説明

導電性高分子懸濁液およびその製造方法、導電性高分子材料、電解コンデンサ、ならびに固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】高導電率な導電性高分子材料を提供するための導電性高分子懸濁液とその製造方法を提供し、特に低ESRの固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリスルホン酸またはその塩からなるドーパントを含む溶媒中で、導電性高分子を与えるモノマーを酸化剤を用いて化学酸化重合して、導電性高分子を合成し、前記導電性高分子を精製した上で、ポリ酸成分を含む水系溶媒中で酸化剤とを混合して、導電性高分子懸濁液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、導電性高分子懸濁液およびその製造方法、導電性高分子材料、電解コンデンサ、ならびに固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性有機材料は、コンデンサの電極、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池などの電極、エレクトロルミネッセンスディスプレイの電極などに用いられている。このような導電性有機材料としては、ピロール、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、アニリンなどを重合して得られる導電性高分子が知られている。
【0003】
このような導電性高分子は、一般には水性溶媒中の分散体(懸濁液)もしくは溶液、または有機溶媒中の溶液として提供されており、使用時に溶媒を除去して導電性高分子材料として使用される。しかし、導電性高分子の種類が同じであっても、分散体の状態によって得られる導電性高分子材料の物性が異なることから、その分散体の製造方法に関して、種々検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ポリチオフェンの溶液(分散体)およびその製造方法、ならびにおよびプラスチック成形体の帯電防止処理への使用に関する技術が開示されている。このポリチオフェンの分散体は、分散媒体としての水または水混和性有機溶媒と水の混合物と、3,4−ジアルコキシチオフェンの構造単位からなるポリチオフェンと、2,000〜500,000の範囲の分子量を有するポリスチレンスルホン酸由来のポリ陰イオンとを含んでなる。そして、ポリチオフェンは、2,000〜500,000の範囲の分子量を有するポリスチレンスルホン酸のポリ陰イオンの存在下で酸化化学重合により得られたものである。これにより、透明な帯電防止膜が形成できるとされている。
【0005】
特許文献2には、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体およびその製造方法、ならびにその水分散体を含むコーティング用組成物およびその組成物が塗布された透明導電膜を有する被覆基材に関する技術が開示されている。この水分散体は、3,4−ジアルコキシチオフェンを、ポリ陰イオンの存在下で、ペルオキソ二硫酸を酸化剤として用い、水系溶媒中で重合させることで得られたものである。または、この水分散体は、3,4−ジアルコキシチオフェンを、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸を添加し、反応溶液のpHを低下させて、水系溶媒中で化学酸化重合させることで得られたものである。これにより、透明性に優れた導電性薄膜を形成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−90060号公報
【特許文献2】特開2004−59666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2に記載された方法のように、ドーパントとして作用するポリ陰イオン存在下で、1段階で3,4−ジアルコキシチオフェンを酸化化学重合する方法では、ドープ率の制御が困難である。すなわち、未ドープのポリ陰イオン、つまり導電性に寄与しないポリ陰イオンが余剰に存在してしまい、より高導電率である導電性高分子材料を得る製造方法としては、十分な方法とは言い難い。
【0008】
また、特許文献1に記載された方法で得られた導電性高分子膜は、帯電防止材料としては十分な導電率でも、例えばコンデンサの固体電解質として用いた場合には、低ESR化の要求を十分に満足させる導電率を実現することは困難である。すなわち、帯電防止膜の表面抵抗率は一般に105〜1014Ω/□と分類されており、導電性が高すぎると激しい静電気放電を起こす可能性があることから、帯電した物体の静電気をすみやかに消散させられるほどの導電性を有しないと考えられている。したがって、帯電防止膜として使用可能な材料は、コンデンサの固体電解質としては抵抗が高く、低抵抗の要求を満たせない。加えて、余剰なポリ陰イオンが含まれた固体電解質を含むコンデンサは、信頼性、特に高湿度雰囲気化での特性が劣る欠点がある。
【0009】
本実施形態の目的は、上記の課題を解決することにあり、具体的には、高導電率な導電性高分子材料を提供するための導電性高分子懸濁液とその製造方法を提供し、特に低ESRの固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液の製造方法は、
(a)ポリスルホン酸またはその塩からなるドーパントを含む溶媒中で、導電性高分子を与えるモノマー(M1)を酸化剤(O1)を用いて化学酸化重合して、導電性高分子(P1)を合成する工程と、
(b)前記導電性高分子(P1)を精製する工程と、
(c)ポリ酸成分を含む水系溶媒中で、前記精製された導電性高分子(P1)と酸化剤(O2)とを混合して、導電性高分子懸濁液を得る工程と
を有するものである。
【0011】
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液は、上記の方法により得られるものである。本実施形態に係る導電性高分子材料は、上記導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して得られるものである。
【0012】
本実施形態に係る電解コンデンサは、上記導電性高分子懸濁液を電解液として含むものである。電解コンデンサである。本実施形態に係る固体電解コンデンサは、上記導電性高分子材料を含む固体電解質層を有するものである。
【0013】
本実施形態に係る第一の固体電解コンデンサの製造方法は、
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上に、上記導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、該導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して、前記導電性高分子材料を含む固体電解質層を形成する工程と
を有するものである。
【0014】
本実施形態に係る第二の固体電解コンデンサの製造方法は、
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上で、導電性高分子を与えるモノマー(M2)を化学酸化重合または電解重合して、導電性高分子(P2)を含む第一の固体電解質層を形成する工程と、
前記第一の固体電解質層上に、上記導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、該導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して、第二の固体電解質層を形成する工程と
を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態によれば、高導電率な導電性高分子材料を提供するための導電性高分子懸濁液とその製造方法を提供し、特に低ESRの固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図である。
【図2】実施例1および比較例2で形成した導電性高分子膜のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<導電性高分子懸濁液およびその製造方法>
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液の製造方法に関して説明する。
【0018】
〔工程(a)〕
まず、ポリスルホン酸またはその塩からなるドーパントを含む溶媒中で、導電性高分子を与えるモノマー(M1)を酸化剤(O1)を用いて化学酸化重合して、導電性高分子(P1)を合成する(工程(a))。この工程(a)を行うことで、重合度が高く、結晶化度の高い導電性高分子(P1)を得ることができる。
【0019】
この反応を行う溶媒は、モノマー(M1)との相溶性が良好な溶媒を選定することが好ましく、水でも有機溶媒でも水混和有機溶媒でもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。有機溶媒は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。有機溶媒としては、水、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、水、エタノール、ジメチルスルホキシド、またはエタノールもしくはジメチルスルホキシドと水との混合溶媒が好ましい。
【0020】
モノマー(M1)としては、導電性高分子を与えるモノマーから適宜選択することができる。モノマー(M1)の具体例としては、ピロール、チオフェン、アニリンおよびその誘導体が挙げられる。ピロールの誘導体の具体例としては、3−ヘキシルピロール等の3−アルキルピロール、3,4−ジヘキシルピロール等の3,4−ジアルキルピロール、3−メトキシピロール等の3−アルコキシピロール、3,4−ジメトキシピロール等の3,4−ジメトキシピロールが挙げられる。チオフェンの誘導体の具体例としては、3,4−エチレンジオキシチオフェンおよびその誘導体、3−ヘキシルチオフェン等の3−アルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン等の3−アルコキシチオフェンが挙げられる。アニリンの誘導体の具体例としては、2−メチルアニリン等の2−アルキルアニリン、2−メトキシアニリン等の2−アルコキシアニリンが挙げられる。中でも、下記式(1)で示される3,4−エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体が好ましい。3,4−エチレンジオキシチオフェンの誘導体としては、3,4−(1−ヘキシル)エチレンジオキシチオフェン等の3,4−(1−アルキル)エチレンジオキシチオフェンが挙げられる。モノマー(M1)は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
【化1】

【0022】
溶媒中のモノマー(M1)の濃度は、過剰であっても工程(b)で除去することが可能なため特に制限はないが、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を収率良く得るためには、0.5〜70重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましい。
【0023】
ドーパントとしては、ポリスルホン酸またはその塩を用いる。ポリスルホン酸の具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリエステルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、およびこれらの構造単位を有する共重合体が挙げられる。ポリスルホン酸塩の具体例としては、ポリスルホン酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。中でも、下記式(2)で示される構造単位を有するポリスチレンスルホン酸が好ましい。ドーパントとなるポリスルホン酸またはその塩は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
【化2】

【0025】
ポリスルホン酸の重量平均分子量は、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を得るためには、2,000〜500,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましい。
【0026】
ドーパントの使用量は、過剰に添加しても工程(b)で除去することが可能なため特に制限はないが、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を得るためには、モノマー(M 1)1重量部に対して0.1〜100重量部が好ましく、0.1〜20重量部がより好ましい。
【0027】
酸化剤(O1)としては、特に制限はなく、塩化鉄(III)六水和物、無水塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物、無水硝酸第二鉄、硫酸鉄(III)n水和物(n=3〜12)、硫酸鉄(III)アンモニウム十二水和物、過塩素酸鉄(III)n水和物(n=1,6)、テトラフルオロホウ酸鉄(III)等の無機酸の鉄(III)塩;塩化銅(II)、硫酸銅(II)、テトラフルオロホウ酸銅(II)等の無機酸の銅(II)塩;テトラフルオロホウ酸ニトロソニウム;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過ヨウ素酸カリウム等の過ヨウ素酸塩;過酸化水素、オゾン、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物、臭素、ヨウ素;p−トルエンスルホン酸鉄(III)等の有機酸の鉄(III)塩を用いることができる。中でも、無機酸の塩または過硫酸塩が好ましく、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。酸化剤(O1)は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
酸化剤(O1)の使用量は、過剰に添加しても工程(b)で除去することが可能なため特に制限はないが、より穏やかな酸化雰囲気で反応させて高導電率の重合体を得るためには、モノマー(M1)1重量部に対して0.5〜100重量部が好ましく、1〜40重量部がより好ましい。
【0029】
工程(a)は、界面活性剤の存在下で行うこともできる。モノマー(M1)は水への溶解性が低いことから、溶媒として水を用いた場合に界面活性剤を用いることで、モノマー(M1)の分散性を向上させることができる。界面活性剤は、陰イオン界面活性剤でも、陽イオン界面活性剤でも、両性イオン界面活性剤でも、非イオン界面活性剤でもよく、ドデシルベンゼンスルホン酸またはポリエチレングリコールが好ましい。界面活性剤は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
界面活性剤の使用量は、過剰に添加しても工程(b)で除去することが可能なため特に制限はないが、モノマー(M1)1重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
【0031】
モノマー(M1)を化学酸化重合して得られる導電性高分子(P1)は、モノマー(M1)に由来する構造単位を有する。例えば、モノマー(M1)として、式(1)で示される3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いた場合、得られる導電性高分子(P1)は、下記式(3)で示される構造単位を有する。
【0032】
【化3】

【0033】
化学酸化重合は、攪拌下で行うことが好ましい。化学酸化重合の反応温度は、特に限定されないが、使用する溶媒の還流温度を上限として行い、0〜100℃が好ましく、10〜50℃がより好ましい。反応温度が適正でないと、得られる導電性高分子(P1)の導電性が低下する場合がある。化学酸化重合の反応時間は、酸化剤(O1)の種類や使用量、反応温度、攪拌条件などに依存するが、5〜100時間程度が好ましい。なお、導電性高分子(P1)が生成すると、反応液が濃青色に変化する。
【0034】
〔工程(b)〕
次いで、導電性高分子(P1)を精製する(工程(b))。具体的には、化学酸化重合して得られた導電性高分子(P1)を含む反応液から、導電性高分子(P1)を分離し、洗浄することで、ドーパント、モノマー(M1)、酸化剤(O1)および反応後の酸化剤を除去する。この工程(b)を行うことで、高純度の導電性高分子(P1)を得ることができる。
【0035】
反応液から導電性高分子(P1)を分離する方法としては、ろ過法、遠心分離法などが挙げられる。
【0036】
洗浄溶媒は、導電性高分子(P1)を溶解することなく、モノマー(M1)および/または酸化剤(O1)を溶解可能な溶媒を用いて行うことが好ましい。洗浄溶媒の具体例としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。洗浄溶媒は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。洗浄の程度は、洗浄後の洗浄溶媒のpH測定や検査試薬等を利用した比色観察を行うことにより、確認することができる。
【0037】
さらに、酸化剤(O1)由来の金属成分、ハロゲン、硫酸成分をより高度に除去することができることから、導電性高分子(P1)を熱水洗浄および/または熱処理することが好ましい。熱処理の温度は、導電性高分子(P1)の分解温度以下であれば特に制限されないが、300℃未満で行うことが好ましい。また、イオン交換樹脂を用いたイオン交換処理を行うことも、酸化剤由来の成分を除去する方法として有効である。
【0038】
導電性高分子(P1)に含まれる不純物は、原子吸光法分析、ICP発光分析やイオンクロマトグラフィーなどにより定量可能である。
【0039】
〔工程(c)〕
次いで、ポリ酸成分を含む水系溶媒中で、精製された導電性高分子(P1)と酸化剤(O2)とを混合して、導電性高分子懸濁液を得る(工程(c))。工程(c)では、ポリ酸が分散剤として作用するので、分散性の良好な導電性高分子懸濁液を得ることができる。分散機構としては、少なくともポリ酸成分由来のポリ陰イオンのドーピング作用が考えられる。
【0040】
水系溶媒としては、水が好ましく、水と水溶性の有機溶媒の混和溶媒でもよい。水溶液の有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸等のプロトン性極性溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0041】
水系溶媒中の導電性高分子(P1)の濃度は、0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。
【0042】
ポリ酸成分としては、ポリ酸またはその塩を用いることができる。ポリ酸の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸;ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリスチレンスルホン酸等のポリスルホン酸;およびこれらの構造単位を有する共重合体が挙げられる。ポリ酸の塩の具体例としては、ポリ酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。中でも、式(2)で示される構造単位を有するポリスチレンスルホン酸が好ましい。ポリ酸成分は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
ポリ酸成分の重量平均分子量は、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を得るためには、2,000〜500,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましい。
【0044】
ポリ酸成分の使用量は、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を得るためには、導電性高分子(P1)100重量部に対して20〜3,000重量部が好ましく、30〜1,000重量部がより好ましい。
【0045】
酸化剤(O2)としては、酸化剤(O1)と同様のものを用いることができる。中でも、過硫酸アンモニウムまたは過酸化水素などが好ましい。酸化剤(O2)の使用量は、高い導電率を有する導電性高分子(P1)を得るためには、導電性高分子(P1)1重量部に対して0.5〜50重量部が好ましく、1〜30重量部がより好ましい。
【0046】
工程(c)の温度は、特に限定されないが、0℃〜100℃の範囲が好ましく、10℃〜50℃がより好ましい。工程(c)の時間は、特に制限されないが、5〜100時間程度である。
【0047】
工程(c)後に、前述したイオン交換処理を施すことで、酸化剤(O2)由来の硫酸イオン等のイオン成分を除去するができる。導電性高分子懸濁液から乾燥して溶媒除去した際の導電性高分子の成膜性が向上することから、この工程を施すことが好ましい。なお、これに相当する公知の処理工程で代用することも当然可能である。
【0048】
〔工程(d)〕
工程(c)中または工程(c)後に、エリスリトールおよびペンタエリスリトールから選択される少なくとも1種を混合する工程(d)を行うことが好ましい。工程(d)を行うことで、エリスリトールおよびペンタエリスリトールが、導電性高分子懸濁液中の導電性高分子(P1)の近傍に存在するポリ酸成分(未ドープのドーパントアニオン(抵抗成分))と相互作用することで、導電性高分子(P1)粒子間の抵抗を下げるとともに、導電性高分子(P1)の密度が増加するため、さらなる高導電率化が可能となる。
【0049】
エリスリトールは、例えば、ソルビトール、マルチトースなど多価アルコールに比較して結晶性が高いため、吸湿性が小さく、取扱いが容易である観点から好ましい。また、エリスリトールは、甘味料として用いられる食品添加物として知られており、安全面、安定性にも優れており、また水に対する溶解度においても、例えば、エチレングリコール、グリセリンなどの非水溶媒に比較して、数倍高く添加量の設計自由度が高い利点がある。
【0050】
ペンタエリスリトールは、加熱すると徐々に昇華し、融点以上の加熱で脱水して重合する特徴を有している。これによって、有機材料の物性が変化し、密度、強度が向上する利点を有する。このような反応性は、その化学構造に起因しており、例えばエリスリトール、ソルビトールのような化学構造では、起こり難い。
【0051】
エリスリトールまたはペンタエリスリトールは、導電性高分子懸濁液中の導電性高分子(P1)の濃度以上の濃度となる量を混合することによって、より大きな効果を奏する。なお、混合する量の上限は、導電性高分子懸濁液に溶解する量であれば、特に制限されない。
【0052】
得られた導電性高分子懸濁液には、結着作用として機能する樹脂(バインダー)を添加してもよい。この樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が挙げられる。この樹脂の添加量は、導電性を損なわない観点から、導電性高分子懸濁液100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましい。
【0053】
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液は、通常は濃青色を呈している。
【0054】
<導電性高分子材料>
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液から溶媒を除去することで、導電性高分子材料を得ることができる。この導電性高分子材料は、高い導電率を有している。なお、この導電性高分子材料は、導電性高分子(P1)の結晶化度が高く光を分散するため、透明性はなく、黒色に近い色を呈している。
【0055】
溶媒の除去は、導電性高分子を乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、導電性高分子の分解温度以下であれば特に制限されないが、300℃以下が好ましい。
【0056】
このように乾燥して溶媒除去した導電性高分子材料は、水分吸湿量が小さいという物性も具備される。例えば、導電性高分子懸濁液が、スルホン酸基を有するポリ酸と、エリスリトールまたはペンタエリスリトールを含有する場合には、未ドープのスルホン酸基とエリスリトールまたはペンタエリスリトールが乾燥中にエステル化して親水基が消失することに起因すると考えられる。
【0057】
<電解コンデンサ、固体電解コンデンサおよびその製造方法>
本実施形態に係る導電性高分子懸濁液は、電解コンデンサの電解液として用いることができる。また、本実施形態に係る導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して得られた導電性高分子材料を、固体電解コンデンサの固体電解質層として用いることができる。導電性高分子懸濁液に含まれる導電性高分子(P1)や、導電性高分子懸濁液から溶媒を除去することで得られる導電性高分子材料の導電性が高いことから、低ESRのコンデンサを得ることが可能となる。さらに、導電性高分子(P1)の結晶化度が高いことから、酸素バリア性も相関して高く、コンデンサの信頼性の向上も十分見込まれる。
【0058】
図1に、本実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図を示す。この固体電界コンデンサは、陽極導体1上に、誘電体層2、固体電解質層3および陰極導体4がこの順に形成された構造を有している。
【0059】
陽極導体1は、弁作用金属の板、箔または線;弁作用金属の微粒子からなる焼結体;エッチングによって拡面処理された多孔質体金属などによって形成される。弁作用金属としては、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびこれらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウム、タンタルおよびニオブから選択される少なくとも1種の弁作用金属であることが好ましい。
【0060】
誘電体層2は、陽極導体1の表面を電解酸化させることで形成することができる層であり、焼結体や多孔質体などの空孔部にも形成される。誘電体層2の厚みは、電解酸化の電圧によって適宜調整できる。
【0061】
固体電解質層3は、少なくとも、前述の導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して得られる導電性高分子材料を含む。固体電解質層3の形成方法としては、誘電体層2上に、前述の導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、その導電性高分子懸濁液から溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0062】
固体電解質層3は、図1に示すように、第一の固体電解質層3aと第二の固体電解質層3bの2層構造とすることもできる。この固体電解質層3は、次のように形成することができる。まず、誘電体層2上に、導電性高分子を与えるモノマー(M2)を化学酸化重合または電解重合して、導電性高分子(P2)を含む第一の固体電解質層3aを形成する。次いで、その第一の固体電解質層3a上に、前述の導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、その導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して、第二の固体電解質層3bを形成する。
【0063】
モノマー(M2)としては、ピロール、チオフェン、アニリンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。モノマー(M2)を化学酸化重合または電解重合して導電性高分子(P2)を得る際に使用するドーパントとしては、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、カンファースルホン酸およびその誘導体等のスルホン酸系化合物が好ましい。ドーパントの分子量としては、低分子化合物から高分子量体まで適宜選択して用いることができる。溶媒としては、水のみでもよく、水と水に可溶な有機溶媒とを含む混和溶媒でもよい。
【0064】
第一の固体電解質層3aに含まれる導電性高分子(P1)と、第二の固体電解質層3bに含まれる導電性高分子(P2)は、少なくとも同一種の重合体が含まれることが好ましい。
【0065】
固体電解質層3は、さらに、ピロール、チオフェン、アニリンまたはその誘導体を重合して得られる導電性重合体;二酸化マンガン、酸化ルテニウムなどの酸化物誘導体;TCNQ(7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンコンプレックス塩)などの有機物半導体を含んでいてもよい。
【0066】
塗布または含浸の方法としては、特に制限はされないが、十分に多孔質細孔内部へ導電性高分子懸濁液を充填させるために、塗布または含浸後に数分〜数10分放置することが好ましい。浸漬の繰り返しや、減圧方式または加圧方式が好ましい。
【0067】
導電性高分子懸濁液からの溶媒の除去は、導電性高分子を乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による素子劣化防止の観点から、上限温度は300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0068】
陰極導体4は、導体であれば特に限定されないが、例えば、グラファイトなどのカーボン層4aと、銀導電性樹脂4bとからなる2層構造とすることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本実施形態を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1〕
(工程(a))
水100gに、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量50,000)を20重量%含有する水溶液6gを投入し、常温で30分攪拌した。次いで、この溶液に、モノマー(M1)としての3,4−エチレンジオキシチオフェン1.28gを混合した後、さらに室温下で30分間攪拌した。次いで、酸化剤(O1)としての過硫酸アンモニウムを30重量%含有する水溶液5.08gを、均等量5回に分けて10分おきに添加した後、室温下で50時間攪拌して化学酸化重合を行い、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を合成した。このとき溶液は、黄色から薄緑、緑、薄紺色を経て黒色へと変化した。
【0071】
(工程(b))
得られた溶液を減圧ろ過装置でろ過して、粉末を回収した。得られた粉末を純水で洗浄して、過剰の酸化剤(O1)およびドーパントを除去した。純水による洗浄は、ろ液のpHが6〜7になるまで繰り返し行った。その後、粉末をエタノールで洗浄して、モノマー(M1)を除去した。エタノールによる洗浄は、ろ液が無色透明となるまで行った。このときの粉末は、濃青色を呈していた。
【0072】
(工程(c))
精製後の粉末0.5gを水50ml中に分散させた後、ポリ酸成分としてのポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:50,000)を20重量%含有する水溶液1.9gを添加した。この混合液に、酸化剤(O2)としての過硫酸アンモニウムを30重量%含有する水溶液1.5gを添加し、室温下50時間攪拌した。得られたポリチオフェン懸濁液は濃紺色であった。
【0073】
得られたポリチオフェン懸濁液100μlをガラス基板上に滴下し、150℃の恒温槽中で乾燥して導電性高分子膜を形成し、四端子法で導電性高分子膜の表面抵抗(Ω/□)および膜厚を計測して、導電性高分子膜の導電率(S/cm)を算出した。結果を表1に示す。また、形成した導電性高分子膜の結晶性を評価するため、導電性高分子膜のX線回折を測定した。なお、測定は2θを5〜40°までスキャンして行った。その測定結果を図2に示す。さらに、得られた導電性高分子膜の一部を採取して、示差熱・熱重量測定(TG−DTA)を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分、大気下、20℃から400℃とし、100℃から260℃までの間の重量減少率を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
〔実施例2〕
(工程(a))
水100gに、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量50,000)を20重量%含有する水溶液6gを投入し、常温で30分攪拌した。次いで、この溶液に、モノマー(M1)としての3,4−エチレンジオキシチオフェン1.28gとジメチルスルホキシド10gを混合して30分間攪拌して調製した溶液を投入した後、さらに室温下で30分間攪拌した。次いで、酸化剤(O1)としての過硫酸アンモニウムを30重量%含有する水溶液5.08gを、均等量5回に分けて10分おきに添加した後、室温下で50時間攪拌して化学酸化重合を行い、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を合成した。このとき溶液は、黄色から薄緑、緑、薄紺色を経て黒色へと変化した。
【0075】
工程(b)以降は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率の算出および示唆熱・熱重量測定(TG−DTA)を行った。結果を表1および表2にそれぞれ示す。
【0076】
〔実施例3〕
工程(a)で用いた過硫酸アンモニウム水溶液の代わりに、酸化剤(O1)としてのp−トルエンスルホン酸鉄(III)を30重量%含有するエタノール溶液を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
〔実施例4〕
工程(a)のドーパントとして、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:14,000)を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例5〕
工程(a)のドーパントとして、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:2,000)を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
〔実施例6〕
工程(a)で用いたポリスチレンスルホン酸水溶液の代わりに、ドーパントとしてのポリビニルスルホン酸(重量平均分子量:10,000)を20重量%含有する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
〔実施例7〕
工程(a)で用いたポリスチレンスルホン酸水溶液の代わりに、ドーパントとしてのポリエステルスルホン酸(重量平均分子量:30,000)を25重量%含有する水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0081】
〔実施例8〕
工程(c)で用いたポリスチレンスルホン酸水溶液の添加量を25gとした以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0082】
〔実施例9〕
工程(b)において、得られた粉末を純水およびエタノールで洗浄した後、さらに沸騰した熱純水を用いて洗浄した以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
〔実施例10〕
工程(b)において、得られた粉末を純水およびエタノールで洗浄した後、さらに125℃の恒温槽中で加熱処理した以外は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0084】
〔実施例11〕
(工程(a))
水100gに、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量50,000)を20重量%含有する水溶液6gを投入し、常温で30分攪拌した。次いで、この溶液に、界面活性剤として機能するポリエチレングリコール(重量平均分子量:4,000)2gを加えて、30分間攪拌した後、モノマー(M1)としての3,4−エチレンジオキシチオフェン1.28gを混合して、さらに室温下で60分間攪拌した。次いで、酸化剤(O1)としての過硫酸アンモニウムを30重量%含有する水溶液5.08gを、均等量5回に分けて10分おきに添加した後、室温下で50時間攪拌して化学酸化重合を行い、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を合成した。このとき溶液は、黄色から薄緑、緑、薄紺色を経て黒色へと変化した。
【0085】
(工程(b))
得られた分散液から、遠心分離機(5,000rpm)を用いて粉末を回収した。純水を用いた遠心分離機でのデカンテーション法により粉末を洗浄して、過剰の(O1)およびドーパントを除去した。純水による洗浄は、上澄み液の酸性度がpH6〜7になるまで繰り返し行った。
【0086】
工程(c)は、実施例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例12〕
実施例1で得られたポリチオフェン懸濁液10gに、両イオン交換樹脂(製品名:MB−1、イオン交換形−H、−OH、オルガノ製)5gを混合して、室温下で1時間攪拌して、酸化剤由来の硫酸イオンを除去して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。得られたポリチオフェン懸濁液のpHを、イオン交換樹脂混合前のポリチオフェン懸濁液のpHと比較すると、約1程度の上昇が確認された。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0088】
〔実施例13〕
実施例1で得られたポリチオフェン懸濁液10gに、さらに、エリスリトール1gを室温下で溶解させて、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0089】
〔実施例14〕
実施例1で得られたポリチオフェン懸濁液10gに、さらに、ペンタエリスリトール0.5gを室温下で溶解させて、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0090】
〔実施例15〕
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のアルミニウムを用い、陽極酸化によりアルミニウムの表面に誘電体層となる酸化皮膜を形成した。次いで、誘電体層を形成した陽極導体を、実施例1で製造したポリチオフェン懸濁液に浸漬し引き上げた後、150℃で乾燥・固化させることで、固体電解質層を形成した。固体電解質層の上に、グラファイト層および銀含有樹脂層を順番に形成して、そして、固体電解コンデンサを得た。
【0091】
得られた固体電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)を、LCRメーターを用いて100kHzの周波数で測定した。ESRの値は、全陰極部面積を単位面積(1cm2)に規格化した。さらに、得られた固体電解コンデンサを125℃の雰囲気に500時間放置した後、100kHzでのESR変化率を測定した。ここでESR変化率は、(500時間放置後のESR)/(放置前のESR)×100[%]で算出した。結果を表3に示す。
【0092】
〔実施例16〕
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のアルミニウムを用い、陽極酸化によりアルミニウム金属表面に酸化皮膜を形成した。次いで、誘電体層を形成した陽極導体を、モノマー(M2)としてのピロール10gを純水200mlに溶解させたモノマー液と、ドーパントとしてのp−トルエンスルホン酸20gおよび酸化剤としての過硫酸アンモニウム10gを純水200ml溶解させた酸化剤液とに順番に浸漬・引き上げを10回繰り返し行い、化学酸化重合を行うことで、第一の固体電解質層を形成した。
【0093】
第一の固体電解質層上に、実施例1で製造したポリチオフェン懸濁液を滴下し、150℃で乾燥・固化させることで、第二の固体電解質層を形成した。そして、第二の固体電解質層の上に、グラファイト層および銀含有樹脂層を順番に形成して、固体電解コンデンサを得た。
【0094】
得られた固体電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)とESR変化率を、実施例15と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0095】
〔実施例17〕
実施例13で製造したポリチオフェン懸濁液を用いた以外は、実施例16と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。そして、その固体電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)とESR変化率を、実施例15と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0096】
〔実施例18〕
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のタンタルを用いた以外は、実施例15と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。そして、その固体電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)とESR変化率を、実施例15と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0097】
〔比較例1〕
ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:4,000)2gと、3,4−エチレンジオキシチオフェン0.5gと、硫酸鉄(III)0.05gとを、水20mlに溶解させ、24時間にわたって空気を導入して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
〔比較例2〕
ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:4,000)の代わりにポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:50,000)を用いた以外は、比較例1と同様に実施して、ポリチオフェン懸濁液を製造した。そして、実施例1と同様の方法で導電性高分子膜を形成した後、その導電性高分子膜の導電率の算出、X線回折および示唆熱・熱重量測定(TG−DTA)を行った。結果を表1、図2および表2にそれぞれ示す。
【0099】
〔比較例3〕
比較例2で製造したポリチオフェン懸濁液を用いた以外は、実施例15と同様に実施して、固体電解コンデンサを製造した。そして、その固体電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)とESR変化率を、実施例15と同様の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
表1に示したように、実施例1〜14で形成した導電性高分子膜は、いずれも比較例1および比較例2で形成した導電性高分子膜よりも高い導電率を有していた。このように、工程(a)〜工程(c)を経ることで、(1)ドーパントの選択肢が広く、(2)モノマーと相溶性の高い溶媒構成を選択することができることから重合度が高く、(3)洗浄が容易であり高純度化を図ることができる。
【0104】
また、工程(b)において、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を熱水洗浄および/または熱処理した実施例9および10で形成した導電性高分子膜は、より高い導電率を有していた。これは、熱水による不要成分の高溶解度化または加熱によって揮発成分の除去が可能となり、さらなる高純度化を図ることが可能となったからと考えられる。
【0105】
また、工程(c)の後に工程(d)を行った実施例13および14で形成した導電性高分子膜は、より高い導電率を有していた。これは、エリスリトールおよびペンタエリスリトールが、ポリチオフェン懸濁液中のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)粒子の近傍に存在するポリスチレンスルホン酸と相互作用することで、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)粒子間の抵抗を下げるとともに、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の密度が増加したためと考えられる。
【0106】
図2に示したX線回折の測定結果から、実施例1で形成した導電性高分子膜の結晶性は、比較例2で形成した導電性高分子膜より高いことが確認できた。このため、得られたポリチオフェン溶液中のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、高分子鎖間の電子伝導が良好であり、高導電性となる。なお、実施例1で形成した導電性高分子膜は、結晶化度が高く光を分散するため、透明性はなく、黒色に近い色を呈する。
【0107】
表2に示したように、実施例1および実施例2で形成した導電性高分子は、比較例2で形成した導電性高分子よりも、熱重量減少率が小さく、重合度がより高いことが確認された。
【0108】
そして、表3に示すように、実施例15〜18で作製した固体電解コンデンサは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の導電率が高いために、固体電解質の抵抗を低減することが可能となり、固体電解コンデンサの抵抗(ESR)を低減することが可能となった。かつ、表2に示すように導電性高分子の高温下での熱重量減少率が小さく耐熱性が良好なために、125℃においてもESRの劣化が小さい固体電解コンデンサが得られた。
【符号の説明】
【0109】
1 陽極導体
2 誘電体層
3 固体電解質層
3a 第一の固体電解質層
3b 第一の固体電解質層
4 陰極導体
4a カーボン層
4b 銀導電性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリスルホン酸またはその塩からなるドーパントを含む溶媒中で、導電性高分子を与えるモノマー(M1)を酸化剤(O1)を用いて化学酸化重合して、導電性高分子(P1)を合成する工程と、
(b)前記導電性高分子(P1)を精製する工程と、
(c)ポリ酸成分を含む水系溶媒中で、前記精製された導電性高分子(P1)と酸化剤(O2)とを混合して、導電性高分子懸濁液を得る工程と
を有する導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項2】
前記モノマー(M1)が、ピロール、チオフェン、アニリンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項3】
前記モノマー(M1)が、3,4−エチレンジオキシチオフェンである請求項2に記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項4】
前記ドーパントが、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリエステルスルホン酸およびそれらの誘導体、ならびにそれらの塩から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)で用いる前記溶媒が、水、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤(O1)が、過硫酸塩である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)を、界面活性剤の存在下で行う請求項1〜6のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)において、前記モノマー(M1)および/または前記酸化剤(O1)を溶解可能な溶媒を用いて、前記導電性高分子(P1)を洗浄する請求項1〜7のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、さらに前記導電性高分子(P1)を熱水洗浄および/または熱処理する請求項8に記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項10】
前記工程(c)におけるポリ酸成分の使用量が、前記導電性高分子(P1)100重量部に対して20〜3,000重量部である請求項1〜9のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項11】
前記ポリ酸成分が、ポリスチレンスルホン酸である請求項1〜10のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項12】
前記ポリ酸成分となる前記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が、2,000〜500,000である請求項11に記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項13】
(d)エリスリトールおよびペンタエリスリトールから選択される少なくとも1種を混合する工程
をさらに有する請求項1〜12のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項14】
前記酸化剤(O2)由来のイオン成分を除去する工程をさらに有する請求項1〜13のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項15】
バインダーを添加する工程をさらに有する請求項1〜14のいずれかに記載の導電性高分子懸濁液の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法により得られる導電性高分子懸濁液。
【請求項17】
請求項16に記載の導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して得られる導電性高分子材料。
【請求項18】
請求項16に記載の導電性高分子懸濁液を電解液として含む電解コンデンサ。
【請求項19】
請求項17に記載の導電性高分子材料を含む固体電解質層を有する固体電解コンデンサ。
【請求項20】
弁作用金属からなる陽極導体と、前記陽極導体の表面に形成されている誘電体層とを有し、前記誘電体層上に前記固体電解質層が形成されている請求項19に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項21】
前記弁作用金属が、アルミニウム、タンタルおよびニオブから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項20に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項22】
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上に、請求項16に記載の導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、該導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して、前記導電性高分子材料を含む固体電解質層を形成する工程と
を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項23】
弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層上で、導電性高分子を与えるモノマー(M2)を化学酸化重合または電解重合して、導電性高分子(P2)を含む第一の固体電解質層を形成する工程と、
前記第一の固体電解質層上に、請求項16に記載の導電性高分子懸濁液を塗布または含浸し、該導電性高分子懸濁液から溶媒を除去して、第二の固体電解質層を形成する工程と
を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項24】
前記導電性高分子(P2)は、前記モノマー(M2)として、ピロール、チオフェン、アニリンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を化学酸化重合または電解重合して得られる重合体であることを特徴とする請求項23に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項25】
前記弁作用金属が、アルミニウム、タンタルおよびニオブから選択される少なくとも1種のであることを特徴とする請求項22〜24のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−111521(P2011−111521A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268632(P2009−268632)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】