説明

小接合面用パルス通電接合装置

【課題】パルス通電加圧焼結の原理を利用し、接合面の小さな部材同士の接合に適したパルス通電接合装置を提供する。
【解決手段】対の通電電極33、34と、前記通電電極の少なくとも一方を他方に対して相対的に移動する圧力可変の押圧装置40と、前記通電電極にパルス電流を供給する電源装置と、少なくとも前記通電電極間の空間を所望の雰囲気に制御可能なチャンバとを備えた装置であり、前記通電電極の間で互いに接合すべき小接合面を有する部材を接合面を当接させた状態で挟み、前記部材に所望の電圧及び電流のパルス電流を流して前記接合面で仮接合して仮接合体にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス通電焼結法の原理を利用したパルス通電接合接合装置に関し、更に詳細には、薄肉パイプ、チューブ又は小片状チップ(小面積の円形、多角形、その他の形状のチップ)或いは細い棒又は線同士の接合、或いはそれらと大面積の部材との接合のような接合面積の小さな部材の接合をパルス通電焼結の原理を利用して行う接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄肉のパイプの端縁を突き合わせてその突き合わせ端で接合する場合、或いは細い棒、線又は小片状チップの端面を他の部材に接合する場合のように、小接合面を有する部材を互いに接合する従来の方法としては、(1)接合すべき端部を局部的に加熱溶解すると共に溶接補助材も溶解し、それによって溶接補助材を介在させて互いに接合する方法、(2)互いに接合すべき部分の周囲にレーザービーム、電子ビーム等の高エネルギービームを局部的に照射してその部分を局部的に溶解させ、それによって部材を互いに接合する方法及び(3)上記溶接補助材とは異なり接合する部材とは異なる材料でできた蝋材(Cu、Agなどの合金或いはアモルファス金属)を真空雰囲気又は不活性雰囲気で接合面間で溶かして接合する方法等が一般的であった。
【0003】
しかしながら、上記(1)の接合方法では、(a)溶接補助材を使用しなければならない問題、(b)接合すべき部材を局部的に溶解させるため部材の母材に変質が起こる問題、及び(c)互いに接合できる部材の材質に制限がある問題等がある。また、上記(2)の接合方法では、上記(a)のように溶接補助材を必要とする問題はなくなるが、上記(b)及び(c)と同様に接合すべき部材を局部的に溶解させるため部材の母材に変質が起こる問題、及び互いに接合できる部材の材質に制限がある問題があり、更に、(d)接合が周辺部で局部的に行われるため高い接合強度を得ることができない問題がある。更に、(3)の接合方法では上記(a)ないし(c)及び蝋材を介しての接合であるため接合できる部材の材質に制限があるのみならず、十分な耐熱性や接合強度が得られない問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、技術の進歩により様々な機器の開発及びかかる機器の小型化が進むと共に素材の新しい利用分野が開発され、従来では考えられない素材同士の接合が、或いは小接合面積同士又は大面積母材に小片状チップ(小面積の円形、多角形、その他の形状のチップ)のような小さな接合面積で強固に接合されることが要求されるようになってきた。例えば、薄肉の所定長さのステンレスパイプに十分な接合強度で完全密閉シール状に繋ぎ合わせて使用する場合、非磁性材のパイプ、中実棒材(横断面が円形、多角形、その他の形状の棒材)等に同じく薄肉の磁性材のパイプ、中実棒材(横断面が円形、多角形、その他の形状の棒材)等を繋ぎ合わせて使用する場合、タングステンカーバイド、コバルト系超硬材料と鉄系材料とを繋ぎ合わせて使用する場合、或いは銅系の材料と鉄系の材料とを繋ぎ合わせて使用する場合などである。
【0005】
近年パルス電流を流して行うパルス通電加圧焼結(放電プラズマ焼結、放電焼結或いはプラズマ活性化焼結等を含む)の原理を利用して、粉末でなく所定の嵩を有し比較的大きな接合面を有している部材同士を接合させる技術が開発されつつあるが、このパルス通電加圧焼結法を利用した接合装置では材料に比較的大きな圧力を付加した状態で行う必要があったため、例えば、薄肉パイプの端面同士を突き合わせて接合させる場合のように、互いに接合される部材の接合面が小さくて大きな力を加えると部材が座屈する場合には使用できない。このような問題を解決するためには座屈を防止するための外形、中子型或いはジグを使用しなければならない。
しかしながら、型或いはジグを使用する場合には、互いに接合される被接合部材の形状、寸法等が異なるごとにその被接合部材の形状、寸法に合った型或いはジグを用意しなければならず接合作業が繁雑になる問題、型又はジグに通電する必要が生じるため接合時間が長くなりまた消費電力も多くなる問題、それだけ接合コストが高くなる問題等大量生産、実用性については大きな問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、放電プラズマ焼結、放電焼結或いはプラズマ活性化焼結等を含むパルス通電加圧焼結の原理を利用し、しかも接合面の小さな部材同士の接合に適したパルス通電接合方法及びその接合装置を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、被接合部材に対する加圧力を押圧装置により高精度に制御して被接合部材の座屈、屈曲等の発生を阻止できる、大量生産及び実用性の高いパルス通電接合方法及びその接合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の一つの発明は、互いに接合すべき小接合面を有する複数の部材を、所望の雰囲気に保持されたチャンバ内に入れかつ接合面を当接させた状態で対の通電電極により挟み、前記複数の部材に前記対の通電電極を介して所望の電圧及び電流のパルス電流を流して前記接合面で接合する小接合面用パルス通電接合方法において、
通電開始前に所望の第1の押圧力で前記複数の部材を押圧し、
通電開始後前記チャンバ内の温度が前記接合される複数の部材の材質及び寸法によって決まる温度に達した後、前記材質及び寸法によって決まる第2の押圧力で前記複数の部材を押圧し、
前記複数の部材を仮接合して仮接合体にするように構成されている。なお、上記第2の押圧力は適宜変化する可変の押圧力であり得る。
上記小接合面用パルス通電接合方法において、前記第2の押圧力での押圧を、前記部材に加えられる押圧力を常時圧力センサで検出し、フィードバックさせて制御するようにしても良く、また、前記接合面を鏡面に研磨してもよい。また、小接合面用パルス通電接合方法が、更に、前記仮接合された部材を前記部材の材質及び寸法によって決まる温度及び時間により熱処理を施すことを含んでいてもよい。
更にまた、前記小接合面用パルス通電接合方法において、前記熱処理を、前記仮接合に引き続いて前記チャンバ内で前記通電電極により熱処理電流を流して行っても、或いは前記仮接合された複数の仮接合体をまとめて熱処理炉によって行ってもよい。
本願の他の発明は、対の通電電極と、前記対の通電電極の少なくとも一方を他方に対して相対的に移動する圧力可変の押圧装置と、前記通電電極にパルス電流を供給する電源装置と、少なくとも前記通電電極間の空間を所望の雰囲気に制御可能なチャンバとを備え、前記対の通電電極の間で互いに接合すべき小接合面を有する部材を接合面を当接させた状態で挟み、前記部材に所望の電圧及び電流のパルス電流を流して前記接合面で仮接合して仮接合体にする小接合面用パルス通電接合装置において、
前記接合すべき部材に加えられる圧力を検出可能な圧力センサと、
前記圧力センサにより検出した検出値に基づいて前記押圧装置の押圧力を制御可能な制御装置とを備え、
前記制御装置が前記押圧装置による押圧力を、接合すべき部材の材質及び寸法により決まる値でフィードバック制御し、複数の前記部材を座屈、屈曲変形等を起こさせることなく固相拡散接合させて仮接合体にするように構成されている。
上記小接合面用パルス通電接合装置において、前記圧力可変押圧装置が、ボールねじ装置及び前記ボールねじ装置を駆動する微小回転制御可能な電動モータであってもよい。また、前記対の通電電極に前記パルス電流を供給する電源装置が、前記通電電極に熱処理用電流を供給可能であり、前記仮接合後に前記通電電極に前記熱処理用電流を流して前記チャンバ内で熱処理を行っても、或いは、更に、前記仮接合体の熱処理を行う熱処理炉を備えていてもよい。チャンバ内で熱処理を行う場合、通電電極に供給する電流は焼結用の電流と同じ電流でも或いは異なる電流でもよい。また、熱処理炉で行う場合、一つのシステムの中に組み込んでも或いは別個に配置してもよい。なお、接合過程で被接合材料の酸化が問題にならない材質、形状、或いは低温接合可能な場合は、雰囲気制御付きチャンバはなくてもよい。
更にまた、小接合面用パルス通電接合装置が、更に、前記仮接合体を前記熱処理炉に自動的に供給する搬送装置を備えていてもよい。また、TPマガジンから接合装置へ、接合装置から熱処理炉へ、更に熱処理炉から冷却済み又は処理済み接合品用のマガジンへの自動搬送を行う装置を備えていても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明により次のような効果を奏することが可能である。
(イ)薄肉パイプ同士のように接合面積の小さな部材間の接合を固相拡散接合になるパルス通電接合法で相互の部材が全当接面に亘り完全密着シール状態で簡単にしかも座屈、屈曲変形等を起こさせることなくかつ母材並の強度を持った高品位の接合部品の大量生産ができる。
(ロ)従来の接合法では接合できない異種又は同種材質の部材同士を簡単に接合させることができる。
(ハ)台座形状部品を、ブロック状の素材から切削加工(フライス加工、放電加工等)で複雑な形状に削り出すことなく、基板材料に小片の部材をパルス通電接合することで製作できるので、大幅な工程削減、コスト削減ができる。
(ニ)エンドミルの刃先では切削不可能な直角や鋭角をもつ平坦部と突起部分との一体形状やアンダーカット形状でも容易につくることができ、一体部材から切削加工で製造するよりも形状設計の自由度が広がる。
(ホ)固相拡散接合部品が短時間で廉価に簡便に量産が可能となる。
(ヘ)ロー付け品、溶接品に比べて組織的にもまた機械特性的にも信頼度の高い部品をつくることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に図面を参照して本発明による小接合面用パルス通電接合方法を実施する接合装置の実施形態について説明する。
図1ないし図3において、本実施形態による小接合面用パルス通電接合装置(以下単に通電接合装置と呼ぶ)1が示されている。この通電接合装置1は、放電プラズマ焼結、放電焼結或いはプラズマ活性化焼結等を含むパルス通電焼結法の原理を利用するものであるが、通常焼結で使用されるグラファイト製などの焼結型(ダイ、パンチ等)は使用しない。通電接合装置1は、フレーム装置10と、フレーム装置10の中央部(図1において)に関して上下方向(図1において)に移動可能に支持された可動テーブル装置20と、可動テーブル装置20に取り付けられた通電電極装置30の下通電電極組立体31と、可動テーブル装置を上下動させる押圧装置40と、フレーム装置10の上部に取り付けられた通電電極装置30の上通電電極組立体32と、被接合部材の周囲を所望の雰囲気(例えば真空雰囲気或いは不活性ガス雰囲気)にするチャンバを画成するハウジング組立体50と、を備えている。この実施形態の通電接合装置は制御装置60(図3)により全体的な動作の制御が行われ、電源装置70(図3)から接合用の直流パルス電流が供給される。
【0010】
フレーム装置10は、箱状の下フレーム11と、下フレーム11の上部に固定された下支持プレート12と、下支持プレート12に公知の方法で取り付けられた複数(この実施例では下支持プレートの四隅に近接して配置された4本)の支柱13と、支柱13の上端に公知の方法で取り付けられた上支持プレート14とを備えている。下支持プレート12には4個の貫通穴が形成されて、その貫通穴内には軸受け部材121が装着されている。各軸受け部材121内には、可動テーブル装置20の可動テーブル21の四隅に公知の方法で取り付けられていて下方に伸びる案内軸22が滑り可能に挿入されている。したがって、可動テーブル21は案内軸22及び軸受け122によって単に上下方向にのみ移動できるように案内されている。
【0011】
下フレーム11内には押圧装置40が配設固定されている。この押圧装置40は上下方向に所定の長さ伸びる公知の構造及び機能のボールねじ装置41と、ボールねじ装置41の入力軸(図示せず)に入力を与える駆動源としての電動モータ42と、電動モータ42の回転出力をボールねじ装置41に与える伝動機構43とを備えている。電動モータ42は微小の回転角を高精度に制御できるステッピングモータが好ましい。この電動モータ42は制御装置60に接続されていてその制御装置の制御の下で回転を制御されるようになっている。ボールねじ装置41の出力軸411の上端近傍(図1において)にはガイドプレート24が取り付けられ、そのガイドプレート24には可動テーブル21に取り付けられかつ下方に伸びる複数のガイドロッド25が相対移動可能に案内されている。ボールねじ装置41の軸線及び下通電電極組立体31の軸線は装置全体の軸線0−0に一致させてある。可動テーブル21と出力軸411との間には本通電接合装置の動作の制御を行う制御装置60の圧力センサ61が配置されている。この圧力センサ61は公知の構造及び機能を有するものでよい。したがって、押圧装置40によって可動テーブル21に加えられる軸方向押圧力は圧力センサ61によって検出される。ボールねじ装置の出力軸411はガイドプレート及びガイドロッドの作用により回転しないようになっている。
【0012】
可動テーブル21の上面には絶縁性の取り付け板35を介して下通電電極組立体31が可動テーブルに関して絶縁して固定されている。取り付け板35と下通電電極組立体31の下端との固定は複数の公知の止めねじで行われ、取り付け板35は公知の止めねじにより可動テーブル21に固定される。下通電電極組立体31は硬質で靭性を有する材料、例えばステンレスで作られた円柱状の下通電電極33を有している。下通電電極33はケーブル及びスイッチ装置71(図3)を介して電源装置70(図3)に接続可能になっている。スイッチ装置71は電源装置の一部を構成しても良く、本出願人による特願2000−284771号「パルス通電焼結機用通電装置」に示されるスイッチ機構と同様の構造のものでも良い。下通電電極33内には冷却流体を流す冷却通路(図示せず)が形成され、その冷却通路には一対の給排パイプ(図1で1個のみ図示)331を介して冷却流体が循環されるようになっている。取り付け板35は全体が絶縁材料でできていても、或いは金属板の表面に絶縁処理を施したものでもよい。
【0013】
下通電電極33の外側にはハウジング組立体50の下ハウジング部分51が下通電電極33に関して相対的に移動可能に設けられている。下ハウジング部分51は、下通電電極の外周に滑動可能に取り付けられた底壁部材511と、底壁部材に互いに隔ててかつ底壁部材に関して密閉して固定された内周壁部材512及び外周壁部材513と、内及び外周壁部材の上端に固定された環状の端板514とを有している。底壁部材511の下通電電極に対する接触面には公知の構造のシール部材(図示せず)が設けられ、それらの間の隙間を密閉している。底壁部材511には、下支持プレート12の貫通穴に装着された軸受け123に滑動可能に支持された駆動ロッド53が取り付けられている。この駆動ロッドは、ラック及びピニオン装置及びピニオン回転用の電動モータ(図示せず)により駆動されるようになっている。これにより下ハウジング部分51を下通電電極に関して相対的に移動できるようにしている。55は可動テーブルに取り付けられていて下ハウジング部分51の下降を制限するストッパであって、軸線0−0を中心として直径方向の2カ所に設けられている。なお、57は耐熱ガラスでできたのぞき窓である。
【0014】
上支持プレート14の下面には取り付け板36及び絶縁板38を介して下通電電極組立体32が固定されている。絶縁板38と下通電電極組立体32の上端との固定、絶縁板38と取り付け板36との固定並びに取り付け板36と上支持プレート14との固定は、複数の公知の止めねじで行われる。上通電電極組立体32はステンレスで作られた円柱状の上通電電極34を有している。上通電電極34は、ケーブルを介して電源装置70に接続可能になっている。上通電電極33内には冷却流体を流す冷却通路(図示せず)が形成され、その冷却通路には一対の給排パイプ(図1で1個のみ図示)341を介して冷却流体が循環されるようになっている。
【0015】
上通電電極34の外側にはハウジング組立体50の上ハウジング部分52が配設されている。上ハウジング部分52は、下通電電極の外周に公知の方法で密封して取り付けられた頂壁部材521と、頂壁部材521に互いに隔ててかつ底壁部材に関して密閉して固定された内周壁部材522及び外周壁部材523と、内及び外周壁部材の下端に固定された環状の端板524とを有している。頂壁部材521は、上支持プレート14に固定された複数(本実施形態では4個であるが1個のみ図示)の連結ロッド54を介して上支持プレート14に固定されている。56は内周壁部材522及び外周壁部材523に取り付けたパイプであって、図示しない導管を介して真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気にする雰囲気制御装置(図示せず)に接続されている。下ハウジング部分51の端板514の上面及び上ハウジング部分52の端板524の下面の少なくとも一方には環状の溝が形成され、その溝内にはOリングシールが設けられ、両者が合わされたときそれらの間からの空気の漏れを防止し得るようになっている。上ハウジング部分52内には、図3に示されるように、圧力センサ62及び温度センサ63が設けられ、それらの圧力センサ及び温度センサにより下ハウジング部分51と上ハウジング部分52とによって画成されたチャンバC内のガス圧及び温度をそれぞれ検出できるようになっている。圧力センサ62及び温度センサ63は制御装置70に接続され、その検出信号を制御装置に入力できるようになっている。なお、温度フィードバックと組み合わせた圧力制御を行ってもよい。
【0016】
[実施例1]
次に上記の通電接合装置1を使用して図4[A]に示されるような薄肉のパイプM1とM2とを端面を突き合わせた状態で接合する場合について説明する。ここで、パイプM1は非磁性ステンレス(SUS304)製のパイプであり、パイプM2は磁性ステンレス(SUS430)製のパイプであり、いずれも長さL1=30mm、内径d1=8mm、外径d2=10mm、で肉厚はt1=1mmであるものとする。この場合、パイプM1及びM2の互いに接合する端面すなわちパイプM1の上端面M1e及びパイプM2の下端面M2eは全面にわたって均等に接触するよう切削しておく。好ましくは、鏡面に研磨しておく。このように用意しかつ端面を突き合わせた二つのパイプを下通電電極33の上端面上に、例えば、V溝構造の位置合わせ冶具などを用いてセットした後、制御装置60により押圧装置40を動作させて可動テーブル12を上昇させ、下通電電極組立体31と上通電電極組立体32との間でパイプを挟む。この時押圧装置40の押圧力を調整して、初期押圧力を、当接表面がなじみ易いように例えば1ないし3メガパスカルの力で押さえるようにする。この状態で下ハウジング部分51を上昇させて端板514を上ハウジング部分52の端板524に当接させ、ハウジングにより被接合部材であるM1及びM2の周囲に外部から密閉されたチャンバCを画成する。
【0017】
この状態で雰囲気制御装置を動作させてチャンバC内を所望の雰囲気にする。この場合にはチャンバ内を真空引きして真空状態、例えば、約6.7パスカル(Pa)(5×10-2torr)にする。チャンバ内の真空引きが完了した後は、制御装置60の指令によりスイッチ装置71をオンにして電源装置70から上下通電電極組立体を通してパイプM1及びM2に6ないし12ボルト(V)で300ないし800アンペア(A)の直流パルス電流を流す。電流が流れるに従ってパイプは発熱し高温になり、上下は機械的に固定されているため熱膨張により軸方向の歪みが発生し、加圧力は徐々に増大し、そのまま高い押圧力でパイプを軸方向に押圧しているとパイプは座屈する。このためパイプを固定後、押圧装置40によりパイプに加えられる押圧力を、例えば0.5ないし1.0メガパスカル(MP)まで下げ、パルス電流の通電を始める。その後、圧力センサ61からの検出信号に基づき押圧力をフィードバック制御してこの押圧力を保持する。通電加圧軸の送り機構には、パイプの上端面の1〜2mm程度手前まで早送りし、その後端面に当接するまで減速送りするプログラムが組み込まれていても良い。パイプへの通電開始から2〜5分程度の短時間で両パイプは接合されるので、スイッチ装置オフにして通電を停止する。この接合の原理は次の通りである。直流パルス電流を流すと、接触抵抗の高い当接している界面部分がジュール加熱により高温に熱せされる。また、材料自体の抵抗値により全体がジュール加熱される。また、上下一軸加圧力による塑性変形と熱膨張により上下に重ねられた部材の当接界面には高い圧力が発生する。更にon−offパルス電流の流れの方向に沿って電場が生じ、電界拡散が生じる。この電界拡散効果と前述の熱拡散の機械的圧力が固相拡散接合に寄与し金属結晶構造の配向性をもたらすと考えられる。この接合は必ずしも十分な接合強度で行われていないので、ここでは仮接合と呼び、仮接合されたものを仮接合体と呼ぶ。通電を停止した後チャンバを大気圧に戻し、下ハウジング部分を降下させて上下通電電極間に挟まれた仮接合体を取り出せるようにする。その後可動テーブルを降下させて上下通電電極間から仮接合体を取り出し仮接合が完了する。上記の場合は仮接合体を自然冷却により冷却させる場合であるが、強制的に冷却したい場合には、通電停止後チャンバ内に冷却された不活性ガスを供給し、或いは吸熱構造部材を有する冷却ステージを別途設けて冷却してもよい。なお、実施例1は上下に重ねされた部材の場合であるが、内外に同軸円筒重ね合わせ状(バウムクーヘン状或いは同心円状)に複数のパイプ及び中実丸棒を接合してもよい。
【0018】
上記のような薄肉のパイプ同士の接合、径の小さい棒材又は線材同士の接合、或いは棒材、線材又は薄肉パイプと板材との接合のように接合面の面積が小さい場合には大きな力を加えると被接合部材が常温でも座屈、屈曲等が起こり、被接合部材が発熱して高温になるとより小さな押圧力で座屈を起こす。このため、被接合部材の寸法(長さ、外径、肉厚等)及び材質に応じた制御プログラム(押圧力減少開始温度、押圧力、通電時間等を決めた制御プログラム)を予め種々作成しておき、その制御プログラムにしたがって押圧装置40により押圧力の増減フィードバック制御を行う。そして、押圧装置による押圧力は、可能な限りゼロに近い値でも制御できるようにしておく。このようなフィードバック制御のフローチャートを示せば図5に示されるようになる。
【0019】
上記通電接合装置により行われた両パイプの接合は仮接合である。パイプの使用目的によっては仮接合程度の接合強度でも良い場合がある。その場合には、上記仮接合されたパイプM1及びM2を、図4[B]に示される仮接合体M3として通電接合装置から取り出して使用に供する。両パイプの接合を高い接合強度で本接合させる場合には、下記のような条件で熱処理を行う。
熱処理温度 900℃〜1000℃
熱処理時間 30分〜90分
上記熱処理の条件は被接合部材として前記ステンレス鋼製薄肉パイプを仮接合した仮接合体に対するものであり、被接合部材の大きさ、材質等により異なるものである。
【0020】
次に、上記のように仮接合されたパイプM1及びM2(したがってここでは仮接合体M3)を上記通電接合装置を使用して熱処理を行う場合について説明する。仮接合のための通電が終了した後、チャンバC内の真空雰囲気をそのまま保持しておき、或いはチャンバ内に不活性ガスを流して冷却することによりチャンバC内の温度が上記熱処理温度に適した温度まで下がった後、電源装置70から熱処理温度に保つための熱処理用電流すなわち5ないし20ボルトで、500ないし1000アンペアの直流電流を約10〜30分流す。この場合チャンバ内に設けられた温度センサによりチャンバ内の温度が熱処理温度に保たれるように、電流値をフィードバック制御する。この熱処理により両パイプの接合は完全なもの(本接合)になる。熱処理が完了後チャンバC内の冷却(自然冷却でも強制冷却でもよい)を待って下ハウジング部分を降下させかつ可動テーブルを降下させて本接合されたパイプを取り出して使用に供する。通常、熱処理時間が仮接合時間より遙かに長いので、上記のように通電接合装置を使用して熱処理を行うのは効率が悪い。したがって、このような熱処理を行うのは単品、少量生産の場合などに適している。
【0021】
図6において、本発明の通電接合装置の別の実施形態が示されている。この通電接合装置は、熱処理を行う熱処理部80を更に備えている。この熱処理部は市場で入手可能な公知の構造の熱処理炉で良い。この熱処理炉で熱処理する場合は、上記通電接合装置1により仮接合されたパイプが複数個たまったときまとめてバッチ式に熱処理炉に入れて一度に熱処理を行う。このようにするのは、仮接合は数分で行えるのに対して熱処理は数十分かかるので仮接合された仮接合体を複数まとめて熱処理を行うことによって、効率を良くでき、接合品の大量生産に適している。
【0022】
通電接合装置は、更に、仮接合された部材すなわち仮接合体を熱処理部80に自動的に供給する搬送装置90を備えていても良い。この搬送装置は、通電接合装置1の上、下通電電極間から仮接合体を取り出す公知の構造のロボット装置91と、ロボット装置91により取り出された仮接合体を複数個まとめて熱処理部80内に送るコンベヤ92とを備えている。ロボット装置91は、角θの範囲で揺動可能なアーム911と、そのアームの先端に取り付けられたチャック912とを備えている。この別個に設けられた熱処理部に熱処理を行うことにより複数の仮接合体をバッチ式まとめて熱処理できるので効率良く接合できる。したがって、同一品から成る多数の接合体を製造する場合に適している。なお、図示しないが、アーム911の揺動範囲の途中に設けた供給コンベアにより接合すべき部材を上下に重ねた状態で供給し、チャックで把持して自動的に上、下通電電極の間に自動的に供給し、チャックで把持した状態でそれらの通電電極で押圧して押さえるようにしてもよい。
なお、図示しないが、TPマガジンから接合装置へ、接合装置から熱処理炉へ、更に熱処理炉から冷却済み又は処理済み接合品用のマガジンへの自動搬送を行う装置を備えていても良い。
【0023】
[実施例2]
図7[A]に示されるような細い線材N1の端面と板材N2一方の表面とを接合する場合について説明する。ここで、線材N1はモリブデン製で、長さL2=25mm、外径d3=5mmであり、板材N2はタングステン製で、直径d4=30mmで肉厚がt2=5mmの円板であるものとする。この場合、線材N1の端面及び板材N2の表面の互いに当接する部分は均等に接触するよう加工しておく。好ましくは、鏡面に研磨しておく。このように用意しかつ互いに突き合わせた線材及び板材を前記実施例1と同様にして通電接合装置1によりまず仮接合した。その時、初期押圧5メガパスカルの力で上下通電電極により押さえた。
【0024】
この状態で雰囲気制御装置を動作させてチャンバC内を真空引きして真空状態(5×10-2torr)にした後、押圧装置によるプリセット設定圧力を2メガパスカルにし上下通電電極組立体を通して線材及び板材に3ないし12ボルト(V)で200ないし600アンペア(A)の直流パルス電流を流した。電流が流れるに従ってパイプは発熱し高温になったので、非接触式の赤外線放射型温度計で計測した。接合部分の温度が1350℃になるまで押圧力を1〜2メガパスカルの間でフィードバック制御してこの押圧力を保持した。通電開始から5分後に通電を停止した。これにより図7[B]に示されるような線材と板材の仮接合体N3ができあがった。この仮接合体N3を熱処理部80の真空熱処理炉内を使用して熱処理温度1180℃、熱処理時間40〜60分に亘って熱処理を行った。この熱処理により線材と板材の接合は完全なものになった。
なお、上記実施例ではステンレス製薄肉パイプの接合及びモリブデン製線材とタングステン製板材との接合についてのみ説明したが、その他、接合面積の小さな種々の部材の接合に、しかも種々の材質の部材の接合に本発明の方法及び装置を使用することが可能である。例えば、図8[A]に示されるように、基板O1に複数の小径の円柱状又は円筒状チップO2を接合する場合、 図8[B]に示されるように、円板P1に小歯車P2を接合する場合、図8[C]に示されるように、基板Q1にカム部材Q2を接合する場合、図8[D]に示されるように、複数の形状の異なる複数の小形のカムR1ないしR3を隣接して接合する場合、図8[E]に示されるように、ブロック材S1に小部品S2を接合する場合等である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による小接合面用パルス通電接合装置の縦断面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿って見た小接合面用パルス通電接合装置の断面図である。
【図3】図1の小接合面用パルス通電接合装置の電気及び制御系統の接続関係を示すずである。
【図4】図1の小接合面用パルス通電接合装置を使用して接合する第1の実施例の部材及び仮接合体を示す斜視図である。
【図5】図1の小接合面用パルス通電接合装置の押圧力のフィードバック制御を示すフローチャートである。
【図6】本発明の小接合面用パルス通電接合装置の変形例を示す図である。
【図7】図1の小接合面用パルス通電接合装置を使用して接合する第2の実施例の部材及び仮接合体を示す斜視図である。
【図8】小接合面用パルス通電接合装置を使用して接合するその他の例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 パルス通電接合装置
10 フレーム装置 20 可動テーブル装置
21 可動テーブル 30 通電電極装置
31 下通電電極組立体 32 上通電電極組立体
33 下通電電極 34 上通電電極
40 押圧装置 50 ハウジング
51 下ハウジング部分 52 上ハウジング部分
60 制御装置 61 圧力センサ
62 圧力センサ 63 温度センサ
70 電源装置 71 スイッチ装置
80 熱処理部 90 搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対の通電電極と、前記対の通電電極の少なくとも一方を他方に対して相対的に移動する圧力可変の押圧装置と、前記通電電極にパルス電流を供給する電源装置と、少なくとも前記通電電極間の空間を所望の雰囲気に制御可能なチャンバとを備え、前記対の通電電極の間で互いに接合すべき小接合面を有する部材を小接合面を当接させた状態で挟み、前記部材に所望の電圧及び電流のパルス電流を流して前記小接合面で固相拡散接合させて仮接合体にする小接合面用パルス通電接合装置において、
前記接合すべき部材に加えられる圧力を検出可能な圧力センサと、
前記圧力センサにより検出した検出値に基づいて前記押圧装置の押圧力を制御可能な制御装置とを備え、
前記制御装置が前記押圧装置による押圧力を、接合すべき部材の材質及び寸法により決まる値でフィードバック制御し、複数の前記部材を座屈、屈曲変形等を起こさせることなく固相拡散接合させて仮接合体にする小接合面用パルス通電接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の小接合面用パルス通電接合装置において、前記圧力可変押圧装置がボールねじ装置及び前記ボールねじ装置を駆動する微小回転制御可能な電動モータである小接合面用パルス通電接合装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の小接合面用パルス通電接合装置において、前記対の通電電極に前記パルス電流を供給する電源装置が、前記通電電極に熱処理用電流を供給可能であり、前記仮接合後に前記通電電極に前記熱処理用電流を流して前記チャンバ内で熱処理を行う小接合面用パルス通電接合装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の小接合面用パルス通電接合装置において、更に、前記仮接合体の熱処理を行う熱処理炉を備える小接合面用パルス通電接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−253240(P2007−253240A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128257(P2007−128257)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【分割の表示】特願2001−301600(P2001−301600)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】