説明

導電性ポリアニリン複合体の製造方法

【課題】高い導電性を有するポリアニリン複合体を、短い反応時間で製造する方法を提供する。
【解決手段】実質的に水と混和しない有機溶剤と、水又は水溶液からなる、二相系の重合溶媒中で、アニリン又はアニリン誘導体を、下記の成分(a)及び(b)の存在下にて重合させる、ポリアニリン複合体の製造方法。
(a)スルホン基を有する化合物
(b)界面活性剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に可溶で、かつ高い導電性を示すポリアニリン複合体の製造方法、及びポリアニリン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンは熱的に安定で、空気中でも安定な導電材料として知られており、コンデンサ、電池、センサー、エレクトロルミネッセンス材料、帯電防止材料等への適用が期待されている。
ポリアニリンは、導電性を示すエメラルジン塩の状態では、溶媒への溶解性が極めて低く、フィルムやシート等の成形や導電膜の形成等における作業性が非常に低いことが問題となっている。そこで、導電性と溶解性に優れるポリアニリンを、安定に、しかも効率良く製造する方法が模索されてきた。
【0003】
高導電性と溶解性の両方の課題を解決するための方法として、非特許文献1には、ドデシルベンゼンスルホン酸とジブチルナフタレンスルホン酸を、水−アセトン混合溶媒中に存在させて、アニリンを過硫酸アンモニウムで重合させて、クロロホルム、テトラヒドロフラン、m−クレゾールに可溶なポリアニリンを得る方法が記載されている。
しかしながら、得られたポリアニリンの導電率は1.8S/cmと低いものであった。また、スルホン基を有する界面活性剤と、それ以外の界面活性剤との組み合わせについて、開示も示唆もない。
【0004】
また、非特許文献2には、プロトン酸を使用せずに、クロロホルムに溶解したアニリンに非イオン系界面活性剤として、ポリ(エチレングリゴール)−ブロックポリ(プロピレングリコール)−ブロック(ポリエチレングリコール)コポリマー含有水溶液含有水溶液を添加して乳化物を作り、過硫酸アンモニウム水溶液を滴下して重合物を得る方法が記載されている。
しかしながら、得られたポリアニリンは重合溶媒に不溶で、導電率は1.0×10−2S/cm程度と低かった。また、重合反応系にスルホン基を有する化合物を添加することについての開示はない。
【0005】
また、特許文献1には、有機層と水層の2層系でアニリンを重合する際に、スルホン基を有するプロトン酸を加える事により、有機溶剤に可溶な複合体(エメラルディン塩)を作製し、さらにフェノール性水酸基を有する化合物を加える事で、高い導電性と優れた溶解性を示すポリアニリン組成物が開示されている。
しかし、高い導電率を得るには長い重合時間が必要で、反応時間を短縮した場合の導電率は必ずしも高いものではなかった。さらに、この文献には、スルホン基を有するプロトン酸と界面活性剤を併用したアニリンの重合方法については、開示も示唆もない。
【0006】
また、高い導電性を示すポリアニリンが特許文献2に開示されている。しかし、高い導電性を示すポリアニリンを得るためには、重合したポリアニリンを脱ドープ後、再び酸と混合処理しなければならず、製造方法は簡便とは言えなかった。また、この文献においても、スルホン基を有するプロトン酸と界面活性剤を併用したアニリンの重合方法については、開示も示唆もない。
【特許文献1】国際公開第2005/052058パンフレット
【特許文献2】特開2005−272840号公報
【非特許文献1】European Polymer Journal 36(2000)2201
【非特許文献2】Journal of Macromolecular Science, Part A: Pure and Applied Chemistry, 42:891(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑み、高い導電性を有するポリアニリン複合体を、短い反応時間で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、アニリンの重合時に、スルホン基を有する化合物とそれ以外の界面活性剤を加える事により、安定な乳化状態が得られ、その結果、高い導電性を有するポリアニリン複合体が短い反応時間で安定的に得られる事を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下のポリアニリン複合体の製造方法等が提供される。
1.実質的に水と混和しない有機溶剤と、水又は水溶液からなる、二相系の重合溶媒中で、アニリン又はアニリン誘導体を、下記の成分(a)及び(b)の存在下にて重合させる、ポリアニリン複合体の製造方法。
(a)スルホン基を有する化合物
(b)界面活性剤
2.前記(b)界面活性剤がリン酸系の陰イオン界面活性剤である1に記載のポリアニリン複合体の製造方法。
3.前記(b)界面活性剤がノニオン系界面活性剤である1に記載のポリアニリン複合体の製造方法。
4.前記(a)スルホン基を有する化合物がスルホコハク酸誘導体である1〜3のいずれかに記載のポリアニリン複合体の製造方法。
5.上記1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られ、前記(b)界面活性剤を含有するポリアニリン複合体。
6.上記5に記載のポリアニリン複合体とフェノール性水酸基を有する化合物を含むポリアニリン組成物。
7.上記6に記載のポリアニリン組成物から得られる導電性成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短い重合時間で高導電性と良溶解性の両方を備えたポリアニリン複合体が安定的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリアニリン複合体の製造方法は、重合溶媒が、実質的に水と混和しない有機溶剤と、水又は水溶液からなる二相系であり、このなかで単量体であるアニリン又はアニリン誘導体を、下記の成分(a)及び(b)の存在下にて重合させることを特徴とする。
(a)スルホン基を有する化合物
(b)界面活性剤
【0012】
本発明の製造方法では、(a)スルホン基含有化合物と、(b)界面活性剤を併用する事により、反応系が安定した乳濁状態を形成し、反応速度の向上が達成される。
【0013】
(a)スルホン基含有化合物は、ポリアニリン複合体においてドーパントとしての機能を有する。スルホン基含有化合物は、重合時に液滴(有機層)の大きさを小さくする働きがあるが、この化合物のみでは、液滴の大きさを十分に小さくすることはできない。そのため、結果として、高導電率のポリアニリン複合体を得るには、重合時間を長くする必要がある。
そこで、本発明では(b)界面活性剤を併用することで、液滴が十分小さくなり、重合時間を短縮しても、高導電率のポリアニリン複合体が得られる。
【0014】
実質的に水と混和しない有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒が挙げられる。生成したポリアニリン複合体の溶解性に優れる点で、トルエン、キシレン、クロロホルムが好ましい。
【0015】
水溶液としては、酸性水溶液が使用でき、例えば、1規定程度の希塩酸水溶液が挙げられる。
反応系における重合溶媒の体積比率は、水又は水溶液を、有機溶剤より多くすることが好ましい。これにより重合反応熱の除去が容易となり、副反応が低減される。
【0016】
単量体であるアニリン又はアニリン誘導体としては、無置換又はメチル基、エチル基、ヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシロキシ基等で置換されたアニリン誘導体が使用できる。入手が容易であるため無置換のアニリンが好ましい。
【0017】
(a)スルホン基を有する化合物としては、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルスルホコハク酸エステル等が挙げられる。好ましくは、アルキルスルホコハク酸エステルである。
【0018】
好ましいスルホン基含有化合物として、下記式(I)で示される有機プロトン酸又はその塩(以下、有機プロトン酸(I)又はその塩という)が挙げられる。
M(YARn)m (I)
この化合物は酸性度が高くドープしやすいので好ましい。これによりプロトネーションされたポリアニリンの導電性及び溶解性が向上する。
【0019】
式(I)において、Mは、水素原子又は有機若しくは無機遊離基である。有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基等が挙げられ、無機遊離基としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、セリウム、アンモニウム等が挙げられる。
Yは、−SO基である。
【0020】
Aは、置換基を含んでもよい炭化水素基であり、例えば、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキルやアルケニル基、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、メンチル等の置換基を含んでいてもよいシクロアルキル基、ビシクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチル等の縮合してもよいジシクロアルキル基若しくはポリシクロアルキル基、フェニル、トシル、チオフェニル、ピローリニル、ピリジニル、フラニル等の置換基を含んでいてもよい芳香環を含むアリール基、ナフチル、アントラセニル、フルオレニル、1,2,3,4−テトラヒドロナフチル、インダニル、キノリニル、インドニル等の縮合していてもよいジアリール基若しくはポリアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。
【0021】
Rは、それぞれ独立して、−R、−OR、−COR、−COOR、−CO(COR)、―CO(COOR)である。ここで、Rは炭素数が4以上の置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、又は−(RO)x−R基、−(OSiR)x−OR(Rはアルキレン基、Rはそれぞれ同一でも異なってもいてもよい炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である。Rが炭化水素基である場合の例としては、直鎖若しくは分岐のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。
nは2以上の整数であるであり、mは、Mの価数である。
【0022】
式(I)で示される化合物としては、ジアルキルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルナフタレンスルフォン酸、スルホフタール酸エステル、下式(II)で表される化合物が、ドープし易い点から好ましく利用できる。
M(YCR(CRCOOR)COOR (II)
上記式(II)において、Mは、式(I)の場合と同様に水素原子又は有機若しくは無機遊離基である。有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基等が挙げられ、無機遊離基としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、セリウム、アンモニウム等が挙げられる。
Yは−SO基である。
【0023】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はRSi−基(ここで、Rは、炭化水素基であり、3つのRは同一又は異なっていてもよい)である。R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。Rが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRの場合と同様である。
【0024】
及びRは、それぞれ独立して炭化水素基又は−(RO)−R10基[ここで、Rは炭化水素基又はシリレン基であり、R10は水素原子、炭化水素基又はR11Si−(R11は、炭化水素基であり、3つのR11は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。これらの中では、水と混和しない有機溶剤に溶解しやすいポリアニリン複合体を得るという観点から炭素数4以上のものが好ましい。R及びRが炭化水素基である場合の炭化水素基の具体例としては、例えば、直鎖又は分岐状のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0025】
及びRにおける、Rが炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基等である。また、R及びRにおける、R10及びR11が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRの場合と同様であり、qは、1〜10であることが好ましい。
【0026】
及びRが−(RO)−R10基である場合の具体例としては、例えば、下記式で示される基が挙げられる。
【化1】

(式中、Yは−SO基である)
【0027】
pは、上記Mの価数である。
【0028】
上記有機プロトン酸(II)又はその塩は、下記式(III)で示されるスルホコハク酸誘導体(以下、スルホコハク酸誘導体(III)という)であることが、導電性及び溶解性の点で更に好ましい。
M(OSCH(CHCOOR12)COOR13 (III)
上記式(III)において、M及びmは、上記式(I)と同様である。
【0029】
12及びR13は、それぞれ独立して炭化水素基又は−(R14O)−R15基[ここで、R14は炭化水素基又はシリレン基であり、R15は水素原子、炭化水素基又はR16Si−基(ここで、R16は炭化水素基であり、3つのR16は同一又は異なっていてもよい)であり、rは1以上の整数である]である。
【0030】
12及びR13が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRと同様である。
【0031】
12及びR13において、R14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記Rと同様である。また、R12及びR13において、R15及びR16が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R及びRと同様である。
【0032】
rは、1〜10であることが好ましい。
【0033】
12及びR13が−(R14O)−R15基である場合の具体例としては、R及びRにおける−(RO)−R10と同様である。
【0034】
12及びR13が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R及びRと同様であり、水と混和しない有機溶剤に溶解しやすいポリアニリン複合体を得るという観点から、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、デシル基等が好ましく挙げられる。
【0035】
有機プロトン酸又はその塩は、ポリアニリンをプロトネーションする機能を有し、ポリアニリン複合体中においては、ドーパント(カウンターアニオン)として存在している
【0036】
(b)界面活性剤としては、例えば、脂肪酸、不均化ロジン石けん、高級アルコールエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルりん酸、アルケニルコハク酸、ザルコシネート等、及びそれらの塩等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレングリセロールボレート脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アミノ酸型、アミンオキサイド型等の両イオン界面活性剤が挙げられる。
尚、界面活性剤として、上述した(a)のスルホン基を含有する化合物やスルホン基を有する化合物からなる一般的な界面活性剤を用いてもよい。この場合、本発明の製造方法では2種類以上の「スルホン基を含有する化合物」を用いることになる。
【0037】
好ましいものとして、陰イオン界面活性剤、又は非イオン系(ノニオン系)界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤のうちリン酸系のものが好ましい。尚、界面活性剤は、1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
本発明においては、重合時に触媒(酸化剤)を使用することが好ましい。
酸化剤としては、過硫酸もしくはその塩、クロム酸もしくはその塩、過塩素酸もしくはその塩、ヨウ素酸、過マンガン酸もしくはその塩等が挙げられる。安定性や取り扱いの容易さ等の理由から、好ましくは過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0039】
続いて重合方法について説明する。
反応容器中に、上述した有機溶媒、水又は水溶液、モノマー、スルホン基含有化合物(a)、及び界面活性剤(b)を投入し、撹拌しながら触媒(酸化剤)を添加することにより重合を進行させる。
モノマーの仕込み濃度は、通常、1〜100g/lであり、好ましくは、5〜50g/lである。
スルホン基含有化合物(a)の添加量としては、モノマー量に対して0.1〜0.5当量(モル比)が好ましく、特に0.2〜0.4当量(モル比)程度が好ましい。
界面活性剤(b)の添加量は、スルホン基含有化合物(a)の0.05〜0.2当量(モル比)程度が好ましい。
【0040】
反応は−20℃から室温付近の範囲でおこなう事が可能である。好ましくは5℃以下である。尚、室温付近以上の温度、例えば30℃を超える温度下で重合すると、副反応が進行するので好ましくない。
重合時間は、2時間から20時間程度であるが、2時間から10時間程度と短時間で完結する。
【0041】
尚、酸化剤を添加する前に、あらかじめ系を撹拌することも有効である。この場合、反応系は乳白色の乳濁状態を呈する。このときの撹拌時間は5分から8時間程度であり、30分から2時間程度が好ましい。
【0042】
撹拌を停止した後、分液漏斗に内容物を移し、水溶液層と有機溶剤層を静置分離し、分離後に有機層をイオン交換水や塩酸水溶液で洗浄することにより、ポリアニリン複合体溶液を回収できる。
このポリアニリン複合体溶液から、例えば、減圧下で揮発分を留去させることで乾燥固体状のポリアニリン複合体が得られる。
このポリアニリン複合体は高い導電率を有する。また、本発明の製造方法は再現性がよく、繰り返しポリアニリン複合体を製造しても、安定的に高い導電率のポリアニリン複合体を製造できる。
【0043】
本発明のポリアニリン組成物は、上述した本発明の方法で製造したポリアニリン複合体とフェノール性水酸基を有する化合物を含む。本発明の組成物において、フェノール性水酸基を有する化合物はドーパントとして機能する。
フェノール性水酸基を有する化合物としては、フェノール、o−、m−、p−クレゾール、o−、m−、p−エチルフェノール、o−、m−、p−プロピルフェノール、o−、m−、p−クロロフェノール等の置換フェノール類、1−ナフトール、2−ナフトール等のナフトール類、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール類、ビフェノール、ビスフェノールA等の多核フェノール類が挙げられる。
【0044】
例えば、WO2005/052058公報記載の方法を参照することで、組成物が作製できる。具体的に、ポリアニリン複合体が溶解した溶液にフェノール性化合物を配合することで導電性ポリアニリン組成物溶液を得ることができる。
【0045】
トルエン等の有機溶剤中のポリアニリン複合体の割合は、有機溶剤の種類によるが、通常、900g/L以下であり、好ましくは0.01〜300g/Lの範囲である。
ポリアニリン組成物の全体に占めるフェノール性化合物のモル濃度は、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。この範囲で特に優れた導電性が得られる。特に、0.2mol/L〜2mol/Lの範囲であることが好ましい。
尚、本発明のポリアニリン組成物には目的に応じて、他の樹脂材料、無機材料、硬化剤、又は可塑剤等を添加してもよい。
【0046】
本発明のポリアニリン組成物を乾燥し、有機溶剤を除去することにより、導電性成形体が得られる。
例えば、所望の形状を有するガラスや樹脂フィルム、シート等の基材に塗布し、有機溶剤を除去することによって導電性膜を製造できる。
【0047】
本発明の組成物を基材に塗布する方法としては、キャスト法、スプレー法、ディップコート法、ドクターブレード法、バーコード法、スピンコート法、スクリーン印刷、グラビア印刷法等、公知の一般的な方法を用いることができる。
【0048】
水不混和性有機溶剤を除去するには、加熱して有機溶剤を揮発させればよい。水不混和性有機溶剤を揮発させる方法としては、例えば、空気気流下250℃以下、好ましくは50〜200℃の温度で加熱し、さらに、必要に応じて、減圧下に加熱する。尚、加熱温度及び加熱時間は、特に制限されず、用いる材料に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
また、基材を有しない自己支持型成形体とすることもできる。自己支持型成形体とする場合には、本発明の組成物に、上述した他の樹脂材料を添加することにより、所望の機械的強度を有する成形体を得ることができる。
【0050】
本発明の成形体が膜又はフィルムである場合、これらの厚さは、通常1mm以下、好ましくは10nm〜50μmの範囲である。この範囲の厚みの膜は、成膜時にひび割れが生じにくく、電気特性が均一である等の利点を有する。
尚、膜又はフィルム以外の成形体の例としては、糸、ペレット等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
実施例1
容積500mlのセパラブルフラスコに、(a)成分としてAOT(エアロゾールOT、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、和光純薬製)1.8g(4mmol)、及び減圧蒸留により精製し、窒素下にて保管したアニリン1.8g(20mmol)を溶解させたトルエン溶液50mlを投入した。
これに、(b)成分の界面活性剤として、Surfmer FP−120(東邦化学工業株式会社製、リン酸系陰イオン界面活性剤)0.33g(AOTの0.1当量:モル比)を加えた。
さらに、1規定のHCl水溶液150mlを注ぎ込んで、5℃に設定した恒温バスにセットして機械式撹拌機で30分間撹拌した。これに、1NのHCl水溶液50mlに過硫酸アンモニウム(酸化剤)2.7g(12mmol)を加えたものを、滴下漏斗より2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに8時間同温にて撹拌(合計反応時間10時間)した。
撹拌停止後、分液漏斗に内容物を移し、水層とトルエン層を静置分離した。分離後、有機層をイオン交換水50mlで2回、1NのHCl水溶液50mlで1回洗浄することにより、ポリアニリン複合体溶液を得た。
【0052】
このポリアニリン複合体のトルエン溶液から、減圧下で揮発分を留去させると濃青色乾燥固体が得られた。この固体を再度トルエンに溶解して、5Bろ紙にて吸引ろ過、次いで、No.2の濾紙にて不溶分を除去した後、トルエン可溶分画から揮発分を減圧留去し、固形分濃度5wt/v%になるようにトルエン溶液を調整した。
この溶液4mlを20mlのサンプル瓶にとり、m−クレゾールを400μl加えて30℃の水浴中で30分間撹拌し、ポリアニリン組成物溶液を得た。
この溶液をガラス板にキャストし、80℃で30分乾燥させて製膜した。これにより膜厚15μmの自立性の膜を得た。この膜の固有導電率を四端子法(測定機器:ロレスタGP、三菱化学製)にて測定したところ、260S/cmであった。
また、この膜0.04gに硝酸4.5ml及び過塩素酸0.5mlを加え、マイクロ波前処理装置にて分解後希釈し、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析でリンを定量したところ、0.17%含まれていることが判明した。他にリンを含む化合物を反応系に添加していないことから、このリンは、(b)成分に由来するものと考えられる。
【0053】
比較例1
(b)成分である界面活性剤を加えなかった他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は62S/cmであり、実施例1よりも劣っていた。
【0054】
実施例2
容量500mlのセパラブルフラスコに、AOT1.8g(4mmol)、アニリン1.8g(20mmol)のトルエン溶液50ml、Surfmer FP−120、0.33gを投入した。これに1NのHCl水溶液150mlを注ぎ込んで、5℃に設定した恒温バスにセットして30分間撹拌した。
その後、過硫酸アンモニウム2.7g(12mmol)を含む1NのHCl水溶液50mlを、滴下漏斗より2時間かけて滴下し、さらに、4時間同温で撹拌した(合計反応時間6時間)。
撹拌停止後、分液漏斗に内容物を移し、実施例1と同様に処理してポリアニリン複合体溶液を得た。その後、実施例1と同様にしてポリアニリン組成物を製造し、成膜した。得られた膜の導電率を測定したところ218S/cmであった。
これは、合計反応時間が6時間程度でも、高導電率のポリアニリン組成物が得られることを示している。
【0055】
実施例3
過硫酸アンモニウムを含む1NのHCl水溶液50mlを、滴下漏斗より2時間かけて滴下し、さらに2時間(合計反応時間4時間)同温で撹拌した他は、実施例2と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は193S/cmであった。本発明においては、4時間という短い重合時間で導電性の高いポリアニリン組成物が得られることが示された。
【0056】
比較例2
過硫酸アンモニウムを含むHCl水溶液の滴下終了後の撹拌時間を2時間(合計反応時間4時間)とした他は、比較例1と同様にしてポリアニリン複合体の製造及び組成物の製造を行った。
得られたポリアニリン組成物溶液の製膜を試みたが、膜が粘調となり、導電率を測定できる膜は得られなかった。
このように(b)成分である界面活性剤を添加しない場合、4時間程度の重合時間では、膜が形成できる程度に高分子量であるポリアニリンは生成しないことが推定される。
【0057】
実施例4
反応容器の容量を1Lとし、仕込み溶媒量、試薬量を全て実施例1の2倍にした他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は251S/cmであった。このように、2倍にスケールアップしても、ほぼ同等の導電率を示すポリアニリン組成物が製造できることが確認された。さらにスケールアップしても、同等の性能のポリアニリンが得られるものと思われる。
【0058】
実施例5
AOTの量を2.7g(6mmol)とし、また、Surfmer FP−120を0.33g加えた後、予め30分間撹拌した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。その結果、得られた膜の固有導電率は402S/cmであった。
【0059】
実施例6
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、コハクールL−300(東邦化学工業株式会社製、スルホコハク酸系界面活性剤)0.8g(AOTの0.1当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は170S/cmであった。
【0060】
実施例7
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、フォスファノールRD−510Y(東邦化学工業株式会社製、リン酸エステル型界面活性剤)0.18g(AOTの0.1当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は223S/cmであった。
【0061】
実施例8
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、ペグノールTH−8(東邦化学工業株式会社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤)0.18g(AOTの0.84当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は223S/cmであった。
【0062】
実施例9
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、ペグノールL−12S(東邦化学工業株式会社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤)0.32g(AOTの0.11当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は98S/cmであった。
【0063】
実施例10
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、ソルボン S−20(東邦化学工業株式会社製、ソルビタン脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤)0.14g(AOTの0.1当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は157S/cmであった。
【0064】
実施例11
(b)成分として、Surfmer FP−120の代わりに、ソルボン T−20(東邦化学工業株式会社製、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤)0.5g(AOTの0.1当量)を使用した他は、実施例1と同様にしてポリアニリン複合体を製造し、ポリアニリン組成物を成膜して評価した。
その結果、得られた膜の固有導電率は121S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法で得たポリアニリン複合体は、特にパワーエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス分野において、静電・帯電防止材料、透明電極や導電性フィルム材料、エレクトロルミネッセンス素子の材料、回路材料、コンデンサの誘電体・電解質、太陽電池や二次電池の極材料、燃料電池セパレータ材料等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に水と混和しない有機溶剤と、水又は水溶液からなる、二相系の重合溶媒中で、アニリン又はアニリン誘導体を、下記の成分(a)及び(b)の存在下にて重合させる、ポリアニリン複合体の製造方法。
(a)スルホン基を有する化合物
(b)界面活性剤
【請求項2】
前記(b)界面活性剤がリン酸系の陰イオン界面活性剤である請求項1に記載のポリアニリン複合体の製造方法。
【請求項3】
前記(b)界面活性剤がノニオン系界面活性剤である請求項1に記載のポリアニリン複合体の製造方法。
【請求項4】
前記(a)スルホン基を有する化合物がスルホコハク酸誘導体である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアニリン複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られ、前記(b)界面活性剤を含有するポリアニリン複合体。
【請求項6】
請求項5に記載のポリアニリン複合体とフェノール性水酸基を有する化合物を含むポリアニリン組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のポリアニリン組成物から得られる導電性成形体。

【公開番号】特開2008−75039(P2008−75039A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258528(P2006−258528)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】