説明

導電性転写箔およびそれを使用したICカード

【課題】カードが取引端末内のローラやIC端子、さらに場合によっては磁気ヘッドとの摩擦により、カード表面に傷がつきやすくならず、しかもワックス等の滑剤成分を添加するか、非常に強固な樹脂類を添加することなく目的とする帯電防止性能自体が得られる導電性転写箔およびそれを使用したICカードが望まれていた。
【解決手段】基材上に、少なくとも剥離保護層、導電層、接着層を剥離可能に順次形成してなる導電性転写箔およびそれを使用したICカードを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード表面に転写され、導電性を有する転写箔およびそれを使用したICカードに関する。
【0002】
より詳しくは、例えば、クレジットカード、キャッシュカード等のカードであって、接触もしくは非接触にて外部端末と通信もしくは情報交換を行う、いわゆるICカードの表面に転写することで、静電気による埃の吸引、取引端末との接触に起因する静電気障害による通信不良もしくはICチップ破壊等の不具合を改善するための転写箔およびこれを使用したICカードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
クレジットカード、キャッシュカードに代表されるプラスチックカードは、従来から、買い物や預金引き出し等に広く使用されている。これまでは、使用されるカードに関する情報はカード上に設けられた磁気テープ上に保存され、取引時に読み取ることで認証を行い、取引を成立させている。
【0004】
近年になって、磁気テープに代わってICチップ内に情報を記録したICカードが登場してきている。これには、通信のための端子が表面に露出し、端末の通信端子と接触して通信を行う接触式ICカードと、通信はカード内のアンテナを通して行う非接触式ICカードがある。
このいずれも、状況に応じて取引端末内にカードを挿入して取引を行う可能性があり、この際にはゴムローラのようなものを用いて端末内にカードを搬送することが一般に行われている。
【0005】
一般的に、カードはプラスチックであり、絶縁体であるから、同じく絶縁体のゴムと接触することで帯電し、場合によっては数千ボルトの電圧に達して放電し、ICチップを破壊する、もしくはノイズを発生する等して、その際の取引を異常終了させてしまう危険性がある。
【0006】
これを防止する目的で、基材上に導電性高分子を含む導電層と接着層を積層した転写シートから、ICカード上に導電層を転写することでカード表面に導電性を付与し、静電気障害を防止する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000−6523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の技術では、転写されたカード表面が導電層となることになり、カードとしての耐久性、特に耐摩擦性や薬品耐性が低下する傾向がある。この場合、カードは取引端末内のローラやIC端子、さらに場合によっては磁気ヘッドとの摩擦により、カード表面に傷がつきやすくなることになる。
【0008】
これを防ぐには、ワックス等の滑剤成分を添加するか、非常に強固な樹脂類を添加する必要があるが、いずれも目的とする帯電防止性能自体が低下してしまい、実用にならないという問題が生じる。
【0009】
また、上述の技術によれば、導電層を上から全面に設けることによって取引端末とIC
カードとの通信を妨げないことが効果として述べられているが、実際には導電層とICカードの間には接着層が介在するため、正常な通信は非常に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、請求項1に記載の発明は、基材上に、少なくとも剥離保護層、導電層、接着層を剥離可能に順次形成してなる導電性転写箔である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記剥離保護層と導電層および/あるいは導電層と接着層の間にアンカー層を設けてなることを特徴とする請求項1記載の導電性転写箔である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記剥離保護層を、0.3μm以上5μm以下の厚みで形成してなる請求項1または2記載の導電性転写箔である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、導電層を、導電層表面の表面抵抗率が1010Ω以下で形成してなることを特徴とする請求項1または2または3記載の導電性転写箔である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、基材上に、少なくとも剥離保護層、導電層、接着層を剥離可能に順次形成してなる導電性転写箔を、熱的にカード基材上に転写してなることを特徴とするICカードである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の転写箔によれば、静電気障害を防止するために必要な帯電防止性を有した上で、カードとして要求される耐久性を満たしたICカードのための転写箔、ICカードを得ることができる。
【0016】
また、本願は転写層へカード表面を全てはがしてICチップを入れるので、接着層があっても差し支えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の導電性転写箔の構成を示す図である。導電性転写箔1は、基材2上に剥離保護層3、導電層4、接着層5の順に積層されている。
【0018】
まず、各層の機能と使用される材料について説明する。基材2としては、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものが使用可能であり、0.5〜100μm、好ましくは3〜50μm程度の厚さのポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネート、フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、セロファン等のフィルムが使用可能である。
【0019】
剥離保護層3はICカード上に転写する際の剥離層として機能するとともに、転写された後には保護層として機能するものである。材料としては従来公知の樹脂が使用可能であり、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂等が使用可能である。
【0020】
剥離保護層3の組成としては、箔時に上層となる導電層4との相性を考慮し、十分な密着力を有する材料であることが必要である。また、剥離保護層3は、ICカード上に転写された後には保護層として機能するため、機械的強度、耐摩擦性、薬品耐性が高い材料であることが好ましい。さらには、耐摩擦性を向上させるための滑剤成分として、ワックス類や金属石鹸等を添加することができる。
【0021】
剥離保護層3を設ける方法としては、従来公知の印刷法、コーティング法が使用可能であり、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ロールコーティング法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スピンコート法等が使用可能である。
【0022】
剥離保護層3の厚みは、保護層としての耐久性を考慮し、0.1〜20μm程度、好ましくは0.3〜5μmの厚みで設けることができる。薄すぎると保護層としての役割が果たせず、また、厚すぎると下層の導電層との間隔が広くなりすぎ、期待した導電性が得られない。
【0023】
導電層4は本発明の中心となる層であって、発生した静電気を逃がすための導通層として機能する層である。導電材料としては、従来公知の無機系導電材料、有機系導電材料が使用可能である。特に好ましいのは着色力の弱い導電材料であり、例えば無機系としては酸化スズ、アンチモン添加酸化スズ、インジウム添加酸化スズ、アンチモン酸亜鉛、五酸化アンチモンといった材料が使用可能であり、有機系としてはポリチアジル系、ポリアセチレン系、ポリビニロール系、ポリアニリン系、ポリチオフェン系、ポリフェニレンビニレン系、4級アンモニウム塩共重合アクリル系といった有機高分子材料が使用可能である。
【0024】
また、着色力が強い導電材料は下地にくる印刷絵柄への影響がない限りにおいて使用可能であって、カーボンブラック、硫化銅、酸化亜鉛等の導電材料が使用可能である。
【0025】
導電性材料は単独でもよいが、適切な樹脂材料に添加もしくは混合して用いるのが好ましい。この樹脂材料としては、従来公知のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂等が使用可能である。
【0026】
前記した導電材料と樹脂材料の混合比率は任意であり、要求される導電性のほか加工適性、機械的強度、密着強度、薬品耐性、保存性等を勘案して設定することが可能である。
【0027】
導電層4を設ける方法としては、従来公知の印刷法、コーティング法が使用可能であり、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ロールコーティング法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スピンコート法等が使用可能である。
【0028】
導電層4の厚みは任意であって、要求される導電性が得られる厚みであれば使用可能である。必要とする導電性は、表面抵抗率が1011Ω以下であり、この範囲であれば、ICカード上に転写した場合に静電気障害を防止することができる。
【0029】
接着層5は転写された箔上の層とICカード表面の密着性を向上させるための層であって、従来公知の樹脂が使用可能であり、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂等が使用可能である。
【0030】
接着層5を設ける方法としては、従来公知の印刷法、コーティング法が使用可能であり、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ロールコーティング法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スピンコート法等が使用可能である。
【0031】
接着層5の厚みは、十分な密着強度が得られる範囲で任意であり、0.1〜20μm程度の厚みで使用可能である。
【0032】
また、上記説明した各層間の密着強度を向上させる目的で、各層間にアンカー層を設けることは一向に差し支えない。アンカー層の材料としては、上記の各層の説明に挙げた材料が使用可能である。
【0033】
次に、上記の導電性転写箔を用いて得られるICカードについて説明する。
【0034】
図2は本発明によってなる接触式ICカードの構成の一例を示す図であり、ICカード11はICカード基材12上に、導電性転写箔1から転写された接着層13、導電層14、剥離保護層15が積層されている。さらに、カード基材の一部に穴を空け、カード表面にIC通信端子16を有し、ICカード基材12内部側にICチップ17、そしてこれらを接続する端子−チップ接続部18が一体化したICモジュールが埋め込まれている。
【0035】
一方、図3は従来構成によってなるICカードの構成の一例を示す図であり、ICカード21はICカード基材22上に、転写箔から転写された接着層23、導電層24が積層されている。さらに、カード基材の一部に穴を空け、カード表面にIC通信端子25を有し、ICカード基材22内部側にICチップ26、そしてこれらを接続する端子−チップ接続部27が一体化したICモジュールが埋め込まれている。
【0036】
両者を比べて違いは明らかなように、ICカード11,21の形になった場合に、導電層4,14の上に保護層があるかないかである。本発明によって得られたICカード11は、表面に保護層が存在するため、非常に強い耐久性を付与することが可能である。
【0037】
また、静電気障害を防止するための導電性は、ICカード表面上の表面抵抗率は1012Ω以上であって導電性はほとんどない状態だが、帯電減衰率では初期帯電圧の絶対値が非常に小さい値であり、問題ない性能を有している。
【実施例】
【0038】
基材2として、25μm厚の透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製ルミラー25F65)を使用した。この上に、下記、剥離保護層用インキの組成におけるインキをワイヤーバーにて1μmの厚みで設けた。
<剥離保護層用インキ>
・アクリル樹脂 BR−116(三菱レイヨン(株)製) 15重量部
・ワックス分散体 添加剤180(東洋インキ製造(株)製) 2重量部
・トルエン 40重量部
・メチルエチルケトン 43重量部
次に、この上に、下記、導電層用インキの組成におけるインキをワイヤーバーにて1μmの厚みで設けた。この導電性樹脂の表面抵抗率は109Ωであった。
<導電層用インキ>
・導電性樹脂 ジュリマーSP−50TF(日本純薬(株)製) 100重量部
さらにこの上に下記、接着層用インキの組成におけるインキをワイヤーバーにて1μmの厚みで設けた。
<接着層用インキ>
・アクリル樹脂 BR−116(三菱レイヨン(株)製) 10重量部
・塩酢ビ樹脂 ソルバインA(日信化学(株)製) 5重量部
・トルエン 40重量部
・メチルエチルケトン 45重量部
以上のようにして得た導電性転写箔1を、接着層面を厚み0.76mmの塩化ビニルシ
ートと重ね、熱ロールを用いて、120℃にて10m/分の速度で加熱した後、基材2を表面から剥がして導電性転写箔1を転写したシートを得た。その後、塩化ビニルシートの導電性転写箔1を転写した面にICモジュール形状に合わせた穴を空け、モジュールを接着剤で固定してICカードを得た。
【0039】
<比較例1>
基材、導電層用インキ、接着層用インキは実施例と全く同じものを用い、基材上に導電層用インキ、接着層用インキの順に実施例と同じ厚みでインキ層を設け、実施例と同様の方法で転写操作を行い、ICモジュールを設けてICカードを得た。
【0040】
<比較例2>
導電層用インキを下記の組成に変更し、比較例1と同様の方法でICカードを得た。
<比較例2用導電層用インキ>
・導電性樹脂 ジュリマーSP−50TF(日本純薬(株)製) 70重量部
・ワックス分散体 添加剤185F(東洋インキ製造(株)製) 30重量部
表1に実施例および比較例1,2の評価結果を示した。
【0041】
表1からわかるように、ICカード上に保護層を持たない比較例1は最表層に導電層を有することから、静電気障害防止性を示す帯電減衰率の値は、最もよいが、保護層が存在しないため、ヘッドパス試験では大きな傷がつき、搬送IC通信テストでも次第に傷が広がっていくことで帯電防止性は低下し、搬送テスト途中の300回で通信不能となっていることがわかる。
【0042】
また、比較例2では、導電層中のワックス成分が滑剤の働きをするためにヘッドパステストや搬送通信テストでは傷はつかないものの、帯電防止性の不足から静電気障害による通信異常が200回で起こるという不具合を有している。
【0043】
ところが、実施例ではそのような不具合は全くなく、表面に傷がつくこともなく、また通信異常も起こらなかった。したがって、本発明によってなる導電性転写箔およびこれを使用したICカードは、従来技術に比して優位であることがわかる。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の導電性転写箔の構成を示す断面図。
【図2】本発明の導電性転写箔を転写して作製されたICカードの構成の一例を示す断面図。
【図3】従来技術の導電性転写箔を転写して作製されたICカードの構成の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
1 導電性転写箔
2 基材
3 剥離保護層
4 導電層
5 接着層
11 ICカード
12 ICカード基材
13 接着層
14 導電層
15 剥離保護層
16 IC通信端子
17 ICチップ
18 端子−チップ接続部
21 ICカード
22 ICカード基材
23 接着層
24 導電層
25 IC通信端子
26 ICチップ
27 端子−チップ接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも剥離保護層、導電層、接着層を剥離可能に順次形成してなる導電性転写箔。
【請求項2】
前記剥離保護層と導電層および/あるいは導電層と接着層の間にアンカー層を設けてなることを特徴とする請求項1記載の導電性転写箔。
【請求項3】
前記剥離保護層を、0.3μm以上5μm以下の厚みで形成してなる請求項1または2記載の導電性転写箔。
【請求項4】
導電層を、導電層表面の表面抵抗率が1011Ω以下で形成してなることを特徴とする請求項1または2または3記載の導電性転写箔。
【請求項5】
基材上に、少なくとも剥離保護層、導電層、接着層を剥離可能に順次形成してなる導電性転写箔を、熱的にカード基材上に転写してなることを特徴とするICカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−5442(P2007−5442A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181805(P2005−181805)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】