う。また、ピストン装置20には、計量工程においてスクリュー16が後退する背圧を検出するための背圧センサー17が設けられ、測定値が後記するコントローラ41に入力される。また、コントローラ41には、モータ・ピストン装置22から計量工程の開始と終了を知らせる計量信号が入力される。
【0051】
シリンダ14の外周にはヒータ24が巻回して設けられ、シリンダ14が射出成形される成形材料の溶融温度(可塑化温度)等に基づいて所定温度に加熱される。また、ノズル12の先端は、内部にキャビティ28を形成する金型30のゲート32に接続される。金型30は、固定金型30Aと可動金型30Bとで構成され、可動金型30Bが固定金型30Aに対して開閉動作を行う。
【0052】
シリンダ14の長さ方向において、ノズル12の対向端部には成形材料であるベース樹脂及び添加物等をシリンダ14内に供給する投入口25が形成されると共に、この投入口25にホッパー26が取り付けられる。
【0053】
図2に示すように、シリンダ14内は、成形材料の投入口25から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分される。投入口25を介してホッパー26から供給ゾーンに投入された成形材料は、スクリュー16の回転によりシリンダ14内をスクリュー先端側に搬送される。シリンダ14内を搬送される成形材料は、回転するスクリュー16表面とシリンダ14内面との間で発生する剪断熱、及びシリンダ14の外周に設けられたヒータ24からの熱によって徐々に溶融される。圧縮ゾーンにおいて成形材料の溶融混練が開始される。圧縮ゾーンで溶融混練された成形樹脂は更に前方に搬送され、計量ゾーンに達する。そして、溶融混練された成形材料がシリンダ14先端部に溜まるにしたがってスクリュー16は後退し、計量設定位置に到達すると後退は停止する。
【0054】
材料供給装置34は、主として、成形材料を構成する例えばベース樹脂や添加物を混ぜ合わせる混合機36と、粉粒体定量供給機38と、計量制御フィーダ40と、成形材料の供給を制御するコントローラ41と、で構成される。混合機36としては、ベース材料と添加物とを均一に混合できるものであればよく、攪拌式、振動式、気流式等を使用することができる。また、粉粒体定量供給機38としては、テーブルフィーダ、ベルトフィーダ、スクリューフィーダ、ロータリフィーダ、ビンディスチャージャー、サークルフィーダ等があり、成形材料の性状において適宜使用することができる。
【0055】
混合機36においてベース樹脂と添加物とが混合された成形材料は、粉粒体定量供給機38で所定量が切り出される。切り出された成形材料は、シューター42を経由して計量制御フィーダ40に送られる。計量制御フィーダ40にはセンサー44が設けられ、センサー44が計量制御フィーダ40内の成形材料の貯留の有無を検知してコントローラ41に送信する。コントローラ41は、計量制御フィーダ40が待機している時間帯、即ち計量制御フィーダ40の貯留無しの時間帯に粉粒体定量供給機38から計量制御フィーダ40に計量工程の1サイクル分に必要な一定量の成形材料を送り込む。
【0056】
コントローラ41には、成形材料の種類(樹脂の種類や添加物の種類等)、材料の形状(粉体、粒体、液体、ペレット)、混合比率(ベース樹脂と添加物との割合)、射出成形条件(1ショットの射出量、シリンダの加熱温度、スクリューの回転数、背圧設定値等)等の諸因子に応じて、成形材料が均一且つ十分に混練されるための必要混練時間データが入力されている。これらの必要混練時間データは予め予備試験等により得ることができる。また、コントローラ41には、必要混練時間を確保するための計量時間と、計量制御フィーダ40からの成形材料の供給速度との関係が入力されている。
【0057】
そして、コントローラ41は、背圧を所定値に設定すると共にスクリュー16の回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定する一方、スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて成形材料を投入口25から自重でシリンダ14内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、シリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整する。即ち、コントローラ41は、計量制御フィーダ40からホッパー26を介してシリンダ14内に供給する成形材料の供給速度を、スクリュー16の回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間をSNの2倍秒以上180秒以下の範囲内において成形材料の必要混練時間に応じて制御する(「計量時間制御」)。計量時間制御におけるより好ましい計量時間はSNの5倍秒以上SNの20倍秒以下の範囲内である。
【0058】
これにより、スクリューの回転数を混練に適した速度で回転させ、しかも計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維等から構成される成形材料をシリンダ内に直接供給しても、その成形材料を均一混練するのに必要なスクリュー回転数や必要混練時間を十分に確保することができる。
【0059】
この場合、スクリューの回転数としては混練性能の向上と剪断発熱による劣化の両方を考慮して50rpm以上、300rpm以下の回転に設定することが好ましい。より好ましくは150〜200rpmの範囲に設定する。スクリュー回転数が50rpm未満では、十分に均一混練を行うことができず、300rpmを超えると剪断発熱によって成形材料が劣化する虞がある。特に、成形材料のベース樹脂がバイオマス樹脂の場合には、300rpmを超えると劣化の危険が大きくなる。
【0060】
また、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、シリンダ内に成形材料を充満させるノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒未満にすると、均一混練を行うことができない。一方、計量時間が180秒を超えて長くなると、均一混練はできてもベース樹脂の分解による低分子化が生じ、射出成形により得られる成形品の強度が低下する。したがって、仮に予備試験によって得られた必要混練時間が180秒を超える場合には、180秒に設定することが好ましい。
【0061】
ここで、図3を用いて、射出成形装置の射出成形サイクルについて説明する。
【0062】
射出成形サイクルは、一般的に、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、離型工程とで構成される。
【0063】
計量工程は、ホッパー26から加熱されたシリンダ14内に供給された成形材料をスクリュー16の回転により混練して溶融(可塑化)しつつ圧送し、溶融した成形材料をシリンダ先端部14Aに貯蔵していく。そして、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて、スクリュー16は回転しながら後退し、予め設定された計量値に達するとスクリューの回転を停止して計量を終了する。計量工程に要する時間を計量時間という。
【0064】
型締工程は、型開状態にある可動金型30Bと固定金型30Aとの金型30を閉じる工程であり、型締シリンダ(図示せず)により可動金型30Bを固定金型30Aの方向に移動させて当接させることにより金型30を閉める。
【0065】
射出工程(充填工程とも言う)は、シリンダ14内で溶融し流動状態になった成形材料をスクリュー16の前進によりノズル12を通って金型30内に射出する。これにより、溶融した成形材料が金型30のキャビティ28内に充填される。
【0066】
保圧工程は、射出工程で溶融した成形材料が金型30のキャビティ28内に充填された後も、スクリュー16によってキャビティ28内に圧力が加えられる。これにより、キャビティ28内の成形材料をキャビティ形状に形作る。
【0067】
冷却工程では、成形品が離型の際に十分な剛性を有するように成形材料を冷却固化する。
【0068】
離型工程では、型締シリンダにより可動金型30Bを固定金型30Aから離れる方向に移動させて金型30を開く。これにより、成形品が金型30から離型される。
【0069】
上記各工程の中では、保圧が完了した後は、スクリュー16は自由に動けるようになるので、図3に示すように、nサイクル目の冷却工程に、n+1サイクル目の計量工程をできるだけオーバーラップさせることで成形サイクルの効率化を図っている。
【0070】
図4は上記した計量工程における背圧の上昇速度とスクリュー16回転数との一般的な関係を示す図である。図4の右肩上がりの直線から分かるように、スクリュー16の回転数が高くなればなるほど、背圧の上昇速度が速くなる。したがって、スクリュー16の回転数を高くして成形材料に対する剪断力を上げようとすると短時間で背圧が上昇し、計量工程が終了してしまう。これにより、成形材料を混練するための時間を長く確保できない。
【0071】
逆に、スクリュー16の回転数を低くすると背圧が上昇する時間を遅くでき混練時間を長く確保できるが、スクリュー16の回転数が低いことにより成形材料に十分な混練を行うための剪断力を付与できない。
【0072】
したがって、スクリュー16の回転数や背圧設定値が基準となって計量工程の計量時間が決まってしまう従来の射出成形方法では、混練時間を長く確保することができない。また、冷却工程に要する冷却時間が計量工程の計量時間より長い場合には、図3の射出成形サイクルに示すように、計量工程から型締工程までの間に計量工程が終了した後の待ち工程が必要になる。待ち工程は、計量工程が終了し、スクリュー16が停止した状態であるので、混練が停止した状態で待つことになる。これにより、成形材料の混練時間を十分に確保できない虞があると共に、スクリュー16が停止することにより成形材料の加熱が偏在し、可塑性分布が生じ易い。
【0073】
特に、バイオマス樹脂のように、品質改善のために難燃剤や繊維等の添加物を大量に添加する必要のある成形材料では、計量工程において材料を充分攪拌、混練する必要があり、冷却工程開始から離型工程終了までの時間を混練のためにフルに活用することが重要になる。
【0074】
したがって、図4のAゾーンのように、スクリュー16の回転数が高いにも係わらず、背圧の上昇速度が遅いようにすることができれば、高い剪断力と混練時間の両方を満足することができる。
【0075】
そこで、本発明の射出成形方法では、上記したように、ホッパー26からシリンダ14内に供給する成形材料の供給速度をスクリュー16の回転数や背圧設定値に関係なく調整して、必要混練時間に応じて計量時間を制御するようにした。
【0076】
即ち、コントローラ41に成形材料の種類、成形条件等の上記諸因子が入力されると、コントローラ41は入力されている必要混練時間データから成形材料に必要な計量時間を選択する。また、コントローラ41は、計量制御フィーダ40に貯留されている1サイクル分の成形材料について、計量を開始してから終了するまでの計量時間が必要混練時間になるための供給速度を演算し、計量制御フィーダ40に設定する。これにより、計量制御フィーダ40は、1サイクル分の成形材料を、演算された供給速度に基づいて、ホッパー26を介してシリンダ14内に供給する。
【0077】
例えば、バイオマス樹脂と添加物(難燃剤+ガラス繊維)とを均一且つ十分に混練するために必要な必要混練時間が20秒であるとした場合、計量工程での計量時間が少なくとも20秒以上になるように、計量制御フィーダ40に貯留されている1サイクル分の成形材料の供給速度を制御する。この場合、計量工程開始から計量工程終了までの供給速度はできるだけ均等であることが好ましい。したがって、成形材料を計量制御フィーダ40からホッパー26に少量ずつ連続的にぱらぱら落とす少量連続供給方法(パラパラ入れ)か、計量制御フィーダ40からホッパー26に一定間隔で一定量を間欠的に落とす間欠供給方法を採用することが好ましい。
【0078】
これにより、スクリュー16の回転数を混練に適した高速で回転させ、しかもスクリュー16が回転動作している計量時間を長くとることができるので、例えば大量の粉体や繊維から構成される成形材料をシリンダ14内に直接供給しても十分な混練を行うことができる。
【0079】
また、計量時間をスクリュー16の回転数に関係なく長くとることができるので、粉体を含む成形材料をシリンダ14内に直接供給しても、成形材料の供給速度に対してスクリュー16の材料送り能力の方が断然大きいので、成形材料がホッパー26出口やシリンダ14内で詰まることもない。
【0080】
特に、成形材料のうち、粉体の比率が30重量%以上である場合には、本発明の射出成形方法を行うことにより均一混練が可能となると共に、成形材料がホッパー26出口やシリンダ14内で詰まることなく射出成形することが可能となる。
【0081】
即ち、石油系樹脂のように耐熱性が良く、添加物として粉体材料を有する場合でも射出成形の前処理として混練機によるペレット化ができるので、成形材料全てをペレット状態でシリンダ14内に投入することが可能となる。しかし、バイオマス樹脂のように耐熱性が悪く、添加物として大量の粉体材料を有する場合には、射出成形の前処理として混練機でのペレット化ができないので、大量の添加物を粉体のままシリンダ14内に直接投入することになる。
【0082】
そして、ペレット100%の成形材料をシリンダ14内に直接投入(DM法)した場合と、粉体を30重量%以上、特には50重量%以上含む成形材料をシリンダ14内に直接投入(DM法)した場合には、圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動は全く異なる。即ち、添加剤として使用される難燃剤、相溶剤、分解防止剤等の粉体材料(繊維状も含む)の殆どは溶融しない。そのため、樹脂ペレットに剪断をかけるときと同じように剪断をかけても粉体材料とシリンダ内壁面との摩擦で急激な発熱が起きて樹脂が劣化する。また粉体材料はペレットに比べて嵩が高くシリンダ内で隙間ができ易いために、シリンダ外周に設けられたヒータ24の熱が伝わりにくく。このため、圧縮ゾーンにおいてシリンダ14の内壁面近傍の成形材料のみが高温になって溶融するが、スクリュー16のシャフト側の成形材料には熱が伝わりにくく溶融しにくい。そのため、短時間の計量では、スクリュー16のシャフト側近傍の成形材料は溶融されないまま計量ゾーンを介してスクリュー先端まで送られてしまう。これにより、粉体材料を大量に含む成形材料は均一混練を行うことができず、射出成形により得られた成形品の品質(強度、難燃性、外観の色等)が低下する。事実、粉体材料を30重量%以上含む成形材料を従来の成形方法で成形し、そのときにスクリュー16をシリンダ14から抜いて観察すると、圧縮ゾーン終了位置においてシリンダ14内壁面近傍の成形材料は溶融しているが、スクリュー16のシャフト近傍の成形材料は溶融せずに粉体のまま残っている。このことを図5及び図6により詳しく説明する。
【0083】
図5は、シリンダ14内に成形材料を充満供給する従来のノーマル供給方法によって、100%ペレットの成形材料をシリンダ内に供給した場合の圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動である。圧縮ゾーン入口部分では図5(A)に示すように、未溶融の成形材料がソリッドベッド層S形成すると共に、シリンダ14の内壁面部分に成形材料が溶融したメルトフィルム層Mを形成する。このメルトフィルム層Mが形成されると、剪断エネルギーによる発熱によりソリッドベッド層Sを溶融していき、圧縮ゾーン中央部分では図5(B)に示すように未溶融の成形材料が分散するメルトプールPが形成される。そして、図5(C)に示すように圧縮ゾーン出口部分ではメルトプールP中に未溶融の成形材料が殆どなくなる。これにより均一混練を行うことができる。
【0084】
図6は、従来のノーマル供給方法によって、粉体を30重量%以上含む成形材料(残りはペレット状態)をシリンダ14内に供給した場合の圧縮ゾーンにおける成形材料の溶融挙動である。圧縮ゾーン入口部分では図6(A)に示すように、スクリュー16の搬送中に粉体とペレットとが分離され、シリンダ14側にペレット層Xが形成され、スクリュー16のシャフト側に粉体層Yが形成される。そして、シリンダ14側に近いペレット層Xから溶融され、図6(B)のようにメルトフィルム層Mを形成する。しかし、粉体層Yがある場合には、100%ペレットのように圧縮ゾーン全体にメルトプールPを形成することはなく、圧縮ゾーン全体への熱伝達が悪くなる。これにより、図6(C)のように圧縮ゾーン出口においてもスクリュー16のシャフト周囲近傍に粉体層Yが付着し、スクリュー16のシャフトに巻きついた状態で計量ゾーンに送られる。これにより、十分に均一混練されていない成形材料が計量ゾーンに達してしまうので、射出された成形品の品質が悪くなる。
【0085】
また、ベース樹脂としてバイオマス樹脂、例えばポリ乳酸を使用した場合、ポリ乳酸の融点は170℃付近であるが、分解が220℃付近から急速に始まる。このように、融点温度と分解温度が近いために、加熱溶融が非常に難しい。融点付近では流動性が非常に悪いために、できるだけ温度を上げて溶融したい。特に、ポリ乳酸のベース樹脂に上記したように溶融しにくい粉体を30重量%以上含む成形材料では、成形設定温度を200℃程度まで挙げないと加熱溶融することができない。しかし、粉体材料を大量に含む成形材料は、剪断発熱によってシリンダ14の成形設定温度よりも15〜25℃上昇し、シリンダ内部温度が220℃程度まで加熱してしまう。
【0086】
しかし、粉体を30重量%以上含む成形材料をシリンダ内に直接供給した場合であっても、スクリュー回転数や背圧設定値に関係なく計量時間を長く確保することによって、混練に必要なスクリュー回転数を確保しつつ、シリンダ14内、特に圧縮ゾーンでの成形材料密度を顕著に低くすることが可能となる。これにより、成形材料に過大な剪断がかからないので、剪断発熱によるシリンダ内部温度の温度上昇を抑制できる。また、シリンダ内の成形材料密度が低くても計量時間を長く確保することによりシリンダ14側の熱がスクリュー16のシャフト側へゆっくりと伝達されると共に、長い計量時間を確保したままスクリュー回転数を高くできるので混練効率が向上する。これにより、粉体を30重量%以上含む成形材料であっても、圧縮ゾーン全体にメルトプールPを形成し易いので、成形品の品質低下を発生させることなく均一混練を行うことができる。
【0087】
そして、成形品の品質低下を発生させることのない均一混練は、背圧を所定値に設定したときにスクリュー16の回転数は混練に適した50〜300rpmの一定回転数に設定する一方、成形材料の供給速度を、スクリュー16の回転数や背圧設定値とは関係なく、ノーマル供給方法での計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整して計量時間を確保することにより達成できる。
【0088】
この場合、シリンダ内の供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンにおいて少なくとも圧縮ゾーンの手前まで成形材料を充満させないように、成形材料を供給することが好ましい。即ち、射出成形の開始時に、少なくとも圧縮ゾーンの手前まで成形材料を充満させない状態を形成し、この状態で定量フィーダ40からノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を補給することが好ましい。これにより、射出成形の開始時の成形材料を充満させない状態を、射出成形の継続後も維持することができる。
【0089】
特に圧縮ゾーンにおいて、成形材料を充満させないことにより、シリンダ14側からスクリュー16のシャフト側への熱伝達が向上し、これによりシャフト側に形成される粉体層の溶融を促進する。
【0090】
計量時間SNの2倍秒以上180秒以下の範囲内で必要計量時間を幾つに設定するかは、成形材料の組成や射出成形装置の条件等により予め試験等により適宜決めることができる。また、計量時間SNの2倍秒以上180秒以下は、粉体を30重量%以上含む成形材料であっても問題ない範囲であり、100%ペレットの成形材料のように成形条件が厳しくないものに対しても適用できることは勿論である。
【0091】
なお、必要混練時間に応じて制御する計量時間は、冷却工程と離型工程との合計時間内で、材料の混合性を確認して任意に設定することができるが、冷却工程と離型工程との合計時間と一致させると、より高い混練性能が得られるので、好ましい。
【0092】
これにより、上記した待ち工程をなくすことができるので、計量工程中は常にスクリュー16が回転した状態を維持することができる。
【0093】
また、計量時間が前記合計時間よりも長くなる場合には、必要混練時間データの中からスクリュー16の回転数を上げた条件を選択して、計量時間を合計時間に一致させるとよい。
【0094】
図7は、必要混練時間に応じて制御する計量時間が冷却工程と離型工程との合計時間と一致する場合の計量工程のイメージを図で示したものである。このときの成形材料の供給速度が1分当たりQgであるとする。図7(A)は冷却工程の開始、図7(B)は冷却工程の終了、図7(C)は離型工程の終了を示す図である。また、スクリュー16が進退するストロークのうち、最も前進した位置(図7の左側位置)をX位置、最も後退した位置をY位置として示す。
【0095】
図7(A)の冷却工程開始と同時に、成形材料をQg/分の供給速度でシリンダ14内に供給し計量工程を開始する。このときのスクリュー16位置はスクリューの進退ストロークのうち最もノズル側のX位置にある。
【0096】
成形材料の供給につれて背圧が上昇し、その背圧によってスクリュー16回転しながら徐々に後退する。そして、図7(B)のように、冷却工程終了時点において、スクリュー16はX位置とY位置の中間よりも少しY側に寄って位置する。更に成形材料の供給が続くにつれてスクリューが後退し、図7(C)のように、離型工程終了と同時にY位置に達する。
【0097】
このように、本発明の射出成形方法では、必要混練時間に応じて計量時間を制御することができるので、混練に長い時間を要する成形材料であっても、均一且つ十分に混練を行うことができる。したがって、本発明はバイオマス樹脂の直接供給法による射出成形の成形方法として特に有効である。
【0098】
次に、本発明に使用する成形材料等の好ましい条件について説明する。
【0099】
本発明は、石油系樹脂にも適用可能であるが、ポリ乳酸樹脂やセルロース系樹脂のバイオマス樹脂に適用することが好ましい。
【0100】
ポリ乳酸系樹脂は、各種のものが利用可能であり、例えば、乳酸単独重合体樹脂、乳酸共重合体樹脂が挙げられる。また、ポリ乳酸系樹脂の原料である乳酸成分も特に限定されず、例えばL−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸またはこれらの混合物、または乳酸環状2量体であるL−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド、またはこれらの混合物を使用できる。
【0101】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の製造方法も特に限定されず、従来公知の方法で合成した樹脂が、各種、利用可能である。乳酸単独重合体樹脂は、例えば、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸等または、これらの混合物を直接脱水縮合するか、またはL−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド、または、これらの混合物等の開環重合によって得ることができる。また、乳酸共重合体樹脂は、例えば、乳酸モノマーまたはラクチドと、前記モノマーと共重合可能な他の成分とを共重合して得ることができる。共重合可能な他の成分としては、例えば、分子内に2個以上のエステル結合形成性の官能基をもつジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、および、これらの種々の構成成分よりなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0102】
また、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量も、特に限定はないが、50,000〜500,000が好ましく、より好ましくは100,000〜250,000である。
【0103】
重量平均分子量が50,000以上であると、得られる本発明の成形品の強度がより高まるので好ましい。重量平均分子量が500,000以下であると射出成形に供する成形材料が均一になり易く、それによって得られる成形品の強度が、より高まる傾向があるので好ましい。
【0104】
セルロース系樹脂は特に限定されないが、ジアセチルセルロース(DAC)やトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を好ましく使用できる。セルロース系樹脂メーカーから供給されているセルロース系樹脂の粒径は、一般的に1〜30mmの範囲で不揃いな粒状体としてユーザに供給される。
【0105】
本発明において、射出成形装置に供給される成形材料のベース樹脂であるバイオマス樹脂の含有量は、30質量%以上含有するのが好ましく50質量%以上含有するのが更に好ましい。このような構成とすることにより、成形した繊維含有射出成形品に優れた環境性能を付与することができる。
【0106】
本発明において添加物として用いられる難燃剤(難燃化剤)には特に限定はなく、樹脂(成形品)を難燃化するために用いられる公知の難燃剤が、各種利用可能である。一例として、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との混練時や成型加工時に機器や金型の腐食が少なく、成形品を焼却廃棄する際に、環境に悪影響を与える可能性が少なく、難燃効果の大きいリン含有難燃剤が好ましい。
【0107】
リン含有難燃剤としては特に限定はなく、公知のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が例示さされる。具体的には、リン酸エステルとしては、一例として、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が例示される。
【0108】
また、リン酸縮合エステルとしては、一例として、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等が例示される。
【0109】
更に、リン酸、ポリリン酸と周期律表IA族〜IVB族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。
【0110】
ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0111】
また、本発明においては、これらのリン含有難燃剤やケイ素含有難燃剤以外に、他の難燃剤を、必要に応じて用いてもよい。例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物酸、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛などの無機系難燃剤を用いることができる。
【0112】
本発明の射出成形方法において添加物として用いられる繊維は、3〜10mmの長さのペレット状に接着または包埋されて成形されたものであるのが好ましい。また、接着または包埋に用いる樹脂は、バイオマス樹脂を含むのが好ましい。繊維は合成繊維、無機いずれの繊維も使用することが出来る。中でも合成繊維ではポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、等の繊維が安定した品質が得られ、機能を充分発揮する点で好ましく中でも、ポリエステル繊維がより好ましい。
【0113】
成形品を強化するための繊維として、熱溶融性合成繊維を用いると、成形品に着火した際に、繊維が溶融により収縮して成形品表面に突出せず、炭化層の均一な生成を妨げないなどの点で好ましい。
【0114】
ポリエステル樹脂は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、ポリエステル樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPT(ポリペンタメチレンテレフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)等のみならず、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0115】
ジカルボン酸成分には、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられ、中でも、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0116】
芳香族ジカルボン酸としては、一例として、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が例示される。
【0117】
中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0118】
脂肪族ジカルボン酸としては、一例として、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸等が例示される。脂環族ジカルボン酸としては、一例として、シクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。このような脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸の中では、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0119】
オキシカルボン酸としては、一例として、p−オキシ安息香酸等が例示される。
【0120】
さらに、多官能酸としては、一例として、トリメリット酸、ピロメリット酸等が例示される。
【0121】
他方、ジオール成分にも、特に限定はなく、目的に応じて、適宜、選択することができる。一例として、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ボリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0122】
脂肪族ジオールとしては、一例として、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール等が例示され、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0123】
脂環族ジオールとしては、一例として、シクロヘキサンジメタノール等が例示される。さらに、芳香族ジオールとしては、一例として、ビスフェノールA、ビスフェノールS等が例示される。
【0124】
本発明に用いるポリエステル繊維の重合度は、特に限定は無いが、固有粘度0.50dL/g以上が好ましく、優れた力学特性を発現させる場合には0.70dL/g以上がより好ましい。なお、固有粘度の上限は3.00dL/g程度である。
【0125】
また、本発明で繊維として用いるポリエステル樹脂は、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60dL/g、特に0,52〜1.35dL/gの範囲にあるものが好ましい。このような固有粘度を有するポリエステル樹脂を用いることにより、機械的特性、成形性の点で、好ましい。
【0126】
本発明において、この様な繊維は、引っ張り強さが2cN/dtex以上、であることが好ましく、5cN/dtex以上であることがより好ましい。
【0127】
このような繊維を用いることにより、得られる繊維含有射出成形品の強度を向上することができ、特に、混合物中にバイオ樹脂を40重要%以上含有した場合でも、JISK7110に準ずるシャルピー試験において、当該混合物の成形品が4KJ/m2以上の衝撃強度を保てる点で、好ましい。
【0128】
また、本発明において用いる繊維の断面形状には、特に限定は無い。一例として、円状
であってもよく、この場合には、繊維の製造コストが低くなり、加えて樹脂組成物中での分散性が高まるので好ましい。あるいは、星状、多角形、不定形、凹凸のある形状などの異型断面や異型断面複合断面であってもよい。この場合、混合物において、樹脂との接触面積が多くなり密着性が高まり、本発明の繊維含有射出成形品の強度が高まる傾向があるので好ましい。なお、断面形状が円状ではない繊維の場合は、一例として、面積円相当径(Heywood径)を意味するものとする。
【0129】
なお、本発明において、繊維の太さには、特に限定はなく、繊維によって強化した樹脂成形品において用いられるものを用いればよく、例えば、射出成形品の用途、使用する射出成形装置、樹脂ペレットのサイズ等に応じて、適切な太さを、適宜、選択すればよい。
【0130】
また、本発明において、射出成形装置に供給される材料は、核剤を含んでいても良い。核剤を含むことにより、成形性、耐熱性、製品強度を向上することができる。使用する核剤には、特に限定はなく、樹脂(ポリマー)の核剤として配合される公知のものを用いることができる。核剤は、無機系核剤でも有機系核剤でも良い。
【0131】
無機系核剤としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などが挙げられる。
【0132】
他方、有機系核剤として、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられる。
【0133】
これらの無機系核剤および有機系核剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用して用いてもよい。無機系と有機系を混合して用いてもよい。
【0134】
本発明の射出成形方法に用いる成形材料として核剤を含有させる場合、その含有量は、ポリ乳酸樹脂等の樹脂100質量部に対して、0.005〜5質量部の割合が好ましく、0.1〜1質量部の割合が更に好ましい。
【0135】
また、本発明の射出成形方法に用いられる成形材料は可塑剤を含有してもよい。
【0136】
使用する可塑剤には、特に限定は無く、樹脂の成形に一般的に用いられる可塑剤が、各種利用可能であり、例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ボリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が例示される。
【0137】
ポリエステル系可塑剤としては、一例として、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸・イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が例示される。
【0138】
これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0139】
グリセリン系可塑剤としては、一例として、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネート等が例示される。ことができる。
【0140】
多価カルボン酸系可塑剤としては、一例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジへブチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリへキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチルーn一デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジー2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジー2−エチルヘキシル等が例示される。
【0141】
ポリアルキレングリコール系可塑剤としては、一例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのボリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物等が例示される。
【0142】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0143】
また、可塑剤としては、これ以外にも、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルプチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等も、例示される。
【0144】
本発明の射出成形方法で使用する成形材料に可塑剤を含有させる場合、その含有量は、ポリ乳酸等の樹脂100質量部に対して、1〜30質量部の割合が好ましく、5〜10質量部が更に好ましい。成形材料が上記好ましい範囲の含有率で可塑剤を含むと、本発明の成形品の製造時において、成形温度を10℃程度低減することができる。
【0145】
本発明の射出成形方法に用いられる成形材料においては、核剤及び可塑剤以外にも、必要に応じて、界面活性剤、エラストマー、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、中和剤、顔料等の着色剤、分散剤、ロジン、合成ゴム類、無機質添加剤、抗菌剤、香料、離型剤、加水分解防止剤などの成分を含んでもよい。
【0146】
本発明で用いられる成形材料において、樹脂、難燃剤、および繊維以外の成分は、合計で20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0147】
以上、本発明の射出成形方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんのことである。
【実施例】
【0148】
[試験A]
次に、試験Aにより本発明の射出成形方法の具体的な実施例を説明する。
【0149】
[成形材料]
・ポリ乳酸樹脂(ペレット状)…三井化学製 LACEA H100 100重量部
・相溶化剤(粉状)…伏見製薬所製 ラビトルFP110 20重量部
・分解防止剤(粉状)…日清紡製 カルボジライトLA1 5重量部
・難燃剤(粉状)…ADEKA アデカスタブFP2100 35重量部
・ガラス繊維…オーウェンスコーニンク゛FT592 15重量部
(繊維をペレット様に固めたもの)
〈合 計〉 175重量部
なお、ポリ乳酸樹脂は予め熱風乾燥機で80℃−5時間乾燥したものを使用した。また、難燃剤は予め減圧乾燥機で80℃−5時間減圧乾燥したものを使用した。上記成形材料のうち粉体比率は34重量%である。
【0150】
[射出成形装置]
試験に供した射出成形装置は、FANUC社製のα50−Aを用い、この射出成形装置にシャルピー試験片と、UL試験片(厚み1.6mm)が同時に射出成形できる金型をセットした。射出成形装置のヒータ温度は、ノズル側から195℃―195℃―190℃―180℃―30℃に設定した。また、1ショットの射出量は25gになるようにした。
【0151】
そして以下に示す実施例1〜6及び比較例1〜7の射出成形条件で行って成形した試験片について「シャルピー衝撃」、「燃焼性」「分散性」の3項目について評価した。
各評価の試験方法は次の通りである。
【0152】
(シャルピー衝撃試験)
シャルピー衝撃試験片をJISK−7111に準じて、長さ80mm±2mm、幅10mm±0.2mm、厚さ4mm±0.2mmとし、ノッチ加工(ノッチ半径0.25mm±0.05mm、ノッチ部の幅8.0mm±0.2mm)を行った。ノッチ付き試験片の質量は4.2gであった。試験装置はTOYOSEIKI社製のIMPACTTESTER(アナログ式)を用いた。そして、上記の実施例及び比較例で得られた試験片をJISK−7111に準じてシャルピー衝撃試験に供し、5(KJ/m2)以上を合格とした。
【0153】
(燃焼性試験:UL94−V)
テストピースは、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの射出成形テストピースを用いた。UL94−Vはプラスチック部品などの燃焼性試験のうちでも最も基本的なもので、規定された寸法の試験片にガスバーナーの炎を当てて試験片の燃焼の程度を調べる。その等級は、難燃性が高い方から順に5VA,5VB,V−0,V−1,V−2,そしてHBがあり、V−1以上(5VA〜V−1)の難燃性を合格とした。
【0154】
(分散性試験)
テストピースはUL94に準じて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの射出成形テストピースを用いた。このテストピースを、照度3800Lx〜4200Lxのライトテーブル(白色光)上に置き、テストピースを透過する透過光によって分散性の良し悪しを目視にて観察した。そして、次の◎〜××の5段階評価を行った。
【0155】
◎…テストピース中に凝集体が見られず、色味も均一状態である。
【0156】
○…テストピース中に凝集体が見られないが、色味にムラが観察される。
【0157】
△…テストピース中に長さ0.5mm以上の微小な凝集体が僅かに観察される。
【0158】
×…テストピース中に長さ0.5mm以上の凝集体が5個以上観察される。
【0159】
××…テストピース中に長さ1mm以上の凝集体が10個以上観察される。
【0160】
(判定)
上記した3つの評価項目が全て合格の場合に、判定において合格であると評価し、1つでも不合格がある場合は判定において不合格であると評価した。
【0161】
[試験Aにおける実施例及び比較例の射出成形条件及び結果]
実施例の射出成形条件及び結果を図8(A)に示し、比較例の射出成形条件及び結果を図8(B)に示した。
【0162】
(実施例1)
実施例1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が20秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を20秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が7.1(KJ/m2)、難燃性がV−0、分散性が◎であり、判定が合格であった。図9(A)は実施例1における射出成形装置のスクリューシャフトの写真であり、白く見える部分がシャフトに付着している粉体材料である。図9(A)から分かるように、圧縮ゾーンにおいて粉体材料のシャフトへの付着は殆ど見られず、成形材料の均一混練が十分になされていることが分かる。
【0163】
ちなみに、後記する比較例1が背圧設定値30kg/cm2及びスクリュー回転数200rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは4秒であった。
【0164】
(実施例2)
実施例2では、背圧を150kg/cm2に上げた以外は実施例1と同様に射出成形を行った。即ち、実施例2は、スクリュー回転数及び計量時間が実施例1と同じで背圧を大きく設定したときの本発明への影響を調べたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.9(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。また、背圧設定値を30kg/cm2から150kg/cm2に大きくしても、スクリュー回転数と計量時間を本発明の条件に設定すれば、成形品の品質に殆ど影響ないことが分かった。このことから、背圧は所定値に設定することができる。ちなみに、後記する比較例2が設定値150kg/cm2及びスクリュー回転数200rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは7秒であった。
【0165】
(実施例3)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を50rpmに設定し、計量時間が40秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例3は、スクリュー回転数が遅くなったことによる混練性能の低下を、計量時間を40秒に長くすることで補うようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0166】
(実施例4)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が8秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例4は、背圧設定値及びスクリュー回転数を実施例1と同様とし、計量時間を本発明の下限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.0(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり、判定が合格であった。
【0167】
(実施例5)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量時間が180秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例5は、背圧設定値及びスクリュー回転数を実施例1と同様とし、計量時間を本発明の上限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.1(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、計量時間が長いためにシャルピー衝撃試験結果が合格ライン近傍であった。これは、計量時間が長いためにポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0168】
(実施例6)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を300rpmに設定し、計量時間が20秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。その他の条件は実施例1と同様である。即ち、実施例6は、背圧設定値と計量時間を実施例1と同様とし、スクリュー回転数を本発明の上限になるようにしたものである。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり判定が合格であったが、スクリュー回転数が高かったため、シャルピー衝撃試験結果が合格ライン近傍であった。これは、スクリュー回転数が高いことによって剪断発熱が大きく発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0169】
(比較例1)
背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ4秒であった。即ち、比較例1は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が4秒になったものである。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.7(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0170】
図9(B)は比較例1における射出成形装置のスクリューシャフトの写真であり、白く見える部分がシャフトに付着している粉体材料である。図9(B)から分かるように、圧縮ゾーンにおいて粉体材料のシャフトへの付着が多く見られ、成形材料の均一混練が不十分であることが分かる。
【0171】
(比較例2)
背圧を150kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ7秒であった。即ち、比較例2は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が7秒になったものである。この場合、背圧の設定を比較例1の30kg/cm2から150kg/cm2に大きくしたことによって、ノーマル供給方法での計量時間が比較例1の4秒から7秒に長くなった。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.1(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が××であり、判定が不合格であった。
【0172】
(比較例3)
実施例1と同様に背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が50mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に供給されるようにした。その結果、シリンダの投入口で成形材料がブロッキングして詰まり、安定した成形品のサンプルを採ることができなかったため、途中で試験を中止した。このように、成形材料に大量の粉体を含む場合には、何かのきっかけで目詰まりが発生してしまう。
【0173】
(比較例4)
比較例4は、特許文献1のハングリーフィードに準じて試験したものである。即ち、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、シリンダの投入口を見ながら、スクリューが1/4〜3/4隠れるように成形材料を供給した。このときの計量時間を測定したところ、比較例1のノーマル供給方法での計量時間4秒と同じであった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)で合格であったものの、難燃性がV−2、分散性が×と不合格であり、判定が不合格であった。
【0174】
(比較例5)
比較例5は特許文献2に準じて試験したものである。即ち、背圧を30kg/cm2、スクリューの回転数を200rpmに設定し、東洋精機製作所の定量フィーダF3を手動でON−OFF操作して、特許文献2の供給方法により成形材料をシリンダ内に供給した。このときの計量時間を測定したところ、5秒であった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が5.2(KJ/m2)合格であったものの、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0175】
(比較例6)
比較例6では、計量時間が200秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給しする以外は実施例1と同様に行った。即ち、比較例6は、背圧設定値及びスクリュー回転数は本発明を満足するが計量時間が本発明の上限を超えて長くなるようにしたものである。その結果、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、計量時間が長過ぎたためにシャルピー衝撃試験結果が合格ライン以下の4.5(KJ/m2)になった。これは、計量時間が長過ぎるためにポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こったことによると考察される。
【0176】
(比較例7)
比較例7では、スクリューの回転数を350rpmに設定した以外は実施例1と同様に行った。即ち、比較例7は、背圧設定値及び計量時間は本発明を満足するがスクリュー回転数が本発明の上限を超えて大きくなるようにしたものである。その結果、難燃性がV−1、分散性が◎であり判定が合格であったが、スクリュー回転数が高かったため、シャルピー衝撃試験結果が合格ライン以下の4.2(KJ/m2)になった。これは、スクリュー回転数が高過ぎたことによって剪断発熱が過度に発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こったことによると考察される。
【0177】
[試験Aの結果と考察]
上記実施例1と比較例1との対比、及び実施例2と比較例2との対比から分かるように、スクリュー回転数や背圧設定値に関係なく、計量時間が制御されるように成形材料の供給速度を調整する本発明の射出成形方法を行うことにより、シャルピー衝撃試験、難燃性、分散性の全ての点で良い結果を得ることができる。
【0178】
また、本発明の射出成形方法に一見近いと思われる比較例4及び5についても、比較例1〜3に比べてシャルピー衝撃試験が改良されているものの、難燃性、分散性の点で実施例1〜3よりも劣っており、満足のいく結果が得られなかった。
【0179】
また、スクリューの回転数が300rpmを超えたり、計量時間が180秒を超えると、均一混練は達成できてもポリ乳酸樹脂の低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が悪くなることが分かった。したがって、スクリューの回転数を50rpm(十分な混練を行うことのできる最低回転数)以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定し、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、ノーマル供給における計量時間SNの2倍秒以上180秒以下に制御することが必要になる。
【0180】
なお、本実施例では、ベース樹脂として耐熱性の悪いポリ乳酸樹脂(PLA)を使用したが、ポリ乳酸樹脂よりも耐熱性の良いベース樹脂にも本発明を適用できることは勿論である。
【0181】
[試験B]
試験Bは、試験Aとは成形材料及び射出成形装置を変えて行った。
【0182】
[成形材料]
・ポリ乳酸樹脂(粒状)…ネーチャーワークス製 4032D 100重量部
・難然剤(粉状)…ADEKA アデカスタブFP2200 40重量部
・相溶剤(粉状)…伏見製薬所製 ラビトルFP110 20重量部
・分解防止剤(粉状)…三菱レイヨン製 メタブレンW600A 5重量部
・PTFEドリップ防止剤(粉状)…ダイキン工業製 FA500H 0.5重量部
・加水分解防止剤(粉状)…ラインケミー製 スタハ゛クソ゛ール1FL 3重量部
・フィラー(微粉末)…日本タルク工業製 P3 8重量部
〈合 計〉 176.5重量部
なお、ポリ乳酸樹脂は予め熱風乾燥機で80℃−5時間乾燥したものを使用した。また、難然剤は予め減圧乾燥機で80℃−5時間減圧乾燥したものを使用した。上記成形材料のうち粉体比率は43重量%である。
【0183】
[射出成形装置]
試験に供した射出成形装置は、住友重機械工業社製のSG150U−3を用い、この射出成形装置にシャルピー試験片と、UL試験片(厚み1.6mm)が同時に射出成形できる金型をセットした。射出成形装置のヒータ温度は、ノズル側から195℃―195℃―190℃―180℃―30℃に設定した。また、1ショットの射出量は120gになるようにした。
【0184】
そして、試験Aと同様に本発明を満足する場合、満足しない場合について実施し、シャルピー衝撃試験、難燃性試験、分散性試験の3項目について評価した。3項目の試験方法及び評価基準は試験Aと同様である。
【0185】
[試験Bにおける実施例及び比較例の射出成形条件及び結果]
実施例の射出成形条件及び結果を図10(A)に示し、比較例の射出成形条件及び結果を図10(B)に示した。
【0186】
(実施例1−1)
実施例1−1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量時間が40秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例1−1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を40秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が6.4(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0187】
ちなみに、後記する比較例1が背圧設定値5kg/cm2及びスクリュー回転数150rpmにおけるノーマル供給での計量時間SNであり、計量時間SNは3秒であった。
【0188】
(実施例2−1)
実施例2−1では、射出成形装置に小型の計量フィーダを取り付け、上記組成の成形材料をビニール袋に入れて良く振り混ぜて均一混合したものを、計量フィーダに入れた。そして、背圧を25kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量時間が60秒になる供給速度で成形材料をシリンダ内に供給した。即ち、実施例2−1は、シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、スクリューの回転数や背圧設定値とは無関係に調整することにより、計量工程の計量時間を60秒に制御した場合である。その結果、ペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が6.8(KJ/m2)、難燃性がV−0、分散性が◎であり、判定が合格であった。
【0189】
(実施例3−1)
実施例3−1では、スクリュー回転数を本発明の下限である50rpmに設定した以外は実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.1(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。これにより、スクリュー回転数を本発明の下限である50rpmに設定したが、ペレット状の材料と粉体状の材料とが十分に均一混練されていることが分かる。
【0190】
(実施例4−1)
実施例4−1では、スクリュー回転数を本発明の上限である300rpmに設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.5(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。スクリュー回転数を本発明の上限である300rpmに設定したことによって、剪断発熱が発生し、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が多少悪くなったものと考察される。
【0191】
(実施例5−1)
実施例5−1では、計量時間を本発明の上限である180秒に設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。その結果、シャルピー衝撃試験結果が5.4(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が◎であり、判定が合格であった。計量時間を本発明の上限である180秒と長くしたため、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が起こり、シャルピー衝撃試験結果が多少悪くなったものと考察される。
【0192】
(実施例6−1)
実施例6−1では、計量時間を本発明の下限であるノーマル供給での計量時間SNの2倍である6秒に設定した以外は、実施例1−1と同様に行った。ちなみに、比較例1−1がノーマル供給での計量時間であり、3秒となる。その結果、シャルピー衝撃試験結果が6.0(KJ/m2)、難燃性がV−1、分散性が○であり、判定が合格であった。計量時間を本発明の下限である6秒と短かったが、シャルピー衝撃試験、難燃性、分散性ともの合格となる程度の均一混練を達成することができた。
【0193】
(比較例1−1)
背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、計量フィーダを使用せずに、上記組成の成形材料を容量が250mLのミニホッパーに入れて、成形材料の自重でシリンダ内に充満供給させるノーマル供給方法で行った。このときの計量時間を測定したところ3秒であった。即ち、比較例1−1は、スクリューの回転数即ち成形材料の材料送り能力に連動して成形材料がシリンダ内に供給されることで、計量時間が3秒になったものである。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.3(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0194】
(比較例2−1)
比較例2−1では、計量時間を200秒とした以外は、実施例1−1と同様に行った。即ち、比較例2−1は計量時間が本発明の上限を超えて長い場合である。その結果、分散性は◎で合格であったものの、シャルピー衝撃試験結果が3.2(KJ/m2)、難燃性がV−2であり、判定が不合格であった。これは、計量時間を200秒と長過ぎたために、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こり、シャルピー衝撃試験結果が不合格になったものと考察される。
【0195】
(比較例3−1)
比較例3−1では、スクリュー回転数を350rpmとした以外は、実施例1−1と同様に行った。即ち、比較例3−1はスクリュー回転数が本発明の上限を超えて高い場合である。その結果、分散性は◎で合格であったものの、シャルピー衝撃試験結果が3.5(KJ/m2)、難燃性がV−2であり、判定が不合格であった。これは、スクリュー回転数が高過ぎるために、ポリ乳酸樹脂の分解による低分子化が過度に起こり、シャルピー衝撃試験結果が不合格になったものと考察される。
【0196】
(比較例4−1)
比較例4−1は、特許文献1のハングリーフィードに準じて試験したものである。即ち、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、シリンダの投入口を見ながら、スクリューが1/4〜3/4隠れるように成形材料を供給した。このときの計量時間を測定したところ、比較例1−1のノーマル供給方法での計量時間3秒と同じであった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.5(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0197】
(比較例5−1)
比較例5−1は特許文献2に準じて試験したものである。即ち、背圧を5kg/cm2、スクリューの回転数を150rpmに設定し、東洋精機製作所の定量フィーダF3を手動でON−OFF操作して、特許文献2の供給方法により成形材料をシリンダ内に供給した。このときの計量時間を測定したところ、4秒であった。その結果、計量時間が短過ぎてペレット状の材料と粉体状の材料との均一混練が不十分であったことにより、シャルピー衝撃試験結果が4.3(KJ/m2)、難燃性がV−2、分散性が×であり、判定が不合格であった。
【0198】
[試験結果の考察]
試験Bの結果も試験Aと同様の傾向であり、成形材料及び射出成形装置の違いは本発明に影響ないことが分かった。
【0199】
試験A及びBの結果から、本発明の射出成形方法のように、スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲で高速回転を行いつつ、計量時間をスクリューの回転数及び背圧設定値とは無関係に制御して、SN(ノーマル供給の計量時間)の2倍秒以上180秒以下の計量時間とすることより、粉体を大量に含む成形材料をホッパーからシリンダ内に直接投入しても、均一混練を行うことができることが証明された。
【0200】
なお、比較例として行ったハングリーフィードの計量時間がノーマル供給での計量時間と差がなく、本発明における「パラパラ供給」に比べて短い計量時間であった。
【0201】
この点について、図11(A)〜図11(E)を使用して、「ノーマル供給」、「ハングリーフィード」、及び本発明における「パラパラ供給」の違いを説明する。
【0202】
図11(A)〜図11(E)では、成形材料として樹脂ペレットの例で説明し、ペレットをAで示し、ペレットが溶融した溶融樹脂をA1で示す。
【0203】
(計量工程)
一般的に射出成形において計量工程で行う可塑化とは、シリンダ14内のペレットAをスクリュー16で前方に搬送しながら、シリンダ14外部のヒータ24からの伝熱と、ペレットA同士の摩擦熱(剪断エネルギー)により、均一に溶融し、予め設定された一定量の溶融樹脂A1をシリンダ14先端に貯蔵することを言う。
【0204】
即ち、スクリュー16が回転することによってシリンダ14先端に溶融樹脂A1が貯蔵され始めると、溶融樹脂A1が先端より漏れることがなければ、スクリュー16の回転によって順次送り込まれてくるペレットA自身の圧力でスクリュー16は後退して行く。この場合、スクリュー16の回転が速いほど(回転数が大きいほど)送り込まれるペレットAの量が増え、スクリュー16が後退する速度が増すことになる。
【0205】
これにより、予め設定された一定量のストローク位置(計量設定位置)に、スクリュー回転の停止信号を与えてやれば、その位置でスクリュー16の後退は停止する。これが計量工程である。
【0206】
したがって、同じ材料、同じ条件であれば、スクリュー16の回転速度が一定なら、予め設定された一定量のストローク位置に到達するまでの時間、すなわち計量が完了するのに要する時間は略一定になる。
【0207】
また、スクリュー16の回転速度が速くなれば、ペレットAの送り量が増えるため、同じストローク位置に到達するまでの時間、即ち計量が完了するまでの時間は短くなる。
【0208】
上記説明を踏まえて、「ノーマル供給」、「ハングリーフィード」、及び本発明の「パラパラ入れ」との違いを比較する。
【0209】
(ノーマル供給)
先ず初めに、射出成形装置に取り付けたホッパー26内にペレットAを積み上げる『ノーマル供給』について説明する。ホッパー26へのペレットAの供給は、定量フィーダ40(定量供給装置)を用いてその供給量を任意に調整できるものとする。射出成形を開始する前に、ペレットAをホッパー26に満タンに供給しておく。この時のスクリュー16のネジ溝内やホッパー26内のペレットAの概略状態を図11(A)に示す(バルブ等は省略した概念図)。
【0210】
図11(A)から分かるように、スクリュー16のネジ溝内には、常にペレットAや成形材料が溶融した溶融樹脂A1で満たされており、スクリュー16によってペレットAを前方に送り出す力は常に発生しており、短時間で計量が完了する。これにより、ホッパー26内に貯留されるペレットAのレベルは、ペレットAの消費によって徐々に低下する。
【0211】
そして、ペレットAのレベルがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)まで減った時に、射出成形サイクルで消費されるペレットAの量よりも速い供給速度で、ペレットAをホッパー26に供給して再び満タン状態とする。このように、ノーマル供給は、図11(A)のH位置を基準として、ホッパー26におけるペレットAの消費と満タンとを繰り返す。
【0212】
(ハングリーフィード)
次に『ハングリーフィード』について説明する。
【0213】
前述の『ノーマル供給』状態で射出成形を継続している状態から、ペレットAが徐々に消費される。そして、ペレットAがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)に来た状態でペレットAを補充し、ホッパー26内の貯留レベルを再度上昇させると『ノーマル供給』になる。
【0214】
しかし、ハングリーフィードの場合には、ペレットAがホッパー26の下端(図11(A)のH位置)に来てもペレットAをホッパー26に補充せずにしばらく射出成形を継続する。するとペレットAのレベルはホッパー26の下端よりも更に低下し、投入口25の下(図11(A)のL位置)に達する。この状態で、定量フィーダ40により、ペレットAの平均消費量に等しい量のペレットAをホッパー26に供給する。即ち、ペレットAの平均消費量と、ペレットAの平均供給量が等しくなるようにする。したがって、シリンダ14内のペレットAの後端位置は、ペレットAの間欠的な消費に応じて図11(B)に示す位置にくる。これにより、投入口25の様子をホッパー26側から観察すると、ペレットAが見え隠れしている。換言すると、スクリュー16が見え隠れする。これがハングリーフィードの状態である。
【0215】
したがって、ハングリーフィードは、ホッパー26内及び投入口25下までの投入経路においてペレットAが存在しないことはあるが、ホッパー26にペレットAが供給された時点で、シリンダ14内のペレットAの後端位置と連続した状態になる。即ち、スクリュー16先端に貯蔵される溶融樹脂A1は、連続性が途切れることなく、スクリューのネジ溝内にあるペレットAにより常に必要量の供給がなされることになる。換言すると、スクリュー16の後退に必要な充分な量のペレットAが供給可能な状態が『ノーマル供給』と同様に維持されるのである。
【0216】
『ノーマル供給』と違うところは、上記したようにスクリュー16からホッパー26への空隙部分が多くなるため、ハングリーフィードが課題とする水分や分解ガスが投入口25から外部へ容易に抜けることが可能になっている点である。
【0217】
(パラパラ入れ)
それでは本発明における『パラパラ入れ』とはどのようなものかを説明する。
【0218】
先ず、上記したハングリーフィードにおける図11(B)の状態を考えると、「パラパラ入れ」は、この状態でペレットAの供給を一旦停止する。するとスクリュー16のネジ溝内にあるペレットAや溶融樹脂A1は、射出成形によって更に消費されて、図11(C)や図11(D)のような状態になり、スクリュー16が回転しても樹脂ペレットや溶融樹脂が前方に送られ難く状態が形成される。即ち、供給ゾーン、あるいは供給ゾーンから圧縮ゾーンにかけてペレットAが充満されない状態が形成される。実際に、図11(C)において、ホッパー26を外して投入口25からシリンダ14内部の成形材料の疎密状態を観察したが、疎の状態であり、充満している様子はなかった。
【0219】
ペレットAや溶融樹脂A1は、スクリュー16のネジ溝内にたくさん入っている方がネジ溝の力で前方に送り易くなる。しかし、『パラパラ入れ』の場合には、そのネジ溝に存在する成形材料が極端に少なくなってしまうため、スクリュー16が回転してもペレットAや溶融樹脂A1が前方に送られ難くなる。図11(E)の状態になれば当然のことながら、成形材料はもはや前に送られることはないため、もはや背圧を立てることができず、スクリュー16が後退することができない。したがって、少なくともスクリュー16のネジ溝内に、あるレベルまで成形材料が充満していることが必要である。そうなると、スクリュー16は一定のストローク位置まで後退するまでは回転を止めないため、スクリュー16が回転してネジ溝内のペレットAや溶融樹脂A1を混練しながら、ペレットAの補給を待つという状態になる。即ち、『パラパラ入れ』の場合には、射出成形の開始時において、スクリュー16が回転してもペレットAや溶融樹脂A1が前方に送られ難い状態、即ち供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの少なくとも供給ゾーンにおいてペレットAを充満させない図11(C)や図11(D)のような状態を作り出す。そして、この状態で定量フィーダ40から『ノーマル供給』時のペレットAの平均消費量よりも少なくなる供給速度でペレットAをホッパー26に補給する。これにより、スクリュー16のネジ溝内にペレットAや溶融樹脂A1が充填されて次第にスクリュー先端の背圧が上がってくるので、スクリュー16がゆっくりと後退する。このように、『パラパラ入れ』は、スクリュー16は回転していても、ペレットAの補給を待つ状態が続くので、計量時間を長くとることができるのである。
【0220】
ペレットAがどの位置まで充填されれば、スクリュー16が後退できるようになるのかは、射出成形条件、特に背圧や、スクリュー形状、成形材料の性状によって異なるが、図11(C)から図11(D)を経て図11(E)になるまでのいずれかの状態で、本発明を達成することができる。少なくとも供給ゾーンにおけるペレットAの量が相当減ることが必要で、それによって圧縮ゾーンでのペレットAや溶融樹脂A1の押し込まれ具合が変わってくる。これにより、圧縮ゾーンでの過度の剪断を減少でき、実質温度が制御温度を大きく越えてペレットAを劣化させることがない。また、成形材料としてペレットと粉体とを有する場合にも、樹脂粘度の急激な低下によって、粉体の混練分散性が低下させたりすることを抑制できる。
【符号の説明】
【0221】
10…射出成形装置、12…ノズル、14…シリンダ、16…スクリュー、17…背圧センサー、18…油圧モータ、20…射出シリンダ、22…モータ・シリンダセット、24…ヒータ、26…ホッパー、28…キャビティ、30…金型、32…ゲート、34…材料供給装置、36…混合機、38…粉粒体定量供給機、40…計量フィーダ、42…シューター、44…センサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて前記スクリューが計量設定位置まで後退した後に前記スクリューの回転を停止する計量工程を備えた射出成形方法において、
前記計量工程では、前記スクリューに加える背圧を所定値に設定して前記スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、
前記計量工程では、前記スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて前記成形材料を投入口から自重で前記シリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、前記シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、前記SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、
これにより前記計量時間を前記スクリューの回転数及び前記背圧設定値とは無関係に制御することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記シリンダ内を、前記成形材料の投入口から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分したときに、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
射出成形の開始時に、前記少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させない状態を形成し、この状態で定量供給装置から前記ノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を前記シリンダ内に補給することを特徴とする請求項2の射出成形方法。
【請求項4】
前記計量時間を前記成形材料の必要混練時間に応じて制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1の射出成形方法。
【請求項5】
射出成形サイクルは、前記成形材料の計量工程、金型の型締工程、シリンダから金型への溶融樹脂の射出工程、金型内部の圧力を保圧する保圧工程、金型を冷却する冷却工程、金型を離型して成形品を取り出す離型工程とで構成されると共に、前記計量時間を、前記射出成形サイクルのうちの冷却工程開始から離型工程終了までの時間に応じて制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1の射出成形方法。
【請求項6】
前記成形材料はベース樹脂と添加物とで構成され、前記ベース樹脂及び前記添加物のうちの少なくとも1つが粉体であって、該成形材料をペレット化することなく前記シリンダ内に直接供給することを特徴とする請求項1〜5の何れか1の射出成形方法。
【請求項7】
前記成形材料のうち、前記粉体の比率が30重量%以上であることを特徴とする請求項6の射出成形方法。
【請求項8】
前記ベース樹脂がポリ乳酸樹脂、セルロース系樹脂の少なくとも1つであると共に、前記添加物が難燃剤、繊維の少なくとも1つであることを特徴とする請求項6又は7の射出成形方法。
【請求項9】
前記成形材料を前記シリンダ内に少量連続供給することにより、前記供給速度を調整することを特徴とする請求項1〜8の何れか1に記載の射出成形方法。
【請求項10】
前記成形材料を前記シリンダ内に間欠供給することにより、前記供給速度を調整することを特徴とする請求項1〜8の何れか1に記載の射出成形方法。
【請求項1】
射出成形装置のシリンダ内に供給された成形材料をスクリューの回転によりシリンダ先端部に貯蔵すると共に、貯蔵される成形材料自身の圧力を受けて前記スクリューが計量設定位置まで後退した後に前記スクリューの回転を停止する計量工程を備えた射出成形方法において、
前記計量工程では、前記スクリューに加える背圧を所定値に設定して前記スクリューの回転数を50rpm以上300rpm以下の範囲の一定回転数に設定すると共に、
前記計量工程では、前記スクリュー回転数の材料送り能力に合わせて前記成形材料を投入口から自重で前記シリンダ内に充満供給するノーマル供給方法での計量時間をSN秒とした場合に、前記シリンダ内に供給する成形材料の供給速度を、前記SNの2倍秒以上180秒以下の計量時間になるように調整することを含み、
これにより前記計量時間を前記スクリューの回転数及び前記背圧設定値とは無関係に制御することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記シリンダ内を、前記成形材料の投入口から順に供給ゾーン、圧縮ゾーン、計量ゾーンの3つのゾーンに区分したときに、少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させないことを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
射出成形の開始時に、前記少なくとも前記圧縮ゾーンの手前まで前記成形材料を充満させない状態を形成し、この状態で定量供給装置から前記ノーマル供給方法での成形材料の平均消費量よりも少なくなる供給速度で成形材料を前記シリンダ内に補給することを特徴とする請求項2の射出成形方法。
【請求項4】
前記計量時間を前記成形材料の必要混練時間に応じて制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1の射出成形方法。
【請求項5】
射出成形サイクルは、前記成形材料の計量工程、金型の型締工程、シリンダから金型への溶融樹脂の射出工程、金型内部の圧力を保圧する保圧工程、金型を冷却する冷却工程、金型を離型して成形品を取り出す離型工程とで構成されると共に、前記計量時間を、前記射出成形サイクルのうちの冷却工程開始から離型工程終了までの時間に応じて制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1の射出成形方法。
【請求項6】
前記成形材料はベース樹脂と添加物とで構成され、前記ベース樹脂及び前記添加物のうちの少なくとも1つが粉体であって、該成形材料をペレット化することなく前記シリンダ内に直接供給することを特徴とする請求項1〜5の何れか1の射出成形方法。
【請求項7】
前記成形材料のうち、前記粉体の比率が30重量%以上であることを特徴とする請求項6の射出成形方法。
【請求項8】
前記ベース樹脂がポリ乳酸樹脂、セルロース系樹脂の少なくとも1つであると共に、前記添加物が難燃剤、繊維の少なくとも1つであることを特徴とする請求項6又は7の射出成形方法。
【請求項9】
前記成形材料を前記シリンダ内に少量連続供給することにより、前記供給速度を調整することを特徴とする請求項1〜8の何れか1に記載の射出成形方法。
【請求項10】
前記成形材料を前記シリンダ内に間欠供給することにより、前記供給速度を調整することを特徴とする請求項1〜8の何れか1に記載の射出成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(A)】
【図8(B)】
【図10(A)】
【図10(B)】
【図11(A)】
【図11(B)】
【図11(C)】
【図11(D)】
【図11(E)】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(A)】
【図8(B)】
【図10(A)】
【図10(B)】
【図11(A)】
【図11(B)】
【図11(C)】
【図11(D)】
【図11(E)】
【図9】
【公開番号】特開2011−201295(P2011−201295A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35056(P2011−35056)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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