説明

導電性ペースト及びこれを用いた印刷回路

【課題】導電性ペーストが抱えている耐マイグレーション性を向上させ、さらには低抵抗で、表面平滑性、コネクター使用時の耐挿抜性、耐ブロッキング性を改良するものであり、特に高度の耐屈曲性を付与した導電性ペーストを提供する。
【解決手段】形状がフレーク状であり、かつ厚さが100オングストローム以上1300オングストローム以下であり、タップ密度が1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、比表面積が1.2m/g以上4m/g以下である銀粉(A)、及び有機樹脂(B)を含む導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペーストに関するものであり、さらに詳しくは導電性ペーストをフィルムまたは基板上に塗布または印刷、硬化することにより導電性を与え、回路を形成したり、電子部品の端子やリード線の接着を行ったり、電子装置を電磁波障害(EMI)から保護することに利用する導電性ペーストに関わるものであり、特に高い導電性と耐屈曲性の要求される回路用に適した導電ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
PETフィルムなどに導電性ペーストを印刷したメンブレン回路は低コストで軽量であり、キーボードやスイッチなどに広く使用されている。しかしながら、印刷パターンのファイン化により、年々要求特性は厳しくなってきており、従来以上の高度の耐屈曲性と導電性、耐マイグレーション性が望まれており、さらには表面平滑性、コネクター使用時の耐挿抜性、耐ブロッキング性なども、従来技術では充分でなく改良が望まれている。公知の導電性ペーストとしては特開平1−159906号公報と特開平9−306240号公報がある。特開平1−159906号公報はフレーク状の銀粉とポリエステル系樹脂とブロック化イソシアネート化合物を結合剤に使用したメンブレン回路用の銀ペーストについて記載されている。しかしながらこの導電性は比較的良好であるが現状の要求には不足しており、また、耐マイグレーション性、耐屈曲性、耐コネクター挿抜性もファインパターン化した現代の要求に対しては不足している。特開平9−306240号公報は導電粉として3次元高次構造の銀粉を使用したメンブレン回路用の銀ペーストが提案されているが、耐屈曲性、導電性共には現代の要求には不足している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、これら従来の導電性ペーストが抱えている耐マイグレーション性を向上させ、さらには低抵抗で、表面平滑性、コネクター使用時の耐挿抜性、耐ブロッキング性を改良するものであり、特に高度の耐屈曲性を付与した導電性ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上のような問題を解決するために、鋭意検討した結果、有機樹脂と平均の厚さが1300オングストローム以下のフレーク状銀粉を主体とする導電粉を使用することにより、驚くべきことに耐屈曲性が向上し、さらに耐マイグレーション性が向上することを見出し本発明に到達した。また、この導電粉を用いることにより、公知のポリマー型導電性ペーストに使用されるフレーク状銀粉と比較して硬質な結合剤を用いた場合でも、良好な耐屈曲性を得られるため、耐屈曲性と耐コネクターブロッキング性及び挿抜性の両立も可能となる。さらに、ブロック化イソシアネート化合物などの硬化剤を配合しない場合においても良好な耐屈曲性が得られるため、従来技術より低温速硬化が可能となる。また、膜厚が1〜3μm程度の薄い領域においても良好な導電性が得られるため、基材フィルムにグラビア印刷などで薄く印刷し電磁波シールド用として有用である。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の導電性ペースト及びこれを用いた印刷回路に関する。
【0006】
(1)形状がフレーク状であり、かつ厚さが100オングストローム以上1300オングストローム以下であり、タップ密度が1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、比表面積が1.2m/g以上4m/g以下である銀粉(A)、及び有機樹脂(B)を含む導電性ペースト。
(2)銀粉(A)の50%平均粒子径が1μm以上20μm以下である(1)記載の導電性ペースト。
(3)有機樹脂(B)が分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)を含有することを特徴とする(1)請または(2)記載の導電性ペースト。
(4)有機樹脂(B)が塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を含有することを特徴とする(3)に記載の導電性ペースト。
(5)有機樹脂(B)が分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)であることを特徴とする(1)または(2)記載の導電性ペースト。
(6)全ジカルボン酸、グリコール成分の合計をそれぞれ100モル%としたとき、ポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)が、酸成分として芳香族ジカルボン酸及び/または脂環族ジカルボン酸を50モル%以上、かつグリコール成分としてネオペンチルグリコール、脂環族グリコール、主鎖の炭素数5〜10の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種以上を20モル%以上共重合されていることを特徴とする請求項(3)〜(5)いずれかに記載の導電性ペースト。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されていることを特徴とする印刷回路。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性ペーストにより、低抵抗で耐屈曲性を大幅に向上でき、さらには優れた耐マイグレーション性も併せ持つ、優れた回路材料を作成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる銀粉(A)はその形状がフレーク状である必要がある。ここで言うフレーク状とは、レーザー光散乱法により測定した50%平均粒子径を後述する電子顕微鏡で測定した平均厚さで徐した値(アスペクト比)が2以上のものを示す。より具体的には、50%平均粒子径は銀粉をミクロスパテラで1〜2杯、100mlトールビーカーに採り、イソプロピルアルコールを60ml入れ、超音波ホモジナイザーで1分間分散し、粒度分布計(マイクロトラックFRA型(日機装(株))で測定することができる。測定時間は、30秒で2回測定して、50%の累積径の平均値を平均粒径とする。測定条件は、粒子の光透過性(T、P);YES、粒子の形状(S、P);NO、粒子屈折率(Pri);2.25、分散媒屈折率(Cri);1.37とする。平均厚さは、具体的には次ぎの方法で測定できる。銀粉2gを水溶性エポキシ樹脂(Quetol651(日新EM(株)製))10ccとよく混合し、60℃の恒温槽中で1時間30分静置後、注射器(ニプロシリンジ1ml(ニプロ(株)製))でサンプルを吸い出し、注射器に入れたまま60℃の恒温槽中に8時間置く。硬化した樹脂を、注射器より取り出し、ミクロトームで面出し加工を行い、カーボン蒸着後、電解放射型走査型電子顕微鏡(日立(株)製S4500型)で5000倍又は10000倍の倍率で写真を撮影し、銀粉の厚みを測定する。測定個数50個の平均値で表した。
【0009】
本発明において用いられる銀粉(A)は、さらに平均厚さが1300オングストローム以下である必要がある。驚くべきことに、形状がフレーク状で平均厚さが1300オングストローム以下とすることにより、低抵抗で著しく良好な耐屈曲性が得られる。さらには、従来技術のフレーク状銀粉、その他の形状の銀粉と比較して耐マイグレーション性、耐コネクター挿抜性を向上できる。平均厚さのより好ましい上限は1100オングストローム、さらに好ましくは900オングストロームである。下限は特に限定されないが、100オングストロームが好ましい。上限が1300オングストローム超では、耐マイグレーション性、耐屈曲性、導電性などが低下する。下限が100オングストローム未満では銀粉の吸油量が大きくなる傾向があり、密着性や耐屈曲性などが低下したり、印刷性が悪化するおそれがある。
【0010】
本発明において用いられる銀粉(A)の厚さを1300オングストローム以下にする方法としては、硝酸銀の還元により作成される1次銀粒子のレーザー光散乱法による50%平均粒子径が好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、下限は好ましくは0.01μm以上のものを、滑剤の存在下、湿式法でビーズミル、ボールミルもしくはアトライターなど公知の装置を用いて高速でミリングすることにより得られる。分散に用いるビーズは直径が3mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下が好ましい。最も好ましくは1.5mm以下、下限は0.1mm以上の小径のジルコニアあるいはシリカビーズが好ましい。分散機としては、ビーズミルが高いシェアをかけられるため好ましく、商品名としてはダイノーミル(WILLYA.BACHOFEN AG製)、Kシリーズ(ビューラー(株)製)などが挙げられる。
【0011】
本発明の銀粉(A)のその他の粉末特性としては、タップ密度が2.5g/cm3以下、比表面積が1.2m2/g以上、レーザー光散乱法のよる50%平均粒子径が20μm以下が好ましい。タップ密度はより好ましくは2.0g/cm3以下、下限は特に定めるものではないが1.0g/cm3以上が好ましい。比表面積はより好ましくは1.5m2/g以上で、上限は特に定めるものではないが4m2/g以下が好ましく、より好ましくは3m2/g以下である。50%平均粒子径はより好ましくは15μm以下、最も好ましくは10μm以下である。下限は特に定めるものではないが、導電性、密着性の面より1μm以上が好ましい。タップ密度が2.2g/cm3を越えたり、比表面積が1.5m2/g未満であったり、50%平均粒子径1μm未満であると、フレーク状銀粉の厚さが1300オングストロームを越える可能性があり、導電性、耐屈曲性、耐マイグレーション性などが低下する場合がある。
【0012】
本発明に使用するその他の導電粉としては、特性を低下しない範囲で公知のフレーク状銀粉、球状銀粉、3次元高次構造の銀粉、樹枝状銀粉、グラファイト粉、カーボン粉、ニッケル粉、銅粉、金粉、パラジウム粉、アルミ粉、インジウム粉などを併用しても良いが、形状がフレーク状で厚さが1300オングストローム以下の銀粉(A)を少なくとも全導電粉量の20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、最も好ましくは70重量%以上含むことが好ましい。この内好ましい導電フィラーとしては、公知のフレーク状銀粉、グラファイト粉、導電性カーボンブラックが挙げられる。この他、ペースト粘性を調整する目的などでシリカ粉、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、タルク、硫酸バリウムなどの非導電性フィラーを少量配合しても良い。
【0013】
本発明の導電性ペーストは、本発明の銀粉(A)とバインダー樹脂として有機樹脂(B)を組み合わせて使用される。有機樹脂(B)はその種類に制限はないが、耐屈曲性の面から数平均分子量が3000以上が好ましく、より好ましくは8000以上である。数平均分子量が3000未満であると良好な耐屈曲性が得にくく、また、ペースト粘度が低下し、印刷性の低下するおそれがある。
【0014】
また、有機樹脂(B)の種類としては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類などが挙げられる。このうち、可撓性の不要な導電性接着剤、リジット基板の回路用導電ペースト、スルーホール用導電性ペーストなどの用途にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂でも使用できるが、PETフィルム、ITO蒸着PETフィルム、ポリイミドフィルムなどのフレキシブルで比較的難接着性の基材を用いる場合は、耐屈曲性と基材に対する密着性の面から、ポリエステル樹脂、上記の変性ポリエステル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などが好ましく、最も好ましくは、共重合ポリエステル樹脂および/または変性ポリエステル樹脂(C)であり、特にこのようなフレキシブルな基材に用いた時にその特徴が発揮できる。
【0015】
有機樹脂としては、さらに具体的には、数平均分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/又は変性ポリエステル樹脂(C)を用いることが好ましく、非常に優れた耐屈曲性、基材への密着性が得られる。耐屈曲性の観点から数平均分子量は8000以上が好ましく、より好ましくは10000以上である。数平均分子量が3、000未満であると良好な耐屈曲性が得られないことがあり、また、ペースト粘度が低下し、印刷性に劣る場合がある。耐屈曲性と硬度の面からガラス転移点温度は−20℃以上が好ましく、より好ましくは−5℃以上である。密着性の観点から好ましい上限は70℃以下である。本発明のポリエステル樹脂は公知の方法により常圧または減圧下で重縮合して得られたものを使用できる。ポリエステル樹脂は飽和ポリエステルが好ましい。また、ポリエステル樹脂を重合後、180〜230℃でε−カプロラクトンなどの環状エステルを後付加(開環付加)してブロック化したり、無水トリメリット酸、無水フタル酸などの酸無水物を後付加してカルボキシル基をポリエステル分子末端に付与してもよい。
【0016】
本発明に用いられる樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)に共重合するジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、炭素数12〜28の2塩基酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3ーシクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、2−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールA、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールS、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸、水素添加ナフタレンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。また、発明の内容を損なわない範囲で、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多価のカルボン酸、フマール酸などの不飽和ジカルボン酸、さらに、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩などのスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸を併用してもよい。具体的には、全ジカルボン酸量を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸を50モル%以上共重合されたものが、硬度、密着性などの塗膜物性および耐湿性の点より好ましい。また、より好ましくは60モル%以上である。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂(C)に使用されるグリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオールなどが挙げられる。また、発明の内容を損なわない範囲でトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどの多価ポリオールを併用してもよい。これらのうち、耐湿性の面より、全グリコール成分量100モル%としたとき、ネオペンチルグリコール、脂環族グリコール、主鎖の炭素数5〜10の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種以上を20モル%以上共重合されたものが耐加水分解性の点より好ましい。またより好ましくは30モル%以上、最も好ましくは40モル%以上である。ここで言う主鎖の炭素数5〜10のグリコールとしては具体的には、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどが挙げられる。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0018】
また、本発明の導電ペーストに使用するポリエステル樹脂はウレタン変性、エポキシ変性、(メタ)アクリレート変性、(メタ)アクリルグラフト変性など公知の方法により変性して使用できる。このうち、耐屈曲性、密着性の面よりウレタン変性が特に好ましい。ウレタン変性樹脂は公知の方法により、ポリエステルポリオールと必要に応じて鎖延長剤を用いてイソシアネート化合物と反応させて合成したものを使用できる。
【0019】
ウレタン変性ポリエステル樹脂に使用するポリオールには前述したポリエステルポリオールを使用するが、この他にポリエーテルポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンポリオール、その他のポリオールを併用してもよい。その他のポリオールとしては、接着性、耐屈曲性、耐久性よりポリカーボネートジオールが特に好ましい。鎖延長剤として使用するポリオールとしてはネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、HPN(ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバリン酸エステル)、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの公知のポリオールが挙げられる。さらにジメチロールプロピオン酸のようなカルボキシル基含有ポリオールなども鎖延長剤として使用できる。
【0020】
ウレタン変性に使用するジイソシアネート化合物は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0021】
変性ポリエステル樹脂(C)としてのポリエステルウレタン樹脂のウレタン基濃度は下限は、密着性、耐屈曲性の面から500当量/106g以上が好ましく、上限は溶解性の面から4000当量/106g以下が好ましい。ここで単位である当量/106gとは、樹脂106g(1トン)あたりのウレタン基の当量数を表す。
【0022】
本発明の導電性ペーストには、ポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)の他の樹脂を併用してもよい。その他の樹脂としては、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が特に好ましく、公知の市販品を使用することができる。溶解性と塗膜物性よりポリマー中の塩化ビニルの含有量は85〜95%のものが好ましい。また、塩化ビニル、酢酸ビニル以外のモノマーとして、マレイン酸、ビニルアルコールなどを少量共重合して極性基を導入してもよい。マレイン酸によりカルボキシル基を導入すると金属に対する密着性が向上し、ビニルアルコールにより水酸基を導入するとイソシアネート化合物を硬化剤として使用できる。
【0023】
本発明に使用する有機樹脂(B)、ポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)は硬化剤を配合して使用しても良い。これらの樹脂に反応し得る硬化剤は、種類は限定しないが接着性、耐屈曲性、硬化性などからイソシアネート化合物が特に好ましい。さらに、これらのイソシアネート化合物はブロック化して使用することが貯蔵安定性から好ましい。イソシアネート化合物以外の硬化剤としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、ベンゾグアナミン、尿素樹脂などのアミノ樹脂、酸無水物、イミダゾール類、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの公知の化合物が挙げられる。
【0024】
イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートがあり、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートあるいはこれらのイソシアネート化合物の3量体、及びこれらのイソシアネート化合物の過剰量と、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の低分子活性水素化合物または各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などと反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0025】
イソシアネート基のブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類,エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第三級アルコール類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピロラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、イミダゾール類、尿素類、ジアリール化合物類、重亜硫酸ソーダ等も挙げられる。このうち、硬化性よりオキシム類、イミダゾール類、アミン類がとくに好ましい。
【0026】
これらの架橋剤には、その種類に応じて選択された公知の触媒あるいは促進剤を併用することもできる。
【0027】
本発明の導電性ペーストは、銀粉(A)とポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)を使用することにより、硬化剤を配合しなくても良好な耐屈曲性、密着性を得ることができる。硬化剤を配合しない場合(熱可塑タイプ)は熱硬化タイプより低温での乾燥が可能であるが、従来技術の熱可塑タイプでは耐屈曲性が不良であった。本発明の導電性ペーストは従来技術の熱可塑タイプと比較して著しく優れた耐屈曲性が得られる。
【0028】
本発明の導電性ペーストに用いるに溶剤はその種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系などが挙げられる。このうち、スクリーン印刷する場合はエチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、イソホロン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンなどの高沸点溶剤が好ましい。
【0029】
本発明の導電性ペーストはスクリーン印刷、グラビア印刷、転写印刷、ロールコート、フローコート、スプレー塗装等公知の方法で、PETフィルム(シート)を始めとするプラスチックフィルムに印刷してキーボードやスイッチに用いられるメンブレン回路に使用できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例を用いて説明する。実施例中、単に部とあるものは重量部を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0031】
1.分子量
GPCによりポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。測定溶媒はテトラヒドロフランを使用した。
【0032】
2.ガラス転移点温度(Tg)
示差走査熱量計(DSC)を用いて、20℃/分の昇温速度で測定した。サンプルは試料5mgをアルミニウム押え蓋型容器に入れ、クリンプした。
【0033】
3.酸価
試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレイン溶液を用いた。
【0034】
4.比表面積
銀粉15gをサンプル管に採り、比表面積自動測定装置(マイクロネリティクス2300津島製作所;BET法装置N2ガス吸着1点法)において、60±5℃、60±5分の条件で前処理をしてから、総表面積を測定した。総表面積をサンプル量で除して1g当たりの比表面積を算出した。
【0035】
5.タップ密度
銀粉100gをはかり、ロートで100ccメスシリンダーに静かに落した。タップ密度測定機にのせ、落差距離20mm・60回/分の速さで600回落下させ、圧縮した銀粉の容積を測定し、銀粉の重量と容積より算出した。
【0036】
6.レーザー光散乱法による平均粒子径(50%D)の測定
銀粉をミクロスパテラで1〜2杯、100mlトールビーカーに採り、イソプロピルアルコールを約60ml入れ、超音波ホモジナイザーで1分間分散し、粒度分布計(マイクロトラックFRA型(日機装(株))で測定した。測定時間は、30秒で2回測定して、50%の累積径の平均値を平均粒径とした。測定条件は、粒子の光透過性(T、P);YES粒子の形状(S、P);NO粒子屈折率 (Pri);2.25分散媒屈折率 (Cri);1.37とした。
【0037】
7.フレーク状銀粉の平均厚さの測定
銀粉2gを水溶性エポキシ樹脂(Quetol651(日新EM(株)製))10ccとよく混合し、60℃の恒温槽中で1時間30分静置後、注射器(ニプロシリンジ1ml(ニプロ(株)製))でサンプルを吸い出し、注射器に入れたまま60℃の恒温槽中に8時間置いた。硬化した樹脂を、注射器より取り出し、ミクロトームで面出し加工を行い、カーボン蒸着後、電解放射型走査型電子顕微鏡(日立(株)製S4500型)で5000倍又は10000倍の倍率で写真を撮影し、銀粉の厚みを測定した。測定個数50個の平均値で表した。
【0038】
8.比抵抗
150℃で30分間加熱硬化した導電性ペーストのシート抵抗を、4深針抵抗測定器を用いて測定し、シート抵抗と膜厚より比抵抗を算出した。
【0039】
9.密着性
JIS K5400 6−15に準じて評価した。粘着テープは、セロハンテープCT−12(ニチバン(株)製)を用いた。
【0040】
10.耐屈曲性
厚み100μmのアニ−ル処理ポリエステルフィルム上に導電性銀ペーストを線幅0.5mm、長さ75mmのパターンをスクリーン印刷し150℃/30分加熱硬化(加熱乾燥)したものを試料とし、荷重50g/cm2、R=0の条件で同一箇所で360°屈曲をくり返し、導体の抵抗値がKΩオーダーに達するまでの回数で評価した。また、印刷パターンの乾燥膜厚は6〜8μmで評価した。
【0041】
11.耐コネクター挿抜性
10と同様に作成したテストピースの裏面に125μmの補強フィルムを粘着したものにコネクターを10回挿抜を繰り返し、導電ペースト塗膜の剥がれの程度で評価した。
○:剥がれなし△:わずかに剥離する×:剥離する
【0042】
12.耐マイグレーション性
厚み100μmのアニ−ル処理ポリエステルフィルム上に導電性銀ペーストを図1に示す中央に1.5mmのギャップのある線幅2.0mm、長さ85.5mmのパターンを、乾燥膜厚が6〜8μmになるようにスクリーン印刷し150℃/30分加熱硬化(加熱乾燥)したものを試料とした。ついで上記ギャップ間に注射器(ニプロシリンジ1ml(ニプロ(株)製)で蒸留水0.04mlをゆるやかに滴下し定電圧電源(高砂製作所(株)製)で10V印加し、デジタルマルチメーター(武田理研(株)製)で電流値を測定、電流値が0.1mAになるまでの時間を測定し、5回の測定値の平均値で評価した。数値が大きいほど耐マイグレーション性は良好である。
【0043】
合成例.1(ポリエステル樹脂I)
グビリュー精留塔を具備した四口フラスコにジメチルテレフタル酸101部、ジメチルイソフタル酸35部、エチレングリコール93部、ネオペンチルグリコール73部、テトラブチルチタネート0.068部を仕込み、180℃、3時間エスエル交換を行なった。ついで、セバシン酸61部を仕込み、さらにエステル化反応を行なった。次に、1mmHg以下まで徐々に減圧し、240℃、1時間重合した。得られた共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=52/18/30//55/45(モル比)、数平均分子量22、000、酸価1.5mgKOH/g、Tg7℃であった。結果を表1に示す。
【0044】
合成例.2〜4(ポリエステル樹脂II〜IV)
合成例.1と同様に合成した。結果を表1に示す。
【0045】
合成例.6(ウレタン変性ポリエステル樹脂V)
温度計、攪拌機、冷却器を具備した反応容器中に合成例のポリエステル樹脂IV100部、鎖延長剤としてのネオペンチルグリコール3部、溶剤として酢酸エチルカルビトールを仕込み、80℃で溶解後、ジフェニルメタンジイイソシアネート(MDI)19.4部及びジブチル錫ジラウレート0.05部を仕込み、固形分濃度50%、70〜80℃で3時間以上かけて残存イソシアネートが無くなるまで反応させた後、酢酸エチルカルビトールで固形分濃度30%に希釈し、ウレタン変性ポリエステル樹脂Vを得た。数平均分子量は25000、酸価1.0mgKOH/g、ガラス転移点温度15℃であった。
【0046】
銀粉A−1の調整
市販のタップ密度が2.8g/cm3、比表面積が1.3m2/g、レーザー散乱法による平均粒子径が0.5μmの球状の銀粉100重量部、エチレングリコール60重量部、滑剤としてオレイン酸を0.3重量部添加し直径1mmのジルコニアビーズを用いてダイノーミルKDL−Special型(WILLYA.BACHOFEN AG製)を用いてシャフト速度3200rpm、アジテーターディスクの周速16m/s(ディスク直径96mm)で3パスミリングした。ついで、減圧濾過した後にメタノールで洗浄を2回くり返し、80℃、24時間減圧乾燥してフレーク状銀粉(A−1)を得た。得られたフレーク状銀粉の厚みを測定したところ640オングストロームであった。また、タップ密度は1.7g/cm3、比表面積は2.1m2/g、平均粒子径は5.5μm、アスペクト比86であった。形状を図2に示す。
【0047】
銀粉A−2の調整
市販のタップ密度が2.8g/cm3、比表面積が1.3m2/g、レーザー散乱法による平均粒子径が0.1μmの粒状の銀粉を用いて、銀粉(A−1)と同様にミリング、洗浄、乾燥を行った。ただし、回転速度は2500rpmで行った。得られたフレーク状銀粉(A−2)の厚みを測定したところ1000オングストロームであった。また、タップ密度は2.2g/cm3、比表面積は1.8m2/g、平均粒子径は4.0μm、アスペクト比40であった。
【0048】
銀粉A−3の調整
市販のフレーク状銀粉(AgC−A、福田金属箔粉業(株)製)をそのまま用いた。銀フレークの厚みは1540オングストロームであった。レーザー光散乱法による平均粒子径は4.5μm、比表面積0.7m2/gであり、タップ密度は3.1g/cm3、アスペクト比29であった。
【0049】
銀粉A−4の調整
市販のフレーク状銀粉(SF7、フェロジャパン(株)製)をそのまま用いた。銀フレークの厚みは2520オングストロームであった。レーザー光散乱法による平均粒子径は6.1μm、比表面積0.94m2/gであり、タップ密度は2.8g/cm3、アスペクト比24であった。
【0050】
銀粉A−5の調整
濃度37%の硝酸銀水溶液275部と濃度18%の水酸化ナトリウム水溶液220部とを40〜50℃において攪拌下で反応させ、反応終了後に蒸留水70部を添加した。ついで、これに濃度23%のホルマリン水溶液60部を加え、30〜40℃で反応させた。反応終了後のpHは8であった。得られた銀粉を濾過し、水洗、脱水を繰り返した後、メタノールで洗浄した上で濾過し、80℃で24時間減圧乾燥した。得られた銀粉は、球状の1次粒子が3次元状に結合した3次元高次構造であり、1次粒子の平均粒子径は走査型電子顕微鏡写真より0.5μmであり、2次粒子の平均粒子径は光散乱法により測定したところ11μm、比表面積1.62m2/gで、タップ密度は0.8g/cm3、であった。ただし、この銀粉はフレーク状ではなく3次元高次構造であるので厚みは測定不可である。形状を図3に示す。
【0051】
実施例.1
銀粉A−1、87部、ポリエステル樹脂(I)の酢酸エチルカルビトール溶剤11.1固形部、ブロックイソシアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット3量体のメチルエチルケトオキシムブロック体、固形分80%)1.9固形部、レベリング剤としてポリフローS(共栄社樹脂化学工業(株)製)0.5固形部、硬化触媒としてジブチルチンジラウレート0.02重量部を配合し、充分プレミックスした後、チルド3本ロール混練り機で、3回通して分散した。得られた銀ペーストは比抵抗1.8×10-5Ω・cmと非常に低抵抗であり、耐屈曲性は30回以上で非常に良好であった。また、耐マイグレーション性が従来の銀粉を用いた場合より優れており、表面平滑性が良好であり、耐コネクター挿抜性も良好であった。結果を表2に示す。
【0052】
実施例.2〜4
実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0053】
比較例1〜5
実施例1と同様に作成した。結果を表3に示す。
【0054】
表1と表2より実施例1〜4は比較例1〜5と比較して、比抵抗が非常に低く、また耐屈曲性、耐マイグレーション性、耐コネクター挿抜性も良好であった。従来の銀フレークを用いた比較例1〜2は、耐屈曲性はわずかに不十分であり、耐マイグレーション性、耐コネクター挿抜性が劣る。また、比抵抗も不十分である。さらにコネクター挿抜性も劣る。比較例3〜5については耐屈曲性が著しく劣り、耐マイグレーション性においても不十分である。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】耐マイグレーション評価用のテストパターンである。
【図2】フレーク状銀粉(A−1)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】球状の1次粒子が3次元状に結合した3次元高次構造の銀粉(A−5)の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0059】
1.PETフィルム
2.スクリーン印刷パターン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状がフレーク状であり、かつ厚さが100オングストローム以上1300オングストローム以下であり、タップ密度が1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、比表面積が1.2m/g以上4m/g以下である銀粉(A)、及び有機樹脂(B)を含む導電性ペースト。
【請求項2】
銀粉(A)の50%平均粒子径が1μm以上20μm以下である請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
有機樹脂(B)が分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)を含有することを特徴とする請求項1または2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
有機樹脂(B)が塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を含有することを特徴とする請求項3に記載の導電性ペースト
【請求項5】
有機樹脂(B)が分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ペースト。
【請求項6】
全ジカルボン酸、グリコール成分の合計をそれぞれ100モル%としたとき、ポリエステル樹脂及び/または変性ポリエステル樹脂(C)が、酸成分として芳香族ジカルボン酸及び/または脂環族ジカルボン酸を50モル%以上、かつグリコール成分としてネオペンチルグリコール、脂環族グリコール、主鎖の炭素数5〜10の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種以上を20モル%以上共重合されていることを特徴とする請求項3〜5いずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されていることを特徴とする印刷回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−171828(P2008−171828A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79556(P2008−79556)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【分割の表示】特願2002−76995(P2002−76995)の分割
【原出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】