説明

導電性高分子膜、導電性高分子材料、及び電子デバイス

【課題】導電性に優れた導電性高分子膜、導電性高分子材料、及び電子デバイスを提供する。
【解決手段】導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、塩基性の第1の添加剤と酸性の第2の添加剤を含有する重合液を用いて、基板上で導電性高分子モノマーを重合し、導電性高分子膜を得る。前記第1の添加剤が窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種類から成ると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子膜、導電性高分子材料、及び電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、金属的な電子伝導性または半導体性を有しながらも、柔軟性、軽量性などの特徴を有している。
【0003】
従来、導電性高分子は、その特徴を生かして、導電性高分子は、帯電防止材、固体電解コンデンサの陰極材料、電磁波遮蔽材料、透明電極材料、防錆材料などの分野において用いられており、固体電解コンデンサ、有機エレクトロルミネッセント素子、アクチュエータ、トランジスタ、太陽電池、各種センサなどの電子デバイスに用いる導電性の膜材料への応用研究がなされている。
【0004】
たとえば、固体電解コンデンサの場合、陰極として用いる導電性高分子膜の導電率を向上させることによって、固体電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR)を低減させることができることが知られている。このように、このような電子デバイスにとって、導電性高分子膜の導電率の向上は、このような電子デバイスの性能にとって重要な要因となるため、導電性高分子膜の導電率の向上に向けた研究開発が進められている。
【0005】
従って、近年、導電性高分子膜の導電率の向上を図る手法として、種々の添加剤を導入することについての検討が行われている。具体的には、このような添加剤としては、第一に、「有機溶媒」、第二に、「塩基性化合物」、第三に、「酸性物質」を用いることが、以下のように、種々提案されている。
【0006】
前述の第一の「有機溶媒」としては、たとえば、ポリチオフェンとポリアニオンから成る導電性高分子にN-メチルピロリドンやエチレングリコールなどの有機溶媒を添加することが提案されている(特許文献1)。前述の第二の「塩基性化合物」としては、たとえば、導電性高分子とポリアニオンから成る導電性高分子に塩基性の導電向上剤を添加することが提案されている(特許文献2)。また、導電性高分子のモノマーに塩基性の導電向上剤を添加して酸化重合を行うことが提案されている(特許文献3、非特許文献1)。前述の第三の「酸性物質」としては、導電性高分子のモノマーに酸性の添加剤、例えばパラトルエンスルホン酸や芳香族ジカルボン酸を添加して酸化重合を行うことが提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2916098号公報
【特許文献2】特開2007−95506号公報
【特許文献3】特開2008−171761号公報
【特許文献4】特開2004−107552号公報
【特許文献5】特開2008−34440号公報
【非特許文献1】Advanced Functional Materials 2004, 14, p615
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性高分子の導電率σは、σ=enμの式で表される。なお、この式において、eは電荷素量、nはキャリア密度、μは移動度である。従って、この導電率σの式から分かるように、キャリア密度nと移動度μを上げることによって、導電率σの値を高めることができる。本願発明者は、このキャリア密度nを上げるためには、ド−ピング量を増やすこと、及び移動度μを上げるためには導電性高分子の配向性を高めることが重要であるとの知見を得た。
斯かる知見に鑑みると、特許文献1と特許文献2においては、導電性高分子を形成後に添加剤による処理を行うため、導電性高分子の配向性を改善することができない不都合がある。また、特許文献4と特許文献5においては、一般に酸化重合液の水素イオン指数(以下、pHと称する)を大きくすると反応速度が速くなることから、導電性高分子のモノマーにpHの大きい添加剤、即ち、酸性の添加剤を添加した場合、得られる導電性高分子膜の配向性が低くなってしまう不都合がある。このように、導電性高分子の配向性が低くなると、導電性高分子内のキャリアが分子鎖内または分子鎖間を効率よく移動できないために、導電率の低下を招く不都合がある。特許文献3と非特許文献1においては、塩基性の添加剤を添加することで重合速度を抑制し、配向性の高い導電性高分子膜が得ることが期待できるが、塩基性の材料を添加すると、重合反応の反応速度が遅くなり、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることが困難になり、結局、導電性高分子膜の導電性の低下を招く不都合がある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、電子デバイスに用いられる導電性高分子膜の導電性の向上を図り、これによって、この電子デバイスの性能向上を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、塩基性の第1の添加剤と、酸性の第2の添加剤とを含有する重合液を用いて、前記モノマーが重合されてなるものである。
【0011】
本発明によれば、重合液に2つの添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。また、塩基性の添加剤と酸性の添加剤を同時に用いることで、重合液中のpHを安定化させる機能があると考えられる。すなわち、導電性高分子の反応速度を抑制した状態に一定に保つことができるので、導電性高分子膜全体のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。
【0012】
本発明用いる前記第1の添加剤としては、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種類から成るものが使用できる。 また、本発明に用いる前記第2の添加剤としては、ホスホン基を有する化合物を用いることができる。
【0013】
本発明の導電性高分子材料は、導電性モノマーが重合された重合体の主鎖端末にホスホン酸が結合してなる導電性高分子材料である。
【0014】
本発明の電子デバイスは、前述の本発明に係る導電性高分子膜を用いた導電層を備えたものである。また、本発明の電子デバイスは、導電性高分子材料からなる導電層を備えたものである。
【0015】
本発明のデバイスとしては、例えば、固体電解コンデンサ、有機EL素子、有機太陽電池、有機トランジスタ、タッチパネル、電池用電極などが挙げられる。これらのデバイスにおける導電性膜として、本発明の導電性高分子膜を用いることにより、導電性に優れた導電性高分子膜を有する電子デバイスとすることができる。
【0016】
本発明の電子デバイスである固体電解コンデンサは、たとえば、陽極と、この陽極の表面上に形成される誘電体層と、この誘電体層の上に形成される導電性高分子層と、この導電性高分子層の上に形成される陰極層とを備えるものにおいて、前記導電性高分子層の少なくとも一部に、前述のとおりの本発明の導電性高分子膜、あるいは本発明の導電性高分子材料を用いるものである。このような固体電解コンデンサの場合、導電性に優れた導電性高分子膜、あるいは本発明の導電性高分子材料を用いることができるので、等価直列抵抗(ESR)の低減に寄与する。
【0017】
本発明の導電性高分子膜を得るには、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、塩基性の第1の添加剤と、酸性の第2の添加剤とを含有する重合液を用いて、前記モノマーを重合することによって、導電率の高い導電性高分子膜を製造する製造方法を採用することができる。
【0018】
本発明の電子デバイスを得るには、この電子デバイスが有する導電性高分子膜を前述の製造方法を用いて製造することができる。たとえば、本発明の電子デバイスである固体電解コンデンサを得るには、その誘電体層を基板とみなして、この基板上に前記重合液を膜状に塗布して、前記導電性高分子のモノマーを重合することによって、導電率の高い導電性高分子膜を形成できる。
【0019】
なお、本発明においては、1種類の導電性高分子モノマーに限らず、複数種類の導電性高分子モノマーを用いることも可能であり、この場合には、共重合体からなる導電性高分子膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導電性に優れた導電性高分子膜、あるいは導電性高分子材料を得ることができ、また、導電性に優れた導電性高分子膜を備えた電子デバイスを得ることができる。本発明のデバイスである固体電解コンデンサは、誘電体層の上に形成される導電性高分子層の少なくとも一部に、上記本発明の導電性高分子膜を用いているので、ESRを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従うデバイスの一実施形態である固体電解コンデンサを示す模式的断面図。
【図2】本発明に従うデバイスの他の実施形態である有機太陽電池を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の導電性高分子膜の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーを重合させたものであり、その重合液中に、酸化剤と共に、塩基性の第1の添加剤と、酸性の第2の添加剤とを加えているところに特徴がある。前述のように重合液に、重合液に塩基性の第1の添加剤と酸性の第2の添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。前述のように、これらの添加剤は、重合液に含有されることにより、重合液中のpHを安定化させる機能があると考えられるので、導電性高分子の反応速度を抑制した状態に保持することができる。すなわち、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。従って、本発明における添加剤は、反応速度を抑制する作用と共にその反応速度を安定化させる作用を有する。導電性の向上は、添加剤により導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が改善されたためと考えられる。
【0024】
たとえば、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと称する)等の重合性モノマーを化学重合により重合して導電性高分子とするには、重合液のpHが小さいほど重合速度が速くなる。このように、重合速度が速くなると、PEDOTの膜質や配向性が低下して導電率が低下する。また、酸化剤にパラトルエンスルホン酸第二鉄を用いた時、酸化剤とモノマーの反応により酸化剤は還元されパラトルエンスルホン酸鉄とパラトルエンスルホン酸になる。反応副生成物であるパラトルエンスルホン酸の一部は導電性高分子のドーパントとして取り込まれるが、それ以外は反応溶液中に存在し、重合反応が進むにつれて酸性が高まり、重合液のpHは小さくなる。このため、重合速度が重合反応と共に速くなり、配向性の低い導電性高分子膜が生成される。
従来技術に用いられる導電性を向上させるための添加剤の場合、ピリジンやイミダゾール等の塩基性物質を添加するため、酸性の酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄と塩基性の添加剤であるピリジンやイミダゾールが反応し、酸化剤自体の酸化作用を低下させると共に塩基性物質の添加により重合液のpHを大きくすることで反応速度を抑制していた。この場合も、上述のように重合反応が進むにつれて、パラトルエンスルホン酸が生成し、重合液のpHが小さくなり、重合反応が進むにつれて導電性高分子膜の配向性が乱れてくることが予想され、導電率が高い膜は得られ難いと考えられる。
【0025】
本発明の添加剤の効果は、第1の添加剤が重合反応の抑制効果を担い、第1の添加剤と第2の添加剤との両方が重合液のpHを一定に保つ緩衝効果を担うものである。
【0026】
このような反応抑制効果については、上述と同様にピリジンやイミダゾール等の塩基性物質が、酸性の酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄が反応し、酸化剤自体の酸化作用を低下させると共に塩基性物質の添加により重合液のpHを大きくすることになるので、この結果、重合反応の速度が抑制される。このように、反応速度が抑制されると、導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が改善される。
【0027】
また、pHを一定に保つ効果は、緩衝作用による効果であると考えられる。導電性高分子のモノマーであるエチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと称する)と酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄の重合反応溶液中に、第1の添加剤としてピリジン、第2の添加剤としてホスホン酸化合物を添加すると、塩基性のピリジンの一部が酸性のパラトルエンスルホン酸第2鉄と反応して、酸化剤自体の酸化作用を低下させる。また、第1の添加剤と第2の添加剤の酸塩基反応により共役酸と共役塩を生成する。次に、EDOTと酸化剤の重合反応により、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと称する)とパラトルエンスルホン酸鉄とパラトルエンスルホン酸陰イオンと水素陽イオン(プロトン)を生成する。プロトンは、平衡反応によりホスホン酸陰イオンと反応し、ホスホン酸になる。このため、重合液のpHの変動を抑制することができる。pHの変動を抑制することで反応速度を一定に保ち、重合反応に最適な条件を保つことができる。すなわち、導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が膜全体に保たれ、導電性が向上する。
【0028】
本発明において、導電性高分子の重合液中における添加剤の含有量は、酸化剤1モルに対して、第1の添加剤が0.01モル〜1モルの範囲、第2の添加剤が0.00001モル〜0.1モルの範囲であることが好ましい。添加剤の含有量が少なすぎると、導電性に優れるという本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、添加剤の含有量が多すぎると、導電性が低下する場合がある。添加剤の含有量のさらに好ましい範囲は、第1の添加剤が0.05モル〜0.5モルの範囲、第2の添加剤が0.0001モル〜0.02モルの範囲であり、さらに好ましくは第1の添加剤が0.3モル〜0.5モルの範囲、第2の添加剤0.0001モル〜0.002モルの範囲である。
【0029】
以下に、本発明の導電性高分子膜の実施形態における各構成について、順次説明する。
<導電性高分子のモノマー>
本発明で用いる導電性高分子モノマーとしては、ピロール、チオフェン、またはアニリン及びこれらの誘導体を挙げることができる。モノマーの重合により、モノマーの繰り返し単位を有するπ共役系導電性高分子を得ることができる。従って、上記モノマーを用いることにより、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、及びこれらの共重合体等からなる導電性高分子を得ることができる。π共役系導電性高分子は、無置換のままでも十分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボン酸基、スルホン酸基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0030】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブデンジオキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が導電率の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高くなる上に耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0031】
<酸化剤>
本発明における酸化剤は、本発明における導電性高分子モノマーの重合開始剤として用いられるものである。このような酸化剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ペルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のペルオキソ二硫酸塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、三フッ化ホウ素などの金属ハロゲン化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、パラトルエンスルホン酸鉄などの有機スルホン酸の遷移金属塩等が挙げられる。
【0032】
<第1の添加剤>
本発明における第1の添加剤としては、塩基性化合物であることが好ましい。このような観点からは、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、アミノ基を有する化合物等が挙げられる。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の種類を併用してもよい。
窒素含有芳香族複素環式化合物としては、例えば、1つの窒素原子を含有するピリジン類及びその誘導体、2つの窒素原子を含有するイミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体、ピラジン類及びその誘導体、3つの窒素原子を含有するトリアジン類及びその誘導体等が挙げられる。溶媒溶解性の観点からは、ピリジン類及びその誘導体、イミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体が好ましい。ピリジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−エチルピリジン、3−ブチルピリジン、4−tert―ブチルピリジン、2−ブトキシピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2−フルオロピリジン、2,6−ジフルオロピリジン、2,3,5,6−テトラフルオロピリジン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−メチル−2−ビニルピリジン、4−ブテニルピリジン、4−ペンテニルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3−シアノ−5−メチルピリジン、2−ピリジンカルボン酸、6−メチル−2−ピリジンカルボン酸、2,6−ピリジン−ジカルボン酸、4−ピリジンカルボキシアルデヒド、4−アミノピリジン、2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、6−ヒドロキシニコチン酸メチル、2−ヒドロキシ−5−ピリジンメタノール、6−ヒドロキシニコチン酸エチル、4−ピリジンメタノール、4−ピリジンエタノール、2−フェニルピリジン、3−メチルキノリン、3−エチルキノリン、キノリノール、2,3−シクロペンテノピリジン、2,3−シクロヘキサノピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、1,2−ジ(4−ピリジル)プロパン、2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−ピリジンカルボン酸、2−ピリジンカルボニトリル、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3−ピリジンスルホン酸等が挙げられる。
イミダゾール類及びその誘導体の具体的な例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ウンデジルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、2−メチル−4−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、4,5−イミダゾールジカルボン酸、4,5−イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール−2−スルホン酸、2−アミノ−1−メチルベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0033】
ピリミジン類及びその誘導体の具体的な例としては、2−アミノ−4−クロロ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−6−クロロ−4−メトキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメトキシピリミジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジヒドロキシピリミジン−5−カルボン酸、2,4,6−トリアミノピリミジン、2,4−ジメトキシピリミジン、2,4,5−トリヒドロキシピリミジン、2,4−ピリミジンジオール等が挙げられる。
【0034】
ピラジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピラジン、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、ピラジンカルボン酸、2,3−ピラジンカルボン酸、5−メチルピラジンカルボン酸、ピラジンアミド、5−メチルピラジンアミド、2−シアノピラジン、アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチルピラジン等が挙げられる。
【0035】
トリアジン類及びその誘導体の具体的な例としては、1,3,5−トリアジン、2−アミノ−1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリ−2−ピリジン−1,3,5−トリアジン、3−(2−ピリジン)−5,6−ビス(4−フェニルスルホン酸)−1,2,4−トリアジンニナトリウム、3−(2−ピリジン)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0036】
その他の窒素含有芳香族複素環式化合物の具体的な例としては、インドール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール−1−メタノールなどが挙げられる。
【0037】
<第2の添加剤>
第2の添加剤として、前述の一般式(1)で示されるホスホン酸を挙げることができる。 具体的には、以下の式(1)に示すようなホスホン基を有する化合物を用いることができる。
【0038】


【0039】
【化1】


式中のRは、炭素数1〜18の炭化水素基、アルキル基、アリール基、フェニル基、エーテル基、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、アニリン誘導体、ビニル基を有する誘導体、エポキシ基を有する誘導体(置換基として、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシプロピル基など)、スチリル基を有する誘導体、メタクリロキシ基を有する誘導体、アクリロキシ基を有する誘導体、アミノ基を有する誘導体(置換基として、N-アミノエチルアミノプロピル基、アミノプロピル基、ジメチルブチリデンプロピルアミン基、N-フェニルアミノプロピル基、N-ビニルベンジルアミノエチルアミノプロピル基など)、ウレイド基を有する誘導体(置換基として、ウレイドプロピル基など)、クロロプロピル基を有する誘導体、メルカプト基を有する誘導体(置換基として、メチルメルカプトプロピル基など)、スルフィド基を有する誘導体(置換基として、テトラスルフィド基など)、イソシアネート基を有する誘導体(置換基として、イソシアネートプロピル基など)である。
導電性高分子の重合液中における添加剤の含有量は、酸化剤1モルに対して、第1の添加剤が0.01モル〜1モルの範囲、第2の添加剤が0.00001モル〜0.1モルの範囲であることが好ましい。添加剤の含有量が少なすぎると、導電性に優れるという本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、添加剤の含有量が多すぎると、導電性が低下する場合がある。添加剤の含有量のさらに好ましい範囲は、第1の添加剤が0.05モル〜0.5モルの範囲、第2の添加剤が0.0001モル〜0.02モルの範囲であり、さらに好ましくは第1の添加剤が0.3モル〜0.5モルの範囲、第2の添加剤0.0001モル〜0.002モルの範囲である。
【0040】
添加剤の含有量が少なすぎると、導電性向上剤の効果が低くなり、導電性が低くなる傾向にある。また、導電性向上剤の含有量が多すぎると、重合抑制効果が強くなることで、導電性高分子膜は薄くなり、十分な膜厚が得られ難くなる傾向にある。
【0041】
<基板と導電性高分子膜>
本発明においては、導電性高分子膜が形成される下地となる基体を基板と称しているので、例えば、導電性高分子膜を有する電子デバイスにおいて、導電性高分子膜が形成される下地の膜が基板に該当し、具体的には、後述するような固体電解コンデンサの場合は、誘電体層が基板に該当することになる。
【0042】
導電性高分子膜を基板上に形成する方法としては、基板上に、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、添加剤とを含有する重合液を塗布し、重合液中の導電性高分子モノマーを重合する方法が挙げられる。基板上に重合液を塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップ法、ドロップキャスト法、インクジェット法、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
<導電性高分子材料>
本発明の導電性高分子材料は、複数の導電性モノマーが重合された重合体の主鎖端末にホスホン酸が結合した高分子材料である。
【0043】
このような本発明の導電性高分子材料としては、たとえば、以下の化学式(4)〜(7)に示すような材料が挙げられる。具体的には、式(2)の導電性高分子材料は、ポリエチレンジオキシチオフェンの主鎖端末にホスホン酸が結合しており、具体的には、第2の添加剤である4−チエニルブチルホスホン酸(以下、TC4PHOと称する)がポリエチレンジオキシチオフェンの主鎖端末に結合している。同様に、式(3)の導電性高分子材料は、ポリチオフェンの主鎖端末にTC4PHOが結合しており、式(4)の導電性高分子材料は、ポリピロールの主鎖端末にTC4PHOが結合しており、式(5)の導電性高分子材料は、ポリアニリンの主鎖端末にTC4PHOが結合している。
【0044】


【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】



以下に、本発明の導電性高分子膜を用いた固体電解コンデンサの実施形態について説明する。
【0049】
<固体電解コンデンサ>
図1は、本発明に従う一実施形態の固体電解コンデンサ8を示す模式的断面図である。図1に示すように、陽極1には、陽極リード7の一端が埋設されている。陽極1は、弁金属又は弁金属を主成分とする合金からなる粉末を成形し、この成形体を焼結することにより作製されている。従って、陽極1は、多孔質体から形成されている。図1においては示されていないが、この多孔質体には、その内部から外部に連通する微細な孔が多数形成されている。このように作製された陽極1は、本実施形態において外形が略直方体となるように作製されている。弁金属としては、例えば、タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも、誘電体である酸化物が高温でも比較的安定であるタンタル、ニオブ、アルミニウム、チタンが特に好ましく用いられる。弁金属を主成分とする合金としては、タンタルとニオブ等の2種類以上からなる弁金属同士の合金が挙げられる。陽極1の表面には、陽極1を陽極酸化してなる酸化物からなる誘電体層2が形成されている。誘電体層2は、陽極1の孔の表面上にも形成されている。図1においては、陽極1の外周側に形成された誘電体層2を模式的に示しており、上述の多孔質体の孔の壁面に形成された誘電体層は図示を省略している。誘電体層2は、陽極1の表面を、陽極酸化することにより形成することができる。
【0050】
本発明が特徴とする導電性高分子層3は、誘電体層2を覆うように形成されており、前述した本発明が特徴とする導電性高分子膜から構成できる。
【0051】
斯かる固体電解コンデンサ8の実施形態において、本発明が特徴とする導電性高分子層3は、前述のとおりの導電性高分子のモノマーと前述のとおりの酸化剤と前述のとおりの第1の添加剤と第2の添加剤とが含有された重合液を用いて導電性高分子モノマーを重合してなる導電性高分子膜である。そして、この導電性高分子の材料としては、前記の化学式(2)〜(3)に例示したような本発明の導電性高分子材料が使用できる。なお、重合プロセスについては、後述する。
【0052】
なお、図1においては、導電性高分子層3は単層構造であるが、これを多層とする場合には、少なくともその一部において、即ち、その一層において、本発明が特徴とする導電性高分子層膜が形成されていればよい。たとえば、前述の陽極側より、後述の陰極側の方の導電率が高くなる様に、導電率の異なる導電性高分子膜を積層した導電性高分子層3を使用する場合には、陰極側の方の導電性高分子層に本発明の導電性高分子膜を使用することができる。
【0053】
斯かる導電性高分子層3は、図1では図示が省略されているが、陽極1の孔の壁面上の誘電体層2の上にも形成されている。そして、さらに、陽極1の外周面上にも導電性高分子層3が形成されており、この部分の導電性高分子層3上には、カーボン層4が形成され、カーボン層4の上には、銀ペースト層5が形成されている。
【0054】
前述のように、カーボン層4と銀ペースト層5の2層によって陰極層6が構成されている。カーボン層4は、カーボンペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。銀ペースト層5は、銀ペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。以上のようにして、本実施形態の固体電解コンデンサ8が構成されている。一般に、固体電解コンデンサ8は、その周りをモールド外装樹脂で覆われ、陽極リード7には陽極端子が接続され、陰極層6には陰極端子が接続され、それぞれの端子はモールド外装樹脂の外部に引き出されるように設けられている。
【0055】
本実施形態の固体電解コンデンサ8においては、導電性高分子層3の少なくとも一部に本発明が特徴とする前述の導電性高分子膜が用いられているので、導電性に優れた導電性高分子層3を形成することができる。従って、このような本実施形態の固体電解コンデンサにおいては、導電性高分子層3の少なくとも一部に本発明の導電性高分子膜を用いているので、固体電解コンデンサ8のESRを低減することができる。
【0056】
<有機太陽電池>
図2は、本発明に従うデバイスの他の実施形態である有機太陽電池を示す模式的断面図である。図2に示すように、基板10の上には、透明電極11が形成されている。基板10としては、ガラス基板を用いることができる。透明電極11としては、インジウム錫酸化物(ITO)などからなる薄膜が形成されている。透明電極11の上には、ホール輸送層12が形成されている。このホール輸送層12として、本発明の導電性高分子膜を形成することができる。ホール輸送層12の上には、活性層13が形成されている。活性層13としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜を形成することができる。活性層13の上には、電子輸送層14が形成されている。電子輸送層14としては、例えば、C60フラーレン膜などを形成することができる。電子輸送層14の上には、上部電極15が形成されている。上部電極15としては、例えば、アルミニウムなどの金属膜を形成することができる。以上のようにして、本発明の実施形態である有機太陽電池16が構成されている。 本実施形態の有機太陽電池においては、ホール輸送層12として、本発明の導電性高分子膜が形成されているので、透明電極11が形成された基板10の上に、導電性に優れたホール輸送層12を形成することができる。ホール輸送層12の導電性を向上させることができるので、界面抵抗及びバルク抵抗に起因するIRドロップを低減することができ、開放電圧を上昇させることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明に従う具体的な実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<ガラス基板上に形成した導電性高分子膜>
(実施例1〜5)
酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄の40重量%ブタノール溶液に、表1に示す所定のモル比で第1の添加剤として3−ブチルピリジンを添加した溶媒と、表1に示す所定のモル比で第2の添加剤としてTC4PHOのブタノール溶液を、導電性高分子のモノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンに添加した溶液を混合し、重合液を調製した。得られた重合液を、ガラス基板上にスピンコート法で塗布して成膜した。成膜後、50℃で1時間加熱放置した。放置後、純水で膜を洗浄し、副生成物を除去し、ガラス基板上に導電性高分子膜を形成した。得られた導電性高分子膜の膜厚は、触針式表面形状測定機Dektakで測定し、導電性高分子膜の導電率を、抵抗率計ロレスタMCパラT610(株式会社ダイヤインスツルメンツ社製)で測定した。評価結果を表1に示した。
【0059】
上述の実施例における本発明の特徴とする導電性高分子膜の成膜のプロセスにおいては、重合液中でのモノマーの重合反応は、ガラス基板上への重合液の塗布時から開始され、50℃での1時間の加熱放置の処理終了時に完了するものであって、その反応は、以下の反応式(6)のとおりである。
【0060】
【0061】
【化6】


斯かる反応式(6)から明らかなように、実施例1〜5の導電性高分子膜は、前述した化学式(2)に記載した本発明に係る導電性高分子材料からなるものである。
(比較例1)
比較例1では、添加剤なしの重合液を用いて導電性高分子膜を形成する以外は、上記の実施例と同様にしてガラス基板上に導電性高分子膜を形成した。得られた導電性高分子膜について、上記と同様にして、導電率を評価し、評価結果を表1に示した。
(比較例2)
比較例2では、添加剤として第1の添加剤(3−ブチルピリジン)のみを用いた重合液を用いて導電性高分子膜を形成する以外は、上記の実施例と同様にしてガラス基板上に導電性高分子膜を形成した。得られた導電性高分子膜について、上記と同様にして、導電率を評価し、評価結果を表1に示した。
(比較例3〜7)
比較例3〜7では、添加剤として第2の添加剤(TC4PHO)のみを用いた重合液を用いて導電性高分子膜を形成する以外は、上記の実施例と同様にしてガラス基板上に導電性高分子膜を形成した。得られた導電性高分子膜について、上記と同様にして、導電率を評価し、評価結果を表1に示した。
【0062】
【0063】
【表1】

<TC4PHOの合成方法>
ここで、斯かる実施例に使用した第2の添加剤であるTC4PHOの合成方法について、化学反応式(7)に基づいて以下に紹介する。

【化7】

化学反応式(7)に示すように、チオフェン(99%)の5.05g(60mmol)をドライのテトラヒドロフラン(THF)の200mLに溶解させ、−70℃に冷却した後、マグネットスターラーで攪拌しながら、n−ブチルリチウム(N−BuLi)1.6M ヘキサン溶液41mL(65.6mmol,1.09eq.)をシリンジを用いて滴下した。−50℃まで徐々に温度を上昇させた後、1,4−ジブロモブタン12.96gを50mLのドライTHFに希釈した溶液を、シリンジを用いて滴下した。−50℃で30分間攪拌を行った後、攪拌しながら室温まで徐々に温度を上げ、10時間反応させた。純水50mLを加えて反応を終了させた後、分液ロートに移し、さらに100mLの純水を加えて反応液を洗浄し、油層に反応物を抽出した。ロータリーエバポレータを用いて濃縮した後、ヘキサンを抽出液とし、シリカゲルカラムを用いた分離精製を行った。生成物(2−(4−ブロモブチルチオフェン))の収量は、6.57g(30mmol、収率50%)であった。次にこの生成物にトリエチルフォスファイト5.0g(30mmol)を攪拌しながら加え、室温から徐々に140℃まで温度を上昇させ、140℃で3時間反応を行った。室温まで冷却した後、溶媒を除去後、シリカゲルカラム精製を行い、エチルフォスファイト化合物を5.8g(21mmol、2−(4−ブロモブチルチオフェン)からの収率 70%)を得た。これにブロモトリメチルシランと塩化メチレンを加え5℃にて4時間反応させた。反応液の溶媒を除去後、トルエン、水を加え、一晩撹拌した。反応液を濃縮後、濃縮物にトルエンを加え洗浄を行い、乾燥後、目的物であるTC4PHOを4.1g(18.9mmol、総合収率31.5%)を得た。
【0064】
以下に、表1に基づいて、本発明の実施例の評価結果について解説する。
【0065】
同表1に示すように、本発明に従い、第1の添加剤である3−ブチルピリジンと第2の添加剤であるTC4PHOを重合液に添加して形成した実施例1〜5の導電性高分子膜は、添加剤を添加していない比較例1や添加剤を1種類しか添加していない対応の比較例2〜7に比べ、高い導電率を示している。比較例2で示すように、従来技術で用いられている塩基性の第1の添加剤のみでは、1112S/cmの導電率が得られたが、本発明の添加剤を添加して得られる実施例1〜5の導電率は、それ以上(1114S/cm以上)の導電率が得られた。特に、実施例1〜4では、1200S/cm以上の導電率が達成でき、実施例1では、1300以上の導電率を実現することができた。
【0066】
また、比較例1〜7の導電率の変化に注目すると、第1の添加剤なしで、第2の添加剤であるTC4PHOのみを添加する場合、その添加量を増やせば、増やすほど、導電率が低下することが分かるが、実施例1〜5に示すように、この第2の添加剤を第1の添加剤と共に添加することによって、その導電率は、800S/cm未満から1100S/cm以上に上昇しており、導電率の格段の向上が確認できた。
【0067】
なお、酸性の第2の添加剤のみでは、添加量が増すに連れて導電率が低下する傾向が見られ理由としては、TC4PHOのような酸性の添加剤(第2の添加剤)の添加量が多くなると、この添加剤が主鎖の末端に結合する頻度が高くなるので、そのモノマー同士が結合して主鎖が伸びていくのが制限され、結果として重合された導電性高分子の分子量の増加が制限された結果でると理解できる。加えて、添加剤が酸性であることから、重合液のpHが小さくなり、重合速度が速くなることで、導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が低下し、導電性が低下したと考えられる。同様の現象は、実施例1〜5でも見られ、TC4PHOの添加量が増すと導電率が低下する傾向があり、適正な範囲で添加する必要がある。
【0068】
以上のように、本発明によれば、導電性に優れた導電性高分子膜を形成することができる。
【0069】
<固体電解コンデンサの作製>
図1に示す構造を有する固体電解コンデンサを作製した。陽極1は、タンタル(Ta)の粉末の焼結体から形成した。陽極1は、2.3mm×1.8mm×1.0mmの直方体の形状を有している。この直方体形状を有する陽極1の1端面から陽極リ−ド7の一端が植立している。陽極リ−ド7は、タンタル(Ta)から形成されている。陽極リ−ド7の他端が埋設された陽極1を、リン酸水溶液中に浸漬して、所定の電圧を印加することによって陽極酸化した。この陽極酸化によって、陽極1の表面に酸化タンタルからなる誘電体層2を形成した。誘電体層2は、上述のように、陽極1の多孔質体の孔の表面上にも形成されている。
【0070】
次に、誘電体層2を形成した陽極1を、重合液中に浸漬した。重合液は、導電性高分子
モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエン
スルホン酸第二鉄と、添加剤として第1の添加剤に3−ブチルピリジンを、第2の添加剤であるTC4PHOをモル比で1:8:4:0.001となるように混合したブタノール溶液を用いた。この重合液に、誘電体層2を形成した陽極1を浸漬し、浸漬後引き上げて乾燥することにより、誘電体層2の上に、導電性高分子膜を形成した。重合液中の浸漬及び乾燥を繰り返すことにより、導電性高分子膜の膜厚を増やして調整し、膜厚50μmの導電性高分子層3を形成した。
【0071】
その後、陽極1の外周面上の導電性高分子層3の上に、カーボン層4及び銀ペースト層5を順次形成し、陰極層6を設けた。以上のようにして作製した固体電解コンデンサ8の陽極リード7に陽極端子を溶接し、陰極層6に陰極端子を導電性接着剤により接続した後、固体電解コンデンサ8の外側を、エポキシ樹脂で外装し、被覆密閉して固体電解コンデンサを完成した。得られた固体電解コンデンサについて、ESRを測定した。ESRの測定は、上記のLCRメータを用いて周波数100kHzで行った。以上のようにして測定した結果、ESRは6.3mΩであった。
【0072】
これに対して、比較として、上記実施例において、添加剤としての3−ブチルピリジンを重合液に添加した以外は、上記と同様にして導電性高分子膜を形成し、比較の固体電解コンデンサを作製した。この比較の固体電解コンデンサについて、上記と同様にして、ESRを測定した。その結果、ESRは6.7mΩであった。以上のように、本発明に従い、固体電解コンデンサにおける導電性高分子層を形成することにより、導電性高分子層3の導電率を向上させることができ、その結果、固体電解コンデンサのESRの低減を図ることができた。
【0073】
<有機太陽電池の作製>
図2に示す構造を有する有機太陽電池を作製した。ITOから形成された透明電極11の表面に、導電性高分子モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄と、添加剤として第1の添加剤に3−ブチルピリジンを、第2の添加剤に4−チエニルブチルホスホン酸をモル比で1:8:4:0.001となるように混合したブタノール溶液からなる重合液をスピンコートした。その後、50℃で1時間放置し、純水で洗浄し、乾燥することにより、ホール輸送層12を形成した。従って、ホール輸送層12は、膜厚40nmのポリエチレンジオキシチオフェンの薄膜から形成した。次に、ホール輸送層12の上に、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)のo−ジクロロベンゼン溶液をスピンコートし、膜厚50nmの活性層13を形成した。活性層13の上に、C60フラーレン膜を真空蒸着することにより、膜厚50nmの電子輸送層14を形成した。次に、電子輸送層14の上に、シャドーマスクを用いてAl膜を真空蒸着することにより、上部電極15を形成した。次に、ガラスキャップで封止することにより、有機太陽電池16を完成した。作製した有機太陽電池について、AM1.5(100mW/cm)の疑似太陽光を照射したところ、開放電圧として、550mVの起電力を得ることができた。比較として、上記実施例において、添加剤として3−ブチルピリジンを重合液に添加した以外は、上記と同様にして、ホール輸送層12を形成し、比較の有機太陽電池を作製した。この比較の有機太陽電池について、上記と同様にして、疑似太陽光を照射したところ、開放電圧として、520mVの起電力が得られた。以上の結果から、ホール輸送層12として、本発明に従う導電性高分子膜を形成することにより、ホール輸送層12の導電性を向上させることができ、界面抵抗及びバルク抵抗に起因するIRドロップを低減でき、開放電圧を上昇させることができた。
【符号の説明】
【0074】
1…陽極
2…誘電体層
3…導電性高分子層
4…カーボン層
5…銀ペースト層
6…陰極層
7…陽極リード
8…固体電解コンデンサ
10…基板
11…透明電極
12…ホール輸送層
13…活性層
14…電子輸送層
15…上部電極
16…有機太陽電池





【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、塩基性の第1の添加剤と、酸性の第2の添加剤とを含有する重合液を用いて、前記モノマーが重合されてなる導電性高分子膜。
【請求項2】
前記第1の添加剤が窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種類から成ることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜。
【請求項3】
前記第2の添加剤が、ホスホン酸基を有する化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性高分子膜。
【請求項4】
複数の導電性モノマーが重合された重合体の主鎖端末にホスホン酸基が結合してなる導電性高分子材料。
【請求項5】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子膜を用いた導電層、あるいは前記請求項4に記載の導電性高分子材料からなる導電層を備えた電子デバイス。
【請求項6】
前記請求項5に記載の電子デバイスは、固体電解コンデンサであることを特徴とする電子デバイス。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−212212(P2010−212212A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60121(P2009−60121)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】