説明

導電性無電解めっき粉体およびその製造方法

【課題】 環境汚染となるクロム酸や過マンガン酸等を使用せずに、特に平均粒径が20μm以下の微粒子であっても優れためっき密着性を有する導電性無電解めっき粉体及びその工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】 導電性無電解めっき粉体は芯材粉体の表面をメラミン樹脂で被覆処理し、更に無電解めっきにより金属皮膜が形成されてなることを特徴とする。また、その製造方法は該芯材粉体と該メラミン樹脂の初期縮合物を接触させて該初期縮合物の重合反応を行って該メラミン樹脂を被覆した該芯材粉体を得る工程、次いで該メラミン樹脂を被覆した該芯材粉体の表面に貴金属を担持させる工程、次いで該貴金属を担持させた該芯材粉体を無電解めっき処理する工程とを、含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性無電解めっき粉体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性無電解めっき粉体を始めとする無電解めっき製品を製造する場合には、被めっき物が疎水性であるときには、その表面を親水化処理して金属皮膜と被めっき物との密着性を高める必要がある。密着性を高める手段として、従来はクロム酸や過マンガン酸などの強力な酸化剤が用いられてきた。
【0003】
しかし、これらの酸化剤は環境負荷が大きいという不都合がある。適切な還元、洗浄処理をすれば、クロムやマンガンがめっき製品中に残留することは少ないが、完全な除去は非常に難しい。
【0004】
そこで、環境負荷の小さな親水化処理方法として、例えば下記特許文献1には合成樹脂材にアミノシラン系化合物、グリコール化合物、ニトリル化合物、チタネート化合物、ブタジエン重合体、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸等から選ばれた貴金属捕捉性表面処理材で該合成樹脂材を被覆処理して貴金属イオンを担時させ、次に無電解めっき処理する方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、特に平均粒径が20μm以下の微粒子に対してめっき密着性に優れたものが得られにくく、例えばファインピッチ用接続の用途に使用することが難しい。
【特許文献1】特開昭61−64882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、環境汚染となるクロム酸や過マンガン酸等を使用せずに、特に平均粒径が20μm以下の微粒子であっても優れためっき密着性を有する導電性無電解めっき粉体及びその工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、芯材粉体の表面をメラミン樹脂で被覆処理し、更に無電解めっきにより金属皮膜が形成されてなることを特徴とする導電性無電解めっき粉体を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、親水化処理に、クロム酸や過マンガン酸等を用いないでも、特に平均粒径が20μm以下の微粒子分に対してもめっき密着性が優れた導電性無電解めっき粉体を得ることができ、また、本発明の導電性無電解めっき粉体は、例えば異方導電フィルム(ACF)やヒートシールコネクタ(HSC)、液晶ディスプレーパネルの電極を駆動用LSIチップの回路基板へ接続するための導電材料、偏光板の用途などに好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の導電性無電解めっき粉体(以下、単にめっき粉体ともいう)は、芯材粉体の表面をメラミン樹脂で被覆処理し、更に無電解めっきにより金属皮膜が形成されてなるものである。
【0010】
本発明で使用する芯材粉体の種類に特に制限はなく、有機物粉体及び無機物粉体の何れもが用いられる。芯材粉体は、その表面が疎水性であってもよく、或いは親水性であってもよい。尤も、本実施形態の方法は、表面が疎水性である芯材粉体に特に有効である。芯材粉体は、好ましくは水に実質的に不溶性のものであり、更に好ましくは酸やアルカリに対しても溶解または変質しないものである。
【0011】
芯材粉体の形状に特に制限はない。一般に芯材粉体は粉粒状であり得るが、それ以外の形状、例えば繊維状、中空状、板状、針状であってもよく、粒子表面に多数の突起を有するものや或いは不定形のものであってもよい。本発明ではこれらの中、球状のものが導電性フィラーとして使用する場合に充填性に優れたものになる点で特に好ましい。
【0012】
芯材粉体の具体例としては、無機物として、金属(合金も含む)、ガラス、セラミックス、シリカ、カーボン、金属または非金属の酸化物(含水物も含む)、アルミノ珪酸塩を含む金属珪酸塩、金属炭化物、金属窒化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属硫化物、金属酸塩、金属ハロゲン化物及び炭素などが挙げられる。有機物としては、天然繊維、天然樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブテン、ポリアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、ポリアセタール、アイオノマー、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂またはジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。これらは単独でも使用でき又は2種以上の混合物として使用してもよい。
【0013】
本発明で使用する芯材粉体の他の好ましい物性としては、平均粒径が0.5〜100μm、特に0.8〜80μm、とりわけ1〜20μmであることがめっき工程中の凝集を抑制し、無電解めっき後の導電粒子として狭ピッチ化に対応できる観点で特に好ましい。なお、芯材粉体の平均粒径は電気抵抗法を用いて測定された値を示す。
【0014】
更に、前述の方法によって測定された芯材粉体の粒度分布には幅がある。一般に、粉体の粒度分布の幅は、下記計算式(1)で示される変動係数により表わされる。
変動係数(%)=(標準偏差/平均粒径)×100 計算式(1)
この変動係数が大きいことは分布に幅があることを示し、一方、変動係数が小さいことは粒度分布がシャープであることを示す。本実施形態では、この変動係数が芯材粉体として50%以下、特に30%以下、とりわけ20%以下のものを使用することが好ましい。この理由は、本発明によって得られためっき粉体を異方性導電膜中の導電粒子として用いた場合に、接続に有効な寄与割合が高くなるという利点があるからである。
【0015】
メラミン樹脂の被覆量は、使用する芯材粉体の種類や形状等によって異なるが多くの場合、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%とすることが望ましい。この理由は、メラミン樹脂の被覆量が0.1重量%未満では被覆量が不足しめっき密着性に優れためっき粉体が得られない傾向があり、一方、15重量%を超えると後述する(1)のメラミン樹脂を被覆した芯材粉体を得る工程で微粒子状のメラミン樹脂が単独で生成し、異物として残存する傾向があるためである。また、前記メラミン樹脂は、変性されたものであっもよい。
【0016】
導電性無電解めっき粉体における金属皮膜は、通常は単一金属の単層構造であるが、所望により2種類以上の異種金属による多層構造であってもよい。また、金属皮膜は、その種類やめっき条件によって結晶質または非晶質のいずれであっても良い。更に、金属皮膜は、磁性または非磁性を示すものでもあり得る。ここでいう金属には、金属単体のほか、合金(例えばニッケル−リン合金やニッケル−ホウ素合金)が含まれる。使用可能な金属としては、Ni、Fe、Cu、Co、Pd、Ag、Au、Pt、Snなどが挙げられる。金属皮膜の厚さは0.001〜2μm、特に0.005〜1μmであることが好ましい。金属皮膜の厚さは、ニッケルイオンの添加量や化学分析から算出することができる。
【0017】
経済的な観点からNiが好ましい。以下の実施形態では金属としてニッケルを例に取り説明するが、用い得る金属はこの限りではない。
【0018】
本実施形態の製造方法は、芯材粉体とメラミン樹脂の初期縮合物を接触させて該初期縮合物の重合反応を行ってメラミン樹脂を被覆した芯材粉体を得る工程、次いで該メラミン樹脂を被覆した芯材粉体の表面に貴金属を担持させる工程、次いで該貴金属を担持させた芯材粉体を無電解めっき処理する工程とを、含むものであるが、特に(1)メラミン樹脂を被覆した芯材粉体を得る工程、(2)触媒化処理工程、(3)初期薄膜形成工程、(4)無電解めっき工程を含むことにより、安定した品質のめっき粉体を工業的に有利に得ることができる。
【0019】
(1)の芯材粉体のメラミン樹脂被覆工程は、芯材粉体とメラミン樹脂の初期縮合物を接触させて該初期縮合物の重合反応を行ってメラミン樹脂で被覆した芯材粉体を得る工程である。
【0020】
なお、本発明においてメラミン樹脂の初期縮合物とは加熱又は酸触媒の添加により縮合反応を起こしメラミン樹脂が生成されるものを言う。前記メラミン樹脂の初期縮合物は、市販のものであってもよく、また、メラミン化合物とアルデヒド化合物とを反応させて得られるものをメラミン樹脂の初期縮合物として使用してもよい。
【0021】
前記メラミン化合物としては、例えば、メラミン、メラミンのアミノ基の水素をアルキル基、アルケニル基、フェニル基で置換したメラミン化合物(例えば、特開平09−143238号公報参照。)、メラミンのアミノ基の水素をヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基で置換した置換メラミン化合物(例えば、特開平5−202157号公報参照。)等が挙げられるが、工業的に容易に入手可能で、安価である点でメラミンが好ましい。また、メラミン化合物の一部を尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素類、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等のグアナミン類、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、レゾルシン、ハイドロキノン、ピロガロール等のフェノール類、アニリンで置換したものであってもよい。
【0022】
前記アルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等が挙げられ、メラミン化合物との反応性の点でホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。アルデヒド化合物の添加量はメラミン化合物に対するモル比で1.1〜6.0倍モル、好ましくは1.2〜4.0倍モルとすることが好ましい。
【0023】
使用することができる溶媒としては、水が特に好ましいが、水と有機溶媒との混合溶媒として使用してもよい。この場合、使用することができる有機溶媒としては、メラミン樹脂の初期縮合物を溶解することができる溶媒を用いることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルオキシド等の極性溶媒が挙げられる。
【0024】
前記メラミン化合物とアルデヒド化合物の反応はpH8〜9で行われ、必要により塩基を添加して反応を行うことができる。使用できる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア水等の常用のアルカリ剤を使用できる。反応温度は25〜100で通常分子量が200〜700程度のメラミン樹脂の初期縮合物を得ることができる。
【0025】
更に、前記メラミン樹脂の初期縮合物を微量の酸性物質の存在下にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類と反応させることによりアルコールにより変性されたメラミン樹脂の初期縮合物を得ることができる。
【0026】
前記メラミン樹脂の初期縮合物の添加量は、使用する芯材粉体の種類によって異なるが多くの場合、0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%とすることが望ましい。
【0027】
本発明において、この(1)のメラミン樹脂を被覆した芯材粉体を得る工程での反応操作は、前記芯材粉体を含む溶媒を調製し、該溶媒に前記メラミン樹脂の初期縮合物を添加して該初期縮合物の重合反応を行う方法、前記メラミン樹脂の初期縮合物を含む溶媒に、前記芯材粉体を添加して該初期縮合物の重合反応を行う方法、或いは芯材粉体、前記メラミン化合物及びアルデヒド化合物を所定量添加し、必要によりアルカリ剤を添加し溶媒中でそのままメラミン樹脂の初期縮合物の重合反応を行う方法等を用いることができる。なお、重合反応は必要により酸触媒を添加し40〜100℃で加温下に反応を行い、反応終了後、常法により固液分離し、次いで60〜180℃で乾燥を行うか、或いは反応液をそのまま噴霧乾燥することにより、メラミン樹脂で被覆した芯材粉体を得ることができる。
【0028】
前記重合反応で用いることができる酸触媒としては、特に制限されるものではないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、スルファミン酸等のスルホン酸類、ギ酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸等の有機酸を使用することができる。
【0029】
(2)の触媒化処理工程は、貴金属イオンの捕捉能を有するか又は表面処理によって貴金属イオンの捕捉能を付与した芯材粉体に、貴金属イオンを捕捉させた後、これを還元して前記貴金属を芯材粉体の表面に担持させる工程である。(3)の初期薄膜形成工程は、貴金属が担持された芯材粉体を、ニッケルイオン、還元剤及び錯化剤を含む初期薄膜形成液に分散混合させ、ニッケルイオンを還元させて該芯材粉体の表面にニッケルの初期薄膜を形成する工程である。(4)の無電解めっき工程は、無電解めっきによって芯材粉体の表面にニッケル皮膜を有するめっき粉体を製造する工程である。以下、それぞれの工程について詳述する。
【0030】
(2)触媒化処理工程
前記(1)の工程で得られたメラミン樹脂を被覆した芯材粉体は、その表面が貴金属イオンの捕捉能を有するか、又は貴金属イオンの捕捉能を有するように表面改質される。貴金属イオンは、パラジウムや銀のイオンであることが好ましい。貴金属イオンの捕捉能を有するとは、貴金属イオンをキレート又は塩として捕捉し得ることをいう。
【0031】
次に、芯材粉体を塩化パラジウムや硝酸銀のような貴金属塩の希薄な酸性水溶液に分散させる。これによって貴金属イオンを粉体表面に捕捉させる。貴金属塩濃度は粉体の表面積1m2当り1×10-7〜1×10-2モルの範囲で充分である。貴金属イオンが捕捉された芯材粉体は系から分離され水洗される。引き続き、芯材粉体を水に懸濁させ、これに還元剤を加えて貴金属イオンの還元処理を行う。これによって芯材粉体の表面に貴金属を担持させる。還元剤としては、例えば次亜リン酸ナトリウム、水素化ほう素ナトリウム、水素化ほう素カリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルマリン等が用いられる。
【0032】
貴金属イオンを芯材粉体の表面に捕捉させる前に、錫イオンを粉体表面に吸着させる感受性化処理を施してもよい。錫イオンを粉体表面に吸着させるには、例えば表面改質処理された芯材粉体を塩化第一錫の水溶液に投入し所定時間撹拌すればよい。
【0033】
(3)初期薄膜形成工程
初期薄膜形成工程は、主として、芯材粉体へのニッケルの均一析出を平滑化する目的で行われる。初期薄膜形成工程においては、先ず、貴金属が担持された芯材粉体を十分に水に分散させる。分散にはコロイドミルやホモジナイザーのような剪断分散装置などを用いることができる。芯材粉体を分散させるに際し、例えば界面活性剤等の分散剤を必要に応じて用いることができる。このようにして得られた水性懸濁体を、ニッケルイオン、還元剤及び錯化剤を含む初期薄膜形成液に分散混合させる。これによって、ニッケルイオンの還元反応が開始され、芯材粉体の表面にニッケルの初期薄膜が形成される。先に述べた通り、初期薄膜形成工程は主として均一析出の目的で行われるから、形成されるニッケルの初期薄膜は、芯材粉体の表面を平滑にし得る程度に薄いものであればよい。この観点から、初期薄膜の厚さは0.001〜2μm、特に0.005〜1μmであることが好ましい。初期薄膜の厚さは、ニッケルイオンの添加量や化学分析から算出することができる。
【0034】
前述した厚さの初期薄膜を形成させる観点から、初期薄膜形成液におけるニッケルイオンの濃度は2.0×10-4〜1.0モル/リットル、特に1.0×10-3〜0.1モル/リットルであることが好ましい。ニッケルイオン源としては、硫酸ニッケルや塩化ニッケルのような水溶性ニッケル塩が用いられる。同様の観点から、初期薄膜形成液における還元剤の濃度は4×10-4〜2.0モル/リットル、特に2.0×10-3〜0.2モル/リットルであることが好ましい。還元剤としては、先に述べた貴金属イオンの還元に用いられているものと同様のものを用いることができる。
【0035】
初期薄膜形成液には錯化剤を含有させておくことが好ましい。錯化剤は、めっきの対象となる金属イオンに対して錯体形成作用のある化合物である。本実施形態においては、錯化剤として有機カルボン酸又はその塩、例えばクエン酸、ヒドロキシ酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸若しくはグルコン酸又はそのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が使用できる。さらにアミン化合物、例えばグリシン、アラニン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのアミノ基を有する化合物も使用できる。これらの錯化剤は1種または2種類以上用いることができる。錯化剤の溶解度の観点から、初期薄膜形成液における錯化剤の量は0.003〜10モル/リットル、特に0.006〜4モル/リットルであることが好ましい。
初期薄膜を容易に形成し得る点から、水性懸濁体における芯材粉体の濃度は0.1〜500g/リットル、特に0.5〜300g/リットルであることが好ましい。
【0036】
芯材粉体を含む水性懸濁体と初期薄膜形成液とを混合して得られた水性懸濁体は、次いで後述する無電解めっき工程に付される。無電解めっき工程に付される前における水性懸濁体においては、該水性懸濁体の体積に対する該水性懸濁体に含まれる該芯材粉体の表面積の総和の割合(この割合は一般に負荷量と呼ばれる)が0.1〜15m2/リットル、特に1〜10m2/リットルであることが、密着性に優れた皮膜を有するニッケル皮膜を容易に形成し得る点から好ましい。負荷量が高すぎると、後述する無電解めっき工程において、液相でのニッケルイオンの還元が甚だしくなり、ニッケルの微粒子が液相に多量に発生し、これが芯材粉体の表面に付着してしまい、均一なニッケル皮膜を形成することが困難となる。
【0037】
(3)無電解めっき工程
無電解めっき工程においては、(a)初期薄膜が形成された芯材粉体及び前記錯化剤を含む水性懸濁体、(b)ニッケルイオン含有液及び(c)還元剤含有液の3液を使用する。(a)の水性懸濁体は、先に述べた初期薄膜形成工程で得られたものをそのまま用いればよい。
【0038】
(a)の水性懸濁体とは別に、(b)のニッケルイオン含有液及び(c)の還元剤含有液の2液を調製しておく。ニッケルイオン含有液は、ニッケルイオン源である硫酸ニッケルや塩化ニッケルのような水溶性ニッケル塩の水溶液である。ニッケルイオンの濃度は、0.1〜1.2モル/リットル、特に0.5〜1.0モル/リットルであることが、密着性に優れたニッケル皮膜を容易に形成させることができることから好ましい。
【0039】
ニッケルイオン含有液には、水性懸濁体に含有されている錯化剤と同種の錯化剤を含有させておくことが好ましい。つまり(a)の水性懸濁体及び(b)のニッケルイオン含有液の双方に同種の錯化剤を含有させておくことが好ましい。これによって密着性に優れたニッケル皮膜を容易に形成させることができる。この理由は明確ではないが、(a)の水性懸濁体及び(b)のニッケルイオン含有液の双方に錯化剤を含有させておくことで、ニッケルイオンが安定化し、その還元反応が急激に進行することが妨げられるからであると推測される。
【0040】
(b)のニッケルイオン含有液における錯化剤の濃度も、(a)の水性懸濁体における錯化剤の濃度と同様にニッケル皮膜の形成に影響を及ぼす。この観点及び錯化剤の溶解度の観点から、ニッケルイオン含有液における錯化剤の量は0.006〜12モル/リットル、特に0.012〜8モル/リットルであることが好ましい。
【0041】
(c)の還元剤含有液は、一般に還元剤の水溶液である。還元剤としては、先に述べた貴金属イオンの還元に用いられているものと同様のものを用いることができる。特に次亜リン酸ナトリウムを用いることが好ましい。還元剤の濃度は、ニッケルイオンの還元状態に影響を及ぼすことから、0.1〜20モル/リットル、特に1〜10モル/リットルの範囲に調整することが好ましい。
【0042】
(a)の水性懸濁体に、(b)のニッケルイオン含有液及び(c)の還元剤含有液の2液を個別かつ同時に添加する。これによってニッケルイオンが還元されて、芯材粉体の表面にニッケルが析出しその皮膜が形成される。ニッケルイオン含有液と還元剤含有液の添加速度は、ニッケルの析出速度を制御するのに有効である。ニッケルの析出速度は、密着性の良いニッケル皮膜の形成に影響を及ぼす。従って、ニッケルの析出速度は、両液の添加速度を調整することによって1〜10000nm/時、特に5〜300nm/時に制御することが好ましい。ニッケルの析出速度は、ニッケルイオン含有液の添加速度から計算によって求めることができる。
【0043】
2液を水性懸濁体に添加している間、負荷量を0.1〜15m2/リットル、特に1〜10m2/リットルの範囲に保つことが好ましい。これによって、ニッケルが均一に析出する。同様の理由から、2液の添加が終わりニッケルイオンの還元が完了した時点での負荷量がこの範囲であることも好ましい。
【0044】
用いる還元剤の種類にもよるが、ニッケルイオンの還元反応中、水性懸濁体のpHは3〜13、特に4〜11の範囲に保たれていることが、ニッケルの水不溶性沈殿物の生成を防止する点から好ましい。pHを調整するには、例えば、還元剤含有液中に水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を所定量添加しておけばよい。
【0045】
得られためっき粉体は、ろ過及び水洗が数度繰り返された後に分離される。更に付加工程として、ニッケル皮膜上に最上層としての金めっき層の形成工程を行ってもよい。金めっき層の形成は、従来公知の無電解めっき法に従い行うことができる。例えば、めっき粉体の水性懸濁体に、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、クエン酸三ナトリウム及びシアン化金カリウムを含み、水酸化ナトリウムでpHが調整された無電解めっき液を添加することで、ニッケル皮膜上に金めっき層が形成される。金めっき層の厚さは一般に0.001〜0.5μm程度である。金めっき層の厚さは、金イオンの添加量や化学分析から算出することができる。
【0046】
このようにして、ニッケル皮膜が芯材粉体の表面に形成されてなるめっき粉体が得られる。このめっき粉体におけるニッケル皮膜は芯材粉体との密着性に優れたものとなる。ニッケル皮膜の厚さはその密着性や耐熱性に少なからず影響し、皮膜が厚すぎると芯材粉体からの落剥が起こって導電性が低下しやすい傾向にある。逆に、皮膜が薄すぎても所望の導電性が得られなくなる。これらの観点から、ニッケル皮膜の厚さは0.005〜10μm、特に0.01〜2μm程度であることが好ましい。ニッケル皮膜の厚さは例えば走査型電子顕微鏡による観察から実測できるほか、ニッケルイオンの添加量や化学分析から算出することもできる。
【0047】
かくして得られる本発明のめっき粉体は、例えば異方導電フィルム(ACF)やヒートシールコネクタ(HSC)、液晶ディスプレーパネルの電極を駆動用LSIチップの回路基板へ接続するための導電材料、偏光板などの用途に好適に使用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0049】
〔実施例1−3〕
(1) メラミン樹脂被覆工程
冷却器付四つ口フラスコに表1に示す芯材粉体100重量部、水100重量部、メラミン3重量部、37%ホルマリン8重量部を仕込み、攪拌下に5%炭酸ナトリウム水溶液を添加してpHを9.0に調製した。次に75℃に昇温し、2時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、冷却し、濾過、水洗し、減圧下(5mmHg以下)、150℃で6時間乾燥硬化させることによりメラミン樹脂を2.1重量%被覆した芯材粉体を得た。
【0050】
(2)触媒化処理工程
(1)の工程で得られたメラミン被覆芯材粉体を7.5重量%含む水性スラリー200mlに、塩化第一錫水溶液200mlを投入した。この水溶液の濃度は5×10-3モル/Lであった。常温で5分間攪拌し、錫イオンをメラミン被覆芯材粉体の表面に吸着させる感受性化処理を行った。引き続き水溶液を濾過し、1回リパルプして水洗した。次いでメラミン被覆芯材粉体を3.75重量%含む水性スラリー400mLを調製し、60℃に維持した。超音波を併用してスラリーを攪拌しながら、0.11モルg/Lの塩化パラジウム水溶液2mLを添加した。そのままの攪拌状態を5分間維持させ、メラミン被覆芯材粉体の表面にパラジウムイオンを捕捉させる活性化処理を行った。次いで水溶液をろ過し、1回リパルプ湯洗した。次にメラミン被覆芯材粉体を7.5重量%含む水性スラリー200mlを調製した。超音波を併用しながらこのスラリーを攪拌し、そこへ、0.017モル/リットルのジメチルアミンボランと0.16モル/リットルのホウ酸との混合水溶液20mLを加えた。常温で超音波を併用しながら2分間攪拌してパラジウムイオンの還元処理を行った。
(3)初期薄膜形成工程
【0051】
(2)の工程で処理したメラミン被覆芯材粉体7.5重量%含む水性スラリー200mLを、0.087モル/Lの酒石酸ナトリウムと0.005モル/Lの硫酸ニッケルと0.012モル/Lの次亜リン酸ナトリウムからなる初期薄膜形成液に攪拌しながら添加して水性懸濁体となした。初期薄膜形成液は75℃に加温されており、液量は2Lであった。スラリー投入後、直ぐに水素の発生が認められ、初期薄膜形成の開始を確認した。
(4)無電解めっき工程
【0052】
初期薄膜形成工程で得られた水性懸濁体に0.86モル/Lの硫酸ニッケルと0.17モル/Lの酒石酸ナトリウムからなるニッケルイオン含有液及び2.57モル/Lの次亜リン酸ナトリウムと2.6モル/Lの水酸化ナトリウムからなる還元剤含有液の2液を、それぞれ8mL/分の添加速度で添加した。添加量はそれぞれ析出した膜厚が0.2ミクロンになるように添加液量を調節した。2液の添加後すぐに水素の発生が認められ、めっき反応の開始が確認された。2液の添加が完了した後、水素の発泡が停止するまで75℃の温度を保持しながら攪拌を続けた。次いで水性懸濁体をろ過し、ろ過物を3回リパルプ洗浄した後、110℃の真空乾燥機で乾燥させた。これにより、ニッケル−リン合金めっき皮膜を有するめっき粉体を得た。
【0053】
〔比較例1−3〕
実施例1〜3において、(1)の工程を実施しない以外は同様な操作でめっき粉体を得た。
【0054】
〔比較例4〜6〕
実施例1において、(1)の工程を下記(1−1)工程に代えた以外は実施例1〜3と同様な操作でめっき粉体を得た。
(1−1)工程
表1に示す表面処理剤1.0重量%含む水溶液100重量部に、実施例1で使用した同じスチレン樹脂10重量部を添加し室温で1時間浸漬させた。次に110℃で乾燥して表面処理剤を被覆した芯材粉体を調製した。
【0055】
〔比較例7〕
実施例1において、(1)の工程を下記(1−2)工程に代えた以外は実施例1と同様な操作でめっき粉体を得た。
(1−2)工程
無水クロム酸2.0モル/L、硫酸3.6モル/Lからなるエッチング液2L中に芯材粉体100重量部を仕込み、70℃に昇温後、10分間攪拌した。次いでろ過、洗浄を繰り返し、エッチング処理をした芯材粉体を得た。
【0056】
得られためっき粉体について、以下の方法で、めっき皮膜の厚み、めっき皮膜の密着性を測定・評価した。その結果を表2に示す。また、めっき粉体に残存するクロム量を測定し、その結果も表2に併記した。
【0057】
〔めっき皮膜の厚み〕
めっき粉体を硝酸に浸漬してめっき皮膜を溶解し、皮膜成分をICPまたは化学分析により定量し、下式により厚みを算出した。
A=[(r+t)3−r3]d1/rd2
A=W/100−W
式中、rは芯材粉体の半径(μm)、tはめっき皮膜の厚み(μm)、d1はめっき皮膜の比重、d2は芯材粉体の比重、Wは金属含有量(重量%)を示す。
【0058】
〔めっき皮膜の密着性〕
めっき粉体2.2g及び直径3mmのジルコニアビーズ90gを、100ミリリットルのマヨネーズビンに入れた。更にマヨネーズビンに、ホールピペットを用いてトルエン10ミリリットルを加えた。攪拌機(スリーワンモーター)を用いてマヨネーズビン内を10分間400rpmで攪拌した。終了後、めっき粉体とジルコニアビーズとを分別した。走査型電子顕微鏡でめっき粉体を観察し、めっき皮膜のはがれ具合を以下の基準で評価した。
○:めっき皮膜の剥がれが観察されなかった。
×:めっき皮膜の剥がれが観察された。
【0059】
〔クロム含有量〕
めっき粉体を硝酸に浸漬してめっき皮膜を溶解し、さらに硫酸を加え加熱分解した。得られた分解溶液からICPによりクロム量を測定した。
【0060】
【表1】

注)表面処理剤1;γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、表面処理剤2;N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、表面処理剤3;γ―メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0061】
【表2】

注)N.D.は検出限界0.002mg/g−めっき粉体以下であることを示す。
【0062】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例のめっき粉体(本発明品)はめっき皮膜の密着性に優れており、実質的にクロムを含まないことが判る。これに対して比較例1〜6のめっき粉体はクロムを含まないものの、めっきが剥がれやすいものであることが判る。また、比較例7のめっき粉体はめっき皮膜の密着性に優れているものの、めっき粉体中にクロムが含有されていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材粉体の表面をメラミン樹脂で被覆処理し、更に無電解めっきにより金属皮膜が形成されてなることを特徴とする導電性無電解めっき粉体。
【請求項2】
前記芯材粉体が疎水性のものである請求項1記載の導電性無電解めっき粉体。
【請求項3】
前記芯材粉体の平均粒径が0.5〜100μmである請求項1又は2記載の導電性無電解めっき粉体。
【請求項4】
前記芯材粉体の平均粒径が1〜20μmである請求項1又は2記載の導電性無電解めっき粉体。
【請求項5】
前記芯材粉体として球状のものを用いる請求項1乃至4の何れかに記載の導電性無電解めっき粉体。
【請求項6】
芯材粉体とメラミン樹脂の初期縮合物を接触させて該初期縮合物の重合反応を行ってメラミン樹脂を被覆した芯材粉体を得る工程、次いで該メラミン樹脂を被覆した芯材粉体の表面に貴金属を担持させる工程、次いで該貴金属を担持させた芯材粉体を無電解めっき処理する工程とを、含むことを特徴とする導電性無電解めっき粉体の製造方法。

【公開番号】特開2007−262495(P2007−262495A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89152(P2006−89152)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】