説明

導波路型光アイソレータ

【課題】 小型でかつ構造が簡単でしかも高い消光比を備えた導波路型光アイソレータを、歩留まりよく安価に大量に製造することを可能にする。
【解決手段】 基体上に第1のクラッド層とコア部と第2のクラッド層とを有し、このコア部をファラデー回転子とし、その両端部に、互いの偏光軸が45度なすように第1及び第2の偏光素子が配置された導波路型光アイソレータにおいて、少なくとも前記基体に、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝を形成し、この溝の底部を、基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面とし、第1及び第2の偏光素子は、板状の外周端面の少なくとも一部に、それぞれ偏光軸と特定の角度をなす基準平坦面を有するもので構成し、前記位置決め面及び基準平坦面は、前記第1及び第2の偏光素子を前記溝にはめ込んで、前記基準平坦面を前記位置決め面につき合わせてそれぞれ固定したときに、前記第1の偏光素子の偏光軸と前記第2の偏光素子の偏光軸とが、互いに45度の角度をなすように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信や光を用いた放送波伝送、及び光による計測等において、光源となるレーザーから出射された光波が、種々の原因で光源に戻ることを防止するために用いる導波路型光アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
図5はファラデー回転子を用いた従来の光アイソレータの構成を示す図である。図中、符号71はファラデー回転子であり、このファラデー回転子71の一方の側、即ち、図中左方側に偏光子72が配置され、他方の側に検光子73が配置される。また、上記ファラデー回転子71の周囲には、このファラデー回転子に磁界を印加するための永久磁石等の磁界印加手段74が配置される。このような光アイソレータは、例えば、半導体レーザー等から成る光源75から出射される光76の光路中に配置し、この光アイソレータ通過後の光76が伝播経路中で反射したりすることによって生じた戻り光が光源75のほうに到達しないように遮断するために用いられる。
【0003】
周知のように、この光アイソレータが戻り光を遮断する原理は、以下の通りである。すなわち、光源75から出射された光76は、先ず、偏光子72を通過することによって直線偏光になる。次にこの直線偏光はファラデー回転子71を通過するが、このファラデー回転子71は、直線偏光の偏光方向を45度回転するように構成されているので、上記直線偏光を45度回転して検光子73に入射させる。検光子73は、偏光子72の偏光方向と45度なす偏光方向の光を通過させるように構成されているので、上記入射した光はそのまま通過する。
【0004】
こうして光アイソレータを通過した光76が反射等により逆方向に戻った場合、検光子73を通過することによって偏光光になり、そして、ファラデー回転子71を通過することによってその回転方向が45度回転させられる。この回転方向は、光の進行方向如何によらず同じ方向であるので、戻り光の偏光方向は、結局、偏光子72の光を透過する軸(以下、「透過軸」と記す)と90度をなすことになり、この偏光子72を通過することができず遮断されるものである。(以下、偏光子において透過軸と90度の角度をなす軸を「消光軸」と記す。)
【0005】
上述の原理に基づく光アイソレータとしては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。なお、この特許文献1に記載の光アイソレータにおいては、上記ファラデー回転子71の材料としては、非磁性ガーネット基板上に液相エピタキシャル法で形成されたビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶等が用いられている。一般的に、ファラデー回転子71に入射する光の偏光方向と、ファラデー回転子を透過した後の光の偏光方向との成す角度、すなわちファラデー回転角は、ファラデー回転子の光伝播方向の厚さに比例する。光アイソレータの場合、ファラデー回転角は45度であることが必要であり、そのためのビスマス置換希土類鉄ガーネットの厚さは400〜500μmとなる(以下、45度のファラデー回転角を得るための厚さを「伝播長」と記す)。通常、係る伝播長を得るために、液相エピタキシャル法で、ビスマス置換希土類鉄ガーネットを前述した伝播長より厚く形成した後、基板を研磨で除去し、更に、精密研磨により所望のファラデー回転角を得るために必要な膜厚に追い込む、と云う加工方法が採られている。
【0006】
また、近年、小型でかつ構造が簡単な光アイソレータとして、光導波路を応用した光アイソレータが提案されている。この導波路型光アイソレータとしては、例えば、特許文献2に記載のものが知られている。この特許文献2に記載の導波路型光アイソレータは、ファラデー回転子に相当する所定形状のYIG単結晶膜から成る導波路を形成した後、その光伝搬方向の長さを、偏光面が45度回転するようにチップ状に切断、研磨し、その両端の研磨面に偏光子を貼り付ける、と云う方法で製造されていた。
【特許文献1】特開平7−206593号公報
【特許文献2】特開平7−36000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のような光アイソレータにおいて、半導体レーザー等の光源への戻り光遮断能(以下、アイソレーションと記す)は、ファラデー回転子の性能もさることながら、偏光子72と検光子73との性能、とりわけ、両者の消光軸の角度調整の精度に大きく依存する。以下、光アイソレータのアイソレーションに、偏光子72の消光軸と検光子73の消光軸との成す角度が与える影響について説明する。
【0008】
一般的に、直線偏光の光波を偏光素子に入射した場合、その透過率は偏光面の角度によって異なる。すなわち、この入射直線偏光波(入射波)が偏光素子を透過する場合の透過率が極小となるのは、入射直線偏光波(入射波)の偏光方向が偏光素子の消光軸に平行となる場合である。入射直線偏光波(入射波)の偏光方向が、前記偏光素子の消光軸と平行な方向からずれるにしたがって、透過率が増大し、遮断性能が低下する。入射直線偏光波の偏光方向と消光軸とのなす角度をθとすると、透過波のパワーは、sin2θに比例する。
【0009】
図6は偏光素子として偏光ガラスを用いた場合における、入射直線偏光波の偏光方向と消光軸のなす角度θと透過波のパワーとの関係を示すグラフである。図において、縦軸は透過波のパワーをdBで表示したものであり、横軸は入射波の入射直線偏光波の偏光方向と消光軸とのなす角度θを示したものである。なお、同図においては、θが90度のときの透過波パワーを0dBとした。図中○印が実測値である。特にθが0度近傍における変化率が大きいことが判る。
【0010】
光アイソレータにおいては、ファラデー回転子による偏光面の回転角度を45度に設定し、偏光子72と検光子73(共に偏光素子から成り、便宜上、偏光子と検光子と区別して称されている。)との消光軸が互いに45度の角度をなすように設定される。(この場合、必然的に両透過軸のなす角度も45度となる。)従って、これらの設定が理想的に実現されている場合には、例えば、図7に示した偏光特性を有する偏光素子を偏光子72及び検光子73として用いた場合には、光アイソレータのアイソレーション(消光比)として50dBが達成される。仮に偏光子72と検光子73との成す角度が45度に対して±1度ずれた場合には、ファラデー回転子が理想的に45度の偏光面回転能を発揮した場合でも、得られる光アイソレータのアイソレーションは、−35dB、同±2度ずれた場合には−30dBとなる。
【0011】
従って、高いアイソレーションを実現するためには、偏光子72と検光子73との成す角度を、可能な限り正確に45度に合わせることが重要となる。このため、上述の従来の光アイソレータにおいて高いアイソレーションを得るためには、この角度合わせ調整を、検光子側から試験光を入射させて偏光子を透過する光の強度が最小になる角度に偏光子の設置角度を調整する等の極めて煩雑な調整が必要であった。それゆえ、この点が技術上の障害の1つになって、高いアイソレーションを有する光アイソレータを、歩留まりよく安価に大量に製造することを困難にしていた。本発明の目的は、小型でかつ構造が簡単でしかも高いアイソレーションを備えた導波路型光アイソレータを、歩留まりよく安価に大量に製造することを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、
基体上に第1のクラッド層と、この第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有する磁性体から成るコア部と、このコア部を覆う第2のクラッド層とを有し、前記コア部は、このコア部を伝播する直線偏光の偏光方向を略45度回転する長さ以上の長さで切断され、かつ前記基体には、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝が、前記コア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さに相当する間隔で形成されており、
前記溝の底部は、基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面を有しており、
前記第1及び第2の偏光素子は、板状の外周端面の少なくとも一部に、それぞれ消光軸と特定の角度をなす基準平坦面を有するものであり、
前記位置決め面及び前記基準平坦面は、前記第1及び第2の偏光素子を前記溝にはめ込んで、前記偏光素子の基準平坦面を前記溝の位置決め面につき合わせてそれぞれ固定したときに、前記第1の偏光素子の消光軸と前記第2の偏光素子の消光軸とが、互いに略45度の角度をなすように構成されているものであることを特徴とする導波路型光アイソレータである。
第2の手段は、
前記偏光素子が、ガラス体に針状金属微粒子の長手方向を一方向に優先的に配向分散させて成る偏光ガラスであることを特徴とする第1の手段にかかる導波路型光アイソレータである。
第3の手段は、
前記コア部が単結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする第1又は第2のいずれかの手段にかかる導波路型光アイソレータである。
第4の手段は、
前記コア部が多結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする第1又は第2のいずれかの手段にかかる導波路型光アイソレータである。
第5の手段は、
前記コア部の光伝搬方向に直交する方向の形状が、略正方形状であることを特徴とする第1乃至第4のいずれかの手段にかかる導波路型光アイソレータである。
第6の手段は、
基体上に第1のクラッド層を形成し、この第1のクラッド層上にファラデー効果を有する磁性体から成るコア部を形成し、このコア部を覆う第2のクラッド層を形成し、
前記コア部を、このコア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さ以上の長さに形成し、
かつ、前記基体には、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝を、前記コア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さに相当する間隔で形成し、
前記溝の底部を、基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面に形成し、
前記第1及び第2の偏光素子を、板状の外周端面の少なくとも一部に、それぞれ消光軸と特定の角度をなす基準平坦面を有するものに形成し、
前記位置決め面及び前記基準平坦面を、前記第1及び第2の偏光素子を前記溝にはめ込んで、前記偏光素子の基準平坦面を前記溝の位置決め面につき合わせてそれぞれ固定したときに、前記第1の偏光素子の消光軸と前記第2の偏光素子の消光軸とが、互いに略45度の角度をなすように形成し、
前記溝に前記第1及び第2の偏光子をはめ込んで固定することによって導波路型光アイソレータを得ることを特徴とする導波路型光アイソレータの製造方法である。
ここで「略45度」の意義について説明する。
前述したように、光アイソレータのアイソレーションは、ファラデー回転子のファラデー回転角と偏光子と検光子の両者の消光軸が互いになす角度に依存し、厳密な意味で、これ等を理想的な値である45度に設定するすることは、事実上不可能に近い。
よって、所望のアイソレーション(通常は25〜35dB以上)が得られるように、各々の理想的な値からのずれ量に対する許容範囲を、設計事項として決定されるのが現状である。例えばファラデー回転子のファラデー回転角を限りなく45度に近づけることが可能な場合には、その許容範囲を小さく設定し、偏光子と検光子の消光軸の角度合わせ精度に対する許容範囲を広くとることが可能となる。
すなわち「略45度」とは、所望のアイソレーションが得られることを前提として、「45度+許容範囲角度」を意味し、当該許容範囲角度とは、前述したように、偏光子と検光子の消光軸の角度合わせ精度に対する許容範囲を如何に設定するか、広く云えば、光アイソレータの設計思想に依存し、如何なる設計思想に基づくかによって変動するパラメータである。
【発明の効果】
【0013】
上述の第1の手段によれば、第1及び第2の偏光素子を溝にはめ込んで、偏光素子の基準平坦面を溝の位置決め面につき合わせてそれぞれ固定するだけで、第1の偏光素子の偏光軸と第2の偏光素子の偏光軸とが、互いに45度の角度をなすように構成されているので、小型でかつ構造が簡単でしかも高いアイソレーションを備えた導波路型光アイソレータを、歩留まりよく安価に大量に製造することを可能にする。
第2の手段によれば、偏光素子を偏光ガラスで構成したことにより、基準平坦面として正確な面を容易に形成することが可能になり、精度が高く、性能の高い導波路型光アイソレータを得ることを可能にする。
第3の手段によれば、コア部を単結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットで構成することによって、外部に磁界印加手段を設ける必要をなくしている。
第4の手段によれば、コア部の光伝搬方向に直交する方向の形状を略正方形状にしたことにより、基準平坦面の作製を容易にしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本願発明の実施の形態にかかる導波路型光アイソレータの構成を示す図である。図1において、実施の形態に係る導波路型光アイソレータ10は、略長方形をなすとともに上面が正確に平坦に形成された基板11の上に、下部クラッド層12が設けられ、この下部クラッド層12の上に、断面が略正方形をなした四角柱状のコア部13が設けられ、前記コア部13及び前記下部クラッド層12の表面を覆うようにして上部クラッド層14が設けられているもので、全体として、四角柱状なしている。そして、その長手方向における2箇所に、その長手方向に直交する面に沿って形成された偏光素子固定溝15a,16aが設けられ、これら溝に15a,16aに、それぞれ偏光子15及び検光子16がはめ込まれて固定されているものである。なお、図示しないが、前記基板11の下部等に、前記コア部13に、磁界を印加してコア部内を伝播する直線偏光にファラデー回転を与えるための磁石部材等が設けられている。
【0015】
この導波路型光アイソレータ10においては、下部クラッド層12、コア部13及び上部クラッド層14によって、周知の光導波路が構成されており、コア部13の一方の端面から入射した光は、コア部13を伝播するようになっている。また、コア部13は、ファラデー効果を発揮する磁性体材料で構成され、偏光子15及び検光子16との間の距離は、この間にあるコア部13を伝播する直線偏光波の偏光角度を45度回転する距離に設定されている。偏光子15及び検光子16は、平面視が四角形状の板状体であり、その四角形状の一辺が基準辺とされ、この基準辺が属する端面は、これら偏光子15及び検光子16の光軸に対して平行な高精度な平坦面に仕上げが施され、基準平坦面とされている。そして、偏光子15においては、例えばその基準平坦面と消光軸とのなす角度が90度になるように形成されている。また、検光子16においては、その基準平坦面と消光軸とのなす角度が45度になるように形成されている。したがって、これら偏光子15と検光子16とを、それらの基準平坦面を他の基準となる同一の平面上につき合わせ、かつ光軸を共通にして配置した場合には、互いの消光軸が45度なすようになっているものである。いずれにしても、偏光子15と検光子16の消光軸が互いに45度の角度をなしている限りにおいて、基準平坦面と偏光子15、あるいは検光子16の消光軸がなす角度に制限はない。
【0016】
偏光素子固定溝15a,16aは、上部クラッド層14、コア部13、下部クラッド層12及び基板11の一部を切り取り、その溝の底部が基板11の表面から内部に適当な距離切り込まれた位置にあるように形成されている。これら溝の底部表面は、いずれも基板11の表面に平行になるように高精度な平面に仕上げられており、位置決め面とされている。偏光子15及び検光子16は、これらの基準平坦面が偏光素子固定溝15a,16aの底部表面である位置決め面に接するようにして偏光素子固定溝15a,16aにはめ込み、しかる後、必要な場合は光学接着剤等で固定される。これによって、偏光子15及び検光子16は、その消光軸が45度なすように構成されている。なお、上記位置決め面は、必ずしも完全な平坦面である必要はなく、上記偏光子15及び検光子16の基準平坦面に対して充分小さな凹凸があっても構わない。すなわち、基準平坦面を位置決め面全体に接するようにしたときにこの基準平坦面が上記基板11の表面と平行になるように位置決めされればよい。また、偏光素子固定溝15a,16aの形成は、高精度ダイサー等による機械加工、フォトリソ工程によるエッチング等によって行われる。
【0017】
コア部13としては、ファラデー効果を有する磁性ガーネットが用いられるが、当該磁性ガーネットはファラデー効果を有する限りにおいて、単結晶、あるいは多結晶を用いることができる。また、単結晶ガーネットを、コア部13を構成する材料として用いる場合には、基板として、例えばGGG(GdGa12)単結晶、若しくは後述するような適当な元素でその一部を置換した単結晶基板を用いることが好適である。一方、多結晶のガーネットを用いる場合には、サファイア単結晶、あるいは適当なセラミック基板を適宜選定することができる。上部、あるいは下部クラッド層12、14は、必ずしもファラデー効果を有する磁性ガーネットで形成される必要はなく、適当な屈折率を有する非磁性材料も適用可能である。
【実施例1】
【0018】
以下、本願発明について実施例を用いて、更に詳細に説明する。図2は第1の実施例に係る導波路型光アイソレータの製造工程の流れ図である。以下、図2を参照にして本発明の第1の実施例に係る導波路型光アイソレータの製造工程を説明する。図2において、基板11として、3インチφで厚さが〜1mmの(111)面(CaGd)(MgZrGa)12単結晶を用いた。次に、当該基板上に通常の液相エピタキシャル成長法を用いて、下部クラッド層を構成する層120としてTb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.412単結晶を〜7μm厚に成長させ、更にその上にコア部を構成する層130としてTb2.3Bi0.7Fe4.7Ga0.312単結晶を5μmの厚さに成長させた(図2a)。
【0019】
次に、上記コア部を構成する層130に通常のフォトリソ・エッチング処理によるパターン形成方法を利用して上記層130にパターンを形成し、厚さ及び幅が5μm、長さ1.2mmのコア部13を、ほぼ3インチφのウエハー全面にわたって所定のピッチで形成した(図2b)。コア部13が形成された基板上に、下部クラッド層を構成する層120の形成と同様の条件で、液相エピタキシャル成長法により上部クラッド層を構成する層140として、Tb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.412単結晶を7μmの厚さに形成した(図2c)。その後、幅35μmで深さが40μmの偏光素子固定溝15a,16aを構成するための溝150a、160aを、高精度ダイサーで、それぞれ対応する部位に形成した。なお、この場合、溝の間隔は〜570μmであった。(図2d)。
【0020】
次いで、偏光子15を構成する偏光ガラス150及び検光子16を構成する偏光ガラス160を上記溝150a、160aにはめ込み、光学接着剤で固定した(図2e)。係る偏光ガラス160のはめ込みに際しては、前述したような検光子側から試験光を入射させて偏光子を透過する光の強度が最小になる角度に偏光子の設置角度を調整するようなことは一切しなかった。1個のコア部13毎に1個の光アイソレータ10を構成することになるので、最後に、3インチφのウエハーから、個々の光アイソレータ毎に切断し、切断端面を光学研磨して導波路端面を露出させ、図1に示した導波路型光アイソレータ10を得た。
【0021】
こうして作製した導波路型光アイソレータのアイソレーションを、測定波長:1.55μmで測定した結果を図4に示す。図4は、前述した製造工程を経て作成された導波路型光アイソレータのアイソレーションを測定した結果を示す図である(母数:131個)。アイソレーションは−21〜−26dBの範囲にあった。
【0022】
次に、比較のために、従来の導波路型光アイソレータを作成し、これら作成した光アイソレータのアイソレーションの分布を測定した結果を説明する。この従来の光アイソレータの製造工程は、上述の図2に示した本願発明の実施の形態に係る光アイソレータの製造工程と途中まで同じである。すなわち、基板110上に下部クラッド層用の層120を形成し、その上にコア層用の層130を形成し(図2a)、層130にパターン形成してコア部13を形成し、さらに、上部クラッド用の層140を形成する(図2c)工程までは同じである。
【0023】
その次の工程において、上記工程を経た基板を、多数のコア部13の両端部が露出するように短冊状に切断し、コア部13の導波路長が〜570μmになるように研磨で追い込んだ。その後、研磨面に偏光ガラスを貼り付けた。図3は多数のコア部13の両端に偏光ガラスが貼りつけられた状態の中間体を示す図である。この場合、消光軸の角度調整は、検光子側から試験光を入射させて偏光子を透過する光の強度が最小になる角度に偏光子の設置角度を調整するようにして行った。次に、上記多数のコア部が形成されたものを個々の光アイソレータ毎に切断し、導波路型光アイソレータ10を得た。こうして作製した光アイソレータのアイソレーションの分布を上述の実施の形態の場合と同様にして測定した(母数:129個)。その結果、図4に示した結果とほぼ同様の結果が得られた。
【実施例2】
【0024】
本実施例に係る導波路型光アイソレータは、実施例1に係る光アイソレータに対して、各構成部材を構成する材料が異なるほかは同一の構成を有するので、以下では、各構成部材の材料を説明する。この実施例においては、基板11を構成する素材としての非磁性単結晶基板として、3インチφのc面 サファイアを用いた。下部クラッド層12としては、この基板11に、エアロゾルデポジション法により、多結晶のBi0.6Gd2.4Fe12を7μm厚に形成したものを用いた。また、コア層13としては、下部クラッド層12上にBi0.7Tb2.3Fe12を5μm厚に成膜したものを用いた。なお、上記エアロゾルデポジション法において用いた原料微粒子の平均粒径は0.8μm、搬送ガスは酸素で、その流量は5リットル/分であった。また、噴射ノズルの開口径は0.6mmφであった。
【0025】
上部クラッド層14としては、下部クラッド層12と同様の条件で、7μm厚のBi0.6Gd2.4Fe12を形成し、その後、700℃で1時間の熱処理を施したものを用いた。こうして作製した多数の光アイソレータのアイソレーションについて上述の実施例の場合と同様にして測定したところ、図4に示される場合とほぼ同じであった。
【0026】
以上、実施例を用いて本願発明により、従来、導波路型光アイソレータにおいて、良好なアイソレーションを達成するために必要とされていた偏光子の精密な角度調整を要することなく、良好なアイソレーションを有する導波路型光アイソレータの提供が可能になることを説明したが、本願発明の効果は、実施例に記載した構成材料、製造方法、及び寸法等に限定されるものではなく、適宜設計事項として選定できるものであることは、改めて言及するまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、光通信や光を用いた放送波伝送、及び光による計測等において、光源となるレーザーから出射された光波が、種々の原因で光源に戻ることを防止するための光アイソレータとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明の実施の形態にかかる導波路型光アイソレータの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る導波路型光アイソレータの製造手順の説明図であり、図2aは基板110上にクラッド層用の層120及びコア部用の層130を形成した状態を示す図、図2bはコア部用の層130にパターンを形成したコア部13を形成した状態を示す図、図2cは上部クラッド層用の層140を形成した状態を示す図、図2dは偏光素子固定溝を構成する溝150及び160を形成した状態を示す図、図2eは偏光素子固定溝を構成する溝150及び160に偏光子150及び160をはめ込んで固定した状態を示す図である。
【図3】従来の導波路型光アイソレータを作成する工程において多数のコア部13の両端に偏光ガラスが貼りつけられた状態の中間体を示す図である。
【図4】本願発明の実施例1にかかる導波路型光アイソレータのアイソレーションを測定した結果を示す図である。
【図5】ファラデー回転子を用いた従来の光アイソレータの構成を示す図である。
【図6】偏光素子として偏光ガラスを用いた場合における入射直線偏光波の偏光方向が消光軸に対してなす角度θと透過波のパワーとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
10 導波路型光アイソレータ
11 基板11
12 下部クラッド層
13 コア部
14 上部クラッド層
15 偏光子15
16 検光子
15a,16a 偏光素子固定溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に第1のクラッド層と、この第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有する磁性体から成るコア部と、このコア部を覆う第2のクラッド層とを有し、前記コア部は、このコア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さ以上の長さで切断され、かつ前記基体には、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝が、前記コア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さに相当する間隔で形成されており、
前記溝の底部は、基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面を有しており、
前記第1及び第2の偏光素子は、板状の外周端面の少なくとも一部に、それぞれ消光軸と特定の角度をなす基準平坦面を有するものであり、
前記位置決め面及び前記基準平坦面は、前記第1及び第2の偏光素子を前記溝にはめ込んで、前記偏光素子の基準平坦面を前記溝の位置決め面につき合わせてそれぞれ固定したときに、前記第1の偏光素子の消光軸と前記第2の偏光素子の消光軸とが、互いに略45度の角度をなすように構成されているものであることを特徴とする導波路型光アイソレータ。
【請求項2】
前記偏光素子が、ガラス体に針状金属微粒子の長手方向を一方向に優先的に配向分散させて成る偏光ガラスであることを特徴とする請求項1記載の導波路型光アイソレータ。
【請求項3】
前記コア部が単結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の導波路型光アイソレータ。
【請求項4】
前記コア部が多結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の導波路型光アイソレータ。
【請求項5】
前記コア部の光伝搬方向に直交する方向の形状が、略正方形状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された導波路型光アイソレータ。
【請求項6】
基体上に第1のクラッド層を形成し、この第1のクラッド層上にファラデー効果を有する磁性体から成るコア部を形成し、このコア部を覆う第2のクラッド層を形成し、
前記コア部を、このコア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さ以上の長さに形成し、
かつ、前記基体には、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝を、前記コア部を伝播する直線偏光波の偏光方向を略45度回転する長さに相当する間隔で形成し、
前記溝の底部を、基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面に形成し、
前記第1及び第2の偏光素子を、板状の外周端面の少なくとも一部に、それぞれ消光軸と特定の角度をなす基準平坦面を有するものに形成し、
前記位置決め面及び前記基準平坦面を、前記第1及び第2の偏光素子を前記溝にはめ込んで、前記偏光素子の基準平坦面を前記溝の位置決め面につき合わせてそれぞれ固定したときに、前記第1の偏光素子の消光軸と前記第2の偏光素子の消光軸とが、互いに略45度の角度をなすように形成し、
前記溝に前記第1及び第2の偏光子をはめ込んで固定することによって導波路型光アイソレータを得ることを特徴とする導波路型光アイソレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−139473(P2008−139473A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324389(P2006−324389)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】