説明

小断面鋳片の連続鋳造方法

【課題】鋳型−鋳片間の摩擦抵抗を安定して低減し、鋳型への鋳片の焼き付きなどの発生を防止して、安定操業を可能とする小断面鋳片の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】鋳型を上下にオシレーションさせながら湾曲型又は垂直型の連続鋳造機を用いて鋳造する連続鋳造方法であって、鋳片引抜用のピンチロール駆動モータとピンチロールとの間に、弾性体又は弾性体及びダンパを組合せてなり、駆動回転方向及び反駆動回転方向に遊びを有し、その中立位置から駆動方向又は反駆動方向への遊びによる変位量がピンチロール周長に換算して駆動方向に±2〜±30mmであり、中立位置への復帰力を有する引抜速度増減機構を設けることにより、鋳片の引抜速度を、鋳型上昇期には平均引抜速度よりも遅く、かつ鋳型下降期には速くするとともに、鋳片長さ、二次冷却比水量、鋳造速度、オシレーション振幅及び振動数を適正化した小断面鋳片の連続鋳造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗を軽減することにより焼き付きなどの発生を防止し、安定操業を可能とする小断面鋳片の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造において鋳型内の潤滑性を高める技術として、鋳型オシレーション方法の様々な工夫がなされてきた。例えば、特許文献1や特許文献2においては、鋳型オシレーションにおける鋳型の上昇速度が下降速度に比べて小さい非サイン振動波形を用いる方法が、また、特許文献3においては、鋼種毎に設定された適正なネガティブストリップ時間に保つように鋳型の振動数または振幅を制御する振動方法が開示されている。さらに、特許文献4には、鋳型オシレーションの上昇期に40mm/s以上の急勾配の波形を有する振動方法が、また、特許文献5には、鋳型オシレーションの振動数を一定範囲に保った上で鋳造速度の上昇に応じてオシレーション振幅を増大させる方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、上記に提案された発明は、何れも鋳型のオシレーション方法に関する工夫に限られていることから、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の低減効果については自ずと限界があった。
【0004】
この問題に関して、本発明者は、特許文献6において、上記のオシレーションのみによる潤滑性の改善に代わる技術として、連続鋳造機のピンチロール駆動系に組み込まれた遊びを有する機構を用いることによって、鋳型の上昇時の引抜速度を小さくし、かつ鋳型の下降時の引抜速度を大きくして、鋳型内における鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗を低減することのできる連続鋳造機を提案した。同文献に開示された連続鋳造機を使用することにより、上記摩擦抵抗は大幅に低減されたが、その効果を安定して発揮するためには、なお技術改善の余地があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−20653号公報(特許請求の範囲および3頁右下欄9行〜4頁右上欄19行)
【特許文献2】特開昭60−87955号公報(特許請求の範囲および2頁左下欄10行〜同右下欄7行)
【特許文献3】特開平6−15425号公報(特許請求の範囲および段落[0007])
【特許文献4】特開平8−19845号公報(特許請求の範囲および段落[0009])
【特許文献5】特開平8−187562号公報(特許請求の範囲、段落[0016]および[0017])
【特許文献6】特許第3298586号公報(特許請求の範囲、段落[0005])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の低減に関するその後の技術開発により明らかとなった事項を踏まえて、前記特許文献6に記載の発明の効果をさらに安定して発揮することのできる小断面鋳片の連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を解決するために、前記特許文献6に開示した発明の効果をさらに安定して発揮することのできる小断面鋳片の連続鋳造方法について研究開発を進め、下記の(a)〜(g)の知見を得て、本発明を完成させた。
【0008】
(a)特許文献6に記載された鋳片の引抜速度増減機構は、湾曲型または垂直型連続鋳造機による連続鋳造方法の実施に適用するのが適切である。上記の鋳造機に適用した場合には、鋳片の曲げ部における摩擦抵抗が小さく、鋳型のオシレーションに伴う鋳片の動きが下流側のピンチロールに伝達されやすいからである。
【0009】
(b)鋳片の引抜速度が、鋳型の上昇期には平均引抜速度よりも遅く、鋳型の下降期には平均引抜速度よりも速くなる速度増減機構を用いることにより、鋳型と鋳片との摩擦抵抗の最大値を低減することができる。その理由は、上記の摩擦抵抗は、鋳型と鋳片との相対速度(速度差)が大きくなる鋳型の上昇期に大きくなり、相対速度が小さくなる鋳型の下降期に小さくなるので、鋳型の上昇期に鋳片の引抜速度を低下させ、鋳型の下降期に同引抜速度を上昇させることにより、摩擦抵抗の最大値を低減することができるからである。
【0010】
(c)上記(b)の速度増減機構としては、指示された引抜速度に対応した速度によりピンチロールを駆動回転させるモータとピンチロールとの間に、弾性体または弾性体およびダンパを組み合わせてなり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有する機構を設けるのが適切である。機構が簡単であり、かつコンパクトな設計が可能なためである。
【0011】
(d)上記(c)の速度増減機構は、遊びの中立位置から鋳片駆動方向または反駆動方向への遊びによる変位量がピンチロールの周長に換算して駆動方向に2〜30mmおよび反駆動方向に2〜30mmであり、中立位置からの遊びによる変位量の増加にともなって中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有する機構が適切である。
【0012】
(e)鋳造対象とする鋳片の断面積は700mm2以下とし、かつ、鋳型内のメニスカスから鋳片の切断位置までの鋳片の長さは50m以下とする必要がある。鋳片の断面積または鋳片の長さが上記の値を超えて大きくなると、鋳型からピンチロールまでの鋳片の質量が大きくなり、鋳型内の摩擦抵抗が鋳片の慣性に対して相対的に小さくなって、本発明の効果を発揮することが困難となるからである。
【0013】
(f)鋳片の二次冷却水量は0.8リットル(L)/kg−steel以下とし、鋳造速度は1.5m/min以上とする必要がある。二次冷却比水量または鋳造速度が上記の範囲外になると、鋳型からピンチロールまでの鋳片の平均温度が低下し、鋳片の弾性的な伸縮が小さくなるので、上記(a)〜(d)に記載の増減機構を設けるだけでは、鋳型内摩擦抵抗を十分に抑制することができないからである。
【0014】
(g)オシレーションの振幅は±1.5〜±4.0mmとする必要がある。モールドパウダーなどの潤滑剤の流入促進効果を確保し、かつ、引抜速度の無用な変動を防止するためである。また、オシレーションの振動数は450cpm(サイクル/分)以下とする必要がある。鋳片の動きをオシレーションに追随させるためである。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の連続鋳造方法にある。すなわち、
「鋳型を上下にオシレーションさせながら湾曲型または垂直型の連続鋳造機を用いて鋳片の横断面積が700cm2以下の鋳片を鋳造する連続鋳造方法であって、指示された引抜速度に対応した速度でピンチロールを駆動するモータと鋳片を引き抜きまたは保持するピンチロールとの間に、弾性体または弾性体およびダンパを組み合わせてなり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有し、遊びの中立位置から鋳片駆動方向または反駆動方向への遊びによる変位量がピンチロールの周長に換算して駆動方向に2〜30mmおよび反駆動方向に2〜30mmであり、該中立位置からの遊びによる変位量の増加にともなって中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有する引抜速度増減機構を設け、該モータの駆動回転を該引抜速度増減機構を介してピンチロールに伝達することにより、鋳片の引抜速度を、オシレーションにおける鋳型の上昇期には平均引抜速度よりも遅く、かつ鋳型の下降期には平均引抜速度よりも速くするとともに、鋳型内のメニスカスから鋳片の切断位置までの鋳片の長さを50m以下とし、鋳片の二次冷却の比水量を0.8リットル/kg−steel以下とし、鋳造速度を1.5m/min以上とし、オシレーション振幅を±1.5〜±4.0mmおよびオシレーション振動数を450cpm以下とすることを特徴とする小断面鋳片の連続鋳造方法」にある。
【0016】
本発明において、「指示された引抜速度」とは、連続鋳造の操業諸元に基づいて定められる鋳片の平均的な引抜速度を意味する。
【0017】
「弾性体」とは、外力の作用によって変形したとき、その内部に応力を発生し、かつ外力を除去すると元の形状に戻る性質を有する物体を意味する。例えば、コイルバネや板バネなどのバネ、天然ゴムや合成ゴムなどのゴム、などが該当する。
【0018】
「遊びの中立位置」とは、遊びの許容範囲のうちで、弾性体による反力がモータの駆動回転方向および反駆動回転方向のいずれに対しても零(0)である位置を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、鋳型を上下にオシレーションさせる連続鋳造方法において、ピンチロールの駆動モータとピンチロールとの間に駆動回転方向および反駆動回転方向に規定範囲内の遊びを有する引抜速度増減機構を設けるとともに、鋳片断面積、メニスカスから鋳片切断位置までの鋳片長さ、鋳片の二次冷却比水量、鋳造速度、オシレーション振幅および同振動数を適正化したことにより、鋳片の引抜速度を、鋳型上昇時には平均引抜速度よりも小さく、かつ鋳型下降時には平均引抜速度よりも大きくして、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗を安定して低減することができる。これにより、鋳型への鋳片の焼き付きの発生などを防止し、安定した連続鋳造操業を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.発明の基本構成
本発明は、前記のとおり、鋳型を上下にオシレーションさせる湾曲型または垂直型の連続鋳造機を用いて鋳片の断面積が700cm2以下の鋳片を鋳造する連続鋳造法であって、指示された引抜速度に対応した速度でピンチロールを駆動するモータとピンチロールとの間に、弾性体または弾性体およびダンパを組み合わせてなり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有し、遊びの中立位置から鋳片駆動方向または反駆動方向への遊びによる変位量がピンチロールの周長に換算して駆動方向に2〜30mmおよび反駆動方向に2〜30mmであり、中立位置からの遊びによる変位量の増加にともなって中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有する引抜速度増減機構を設け、モータの駆動回転を引抜速度増減機構を介してピンチロールに伝達することにより、鋳片の引抜速度を、鋳型の上昇期には平均引抜速度よりも遅く、かつ鋳型の下降期には平均引抜速度よりも速くするとともに、メニスカスから鋳片の切断位置までの鋳片の長さを50m以下とし、鋳片の二次冷却比水量を0.8L/kg−steel以下とし、鋳造速度を1.5m/min以上とし、オシレーション振幅を±1.5〜±4.0mmおよび同振動数を450cpm以下とする小断面鋳片の連続鋳造方法である。以下に、本発明の内容について、さらに詳細に説明する。
【0021】
図1は、湾曲型連続鋳造機を用いて本発明の連続鋳造方法を実施する例を模式的に示す図である。タンディッシュ1内に収容された溶鋼2は、浸漬ノズル3を経て、上下方向にオシレーション運動をする鋳型4内に注入され、鋳型内冷却水およびその下方の図示しない二次冷却スプレーノズル群から噴射されるスプレー水により冷却され、凝固シェル5を形成して鋳片6となる。鋳片6は、駆動回転するピンチロール7により、同図中のXにより示される方向に引き抜かれ、鋳片切断装置(切断用トーチ)9により切断される。
【0022】
ピンチロール7は、ピンチロール駆動機構8から伝えられる駆動力により駆動回転し、鋳片8を引き抜く。ここで、ピンチロール駆動機構8は、指示された引抜速度に対応した速度によりピンチロール7を駆動回転させるモータと、そのモータとピンチロールとの間に、弾性体または弾性体およびダンパが組み合わされてなり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有する引抜速度増減機構とを備えている。
【0023】
この引抜速度増減機構は、前記のとおり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有し、遊びの中立位置からの遊びによる変位の増加にともなって中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有する。したがって、その作用の結果として、鋳型のオシレーションに基づく鋳型4の上昇または下降にともなって増加または減少する鋳片8の引抜抵抗の変化に応じて、ピンチロール7による鋳片8の引抜速度は、受動的に減速または増速されることとなる。
図2は、鋳型オシレーションの例を示す図である。鋳型4の上昇期には、鋳型4は上向きに変位し、中立位置(基準位置)を経てさらに上方の最高高さaの位置まで上昇し、鋳型4の下降期には、下向きに変位して中立位置を経てさらに下方の最低高さ−aの位置まで下降する。鋳型4はこのように周期的にオシレーション運動を行う。
【0024】
図3に、鋳型オシレーションと鋳片引抜速度との関係の例を示す。同図において、「鋳片の平均引抜速度、すなわち平均鋳造速度」は、操業条件から定められた前記の「指示された引抜速度」であり、同図中に示されたとおり下向きの速度である。
【0025】
鋳型4の上昇または下降にともなう同図中の「鋳型オシレーション速度」の増加または減少に起因して、鋳型4と鋳片6(詳しくは凝固シェル5)との間の摩擦抵抗が変化し、鋳片6の引抜抵抗が増加または減少するので、この変化が鋳片6を伝播してピンチロール7に伝達され、ピンチロール7の回転速度が受動的に減速または増速される。その結果、実際の鋳片引抜速度は、同図中に示された「本発明による鋳片引抜速度の増減例」の曲線のように、鋳型上昇時には平均引抜速度よりも小さく、かつ鋳型下降時には平均引抜速度よりも大きくなる。このようにして、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗を安定して低減することができるのである。
【0026】
2.構成要件の規定理由および好ましい態様
2−1.鋳造機の形式
本発明は、鋳型を上下にオシレーションさせる一般的な連続鋳造において、鋳片の断面積が比較的小さく、鋳造速度が比較的大きな連続鋳造操業に適用される。
【0027】
本発明の方法を実施するための連続鋳造機の形式を、湾曲型または垂直型の連続鋳造機に限定した理由は、垂直曲げ型の連続鋳造機の場合には、曲げ部における摩擦抵抗が大きく、鋳型のオシレーションにともなう鋳片の動きがピンチロールにまで伝達されにくいからである。
【0028】
2−2.鋳片引抜速度の適正パターン
鋳片の引抜速度が、オシレーションにおける鋳型の上昇期には平均引抜速度よりも遅く、鋳型の下降期には平均引抜速度よりも速くなるパターンとすることにより、鋳型と鋳片との摩擦抵抗の最大値を低減することができる。本発明者の知見によれば、鋳型と鋳片との摩擦抵抗は、両者の速度差(相対速度)に依存する。すなわち、摩擦抵抗は、両者の相対速度が大きくなる鋳型の上昇期に大きくなり、両者の相対速度が小さくなる鋳型の下降期に小さくなる。それ故、鋳型の上昇期に鋳片の引抜速度を低下させ、鋳型の下降期に鋳片の引抜速度を増大させることによって、鋳型と鋳片との摩擦抵抗を平準化し、鋳型と鋳片との摩擦抵抗の最大値を低下させることができる。
【0029】
鋳型と鋳片との相対速度にのみ着目するならば、オシレーションの振幅または振動数を低減してオシレーションの速度を低下させれば、上記と同様の効果が得られるはずである。しかしながら、単に、オシレーションの振幅や振動数を低下させるだけでは、オシレーションの本質的な作用である、鋳型4と鋳片6(詳しくは凝固シェル5)との間へのモールドパウダーなどの潤滑剤の流入促進効果を減じ、鋳型内の摩擦抵抗をかえって増大させることになる。
【0030】
これに対して、本発明の方法を採用すれば、鋳型内の摩擦抵抗は安定的に、かつ確実に低下する。これは、鋳片の引抜速度が変動することによって、モールドパウダーなどの潤滑剤の流入が促進されることによるものと推察される。
【0031】
2−3.鋳片引抜速度の増減機構および遊びの大きさ
本発明において、鋳片の引抜速度を、鋳片の上昇期および下降期において減少および増加させる機構としては、指示された引抜速度に対応した速度によりピンチロール7を駆動回転させるモータと、鋳片6を引抜きまたは保持するピンチロール7との間に、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを設けた機構とするのが適切である。その理由は、複雑な制御を行う必要がなく、しかも、簡単でかつコンパクトな設計が可能だからである。
【0032】
さらに、この機構は、遊びの中立位置からの、遊びによる変位量が大きくなるほど、中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有することが必要である。引抜速度の無用な変動を抑制することができるからである。上記の機能は、弾性体または弾性体とダンパとを組み合わせた機構を採用することにより容易に実現できる。
【0033】
また、遊びの中立位置から鋳片駆動方向または反駆動方向への遊びによる変位量は、ピンチロール周長に換算して駆動方向に2〜30mmおよび反駆動方向に2〜30mmとすることが適切である。遊びによる変位量が、ピンチロールの周長に換算して駆動方向または反駆動方向に2mm未満である場合には、本発明の効果が低減するからである。また、遊びによる変位量が、ピンチロールの周長に換算して駆動方向または反駆動方向に30mmを超えて大きい場合には、引抜速度の変動が必要以上に大きくなり、安定操業を損なうからである。
【0034】
2−4.対象鋳片の断面積および長さ
対象とする鋳片の横断面積は700mm2以下とし、かつ、鋳型4内のメニスカス10から鋳片6の切断位置9までの鋳片6の長さは50m以下とする必要がある。鋳片6の断面積が700mm2を超えて大きい場合、または、メニスカス10から鋳片切断位置9までの鋳片6の長さが50mを超えて大きい場合には、鋳型4からピンチロール7までの鋳片6の質量が大きくなり、鋳型内における摩擦抵抗が鋳片の慣性に対して相対的に小さくなるので、本発明の効果を発揮することが困難となるからである。
【0035】
2−5.二次冷却水量および鋳造速度
二次冷却の比水量は0.8L/kg−steel以下とし、鋳造速度は1.5m/min以上とする必要がある。その理由は、下記のとおりである。
【0036】
すなわち、二次冷却の比水量が0.8L/kg−steelを超える場合、または鋳造速度が1.5m/min未満の場合には、鋳型4からピンチロール7までの鋳片6の平均温度が低下し、鋳片6が硬化する。正常な鋳造過程にある鋳片は、鋳型内の摩擦抵抗の増減に応じて、弾性的に伸縮しており、この伸縮現象は、鋳型4内における凝固シェル5の引抜速度をオシレーションと連動して増減させ、鋳型4内の摩擦抵抗の最大値を低減する作用を担っている。ところが、上記のように、鋳片が硬化した場合には、鋳片の弾性的な伸縮が少なくなり、鋳型内の摩擦抵抗の最大値が大きくなりやすい。このような条件下では、本発明に用いる引抜速度増減機構をモータとピンチロールとの間に組み込むだけでは、鋳型内の摩擦抵抗を十分に抑制することは困難となるからである。
【0037】
二次冷却の比水量の下限値は本発明では特に規定しないが、一般的な連続鋳造における下限値に照らし、その範囲を0.1L/kg−steel程度以上とすることが好ましい。鋳造速度の上限値についても特に規定しないが、一般的な連続鋳造における上限値を考慮し、その範囲を5.0m/min程度以下とすることが好ましい。
【0038】
2−6.鋳型オシレーションの振幅および振動数
鋳型オシレーションの振幅は±1.5〜±4.0mmとする必要がある。オシレーション振幅が±1.5mm未満の場合には、オシレーションの本質的な作用であるモールドパウダーなどの潤滑剤の流入促進効果が低下し、鋳型内の摩擦抵抗が増大するので、本発明の方法を適用したとしても、鋳型内の摩擦抵抗を十分に抑制することは難しい。一方、オシレーションス振幅が±4.0mmを超えて大きい場合には、オシレーションに連動した鋳片の動きが大きくなりすぎ、引抜速度が必要以上に変動しやすくなるからである。
【0039】
鋳型のオシレーション振動数は450cpm(サイクル/分)以下とする必要がある。オシレーション振動数が450cpmを超えて大きくなると、鋳片の動きをオシレーションに追随させることが難しくなるからである。オシレーション振動数の下限値は、特に規定しないが、本発明で規定する鋳造速度範囲およびオシレーション振幅の範囲における一般的な下限値を考慮して、振動数の範囲を100cpm程度以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
本発明の連続鋳造方法の効果を確認するため、下記の鋳造試験を行い、その結果を評価した。表1に、試験条件および試験結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
試験番号AおよびCは、本発明で規定する条件を満足する本発明例についての試験であり、試験番号BおよびDは、本発明で規定する条件を満たさない比較例についての試験である。
【0043】
試験番号Aは、湾曲型の丸ビレット連続鋳造機を用いて、本発明の鋳造方法を実施した試験である。試験番号Aは、ピンチロール駆動モータの出力軸にコイルバネを内蔵した弾性捩り継手を組み込み、他の試験条件は、比較例の試験である試験番号Bの条件と同一として、鋳造試験を行ったものである。上記の弾性捩り継手の作用により、試験番号Aにおける引抜速度増減機構は、ピンチロール周長に換算して、駆動方向に±15mmの遊びによる変位量を有する。また、試験番号Aの試験は、本発明で規定する他の全ての要件をも同時に満足する。
【0044】
その結果、試験番号Aでは、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の低減効果が十分に発揮され、比較例の試験である試験番号Bに比較して、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の最大値が30%低減される好成績が得られた。
【0045】
試験番号Cは、垂直型のパイロット連続鋳造機を用いて、本発明の鋳造方法を実施した試験である。試験番号Cでは、ピンチロール駆動シャフトの減速機側の端に、円盤状のゴム板を介して駆動力を伝達する弾性捩り継手を組み込み、他の試験条件は、比較例の試験である試験番号Dの条件と同一として、鋳造試験を行った。この弾性捩り継手は、遊びによる変位量を制限するメカニカルストッパーを有する。上記の弾性捩り継手の作用により、試験番号Cにおける引抜速度増減機構は、ピンチロール周長に換算して、駆動方向に±5mmの遊びによる変位量を有する。また、試験番号Cの試験は、本発明で規定する他の全ての要件も満足する。
【0046】
その結果、試験番号Cにおいても、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の低減効果が発揮され、比較例の試験である試験番号Dに比較して、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗の最大値を15%低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法によれば、鋳型を上下にオシレーションさせる連続鋳造方法において、ピンチロールの駆動モータとピンチロールとの間に駆動回転方向および反駆動回転方向に規定範囲内の遊びを有する引抜速度増減機構を設けるとともに、鋳片断面積、メニスカスから鋳片切断位置までの鋳片長さ、鋳片の二次冷却比水量、鋳造速度、オシレーション振幅および同振動数を適正化したことにより、鋳片の引抜速度を、鋳型上昇時には平均引抜速度よりも小さく、かつ鋳型下降時には平均引抜速度よりも大きくして、鋳型と鋳片との間の摩擦抵抗を安定して低減することができる。したがって、本発明の方法は、簡便な引抜速度増減機構を設けることにより鋳型への鋳片の焼き付きなどの発生を防止し、安定操業のもとに良好な品質の鋳片を製造できる連続鋳造方法として、鋳造分野において広範に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】湾曲型連続鋳造機を用いて本発明の連続鋳造方法を実施する例を模式的に示す図である。
【図2】鋳型オシレーションの例を示す図である。
【図3】鋳型オシレーションと鋳片引抜速度との関係の例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1:タンディッシュ、 2:溶鋼、 3:浸漬ノズル、 4:鋳型、 5:凝固シェル、
6:鋳片6、 7:ピンチロール、 8:ピンチロール駆動機構(モータを含む)、
9:鋳片切断装置(切断用トーチ)、 10:溶鋼のメニスカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型を上下にオシレーションさせながら湾曲型または垂直型の連続鋳造機を用いて鋳片の横断面積が700cm2以下の鋳片を鋳造する連続鋳造方法であって、
指示された引抜速度に対応した速度でピンチロールを駆動するモータと鋳片を引き抜きまたは保持するピンチロールとの間に、弾性体または弾性体およびダンパを組み合わせてなり、駆動回転方向および反駆動回転方向に遊びを有し、遊びの中立位置から鋳片駆動方向または反駆動方向への遊びによる変位量がピンチロールの周長に換算して駆動方向に2〜30mmおよび反駆動方向に2〜30mmであり、該中立位置からの遊びによる変位量の増加にともなって中立位置へ復帰しようとする弾性体の反力が増大する機能を有する引抜速度増減機構を設け、
該モータの駆動回転を該引抜速度増減機構を介してピンチロールに伝達することにより、鋳片の引抜速度を、オシレーションにおける鋳型の上昇期には平均引抜速度よりも遅く、かつ鋳型の下降期には平均引抜速度よりも速くするとともに、
鋳型内のメニスカスから鋳片の切断位置までの鋳片の長さを50m以下とし、鋳片の二次冷却の比水量を0.8リットル/kg−steel以下とし、鋳造速度を1.5m/min以上とし、オシレーション振幅を±1.5〜±4.0mmおよびオシレーション振動数を450cpm以下とすることを特徴とする小断面鋳片の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−6345(P2009−6345A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168853(P2007−168853)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】