説明

導電性フィルム

【課題】導電性線状構造体を溶液に分散させ基材に室温、大気圧下で導電体を形成させる際に、導電性線状構造体の配向性が極めて小さい導電体を提供し、電磁波シールド、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極などのディスプレイ関連のXY電極に搭載した際に、位置検出精度が高く、誤作動の少ない導電体を提供することを目的とする。
【解決手段】基材の少なくとも一方の面に導電性線状構造体を含有する導電体層を有する導電性フィルムであって、該導電体層上で無作為に場所を選択して撮影した画像の中心に直径が実寸法で70μmに当たる円を作図し、該円の中心を通り該円を36等分する18本の直線を引き、前記円の内部における前記導電性線状構造体と前記直線との交点の数を各直線ごとに計数し、該交点の数が最も多い直線をl、lとなす角が90度である直線をl90としたとき、lの前記交点の数nとl90の前記交点の数n90の比である交差本数比n/n90が1.00〜1.25である導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配線材料、導電ペースト、電極材料、電磁波シールド、環境触媒、燃料電池最高機能触媒、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッサンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極などのディスプレイ関連の光学材料などに使用される導電性フィルム及びその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
導電性線状構造体を用いた導電性材料は近年注目を浴びている。特にカーボンナノチューブや銀ナノワイヤーなどのナノサイズの導電性線状構造体は様々な用途で今後の使用が見込まれている。これらの線状構造体は、溶液中に分散させ塗布することで、室温、大気圧下での導電膜を形成することが可能であり、簡易なプロセスで導電体を形成することができる。また、屈曲性に富むため、柔軟な基材上に導電体を形成する場合であっても、基材の屈曲性に追従することができる。さらに、基材にフィルムを用いた場合には導電体を連続形成できることから、さらなるプロセスコストの低減が可能である。また、これらの導電性線状構造体の溶液中での分散性を向上させることで、透明性を向上させることが可能であり、透明基材上に導電体を形成することで屈曲性に富んだ透明導電フィルムを提供することができる。
【0003】
導電性線状構造体を用いて導電体を形成する手法は種々提案されているが、線状構造体を溶液に分散させ基材に導電体を形成する場合、特許文献1に記載されているバーコート法では線状構造体が同一方向に配向させることが可能であることが示されているまた、特許文献2では導電性材料を溶液中に分散させ、1軸延伸したフィルム上に塗布した後、塗布方向と直交する方向に延伸することで、配向を制御する方法が示されている。さらに特許文献3では炭素繊維からなる導電性線状構造体を樹脂中に分散させて製膜した後、硬化させる前に一方向から直流電場をかけることで配向を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−279434号公報
【特許文献2】特開平9−1753号公報
【特許文献3】特開2006−312677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように線状構造体を溶液に分散させ、室温、大気圧下で基材に導電体を形成させた際に任意で配向を調整するのは困難であり、特に無配向なフィルムをオフラインコートで形成させることが技術的な課題であった。かかる問題を鑑み、本発明は、導電性線状構造体を溶液に分散させ基材に室温、大気圧下で導電体を形成させる際に、導電性線状構造体の配向性が極めて小さい導電体を提供し、電磁波シールド、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極などのディスプレイ関連のXY電極に搭載した際に、位置検出精度が高く、誤作動の少ない導電体を提供することを目的とする。また、導電性線状構造体を溶液に分散させた状態で室温、大気圧下にて導電体を形成することを可能とし、簡易なプロセスで導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
基材の少なくとも一方の面に導電性線状構造体を含有する導電体層を有する導電性フィルムであって、該導電体層上で無作為に場所を選択して撮影した画像の中心に直径が実寸法で70μmに当たる円を作図し、該円の中心を通り該円を36等分する18本の直線を引き、前記円の内部における前記導電性線状構造体と前記直線との交点の数を各直線ごとに計数し、該交点の数が最も多い直線をl、lとなす角が90度である直線をl90としたとき、lの前記交点の数nとl90の前記交点の数n90の比である交差本数比n/n90が1.00〜1.25である導電性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電性線状構造体の配向性の小さな導電体を形成し、同時に導電異方性が改善された導電体を提供することができる。これにより、電磁波シールド、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極などのディスプレイ関連のXY電極に搭載した際に、位置検出精度が高く、誤作動の少ない導電体を提供することが可能となる。また、導電性線状構造体を溶液に分散させた状態で室温、大気圧下にて導電体を形成することが可能であることから、簡易なプロセスで導電体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】画像から交差本数比を測定するための作図例を示す図である。
【図2】端子間抵抗値測定用のサンプル切り出し位置と端子間抵抗測定位置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、導電性線状構造体を塗布する基材について説明する。本発明において導電性線状構造体を塗布する基材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂、スピログリコール共重合ポリエステル樹脂、フルオレン共重合ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル系共重合体、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、スチレン・メタクリル酸共重合体、α−メチルスチレンまたはマレイミドを共重合してなる耐熱性スチレン樹脂、さらには、スチレン・アクリロニトリル系共重合樹脂、α−メチルスチレン・アクリロニトリル系共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、およびこれらを成分とする共重合体、またはこれら樹脂の混合物等が挙げられるがこれに限定はされない。またガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができるがこれに限定されるわけではない。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。さらに基材は必要に応じて表面処理を施していてもよい。表面処理は、グロー放電、コロナ放電、プラズマ処理、火災処理等の物理的処理、あるいは樹脂層を設けてあっても良い。基材がフィルムの場合は、易接着層のあるものでも良い。
【0010】
次に、導電体層に含有される導電性線状構造体について説明する。本発明において、導電体層は導電性線状構造体を含んでいることが必要である。本発明において、好ましく用いられる導電性線状構造体はカーボンナノチューブ(以下、CNTとも言う。)、金属ナノワイヤーであり、金属ナノワイヤーの金属組成としては特に制限は無く、貴金属元素、貴金属酸化物や卑金属元素の1種または複数の金属から構成されることができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、導電性の観点から少なくとも銀を含むことがより好ましい。導電性線状構造体として用いることのできる貴金属や貴金属酸化物のナノワイヤーは、特表2009−505358号公報、特開2009−129607号公報、特開2009−070660号公報に記載されており、また金属酸化物のウィスカーや繊維状のような針状結晶としては、例えば、チタン酸カリウム繊維とスズ及びアンチモン系酸化物の複合酸化物であるデントールWKシリーズ(大塚化学(株)製)のWK200B、WK300R、WK500が市販されている。卑金属元素としては、カーボンナノチューブが挙げられ、そのカーボンナノチューブは単層、二層、三層以上の多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。直径が0.3〜100nm程度のものが好ましく用いられる。カーボンナノチューブは光を吸収する特性があることから、カーボンナノチューブ導電体の透明性を高めるためには、直径10nm以下の単層CNT、二層CNTがより好ましい。
【0011】
また、CNTの集合体にはアモルファスカーボンや触媒金属などの不純物は極力含まれないことが好ましい。これら不純物が含まれる場合は、酸処理や加熱処理などによって適宜精製することができる。このCNTは、アーク放電法、レーザーアプレーション法、触媒化学気相法(化学気相法の中で担体に遷移金属を担持した触媒を用いる方法)などによって合成、製造されるが、なかでもアモルファスカーボン等の不純物の生成を少なくできることが好ましい。
【0012】
導電体層には導電性線状構造体の他に樹脂を含んでもよく、その樹脂は1種類または2種類以上を混合して用いることができる。それら樹脂として、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、デンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチンキトサン、セルロース、キシラン、グルコマンナン、アラビノガラクタンなどの天然高分子、およびカルボキシメチルセルロースなどの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。誘導体とはエステルやエーテルなどの従来公知の化合物を意味する。
【0013】
次に導電性線状構造体の平均長さについて説明する。本発明において平均長さとは、数平均を表すものとする。導電性線状構造体の平均長さのは15μm以上であることが好ましい。平均長さが15μm以上が好ましいのは、平均長さが長くなるとアスペクト比が大きくなり、導電性線状構造体がネットワークを形成して導電体となった際に接点数が減るために、接点抵抗を小さくすることができ、導電効率が上昇するため、高い導電性を保持した状態でも、高い透明性を維持することができるためである。さらに、屈曲性も向上するため、柔軟な基材上に導電体を形成する場合であっても、基材の屈曲性に追従することができる。また30μm以下を好ましいとするのは30μm以上の場合、現在の技術において導電性線状構造体の製造コストが大幅に上昇するためである。従って、この範囲に限定されるものではなく、今後、化学技術が発展し、製造コストに導電性線状構造体の平均長さが見合うようになれば、平均長さが長くなっても何ら問題はない。具体的に電性線状構造体の長さを測定する方法について説明する。導電フィルム上で無作為に場所を3箇所選択し、走査型電子顕微鏡にて3000倍の倍率で撮影を行う。走査型電子顕微鏡にて、導電性導電性線状構造体と基材フィルムのコントラストが低く、観察が困難な場合には、原子間力顕微鏡などを用いて撮影を行う。撮影画像の視野が実寸法100μ×100μの正方形視野となるようにトリミングし、測定用の画像を得る。次に実寸法20μ×20μの正方形を、対角線の中心が上記撮影画像の中心と重なるように描き、その正方形内に一部でも存在する全ての導電性線状構造体の長さを測定し、その平均長さを導電性線状構造体の平均長さとする。
【0014】
次に基材上に導電体層を形成する方法について説明する。
【0015】
本発明において、導電体層を形成する方法としては、例えば、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法が用いられる。本発明においては、特に、ロールtoロールによる安価な大量生産が可能で、導電体を均一にかつ生産性良く形成できるスリットダイコートを使用した方法が好ましい。
【0016】
スリットダイにて導電性線状構造体を塗布する場合、スリット形状を決定するためにシムプレートを導入する。そのシムプレートの厚みは導電性線状構造の形状に合わせて選定する必要性がある。例えば、導電性線状構造体の長さの平均値が20〜30μmであり、直径が0.05〜1.0μmの範囲であることを特徴とする導電性線状構造体を溶液中に分散した塗剤を、スリットダイ塗工にて導電体を形成させる場合は、シムプレートの厚みを40μm以上100μm以下にすることが好ましい。40μm以上のシムプレートを用いた場合、導電性線状構造体がスリットダイ内部を通過する際に、導電性線状構造体の軸方向の長さが30μmよりも長い導電性線状構造体が容易に通過し易くなり、導電性線状構造体の断列や凝集が発生し難くなるので好ましい。この導電性線状構造体の断列や凝集は、成膜後の導電体中において導電性の不均一性を発生させることが容易に想像され、これによって導電異方性が誘発されることがある。100μm以下の薄いシムプレートを用いた場合は、塗液を安定して供給可能な領域まで圧力損失を確保するために、スリットダイ内部に供給する単位時間あたりの塗液供給量を極端に多くする必要がなく好ましい。100μm以下のシムプレートの場合は、基材搬送速度が塗工を安定させる領域内にあり、基材への塗液の塗布が安定となり、塗工スジなどの欠点が発生せず、外観品位が高く維持できるので好ましい。
【0017】
次に塗布後乾燥工程に入るまでの工程(以降、レベリング工程と記すこともある)について説明する。本発明において導電性線状構造体を含む塗液の塗布後、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が10℃以上40℃以下である環境下に3分以上置いた後、塗液中の溶媒を乾燥除去する乾燥工程に入ることが好ましい。かかるレベリング工程の時間は、より好ましくは4分以上10分以下である。気流の風速に関しては、気流の風速が1.0m/s以下であることが好ましい。1.0m/s以下であると、風の影響で、風の方向に導電性線状構造体が配向することがなく、結果として導電性線状構造体が無配向となる。より好ましくは0.1m/s以上1.0m/s以下である。0.1m/s以上を好ましいとするのは、0.1m以下にしようとすると設備改善が必要であり、コストアップにつながるためである。また、0.1m/s以下としても、フィルムの搬送速度が0.1m/s以上となることが多く、結局現実的なフィルム上の風速は0.1m/s以上となってしまうので、0.1m以下とすることには技術的にあまり意味がない。また風速が1.0m/s以下の環境下に3分以上置くことで、塗布時に配向していた導電性線状構造体の配向が時間とともに緩和し、無配向に近づくので好ましい。さらに、4分以上を好ましいとするのは、4分以上置くことで配向がより無配向状態になるからである。さらに、乾燥開始までの時間をより長くすることで、塗布抜け欠点の改善にもつながるため、品質向上の面からも時間を長くすることは好ましい。なお、10分以下を好ましいとするのは生産効率を下げないようにするためである。10分以上にすると、塗布速度を下げる、または工程を長くしなければならず、結果としてコストアップにつながるため、好ましくないとされる場合があるためである。従って放置する時間についてはコストと品質を見て決定することが望ましい。
【0018】
次に乾燥工程について説明する。乾燥工程は50℃以上200℃以下で行うことが望ましい。50℃以上を好ましいとするのは、乾燥工程の時間が短くなり、生産効率が上昇するためである。また200℃以下を好ましいとするのは、200℃以上になると、フィルム自体が劣化する場合があるためである。
【0019】
連続プロセスにおいて風速が1.0m/s以下の環境下に3分以上放置する方法としては、乾燥工程までのライン長さを長くすること、が、生産効率を維持できるので好ましい。放置温度に関しては10℃以上40℃以下が好ましい。10℃以上にすると配向緩和が進み易く、放置時間を短くできるので好ましい。40℃以下にすると、塗液の乾燥を押さえられ、乾燥による配向緩和の鈍化を抑えることができるので好ましい。
【0020】
次に塗液の粘度について記載する。25℃における絶対粘度が0.5mPa・s以上60mPa・s以下であることが好ましい。60mPa・s以下が好ましいとするのは60mPa・s以下にすると配向緩和速度が上がり、より、無配向化するためである。また、0.5mPa・s以下であると塗布法によっては、塗布する際に塗布できない場合が生じるためである。
【0021】
このようにして基材上に形成された導電体層に含まれる導電性線状構造体は、該導電体層上で無作為に場所を選択して撮影した画像の中心に直径が実寸法で70μmに当たる円を作図し、該円の中心を通り該円を36等分する18本の直線を引き、前記円の内部における前記導電性線状構造体と前記直線との交点の数を各直線ごとに計数し、該交点の数が最も多い直線をl、lとなす角が90度である直線をl90としたとき、lの前記交点の数nとl90の前記交点の数n90の比である交差本数比n/n90が1.25以下であることが必要である。配向が無配向に近づくにつれてこの交差本数比は1に近づく。交差本数比が1.25以上になると導電性線状構造体が同一方向に配向することによる導電異方性が大きくなる。かかる交差本数比を得るための画像の撮影は、具体的には、次のように行う。例えば、KEYENCE社 レーザー顕微鏡(VK−9700)のように、3000倍の倍率で撮影可能な顕微鏡を使用し3000倍の倍率で撮影を行う。レーザー顕微鏡観察にて、導電性導電性線状構造体と基材フィルムのコントラストが低く、観察が困難な場合には、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡により、3000倍の倍率で撮影を行う。撮影画像の中心に、直径が実寸法70μmの円を作図する。
次に、上記撮影画像を例えば、MVtech社 HALCONの様な画像処理装置を用いて、円の中心を通り該円を36等分する18本の直線を引き、前記円の内部における前記導電性線状構造体と前記直線との交点の数を各直線ごとに計数し交点の数を求める。ここで交点の数が最も多い直線をl、lとなす角が90度である直線をl90としたとき、lの前記交点の数n、とl90の前記交点の数n90の比である交差本数比n/n90により交差本数比を求めるものとする。
【0022】
また、導電異方性に関しては上記のようにして得られた導電性フィルム上に任意の方向に基準線を引き、該基準線に対し、測定方向を、0°、30°、60°、90°120°150°とする30mm角の正方形のサンプルを各方向に付き2枚として12枚切り出し、各サンプルについて前記測定方向の端子間抵抗値R(kΩ)を測定したとき、12枚サンプル中の端子間抵抗値の最大値をRmaxと最小値をRminの比(Rmax/Rmin)が、1.40以下であることが好ましく、より好ましくは1.1以下である。導電性線状構造体の交差本数比が1.25以下の場合は、これらの値が1.40以下となり、導電体を配線材料、導電ペースト、電極材料として無作為な方向で切り出して使用しても、使用される回路に任意の電流量を均一に送電することが可能となるので好ましい。また、1.1以下であるである場合は、電磁波シールド、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極などのディスプレイ関連の光学材料などに使用する場合に、位置検出精度のずれなどの導電異方性が誘発する不具合をソフトウェアによって補正を行う必要性がなくなる等、さらに高精度の検出が求められる用途にも適用可能となるので好ましい。なお、このソフトウェア補正には特別に高度な技術を必要としないため、技術的にはディスプレイ関連の光学材料に使用することができるが、ソフトウェアを導入するためにコスト高を回避できる点で使用する必要がない方が好ましい。なお、この交差本数比と導電異方性の値には以下のような関係があると考えられる。すなわち、端子間抵抗値を測定する際に塗布する導電ペーストと交差する導電性線状構造体の数が交差本数を表しており、交差本数が増えることで導電経路が増加して導電性が良くなり、端子間抵抗値が下がるが、この交差本数に差がある、すなわち交差本数比が1.25より大きくなると、導電性に差が生まれ、端子間抵抗値の比も1.40より大きくなる。端子間抵抗値測定は導電体の体積抵抗値を知るために行う。4端子方式や渦電流方式を備えた測定機でも体積抵抗値は測定可能であるが、一定の電位方向に対する体積抵抗値を知るためには端子間抵抗値を測定する方が好ましい。
【0023】
本発明の導電体層の表面抵抗は1Ω/□以上、1×10Ω/□以下であることが好ましい。この範囲にあることで、低抵抗領域では配線材料、、電極材料に使用することが可能であり、その他の領域において、電磁波シールド、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパーやタッチパネル電極タッチパネル用の導電体として好ましく用いることができる。
【0024】
導電体の厚さには、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、厚さが薄くなるほど透明性が向上するため、使用用途に応じた透明導電性を付与する範囲で成膜することができる。このような透明性を向上させた導電体を透明基材の表面に設けることで、可視光線・近赤外光吸収フィルター、あるいは導電性被膜などの機能材料として利用することができる。
【0025】
導電体には、必要に応じてハードコート層やノングレアコート層、バリアコート層、アンカーコート層、キャリア輸送層、キャリア蓄積層などの各種機能性層を付与することもできる。これらの層は、導電体を形成している側、もしくは基材を挟んで反対側に設けてもどちらでもよく、使用に応じた付与形式をとることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。
【0027】
(1)導電体層中に含まれる導電性線状構造体の交差本数比
導電フィルム上で無作為に場所を選択し、KEYENCE社 レーザー顕微鏡(VK−9700)にて3000倍の倍率で撮影を行った。レーザー顕微鏡観察にて、導電性導電性線状構造体と基材フィルムのコントラストが低く、観察が困難な場合には、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡により、撮影を行う。撮影画像の視野を、実寸法70μ×70μの円形視野になるようにトリミングし、本数比測定用の画像を得た。
次に、上記撮影画像をMVtech社 HALCONを用いて、円形視野の中心通る長さが70μである18本の直線を隣接する直線と10°の角度となるように引き、各直線ごとの導電性線状構造体の交点の数を求めた。ここで交点の数の最大値をn、その時の直線をl、さらにlとのなす角が90度となる直線l90に交差する導電性線状構造体の本数をn90とした時、n/n90で交差本数比を求めた。
【0028】
(2)導電性線状構造体の平均長さ
導電フィルム上で無作為に場所を選択し、走査型電子顕微鏡(型名)にて3000倍の倍率で撮影を行った。走査型電子顕微鏡にて、導電性導電性線状構造体と基材フィルムのコントラストが低く、観察が困難な場合には、原子間力顕微鏡などを用いて撮影を行う。撮影画像の視野が実寸法100μ×100μの円視野となるようにトリミングし、測定用の画像を得た。次に実寸法20μ×20μの正方形を、対角線の中心が上記撮影画像の中心と重なるように描き、その正方形内に一部でも存在する全ての導電性導電性線状構造体の長さを測定し、その平均長さを導電線状構造体の平均長さとした。
【0029】
(3)端子間抵抗値
導電性フィルム上に任意の方向に基準線を引き、該基準線に対し、測定方向を、0°、30°、60°、90°120°150°とする30mm角の正方形のサンプルを各方向に付き2枚として12枚切り出し、各サンプルの回転外側と回転内側の端部5mm幅に太陽インキ株式会社製導電ペーストECM−100AF(商標登録)を80μmの厚みになるように塗布し、90℃で60分加熱乾固させ、その乾固した導電ペースト部を株式会社カスタム製デジタルテスタCDM−17D(商標登録)を用いて測定した。
【0030】
(4)粘度の測定
粘度の測定はJISK7117−2(1999)、回転粘度計による定せん断速度での粘度測定方法−付属書A共軸−二重円筒型粘度計−にのっとり、測定を行った。尚、測定条件は以下の通りである。
測定機器:Bohlin Gemini HR nano(Malvern社)
試験温度:25℃
せん断速度:250/s
(5)導電性線状構造体を含む溶液の塗布工程における気流の風速
気流角度は、塗布直後の導電フィルムが乾燥工程に入るまでの工程において、塗布する基材上2cmの場所で先端に2cmの糸を付けた棒を基板と平行に置き測定した。ここで、測定には、ポリエステル系繊維のマルチフィラメントで、太さが140dtexの糸を使用した。なおこの測定の際は、マルチフィラメントであれば、これに限定する必要はなく、ポリエステル系繊維の他に、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維などを用いてもよい。
気流の風速の測定は、塗布直後の導電フィルムを静置する工程において、風速計VelociCalc Plus マルチパラメータ風速計(型番:8386A−M−GB)を用い、塗布する基材の1cm上で、気流角度の測定法で測定した角度の気流のみの風速を測定した。基板のある一点でプローブの測定面を上記で測定した角度で、気流の風速を受けるように置いたときの風速を静止状態で30秒間測定した。30秒間測定した測定値の最大値を気流の風速とした。
【0031】
(6)導電性線状構造体を含む溶液の塗布工程における温度
温度は塗布直後の導電フィルムが乾燥工程に入るまでの工程において、塗布する基材の1cm上をCLIMOMASTER(MODEL 6531 日本カノマックス(株)製)にて測定した。温度は、該基材の導電性線状構造体を含む塗液を塗布する面の中心から1cm上で30秒以上測定し、安定したときの値とした。
(実施例1)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に5分20秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.13、導電性線状構造体の交差本数比n/n90
は1.07であった。
(実施例2)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に4分20秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.17、導電性線状構造体の交差本数比n/n90は1.00であった。
(実施例3)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に3分20秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.32、導電性線状構造体の交差本数比n/n90は1.00であった。
(実施例4)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下において放置し自然乾燥させて、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.13、導電性線状構造体の交差本数比n/n90は1.02であった。
(比較例1)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に20秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.93、導電性線状構造体の本数比は1.45であった。
(比較例2)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に50秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.79、導電性線状構造体の本数比は1.41であった。
(比較例3)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が25℃である環境下に1分20秒間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.59、導電性線状構造体の本数比は1.37であった。
(比較例4)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が3.1m/sであり、かつ、温度が35℃である環境下に4分間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が2.26、導電性線状構造体の本数比は1.65であった。
(比較例5)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が5℃である環境下に4分間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.71、導電性線状構造体の本数比は1.40であった。
(比較例6)
厚み125μmのポリエチレンレテフタレートフィルム、ルミラー(登録商標)U48(東レ(株)製)を基材として、スリットダイコートを用いて基材片面に銀ナノワイヤー分散液(平均長さ20.2μm、絶対粘度:4.5mPa・s)をシムプレート厚み50μmの条件にて塗布し、気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が60℃である環境下に4分間放置した後に乾燥温度150℃で30秒間乾燥し、導電体を設けた。この時、Ra/Rbの値が1.58、導電性線状構造体の本数比は1.30であった。
【符号の説明】
【0032】
1 直径が実寸法で70μmに当たる円
2 端子間抵抗測定用の端子箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に導電性線状構造体を含有する導電体層を有する導電性フィルムであって、該導電体層上で無作為に場所を選択して撮影した画像の中心に直径が実寸法で70μmに当たる円を作図し、該円の中心を通り該円を36等分する18本の直線を引き、前記円の内部における前記導電性線状構造体と前記直線との交点の数を各直線ごとに計数し、該交点の数が最も多い直線をl、lとなす角が90度である直線をl90としたとき、lの前記交点の数nとl90の前記交点の数n90の比である交差本数比n/n90が1.00〜1.25である導電性フィルム。
【請求項2】
前記導電性線状構造体の平均長さが15μm以上である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
前記導電性フィルム上に任意の方向に基準線を引き、該基準線に対し、測定方向を、0°、30°、60°、90°120°150°とする30mm角の正方形のサンプルを各方向に付き2枚として12枚切り出し、各サンプルについて前記測定方向の端子間抵抗値R(kΩ)を測定したとき、各サンプル間の最大値Rmaxと最小値Rminの比(Rmax/Rmin)が、1.00〜1.40である請求項1または2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
導電性線状構造体を含む塗液の絶対粘度が0.5〜60mPa・sであり、前記塗液を塗布した後の気流の風速が1.0m/s以下であり、かつ、温度が10〜40℃である環境下に3分以上置いた後、塗液中の溶媒を乾燥除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性フィルムを製造する製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−156031(P2012−156031A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14777(P2011−14777)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】