説明

導電材料製構造物の損傷検出方法

【課題】使用中の導電材料製構造物に生じる損傷を非破壊的に、しかも装置等の操業を停止することなく、簡便に検出できる、導電材料製構造物の損傷検出方法を提供する。
【解決手段】複数の電位差測定用端子を所定の間隔で隔離して、構造物の被測定領域を囲んで配置し、複数の電位差測定用端子を挟んで設けられた一対の電極を介して構造物の特定方向に電流を供給しながら、被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第一の工程と、前記一対の電極とは別に複数の電位差測定用端子を挟んで設けられる他の一対の電極を介し、構造物の特定方向とは異なる方向に電流を供給しながら、被測定領域を挟んで相対する各電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第二の工程とを順次行い、各電位差測定用端子間の電位差を測定する。得られた異なる二方向の各電位差測定用端子間の電位差から、被測定領域における電位差分布、電位差変化率分布を求め、被測定領域における損傷状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼構造物等の導電材料製構造物に生じる損傷を非破壊的に検出する導電材料製構造物の損傷検出方法に係り、とくに電位差法を利用して、装置および配管等の実導電材料製構造物に使用中に生じる、肉厚減少等の損傷を非破壊的に、その発生位置を効率よく特定し、さらにその損傷度合いを精度高く検出する、導電材料製構造物の損傷検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油プラントや電力プラント等では、金属製の装置および配管等(以下、装置等ともいう)が強い腐食環境や侵食環境に晒される場合が多く、装置等を構成する金属材料には、疲労、応力腐食(SCC)、硫化物応力腐食(SSCC)による割れ、亀裂や、あるいは粒界腐食等の腐食や侵食により、肉厚減少、浸炭等による材質劣化等の損傷が生じる場合がある。これら金属材料に生じた損傷は、装置等の破壊原因となることが多いため、装置等の安全確保という観点から早期に検知する必要がある。
【0003】
装置等の損傷の検知方法として、従来から超音波探傷法、X線透過法等の非破壊検査方法が提案されている。しかし、これらの検知方法には、曲がりや溶接部等が存在すると測定できないという、測定個所の制限があり、さらに損傷の度合いおよびその変化量を精度高く得ることが難しいことや、あるいは測定が複雑でかつ解析が難しいため、測定・解析の実施にあたっては有資格者の協力を必要とすることなどの問題があった。
【0004】
また、比較的精度高く、亀裂等の欠陥の大きさ、形状に関する情報が得られる非破壊検査方法として、電位差法がある。亀裂等の欠陥を含む被測定材に電流を流した際に、欠陥は寸法に応じた電気抵抗を有し、欠陥を挟む両側でこれに対応した電位差が生じる。電位差法は、被測定物に電流を流し、この欠陥を挟む位置での電位差を測定し、その結果から予め求めた校正曲線を利用して、被測定物に含まれる欠陥の形状、寸法に関する情報を得ようとするものである。なお、電位差法には、直流を利用した直流電位差法と交流を利用した交流電位差法がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、直流電位差法による三次元亀裂の非破壊検査方法が提案されている。特許文献1に記載された技術は、基板表面の電位差分布を測定し、これら測定値と仮定した形状の亀裂から求められる仮想的な電位差分布との差を比較し、測定値と計算値との差が小さくなるように亀裂形状を変化させて亀裂の形状を推定するものであり、任意の縦横比の三次元亀裂の形状、寸法、傾きを定量評価できるとしている。なお、特許文献1に記載された技術によれば、超音波探傷法、X線透過法などの適用が困難な溶接部への適用が容易となるとしている。しかし、特許文献1に記載された方法では、構造物の肉厚変化については、精度よく測定することはできないという問題があった。
【0006】
電位差法を利用して、構造物の肉厚変化、構造欠陥の検知を行なう検知装置が、例えば特許文献2に提案されている。特許文献2に記載された検知装置では、溶接等による測定端子の設定を行なうことなく簡便に、測定端子間の電位差を測定することができ、腐食等の環境下における構造物の肉厚変化、構造欠陥の検知を行なうことができるとしている。
また、特許文献3には、電位差法を利用した、きずの非破壊検査方法が提案されている。特許文献3に記載された技術では、被測定物表面に複数の電位差測定用端子をマトリックス状に所定の間隔で離隔して配置し、該被測定物に電流を供給しながら、各電位差測定用端子間に生じる電位差または電位差変化率分布を求め、予め関連づけられた電位差分布または電位差変化率分布ときずの寸法形状との関係を参照して、被測定物に含まれるきずの位置、寸法形状さらにはきずの進展状況を検知できるとしている。
【特許文献1】特許第3167449号公報
【特許文献2】国際公開WO 00/50907号パンフレット
【特許文献3】特開2005−208039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来の非破壊検査技術では、測定対象の領域に接近しなければ、あるいは該領域内に測定用端子を設置しなければ、精度よく検査できないという問題があった。例えば、石油、化学物質等の貯蔵タンクには、腐食により減肉が発生するため、定期的に操業を停止し、タンクの内容物を排出しタンクを開放して肉厚検査等を実施している。しかし、このような操業を停止し内部を開放して行う検査は、大きな経済的損失を伴うことに加えて、検査に多大の労力を必要とするなど、多くの問題を抱えている。このようなことから、石油、化学物質等の貯蔵タンクにおけるような、構造物の損傷を、操業を停止することなく、経済的に有利でかつ高精度に検査できる、構造物の損傷検査方法が要望されていた。
【0008】
本発明は、かかる要望に鑑みてなされたものであり、使用中の、装置等の導電材料製構造物に生じる損傷を非破壊的に、しかも装置等の操業を停止することなく、簡便に損傷部位の検出と、さらには検出した損傷部位およびその損傷度合いを精度高く測定できる、導電材料製構造物の損傷検出方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、導電材料製構造物、とくに鋼構造物に生じる損傷を非破壊的に、しかも高精度で検出できる電位差法に着目し、装置等の操業を停止しなければ接近できない該導電材料製構造物の領域に発生する損傷を、電位差法を利用し、装置等の操業を停止することなく、簡便に検知でき、しかもその損傷度合いを、精度高く検出する方策について鋭意研究した。
【0010】
その結果、電位差測定用端子を所定の間隔で隔離して、被測定領域を囲んで配置することに想到した。すなわち、まず、特定方向に電流を供給しながら、該特定方向に、被測定領域を挟んで相対する端子間に生じる電位差を測定し、しかるのちに前記特定方向とは異なる方向に電流を供給しながら、該異なる方向に、被測定領域を挟んで相対する端子間に生じる電位差を測定する方法を思い付いた。これにより、電位差測定端子を設置することができない被測定領域内においても、電位差法を用いて、被測定領域内の損傷発生領域を特定できる。また、電位差測定用端子の設置間隔を狭くすることにより、さらに精度よく損傷発生領域を特定できる。
【0011】
まず、本発明の基礎となった実験結果について、説明する。
図1に示す一点鎖線で囲まれる領域を被測定領域とする試験板(板厚6mm)について試験を行った。なお、試験板は、SCCによる損傷を被測定領域内に含んでいる鋼板である。図1に示すように、実験板の表面に、複数(32個)の電位差測定用端子No.1〜No.32を、隣接する端子同士が所定の間隔で離間し被測定領域を囲むように配置した。なお、これら複数の電位差測定用端子を挟み、異なる二方向に電流が印加できるように、電極110A,110Aおよび110B,110Bを設置している。
【0012】
まず、電流(直流)を電極110A,110A間に供給し、被測定領域を挟んで相対する端子間、例えば端子ペアーNo.1〜2、No.3〜4、‥‥、No.25〜26間(実線矢印間)に生じる電位差をそれぞれ測定した。ペアーNo.1〜2で最も高い電位差を示し、ペアーNo.3〜4で次に高い電位差を示した。健全な場合に比べ、損傷が存在する近傍では電位差が高くなり、電位差分布が生じるため、ペアーNo.1〜2とNo.3〜4の間に損傷があることが推察される。ついで、電流(直流)を電極110B,110B間に供給し、被測定領域を挟んで相対する端子間、例えば端子ペアーNo.3〜16、No.4〜15、‥‥、No.31〜32間(点線矢印間)に生じる電位差を同様にそれぞれ測定した。ペアーNo.31〜32で最も高い電位差を示し、ペアーNo.14〜25で次に高い電位差を示した。ペアーNo.31〜32とペアーNo.14〜25の間に損傷があることが推定された。
【0013】
得られた2回の測定結果を組み合わせ、連立方程式として数値解析して、異なる二方向で測定した端子ペアー間に引かれる各線分で囲まれる領域ごとの電位差分布を求め、健全状態での電位差分布との比較から、各領域における電位差変化率を得て、被測定領域の電位差変化率分布とした。得られた結果を図2に示す。各領域における棒の高さが電位差変化率を示し、棒の高さが高いほど電位差変化率が大きいことを表す。電位差変化率が最も高い領域をハッチングした。この電位差変化率をマスターカーブと照合することにより、SCCの深さを6mmと推定した。さらに、該試験板について、浸透探傷試験および超音波検査を行い、これら領域に貫通したSCCが発生していることを確認した。
【0014】
このように、被測定領域を取り囲むように(被測定領域の周りに)測定用端子を設置し、被測定領域を挟んで相対する端子間に生じる電位差を、異なる二方向でそれぞれ測定し、測定した各測定用端子間に引かれる線分で囲まれる(交差する各線分で囲まれる)領域ごとの電位差分布(電位差変化率分布)をもとめることにより、被測定領域内に測定端子を設置することなく、被測定領域内に生じた損傷部位を特定ができることを知見した。
【0015】
本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)被測定物である、導電材料製構造物表面に複数の電位差測定用端子を隔離して配置し、該複数の電位差測定用端子を挟んで設けられた一対の電極を介して該導電材料製構造物に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子間に生じる電位差を測定して導電材料製構造物に発生する損傷を検出する導電材料製構造物の損傷検出方法であって、前記複数の電位差測定用端子を所定の間隔で隔離して、前記導電材料製構造物の被測定領域を囲んで配置するとともに、前記一対の電極を介して前記導電材料製構造物の特定方向に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子の前記被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第一の工程と、前記一対の電極とは別に前記複数の電位差測定用端子を挟んで設けられる他の一対の電極を介し、前記導電材料製構造物の特定方向とは異なる方向に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子の前記被測定領域を挟んで相対する各電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第二の工程とを順次行い、得られた各電位差測定用端子間の電位差から前記被測定領域における電位差分布を求め、前記被測定領域における損傷状態を評価することを特徴とする導電材料製構造物の損傷検出方法。
【0016】
(2)(1)において、前記被測定領域における電位差分布に代えて、該被測定領域における電位差変化率分布を用いて、損傷状態を評価することを特徴とする導電材料製構造物の損傷検出方法。
(3)(1)または(2)のいずれかにおいて、前記電位差測定端子が、前記導電材料製構造物表面に固定可能な固定部と電位差を測定するセンサー部とからなり、該センサー部が前記固定部に設けられたセンサー部保持用穴に着脱自在に保持されることを特徴とする導電材料製構造物の損傷検出方法。
【0017】
(4)(3)において、前記センサー部が、伸縮可能に形成されたセンシングピンと該センシングピンと電気的に導通した接続端子と、それらを一体的に保持する保持部とからなり、該保持部は前記センサー部保持用穴に脱着可能で、かつ該保持部の長さ方向の所定の位置に、長さ方向と垂直な方向に少なくとも1条の溝を有することを特徴とする導電材料製構造物の損傷検出方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば使用中の石油、化学物質等の貯蔵タンクのような、定期的に操業を停止しなければ検査することができない、装置等の実導電材料製構造物に生じる損傷を非破壊的に、しかも装置等の操業を停止することなく、簡便に検出でき、実構造物における損傷の発生場所および損傷度合いを高い精度で検出でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、必要に応じて検出精度を調整できるため、可能な限り少ない設備と少ない労力で、所望の情報を確保することができ、実構造物の安全性の確認が容易にできるという効果もある。また、本発明によれば、被測定領域の大きさにはとくに関係なく、損傷の検出が可能であるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で使用する損傷検出のための損傷検出用装置は、とくに限定する必要はないが、図3(a)に示すように、電源100と、電源100から被測定物Wに電流を印加するための一対の電極110、110と、複数の電位差測定用端子200i,200j,‥‥と、電位差測定手段300と、演算手段400と、データ保存手段500と、あるいはさらに表示手段(図示せず)を有する装置とすることが好ましい。
【0020】
演算手段400は、電位差測定手段300により測定された各電位差測定用端子間の電位差を入力データとして各種演算を実行し、各電位差測定用端子間の電位差の変化量、電位差変化率およびそれらの分布を算出し、表示手段(図示せず)に出力し、各種の帳票作成を遂行できるようにすることが好ましい。演算手段は、上記した演算が遂行できるものであればよく、その種類はとくに限定されない。
【0021】
本発明では、被測定物Wである、導電材料製構造物表面に、被測定領域を囲んで、複数の電位差測定用端子i,j,k‥‥を所定の間隔で隔離して配置する(図3(b))。なお、配置の間隔は、測定目的に応じて適宜変化できることは言うまでもない。例えば、損傷部位のスクリーニングを目的とするのであれば、広い間隔でよく、さらに損傷部位を詳しく特定するのであれば、狭い間隔とすればよい。また、予め、狭い間隔に離間して電位差測定用端子を配置し、使用する電位差測定用端子を目的に応じて適宜選択してもよいことは言うまでもない。
【0022】
なお、電位差測定用端子200は、被測定物表面に、圧接、溶接、圧着、接着等の接合手段で、接合、配設してもよいが、測定の簡便さ、測定条件の均一性の観点から、センサー部が着脱自在な電位差測定用端子とすることが好ましい。
着脱自在な電位差測定用端子200としては、図4(a)、(b)に示すように、固定部201とセンサー部202とからなる構成の端子とすることが好ましい。固定部201は、接着等の方法で構造物表面に固定される。そのため、図4(a)に示すように、下面側は、構造物表面に固定可能なように、構造物表面の形状に合致した形状とすることが固定強度を高める観点から好ましい。また、固定部201の中央部付近には、センサー部保持用穴201aが設けられる。なお、センサー部保持用穴201aを複数設け、センサー部を複数保持可能な固定部201としてもよい。センサー部保持用穴201aは、センサー部202を着脱自在に挿入、保持する。センサー部202は測定時だけ固定部に装着させ、それ以外は外しておくことができる。なお、固定部201には、ねじ孔201bを設けることが好ましい。ねじ孔201bには、保持固定用ピンが螺入されセンサー部の位置を所定の位置に一定に保持する。ねじ孔201bは、センサー部保持用穴201aと垂直な方向で該センサー部保持用穴201aに連通するように設けられることは言うまでもない。なお、固定部は、装置等の導電材料製構造物における被測定部の環境に合致した材料で構成する必要があるが、所望の形状に容易に製造できる簡便さの観点から樹脂(プラスチックス)製とすることが好ましい。なお、高温に晒される環境下で測定する場合は耐熱性を有する樹脂(プラスチックス)製とすることは言うまでもない。
【0023】
なお、保持固定用ピン201cは、長手方向にねじ孔201bに螺合するねじを螺設され、さらに先端部201dに鋼球(硬球)を配しさらにばね等を内蔵して伸縮可能に構成されることが好ましく、これにより、センサー部202を着脱容易に保持固定できる。なお、保持固定用ピン201dの後端部には、ねじ込み用の工具を挿入可能とする孔を設けることはいうまでもない。
【0024】
また、センサー部202は、図4(b)に示すように、センシングピン202aと、接続端子202bと、保持部202cとからなる構成とすることが好ましい。センシングピン202aは、銅、鋼等の導電性材料(表面に金めっき等のめっきを施してもよい)からなり、ばね等を内蔵し伸縮可能に形成され、測定位置におけるセンシングピン202aと構造物表面との接触状態を一定にすることが好ましい。なお、センシングピン202aの先端は、接触抵抗が変化しないように、複数の突起状を呈する形状とすることが好ましい。また、接続端子202bは、電位差測定手段と接続するための端子であり、センシングピン202aと電気導通を有し、センシングピン202aで得た各電位差測定端子における電位差を測定可能とする。また、保持部202cは、センシングピン202aと接続端子202bとを一体的に保持する。保持部202cには、長さ方向に、該長さ方向と垂直な方向に少なくとも1条の溝202dを有する。この溝202dと、固定部に付設されたねじ孔に螺入された保持固定用ピン先端部の鋼球(硬球)とにより、センサー部202を固定部201に、着脱自在に保持固定することができる。
【0025】
そして、本発明では、図3(b)に示すように、被測定領域を囲んで配設された複数の電位差測定用端子を挟んで、構造物の特定方向に電流を供給できるように、まず、一対の電極110A,110Aを溶接等の接合手段で配設する。また、前記した特定の方向と異なる方向に電流を供給できるように、他の一対の電極110B,110Bを同様に配設する。なお、一対の電極110A,110A 、110B,110Bには、それぞれ電流供給用電線が配線され、電源100から電流が供給可能とされる。
【0026】
また、本発明で使用する損傷検出用装置では、電源100から供給される電流は、交流又は直流いずれでもよいが、測定精度を考慮して直流とすることが好ましく、さらに発熱を考慮してパルス電流とすることがより好ましい。
配設された複数の電位差測定用端子200i、200j、…には、電位差測定用リード線を介して電位差測定手段300の測定端が接続される。電位差測定用リード線の材質は使用環境において使い分けることが好ましい。電位差測定手段300は、測定する一対の端子間に接続され、それら端子間の電位差を測定する。該端子間の電位差測定が終了したのち、ついで接続する端子を切り替えて、異なる一対の端子間の電位差を測定する。電位差測定手段300の測定端の切替は、切替スイッチ等の切替手段(図示せず)により手動あるいは予めプログラムされた順序に従って自動的に切り替えることが好ましい。
【0027】
本発明では、まず構造物表面の特定方向に、例えば図3(b)に示す電極110A,110A間に、電流を供給する。そして電流を供給しながら、特定方向に被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間、例えばi−j間、k−q間、r−l間等に生じる電位差を測定する第一の工程を行う。
ついで、前記特定方向とは、異なる方向に、例えば図3(b)に示す電極110B,110B間に、電流を供給する。そして同様に電流を供給しながら、特定方向と異なる方向に、被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間、例えばm−p間、o−n間、k−r間等に生じる電位差を測定する第二の工程を行う。
【0028】
得られた2回の各電位差測定用端子間の電位差測定結果、および健全状態での電位差測定結果とを組み合わせ、例えば次式
V′rl=a′Vrl…(1)、
V′ij=b′Vij…(2)、
V′kq=c′Vkq…(3)、
V′rk=aVrk…(4)、
V′pm=bVpm…(5)、
V′no=cVno…(6)、
a、b、c、a′、b′、c′:定数
V′:測定時の各測定用端子間の電位差
V:健全状態での各測定用端子間の電位差
で示される連立方程式として数値解析して、測定用端子間を結ぶ異なる二方向の各線分(交差する線分)で囲まれる領域ごとの電位差分布を求める。さらに、得られた電位差分布と、健全状態における電位差分布との比較から、被測定領域における電位差変化率分布を算出する。
【0029】
なお、健全状態における電位差分布は、構造物の使用開始前または使用開始時に予め、前記した第一の工程および第二の工程を同様に順次行って、得られた電位差測定結果を用いて上記したと同様な方法で算出することにより求められることができる。なお、予め、構造物の使用開始前または使用開始時に、被測定領域についての電位差測定が行なえなかった場合には、全く損傷が生じていない場合を仮定して、当該被測定領域についての電場解析を行い、得られた電位差分布を健全状態の電位差分布として用いても良い。なお、この場合の電場解析は、例えば有限要素法によることが好ましい。
【0030】
また、これとは別に、予め、電位差変化率と損傷の程度(例えば、き裂深さ)の相関関係をマスターカーブとして求めておけば、各領域で得られた電位差変化率を用い、マスターカーブから、各領域での損傷の程度を推定することもできる。電位差変化率と損傷の程度との関係は、予め損傷の程度を変化した試験片について電位差を測定して求めてもよく、あるいは種々の損傷を仮定し、電場解析を用いて求めてもよい。
【実施例】
【0031】
被測定物として、使用済みの化学物質貯蔵タンクの底板から切り出した試験板(大きさ:肉厚 6mm×600mm×500mm)を用いて、該試験板の表面に、図5に示す円形の被測定領域を囲むように、複数(28個)の電位差測定用端子を配置した。なお、電位差測定用端子は着脱自在のものとした。また、電流印加用の電極は、被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間の、特定方向とそれに直交する方向に電流を印加できるように、電位差測定用端子を挟んで二対、110A,110Aおよび110B,110Bを配設した。
【0032】
そして、まず、電極110A,110A間に、電流(直流パルス:パルス高さ30A,パルス時間2s)を印加し、電流差測定手段として直流電位差計を使用して、電流印加方向で相対する各電位差測定用端子間をペアーとして各ペアーの電位差を測定した。なお、各測定用端子には予め測定用リード線が取り付けられ、切替スイッチにより切替可能に設定されることはいうまでもない。
【0033】
ついで、電極110B,110B間に、上記したと同様の電流を印加し、電流印加方向で相対する各電位差測定用端子間をペアーとして各ペアーの電位差を測定した。
電極A,Aの方向および電極B,Bの方向の、二方向についての電位差測定結果および健全状態での電位差測定結果とを組み合せ、連立方程式により、各ペアー間に引かれた線分で囲まれる領域の電位差分布を求めた。一方、損傷が全くない状態を仮定して電場解析を行い、健全状態の電位差分布を算出した。健全状態の電位差分布と、測定した電位差分布との比較から、被測定領域における電位差変化率分布を算出し、図6に示す。
【0034】
図6のハッチングした領域が電位差変化率が最も大きい領域であり、予め求めておいたマスターカーブと対比し、損傷が亀裂と仮定すると深さ6mm程度の亀裂が存在すると推察された。また、試験板について浸透探傷試験および超音波検査を行った結果、これら領域に損傷(亀裂)が存在することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試験板における電位差測定用端子の配置と、電位差測定の端子の組合せ(端子ペアー)を模式的に示す説明図である。
【図2】図1に示す被測定領域内の電位差変化率分布を示すグラフである。
【図3】(a)本発明において使用する損傷検出のための損傷検出用装置の構成の一例を模式的に示す説明図、(b)本発明において使用する使用する電位差測定用端子、電極の配置の一例を模式的に示す説明図である。
【図4】着脱自在の電位差測定用端子を構成する、(a)固定部,(b)センサー部の構成の一例を模式的に示す説明図である。
【図5】実施例において使用した試験板と、電位差測定用端子および電極の配置を示す説明図である。
【図6】実施例において使用した試験板の被測定領域内の電位差変化率分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
100 電源
110,110A,110B 電極
200 電位差測定用端子
201 固定部
202 センサー部
300 電位差測定手段
400 演算手段
500 データ保存手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物である、導電材料製構造物表面に複数の電位差測定用端子を隔離して配置し、該複数の電位差測定用端子を挟んで設けられた一対の電極を介して該導電材料製構造物に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子間に生じる電位差を測定して導電材料製構造物に発生する損傷を検出する導電材料製構造物の損傷検出方法であって、
前記複数の電位差測定用端子を所定の間隔で隔離して、前記導電材料製構造物の被測定領域を囲んで配置するとともに、前記一対の電極を介して前記導電材料製構造物の特定方向に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子の前記被測定領域を挟んで相対する電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第一の工程と、
前記一対の電極とは別に前記複数の電位差測定用端子を挟んで設けられる他の一対の電極を介し、前記導電材料製構造物の特定方向とは異なる方向に電流を供給しながら、前記複数の電位差測定用端子の前記被測定領域を挟んで相対する各電位差測定用端子間に生じる電位差を測定する第二の工程とを順次行い、得られた各電位差測定用端子間の電位差から前記被測定領域における電位差分布を求め、前記被測定領域における損傷状態を評価することを特徴とする導電材料製構造物の損傷検出方法。
【請求項2】
前記被測定領域における電位差分布に代えて、該被測定領域における電位差変化率分布を用いて、損傷状態を評価することを特徴とする請求項1に記載の導電材料製構造物の損傷検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−74923(P2009−74923A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244128(P2007−244128)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(503469810)株式会社アトラス (8)
【Fターム(参考)】