説明

導電性多結晶体の製造方法

【課題】 不純物相、異常粒成長、あるいは、マクロ亀裂に起因する電気伝導度の低下を抑制することが可能な導電性多結晶体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 目的とする組成を有する導電性材料が得られるように配合された粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第1熱処理工程と、前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第2熱処理工程とを備えた導電性多結晶体の製造方法。但し、前記温度Tは、異常粒成長が生じうる温度以上、前記導電性材料の融点未満の温度。前記時間tは、平均粒径の5倍以上の粒径を持つ粒子の生成が認められるまでの時間未満の時間。前記温度Tは、緻密化が生じる温度以上、異常粒成長が生じうる温度未満の温度。前記時間tは、緻密化させるのに十分な時間以上の時間。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性多結晶体の製造方法に関し、さらに詳しくは、熱電材料、超伝導材料、ピエゾ抵抗効果材料等に用いられる導電性多結晶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性材料は、電気伝導性以外に種々の機能を有しているものが多く、各種の用途に用いられている。例えば、熱電材料は、ゼーベック効果やペルチェ効果を利用して、電気エネルギを冷却や加熱のための熱エネルギに、また逆に熱エネルギを電気エネルギに直接変換することが可能な材料である。熱電材料としては、例えば、BiTe、PbTe等の熱電半導体、CaCo、BiSrCaCo、BiSrCoO、BiCaCo等のコバルト層状酸化物などが知られている。
【0003】
熱電材料の特性を評価する指標としては、一般に、性能指数Z(=Sσ/κ、但し、S:ゼーベック係数、σ:電気伝導度、κ:熱伝導度)、又は、性能指数Zと、その値を示す絶対温度Tの積として表される無次元性能指数ZTが用いられる。ゼーベック係数は、1Kの温度差によって生じる起電力の大きさを表す。熱電材料は、それぞれ固有のゼーベック係数を持っており、ゼーベック係数が正であるもの(p型)と、負であるもの(n型)に大別される。
また、熱電材料は、通常、p型の熱電材料とn型の熱電材料とを接合した状態で使用される。このような接合対は、一般に、熱電素子と呼ばれている。熱電素子は、主として熱電発電器や精密温度制御装置、冷暖房装置、時計用電源等に用いられている。
【0004】
また、例えば、超伝導材料は、完全導電性(ゼロ抵抗)、完全反磁性(マイスナー効果)、ジョセフソン効果などの超伝導性を示す材料である。超伝導材料としては、例えば、Ni−Ti合金、NbSn、VGa、NbAlなどの金属間化合物、Y−Ba−Su−O系、Bi−Sr−Ca−Cu−O系、Tl−Ba−Ca−Cu−O系などの酸化物超伝導体等が知られている。超伝導材料は、線材化されてコイルやモータの巻線に用いられたり、あるいは、超電導磁石、超伝導トランジスタなどに用いられている。
また、例えば、ピエゾ抵抗効果材料は、応力が加わると、応力に比例して抵抗率が変わる材料である。ピエゾ抵抗効果材料としては、例えば、半導体シリコン、SiC、PbTe、BiTeなどが知られている。ピエゾ抵抗効果材料は、主として加速度センサ、原子間力顕微鏡(AFM)センサ、 歪センサ、圧力センサ、流速センサなどに用いられている。
【0005】
このような各種の特性の併せ持つ導電性材料は、複雑な組成を有しているものが多い。また、導電性材料は、多結晶体として使用されることが多いが、その電気的特性や機械的特性は、結晶方位に応じた異方性があるものが多い。そのため、理想的には高い特性を有している材料であっても、多結晶体では、高い特性が得られない場合がある。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1及び非特許文献1には、Co(OH)板状粉末を反応性テンプレートとして用いてコバルト層状酸化物の{00l}面を一方向に配向させる高配向性多結晶セラミックスの製造方法が開示されている。同文献には、{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末を成形体中に配向させ、これを焼結すると、{00l}面が一方向に配向したCaCoからなる高配向性多結晶セラミックスが得られる点、及び、{00l}面のロッキングカーブ半値幅が狭くなるほど配向方向の電気伝導度(及び、無次元性能指数ZT)が高くなる点が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、LaFeCoSb12を主相(A相)とする粉末にBiを加えて混合し、415℃、45MPa、5分間の条件でSPS法(放電プラズマ焼結法)により焼結を行う熱電材料の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)このような方法によってA相の周囲にSb−Bi相からなるb相が形成される点、
(2)A相が有する高い出力因子を保持しながら、b相によって熱伝導度が低減され、あるいは、電気伝導度が増大するので、全体の性能指数が高くなる点、及び、
(3)b相に含まれる低融点元素による延展性に起因して、機械的強度及び加工特性が向上する点、が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、FeSi粉末をその融点より120〜60℃低い温度域で焼結するFeSi系鉄ケイ化物熱電材料の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)このような方法を用いると、塑性流動により緻密化が促進され、原料粉末の粒度を保持したまま焼結することができる点、及び、
(2)焼結温度とFeSiの融点との差が60℃未満になると、融点に近くなるため、焼結が困難になる点、が記載されている。
【0009】
さらに、非特許文献2には、導電性材料ではないが、2次異常粒成長を利用したBaTiO単結晶の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)BaTiO粉末成形体を1365℃で1時間焼結させ、次いで、1355℃で100時間加熱すると、最初の熱処理の際に1個の2次異常粒が核生成し、2回目の熱処理の際にこの粒子が粒成長する点、及び、
(2)このような方法によって、約2cmの単結晶が得られる点、が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−282965号公報
【特許文献2】特開2002−033527号公報
【特許文献3】特開平8−172223号公報
【非特許文献1】H.Itahara et al., Jpn.J.Appl.Phys., 43, pp.5134-5139(2004)
【非特許文献2】H.Lee et al., J.Euro.Coram.Soc., 20, pp.159501597(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
導電性多結晶体の電気伝導度は、種々の要因の影響を受ける。そのため、特に、複雑な組成を有する導電性材料からなる多結晶体の電気伝導度は、一般に、同一組成を有する単結晶に比べて低くなる場合が多い。
例えば、特許文献2に開示されている方法は、熱電材料であるA相の粒界に低融点元素を含むb相が形成される。そのため、粒界において電子が散乱され、電気伝導度が低下する。また、特許文献3に開示されている方法は、塑性流動による緻密化が期待できる材料に対してのみ適用可能である。また、この方法は、結晶方位の制御ができないので、電気伝導度に異方性がある材料に対して適用しても高い電気伝導度は得られない。
【0012】
これに対し、特許文献1(及び非特許文献1)に開示されている方法は、特定の結晶面を一方向に配向させることができるので、特に電気伝導度に異方性がある材料に対して適用すると、高い電気伝導度が得られる。しかしながら、特許文献1に開示されている方法であっても、目的とする導電性材料以外の不純物相が生成すると、電気伝導度が低下する場合がある。一方、これを避けるために、相対的に高温で焼結させると、異常粒成長によって粗大粒子が成長する。その結果、配向が乱れたり、あるいは、材料組成によっては多結晶体にマクロ亀裂が発生する場合がある。
【0013】
さらに、複雑な組成を有する導電性多結晶体を作製する場合において、出発原料として目的とする導電性材料と同一組成を有する粉末を用いることもできる。しかしながら、一般に、単に粉末を成形し、加熱するだけでは、高密度の多結晶体は得られない。一方、高密度化するために、より高温で加熱し、及び/又は、より長時間加熱すると、異常粒成長や、粉末の部分的な溶融による不純物相の生成が生じる場合がある。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、不純物相に起因する電気伝導度の低下を抑制することが可能な導電性多結晶体の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、電気伝導度に結晶方位に応じた異方性がある材料であっても、高い電気伝導度が得られる導電性多結晶体の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、マクロ亀裂の発生を抑制することが可能な導電性多結晶体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る導電性多結晶体の製造方法は、目的とする組成を有する導電性材料が得られるように配合された粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第1熱処理工程と、前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第2熱処理工程とを備えていることを要旨とする。但し、前記温度Tは、異常粒成長が生じうる温度以上、前記導電性材料の融点未満の温度。前記時間tは、平均粒径の5倍以上の粒径を持つ粒子の生成が認められるまでの時間未満の時間。前記温度Tは、緻密化が生じる温度以上、異常粒成長が生じうる温度未満の温度。前記時間tは、緻密化させるのに十分な時間以上の時間。
また、前記成形工程は、その発達面が前記導電性材料の特定の結晶面と格子整合性を有する異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応し又は反応することなく前記導電性材料となる第2粉末とを配合し、前記発達面が一方向に配向するように成形するものが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
所定の組成を有する粉末を含む成形体を温度Tにおいて所定の時間t加熱すると、異常粒成長させることなく、目的とする導電性材料以外の不純物相の生成量を減少させることができる。次いで、成形体を温度Tにおいて所定の時間t加熱すると、導電性材料を異常粒成長させることなく成形体を緻密化させることができる。そのため、不純物相、異常粒成長、あるいは、マクロ亀裂に起因する電気伝導度の低下を抑制することができる。さらに、出発原料として異方形状粉末を用い、これを成形体中に配向させ、焼結すると、電気伝導度の高い特定の結晶面が一方向に配向した多結晶体が得られる。この時、熱処理を2段階に分けて行うと、異常粒成長に起因する配向の乱れ及びマクロ亀裂の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
初めに、本発明が適用される導電性材料について説明する。本発明において、「導電性材料」とは、電気伝導性を有する材料をいう。本発明は、あらゆる導電性材料に対して適用できる。特に、以下のいずれか1以上の条件をさらに備えた導電性材料に対して本発明を適用すると、高い効果が得られる。
【0018】
第1に、導電性材料は、融点を有するものが好ましい。一般に、粉末を出発原料に用いて、融点を有する導電性材料からなる多結晶体を作製する場合において、熱処理温度が低いと、高密度の多結晶体は得られない。一方、熱処理温度を上げると、異常粒成長が生じたり、あるいは、粉末の一部溶融により不純物相が生成する。このような融点を有する導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長や不純物相の生成が抑制され、高い電気伝導度を有する多結晶体を作製することができる。
【0019】
第2に、導電性材料は、多結晶体の状態での室温における電気伝導度が0.1S/cm以上であるものが好ましい。多結晶体を構成する導電性材料が本質的に高い電気伝導度を有する場合であっても、多結晶体内部に不純物相、粗大粒子、マクロ亀裂などが存在すると、電気伝導度を低下させる原因となる。しかも、このような傾向は、導電性材料の電気伝導度が高くなるほど顕著になる。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、これらの原因の発生を抑制することができるので、高い電気伝導度が得られる。
【0020】
第3に、導電性材料は、2種以上の粉末を出発原料に用いて作製されるものが好ましい。組成の異なる2種以上の粉末を含む成形体を加熱すると、粉末間で反応又は元素の拡散が生じ、目的とする組成を有する導電性多結晶体が得られる。この時、熱処理条件が不適切であると、目的とする導電性材料以外の相(不純物相)が生成しやすい。不純物相は、電子を散乱させ、電気伝導度を低下させる原因となる。一方、これを避けるために、相対的に高い温度で長時間加熱すると、異常粒成長やマクロ亀裂が発生する。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長やマクロ亀裂を生じさせることなく不純物相の生成量を抑制することができる。
【0021】
第4に、導電性材料は、2種以上の金属元素を含む酸化物又は金属間化合物が好ましい。2種以上の金属元素を含む酸化物又は金属間化合物は、複雑な組成を有するものが多い。そのため、出発原料として目的とする導電性材料と同一組成を有する粉末を用いた場合であっても、熱処理中に粉末が一部溶融すると、不純物相が生成しやすい。また、熱処理条件が不適切であると、さらに異常粒成長やマクロ亀裂が発生することもある。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長やマクロ亀裂を生じさせることなく不純物相の生成量を抑制することができるので、高い電気伝導度が得られる。
【0022】
第5に、導電性材料は、電気伝導度が低い結晶方位又は結晶面における電気伝導度σに対する電気伝導度が高い結晶方位又は結晶面における電気伝導度σの比(σ/σ)が2以上であるものが好ましい。電気伝導度に結晶方位に応じた異方性がある導電性材料からなる多結晶体において、異常粒成長は、電気伝導度を低下させる原因となる。特に、電気伝導度の高い結晶方位又は結晶面を一方向に配向させた多結晶体において異常粒成長が起こると、配向が乱れ、電気伝導度の低下が顕著となる。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長を生じさせることなく緻密化させることができるので、高い電気伝導度が得られる。
【0023】
第6に、導電性材料は、層状の結晶構造を有するものが好ましい。層状の結晶構造を有する導電性材料は、一般に、層面に対して平行方向の電気伝導度が層面に対して垂直方向の電気伝導度より高いものが多い。しかも、結晶粒は、層面に対して平行に成長しやすい。そのため、この種の導電性材料において異常粒成長が起こると、配向が乱れるだけでなく、マクロ亀裂を発生させる原因となる。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長を生じさせることなく緻密化させることができる。
【0024】
第7に、導電性材料は、電気伝導性に加えて、さらに熱電特性、超伝導特性、及び/又は、ピエゾ抵抗効果を示すものが好ましい。熱電材料、超伝導材料、又は、ピエゾ抵抗効果材料においては、一般に、電流が流れる方向の電気伝導度は、高い方が好ましい。しかしながら、これらの材料は、不純物相により電気伝導度が影響を受けやすく、また、電気伝導度に結晶方位に応じた異方性を持つものが多い。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、異常粒成長、配向の乱れ、あるいは、マクロ亀裂を生じさせることなく緻密化させることができるので、高い特性が得られる。
【0025】
第8に、導電性材料は、Bi及び/又はPbを含むものが好ましい。Bi及び/又はPbを含む酸化物や金属間化合物の中には、優れた熱電特性、超伝導特性、あるいは、ピエゾ抵抗効果を示すものがある。特に、Bi及び/又はPbを含むCo系酸化物は、優れた熱電特性を示す。これらは、一般に、複雑な組成を有し、かつ、層状の結晶構造を有するものが多いので、多結晶体内に不純物相、異常粒成長、マクロ亀裂などが生成すると、電気伝導度の低下が著しい。このような導電性材料に対して本発明を適用すると、不純物相、異常粒成長、配向の乱れ、あるいは、マクロ亀裂を生じさせることなく緻密化することができるので、高い電気伝導度が得られる。
【0026】
本発明を適用することが可能な導電性材料には、以下のようなものがある。
[1. 非酸化物系熱電材料]
非酸化物(金属、半金属、金属間化合物、炭化物等)からなる熱電材料としては、具体的には、以下のようなものがある。
(1)V−VI族熱電半導体(例えば、BiTe、SbTe、BiSe、(Bi、Sb)Te、(Bi、Sb)(Te、Se)、Bi(Te、Se)など)。
(2)IV−V族熱電半導体(例えば、PbTeなど)。
(3)II−V族熱電半導体(例えば、ZnSbなど)。
(4)ケイ素化合物(例えば、SiGe、MgSiなど)。
(5)スクッテルダイト化合物(例えば、CeFeSb12、CoSb12など)。
(6)クラスレート化合物(例えば、BaGa25、EuGa16Ge30など)。
(7)炭化物(例えば、BC、SiCなど)。
(8)ホウ化物(例えば、MgBなど)。
(9)ホイスラー合金(例えば、ZrNiSn、FeVAlなど)。
【0027】
[2. 酸化物系熱電材料]
酸化物系熱電材料としては、具体的は、Coを含む酸化物がある。
Coを含む酸化物には種々の組成を有するものがあるが、中でも、コバルト層状酸化物は、高い熱電特性を示すp型熱電酸化物である。ここで、「コバルト層状酸化物」とは、稜共有したCoO八面体からなるCoO層と、岩塩構造又は歪んだ岩塩構造を有する層(以下、これらを総称して、「擬岩塩構造層」という。)、Naイオンからなる層などで構成されるブロック層とが、所定の周期で積層した層状酸化物をいう。
特に、ブロック層が、少なくともBi、「元素B」及びCoを含む4層の擬岩塩構造層からなるコバルト層状酸化物であって、次の(1)式で表されるものが好ましい。
【0028】
(Bi1−x−yCo1+α)(CoO2+β) ・・・(1)
(但し、Bは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる1種又は2種以上の元素。
0.2≦x≦0.8。
0.0≦y≦0.5。
0.2≦x+y≦1.0。
0.25≦z≦0.5。
0.85≦{1+α+(2+β)z}/(1+2z)≦1.15。)
【0029】
なお、(1)式において、「0.85≦{1+α+(2+β)z}/(1+2z)≦1.15」は、基本組成((Bi1−x−yCoO)(CoO))を有するコバルト層状酸化物に含まれる酸素の化学量論量(1+2z)に対し、最大で±15atm%の範囲で酸素が過剰となったり、あるいは、酸素の欠損を生ずる場合があることを示す。この場合、増減する酸素は、CoO層に含まれる酸素(β)又はブロック層に含まれる酸素(α)のいずれか一方であっても良く、あるいは、双方の酸素であっても良い。
【0030】
(1)式に示すコバルト層状酸化物において、CoO層及び/又はブロック層に含まれるCoの一部をCu、Sn、Mn、Ni、Fe、Zr及びCrから選ばれる1種又は2種以上の元素(以下、これを「元素C」という。)に置換しても良い。Coの一部を元素Cで置換すると、層状酸化物のゼーベック係数及び/又は電気伝導度が向上するという効果がある。この場合、元素CによるCoの置換量は、25atm%以下が好ましい。
(1)式で表されるコバルト層状酸化物としては、具体的には、BiSrCo、BiCaCo、BiBaCo、BiSrCaCoなどがある。
【0031】
[3. 超伝導材料]
(1)MgB
(2)Bi−Sr−Ca−Cu−O系酸化物、
(3)Tl−Ba−Ca−Cu−O系酸化物。
【0032】
[4. ピエゾ抵抗効果材料]
(1)SiC、
(2)PbTe、
(3)BiTe
【0033】
本発明に係る方法により得られる導電性多結晶体は、上述した各種の導電性材料からなる。この場合、各結晶粒は、無配向でも良く、あるいは、特定の結晶面が一方向に配向していても良い。特に、電気伝導度の高い結晶面を一方向に配向させると、高い電気伝導度が得られる。
ここで、「特定の結晶面が一方向に配向している」とは、各結晶粒の特定の結晶面が互いに平行に配向すること(以下、これを「面配向」という)、及び、各結晶粒の特定の結晶面が多結晶を貫通する1つの軸に対して平行に配向すること(以下、これを「軸配向」という)の双方を意味する。
特定の結晶面の面配向の程度は、次の数1の式に示すロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度Q(HKL)により表すことができる。
【0034】
【数1】

【0035】
なお、数1の式において、ΣI(hkl)は、配向多結晶について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI(hkl)は、配向多結晶体と同一組成を有する無配向多結晶体について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ'I(HKL)は、配向多結晶体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ'I(HKL)は、配向多結晶体と同一組成を有する無配向多結晶体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
【0036】
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度Q(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度Q(HKL)は10%となる。
【0037】
電気伝導度に結晶方位に応じた異方性がある導電性材料において、特定の結晶面(特に、面内方向の電気伝導度が高い結晶面)の配向度が高くなるほど、高い特性が得られる。特定の結晶面を面配向させる場合において、高い特性を得るためには、面配向度は、50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。
【0038】
なお、特定の結晶面を軸配向させる場合には、その配向の程度は、数1の式では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。特定の結晶面が軸配向している多結晶の場合、軸配向度は負の値となる。また、特定の結晶面がほぼ完全に軸配向している多結晶の軸配向度は、特定の結晶面がほぼ完全に面配向している多結晶について測定された軸配向度と同程度になる。
【0039】
配向させる特定の結晶面は、導電性材料の種類に応じて最適なものを選択する。
例えば、(1)式で表されるコバルト層状酸化物の場合、ab面(CoO層と平行な面)を配向させるのが好ましい。(1)式で表されるコバルト層状酸化物のab面は、面内方向の電気伝導度が高い。そのため、これを一方向に配向させると、配向方向の電気伝導度が向上する。
【0040】
次に、本発明に係る導電性多結晶体の製造方法について説明する。本発明に係る導電性多結晶体の製造方法は、成形工程と、第1熱処理工程と、第2熱処理工程とを備えている。
【0041】
成形工程は、目的とする組成を有する導電性材料が得られるように配合された粉末を成形し、成形体を得る工程である。
本発明において、「粉末」とは、導電性材料に含まれる少なくとも1つの陽イオン元素を含むものをいう。また、「陽イオン元素」は、導電性材料の主相を構成する元素だけでなく、例えば、電気伝導度を調整するためのドーパントも含まれる。出発原料には、目的とする導電性材料と同一組成を有する1種類の粉末のみを用いても良く、あるいは、組成の異なる2種以上の粉末を組み合わせて用いても良い。
【0042】
出発原料に用いる粉末の形態は、特に限定されるものではなく、目的とする導電性材料に応じて、最適なものを選択する。例えば、導電性材料が、金属、合金又は金属間化合物である場合、出発原料には、少なくとも1つの成分元素を含む金属粉末、合金粉末、金属間化合物粉末などを用いることができる。また、例えば、導電性材料が酸化物、窒化物、炭化物等の非金属である場合、出発原料には、少なくとも1つの成分元素を含む酸化物、炭化物、窒化物、水酸化物、塩、アルコキシドなどを用いることができる。
【0043】
2種以上の粉末を出発原料に用いる場合において、その配合比率は、粉末の組成及び導電性材料の組成に応じて定まる。通常は、粉末中に含まれる陽イオン元素の比率が目的とする導電性材料に含まれる陽イオン元素の比率に等しくなるように、これらを配合する。
【0044】
特定の結晶面が一方向に配向した多結晶体を作製する場合、出発原料には、異方形状粉末と、第2粉末との混合物を用いる。
ここで、「異方形状粉末」とは、配向多結晶体を作製するためのテンプレートとなるものであり、その発達面(面積の最も大きい面)が導電性材料の特定の結晶面と格子整合性を有するものをいう。「異方形状」とは、粉末の幅又は長さに対する発達面(面積の最も大きい面)の最大長さの比(アスペクト比)が大きい粉末をいい、板状、針状、鱗片状等が該当する。さらに、「第2粉末」とは、異方形状粉末と反応し又は反応することなく、目的とする導電性材料をとなるものをいう。
格子整合性の良否は、異方形状粉末の発達面の格子寸法と導電性材料の特定の結晶面の格子寸法との差の絶対値を異方形状粉末の格子寸法で除した値(以下、これを「格子整合率」という。)で表すことができる。異方形状粉末の格子整合率が小さくなるほど、良好なテンプレートとして機能することを意味する。高い配向度を有する多結晶体を得るためには、格子整合率の平均値(発達面の種々の方向について算出した格子整合率の平均値)は、具体的には、20%以下が好ましく、さらに好ましくは、10%以下である。
【0045】
異方形状粉末は、目的とする導電性材料の種類に応じて、最適なものを選択する。
例えば、熱電材料が(1)式に示すコバルト層状酸化物又はこれに種々の元素をドーピングしたものである場合、異方形状粉末は、具体的には、
(a) (1)式で表されるコバルト層状酸化物又はこれに種々の元素をドーピングしたものであって、作製しようとする熱電材料と同一又は異なる組成を有し、かつab面を発達面とする板状粉末、
(b) {00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末、{111}面を発達面とするCoO板状粉末、{111}面を発達面とするCo板状粉末、{00l}面を発達面とするCoO(OH)板状粉末、
等を用いるのが好ましい。
【0046】
第2粉末の組成は、目的とする導電性材料の組成及び異方形状粉末の組成に応じて定まる。例えば、(1)式に示すコバルト層状酸化物からなる多結晶体を作製する場合において、異方形状粉末として{00l}面を発達面とするCo(OH)板状粉末を用いるときには、第2粉末として、Bi、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Co及び/又は元素Cを含む酸化物、複酸化物、塩類等を用い、これらを化学量論比となるように配合すればよい。他の導電性材料を作製する場合も同様である。
【0047】
2種以上の粉末を用いる場合において、粉末の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
【0048】
次に、必要に応じて予備処理(混合、バインダー添加など)が行われた粉末を成形し、成形体を得る。成形方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。また、成形条件も特に限定されるものではなく、出発原料の組成、導電性材料に要求される特性等に応じて最適な条件を選択する。
なお、本発明において、「成形」には、例えば、金型を用いて粉末をプレス成形する場合等に限らず、ホットプレスや放電プラズマ焼結(SPS)用のダイス、HIP用の容器などに粉末を充填し、加熱前又は加熱時に加圧する行為も含まれる。
【0049】
また、特定の結晶面が配向した多結晶体を作製する場合、成形方法には、異方形状粉末に対してせん断力が作用するような方法を用いるのが好ましい。例えば、異方形状粉末を面配向させる場合、成形方法は、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法(シート状)等が好適である。また、例えば、異方形状粉末を軸配向させる場合、成形方法は、具体的には、押出成形法(非シート状)が好適である。
【0050】
また、異方形状粉末を面配向させる場合において、発達面の配向度を高めるためには、ドクターブレード(テープキャスト)法、押出法、プレス成形等を用いて成形体を作製し、次いで得られた成形体を圧延(ロールプレス)するのが好ましい。あるいは、シート状の成形体の積層圧着及び圧延を複数回繰り返しても良い。さらに、成形体を脱脂すると、密度又は配向度が低下する場合がある。このような場合には、密度又は配向度を高めるために、脱脂後の成形体に対して静水圧(CIP)処理を施しても良い。
【0051】
第1熱処理工程は、成形体を所定の温度Tにおいて、所定時間t加熱する工程である。第1熱処理工程は、異常粒成長を生じさせることなく、不純物相をほぼ消滅させることを主目的として行われる。従って、温度T及び時間tは、このような効果が得られるように、導電性材料の組成に応じて最適な温度及び時間を選択する必要がある。
【0052】
第1熱処理工程における熱処理温度Tは、具体的には、以下の温度が好ましい。
(1) 熱処理温度Tは、異常粒成長が生じうる温度以上が好ましい。
一般に、粉末間で反応又は元素の拡散を生じさせる場合において、温度が高くなるほど、短時間で反応又は拡散が完結し、不純物相の少ない単相が得やすい。また、一般に、温度が高くなるほど、拡散速度が速くなるので、短時間で緻密化を完結させることができる。一方、温度が高くなるほど、異常粒成長が生じやすくなる。
しかしながら、異常粒成長は、まず1次核が生成し、この1次核が成長することによって起こると考えられている。1次核が生成した後、異常粒成長が開始するまでには、ある一定の期間(誘導期間)が必要であり、熱処理時間tが誘導期間以内であれば、異常粒成長は起こらない。従って、熱処理温度Tが異常粒成長が生じうる温度以上であっても、加熱時間tが適切であれば、異常粒成長を生じさせることなく、不純物相の生成を抑制することができる。
【0053】
(2) 熱処理温度Tは、導電性材料の融点未満が好ましい。、一般に、熱処理温度Tが融点に近づくほど、短時間で反応又は拡散が完結し、不純物相の生成量を抑制することができる。しかしながら、温度Tが導電性材料の融点を超えると、導電性材料の全部又は一部が溶融し、均一な組織を有する多結晶体が得られない。これに対し、熱処理温度Tが導電性材料の融点未満であると、熱処理時間tを最適化することにより、導電性材料の溶融による不純物相の生成を抑制することができる。
【0054】
第1熱処理工程における熱処理時間tは、具体的には、以下の時間が望ましい。
(1) 熱処理時間tは、粉末間の反応又は元素の拡散が完結する時間以上が好ましい。熱処理温度Tに対して相対的に熱処理時間tが短すぎると、多結晶体内に不純物相が残留する。残留した不純物相は、電子を散乱させ、電気伝導度を低下させる原因となる。また、残留した不純物相を後述する第2熱処理工程において消滅させるのは困難である。従って、熱処理時間tは、異常粒成長が生じない限りにおいて、長い方が好ましい。
(2) 熱処理時間tは、平均粒径の5倍以上の粒径を持つ粒子(異常粒成長した粒子)の生成が認められる時間未満が好ましい。上述したように、異常粒成長が生じうる温度域で加熱すると、一定時間経過後に異常粒成長が開始する。異常粒成長は、電子を散乱させるだけでなく、配向の乱れやマクロ亀裂を生じさせ、電気伝導度を低下させる原因となる。従って、熱処理時間tは、平均粒径の5倍以上の粒径を持つ粒子の生成が認められる時間未満が好ましい。熱処理時間tは、さらに好ましくは、1次核が異常粒成長を開始する誘導期間未満の時間である。
【0055】
具体的な熱処理温度T及び熱処理時間tは、導電性材料の組成や熱処理方法に応じて、最適なものを選択する。
例えば、導電性材料がBi及び/又はPbを含む金属間化合物からなる熱電材料である場合、熱処理温度Tは、導電性材料の融点(K)−30(K)≦T<導電性材料の融点(K)が好ましい。また、熱処理時間tは、0.5(hr)≦t≦3(hr)が好ましい。
また、例えば、Bi及び/又はPbを含む酸化物(例えば、(1)式で表されるコバルト層状酸化物)からなる熱電材料である場合、熱処理温度Tは、導電性材料の融点(K)−10(K)≦T<導電性材料の融点(K)が好ましい。また、熱処理時間tは、1(hr)≦t≦3(hr)が好ましい。
【0056】
熱処理方法は、特に限定されるものではなく、常圧焼結、ホットプレス、ホットフォージング、HIP、プラズマ焼結(SPS)等、種々の方法を用いることができる。特に、加圧下において、成形体の熱処理を行うと、粒子間の反応又は元素の拡散が促進され、かつ、緻密な多結晶体が容易に得られる。
【0057】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程において熱処理された成形体を、さらに、所定の温度Tにおいて、所定時間t、加熱する工程である。第2熱処理工程は、不純物相がほぼ消滅した成形体をさらに加熱し、異常粒成長を生じさせることなく、緻密化させることを主目的として行われる。従って、温度T及び時間tは、このような効果が得られるように、導電性材料の組成に応じて最適な温度及び時間を選択する必要がある。
【0058】
第2熱処理工程における熱処理温度Tは、具体的には、以下の温度が好ましい。
(1) 熱処理温度Tは、緻密化が生じる温度以上が好ましい。温度Tが低すぎると、緻密化が不十分となり、高い電気伝導度は得られない。
(2) 熱処理温度Tは、異常粒成長が生じうる温度未満が好ましい。
異常粒成長が生じる温度域は、導電性材料の種類によって異なるが、一般に、導電性材料の融点に近づくほど、異常粒成長が生じやすくなる。異常粒成長を生じさせることなく緻密化させるためには、熱処理温度Tは、熱処理温度Tよりも低いことが好ましい。温度TとTの最適な温度差は、導電性材料の種類によって異なるが、少なくとも10(K)以上が好ましい。
【0059】
第2熱処理工程における加熱時間tは、緻密化するに十分な時間以上が好ましい。加熱時間tは、具体的には、電気伝導度の変化率が10%以下となる時間以上が好ましい。ここで、「電気伝導度の変化率」とは、熱処理時間1h当たりに試料の電気伝導度が変化する割合をいう。すなわち、
電気伝導度の変化率=[(σt3−σt4)/(σt3・Δt)]×100 (%)
但し、σt3:時刻tにおける試料の電気伝導度、
σt4:時刻tにおける試料の電気伝導度、
Δt :時刻tから時刻tまでの時間(hr)。
加熱時間tは、さらに好ましくは、電気伝導度の変化率が5%以下となる時間以上、さらに好ましくは、電気伝導度の変化率が1%以下となる時間以上である。
なお、第2熱処理工程においては、長時間加熱しても異常粒成長はほとんど生じないので、高い電気伝導度を得るためには、加熱時間tは、長いほどよい。但し、必要以上の加熱は、実益がないだけでなく、平均粒径の増大、機械的強度の低下等をもたらすので、多結晶体に要求される特性に応じて最適な加熱時間tを選択するのが好ましい。
【0060】
具体的な熱処理温度T及び熱処理時間tは、導電性材料の組成や熱処理方法に応じて、最適なものを選択する。
例えば、導電性材料がBi及び/又はPbを含む金属間化合物からなる熱電材料である場合、熱処理温度Tは、T(K)−60(K)≦T≦T(K)−40(K)が好ましい。また、熱処理時間tは、15(hr)≦t≦25(hr)が好ましい。
また、例えば、Bi及び/又はPbを含む酸化物(例えば、(1)式で表されるコバルト層状酸化物)からなる熱電材料である場合、熱処理温度Tは、T(K)−40(K)≦T≦T(K)−20(K)が好ましい。また、熱処理時間tは、15(hr)≦t≦25(hr)が好ましい。
【0061】
なお、熱処理方法として、種々の方法を用いることができる点、及び、加圧下において熱処理すると、緻密な多結晶体が容易に得られる点は、第1熱処理工程と同様である。また、第2熱処理工程は、第1熱処理工程に続けて行っても良く、あるいは、第1熱処理工程終了後に室温まで冷却し、再度、温度Tまで加熱しても良い。
【0062】
次に、本発明に係る多結晶体の製造方法の作用について説明する。
複雑な組成を有する導電性材料からなる多結晶体を作製する場合において、出発原料として目的とする導電性材料と同一組成を有する粉末を用いることもできる。この方法は、予め導電性材料と同一組成を有する粉末を作製する必要があるので、製造コストは増大するが、組成のずれの少ない多結晶体を得やすいという利点がある。
しかしながら、粉末を出発原料に用いて多結晶体を作製する場合において、熱処理温度が相対的に低いと、高密度の多結晶体は得られない。一方、高密度化するために熱処理温度を上げると、粉末の一部溶融により不純物相が生成したり、異常粒成長が起こる。
【0063】
一方、成分元素を含む2種以上の単純化合物を出発原料に用いて、加熱時に反応又は拡散を生じさせる方法は、複雑な組成を有する導電性材料であっても、相対的に低コストで多結晶体を得ることができる。しかしながら、一般に、組成が複雑になるほど、目的とする導電性材料以外の不純物相が生成しやすい。不純物相は、電子を散乱させ、電気伝導度を低下させる原因となる。これを避けるために、単に熱処理温度を上げると、異常粒成長が起こる。異常粒成長した粗大粒子は、電子を散乱させるだけでなく、結晶粒の配向を乱す原因となる。また、結晶構造に異方性がある導電性多結晶体において、異常粒成長が生じると、マクロ亀裂の原因となる。
【0064】
これに対し、所定の組成を有する粉末を成形し、異常粒成長は生じうるが、同時に粉末間の反応又は元素の拡散が速やかに進行する温度Tにおいて、相対的に短時間t加熱すると、異常粒成長を生じさせることなく、不純物相の生成を抑制することができる。次いで、この成形体を温度Tより低い温度Tにおいて、相対的に長時間t加熱すると、異常粒成長を生じさせることなく、緻密化させることができる。そのため、不純物相の生成、異常粒成長、及び、マクロ亀裂に起因する電気伝導度の低下を抑制することができる。
【0065】
また、電気伝導度に結晶方位に応じた異方性がある導電性材料において、電気伝導度の高い結晶方位又は結晶面を一方向に配向させると、配向方向の電気伝導度は、同一組成を有する無配向多結晶体の電気伝導度より高くなる。しかしながら、電気伝導度に異方性のある導電性材料は、結晶構造にも異方性があるものが多い。そのため、熱処理条件が不適切であると、異常粒成長が起こり、配向が乱れる。また、極端な場合には、異常粒成長した粗大粒子によって、多結晶体内にマクロ亀裂が発生する。
これに対し、本発明に係る方法は、熱処理が2段階に分けて行われるので、配向多結晶体を作製する場合、あるいは、結晶構造に異方性がある導電性材料を作製する場合であっても、異常粒成長を生じさせることなく、緻密化することができる。そのため、配向の乱れ及びマクロ亀裂に起因する電気伝導度の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0066】
(実施例1、比較例1〜3)
[1. BiSrCaCo配向多結晶体の作製]
図1に示す手順に従い、BiSrCaCo配向多結晶体を作製した。まず、板状Co(OH)テンプレート(異方形状粉末)、Bi、SrCO、CaCOを、Co:Bi:Sr:Ca=2:2:1:1(モル比)となるように計り取った。これらをエタノール−トルエン溶媒(混合比は、体積比で4:6)に分散させた。これをボールミルで24時間混合した後、ポリビニルブチラート(バインダー)及びフタル酸ブチル(可塑剤)を添加し、さらにボールミルで3時間混合した。得られたスラリーをドクターブレード法でテープ成形し、厚さ約100μmのテープを得た。これを積層し、80℃、100kg/cm(9.8MPa)の条件下で圧着し、空気中において600℃×2hrの条件下で脱脂した。さらに、得られた成形体を種々の条件下でホットプレス焼結した。表1に、ホットプレス条件を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
[2. 評価]
得られた多結晶体のテープキャスト面に水平な面に対して、X線回折測定を行った。また、多結晶体のテープキャスト面に垂直な面(研磨面及び破断面)について、SEM観察を行った。さらに、多結晶体から長手方向がテープキャスト面に平行な柱状試料を切り出し、熱電特性を評価した。
【0069】
図2(a)に、比較例1〜3の多結晶体のX線回折パターンを示す。また、図2(b)に、実施例1の多結晶体のX線回折パターンを示す。図2より、
(1) いずれの多結晶体もBiSrCaCoを主相とし、かつ、(00l)面に由来する強い回折ピークを示していること、
(2) 焼結条件が820℃×20h(比較例1)又は850℃×20h(比較例2)である場合、不純物相に相当する回折ピークが認められるのに対し、焼結条件が880℃×20h(比較例3)である場合、不純物相が認められないこと、及び、
(3) 焼結条件が880℃×2h→850×18h(実施例1)である場合、不純物相に相当する回折ピークが認められないこと、
がわかる。
【0070】
図3に、実施例1及び比較例1〜3で得られた多結晶体のテープキャスト面に垂直な面(研磨面)のSEM写真を示す。また、図4に、比較例3及び実施例1で得られた多結晶体のテープキャスト面に垂直な面(破断面)のSEM写真を示す。
図3中、黒く見える部分は、不純物相(Bi2.25Sr6.7512.38)に相当する。不純物相は、すべての試料に認められた。しかしながら、不純物相は、焼結温度の上昇により減少した(比較例1〜3)。また、2段階に分けて焼結を行った試料(実施例1)の不純物相の量は、比較例3と同等以下であった。
さらに、比較例3の試料には、テープキャスト面に垂直な方向に大きなクラックが認められた。その他の試料には、このようなクラックは観察されなかった。
【0071】
また、比較例3の場合、図4左図に示すように、破断面には、テープキャスト方向(図4左図中、水平方向)に垂直な方向に大きく粒成長した粒子(配向を乱す粒子)が観察された。一方、実施例1の場合、図4右図に示すように、破断面には、このような粗大粒子は観察されなかった。以上の結果から、比較例3の試料に発生したクラックは、異常粒成長した粗大粒子が原因と考えられる。
【0072】
表2に、各試料の熱電特性を示す。不純物相の多い比較例1、2の電気伝導度σは、相対的に低い。これは、不純物相が電子散乱を誘起しているためである。また、クラックが発生した比較例3の電気伝導度σは、これよりさらに低下した。これに対し、実施例1の電気伝導度σは、比較例2の約2倍であった。
一方、ゼーベック係数Sはバルクの物性であるため、不純物量、クラック、配向を乱す粒子等に影響されにくい。そのため、ゼーベック係数Sは、全試料で同等の値であった。
その結果、パワーファクター(PF)は、実施例1が最大となり、比較例2の1.5倍以上に向上した。
【0073】
【表2】

【0074】
[3. TG−DTA評価]
ホットプレス条件を880℃×O雰囲気×9.8MPa×2hとした以外は、図1に示す手順に従い、BiSrCaCo多結晶体を作製した。これを粉砕し、大気中においてTG−DTA測定を行った。その結果、図示はしないが、BiSrCaCoは、約880℃で融解することがわかった。比較例3で配向を乱す粒子が生成したのは、BiSrCaCoの一部が融解し、融液中での異常粒成長が起こったためと推察される。また、実施例1において配向を乱す粒子が観察されなかったのは、融液を生ずると考えられる温度(880℃)に曝される時間(2h)が、異常粒成長が起こり始めるまでの誘導期間に達しなかったためであると推察される。
【0075】
以上の結果から、目的物質を生成させ、不純物量を減少させ、さらに、配向を乱す粒子の生成を抑制するには、目的物質の融点近傍の温度に所定時間加熱した後、それより低い温度で熱処理することが有効であることがわかった。
【0076】
(実施例2、比較例4、5)
[1. SbI添加BiTe2.85Se0.15多結晶体を作製]
図5に示す手順に従い、SbI添加BiTe2.85Se0.15多結晶体を作製した。すなわち、金属Bi、金属Te、及び、金属Seを、Bi:Te:Se=2:2.8:0.15(モル比)となるように計り取った。さらに、金属重量の0.1wt%相当のSbIを計り取った。これらの粉末を石英管に入れ、1Torr(133Pa)の真空下で封管した。これを800℃×1hの条件下で攪拌・溶融し、炉冷した。得られた合金をカッターミルで粉砕し、50〜100μmの粉末をふるいで分級した。さらに、分級した粉末をダイスにいれ、種々の条件下でホットプレス焼結した。表3に、ホットプレス条件を示す。
【0077】
【表3】

【0078】
[2. 評価]
得られた多結晶体から柱状試料を切り出し、熱電特性を評価した。表4にその結果を示す。比較例5は、比較例4に比べて電気伝導度σ及びゼーベック係数Sが低下した。これは、比較例5の場合、BiTe2.85Se0.15の融点(〜570℃)近傍の温度に長時間曝されていたため、異常粒成長と、局所的な融解に伴う組成の不均一が生じたためである。そのため、比較例5のパワーファクター(PF)は、比較例4の約1/2であった。
これに対し、2段階の熱処理を行った実施例2は、比較例4より電気伝導度σが高くなった。これは、一部融解を生じさせることなく、密度が高くなったためである。一方、ゼーベック係数Sは、バルクの物性であるため、両者は、ほぼ同等であった。その結果、パワーファクター(PF)は、実施例2が最大となり、比較例4の約1.6倍に向上した。
【0079】
【表4】

【0080】
以上の結果から、異常粒成長及び一部融解に伴う組成の不均一を抑制し、高密度の多結晶体を得るためには、目的物質の融点近傍の温度に所定時間加熱した後、それより低い温度で熱処理することが有効であることがわかった。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る導電性多結晶体の製造方法は、太陽熱発電器、海水温度差熱電発電器、化石燃料熱電発電器、工場排熱や自動車排熱の回生発電器等の各種の熱電発電器、光検出素子、レーザーダイオード、電界効果トランジスタ、光電子増倍管、分光光度計のセル、クロマトグラフィーのカラム等の精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に用いられる熱電材料の製造方法として使用することができる。
また、本発明に係る導電性多結晶体の製造方法は、超伝導材料、ピエゾ抵抗効果材料の製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】BiSrCaCo配向多結晶体の製造方法の工程図である。
【図2】比較例1〜3(図2(a))及び実施例1(図2(b))で得られた多結晶体のX線回折パターンである。
【図3】比較例1〜3及び実施例1で得られた多結晶体のテープ面に垂直な面(研磨面)のSEM写真である。
【図4】比較例3及び実施例1で得られた多結晶体のテープ面に垂直な面(破断面)のSEM写真である。
【図5】SbドープBiTe2.85Se0.15多結晶体の製造方法の工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする組成を有する導電性材料が得られるように配合された粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第1熱処理工程と、
前記成形体を所定の温度Tにおいて、所定の時間t加熱する第2熱処理工程と
を備えた導電性多結晶体の製造方法。
但し、前記温度Tは、異常粒成長が生じうる温度以上、前記導電性材料の融点未満の温度。
前記時間tは、平均粒径の5倍以上の粒径を持つ粒子の生成が認められるまでの時間未満の時間。
前記温度Tは、緻密化が生じる温度以上、異常粒成長が生じうる温度未満の温度。
前記時間tは、緻密化させるのに十分な時間以上の時間。
【請求項2】
前記温度Tは、T≦T−10(K)である請求項1に記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項3】
前記時間tは、電気伝導度の変化率が10%以下となる時間以上の時間である請求項1又は2に記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料は、多結晶体の状態での室温における電気伝導度が0.1S/cm以上である請求項1から3までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項5】
前記導電性材料は、2種以上の金属元素を含む酸化物又は金属間化合物である請求項1から4までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料は、電気伝導度が低い結晶方位又は結晶面における電気伝導度σに対する電気伝導度が高い結晶方位又は結晶面における電気伝導度σの比(σ/σ)が2以上である請求項1から5までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項7】
前記導電性材料は、層状の結晶構造を有する請求項1から6までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性材料は、熱電特性、超伝導特性、及び/又は、ピエゾ抵抗効果を示す材料である請求項1から7までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項9】
前記導電性材料は、Bi及び/又はPbを含む請求項1から8までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項10】
前記成形工程は、その発達面が前記導電性材料の特定の結晶面と格子整合性を有する異方形状粉末と、該異方形状粉末と反応し又は反応することなく前記導電性材料となる第2粉末とを配合し、前記発達面が一方向に配向するように成形するものである請求項1から9までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。
【請求項11】
前記第1熱処理工程及び/又は前記第2熱処理工程は、加圧下において前記成形体の熱処理を行う請求項1から10までのいずれかに記載の導電性多結晶体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−315932(P2006−315932A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142518(P2005−142518)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(591288355)財団法人国際環境技術移転研究センター (53)
【Fターム(参考)】