説明

導電性ゴムローラー

【課題】強固な接着力を得るための接着剤の扱い方や塗布工程が容易に管理できて、かつ高温多湿のような環境下でゴム層が膨張しても接着不良や芯金腐蝕が発生することなく、画像形成装置に組み付けた際に画像形成性能を低下させない導電性ゴムローラーを提供すること。
【解決手段】導電性芯金の外周上に、接着剤層を介して少なくともエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層を有する導電性ゴムローラーおいて、接着剤層がフェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムとを含み、好ましくは接着剤層が、アクリロニトリルブタジエンゴムを1〜10wt%含み、アクリロニトリルブタジエンゴムが、アクリロニトリル成分を25〜60wt%含み、導電性芯金が、無電解ニッケルメッキされたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンターおよびファクシミリ等に代表される電子写真装置や静電記録装置などの画像形成装置に使用される帯電ローラー、現像ローラーおよび転写ローラー等の導電性ゴムローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンターおよびファクシミリ等に代表される電子写真装置や静電記録装置などの画像形成装置に使用される帯電ローラー、現像ローラーおよび転写ローラー等の導電性ゴムローラーを、目的とする導電性を有するように作製する方法として、導電性ゴム層の作製に使用するゴム組成物にカーボンブラック等の導電性フィラーを添加分散する方法、あるいはゴム自身に導電性を有するものを使用する方法がある。導電性フィラーを添加分散する方法ではその分散状態および配向によって電気特性に影響を及ぼすため、混練りバッチごとにばらつきが生じ、さらに同バッチ内でもローラーごとのばらつきが生じやすくなる。一方、導電性を有するゴム材を使用する方法ではこのようなばらつきはほとんど発生しないため、所定の導電性に調整しやすく、かつ安定して得ることができる。そのため近年では製品の高性能化に伴い、導電性ローラーの製造において、導電性ゴムを用いたローラーの製造が増加の傾向にある。
【0003】
このような導電性ローラーの製造に使用される導電性ゴム材としては、一般的に、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロロヒドリン系ゴム(CO,ECO,GECO)や、アクリルゴム(ACM)等が用いられている。中でもエピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン系ゴムとエチレンオキサイドの組成比によって体積抵抗を調整することが可能であるという特徴を有しており、導電性ゴムローラー用ゴム材として好ましいことが知られている。
【0004】
また、導電性ゴムローラーの芯金としては、導電性および必要とされる形状精度を満たす素材として、コストおよび加工性の面から鉄材が一般的に使用されており、さらに耐蝕性および耐摩擦性等を得るためにメッキが施されたものが使用されている。一般的なメッキ方法としては電解メッキと無電解メッキの大きく2つの方法があるが、後者の方が長時間を要するもののメッキ膜厚が均一性に優れるために高い精度が得られ、かつピンホール等の欠陥が少ないために耐蝕性に優れるという点から、腐蝕が問題になる場合に選択されている。さらに、無電解メッキの中でも無電解ニッケルメッキはメッキ液の安定性やコストの面からより好ましく使用されている。
【0005】
このような導電性ゴムローラーの製造方法としては、金型を用いる方法、チューブ状に押出したゴム組成物を加硫した後に芯金を圧入する方法、および未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法などがある。これらの製造方法から、加工性やコスト、画像形成装置用部材として要求される寸法精度や物理的および電気的特性を満たす導電性ローラーを得るのに適切な製造方法が選択されている。近年では、未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法が、金型を用いる方法や加硫したチューブを芯金に圧入する方法と比べて、製造ラインの小型化や連続化に適している等の利点があることから、導電性ゴムローラーの製造方法として採用されることが増加の傾向にある。
【0006】
しかしエピクロロヒドリン系ゴム組成物を用いて前記製造方法で作成したゴムローラーにおいては、ゴム組成物の極性が高いために吸湿性が高く、その結果、高温多湿環境下に放置するとゴム層が膨張し、芯金から浮き上がって接着不良となる場合がある。また、接着していても、前記ゴム組成物を用いた場合では芯金腐蝕が発生しやすく、それによって芯金とゴム層との間で部分的剥離が発生する。以上の現象によりローラー形状に歪みが生じ、画像形成装置に組み付けても正常な画像が得られない場合がある。
【0007】
このような接着不良を解決する方法として、エピクロロヒドリンゴム組成物を主体とするゴム層を有する導電性ゴムローラーにおいて、接着剤としてフェノール系のものを用いる方法がある(例えば特許文献1参照)。この方法は確かに成形後に強固な接着力を得ることができるが、接着剤塗布時の厚みおよびムラに起因する部分的な接着不良が生じやすい。また、正常に接着できても高温多湿環境下に放置した後の芯金腐蝕に対する防止効果はほとんどない。また、フェノール系接着剤は強度や耐熱性および耐摩耗性に乏しいため、塗布後の接着剤層が脆く、クロスヘッド押出しや圧入などの工程で芯金から接着剤が剥離して接着不良となる。これを補うために接着剤を塗布した後に焼付けて使用するのが一般的であるが、その温度条件が制限されるために焼付け時間を長くとる必要があり、製造工程上不利である。
【0008】
一方、芯金上に過塩素酸塩を含むポリウレタンゴム層を有するゴムローラーにおいて、芯金と前記ゴム層の間にバリア層として接着剤層を設け、さらに接着剤の厚みを20〜50μmとすることにより芯金腐蝕を解決する方法がある (例えば特許文献2参照)。しかし、効果を得るためには所定の接着剤層の厚みが必要であるため、塗布方法が複雑となり、接着不良やあるいは生産上の管理が困難となる。
【特許文献1】特開平10−293440
【特許文献2】特開平6−200921
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、導電性芯金の外周上に、エピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層を有する導電性ゴムローラーにおいて、扱い方や塗布工程の管理が容易であり、接着剤の塗布後の強度、耐熱性、耐磨耗性を大幅に向上させ、成形後の接着力も強固であり、かつ高温多湿のような環境下でエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層が膨張しても接着不良や芯金腐蝕が発生することなく、画像形成装置に搭載した際に画像形成性能を長期に亘って維持することができる導電性ゴムローラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、芯金腐蝕について調査した結果、芯金腐蝕の主要因はゴム組成物中の塩素原子であり、かつエピクロロヒドリン系ゴムのような極性ゴム由来の吸湿性も要因であることをつきとめた。また、本発明のようにピンポール等の欠陥が少ないとされる無電解ニッケルメッキを施した芯金を用いても同様に芯金腐蝕は発生していることからメッキを施すだけでは十分に腐蝕を防止できないことがわかった。そして鋭意研究の結果、フェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)の両方を含む接着剤を用いることにより、フェノール樹脂単体では得られなかった接着剤塗布後の強度、耐熱性、耐摩耗性を大幅に向上させ、かつ成形後の接着力も強固であり、高温多湿環境下でも芯金腐蝕が発生しないことの知見を得た。ゴム組成物中に塩素原子が含まれていたり、あるいは極性ゴムのような吸湿性を有するゴム層からなるゴムローラーであっても、接着剤塗布時の塗布ムラや塗布後の接着剤剥離がないため、芯金とゴム層との間で部分的な接着不良や接着力の弱い部分がなく、均一に強固な接着力を得ることができ、芯金腐蝕が発生せず、高温多湿環境下であっても強固な接着力を維持できる導電性ゴムローラーが得られるとの知見を得、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、導電性芯金の外周上に、接着剤層を介して少なくともエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層を有する導電性ゴムローラーにおいて、前記接着剤層がフェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムとを含む導電性ゴムローラーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導電性ゴムローラーは、扱い方や塗布工程の管理が容易であり、接着剤の塗布後の強度、耐熱性、耐磨耗性を大幅に向上させ、成形後の接着力も強固であり、かつ高温多湿のような環境下でエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層が膨張しても接着不良や芯金腐蝕が発生することなく、画像形成装置に搭載した際に画像形成性能を長期に亘って維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の導電性ゴムローラーは、導電性芯金の外周上に、接着剤層を介して少なくともエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層を有する導電性ゴムローラーにおいて、前記接着剤層がフェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムとを含むものであれば、特に制限されるものではない。
【0014】
本発明の導電性ゴムローラーに用いられる導電性芯金としては、導電性であってローラーを支持し必要とされる形状精度を維持できるものであれば、いずれのものであってもよい。芯金の材質としては、金属製のものが好ましく、アルミニウム、銅合金、鉄、鋼鉄、ステンレス鋼等の金属または合金などであってもよいが、これらの金属または合金にクロム、ニッケル等のメッキ処理がされたものが、耐腐蝕性、耐摩擦性に優れるため好ましい。このような、メッキ処理方法としては電解メッキ、無電解メッキの方法によることができるが、無電解メッキがメッキ膜厚の均一性に優れているため好ましい。特に無電解ニッケルメッキを施したものはメッキ皮膜の厚さが均一で高い寸法精度が得られ、かつ発生するピンホール等の欠陥も少ないことから導電性ゴムローラー用の芯金に対して特に好ましいメッキ方法である。本発明の導電性ローラーの芯金としては、鋼鉄などに無電解ニッケルメッキしたものが、高い寸法精度が得られ、かつ発生するピンホールなどの欠陥がなく、耐腐蝕性に優れたものとして好ましい。
【0015】
かかる導電性芯金の形状は、中空状あるいは中実状いずれものであってもよく、またその外径は、搭載される画像形成装置との関連において適宜選択することができ、例えば、通常4〜10mmの範囲のものを例示することができる。
【0016】
このような導電性芯金の外周上に設けられる接着剤層はフェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムとを含むものであればよく、これらの各成分の含有量も限定されるものではないが、アクリロニトリルブタジエンゴムを1〜10wt%含むことが好ましい。接着剤層において、アクリロニトリルブタジエンゴムの含有量が1wt%以上であれば接着剤としての強度、耐熱性および耐摩耗性が十分に得られ、導電性ゴムローラーにおいて、高温多湿環境下においても導電性芯金の腐蝕を抑制することができる。また、アクリロニトリルブタジエンゴムの含有量が10wt%以下であれば接着剤層を形成する液にアクリロニトリルブタジエンゴムを容易に溶解することができ、かかる液は芯金に塗布した後の乾燥を効率よく行なうことができる等の加工性、取扱性に優れたものとなる。
【0017】
上記接着剤層に含有されるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)としては特に制限されるものではないが、アクリルニトリル成分を25〜60wt%含むものが好ましい。アクリロニトリル成分の含有量が25wt%以上であると、ともに使用するフェノール系樹脂との相溶性がよく、アクリロニトリルブタジエンゴムを使用する目的である接着剤の強度、耐熱性および耐摩耗性を得ることができる。一方、アクリロニトリル成分が60wt%以下であれば柔軟性が失われて脆くなることがなく、加工性に優れ、接着剤に添加して芯金に容易に塗布することができ、ローラーの使用によっても剥離が生じたり、製造工程において削り取られることを抑制することができ、大量に使用することによるコスト高も回避することができる。更に、アクリロニトリルブタジエンゴムにおけるアクリロニトリル成分が25〜50wt%であると、上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0018】
また、接着剤層に用いられるフェノール系樹脂としては、特に制限されるものではなく、フェノールとホルムアルデヒドを主成分としたアルコール溶液型、水溶液型、ノボラック型などを適用することができ、市販の接着剤を適用することもできる。フェノール系樹脂はアクリロニトリルブタジエンゴム、アクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴムなどの極性を有するゴムを金属面に接着させる際に非常に有効である。
【0019】
接着剤層は、一般に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−オレフィン共重合体等のオレフィン系、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等のスチレン系、フェノール系、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系あるいはオレフィン系のような合成樹脂を有機溶剤に溶解させた樹脂液を塗布して作製することができる。使用する有機溶剤としては、合成樹脂との相溶性や分散性にあわせて適宜選択することができるが、接着剤層に使用されるアクリロニトリルブタジエンゴムやフェノール系樹脂が極性を有するので、極性を有しているものが適しており、中でも安全面からアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)が好ましい。樹脂液中のフェノール系樹脂やアクリロニトリルブタジエンゴムの濃度も製造工程上、芯金上に接着剤層を作製することができる範囲の濃度であればよく、所定の濃度に希釈して反復して塗布等することもできる。
【0020】
このような接着剤層作製用の樹脂液はホットメルト型あるいは加硫型等いずれの接着方式のものであってもよく、接着剤層やゴム層の製造方法や要求される接着性によって適宜選択することができる。樹脂液が加硫型の場合、金属面と接着剤層との接着力を強化するために塗布した後、焼付けを行なうのが一般的であるが、従来の接着剤においては含まれる合成樹脂の多くは耐熱性に乏しいために焼付け温度をあまり高く設定できず、効果を得るために長時間の加熱が必要な場合が多かったところ、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有する樹脂液においては、耐熱性が高く、焼付け条件を高温にすることができ、短時間で接着剤層を作製することができる。このため塗布工程が簡便となり、製造工程設計の自由度が広がり、かつ管理も容易になる。
【0021】
上記樹脂液は、アクリロニトリルブタジエンゴムやフェノール系樹脂の機能を害さない範囲で、カーボンブラックや金属酸化物などを含有あるいは分散させて使用することができる。これらの添加物は、芯金に直接接触する接着剤を構成するため、芯金腐蝕の主要因が塩素であるという結果からも、塩素原子を含まないものが好ましい。
【0022】
本発明における接着剤層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2μm〜30μmとすることができる。この範囲とすると、ゴム層を芯金に強固に接着することができるため好ましい。
【0023】
上記接着剤層を作製する方法として、導電性芯金に樹脂液を塗布する方法などによることができる。例えば両端部をチャックした芯金を円周方向に回転させながら、接着剤を含浸させたシリコーンゴムスポンジ、アクリルゴムスポンジ、ウレタンゴムスポンジ等を芯金に押し当てながら行なう方法が挙げられる。また、芯金の両端部分にも塗布できるのであればロールコーター等の機器を用いることもできる。
【0024】
本発明の導電性ゴムローラーにおけるゴム層は、少なくともエピクロロヒドリン系ゴムを含むものであれば、その他いずれのものを含むものであってもよい。中でもエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体はエピクロロヒドリンとエチレンオキサイドの共重合比によって電気特性を調整することが可能であることから好ましい。ゴム層には、その他、エピクロロヒドリン系ゴムの機能を害さない範囲でカーボンブラック、炭酸カルシウム、可塑剤などの各種充填材や硫黄、過酸化物などの各種加硫剤などを含有させることができる。
【0025】
かかるゴム層を作製する組成物に含有させることができる加硫剤としては製造工程上および画像形成装置に使用される部材として弊害を及ぼすものでなければ特に制限されることなく使用できる。エピクロロヒドリン系ゴムの加硫剤としては硫黄のほか、有機過酸化物、トリアジンチオールおよび2,3−ジメチルキノキサリン等を挙げることができるが、硫黄加硫はゴムの加硫剤として最も一般的であり、コスト面や製造面においても好ましい。
【0026】
このようなゴム層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1〜10mmとすることができる。この範囲とすると、画像形成装置などに用いられる導電性ローラーとして好ましい導電性、硬度、耐摩擦性を有するものとなる。
【0027】
このようなゴム層を作製する方法としては特に制限されるものではなく、加工性やコスト、画像形成装置用部材として要求される寸法精度や物理的および電気的特性を満たすためにそれぞれ適した製造方法を任意に選択することができる。例えば金型を用いる方法、チューブ状に押出したゴム組成物を加硫した後に芯金に圧入する方法、未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法などを採用することができる。このうち未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法は製造ラインの小型化や連続化に適しているため、好ましい。
【0028】
加硫方法においても特に制限されることなく、熱風炉加硫の他、遠赤外線加硫、水蒸気加硫等適宜選択することができる。また芯金円周上に未加硫ゴムを配置させた状態でそのまま金型キャビティに投入して加硫する方法も有効である。さらに時間や温度等の加硫条件を任意に変化させても接着力や芯金腐蝕防止効果に何ら影響を及ぼさないので自由に工程を設計することができる。
【実施例】
【0029】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[接着剤の調製]
約2mm角に切断した各種アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とMEKとをそれぞれ所定量秤量し500mlのガラス瓶に添加し、ホットプレートで60℃に加熱して3〜5日間攪拌することにより所定濃度のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)のMEK溶液を得た。
【0030】
得られたアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)溶液と市販の接着剤とをそれぞれ所定量秤量し500mlのガラス瓶に加え、室温で8時間攪拌することによりアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を添加した接着剤を得た。
[芯金への接着剤塗布]
厚さ3〜6μmの無電解ニッケルメッキを施した直径6mm、長さ240mmの鋼鉄製芯金の外周上に、前記方法にて得た接着剤をロールコーターにて芯金の中央210mmの部分に塗布し、芯金上に接着剤層を形成した。
[ゴム組成物の調製]
下記化合物を密閉型混練機およびオープンロール機を用いて混練を行なうことにより未加硫のゴム組成物を得た。
エピクロロヒドリンゴム(商品名:エピクロマーCG102 ダイソー株式会社製) 100重量部、
酸化亜鉛(商品名:酸化亜鉛2種 ハクスイテック株式会社製) 5重量部
ステアリン酸(商品名:ステアリン酸S 花王株式会社製) 1重量部
カーボンブラック(商品名:旭#15 旭カーボン株式会社製) 5重量部
炭酸カルシウム(商品名:シルバーW 白石工業株式会社製) 40重量部
ジベンゾチアジルジサルファイド(商品名:ノクセラーDM 大内新興化学株式会社製) 1重量部
テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名:ノクセラーTS 大内新興化学株式会社製) 1重量部
硫黄(商品名:サルファックス200S 鶴見化学株式会社製) 1重量部
[ゴムローラーの作製]
押出し機を用いて上記未加硫ゴム組成物を押出すと同時に接着剤を塗布した芯金を連続的にクロスヘッドダイを通過させることにより芯金上に未加硫ゴムを被覆した後、熱風炉にて180℃×1h加熱することによりゴムを加硫しゴム層を作製し、外径12mmの導電性ゴムローラーを作製した。さらに両端部から12mm位置にカッター刃をいれて両端部のゴム層を剥離した後、研削機にて外径9mmのゴムローラーを得た。
[評価方法]
接着剤剥がれについてはそれぞれの接着剤を塗布した芯金をクロスヘッド押出し機に使用される芯金供給用の金属製ガイド(内口径7mm)に10本連続で通過させ、そのときの接着剤剥離を観察した。また、錆の発生については前記方法にて得たゴムローラーを各10本ずつ70℃×95%RHに設定した環境試験炉内に72h放置した後、外観にて形状の歪みを観察し、その部分のゴム層を剥離して錆の発生を確認した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜6は接着剤中に添加したアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)におけるアクリロニトリル(AN)成分量が25wt%以上であり、かつ接着剤を構成する固形成分におけるNBR量が1wt%〜10wt%のものについて評価した結果である。このとき、金属製の芯金ガイドに通しても接着剤剥がれは発生せず、成形後のローラーにおいても接着剤塗布部分において強固に接着していた。また、70℃×95%RHの環境下に放置した後についても芯金腐蝕による接着不良およびローラー形状の歪みは観察されなかった。
【0033】
実施例7は接着剤中添加したNBRにおけるAN量が35wt%であり、かつ接着剤を構成する固形成分におけるNBRの量が1wt%未満のものについて評価した結果である。このとき金属製の芯金ガイドに通すと10本中3本に接着剤剥がれが確認された。成形後のローラーにおいては接着剤塗布部分において強固に接着していたが、70℃×95%RHの環境下に放置したところ10本中2本に芯金腐蝕が確認された。しかしNBRを添加しない場合と比較すると明らかに接着剤の耐摩擦性や芯金腐蝕防止に効果が現れており、本発明の効果を完全に得るためには接着剤中にNBRが1wt%以上含まれることがより好ましいことを示している。
【0034】
実施例8は接着剤中添加したNBRにおけるAN量が35wt%であり、かつ接着剤を構成する固形成分におけるNBR量が10wt%を超えるものについて評価した結果である。このとき成形後の接着性や70℃×95%RHの環境下放置後の芯金腐蝕になんら問題は見られなかったが、金属製の芯金ガイドに通したとき10本中4本に接着剤剥がれが確認された。これは接着剤に添加したNBR量が多すぎたために接着剤を塗布して焼付けてもタック性があり、芯金ガイドの内壁に貼り付いたためである。しかしNBRを添加しない場合と比較すると明らかに接着剤の耐摩擦性や芯金腐蝕防止に効果が現れており、本発明の効果を完全に得るためには接着剤中に含まれるNBR量が10wt%以下であることがより好ましいことを示している。
【0035】
実施例9は接着剤中添加したNBRにおけるAN量が25wt%未満のものについて評価した結果である。この場合、AN量が少ないために接着剤中のフェノール樹脂との相溶性があまり良好ではなく、約1wt%以上添加するのが困難であった。成形後の接着は強固であったが、接着剤剥がれおよび錆の発生については投入数の約半分しか効果が現れなかった。しかしNBRを添加しない場合と比較すると明らかに接着剤の耐摩擦性や芯金腐蝕防止に効果が現れており、本発明の効果を完全に得るためには接着剤中に含まれる前記ゴムのAN量が25wt%以上であることがより好ましいことを示している。
【0036】
比較例1は接着剤にNBRを添加せずにフェノール系樹脂のみを用いた場合の結果である。このとき成形後のローラーについては強固に接着していたが、芯金ガイドに通過させたとき、すべてにおいて接着剤剥がれが確認された。比較例1では実施例8のように接着剤塗布後のタック性は見られなかったことから、金属製芯金ガイド内を通過しただけで接着剤が簡単に削られてしまうことを示している。また、70℃×95%RHの環境下に放置した後、投入したすべてのローラーに歪みが生じ、ゴム層を剥離すると芯金腐蝕に起因されるメッキ皮膜の浮きや赤錆が確認された。
【0037】
比較例2は接着剤中添加したNBRにおけるAN量が35wt%であるが、接着剤としてオレフィン系のものを使用して評価した結果である。比較例2では接着剤との相溶性があまり良好ではなく、攪拌後数時間で沈殿が発生した。また分散直後に塗布し、接着剤剥がれおよび錆の発生について試験したが、比較例1と比べても大差なく、効果が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性芯金の外周上に、接着剤層を介して少なくともエピクロロヒドリン系ゴムを含むゴム層を有する導電性ゴムローラーにおいて、前記接着剤層がフェノール系樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムとを含むことを特徴とする導電性ゴムローラー。
【請求項2】
前記接着剤層が、アクリロニトリルブタジエンゴムを1〜10wt%含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性ゴムローラー。
【請求項3】
前記アクリロニトリルブタジエンゴムが、アクリロニトリル成分を25〜60wt%含むことを特徴とする請求項1または2記載の導電性ゴムローラー。
【請求項4】
導電性芯金が、無電解ニッケルメッキされたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の導電性ゴムローラー。

【公開番号】特開2006−195159(P2006−195159A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6355(P2005−6355)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】