説明

導電性基材及びその製造方法

【課題】DLC膜をコストアップにならずに、導電性と耐食性の両方を備えた導電性基材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材2と、基材2上に設けられた、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜3とを有する導電性基材1により上記課題を解決する。ニッケルとクロムがモル比で1:1〜3:1であることが好ましい。このダイヤモンドライクカーボン膜3は、プラズマ化した昇華ガスをニッケル及びクロム原料に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、前記昇華ガスに炭化水素ガスを接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、イオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材2上に堆積させて成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐食性と導電性を持つダイヤモンドライクカーボン膜を有する導電性基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(硬質炭素ともいい、DLCと略される。)は、アモルファスで、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、自己潤滑性に富むという特徴がある。そのため、従来、切削工具、金型、機械部品、電子部品等の耐摩耗性皮膜として利用されている(特許文献1,2)。また、DLC膜を誘電性皮膜として用いた例では、DLC膜中のタングステン等の含有元素量をコントロールすれば、誘電性皮膜から導電性皮膜にまで広く変化させることができ、誘電性皮膜のフラッシュオーバー又は絶縁破壊を防止できるとされている(特許文献3)。また、DLC膜にホウ素を含有させて導電性を付与することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−194960号公報
【特許文献2】特開2008−214759号公報
【特許文献3】特表平11−508963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、DLC膜に導電性を与え、耐摩耗性のある電極材料としての可能性に着目して検討している過程で、上述したホウ素をDLC膜に含有させるのに用いるBH等の毒性の高い反応性ガスは、それ自体高コストであり、しかも除害装置が必要となる等、扱いにくく、コストアップになるという問題があった。また、電極材料として適用する際には、電解質に対する高い耐食性が要求されるので、たとえ適度な導電性が得られたとしても、適用する電解質に対する耐食性を満足させる必要があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、DLC膜をコストアップにならずに、導電性と耐食性の両方を備えた導電性基材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした導電性基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る導電性基材は、基材と、該基材上に設けられた、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜にニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有させることにより、そのダイヤモンドライクカーボン膜は導電性と耐食性の両方を備えることができる。ニッケルとクロムはそれ自体も低コストであり、コストアップにならずに導電性と耐食性を付与することができる。
【0008】
本発明に係る導電性基材において、前記ニッケルとクロムがモル比で1:1〜3:1であることが好ましい。
【0009】
この発明によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれるニッケル及びクロムのモル比を上記範囲内とすることにより、10Ω/□以下の表面抵抗となる導電性を持たせることができる。
【0010】
本発明に係る導電性基材において、前記ダイヤモンドライクカーボン膜が、ヨウ素溶液への浸漬前後で表面抵抗の変化が起こらない耐ヨウ素液性を有することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、色素増感型太陽電池の電極材料のように、耐ヨウ素液性が要求される電極材料として好ましく適用することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る導電性基材の製造方法は、プラズマ化した昇華ガスをニッケル及びクロム原料に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、前記昇華ガスに炭化水素ガスを接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、イオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材上に堆積させて、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜を成膜することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、プラズマ化した昇華ガスをニッケル及びクロム原料に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、前記昇華ガスに炭化水素ガスを接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、イオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材上に堆積させて上記組成のダイヤモンドライクカーボン膜を成膜するので、従来のようなBH等の毒性の高い反応性ガスを用いる必要がない。また、例えば加熱又はプラズマビームで蒸発させるニッケル及びクロム自体も低コスト材料であり、しかも除害装置も必要にならないという利点もある。その結果、導電性と耐食性の両方を備えた導電性基材を低コストで製造することができる。さらにこの発明によれば、ニッケル、クロム及び炭化水素ガスのイオン化を、単一のプラズマ源で同時に行うことが可能となり、製造上極めて効率的である。しかも、同時に行うことにより、ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれるニッケル及びクロムの分布を均一なものとすることができ、ダイヤモンドライクカーボン膜の導電性と耐食性を局所的な偏りなく成膜することができる。
【0014】
本発明に係る導電性基材の製造方法において、前記炭化水素ガスのイオン化量と前記ニッケル及びクロムのイオン化量とを制御して、前記ニッケルとクロムをモル比で1:1〜3:1とすることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれるニッケル及びクロムのモル比を上記範囲内とすることにより、10Ω/□以下の表面抵抗となる導電性を持たせることができる。そうしたモル比は、炭化水素ガスのイオン化量とニッケル及びクロムのイオン化量を制御して行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る導電性基材によれば、ニッケルとクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜を設けることにより、コストアップにならずに導電性と耐食性の両方を付与することができる。
【0017】
本発明に係る導電性基材の製造方法によれば、ニッケル及びクロムをイオン化し、且つ該炭化水素ガスをイオン化し、両者を基材上に堆積させてダイヤモンドライクカーボン膜を成膜するので、従来のようなBH等の毒性の高い反応性ガスを用いる必要がない。また、例えば加熱又はプラズマビームで蒸発させるニッケル及びクロム自体も低コスト材料であり、しかも除害装置も必要にならないという利点もある。その結果、導電性と耐食性の両方を備えた導電性基材を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る導電性基材の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明に係る導電性基材を製造するためのイオンプレーティング装置の一例を示す模式的な断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
[導電性基材]
本発明に係る導電性基材1は、基材2と、基材2上に設けられたダイヤモンドライクカーボン膜3とを有し、そのダイヤモンドライクカーボン膜3は、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有する。以下、導電性基材1の構成要素について詳しく説明する。
【0021】
(基材)
基材2は特に限定されず、金属材料基材、無機材料基材、有機材料基材のいずれであってもよい。本発明を構成するダイヤモンドライクカーボン膜3は導電性と耐食性を有するので、ダイヤモンドライクカーボン膜3を設けることにより導電性と耐食性を付与できる基材2であることが特に望ましい。
【0022】
金属材料基材は耐食性が乏しいものが多いので、金属材料基材にダイヤモンドライクカーボン膜3を設けることにより、導電性をある程度維持したまま耐食性を付与することが望ましい。そうした金属材料基材としては、耐酸性の乏しい鉄、銅、クロム、ニッケル、アルミニウム、錫、亜鉛、チタン等を挙げることができる。無機材料基材と有機材料基材は導電性に乏しいものが多いので、無機材料基材又は有機材料基材にダイヤモンドライクカーボン膜3を設けることにより、耐食性をある程度維持したまま導電性を付与することが望ましい。そうした無機材料基材としては、導電性に乏しいガラス基材、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の酸化物基材、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン等の窒化物基材、炭化珪素、炭化タングステン等の炭化物基材、酸化窒化珪素、酸化窒化アルミニウム等の酸化窒化基材、その他複合酸化物等を挙げることができる。有機材料基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーポネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、シクロポリオレフィン(CPO)、ポリアリレート(PAR)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド等を挙げることができる。
【0023】
後述するように、イオンプレーティング装置等を用いてダイヤモンドライクカーボン膜3を成膜する場合には、比較的耐熱性のある基材を用いることが好ましく、金属材料基材と無機材料基材は特に問題はないが、有機材料基材においては、ある程度の耐熱性があるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーポネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、シクロポリオレフィン(CPO)、ポリアリレート(PAR)等を好ましく用いることができる。
【0024】
基材2の形態は、具体的な用途や目的等に応じて、板状、シート状、フィルム状の平面的基材であってもよいし、部品又は部材等の任意の立体的基材であってもよい。また、ウエハ、プリント基板、様々なカード等であってもよい。シート状又はフィルム状の有機材料基材においては、必要に応じ、長手方向乃至幅方向に延伸処理されたフィルムであってもよい。基材の寸法や厚さも特に限定されない。
【0025】
基材2の表面には、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、UV照射処理、大気圧プラズマ処理、易接着化処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。
【0026】
このように、導電性と耐食性を持つダイヤモンドライクカーボン膜3を基材2上に設けることにより、各基材が不足する性質を補うことができる。特に有機材料基材のように、導電性を持たない基材上にダイヤモンドライクカーボン膜3を設けて耐食性に優れた導電性基材1とすることは意義がある。
【0027】
なお、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、基材2のうちダイヤモンドライクカーボン膜3が形成される側の表面の平坦度を高めるため、当該表面上に平坦化層(図示しない)を適宜設けてもよい。平坦化層の材料としては、例えば、ゾル−ゲル材料、硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂、熱硬化型樹脂)、及びフォトレジスト材料等を挙げることができる。例えば、アクリレート系樹脂、エポキシ基をもつ反応性のプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合したものである電離放射線硬化型樹脂を挙げることができ、また、電離放射線硬化型樹脂に、必要に応じてウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、プチラール系、ビニル系等の熱可塑性樹脂を混合して液状とした樹脂を用いることもできる。このような液状樹脂は、分子中に重合性不飽和結合を有しており、紫外線(UV)や電子線(EB)を照射することにより架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化するという特性を示す。
【0028】
(ダイヤモンドライクカーボン膜)
ダイヤモンドライクカーボン膜3は、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するアモルファス膜である。ニッケル及びクロムの合計成分割合をこの範囲内とすることにより、ダイヤモンドライクカーボン膜3に導電性と耐食性を付与することができる。合計成分割合が30モル%未満では、所望の導電性(例えば表面抵抗で10Ω/□以下)を付与することができない場合があり、合計成分割合が76モル%を超えると、酸やヨウ素液に対する耐食性が不十分になることがある。なお、ここでの耐食性とは、酸やヨウ素液に接触させた後の導電性が実質的に変化しないことをいい、その実質的に変化しないとは、表面抵抗値の変化が±2%以内を維持できることをいうものとする。
【0029】
ニッケルとクロムは、モル比で1:1〜3:1であることが好ましい。ニッケルとクロムはそれ自体が低コスト材料であり、コストアップにならずに導電性と耐食性を付与することができる。本発明では、ダイヤモンドライクカーボン膜3に含まれるニッケル及びクロムモル比を上記範囲内とすることにより、10Ω/□以下の表面抵抗となる導電性を持たせることができる。
【0030】
ダイヤモンドライクカーボン膜3の成膜手段は特に限定されず、いかなる手段で成膜してもよい。一例としては、後述する「製造方法」欄及び実施例に示すイオンプレーティング法で成膜することができるが、必ずしもその成膜手段に限定されない。なお、後述のイオンプレーティング法でダイヤモンドライクカーボン膜3を成膜する場合、ダイヤモンドライクカーボン膜3が含有するニッケル及びクロムの合計成分割合と、ニッケル及びクロムのモル比とは、チャンバ内に導入する炭化水素ガス流量、プラズマ放電電力、成膜圧力、蒸着原料中のニッケル/クロムのモル比、等により制御可能である。
【0031】
ダイヤモンドライクカーボン膜3の厚さは特に限定されないが、例えばシート状基材又はフィルム状基材上に設ける場合には、20〜150nm程度とすることが好ましい。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜3がアモルファスであることは、X線回折測定によって評価できる。
【0032】
こうしたダイヤモンドライクカーボン膜3は、塩酸等の酸溶液への接触(又は浸漬)前後での表面抵抗の実質的な変化が起こらない耐酸性、及び/又は、ヨウ素溶液への接触(又は浸漬)前後での表面抵抗の実質的な変化が起こらない耐ヨウ素液性、を有する。特に耐ヨウ素液性を有するダイヤモンドライクカーボン膜3は、色素増感型太陽電池の電極材料のように、耐ヨウ素液性が要求される電極材料として好ましく適用することができる。
【0033】
以上説明した本発明に係る導電性基材1によれば、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜3は導電性と耐食性の両方を備えるので、そのダイヤモンドライクカーボン膜3を基材2上に設けた導電性基材1に導電性と耐食性を付与することができる。
【0034】
こうした導電性基材1は、ヨウ素液に接触する上記した太陽電池の電極材料として、また、耐酸性と導電性が要求される燃料電池のセパレータ材料として、また、電装部品として用いることができる。その他、導電性と耐食性が要求される各種の用途に適用できる。
【0035】
[導電性基材の製造方法]
本発明に係る導電性基材1の製造方法は、プラズマ化した昇華ガスをニッケル及びクロム原料に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、前記昇華ガスに炭化水素ガスを接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、イオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材2上に堆積させて、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜3を成膜する。
【0036】
(製造装置)
図2は、本発明に係る製造方法を実施できる装置の一例である。以下、図2に示す装置を用いて行う導電性基材の製造方法について説明する。なお、当該装置は、イオンプレーティング装置である。
【0037】
図2に示す装置10は、真空チャンバ12内に設置された基材2に対して蒸着材料20を蒸着するイオンプレーティング装置である。当該装置10は、真空チャンバ12内に設置され、蒸着材料20を収容するるつぼ19と、真空チャンバ12に取り付けられ、真空チャンバ12内に昇華ガス25を導入するための昇華ガス導入管25aを有するガス導入部24と、ガス導入部24に接続され、投入された放電電力によって昇華ガス25をプラズマ化させる圧力勾配型のプラズマガン11と、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構35と、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25に炭化水素ガス36を接触させるための炭化水素ガス導入管38と、を備えている。
【0038】
るつぼ19は、真空チャンバ12内の下部に配置され、放電電源14のプラス側に接続されている。るつぼ19は導電性材料で形成され、その中にはダイヤモンドライクカーボン膜3に含まれることになる蒸着原料20が収容されている。るつぼ19の内部には、るつぼ用磁石21が設けられている。また、るつぼ19は、真空チャンバ12及びアース55に対して電気的に浮遊状態となっている。
【0039】
蒸着材料20としては、ニッケル、クロム、又は、ニッケルとクロムを含む無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物等の無機化合物を挙げることができる。ニッケル及びクロムを含む無機化合物としては、例えば、ニッケルクロム一酸化珪素、ニッケルクロムシリコン合金等を挙げることができる。
【0040】
ガス導入部24は、真空チャンバ12に取り付けられ、真空チャンバ12内に昇華ガス25を導入するための昇華ガス導入管25aを有している。導入する昇華ガス25の導入量(流量)は、導入バルブ25bで調整される。
【0041】
昇華ガス25としては、プラズマガン11によりプラズマ化され、その後、蒸着材料20に向けて照射された際、蒸着材料20を昇華させるとともに昇華した蒸着材料20をイオン化させることができ、さらには、導入された炭化水素ガスをイオン化させることができるガスであることが好ましく、例えばアルゴンガスが好ましく適用されるが、アルゴンガス以外のキセノンガス等を必要に応じて併用してもよい。
【0042】
プラズマガン11は、ガス導入部24に接続され、投入された放電電力によって昇華ガス25をプラズマ化させるものである。ここでは、圧力勾配型のプラズマガン11が好ましく用いられる。プラズマガン11は、放電電源14のマイナス側に接続された環状の陰極15と、放電電源14のプラス側に抵抗を介して接続された環状の第1中間電極16及び第2中間電極17とを有している。陰極15側からプラズマガン11に昇華ガス25が供給されると、プラズマガン11に所定の放電電力を投入することにより放電が発生させられ、これによって昇華ガス25がプラズマ化される。プラズマ化された昇華ガス25は、プラズマ化昇華ガス流22として第2中間電極17から真空チャンバ12内に向けて流出させられる。
【0043】
プラズマガン11には、プラズマガン11に投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構61が接続されている。検出機構61は、図2に示すように、プラズマガン11における放電電圧を計測する放電電圧計45と、プラズマガン11における放電電流を計測する放電電流計46と、計測された放電電圧を計測された放電電流によって除することにより電気抵抗値を算出する演算部51とからなる。
【0044】
磁場機構35は、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されるよう磁場を発生させるものである。この磁場機構35は、真空チャンバ12と第2中間電極17との間に設けられている。磁場機構35は、具体的には、真空チャンバ12と第2中間電極17との間の短管部12Aの外側において、短管部12Aを包囲するよう設けられた収束コイル18と、るつぼ19の内部に設けられたるつぼ用磁石21とから構成されている。この場合、収束コイル18に発生させる磁場を制御することにより、真空チャンバ12におけるプラズマ化昇華ガス流22の行程、及びプラズマ化昇華ガス流22の収束、等を制御することができる。図2に示す態様においては、真空チャンバ12内に向けて流出したプラズマ化昇華ガス流22が蒸着材料20に照射されるよう、制御装置60により収束コイル18に発生させる磁場が制御される。
【0045】
炭化水素ガス導入管38は、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25に炭化水素ガス36を接触させるためのものである。すなわち、炭化水素ガス導入管38は、プラズマ化昇華ガス流22に接触する位置に配置され、その導入管38から真空チャンバ12内に導入された炭化水素ガス36は、プラズマ化昇華ガス流22に接触してイオン化することになる。炭化水素ガス36の流量は、圧力調整ガス導入管38に設けられた圧力調整ガス導入バルブ37により調整される。
【0046】
真空チャンバ12には、真空チャンバ12内を減圧する排気ポンプ50が、排気管49を介して接続されている。
【0047】
短管部12Aは、真空チャンバ12と第2中間電極17との間に位置するが、その短管部12A内には絶縁管31が突設されている。絶縁管31は、プラズマ化昇華ガス流22の周囲を取囲むよう配置されており、プラズマガン11から電気的に浮遊状態となっている。また、短管部12A内には、絶縁管31の外周側を取巻く電子帰還電極32が設けられている。電子帰還電極32は、放電電源14のプラス側に接続されており、このため電子帰還電極32の電位はプラズマガン11の真空チャンバ12側における電位よりも高い。絶縁管31としては、例えば、セラミック製短管が採用される。
【0048】
電子帰還電極32には、図2に示すように、電子帰還電極電流を測定する電子帰還電極電流計47が接続されている。さらに真空チャンバ12とアース55との間には、真空チャンバ12からの接地電流を測定する接地電流計48が設けられている。
【0049】
真空チャンバ12の内面には、真空チャンバ12から電気的に浮遊状態となる防着板40が設けられている。この防着板40は、SUS板からなり、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20に照射された際に生じる反射電子流33が真空チャンバ12へ帰還して接地されるのを防止するために設けられている。なお、防着板40を設ける代わりに、真空チャンバ12内面に、反射電子流33が真空チャンバ12へ帰還することを防止するための絶縁コーティング膜(図示せず)を設けてもよい。
【0050】
真空チャンバ12内の基材2近傍には、基材2上に形成されるダイヤモンドライクカーボン膜3の形成速度を測定する成膜速度計41が設けられ、また成膜速度計41の下方に、真空チャンバ12内の真空度及び成膜真空度を各々測定する真空計42が設けられている。さらに、真空チャンバ12内の圧力を調整するため、真空チャンバ12内のるつぼ19近傍には、圧力調整ガス28を導入する圧力調整ガス導入管28aが設けられている。圧力調整ガス28の流量は、圧力調整ガス導入管28aに設けられた圧力調整ガス導入バルブ28bにより調整される。なお、圧力調整ガス28としては、キセノンガス、アルゴンガス等を用いることができる。
【0051】
上述した放電電圧計45、放電電流計46、演算部51、電子帰還電極電流計47、接地電流計48、成膜速度計41、真空計42からの情報は、制御装置60に収集される。
【0052】
(製造方法)
次に、上記装置10で導電性基材1を製造する方法について詳しく説明する。
【0053】
先ず、真空チャンバ12内に、基材2を設置する。次に、ニッケル及びクロムの混合物からなる蒸着材料20を真空チャンバ12のるつぼ19内に収容する。その後、真空チャンバ12のガス導入部24に設けられた圧力勾配型のプラズマガン11に、アルゴンガス25(昇華ガス25)を導入する。
【0054】
真空チャンバ12内の真空度は、0.08〜0.12Paの範囲内であることが好ましい。この範囲とすることにより、蒸着材料20の昇華を安定化することができる。また、昇華ガスであるアルゴンガス25の導入量としては、12〜25sccmであることが好ましい。この範囲とすることによって、アルゴンガス25を安定にプラズマ化することができる。アルゴンガス25の導入量が12sccmよりも小さい場合、アルゴンガス25のプラズマ化が安定しないことがある。一方、アルゴンガス25の導入量が25sccmよりも大きい場合、プラズマ化したアルゴンガス25が蒸着材料20を昇華させるエネルギーが小さくなり、このため昇華した蒸着材料20の蒸気圧が小さくなることが考えられる。
【0055】
次に、プラズマガン11に放電電力を投入し、これによって放電を生じさせる。このことにより、昇華ガス25がプラズマ化し、この結果、プラズマガン11の第2中間電極17から真空チャンバ12内に向うプラズマ化昇華ガス流22が形成される。形成されたプラズマ化昇華ガス流22は、磁場機構35により生成される磁場に導かれて蒸着材料20に照射される。このとき磁場機構35の収束コイル18は、プラズマ化昇華ガス流22の横断面を収縮させる作用を行い、また磁場機構35のるつぼ用磁石21は、プラズマ化昇華ガス流22の焦点合わせ及びプラズマ化昇華ガス流22を曲げる作用を行っている。
【0056】
蒸着材料20にプラズマ化した昇華ガス25が照射されると、るつぼ19内の蒸着材料20が昇華し、同時に、昇華した蒸着材料20がプラズマ化した昇華ガス25によりイオン化される。イオン化した蒸着材料20は電界(図示せず)により加速されて基材2に衝突する。
【0057】
一方、炭化水素ガス導入管38から真空チャンバ内に導入された炭化水素ガス36は、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25に接触してイオン化する。イオン化した炭化水素ガスは、前記したイオン化した蒸着原料20とともに電界で加速され、基材2に衝突する。炭化水素ガス36としては、エチレン、アセチレン、ベンゼン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
このようにして、基材2に、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜3が堆積する。なお、イオン化した蒸着材料及び炭化水素ガスが基材2に衝突する際の運動エネルギーは、真空蒸着又はスパッタリングにより蒸着する際の運動エネルギーよりも大きい。そのため、基材2との密着性が強く、緻密なダイヤモンドライクカーボン膜3を形成することができる。
【0059】
炭化水素ガス36のイオン化量とニッケル及びクロムの蒸着原料20のイオン化量を制御して、ニッケルとクロムをモル比で1:1〜3:1とすることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン膜3に含まれるニッケル及びクロムのモル比を上記範囲内とすることにより、10Ω/□以下の表面抵抗となる導電性を持たせることができる。なお、こうしたイオン化量の制御は、蒸着原料のニッケルとクロムの量、プラズマ放電電流の制御によって行うことができる。こうしたプラズマ放電電流の制御によるイオン化量の制御では、電流値が比較的低いときは、Crの方がNiよりも多くイオン化する傾向があるが、電流値を上げることによって、Niのイオン化量が増加する傾向になる。
【0060】
また、蒸着材料20と炭化水素ガス36をるつぼ19の近傍でイオン化することにより、イオン化した蒸着材料20と炭化水素ガス36が基材2に衝突する際の運動エネルギーがより大きくなると考えられる。そのため、イオン化したニッケル、クロム及び炭化水素からなる堆積材料と、基材2との密着力が向上し、かつ基材2上における堆積材料のマイグレーションも促進されると考えられることから、堆積材料と基材2との間の密着が強固になるとともに、堆積材料同士の結合も強固となると考えられる。このことにより、基材2上に、緻密且つ平坦で、異常粒成長による欠陥のないダイヤモンドライクカーボン膜3を形成することができ、その結果、良好な導電性と良好な耐食性が付与できたと考えられる。
【0061】
ここで、蒸着材料20と炭化水素ガス36のイオン化が好ましく起こる「るつぼ19の近傍」とは、図2に示すように、るつぼ19の直上であって、るつぼ19で蒸発した蒸着原料20が基材2に向かう途中のプラズマ化昇華ガス流領域である。このるつぼ19の直上のプラズマ化昇華ガス流領域で蒸着原料20がイオン化し、さらに、そのプラズマ化昇華ガス流領域に向かって炭化水素ガス導入管38の先端を向けることにより、その先端から導入された炭化水素ガス36がプラズマ化昇華ガス流領域でイオン化する。こうして、2種の材料のイオン化を、るつぼ19の直上の同じ位置にあるプラズマ化昇華ガス流領域で行うことができるので、イオン化した2種の材料を容易に混合状態とすることができ、その後、混合したイオンを基材2に蒸着させることができる。こうして、成分元素の分布状態が均一なダイヤモンドライクカーボン膜3を形成できる。
【0062】
なお、プラズマ化した昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されると、るつぼ19は真空チャンバ12及びアース55に対して電気的に浮遊状態となる。このため、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20から反射して反射電子流33が生じる。この場合、真空チャンバ12内面には真空チャンバ12から電気的に浮遊する防着板40が設けられており、このため、防着板40により反射電子流33の真空チャンバ12側への帰還を妨げることができる。このことにより、大部分の反射電子流33をプラズマ化昇華ガス流22の外側を通して電子帰還電極32側へ確実に帰還させることができる。
【0063】
ここで、反射電子流33の流れについて説明する。図2に示すように、電子帰還電極32はるつぼ19から離れた位置に設けられており、このため、るつぼ19上から昇華した蒸着材料20が電子帰還電極32に付着することはほとんどない。また、プラズマガン11から出たプラズマ化昇華ガス流22と電子帰還電極32との間に両者を遮る絶縁管31が設けられており、このため、プラズマ化昇華ガス流22が電子帰還電極32に入射し、これによって陰極15と電子帰還電極32との間で異常放電が発生するのを防止することができる。この場合、反射電子流33は、プラズマ化昇華ガス流22の外側であって、プラズマ化昇華ガス流22とは分離した経路に沿って電子帰還電極32まで延びるよう形成される。このことにより、プラズマ化昇華ガス流22を連続的かつ安定に持続させることができる。
【0064】
プラズマ化昇華ガス流22の持続時間は、絶縁管31及び電子帰還電極32を設けない場合に比べて倍以上となり、飛躍的に向上することが確認されている。また、絶縁管31を設けることにより異常放電の発生を防止し、これによってプラズマ化昇華ガス流22の電子帰還電極32への流れ込みによる電力ロスを減少させることができる。このため、絶縁管31及び電子帰還電極32を設けない場合に比べて、ダイヤモンドライクカーボン膜3の成膜速度(材料昇華量)が約20%向上することが確認されている。また、電子帰還電極32を収束コイル18に近い位置に設けることにより、イオンプレーティング装置10全体が小型化されている。
【0065】
なお、図2では、圧力調整ガス28が圧力調整ガス導入管28aを介して真空チャンバ12内に導入される例を示しているが、これに限られることはなく、プラズマガン11からプラズマ化昇華ガス流22が安定して発生されている場合、圧力調整ガス28を真空チャンバ12内に導入しなくてもよい。
【0066】
以上説明したように、基材2に対して蒸着材料20を蒸着するイオンプレーティング方法において、真空チャンバ12のガス導入部24に設けられたプラズマガン11に昇華ガス導入管25aを介して昇華ガス25を導入した後、プラズマガン11に放電電力を投入し、放電を生じさせ、当該放電により昇華ガス25をプラズマ化させる。このプラズマ化した昇華ガス25をニッケル及びクロム原料20に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、その昇華ガス25に炭化水素ガス36を接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、同時にイオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材2上に同時に堆積させて、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜3を成膜することができる。
【0067】
このようにして行う導電性基材1の製造は、従来のようなBH等の毒性の高い反応性ガスを用いる必要がない。また、例えば加熱又はプラズマビームで蒸発させるニッケル及びクロム自体も低コスト材料であり、しかも除害装置も必要にならないという利点もある。その結果、導電性と耐食性の両方を備えた導電性基材1を低コストで製造することができる。さらに、この製造方法では、ニッケル、クロム及び炭化水素ガスのイオン化を、単一のプラズマ源で同時に行い、成膜も同時に行うことが可能となり、製造上極めて効率的である。しかも、同時に行うことにより、ダイヤモンドライクカーボン膜に含まれるニッケル及びクロムの分布を均一なものとすることができ、ダイヤモンドライクカーボン膜の導電性と耐食性を局所的な偏りなく成膜することができる。
【実施例】
【0068】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
図2に示す形態のバッチ式イオンプレーティング装置10を使用した。厚さ100μmPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、品番:Q65F)を基材2として真空チャンバ内に設置し、Niが80モル%でCrが20モル%のNiCr合金粉末(粒径45μm)を蒸着材料20として真空チャンバ内のるつぼ19に入れた。真空チャンバ12を減圧して真空度を1×10-4Paまで到達させた後、真空チャンバ内に、昇華ガス25としてアルゴンガスを流量15sccmで導入した。その後、収束型プラズマガン11に放電電力を投入し、90Aの放電電流を発生させ、昇華ガス25をプラズマ化した。なお、sccmとは、standard cubic per minuteの略である。
【0070】
収束コイル18に所定の磁場を発生させて、プラズマ化した昇華ガス25からなるプラズマ化昇華ガス流22を所定方向に曲げ、これによってプラズマ化した昇華ガス25を真空チャンバ12内の蒸着材料20に向けて照射した。プラズマ化した昇華ガス25によって、蒸着材料20を昇華させるとともにイオン化した。同時に、流量80sccmのエチレンガス(フジオックス株式会社製、99.9%)を炭化水素ガス36として、炭化水素ガス導入管38からプラズマ化昇華ガス流22に向けて導入し、炭化水素ガス36をイオン化した。成膜圧力は0.08Paで、プラズマ照射時間は3分間とした。こうしてイオン化した蒸着原料20と炭化水素ガス36を基材2上に堆積し、膜厚110nmのダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、実施例1に係る導電性基材1を作製した。このダイヤモンドライクカーボン膜3をX線回折測定したところ、アモルファス特有のハローが見られた。
【0071】
[実施例2]
実施例1において、Niが60モル%でCrが40モル%のNiCr合金粉末(粒径45μm)を蒸着材料20とした他は、実施例1と同様にして膜厚160nmのダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、実施例2に係る導電性基材1を作製した。
【0072】
[実施例3]
実施例1において、エチレンガス流量を60sccmとした他は、実施例1と同様にして膜厚100nmのダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、実施例3に係る導電性基材1を作製した。
【0073】
[比較例1]
実施例1において、るつぼ19内に蒸着原料20が無い状態で成膜を行った他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、比較例1に係る基材を作製した。
【0074】
[比較例2]
実施例1において、エチレンガス流量を120sccmとした他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、比較例2に係る導電性基材1を作製した。
【0075】
[比較例3]
実施例1において、炭化水素ガス36を供給しない状態で成膜を行った他は、実施例1と同様にしてNiCr膜を形成し、比較例3に係る基材を作製した。
【0076】
[比較例4]
実施例1において、Alを蒸着材料20とした他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、比較例4に係る基材を作製した。
【0077】
[比較例5]
実施例1において、Tiを蒸着材料20とした他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、比較例5に係る基材を作製した。
【0078】
[比較例6]
実施例1において、Cuを蒸着材料20とした他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、比較例6に係る基材を作製した。
【0079】
[比較例7]
実施例1において、Niを蒸着材料20とした他は、実施例1と同様にしてダイヤモンドライクカーボン膜3を形成し、比較例7に係る基材を作製した。
【0080】
[特性評価及び結果]
膜厚は、sloan社製のDektakIIAで測定した。ダイヤモンドライクカーボン膜中の合計金属成分割合及びNiとCrの組成比は、KRATOS社製のX線光電子分光装置(型名:ESCA−3400)を使用し、X線源:非単色Al Kα 300W(15KV/20mA)、測定面積:800μmφ、Take Off Angle:45度、の条件で測定した。また、金属成分割合(モル%)は、XPSのピーク面積から求めたNi、Cr、C(炭素原子)、O(酸素原子)の量に基づいて、(Ni+Cr)÷(Ni+Cr+C+O)、で求めた。NiとCrの組成比(モル比)は、Ni:Cr、で求めた。
【0081】
表面抵抗(Ω/□)は、ダイアインスツルメンツ製のロレスタAP MCP−T610型の装置を用い、4端子法で測定した。耐酸性は、濃塩酸(35%)又は硝酸(61%)に12時間浸漬した後に前記した表面抵抗を測定し、浸漬前の表面抵抗と比較して評価した。耐アルカリ性は、1N又は2N水酸化ナトリウム溶液に12時間浸漬した後に前記した表面抵抗を測定し、浸漬前の表面抵抗と比較して評価した。耐ヨウ素液性は、ヨウ素液(1N)に12時間浸漬した後に前記した表面抵抗を測定し、浸漬前の表面抵抗と比較して評価した。
【0082】
なお、表中の「成膜後の表面抵抗」欄は、表面抵抗が10Ω/□以下の場合を「○」とし、表面抵抗が10Ω/□を超え10Ω/□以下の場合を「△」とし、表面抵抗が10Ω/□を超える場合を「×」とした。また、表中の「浸漬後の表面抵抗」欄は、酸、アルカリ又はヨウ素に浸漬する前の表面抵抗と、浸漬した後の表面抵抗との差が±2%以下の場合を「○」とし、その差が±2%を超える場合を「×」とした。この場合において、成膜後の表面抵抗が10Ω/□を超えていたものは評価対象外とし、「−」で表した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1は、実施例1〜3及び比較例1〜7の結果である。表1の結果より、Ni及びCrを合計成分割合で30〜76モル%含有する実施例1〜3に係るダイヤモンドライクカーボン膜3は、成膜後の表面抵抗が10Ω/□以下であり、濃塩酸液又はヨウ素液に浸漬後の表面抵抗も10Ω/□以下であった。このときのNiとCrのモル比は、50:50〜75:25の範囲であった。
【0085】
[実験1]
実施例1において、放電電流とエチレン流量を表2に示す条件とし、基材2上にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜して試料A1〜A8を作製した。なお、「金属成分」欄の「−」は未測定を示している。得られた結果を表2に示した。
【0086】
[実験2]
実施例1において、放電電流とエチレン流量を表3に示す条件とし、基材2上にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜して試料B1〜B8を作製した。得られた結果を表3に示した。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
表2及び表3の結果より、Ni及びCrを合計成分割合で30〜76モル%含有する試料のダイヤモンドライクカーボン膜3は、成膜後の表面抵抗が10Ω/□以下であり、濃塩酸液又はヨウ素液に浸漬後の表面抵抗も10Ω/□以下であった。
【符号の説明】
【0090】
1 導電性基材
2 基材
3 ダイヤモンドライクカーボン膜
10 イオンプレーティング装置
11 プラズマガン
12 真空チャンバ
12A 短管部
14 放電電源
15 陰極
16 第1中間電極
17 第2中間電極
18 収束コイル
19 るつぼ
20 蒸着材料
21 るつぼ用磁石
22 プラズマ化昇華ガス流
23 電子帰還電極水冷用ジャケット
24 ガス導入部
25 昇華ガス
25a 昇華ガス導入管
25b 昇華ガス導入バルブ
28 圧力調整ガス
28a 圧力調整ガス導入管
28b 圧力調整ガス導入バルブ
31 絶縁管
32 電子帰還電極
33 反射電子流
35 磁場機構
36 炭化水素ガス
37 炭化水素ガス導入バルブ
38 炭化水素ガス導入管
40 防着板
41 成膜速度計
42 真空計
43 酸素供給管
44 測定値収集ユニット
45 放電電流計
46 放電電圧計
47 電子帰還電極電流計
48 接地電流計
49 排気管
50 排気ポンプ
51 演算部
55 アース
60 制御装置
61 検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられた、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜と、を有することを特徴とする導電性基材。
【請求項2】
前記ニッケルとクロムがモル比で1:1〜3:1である、請求項1に記載の導電性基材。
【請求項3】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜が、ヨウ素溶液への浸漬前後で表面抵抗の変化が起こらない耐ヨウ素液性を有する、請求項1又は2に記載の導電性基材。
【請求項4】
プラズマ化した昇華ガスをニッケル及びクロム原料に照射してニッケル及びクロムをイオン化し、且つ、前記昇華ガスに炭化水素ガスを接触させて該炭化水素ガスをイオン化し、イオン化したニッケル及びクロムと炭化水素ガスとを基材上に堆積させて、ニッケル及びクロムを合計成分割合で30〜76モル%含有するダイヤモンドライクカーボン膜を成膜することを特徴とする導電性基材の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素ガスのイオン化量と前記ニッケル及びクロムのイオン化量とを制御して、前記ニッケルとクロムをモル比で1:1〜3:1とする、請求項4に記載の導電性基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132598(P2011−132598A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257469(P2010−257469)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】