説明

導電性金属酸化物膜および光起電装置

基板と、該基板の表面に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜とを備える物品が説明される。導電性金属酸化物膜を備える光起電装置も説明される。

【発明の詳細な説明】
【優先権の主張】
【0001】
本願は、2009年10月28日に出願された米国特許仮出願第61/255583号、および2010年9月22日に出願された米国特許出願第12/887761号による優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
複数の実施形態は、導電性金属酸化物膜、この導電性金属酸化物膜を有する物品に関し、より具体的には、この導電性金属酸化物膜を有する光起電装置に関する。
【背景技術】
【0003】
透明且つ/または導電性の膜がコーティングされたガラスは、例えば、ディスプレイ装置(例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、および携帯電話用の有機発光ダイオード(OLED))のバックプレーンアーキテクチャ等のディスプレイ用途等といった多くの用途に有用である。透明且つ/または導電性の膜がコーティングされたガラスは、太陽電池用途(例えば、幾つかのタイプの光起電セルの電極として)および他の急速に成長している工業および用途にも有用である。
【0004】
透明導電性酸化物(TCO)は、LCDディスプレイパネル、Low−E窓、最も最近では光起電(PV)セル、電子ペーパー、および他の多くの工業用途に広く用いられている。酸化カドミウム(CdO)は1907頃に発見された歴史的に最初のTCOであるが、今日では、最も用いられているTCOは、様々なディスプレイパネルおよびLow−E窓に見られるインジウム酸化スズ(ITO)およびフッ素ドープ酸化スズ(FTO)である。
【0005】
TCOは本質的に広帯域半導体であり(よって、可視光透過性および導電性)、その大半はn型であり、伝導帯の最小値のすぐ下にフェルミ準位を有する(ΔΕ〜kT)。最初の有用なp型TCO(即ち、CuAlO)は、後の1997に実現され、それ以来、次世代「透明電子部品」の分野が出現した。しかし、最近多くの注目を集めている薄膜PV技術において、透明電極としての高性能TCOの需要がある。
【0006】
この点に関して、最も最近の発展の1つは薄膜シリコンタンデムPVセルであり、これは、電池効率を高めるために、微晶質シリコン層における太陽光吸収を向上させるための光トラップ機能を有する用途特化型TCOを必要とする。市販のテクスチャのあるソーダライムガラス上FTOは、PVセルで現在用いられているFTOの一例である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、光起電用途のTCO用途に有用な、導電性金属酸化物膜がコーティングされたガラスを開発することが有益である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載される導電性金属酸化物膜は、特に、膜が酸化スズを含む場合の、導電性金属酸化物膜の上述の短所の1以上に対処するものである。
【0009】
一実施形態は、基板と、該基板の表面に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜とを備えた物品である。
【0010】
別の実施形態は、基板と、該基板に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜と、該導電性金属酸化物膜に隣接した活性光起電媒体とを備えた光起電装置である。
【0011】
本発明の更なる特徴および長所は以下の詳細な説明で述べられ、部分的には、その説明から当業者に自明であり、或いは、明細書、特許請求の範囲および添付の図面に記載されているように本発明を実施することによって認識される。
【0012】
上記の一般的な説明および以下の詳細な説明は、単に本発明を例示するものであり、特許請求される本発明の性質および特性を理解するための概観や骨組みの提供を意図するものであることを理解されたい。
【0013】
添付の図面は、本発明の更なる理解を提供するものであり、本明細書に組み込まれてその一部を構成するものである。これらの図面は本発明の1以上の実施形態を示しており、本明細書と共に本発明の原理および作用を説明するものである。
【0014】
本発明は、以下の詳細な説明を単独で参照することにより、または添付の図面と併せて参照することにより理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】幾つかの実施形態に従って製造された膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図1B】幾つかの実施形態に従って製造された膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図1C】幾つかの実施形態に従って製造された膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図2A】幾つかの実施形態に従って製造された膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図2B】幾つかの実施形態に従って製造された膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図2C】例示的な膜の断面のSEM画像
【図2D】例示的な膜の上から見たSEM画像
【図3】一実施形態による光起電装置の特徴を示す図
【図4】例示的な物品の全透過率および拡散透過率の値のグラフ
【図5】2つの例示的な物品の全透過率および拡散透過率の値のグラフ
【図6】例示的な物品の二方向光透過(反射)分布関数(BTDF)のグラフ
【図7】例示的な膜の断面のSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の様々な実施形態を詳細に参照する。その一例が添付の図面に示されている。
【0017】
本明細書で用いる「体積散乱」という用語は、光が通る材料の屈折率の不均一性によって生じる光路に対する影響として定義できる。
【0018】
本明細書で用いる「表面散乱」という用語は、光起電セルの層間の界面の粗さによって生じる光路に対する影響として定義できる。
【0019】
本明細書で用いる「基板」という用語は、光起電セルの構成に応じて、基板または表板のいずれかを記載するために用いられ得る。例えば、基板が光起電セルに組み込まれた際に、光起電セルの光入射側にあれば、基板は表板である。表板は、適切な波長の太陽スペクトルを透過させつつ、光起電材料を、衝撃および環境的劣化から保護し得る。更に、複数の光起電セルを1つの光起電モジュールとして構成できる。
【0020】
本明細書で用いる「隣接」という用語は、極めて接近していることと定義できる。隣接する構造物は、互いに物理的に接触してもよく、接触しなくてもよい。隣接する構造物の間には、他の層および/または構造物が配置され得る。
【0021】
本明細書で用いる「平面状」という用語は、形状的に略平坦な表面を有するものとして定義できる。
【0022】
実施形態には例示的な数値範囲が記載されているが、各範囲は、その範囲の各端点を含む範囲内の小数点以下を含む数値を含み得る。
【0023】
一実施形態は、基板と、該基板の表面に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜とを備えた物品である。一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、40以上(例えば、45以上、50以上、55以上)の電子移動度(cm/V−s)を有する。別の実施形態では、導電性金属酸化物膜は、35〜60の範囲内の電子移動度(cm/V−s)を有する。
【0024】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、9.00×1020以上のキャリア濃度(1/cm)を有する。
【0025】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、5パーセント以上(例えば、5〜20パーセント)の気孔率中央値を有する。気孔率は、膜内の粒界の周囲の空隙率として説明できる。
【0026】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、塩素ドープ酸化スズ、フッ素および塩素をドープした酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、カドミウムドープ酸化スズ、チタンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化スズ、ニオブドープ酸化スズ、タンタルドープ酸化スズ、バナジウムドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、亜鉛ドープ酸化スズ、マグネシウムドープ酸化スズ、マンガンドープ酸化スズ、銅ドープ酸化スズ、コバルトドープ酸化スズ、ニッケルドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛、またはそれらの組み合わせを含む。
【0027】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、3マイクロメートル以下(例えば、2マイクロメートル以下、1マイクロメートル以下、500ナノメートル以下、100ナノメートル以下、50ナノメートル以下)の厚さを有する。別の実施形態では、膜は、10ナノメートル〜1000ナノメートルの範囲内(例えば、10ナノメートル〜500ナノメートル)の厚さを有する。
【0028】
幾つかの実施形態では、導電性金属酸化物膜は透明である。幾つかの実施形態では、導電性膜は、55パーセント以下(例えば、50パーセント以下、40パーセント以下)のヘイズ値を有する。導電性膜は、0より大きく55パーセントまでのヘイズ値を有し且つ高い透過率値を維持し得る。導電性金属酸化物膜は、可視スペクトルにおいて75%以上の透過率値を有し得る。
【0029】
光起電装置、ディスプレイ装置、または有機発光ダイオードは、本発明の幾つかの実施形態に係る物品を含み得る。
【0030】
一実施形態によれば、基板はガラス層を含む。別の実施形態では、基板はガラス基板である。
【0031】
本明細書に開示される導電性金属酸化物膜は、例えば、金属酸化物前駆体および溶媒を含む溶液を設け、該溶液のエアロゾル液滴を調製し、該エアロゾル液滴を加熱されたガラス基板に塗布し、金属酸化物前駆体を金属酸化物に変換してガラス基板上に金属酸化物膜を形成することによって製造され得る。幾つかの実施形態では、金属酸化物前駆体はハロゲン化金属である。溶液は水を含んでもよく、または、幾つかの場合には溶液は水である。
【0032】
溶媒が水を含む場合には、加水分解反応が生じ得る。これらの反応では、ハロゲン化金属が水と反応して、それぞれの酸化物に変わる。溶媒がアルコールのみを含む場合には、酸素の存在下で、アルコールが蒸発および/または燃焼する瞬間的な反応が生じ得る。ハロゲン化金属、例えば、塩化スズは、酸化反応において酸素と反応し、それぞれの酸化物を形成する。一実施形態では、酸化物が焼結して導電性金属酸化物膜を形成する。
【0033】
一実施形態では、金属酸化物前駆体がスズ前駆体である場合には、スズ前駆体は、塩化スズ(SnCl)、四塩化スズ(SnCl)、およびそれらの組み合わせから選択される。スズ前駆体の量は、溶液の5〜20重量パーセント(例えば、溶液の13重量パーセント以上)であり得る。
【0034】
溶液は、ドーパント前駆体を更に含み得る。ドーパント前駆体は、例えば、HF、NHF、SbCl、およびそれらの組み合わせから選択され得る。
【0035】
エアロゾル液滴は、溶液を霧状にすることによって調製され得る。ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素、一酸化炭素、水素含有窒素、および/または酸素)を、アトマイザ内の溶液を通して流すことができる。ガスに加えてまたはガスの代わりに、周囲空気をアトマイザを通して流すこともできる。幾つかの実施形態では、噴霧される溶液の速度は2リットル/分(L/分)〜7L/分(例えば、3L/分)であり得る。一実施形態では、エアロゾル液滴の液滴サイズ中央値は、直径において1マイクロメートル未満である(例えば、10ナノメートル〜999ナノメートル、50ナノメートル〜450ナノメートルの液滴サイズ)。
【0036】
エアロゾル液滴の噴霧は、アトマイザからエアロゾル液滴を受け取るよう構成され、ガラス基板の近傍に配置された1以上の噴霧器によって行われ得る。
【0037】
エアロゾル噴霧器の形状は、コーティングされるガラス基板の形状およびコーティングされるガラス基板の面積に応じて任意の形状であり得る。エアロゾル液滴の噴霧は、噴霧器をガラス基板に対して1以上の方向(例えば、三次元デカルト座標系におけるX方向、Y方向、Z方向、またはそれらの組み合わせ)に平行移動させることを含み得る。
【0038】
エアロゾル液滴の塗布は、エアロゾル液滴を炉内に流すことによって行われ得る。ガラス基板がエアロゾル液滴の流れを受け取って、液滴がガラス基板に付着するように、ガラス基板は炉内に配置され得る。
【0039】
一実施形態では、基板は、ガラス、セラミック、ガラスセラミック、ポリマー、プラスチック、金属(例えば、ステンレス鋼およびアルミニウム)、またはそれらの組み合わせから選択される材料を含む。一実施形態では、基板は平面状、円形、管状、繊維状、またはそれらの組み合わせである。
【0040】
一実施形態では、基板は、板ガラス、ガラススライド、テクスチャのあるガラス基板、ガラス球、ガラスキューブ、ガラス管、ハニカム、グラスファイバ、およびそれらの組み合わせから選択される形態である。別の実施形態では、ガラス基板は平面状であり、薄膜光起電装置の表板または基板として用いられ得る。
【0041】
一実施形態によれば、上記方法は、エアロゾル液滴を300℃〜530℃の温度のガラス基板に塗布することを含む。幾つかの用途では、温度範囲の上端は、ガラス基板の軟化点に依存する。導電性膜は、一般的に、ガラス基板の軟化点より低い温度で塗布される。一実施形態によれば、導電性膜は雰囲気圧力下で形成される。
【0042】
エアロゾル液滴の輸送中および/または基板への付着中に、エアロゾル液滴中の溶媒の蒸発が生じ得る。幾つかの実施形態では、溶媒の蒸発は、エアロゾル液滴が基板に付着した後に生じ得る。本明細書に開示される方法により、例えば、エアロゾル液滴中におけるハロゲン化金属と溶媒との均一反応、形成されたまたは形成中の酸化物中における溶媒および/またはガスと酸化物との不均一反応、並びに/または、基板表面との酸化物の核の結合および結晶化等といった、幾つかの反応機構が実現され得る。
【0043】
エアロゾル輸送温度を制御することにより、エアロゾル液滴からの溶媒の蒸発を制御でき、それにより、エアロゾル液滴の平均サイズを制御して、より効率的および/またはより均一に付着させることができる。輸送温度を制御することにより、溶媒とハロゲン化金属との反応、および液滴中の固体の核の形成を高めることができる。
【0044】
基板を加熱することにより、酸化物の形成のための十分な活性化エネルギーを提供できる。一方、残りの溶媒は加熱された基板から蒸発する。加熱は、付着した小さな粒子を結晶化させてより大きな結晶を形成させるためのエネルギーも提供できる。
【0045】
溶液は、酸化物の前駆体および/またはドーパントの前駆体を溶媒に溶かすことによって作ることができる。例えば、SnO系の透明導電性酸化物(TCO)膜を調製するには、Sn前駆体としてSnClおよびSnClが用いられ得る。FおよびSbドーパント前駆体としては、HF、NHF、SbCl等が用いられ得る。これらの前駆体の溶媒は水であり得る。溶媒として水を用いると共に、SnOを作るための前駆体としてSnClまたはSnClを用いる場合には、SnClまたはSnClは水によって加水分解され、この反応は溶液中、液滴中、および付着した表面上で生じる。生じたHClは、水によるSnの完全な酸化を高める。付着プロセスにおいて、SnO格子にドーパント(例えばFおよびSb)が加えられ得る。Sn上の残りのClも、格子中に留まってClドープを構成し得る。
【0046】
エアロゾル液滴の付着中、以下の加水分解反応が生じた。
【化1】

【0047】
ClもSnO格子にドーピングした。溶液中に、HF、NHFまたはSbCl(FまたはSb)等の他のドーパントが同時に存在する場合には、それらのドーパントもSnO格子に組み込むことができる。このドーピングは、安定な導電性金属酸化物膜を形成するための一助となる。
【0048】
導電性膜の形成後、導電性膜は熱処理され得る。熱処理は、空気中において250℃未満(例えば150℃〜250℃、例えば200℃)の範囲の温度で行われ得る。熱処理は、例えば、250℃を越えるより高い熱処理温度(例えば、400℃)を可能にし得る不活性雰囲気中(例えば、窒素中)で行われ得る。
【0049】
導電性膜の導電性は、後処理として熱処理を行うことにより更に向上され得る。この熱処理によって、粒界および粒子表面から吸着物を除去でき、トラップされた自由電子を解放する。処理が空気中で行われる場合には、後処理温度はSnOの酸化温度より低い温度にすべきである。
【0050】
別の実施形態は光起電装置であり、その特徴300が図3に示されている。光起電装置は、基板10と、基板に隣接した導電性金属酸化物膜12と、導電性金属酸化物膜に隣接した活性光起電媒体16とを備え、導電性金属酸化物膜は35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する。一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、40以上(例えば、45以上、50以上、55以上)の電子移動度(cm/V−s)を有する。別の実施形態では、導電性金属酸化物膜は、35〜60の範囲内の電子移動度(cm/V−s)を有する。
【0051】
一実施形態によれば、活性光起電媒体は、導電性金属酸化物膜と物理的に接触している。
【0052】
別の実施形態では、光起電装置は、活性光起電媒体の導電性金属酸化物膜とは反対側の表面に配置された対電極18を更に備える。一実施形態では、対電極は活性光起電媒体と物理的に接触している。
【0053】
活性光起電媒体は、複数の層(例えば、非晶質シリコン層および微晶質シリコン層)を含み得る。
【0054】
一実施形態では、活性光起電媒体は、テルル化カドミウム、二セレン化銅インジウムガリウム、非晶質シリコン、結晶シリコン、微晶質シリコン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0055】
一実施形態では、基板はガラスである。
【0056】
別の実施形態では、基板は平面状である。一実施形態では、基板は平面状板ガラスである。
【0057】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、9.00×1020以上のキャリア濃度(1/cm)を有する。
【0058】
一実施形態では、導電性金属酸化物膜は、5パーセント以上(例えば、5〜20パーセント)の気孔率中央値を有する。気孔率は、膜内の粒界の周囲の空隙率として説明できる。図7は、例示的な膜のSEM画像である。膜46は、FおよびClが共にドープされた酸化スズである。一実施形態では、図7に示されるように、膜の気孔率は、基板と膜との界面44におけるより高い相対的気孔率から、より密度の高い膜の中間部42におけるより低い気孔率へと、更に膜の表面40におけるより高い相対的気孔率へと変化し得る。
【0059】
幾つかの実施形態では、導電性金属酸化物膜は透明である。幾つかの実施形態では、導電性膜は、55パーセント以下(例えば、50パーセント以下、40パーセント以下)のヘイズ値を有する。導電性膜は、0より大きく55パーセントまでのヘイズ値を有し且つ高い透過率値を維持し得る。導電性金属酸化物膜は、可視スペクトルにおいて75%以上の透過率値を有し得る。
【0060】
一実施形態では、活性光起電媒体は導電性金属酸化物膜と物理的に接触している。
【0061】
一実施形態によれば、上記装置は対電極を更に備え、対電極は活性光起電媒体と物理的に接触し、活性光起電媒体の導電性金属酸化物膜とは反対側の表面に配置される。
【0062】
一実施形態によれば、導電性金属酸化物膜は、塩素ドープ酸化スズ、フッ素および塩素をドープした酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、カドミウムドープ酸化スズ、チタンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化スズ、ニオブドープ酸化スズ、タンタルドープ酸化スズ、バナジウムドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、亜鉛ドープ酸化スズ、マグネシウムドープ酸化スズ、マンガンドープ酸化スズ、銅ドープ酸化スズ、コバルトドープ酸化スズ、ニッケルドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛、またはそれらの組み合わせを含む。
【実施例】
【0063】
2通りの濃度(一方が0.27M、他方が0.6M)のSnCl水溶液を調製した。フッ素ドープのためにフッ化水素酸(HF)を添加し、F/Sn原子比は60:40であった。エアロゾル生成のために、TSI6ジェットアトマイザを2つのジェットを開いて用いた。エアロゾル生成のためおよびキャリアガスとして窒素(N)を用いた。エアロゾル生成およびキャリアガスの目的でN圧を30psi(206.9kPa)に設定した。生成したエアロゾル液滴の直径は0.4〜4マイクロメートルであった。350℃〜600℃の範囲の異なる温度で15分間にわたりFTO膜を付着させた。0.27M溶液を用いて作られた膜20の断面のSEM画像が図1A〜図1Cに示されている。付着温度はそれぞれ360℃、380℃、および530℃であった。0.6M溶液を用いて作られた膜20の断面のSEM画像が図2A〜図2Bに示されている。付着温度はそれぞれ380℃、および530℃であった。例示的な膜20の断面のSEM画像が図2Cに示されている。図2Dは、例示的な膜20の上から見たSEM画像である。これらの2つの図面は、一実施形態に係るFTO膜上に付着された非晶質シリコン膜を示している。
【0064】
図1A〜図1Cに示されるように、0.27MのSnCl溶液の付着については、膜20の表面粗さは、膜を構成する粒子のサイズに対して一貫性がある。(粒子サイズは付着温度が低いほど小さい)。膜厚は、360℃でコーティングされた200nmから、380℃でコーティングされた250nmまで、コーティング温度と共に増加する。前駆体濃度が高いほど、粒子サイズが大きくなる。
【0065】
図4は、例示的な物品についての、線22で示される全透過率値および線24で示される拡散透過率値のグラフである。この例の導電性膜は、フッ素ドープ酸化スズである。
【0066】
図5は、2つの例示的な物品についての、全透過率および拡散透過率の値のグラフである。線26および線32は、1つの例示的な物品の全透過率および拡散透過率の値をそれぞれ示す。線28および線30は、1つの例示的な物品の全透過率および拡散透過率の値をそれぞれ示す。
【0067】
図6は、例示的な物品の二方向光透過(反射)分布関数(BTDF)のグラフである。
【0068】
膜の導電性は、シート抵抗として測定された。コーティング温度が高いほど、膜の電気抵抗の増加が見られた。
【0069】
例示的な物品(例えば、上述のナノ化学液相成長(NCLD)法によって作られたフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜)を用いて、光起電セルのサンプルを作った。サンプルのサイズは1インチ(2.54 センチメートル)×1インチ(2.54 センチメートル)であった。表1に示されている特性が測定された。NCLD−FTOは、高いキャリア濃度において高い電子移動度を有する幾つかの従来入手可能なITO膜よりも有利である可能性を示している。この導電性金属酸化物膜を用いて非晶質シリコンPVセルを作ったところ、量子効率(QE)は7.2%であった。更に、このFTOの抵抗率は約1.7×10−4Ω・cmであり、これは従来入手可能なインジウムドープ酸化スズ(ITO)膜に近い。透過率は、可視スペクトルにおいて80%〜85%の範囲であった。
【表1】

【0070】
導電性金属酸化物膜は、部分的に膜の透明性および/または導電性により、光起電装置に有用である。光起電用途では、膜は導電性であるだけでなく、光子エネルギーが光起電装置の活性吸光剤(活性光起電材料)層のバンドギャップよりも高い特定の波長範囲内において透明であることが有利である。
【0071】
透明導電性酸化物において、電気特性および光学特性は共に、金属の熱特性、並びに電気特性および光学特性を自由電子および結合電子の動きによって説明するドルーデモデルによって記述できる。導電性金属酸化物の導電性およびプラズマ周波数は、それぞれ以下の式によって記述される。
【数1】

【0072】
式中、σは導電性であり、ωはプラズマ周波数であり、mは電子の有効質量であり、μは自由電子の光学移動度であり、eは電子電荷であり、τは電子の緩和時間であり、Nは自由電子の密度である。
【0073】
導電性が高く且つ透明性が高い、広い透明性の範囲を有する導電性酸化物については、材料の自由電子はより少なく、電子の有効質量はより重く、自由キャリアの移動度はより高くすべきである。
【0074】
NCLD法によって作った導電性FドープSnO膜、ClドープSnO膜の光学スペクトル、エリプソメトリおよび反射IRスペクトルを測定したところ、そのデータは、ClドープSnO膜における電子の有効質量が、FドープSnO膜(約0.28m)より重い約0.34mであることを示唆している。すると、両者の膜の自由電子キャリア密度が同レベルである場合、ClドープSnO膜のプラズマ周波数は、FドープSnO膜のプラズマ周波数よりも更に赤外領域へと動く。これにより、ClドープSnO膜の透明性の範囲はFドープSnO膜より広くなり得る。
【0075】
表2は、本明細書に記載したNCLD法によって作られた例示的なClドープSnO膜、フッ素ドープSnO膜、並びにフッ素および塩素をドープしたSnO膜の、電子の有効質量、自由電子の密度、および光学移動度を示している。
【表2】

【0076】
可能な限り高い導電性を得ることに関心を持つことがしばしばある。導電性は、以下の式によって定義できる。
【数2】

【0077】
式中、qは単一の電子の電荷であり、μは移動度であり、nはキャリア濃度である。移動度を高めることにより、またはキャリア濃度を高めることにより、導電性を高めることができる。しかし、キャリア濃度を高めることは必ずしも容易ではない。更に、キャリア濃度を高めると、材料を通る透過性(特に近IR)が低下し得る。このことは、透過性ができるだけ大きい方が有利な薄膜太陽電池において重要であり得ると同時に、導電性はできるだけ大きい方が、透明な導電性酸化物が太陽電池の電力変換効率を劣化させ得る大きな直列抵抗を持たないことが確実になるので、有利である。従って、移動度はできるだけ大きい方が有利である。
【0078】
表3は、例示的な膜であるサンプル1〜サンプル10の移動度を示している。これらの例示的な膜は、フッ素ドープ酸化スズ膜であった。
【表3】

【0079】
移動度およびキャリア密度の測定値は、一般的なホール測定システムを用いて得たものである。磁界の強さは0.2テスラであり、ファン・デル・ポー形状を用いた。測定は室温で行った。単一のホール散乱因子を仮定した。一般的に、ホール散乱因子は1〜2の間で変化し、材料中の散乱機構に依存する。ホール散乱因子が単一であると仮定して、ホール移動度を報告することは一般的である。
【0080】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく本発明に様々な修正や変更がなされ得ることは、当業者には自明である。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物に含まれる本発明の修正や変更を網羅することが意図される。
【符号の説明】
【0081】
10 基板
12 導電性金属酸化物膜
16 活性光起電媒体
18 対電極
300 光起電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜と、
を備えることを特徴とする物品。
【請求項2】
前記導電性金属酸化物膜が、9.00×1020以上のキャリア濃度(1/cm)を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項3】
前記導電性金属酸化物膜が、5パーセント以上の気孔率中央値を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項4】
前記導電性金属酸化物膜が、可視スペクトルにおいて75%以上の透過率を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項5】
請求項1記載の物品を含むことを特徴とする光起電装置、ディスプレイ装置または有機発光ダイオード。
【請求項6】
基板と、
前記基板の表面に隣接した、35以上の電子移動度(cm/V−s)を有する導電性金属酸化物膜と、
前記導電性金属酸化物膜に隣接した活性光起電媒体と、
を備えることを特徴とする光起電装置。
【請求項7】
前記基板がガラスであることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記導電性金属酸化物膜が、9.00×1020以上のキャリア濃度(1/cm)を有することを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項9】
前記導電性金属酸化物膜が、可視スペクトルにおいて75%以上の透過率を有することを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項10】
前記導電性金属酸化物膜が、5パーセント以上の気孔率中央値を有することを特徴とする請求項6記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−509352(P2013−509352A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536949(P2012−536949)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054093
【国際公開番号】WO2011/056570
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】