説明

導電性基板の製造方法及び導電性基板

【課題】 基材との密着力が強く、導電率の高い導電膜を低温で形成可能な導電性基板の製造方法を提供する。

【解決手段】 合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布するステップS100、インクを硬化させ、基材と樹脂バインダーを密着させるステップS101、及び硬化したインクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子どうしの接触面積を増加させるステップS103を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電膜の形成技術に係り、特に、導電性基板の製造方法及び導電性基板に係る。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に回路パターンを形成する際には、基材上の全面に金属膜をまず堆積させ、その後フォトレジストを塗布し、パターンが形成されたマスクを配置して露光し、現像を行い、さらにエッチング法等により金属膜を選択的に除去することにより回路パターンを形成していた。しかしパターンが形成されたマスクを配置して露光し、現像を行い、さらにエッチング法等により金属膜を選択的に除去することは工程が多くコストがかかる。また金属を除去するという工程が必要であるため、材料に無駄が生じたり、環境負荷が大きい等の問題があった。そのため、スクリーン印刷法等により導電性インクを回路パターン状に印刷する方法が近年注目されている(例えば、特許文献1,2参照。)。しかしスクリーン印刷法で形成された回路の導電部は、体積抵抗率が高く、導電率が低い。そのため、印刷後に導電部を構成する金属粉を数百度の高温で焼結させ、導電率を向上させていた。しかし、基材にプラスチックフィルム等を使用すると、焼結により基板がダメージを受けるという問題があった。そのため、金属粉としてナノメーターサイズの粒子を用い、低温で金属粉を焼結させることが検討されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし導電性を高めるためには、バインダーを加熱焼結により除去する必要があり、基材と導電部との密着力が弱くなるという問題もあった。また、加熱焼結に必要な温度は150℃以上と高く、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムのような低耐熱性基材上に導電部を形成するのは困難であった。
【特許文献1】特表2005−503030号公報
【特許文献2】特開2003−272442号公報
【特許文献3】国際公開第02/035554号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、基材との密着力が強く、導電率の高い導電膜を低温で形成可能な導電性基板の製造方法及び導電性基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の特徴は、(イ)合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布するステップと、(ロ)インクを硬化させ、基材と樹脂バインダーを密着させるステップと、(ハ)硬化したインクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子どうしの接触面積を増加させるステップとを備える導電性基板の製造方法であることを要旨とする。本発明の特徴に係る導電性基板の製造方法によれば、超音波振動による摩擦熱によって、硬化したインクの表面近傍の樹脂バインダーが軟化あるいは熱収縮する。さらに圧力が加えられることにより、樹脂バインダー中の金属微粒子どうしが近づき、金属微粒子どうしの接触面積が上昇する。そのため、基材に熱を加えることなく、高い導電率の導電膜を基材上に形成することが可能となる。さらに、300℃以下の温度で互いに融着する金属微粒子を用いれば、摩擦熱によって金属微粒子どうしが溶融接合し、さらに高い導電率の導電膜を基材上に形成することが可能となる。なお、基材近傍の樹脂バインダーは残存するため、基材と導電膜の密着力も保証される。
【0005】
さらに本発明の特徴は、(イ)合成樹脂からなる基材と、(ロ)基材に密着する樹脂バインダー、及び樹脂バインダー中に散在し、基材の表面から離れるほど互いの接触面積が上昇する金属微粒子を含む導電膜とを備える導電性基板であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基材との密着力が強く、導電率の高い導電膜を低温で形成可能な導電性基板の製造方法及び導電性基板を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0008】
本発明の実施の形態に係る導電性基板の製造方法は、合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布するステップと、インクを硬化させ、基材と樹脂バインダーを密着させるステップと、硬化したインクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子どうしの接触面積を増加させるステップとを備える。実施の形態に係る導電性基板の製造方法によれば、図1に示すように、基材100と、基材100に密着する樹脂バインダー及び樹脂バインダー中に散在し、基材の表面から離れるほど互いの接触面積が上昇する金属微粒子を含む導電膜150Mとを備える導電性基板120が製造される。
【0009】
基材100の材料には、特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド等の熱可塑性の合成高分子樹脂が使用可能である。基材の厚みは、例えば0.01mm〜10mmである。本発明の実施の形態に係る製造方法によれば、150℃における熱収縮率が0.5%以上であるような耐熱性の低いフィルム等の薄膜基材100上に導電膜150Mを形成しても、好適に導電性基板120を製造可能である。耐熱性が低い基材100の材料としては、例えば厚みが0.01mm〜0.3mmのポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephtalate)フィルム等が使用可能である。基材100は、圧縮しない硬度を有することが好ましい。また基材100の表面は、インクに対して易接着処理をされていてもよい。
【0010】
金属微粒子としては、導電率の高い金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pd)等の金属、及び当該金属からなる合金、当該金属の金属酸化物、金属塩、有機金属化合物、金属錯体等からなる金属化合物微粒子が利用可能である。なお、導電率、安定性、及び価格の点から、銀、銅、銀化合物、及び銅化合物等が好ましい。銀化合物としては、塩化銀、硝酸銀、及び酢酸銀等の銀塩、脂肪酸銀塩等の有機銀化合物、又は有機銀錯体、酸化銀等が使用可能である。金属微粒子の平均粒径は、レーザー回折法で計測して5nmから5μmである。なお、金属微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡等により直接観察してもよい。また、金属微粒子の形状は、フレーク状、鱗片状、あるいはリーフ状であってもよい。例えば、厚みが0.1〜0.8μm、長さが1〜5μmのフレーク状の金属微粒子が使用可能である。
【0011】
樹脂バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等のいずれかまたはその混合物が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ロジン系樹脂、及びセルロース樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、ウレタンアクリレートやポリエステルアクリレート等が挙げられる。ただし、樹脂バインダーはこれらに限定されない。なお、基材100の材料の合成樹脂と密着性のよい材料を、樹脂バインダーに選定するのが好ましい。例えば、基材100の材料がポリエステルフィルムである場合、ポリエステル骨格を持つバインダー樹脂が使用可能である。高絶縁性のバインダーを使用する場合、導電膜150Mの導電性が損なわれないよう、樹脂バインダーは40重量%以下の割合で、インクに含まれているのが好ましい。またインクは、シンナー、有機溶媒、アルコール、あるいは水等の希釈剤を含有していてもよい。また必要に応じて、分散剤、硬化剤、安定剤、あるいは可塑剤等を添加してもよい。
【0012】
インクは、例えばスクリーン印刷機、インクジェットプリンタ、ディスペンサ、スピンコーター、ディップコーティング装置、フレキソ印刷機、グラビア印刷機等の塗布装置によって基材100上に塗布される。なおインクは、塗布装置によって基材100の表面にパターン状に印刷されてもよい。パターンは導電性基板120の用途により適宜設計選択される。樹脂バインダーが熱可塑性樹脂である場合、基材100の融点未満の温度、好ましくは、基材100が熱変形しない温度で、インクに含まれている希釈剤を加熱乾燥させると、インクは硬化する。なお樹脂バインダーが熱可塑性樹脂である場合、「硬化」とは必ずしも化学結合等による硬化を意味せず、乾燥によるインクの固化を意味する。また樹脂バインダーが熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂が硬化する温度以上の温度を与えると、樹脂バインダーが架橋反応等の熱硬化反応等をおこし、インクに希釈剤が含まれている場合は希釈剤が揮発し、インクが硬化する。例えば基材100がポリエチレンテレフタレートからなる場合、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は約70℃であり、融点は260℃である。この場合、ポリエチレンテレフタレートの融点以下の温度で、かつポリエチレンテレフタレートの加熱変形や収縮が生じない温度で、インクを硬化させる必要がある。例えば80℃〜140℃で1分〜60分乾燥させられる。樹脂バインダーが光硬化性樹脂である場合、紫外線、あるいは電子線等の電離放射線等により、樹脂バインダーが架橋反応等の光硬化反応等をおこし、インクは硬化する。なお、加熱及び電離放射等を組み合わせて、インクを硬化させてもよい。
【0013】
硬化したインクの表面は、超音波溶着機等の加振装置によって、超音波振動を与えられながら圧力を加えられる。加振装置は、例えば図2に示すように、力学振動するピエゾ圧電素子23に接続され、力学振動を伝達するブースター24、ブースター24に接続されたホーン25、及びホーン25の下方に配置されたステージ26を備える。ピエゾ圧電素子23は、例えば周波数が35kHzの電気振動を、振幅25μmの力学振動に変換する。チタン(Ti)合金、アルミニウム(Al)等からなるホーン25は、ブースター24で伝達された力学振動に従って振動する。なお、ブースター24及びホーン25のそれぞれの形状を設定することにより、ピエゾ圧電素子で生じた力学振動を、増幅あるいは減少させてもよい。力学振動の周波数は5〜100kHz、圧力は10〜1,000Nが好ましい範囲である。超音波振動の振動方向は、硬化したインクに対して垂直方向でも平行方向でもよい。ただし、振動方向が硬化したインクに対し垂直である方が、大面積の硬化インクを処理可能である。ホーン25の表面積は大きいほど、大面積の硬化インクを処理することができるが、加圧するためにはより高出力が必要となる。また、超音波振動方向を垂直方向とし、ロール状のホーンを作成することで、線接触での処理が可能であり、更なる大面積化が可能である。
【0014】
ステージ26上には、図3に示すように、硬化したインク150Iが配置された基材100が配置される。ピエゾ圧電素子23、ブースター24、及びホーン25は垂直方向に移動可能であり、図4に示すように、ホーン25の底面は乾燥したインク150Iの表面と接触する。ここでインク150Iに含まれる樹脂バインダーが熱可塑性樹脂である場合、ホーン25を力学的に超音波振動させると、摩擦熱により樹脂バインダーが軟化するため、金属微粒子間の空隙が垂直方向の加圧により減少する。さらに垂直方向に加圧された金属微粒子は平たく変形し、軟化した樹脂バインダー中で密につまるため、金属微粒子どうしの接触面積が増加し、導電性が付与された導電膜150Mが基材100上に形成される。樹脂バインダーが熱硬化性樹脂である場合、摩擦熱により樹脂バインダーの熱硬化し、熱収縮が進むため、加圧により金属微粒子の接触面積が増加し、導電性が付与された導電膜150Mが基材100上に形成される。また金属微粒子が300℃以下の低温で融着するものについては、摩擦熱によりインク150Iの表面近傍の金属微粒子どうしが融着し、導電性が付与される。なお金属微粒子が、銀塩や銀酸化物等からなる金属化合物微粒子である場合は、銀等の金属に熱還元される際に金属微粒子どうしが融着する。金属の還元を促進するために、処理雰囲気を窒素ガス、あるいは水素ガス等に置換してもよい。摩擦熱によって、乾燥したインク150Iの表面近傍の温度は150℃近くまたは150℃以上に上昇する。しかし局所的な発熱であるため、基材100は熱変形しない。さらに基材100に近い部分では、樹脂バインダーが残存するため、基材100と導電膜150Mとの密着力が低下することはない。
【0015】
実施の形態にかかる導電性基板の製造方法は、例えば図5に示す導電性基板製造システムによって実施される。導電性基板製造システムは、合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布する塗布装置201と、インクを硬化させ、基材と樹脂バインダーを密着させる硬化装置202と、硬化したインクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子どうしの接触面積を増加させる加振装置203を備える。加振装置203としては、ハーマン(Herrmann)社製のMPC digital 1000等が使用可能である。塗布装置201、硬化装置202、及び加振装置203のそれぞれは、中央演算処理装置(CPU)300に接続されている。CPU300は、塗布装置設定モジュール251、硬化装置設定モジュール252、及び加振装置設定モジュール253を備える。塗布装置設定モジュール251は、塗布装置201が図1に示す基材100上にインク150Iを塗布する際の温度、湿度、インク150Iの塗布量、及びインク150Iの塗布時間等の塗布条件を設定する。図5に示す硬化装置設定モジュール252は、硬化装置202の温度、乾燥時間等の硬化条件を設定する。加振装置設定モジュール253は、図4に示すホーン25の振動周波数、振幅、振動させる時間、及びホーン25が乾燥したインク150Iに加える圧力等の加振条件を設定する。
【0016】
図5に示すCPU300には、データ記憶装置335が接続されている。データ記憶装置335は、塗布条件記憶モジュール261、硬化条件記憶モジュール262、及び加振条件記憶モジュール263を備える。塗布条件記憶モジュール261は塗布条件を保存する。硬化条件記憶モジュール262は硬化条件を保存する。加振条件記憶モジュール263は加振条件を保存する。CPU300には、さらに入力装置312、出力装置313、プログラム記憶装置330、及び一時記憶装置331が接続される。入力装置312としては、キーボード、マウス等が使用可能である。出力装置313としては液晶表示装置(LCD)、発光ダイオード(LED)等によるモニタ画面等が使用可能である。プログラム記憶装置330は、CPU300に接続された装置間のデータ送受信等をCPU300に実行させるためのプログラムを保存している。一時記憶装置331は、CPU300の演算過程でのデータを一時的に保存する。
【0017】
次に図6に示すフローチャートを用いて実施の形態に係る導電性基板の製造方法の一例について説明する。
【0018】
(a) ステップS100で、例えば膜厚が100μm、流れ方向の150℃における加熱収縮率が1.1%、横方向の加熱収縮率が0.1%の易接着ポリエステルフィルム等である図1に示す基材100を用意し、図5に示す塗布装置201に配置する。次に塗布装置設定モジュール251は塗布条件記憶モジュール261から塗布条件を読み出し、塗布装置201の塗布条件を設定する。塗布装置201は設定された塗布条件に従い、例えば図1に示す基材100表面の3cm角の領域に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインク150Iをメッシュ版を用いてスクリーン印刷する。
【0019】
(b) ステップS101で、インク150Iを塗布された基材100は、図5に示す硬化装置202に搬送される。次に硬化装置設定モジュール252は硬化条件記憶モジュール262から硬化条件を読み出し、硬化装置202の硬化条件を設定する。硬化装置202は設定された硬化条件に従い、例えばインクが乾燥型である場合は、図1に示す基材100及びインク150Iを10分間100℃の空気で加熱し、インク150Iを乾燥させる。乾燥させることによりインク150Iは硬化し、基材100とインク150Iに含まれる樹脂バインダーが密着する。なおインクが熱硬化型である場合は、乾燥後、さらに140℃で30分加熱し、熱硬化させる。乾燥あるいは硬化したインク150Iの膜厚は20μmである。
【0020】
(c) ステップS102で、乾燥されたインク150Iを配置された基材100は、図3に示すように、加振装置203のステージ26上に搬送される。次に図5に示す加振装置設定モジュール253は加振条件記憶モジュール263から加振条件を読み出し、加振装置203の加振条件を設定する。加振装置203は設定された加振条件に従い、図4に示すように、例えば3cm角の底面を有するホーン25を硬化したインク150I上に配置する。
【0021】
(d) ステップS103で、ピエゾ圧電素子23はブースター24を介して、ホーン25を周波数35kHz、振幅25μmで0.6秒間振動させ、硬化したインク150Iの表面に超音波振動を与える。なおホーン25は、硬化したインク150Iに400Nの圧力を加える。硬化したインク150Iに超音波振動を与えることにより、硬化したインク150Iの表面近傍の樹脂バインダーが軟化あるいは熱収縮する。さらに圧力が加えられることにより、金属微粒子どうしの接触面積が増加し、導電膜150Mが基材100上に形成され、実施の形態に係る導電性基板120が製造される。
【0022】
以上示した実施の形態に係る導電性基板製造システム及び導電性基板の製造方法によれば、基材100との密着力が強く、導電率の高い導電膜150Mを、基材100を熱変形させることなく低温で形成させることが可能となる。従来、金属粉末を少なくとも10%圧縮可能な基材上に配置し、金属粉末に圧力を加えることにより、金属粉末からなる導電パターンと、基材との密着力を向上させる技術があった。しかし、基材が少なくとも10%圧縮可能である必要があったため、コストが高く、用途も限られるという問題があった。これに対し、実施の形態にかかるインクには樹脂バインダーが含まれている。そのため、基材100が圧縮しない硬度を有する場合でも、高い密着力で導電膜150Mを基材100に密着させることが可能となる。またインク150Iに超音波振動を与えると、金属微粒子どうしの接触面積が増加するため、導電膜の導電率が向上する。したがって、実施の形態に係る導電性基板製造システム及び導電性基板の製造方法によれば、導電膜の形成時間の短縮及び歩留まりの向上を可能とし、ひいては導電膜の製造コストの低減をも可能とする。なお実施の形態に係る導電性基板の製造方法は、必ずしも図5に示す導電性基板製造システムによって実施される必要はなく、それぞれ独立した塗布装置、硬化装置、及び加振装置によって製造されてもよいことはいうまでもない。
【0023】
次に、実施の形態に係る導電性基板の製造方法に用いて得られる導電膜の特性について説明する。図7の「インクR1」は、福田金属箔粉工業社製の乾燥硬化型の銀含有ペースト(シルコートRP-110)である。「インクR2」はタツタシステム・エレクトロニクス社製の熱硬化型の銅含有ペースト(DD-NF2000)である。「インクR3」はナミックス社製の有機銀錯体を含有する熱乾燥型の銀ペーストである。「インクR4」は三井金属鉱業社製の平均粒径0.45μmの低融点銀粉(FHD)を70重量%、ポリエステル樹脂を5重量%、及び溶媒としてカルビトールアセテートを25重量%混合し、分散処理することにより得られる熱乾燥型の銀ペーストである。「インクR5」は平均粒径3.0μmの扁平銀を40重量%、平均粒径1.0μmの球形銀を30重量%、ポリエステル樹脂を5重量%、及び溶媒としてカルビトールアセテートを25重量%混合し、分散処理することにより得られる熱乾燥型の銀ペーストである。「インクR6」は平均粒径5nmの銀ナノ粒子を55重量%、ポリエステル樹脂を10重量%、及び溶媒としてカルビトールアセテートを35重量%混合し、分散処理することにより得られる熱乾燥型の銀ペーストである。。
【0024】
「インクR1」を超音波振動及び加圧処理する前の比抵抗は、1.23μΩ・mである。なお比抵抗は、ダイアインスツルメンツ社製のロレスタGP低抵抗率計を用いて、四探針法によって得られる測定値である。処理前の表面は、図8に示すように平滑ではない。これに対し、「インクR1」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜の比抵抗は0.63μΩ・mに低下する。導電膜の表面は、図9に示すように、処理前と比較して白い金属部分及び平滑な部分が増え、強い銀光沢が出る。また「インクR1」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0025】
「インクR2」を超音波振動及び加圧処理する前の比抵抗は、0.40μΩ・mである。処理前の表面は、図10に示すように、熱硬化性樹脂に覆われた表面に銅微粒子が浮き出し、平滑ではない。これに対し、「インクR2」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜の比抵抗は0.36μΩ・mに低下する。導電膜の表面は図11に示すように加圧された金属微粒子が押しつぶされて表面を覆うことにより平滑な部分が増え、やや光沢が出る。また「インクR2」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0026】
超音波振動及び加圧処理する前の「インクR3」は、導電性を示さない。また処理前の表面は、図12に示すように平滑ではない。これに対し、「インクR3」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜は導電性を示し、比抵抗は0.09μΩ・mである。導電膜の表面は、図13に示すように、処理前と比較して金属微粒子どうしが融着し、平滑な部分が増え、強い銀光沢が出る。また「インクR3」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0027】
超音波振動及び加圧処理する前の「インクR4」は導電性を示さない。また処理前の表面は、図14に示すように平滑ではない。これに対し、「インクR4」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜は導電性を示し、比抵抗は0.32μΩ・mである。導電膜の表面は、図15に示すように、処理前と比較して金属微粒子どうしが融着して平滑になり、強い銀光沢が出る。また「インクR4」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0028】
「インクR5」を超音波振動及び加圧処理する前の比抵抗は、0.70μΩ・mである。また処理前の表面は、図16に示すように平滑ではない。これに対し、「インクR5」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜の比抵抗は0.21μΩ・mに低下する。導電膜の表面は、図17に示すように、処理前と比較して平滑になり、やや光沢が出る。また「インクR5」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0029】
超音波振動及び加圧処理する前の「インクR6」は導電性を示さない。また処理前の表面は、図18に示すように平滑ではない。これに対し、「インクR6」を超音波振動及び加圧処理して形成された導電膜の比抵抗は6.23μΩ・mである。導電膜の表面は、図19に示すように処理前と比較して平滑になり、やや光沢が出る。また「インクR6」が塗布された基材に熱変形等のダメージは生じない。
【0030】
以上示したように、導電性インクを実施の形態に係る導電性基板の製造方法に用いて、基材を熱変形させることなく、高い導電率の導電膜を形成することが可能となる。
【0031】
図20の比較例1によれば、超音波振動及び加圧処理する前の「インクR1」の比抵抗は1.23μΩ・mである。これに対し、「インクR1」に室温で410Nの圧力を加えた後の比抵抗も1.23μΩ・mであり、変化しない。比較例2によれば、乾燥させた「インクR1」を120℃に加熱し、3cm角のアルミ製金型で50Nの圧力を1秒間加えた場合の比抵抗は、1.10μΩ・mに低下するが、導電膜として使用するには充分な導電率ではない。また120℃に加熱したことにより、基材が熱変形する。比較例3によれば、乾燥させた「インクR3」を150℃で30分間加熱すると、比抵抗は0.10μΩ・mとなるが、導電膜として使用するには充分な導電率ではない。また150℃に加熱したことにより、基材が熱変形する。さらに、基材と導電膜との密着力が低下する。
【0032】
比較例4によれば、乾燥させた「インクR4」を150℃で30分間加熱すると、比抵抗は11.20μΩ・mに低下する。しかし、150℃に加熱したことにより、基材が熱変形する。さらに、基材と導電膜との密着力が低下する。比較例5によれば、ポリイミド基材上で乾燥させた「インクR6」を230℃で60分間加熱すると、比抵抗は6.96μΩ・mに低下する。しかし、基材としてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用すると、熱による損傷が激しい。さらに、基材と導電膜との密着力が低下する。

(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、実施の形態に係る導電性基板の製造方法で得られたパターン状の導電膜は、電気回路、電極、電波方式認識(RFID : Radio Frequency-Identification)タグアンテナ、EMI(Electro Magnetic Interference)遮蔽シールド等にも使用可能である。以上示したように、本発明の技術的範囲は上記の説明からは妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る基材の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る加振装置を示す第1の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る加振装置を示す第2の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る加振装置を示す第3の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る導電性基板製造システムを示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る導電性基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に係る導電性基板の製造方法で形成された導電膜の特性を示す表である。
【図8】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第1の表面画像である。
【図9】本発明の実施の形態に係る導電膜の第1の表面画像である。
【図10】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第2の表面画像である。
【図11】本発明の実施の形態に係る導電膜の第2の表面画像である。
【図12】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第3の表面画像である。
【図13】本発明の実施の形態に係る導電膜の第3の表面画像である。
【図14】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第4の表面画像である。
【図15】本発明の実施の形態に係る導電膜の第4の表面画像である。
【図16】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第5の表面画像である。
【図17】本発明の実施の形態に係る導電膜の第5の表面画像である。
【図18】本発明の実施の形態に係る硬化したインクの第5の表面画像である。
【図19】本発明の実施の形態に係る導電膜の第5の表面画像である。
【図20】本発明の比較例に係る硬化したインクの特性を示す表である。
【符号の説明】
【0034】
23…ピエゾ圧電素子
24…ブースター
25…ホーン
26…ステージ
100…基材
120…導電性基板
150I…インク
150M…導電膜
201…塗布装置
202…硬化装置
203…加振装置
251…塗布装置設定モジュール
252…硬化装置設定モジュール
253…加振装置設定モジュール
261…塗布条件記憶モジュール
262…硬化条件記憶モジュール
263…加振条件記憶モジュール
300…CPU
312…入力装置
313…出力装置
330…プログラム記憶装置
331…一時記憶装置
335…データ記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布するステップと、
前記インクを硬化させ、前記基材と前記樹脂バインダーを密着させるステップと、
硬化した前記インクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、前記金属微粒子どうしの接触面積を増加させるステップ
とを備えることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項2】
前記インクを塗布するステップは、前記インクをパターン状に塗布するステップであることを特徴とする請求項1に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項3】
前記インクを塗布するステップは、前記インクを回路パターン状に塗布するステップであることを特徴とする請求項1に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属微粒子は、銀微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属微粒子は、銀化合物微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項6】
前記金属微粒子は、銅微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂は、150℃における熱収縮率が0.5%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項8】
前記合成樹脂は、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の導電性基板の製造方法。

【請求項9】
合成樹脂からなる基材と、
前記基材に密着する樹脂バインダー、及び前記樹脂バインダー中に散在し、前記基材の表面から離れるほど互いの接触面積が上昇する金属微粒子を含む導電膜
とを備えることを特徴とする導電性基板。
【請求項10】
前記金属微粒子は、銀微粒子であることを特徴とする請求項9に記載の導電性基板。
【請求項11】
前記金属微粒子は、銀化合物微粒子であることを特徴とする請求項9に記載の導電性基板。
【請求項12】
前記金属微粒子は、銅微粒子であることを特徴とする請求項9に記載の導電性基板。
【請求項13】
前記合成樹脂は、150℃における熱収縮率が0.5%以上であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項14】
前記合成樹脂は、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の導電性基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図20】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−86895(P2008−86895A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270025(P2006−270025)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】