説明

小型装飾用アズグロウン人工水晶とその製造方法

【課題】人工水晶育成時に留め金を結晶中に取り込み、かつ、留め金の掛止部が水晶の結晶から露出するようにした外形寸法が5cm未満の小型装飾用アズグロウン人工水晶及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Y軸方向に形成した孔3cに留め具3dを取り付けた所定の形状の種水晶3aを準備する工程と、前記留め具3dを取り付けた複数の種水晶3aをオートクレーブの上部空間内に支持具に係合して吊下・支持する工程と、前記オートクレーブを所定の温度で加熱して前記オートクレーブの下部空間内に格納したラスカを育成溶液で溶解して前記種水晶3aの表面にSiO2分子を析出させて水晶を成長させる工程と、からなり、前記留め具3dの一部が水晶の結晶中に予め取り込まれ、かつ、前記留め具の掛止部が水晶の結晶から露出するようにアズグロウン人工水晶3bを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工水晶育成時に留め金を結晶中に取り込み、かつ、留め金の掛止部が水晶の結晶から露出するようにした小型装飾用アズグロウン人工水晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然水晶や人工水晶を用いた装飾品は、例えば、アメシスト(紫水晶)等からなる指輪あるいはネックレスに見られるように、古くから存在している。これらの装飾品は、必ず、天然石(水晶)や着色人工水晶を研磨加工して製造される。
【0003】
天然水晶は、加工せずにそのまま装飾品として使用されることもあるが、天然のままでは、その形状や大きさが一様でなく、また、品質にも大部バラツキがある。
【0004】
他方、人工水晶は、工業的に利用されるものは、装飾品として通常用いられていない。育成した水晶素板の切断(カット)効率を高めるため、水晶素板の大きさ(長さ)が20cm以上あり、そのため、身に装着する可能性のある装飾品としては、全く不向きであった。上述したように、装飾品として着色人工水晶が製造されているが、水晶を育成したまま(as grown)の状態で、いわゆるアズグロウン人工水晶として使用されることは殆どなく、育成後、所定の形状寸法に、必ず切断・研磨されてから使用されている。
【0005】
さらに、ガラス材料等から水晶の模倣品を加工研磨して製造する場合、研磨加工後に、留め金等を取り付けるための孔等の人為的加工が不可欠となり、その結果、装飾品としての価値や希少性を損なってしまう問題点があった。
【特許文献1】特開2003−104795号公報
【特許文献2】特開平5−279190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、水晶の研磨加工後に留め金等を取り付けるための孔等の加工により生じる装飾品としての価値の低下である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明では、Y軸方向に形成した孔に留め具を取り付けた所定の形状の種水晶を準備する工程と、前記留め具を取り付けた複数の種水晶をオートクレーブの上部空間内に支持具に係合し、または針金にて吊下・支持する工程と、前記オートクレーブを所定の温度で加熱して前記オートクレーブの下部空間内に格納したラスカを育成溶液で溶解して前記種水晶の表面にSiO2分子を析出させて水晶を成長させる工程と、からなる、前記留め具の一部が水晶の結晶中に予め取り込まれ、かつ、前記留め具の掛止部が水晶の結晶から露出したことを特徴とするアズグロウン人工水晶とその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアズグロウン人工水晶とその製造方法によれば、
(i) 育成された人工水晶は、その大きさが5cm未満と携帯し易い大きさなので、携帯ストラップやキーホルダー等の装飾品として使用価値が大である、
(ii) 水晶育成後の加工は一切行わないから、アズグロウン人工水晶の装飾用としての鑑賞性(育成によって生じる透明な自然面、Z面のコブル模様、条線など人工水晶特有の表面形態)や希少価値が得られる、
(iii) 育成により、人工水晶の大きさや品質をそろえることができる、
(iv) 携帯ストラップやキーホルダー等の留め金と容易に連結できる金属製の留め金を水晶結晶中に具備しており、当該留め金は育成後に孔をあけて取り付けることなく、育成時に結晶に取り込まれるように製造されるため、ガラス等による、従来の模倣品と異なり、後天的加工を受けていないという希少価値を持つ、
(v) 留め金は、当該水晶と一体化しており、後付加工品などのように容易に外れたりすることがない、
等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の小型装飾用アズグロウン人工水晶とその製造方法について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
留め具付小型装飾用アズグロウン人工水晶
図1に示すように、本発明の実施例の留め具付小型装飾用アズグロウン人工水晶(以下、単に“アズグロウン人工水晶”という)3bは、携帯電話等のストラップあるいはキーホルダーを着脱自在に取り付ける少なくとも1個以上の留め金3dを、人工水晶の育成後に、アズグロウン人工水晶の所定の個別に孔明け加工して取り付ける(後付加工品)のではなく、人工水晶の育成時に結晶中に取り込み、ストラップ等を取り付ける部分(掛止部)を結晶から一部露出するように構成する。
【0011】
とくに、本発明の実施例のアズグロウン人工水晶3bは、携帯でき、かつ小型装飾用としての機能を持たせるため、その大きさが5cm未満となるように、後述する製造方法に記載するようにして製造する。その結果、携帯、かつ装飾品として十分活用されるようになるとともに、留め具3dが結晶と一体化して取り付けられるので、後付加工品のように留め具3dが水晶体から簡単に外れたりすることがなく、全体としての強度が格段向上するとともに、美感を呈するようになる。
【0012】
本発明に用いるアズグロウン人工水晶3bとして、大きさが5cm未満の透明人工水晶及び着色人工水晶(アメシスト(紫水晶)、シトリン(黄水晶)、ブルークオーツ(青水晶)、黒(煙)水晶、ローズクオーツ(紅水晶)、その他着色人工水晶全般)が利用できる。
【0013】
留め具3dとして、鉄、貴金属等の金属製が好ましいが、育成溶液により溶解しなければ、その他の所定の強度をもつ材料も利用可能である。また、留め具3dの形状は、円形リング状、クリップ状が好ましいが、ストラップ等の保持という目的が達成されればよく、どのような形状であってもよい。
【0014】
また、留め具3dの水晶体への取り付け位置は、人工水晶がY軸方向(図3(a)参照)には殆んど成長しないという特性を利用し、種水晶のY軸方向の端部近傍が好ましい。しかし、水晶結晶の成長量を予め検討して留め具3dの大きさを調整すれば、種水晶上の任意の個所を、取り付け位置として、選定できる。
【0015】
留め具3dを水晶の育成時に結晶中に取り込んだアズグロウン水晶は、図2に示すように、留め具3dにストラップ3fやキーホルダーあるいはタグ3gを取り付けて小型化した携帯用の装飾品として利用できるようになる。
【0016】
また、図4に示すように、単独のアズグロウン人工水晶3bとして利用するだけではなく、図4(a)に示すように、種水晶3aの両端に留め具3dを設けて、各種水晶3a,3aを連結させてからスダレ状に垂下して育成し、育成後に、それらの両端にある留め具3dを別のリング状連結具3eで連結して一体化し、ネックレス様の連続した装飾品を、留め具を取り付ける孔を後加工することなく、製造できる。
【0017】
留め具付アズグロウン人工水晶の製造方法
次に本発明の留め具付アズグロウン人工水晶の製造方法について、図3、図5及び図6に沿って説明する。
【0018】
まず、図3(a)に示すように、種水晶3aのY軸方向の先端近傍にスナップ状の留め具3b(図3(b))を取り付ける孔3cを機械加工により明ける。この孔3cの形状は円孔が好ましいが、その他任意の形状であってもよく、また、その大きさも使用対象により適宜選択できる。この孔3cにスナップ状の留め具3dを取り付けた後(図3(c)参照)、種水晶3aに水晶の結晶を育成して、図3(d)に示す留め具付アズグロウン人工水晶を製造する。
【0019】
ここで、アズグロウン人工水晶の製造に用いる種水晶3aとしては、育成後の大きさが5cm未満、厚さが0.1cm未満になるものを用いる。
【0020】
これにより、種水晶のカット方位は、全ゆる方位が適用可能となる。例えば、rあるいはRカットをカット方位として用いることにより、表面形態がそれぞれ異なる違った鑑賞性をもつ面白い形状の結晶が育成後に得られるようになる。
【0021】
また、種水晶の形状も同様に、図3に示すような板状のものに限らず全ゆる形成のものを用いることができるようになる。例えば、1.5cm径の円形断面のZカット板状または立体形状(棒状)の種水晶を用いることにより六角両頭、両垂型の美しい形状の装飾品としてのアズグロウン人工水晶が得られるようになる。
【0022】
次に、留め具3dを取り付けた水晶の種水晶3aを図5(a)に示すオートクレーブに入れて人工水晶を育成する。
【0023】
この育成法により人工水晶を育成するためのオートクレーブ(金属塔炉)20は、金属製の円筒容器であるオートクレーブ本体21と、このオートクレーブ本体21を密閉するためのオートクレーブ本体21に、ネジ部25aを介して螺合される金属蓋25と、オートクレーブ本体21内を加熱するためのコイルヒーター24とから構成されている。
【0024】
オートクレーブ本体21内部の空間は、バッフル板(対流制御板)22によって上部空間21aと下部空間21bとに区切られている。上部空間21aには、多数の種水晶3aが支持具23aに0.1cm径の針金からなるフック23dを留め金3dに係合することによって吊下して支持されている(図5(b)参照)。
【0025】
一方、下部空間21bには、例えば円筒形でかご状のラスカ容器23bを配置させ、このラスカ容器23b内に人工水晶の原料となるラスカ(屑水晶)30が格納されている。上部空間21aと下部空間21bとは、バッフル板22に多数設けられた貫通孔22aによって連通しており、オートクレーブ本体21の空間内(上部空間21aと下部空間21bとの両空間内)は、例えば水酸化ナトリウム溶液等の育成溶液31によって満たされている。
【0026】
またコイルヒーター24は、上部空間21a内を上部から下部へ向けて例えば300〜350℃の温度勾配をつけて加熱し、さらに、下部空間21b内を同じく例えば360〜400℃の温度勾配をつけて加熱するように構成されている。さらに金属蓋25には、オートクレーブ本体21内の圧力を計測するための圧力計26が備えており、オートクレーブ本体21内を例えば1,500kg〔r〕/cm2程度の圧力に維持するように構成されている。
【0027】
このような構成により、下部空間21bでラスカ30を育成溶液31に溶解させ、上部下部空間21a,21b内の温度差により生じる対流を利用してこの育成溶液31を上昇させ、上部空間21a内で温度低下し過飽和状態となった育成溶液31から種水晶3a表面にSiO2分子を析出させることができる。この結果、種水晶3aの両面の成長領域32a,32bに水晶を成長させた人工水晶3bを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のアズグロウン人工水晶の製造方法は、小型装飾品に限らず、携帯電話器用ストラップ、キーホルダー等製造に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の小型装飾用アズグロウン人工水晶の斜視図である。
【図2】図1に示したアズグロウン人工水晶にストラップ及びタグを取り付けた例を示す斜視図である。
【図3】図1に示したアズグロウン人工水晶の育成に用いる種水晶の平面図(図3(a))、種水晶に設けた孔に取り付ける留め具の平面図(図3(b))、及び人工水晶を育成したアズグロウン人工水晶の斜視図を示す。
【図4】図3に示した種水晶を複数個留め具で連結して連結状(スダレ状)にしたものの平面図(図4(a))、及び複数のアズグロウン人工水晶をリング状連結具で連結してネックレス様にした装飾品の平面図(図4(b))を示す。
【図5】本発明のアズグロウン人工水晶の育成に用いるオートクレーブの縦断面図(図5(a))、及び図5(a)のA矢視部の拡大斜視図(図5(b))を示す図である。
【図6】本発明のアズグロウン人工水晶の育成に用いる種水晶をX,Y及びZ軸方向に沿って配置して見た斜視図(図6(a))、ならびに育成後の人工水晶をX,Y及びZ軸方向に沿って配置して見た斜視図(図6(b))を示す。
【符号の説明】
【0030】
3a 種水晶
3b アズグロウン人工水晶
3c 取り付け孔
3d 留め具
3e 連結具
3f ストラップ
3g キーホルダー(タグ)
20 オートクレーブ
21 オートクレーブ本体
21a 上部空間
21b 下部空間
22 バッフル板
23 支持具
23b ラスカ容器
24 コイルヒーター
26 圧力計
30 ラスカ(屑水晶)
31 育成溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y軸方向に形成した孔に掛止部を有する留め具を取り付けた所定の形状の種水晶を準備する工程と、
前記留め具を取り付けた複数の種水晶をオートクレーブの上部空間内に支持具に係合し、または針金にて吊下・支持する工程と、
前記オートクレーブを所定の温度で加熱して前記オートクレーブの下部空間内に格納したラスカを育成溶液で溶解して前記種水晶の表面にSiO2分子を析出させて水晶を成長させる工程と、
からなる、前記留め具の一部が水晶の結晶中に予め取り込まれ、かつ、前記留め具の掛け部が水晶の結晶から露出したことを特徴とするアズグロウン人工水晶の製造方法。
【請求項2】
前記所定の形状の種水晶が、正方形、長方形を含む多角形あるいは円形の平板からなることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項3】
前記所定の形状の種水晶が、正方形、長方形を含む多角形あるいは円形断面をもつ立体形であることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項4】
前記留め具を取り付けるための任意形状の孔を前記所定の形状の種水晶に設けたことを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項5】
前記留め具の形状が、円形リング状である請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項6】
前記留め具の形状が、クリップ状である請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項7】
前記留め具が、鉄等の卑金属からなることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項8】
前記留め具が、金等の貴金属からなることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項9】
前記アズグロウン人工水晶が、透明人工水晶からなることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項10】
前記アズグロウン人工水晶が、着色人工水晶からなることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の製造方法。
【請求項11】
外形寸法が5cm未満の種水晶を用いて請求項1の製造方法により製造した外形寸法が5cm未満のアズグロウン人工水晶。
【請求項12】
請求項1の製造方法により製造した小型装飾用アズグロウン人工水晶。
【請求項13】
請求項1の製造方法により製造したアズグロウン人工水晶からなる携帯電話等のストラップ。
【請求項14】
請求項1の製造方法により製造したアズグロウン人工水晶からなるキーホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13010(P2009−13010A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176349(P2007−176349)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】