説明

導電性弾性ロールの製造方法

【課題】導電性弾性材層の膜厚、電気特性が均一な導電性弾性ロールを容易に、かつ、安価に製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】芯金2の外周に柔軟性基層3を積層した後、その柔軟性基層3の外周に、アクリルフッ素をMEK中に溶解させた樹脂組成物からなる塗料を、ロール塗装法によってコーティングした。しかる後、その塗料をコーティングしたロールを、鉛直方向に支持したまま、温度40℃で湿度10%RHに調整された乾燥ゾーンに速やかに導き、鉛直軸を中心として約50rpmの回転速度で回転させながら、塗膜を約50秒間に亘って乾燥させることによって、柔軟性基層3の外周に抵抗調整層4を形成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ等に用いられる帯電ロール、現像ロールや転写ロール等の導電性弾性ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機やプリンタ等の帯電ロール、現像ロール、転写ロール等として、柔軟性基層や抵抗調整層等の導電性弾性材層を芯金やパイプ等の剛体の外側に設けた導電性弾性ロールが用いられる。そのような導電性弾性ロールの製造においては、導電性弾性材層を形成するために、導電性材料を充填した樹脂組成物からなる塗料が、剛体の外周や、それらの剛体上に形成された弾性体の外周、あるいは、その弾性体を被覆した被覆層の外周に、スプレー法、ロールコート法やディッピング法等の方法によって塗付される。そして、塗料が塗布された後には、自然乾燥させたり、塗料の塗布面にエアーを当てたりすることによって、塗膜の乾燥が行われる。ところが、そのような乾燥工程においては、塗料の液垂れによって膜厚のバラツキが生じたり、溶剤の揮発速度に差が生じて塗料中の導電性材料の分散が不均一になったりすることにより、電気特性のバラツキが大きくなり、複写画像に乱れが生じてしまうことがある。
【0003】
そのような問題点を解消する方法として、特許文献1の如く、エアーを当てて塗膜を乾燥させる際に風速を均一に調整することにより液垂れを防止する方法が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−136914公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗膜にエアーを当てる方法では、上記の如く風速を均一に調整する方法を採用したとしても、塗膜全体に亘って斑なくエアーを当てることは困難であり、塗料の液垂れによって膜厚にバラツキが生じる事態や、溶剤の揮発速度差によって塗料中の導電性材料の分散が不均一になる事態を効果的に防止することはできない。加えて、剛体または弾性体、もしくは弾性体を被覆した弾性体を鉛直方向に支持した状態で塗膜を乾燥させた場合には、液垂れによって膜厚にバラツキが生じたり導電性材料の分散が不均一になったりする傾向がより顕著なものとなる。加えて、風速を均一に調整する方法は、外乱因子の影響を抑えて風速を均一に調整可能な製造設備を構築するために多大な費用を要する、という不具合もある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、導電性弾性材層の膜厚および電気特性等が均一な導電性弾性ロールを容易に、かつ、安価に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、剛体の表面、またはその剛体上に形成された弾性体層の表面、もしくはその弾性体層を被覆した被覆層の表面に、導電性材料を含有する樹脂組成物からなる塗料を塗布した後に、その塗料を乾燥させることによって、前記剛体の表面、または前記弾性体層の表面、もしくは前記被覆層の表面に樹脂組成物からなる塗膜を形成する導電性弾性ロールの製造方法であって、前記剛体の表面、または前記弾性体層の表面、もしくは前記被覆層の表面に塗布された塗料の乾燥を、剛体または弾性体、もしくは弾性体を被覆した弾性体を50rpm以上3000rpm未満の回転数で回転させながら行うことにある。
【0008】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、剛体の表面、または弾性体層の表面、もしくは被覆層の表面に塗布された塗料の乾燥を、温度が25℃以上80℃未満で湿度が85%RH未満の雰囲気下で行うことにある。
【0009】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、乾燥後の塗膜の厚みを0.5μm以上100μm未満にすることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性弾性ロールの製造方法によれば、導電性弾性材層の膜厚や電気特性のバラツキがきわめて小さく複写画像に乱れを生じさせない導電性弾性ロールを、安価、かつ、容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法は、芯金やパイプ等の剛体の外周面上に導電性の弾性体や発泡体からなる柔軟性基層を積層した導電性弾性ロール、剛体の外周面上に柔軟性基層と体積抵抗値を調整するための抵抗調整層とを順次積層した導電性弾性ロール、剛体の外周面上に柔軟性基層と抵抗調整層とロール表面を保護するための保護層とを順次積層した導電性弾性ロール、剛体と柔軟性基層との間あるいは柔軟性基層と抵抗調整層との間にその他の層を設けた導電性弾性ロール等、各種の導電性弾性ロールの製造に用いることができる。
【0012】
柔軟性基層を形成するための材料としては、EPDM、SBR、NR、ポリノルボルネンゴム等の弾性体材料やそれらの弾性体材料の変性物、エピクロルヒドリンゴム、NBR、ウレタンゴム、水素添加NBR、EPDM等の材料をアゾジカルボンアミド、4,4−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、NaHCO3 等の発泡剤を用いて発泡させた発泡体材料等を用いることができる。
【0013】
また、柔軟性基層を形成する際には、上記した弾性体材料あるいは発泡体材料中に、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン等の金属粉、第4級アンモニウム塩等の導電性材料を配合することにより、柔軟性基層の体積抵抗率を所定の値に調整することができる。なお、柔軟性基層の体積抵抗率は、101 〜10Ω・cm程度であると好ましい。さらに、弾性体材料を用いて柔軟性基層を形成する場合には、プロセスオイルや液状ポリマー等の軟化剤を配合することにより、硬度や柔軟性を適宜調整することができる。また、柔軟性基層の厚みは、1〜10mmであると好ましい。
【0014】
一方、抵抗調整層を形成するための材料としては、NBR、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム等のゴム材料あるいはそれらの変性物等を用いることができる。また、抵抗調整層を形成する際には、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン等の金属粉、第4級アンモニウム塩等の導電性材料や帯電防止剤等を配合することにより、抵抗調整層の体積抵抗率を所定の値に調整することができる。なお、抵抗調整層の体積抵抗率は、10 〜1011Ω・cm程度であると好ましい。また、抵抗調整層の厚みは、200〜800μm程度であると好ましい。
【0015】
上記の如き導電性弾性材層(柔軟性基層や抵抗調整層等)は、導電性弾性材層を形成するためのゴム材料等を溶剤に溶解させた塗料や導電性弾性材層を形成するためのゴム材料等を溶液中に分散させた塗料を塗布することにより、剛体の外周面上や、剛体上に形成された弾性体層あるいはその弾性体層を被覆した被覆層の外周面上に形成することができる。本発明の製造方法においては、そのようにゴム材料等の樹脂組成物からなる塗料を塗布することにより剛体、弾性体層あるいは被覆層の外周面上に導電性弾性材層を形成する場合に、剛体または弾性体、もしくは弾性体を被覆した弾性体を50rpm以上3000rpm未満の回転速度にて回転させることが必要である。剛体の回転速度が50rpmを下回ったり3000rpmを上回ったりすると、膜厚のバラツキや塗料中の導電性材料の分散のバラツキを効果的に低減することができないので好ましくない。なお、より好ましい回転速度は、100rpm以上800rpm以下の範囲である。なお、上記の如く剛体または弾性体、もしくは弾性体を被覆した弾性体を回転させる場合における当該剛体または弾性体、もしくは弾性体を被覆した弾性体の回転軸方向は、鉛直方向でも良いし、水平方向でも良い。
【0016】
さらに、柔軟性基層や抵抗調整層を設けるための方法としては、刷毛によるコーティング、ロールコート法によるコーティング、ディッピング法によるコーティングやスプレー法による吹き付け塗装等、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
【0017】
また、剛体、弾性体層あるいは被覆層の外周面上に塗布した塗料の乾燥は、25℃以上80℃未満の温度条件下で行うのが好ましい。乾燥時の温度が25℃以下であると、乾燥に長い時間がかかり製造効率が低下するので好ましくなく、反対に、乾燥時の温度が80℃以上であると、きわめて短時間の内に塗膜が乾燥してしまうため、膜厚や塗料中の導電性材料の分散のバラツキを効果的に低減することができなくなるので好ましくない。
【0018】
また、塗料の乾燥は、85%RH未満の湿度条件下で行うのが好ましい。乾燥時の湿度が85%RH以上であると、乾燥に長い時間がかかり製造効率が低下するので好ましくない。
【0019】
一方、乾燥後の塗膜の厚みは、0.5μm以上100μm未満に調整するのが好ましい。乾燥後の塗膜の厚みが0.5μm未満であると、きわめて短時間の内に塗膜が乾燥してしまうため、膜厚や塗料中の導電性材料の分散のバラツキを効果的に低減することができなくなるので好ましくなく、反対に、乾燥後の塗膜の厚みが100μm以上であると、液垂れが多くなり、剛体を高速で回転させても膜厚や塗料中の導電性材料の分散のバラツキを是正できなくなるので好ましくない。
【0020】
以下、本発明に係る導電性弾性ロールの製造方法の一実施例を、図面にしたがって詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
ステンレス製で円柱状(直径約6mmφ)の芯金の外周面上に、接着剤をコーティングした後、その芯金を円筒形の金型にセットした。そして、その金型内に、カーボンブラックを含有したウレタンゴムを注型した後、その金型を加熱してウレタンゴムを架橋させることによって、芯金の外周に柔軟性基層を形成した。
【0022】
さらに、その柔軟性基層が形成されたロールを脱型した後、ロールを鉛直方向に支持した状態で、柔軟性基層の外側に、アクリルフッ素をMEK(メチルエチルケトン)中に溶解させた樹脂組成物からなる塗料を、ロールコート法によってコーティングした。なお、コーティングした樹脂組成物中には、導電性材料であるグラフトカーボン等を添加した。
【0023】
しかる後、その塗料を塗装したロールを、鉛直方向に支持したまま、温度23℃で湿度10%RHに調整された乾燥ゾーンに速やかに導き、鉛直軸を中心として約50rpmの回転速度で回転させながら、約50秒間に亘って塗膜を乾燥させて、柔軟性基層の外周に抵抗調整層を形成することにより、実施例1の導電性弾性ロールを得た。図1は、得られた導電性弾性ロールの断面の様子を示したものである。導電性弾性ロール1の芯金2の外側には、約4mmの厚みの柔軟性基層3が設けられており、その柔軟性基層3の外側には、グラフトカーボンを充填したアクリルフッ素からなる約10μmの厚みの抵抗調整層4が設けられている。
【0024】
[導電性弾性ロールの評価]
上記の如く得られた導電性弾性ロール1における抵抗調整層4の膜厚および電気特性のバラツキを、以下の方法によって評価した。評価結果を表1に示す。
【0025】
[電流値のバラツキ]
図2の如く、導電性弾性ロール1をステンレス製の金属ロールRと軸平行となるように配置させて接触させ、芯金2の両端に所定の圧力を加えて導電性弾性ロール1を押圧し、その押圧状態において、導電性弾性ロール1の芯金2と金属ロールRとの間に所定の電圧を印加し、その際の所定時間における電流値の変化を調べ、下式1から電流値のバラツキを算出した。
電流値のバラツキ=電流値の最大値/電流値の最小値・・・1
【0026】
[膜厚のバラツキ]
得られた導電性弾性ロール1の表面から、抵抗調整層4を剥ぎ取り、膜厚測定装置(OLYMPUS社製マイクロスコープ PV10−CB)を用いて、剥ぎ取った抵抗調整層の6箇所において膜厚を測定した。なお、膜厚の測定は、導電性弾性ロール1の長手方向に沿った平行な2本のライン上で、それぞれ、3箇所において行った。
【0027】
[製品外観]
製造された導電性弾性ロールの外観を、目視によって下記の2段階で評価した。
○・・外観が良好。
△・・外周に若干凹凸あり。
×・・外周に凹凸あり。
【0028】
[実施例2〜8]
塗膜を乾燥させる際のロールの回転速度を、それぞれ、100rpm,200rpm,300rpm,540rpm,800rpm,1000rpm,2000rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8の導電性弾性ロールを得た。得られた導電性弾性ロールの特性の評価結果を表1に示す。
【0029】
[実施例9]
塗膜を乾燥させる際の乾燥ゾーンの雰囲気を温度40℃×湿度10%RHに変更するとともに、塗膜を乾燥させる際のロールの回転速度を540rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の導電性弾性ロールを得た。得られた導電性弾性ロールの特性の評価結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
塗装された塗料を乾燥させる際にロールを回転させなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の導電性弾性ロールを得た。得られた導電性弾性ロールの特性の評価結果を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
塗膜を乾燥させる際のロールの回転速度を、3000rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の導電性弾性ロールを得た。得られた導電性弾性ロールの特性の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
[実施例の製造方法の効果]
表1から、塗膜の乾燥時にロールを回転させた実施例1〜9の導電性弾性ロールは、塗膜の乾燥時にロールを回転させなかった比較例1の導電性弾性ロールに比べて、膜厚のバラツキおよび電流値のバラツキがいずれも小さいことが分かる。また、回転速度が800rpmに至るまでは回転速度を大きくすることによって、膜厚のバラツキおよび電流値のバラツキがいずれも次第に小さくなることが分かる。加えて、実施例1〜9の導電性弾性ロールは、製品外観も良好であることが分かる。一方、比較例2の如く、塗膜の乾燥時におけるロールの回転速度を極端に大きくすると、膜厚のバラツキおよび電流値のバラツキはいずれも小さく保たれるものの、製品外観が悪化してしまうことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法は、上記の如く膜厚および電気特性のバラツキの小さな導電性弾性ロールを容易に、かつ、安価に製造することができるものであるので、電子写真を利用した複写機やプリンタ等の帯電ロール、現像ロール、転写ロール等の製造方法として、広汎に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】導電性弾性ロールの断面を示す説明図である。
【図2】電流値のバラツキの評価方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・導電性弾性ロール、2・・芯金、3・・柔軟性基層、4・・抵抗調整層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金やパイプ等の剛体の表面、またはその剛体上に形成された弾性体層の表面、もしくはその弾性体層を被覆した被覆層の表面に、導電性材料を含有する樹脂組成物からなる塗料を塗布した後に、その塗料を乾燥させることによって、前記剛体の表面、または前記弾性体層の表面、もしくは前記被覆層の表面に樹脂組成物からなる塗膜を形成する導電性弾性ロールの製造方法であって、
前記剛体の表面、または前記弾性体層の表面、もしくは前記被覆層の表面に塗布された塗料の乾燥を、剛体を50rpm以上3000rpm未満の回転数で回転させながら行うことを特徴とする導電性弾性ロールの製造方法。
【請求項2】
剛体の表面、または弾性体層の表面、もしくは被覆層の表面に塗布された塗料の乾燥を、温度が25℃以上80℃未満で湿度が85%RH未満の雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1に記載の導電性弾性ロールの製造方法。
【請求項3】
乾燥後の塗膜の厚みを0.5μm以上100μm未満にすることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の導電性弾性ロールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−113386(P2006−113386A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301880(P2004−301880)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】