説明

屋内電気機器に使用される層

屋内電気機器に使用され、ゾルゲル前駆体をベースとする層について示した。この層は、有機シラン化合物を含み、スクリーン印刷法によって得ることができる。この層は、濃縮プレポリマー化ゾルゲル前駆体から得られる。この層は、加熱素子の絶縁層または導電層として使用することができる。また、この層は、装飾目的で使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル前駆体をベースとした、屋内電気機器に使用される層に関する。また、本発明は、少なくとも絶縁層と抵抗層とを有する加熱素子であって、前記層の少なくとも一つは、本発明によるゾルゲルをベースとする層を有する加熱素子に関する。また、本発明は、本発明によるゾルゲルをベースとする層を有する表面層を備える屋内電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明による層は、高電圧および低電圧の両方の電気機器に適する。開示された層は、ランドリーアイロンの絶縁層、抵抗層および装飾層に極めて適しており、特に、高い電力密度(>20W/cm2)が必要となる制御された蒸気の形成に適する。
【0003】
平坦加熱素子の製造の際、ゾルゲル材料をベースとする絶縁層および導電層が、基板に設置される。スプレーコーティング法は、これらの層、特に絶縁層の設置のため、広く使用されている。また、装飾目的でも、スプレーコーティング法は、極めて一般的である。
【特許文献1】米国特許第4,670,299号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、層の厚さを正確に制御するため、より高精度の技術が望まれている。本発明では、屋内電気機器に使用され、ゾルゲル前駆体をベースとする層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ゾルゲル前駆体をベースとした、屋内電気機器に使用される層であって、スクリーン印刷法で設置することができ、有機シラン化合物を含む層が提供される。そのようなゾルゲルをベースとする層は、加熱素子の絶縁層および導電層として、または装飾用として、使用することができる。本発明による層を設置する上で好適な基板は、アルミニウムであり、このアルミニウムを、絶縁層の堆積前にアノダイズ処理することにより、良好な密着性を確保することができる。
【0006】
スクリーン印刷法によりゾルゲルをベースとする層を提供するため、本発明による層は、濃縮プレポリマー化ゾルゲル前駆体から得られる。
【0007】
そのような濃縮プレポリマー化ゾルゲル前駆体を使用することにより、非濃縮性の非プレポリマー化ゾルゲル前駆体を使用した場合に比べて、ゾルゲル前駆体組成物の収縮量を著しく抑制することができる。収縮量が抑制されることにより、スクリーン印刷技術を高い精度で適用して、基板に層を設置することが可能となる。
【0008】
プレポリマー化ゾルゲル前駆体は、いくつかの異なる組成を有することに留意する必要がある。組成の定義を明確にするため、それらの組成は、y=1、n>1とした場合、一置換有機シラン(Si−Ox−Rynとして定義される。これは、ゾルゲル前駆体から得られ、またはワッカー(Wacker)社からシルレス(Silres(Silres610))という商品名で市販されている。良好な熱安定性を得るため、Rは、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。アルミニウム存在下では、熱安定性を高めるため、メチル基を選定する必要がある。有機シラン中には、y=2もしくは0として、組成が(Si−Ox−Ry)で表される化合物、または、y=z=1、R1およびR2を異なる有機反応基として、組成が(Si−Ox−R1yR2z)で表される化合物が少量(<10%)存在しても良い。
【0009】
好適実施例では、プレポリマー化ゾルゲル前駆体は、少なくとも、有機シラン化合物および溶媒を有する。
【0010】
収縮量を抑制するため、溶媒の存在量は、40%未満である。ただし、より好適な実施例では、溶媒の量は、15乃至25%である。
【0011】
本発明の有意な実施例では、層は、加熱素子の絶縁層を形成する。
【0012】
通常、(平坦な)ヒーターシステムは、基板に設置された2つの機能層、すなわち電気絶縁層と、導電層とを有する。前述の加熱素子の導電層は、通常、抵抗層のような抵抗が高い層と、接触層として機能する抵抗が低い層とを有する。電流が抵抗層に流れることより、熱が発生する。絶縁層の機能は、熱が発生する抵抗素子を基板から分離し、外部から基板に直接触れることができるようにすることである。
【0013】
加熱素子の絶縁層は、電子機器の低電圧絶縁体に比べて比較的厚い。電子機器の場合、例えば米国特許第4,670,299号明細書には、厚さは、最大でもわずか数ミクロンとする必要があることが示されている。例えば国際公開WO02/085072号には、平坦加熱素子の絶縁層の場合、ゾルゲル層の厚さは、約50μm以下であることが示されており、国際公開WO02/072495号には、層の厚さは、150μmから500μmの間であることが示されている。そのような厚いゾルゲル層を製作する場合、乾燥ステップ時および硬化ステップ時の収縮を、最小限に抑制する必要がある。当業者には、収縮を抑制するためにゾルゲル系に粒子を添加することは、良く知られている。
【0014】
好適実施例では、絶縁層の厚さは、25乃至100μmの範囲にあり、35乃至80μmの範囲にあることが好ましい。例えば、前述の国際公開WO02/072495号に示された値に比べて、加熱素子の絶縁層をこのように比較的薄い層厚とした場合、絶縁層での温度低下が制限される。これにより、50μmの絶縁層の場合、トラック温度を十分に低くすることが可能となる。加熱面温度を250℃とするため、50W/cm2の高電力密度を適用する場合、導電トラック温度は、320℃であれば良い。一方、絶縁層の厚さが300μmの場合、トラック温度を600℃とする必要があり、これは、このトラックに使用される可能性のある多くの材料の熱安定域を超え、熱膨張に対する制約が増すことになる。絶縁層が実質的に非多孔質性である場合、比較的薄い、すなわち約50μmの厚さの絶縁層で、十分な絶縁性を提供することができる。本発明による層を有する絶縁層は、十分に緻密であり、約100kV/mmの絶縁耐力を有する。
【0015】
従って、本発明は、少なくとも電気絶縁層および導電層を有する加熱素子であって、電気絶縁層は、前述のような本発明による層を有することを特徴とする加熱素子にも関する。
【0016】
本発明は、プレポリマー化前駆体で構成された絶縁層で製作された加熱素子に関し、それらの前駆体を濃縮して、平坦加熱素子の絶縁層の(スクリーン)印刷法に適合させることができる。
【0017】
電気絶縁層は、非導電性粒子を有することが有意である。
【0018】
前記非導電性粒子の一部は、フレーク状であり、最大寸法が、2乃至500μmであることが好ましく、最大寸法は、2乃至150μmであることがより好ましく、5乃至60μmであることがさらに好ましい。これらのフレーク状非導電性粒子は、酸化物材料をベースとし、例えば、マイカ、粘土、ならびに/または二酸化チタン、酸化アルミおよび/もしくは二酸化珪素でコーティングされた表面改質マイカもしくは粘土粒子である。絶縁層内のフレーク状材料の含有量は、体積比で20%未満であり、15%未満であることが好ましく、4乃至10%であることがより好ましい。
【0019】
電気絶縁層は、異方性の非導電性粒子を有することが好ましい。
【0020】
そのような異方性粒子(例えばマイカおよびイリオジン123)の利点は、それらの存在によって、加熱素子の加熱および冷却の繰り返し後に、電気絶縁層内でのクラックの形成が抑制されることである。
【0021】
本発明のさらに好適な実施例では、本発明による層は、加熱素子の導電層を形成する。
【0022】
絶縁層上に設置される本発明の抵抗トラックは、ゾルゲル、またはプレポリマー化ゾルゲル前駆体で形成される層に関し、導電層を得るため、この層には、導電性粒子が充填される。
【0023】
本発明は、前述のような加熱素子に関し、導電層は、本発明による層を有する。
【0024】
好適実施例では、導電層は、導電性および/または半導電性粒子と、体積比で0乃至20%の量の多くの絶縁粒子とを有する。
【0025】
好適実施例では、抵抗層は、ゾルゲル、またはプレポリマー化ゾルゲル前駆体で構成され、抵抗層には、グラファイト、銀または金属コーティング粒子のような導電性粒子が充填されることが好ましい。粒子体積比を調整することにより、印刷層の抵抗を所望の値に設定することができる。粒子サイズは、10μm未満であることが好ましく、フレーク状および球状の粒子が好ましい。単一のスクリーン印刷ステップでの層の厚さは、10μmより厚く、通常は15μmである。
【0026】
乾燥および硬化時の収縮は、蒸発による追加の濃縮ステップ、例えば、加水分解され部分的に縮合した(プレポリマー化)ゾルゲル溶液の蒸留によって抑制される。そのような濃縮ステップは、多くのゾルゲル前駆体に対して実施され、そのようなゾルゲル前駆体には、例えば、米国特許第4,670,299号に記載されているような、誘電体膜に使用されるメチルトリメトキシシラン、および米国特許第6,284,682号に記載されているようなアルミニウムイソプロポキシドがある。
【0027】
層のポロシティをさらに抑制する場合、乾燥および硬化ステップの際に、全ての溶媒が蒸発するまで、ゾルゲル材料を液相状態とすることが特に有意である。溶融挙動は、米国特許第4,672,099号に示されているMTMSのように、プレポリマー化ゾルゲル材料の分子量および分子構造に依存する。ゾルゲル材料が溶融状態になると、溶媒が容易に蒸発し、形成される層には、乾燥および硬化処理によって生じる残留応力が少なくなる。
【0028】
付加的な要求は、設置され硬化された層の熱膨張係数(CTE)が、基板の値と整合することである。平坦加熱素子に好適な基板は、十分に低いCTEを有する。アルミニウム基板の場合は、最も高く、約25ppm/Kである。層のCTE値は、硬化条件に依存するが、コーティング層のCTEを制御する最も一般的な方法は、ゾルゲル樹脂にセラミック粉末のような追加の成分を導入することである。
【0029】
アルミナ、シリカ、窒化ホウ素、炭化珪素および他のセラミック粉末は、低いCTEを有し、通常10ppm/K以下である。これらの材料は、コーティング組成物中に混合して、基板と同等のレベルにまでCTEを抑制することができる点で有意である。セラミック粒子フィラーの最適量は、基板のCTEに依存する。しかしながら、通常の場合、硬化コーティング層中に、体積比で10%乃至60%の範囲で含まれる。平坦なヒータに適用する場合、コーティングのCTEを抑制することに加えて、粒子もまた、絶縁性で、耐熱性とする必要がある。粒子の形状と寸法は、特に指定されない。ただし、粒子寸法は、目標コーティング厚さに比べて、十分に小さくする必要がある(約5倍未満)。高アスペクト比の粒子を選択することは、必ずしも必要ではないが、これによりクラックの発生傾向を抑制することができる。板状粒子と略球状粒子の組み合わせにより、特に有意な組成物が得られる。この組み合わせにより、板状粒子のみを使用した場合に比べて、CTEの制御が容易となる。そのような板状粒子は、マイカ小片、または別のセラミック材料がコーティングされたマイカ小片であっても良い。
【0030】
従って、本発明による層は、ランドリーアイロンの絶縁層、抵抗層および装飾層に極めて適しており、特に、高い電力密度が必要となる、制御された蒸気を形成する場合に適している。さらに、組成物は、ヘアードライヤー、ヘアースタイラー、スチーマーおよびスチームクリーナー、衣類クリーナー、加熱アイロン台、洗顔スチーマー、やかん、システムアイロンおよびクリーナー用加圧ボイラ、コーヒーメーカー、深底揚げ鍋、炊飯器、消毒器、ホットプレート、電気ポット、グリル、スペースヒータ、ワッフル焼き器、トースター、オーブンまたは水流ヒータのような、他の屋内電気機器にも極めて適している。
【0031】
米国特許第5,822,675号には、プレポリマー化ゾルゲル前駆体から製作された加熱素子が示されている。150℃から350℃の範囲での1時間乃至4時間の処理によって、異なる層が硬化される。実施例には、これらの加熱素子は、20W/cm2の電力密度を発生させることができることが示されている。示された実施例では、異なる層(絶縁層、抵抗層および導電層)のバインダー材料として、メチルフェニルシリコン樹脂が使用される。絶縁層の場合、フィラー材料として、アルミナおよびシリカが使用されるが、抵抗層の場合は、グラファイトとカーボンブラックの混合物が使用される。導電層には、フィラー材料として銀が使用される。
【0032】
本発明では、絶縁層のコーティング主成分として、ゾルゲル前駆体をベースとした濃縮プレポリマー化バインダーの使用が提案される。バインダーは、耐熱性ポリマーを形成するゾルゲル前駆体をベースとしている。これらのバインダーには、テトラエチルオルトシリケートおよびメチルトリエトキシシラン(メトキシシラン)が含まれる。これらのプリカーソルは、酸性または塩基性触媒の存在下で、水と反応することができ、反応性のシラノール基を形成する。さらにシラノール基は、相互に反応することが可能であり、オリゴマーおよびポリマーのバインダー材料が提供される。これらの縮合反応は、酸および強塩基によって加速される。プレカーソルは、ホモポリマーを形成するため、個々に使用することができ、あるいはこれらを組み合わせて、コポリマーを形成することもできる。あるいは、そのような形成に、前述の成分をベースとする市販のポリマーを使用しても良い。
【0033】
プレポリマー化バインダー材料は、適当な溶媒に溶解させることができる。適当な溶媒は、アルコール、エーテル−アルコール、ケトン、エーテルおよび芳香族溶媒である。溶解度、溶媒の毒性および可燃性を考慮すると、最も有効な溶媒は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のようなケトンである。アルコールおよびエーテル−アルコールは、これらのポリマーに対して貧溶媒となる傾向がある。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のようなエーテルは、ポリマーに対しては良好な溶媒であるが、通常これらの溶媒は、強い可燃性であり、爆発性過酸化物の形成を促進する傾向がある。ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような芳香族溶媒は、ポリマーに対して良好な溶媒ではあるが、これらの溶媒は、健康に対して多大な影響を及ぼす傾向にある。スクリーン印刷法を適用する場合、プリントスクリーン上のコーティング組成物の乾燥を最小限に抑制するため、高沸点の溶媒が必要である。このため、メチルイソブチルケトンおよびジイソブチルケトンが適切であることが示されている。
【0034】
溶解プレポリマーは、適当なフィラー粒子と結合することができ、ボールミル処理または高速分散法により、分散液が形成される。分散液は、コーティング用に直接使用しても良く、または、溶媒を添加してあるいは溶媒の一部を希釈して、溶媒の量および種類を変化させて使用することもできる。スクリーン印刷法を適用する場合、十分な量のフィラーおよび溶媒を含むプレポリマーは、追加の粘度調整剤(例えば、平均寸法が0.5μmの50%のアルミナ、25%のプレポリマーおよび25%の溶媒)を添加せずに、直接使用することができることが示されている。これは、添加物を焼失させる必要がない点で有意である。このような処理は、その分解温度に依存し、層の多孔質性に影響を及ぼすからである。しかしながら、必要であれば、キャリア溶媒と適合性のある流動添加剤により、粘性を調整しても良い。この流動調整剤の添加により、低剪断速度での粘性が向上し、コーティング組成物がスクリーン印刷メッシュを通って染み出すことが抑制される。また、これらの添加剤は、保管時にフィラー粒子が沈降することを抑制する。
【0035】
本発明に使用される組成物である、テトラエチルオルトシリケートおよびメチルトリエトキシシラン(メトキシシラン)(ホモおよびコポリマー)を含むプレポリマー化ゾルゲル材料は、例えば米国特許第5,822,675号に示されているメチルフェニルシリコン樹脂に比べて、良好な熱安定性を示す。アルミナが存在する場合、メチルフェニルシリコンのフェニル基は、大気下200℃以下の温度で分離するのに対して、アルミナが存在しない場合は、材料は、大気下において、少なくとも400℃までは熱的に安定な状態を維持する。従って、アルミナフィラーとともに、テトラエチルオルトシリケートおよびメチルトリエトキシシラン(メトキシシラン)(ホモおよびコポリマー、ワッカー社のシルレス610)を含む、プレポリマー化ゾルゲル材料で構成された絶縁層は、アルミナフィラーを有するメチルフェニルシリコン系の絶縁層に比べて、耐湿性が向上する。
【0036】
最終形成の際には、ポロシティを抑制するため、溶媒の量は、少なく維持する必要がある。典型的な値は、15乃至25%であり、スクリーン印刷を適用する場合、溶媒の量は、40%を超えないようにする必要がある。溶媒を含まない組成物を調製しても良い。ただし、これらの組成物は、通常100℃を超える温度での、ホットメルトコーティング法で設置する必要がある。
【0037】
これらの絶縁層のコーティング層は、スプレー法、浸漬法、スピンコート法およびスクリーン印刷法など、多くの方法によって堆積させることができる。堆積コーティング層は、設置した溶媒の沸点未満の温度で乾燥させ、気泡の発生を抑制する必要がある。その後、このコーティング層は、目標適用温度を超える温度であって、最大450℃の温度で熱硬化される。400℃を超える温度であることが好ましい。この方法によって、クラックのない、100μmを超える実質的に非多孔質なコーティングが調製できる。
【0038】
米国特許第5,822,675号には、約325℃の最大硬化温度を使用することが示されている。
【0039】
本発明では、絶縁層に対して、400℃を超える硬化温度が使用され、硬化温度は420℃であることが好ましい。これらの高い硬化温度は、完全な硬化/縮合を促進し、そのような加熱素子の高電力密度(20W/cm2を超える)での活性使用の際に、抵抗トラックの事後硬化処理が不要となる(この処理は、クラックの発生につながるおそれがある)。
【0040】
本発明の加熱素子の抵抗トラックは、ゾルゲル(例えば、MTES、メチルトリエトキシシラン)またはプレポリマー化ゾルゲル前駆体(例えば、シルレス610)から構成される。フィラー材料は、銀、銀合金、金、白金、パラジウムのような耐酸化性のある金属、または前述の耐酸化性金属がコーティングされた他の金属粒子であることが好ましい。使用導電性粒子は、フレーク状、球状または不規則形状の粒子であっても良い。
【0041】
米国特許第5,822,675号では、フィラー材料として、グラファイトとカーボンブラックの混合物が使用され、バインダー材料として、メチルフェニルシリコン樹脂が使用されている。この方法で調製された抵抗トラックは、本発明に使用される抵抗トラック(導電性フィラー材料として銀を有する)に比べて、熱安定性が悪い。
【0042】
本発明で示したヒータは、米国特許第5,822,675号のヒータ(最大20W/cm2)に比べて、より高い電力密度で作動することができる(最大100W/cm2)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
市販のMTMS系のプレポリマーである、ワッカー(Wacker)社のシルレス(SilRes)610を使用した。20.16gのシルレス610を、17.15gのジイソブチルケトンに溶解させ、これに、ボールミル処理により予め調製した105.02gのアルミナ分散液を加えた。このアルミナ分散液は、MEKをベースとして、39.5%のアルミナ(粒子寸法0.5μm)と、0.4%のMTMSとを含むものである。MEKを減圧下で揮発させ、53.5%のアルミナと、26.0%のプレポリマーと、0.6%のMTMSと、19.9%のジイソブチルケトンとからなる組成物を形成した。組成物は、更なる調整を行わなくても、スクリーン印刷法に適していた。アノダイズしたアルミニウム基板上に、層をプリントし、最大約88μmの厚さのコーティング層を形成した。この層を、415℃で2時間硬化した。絶縁破壊電圧は、厚さの増加ととともに増大し、54μmでは、4kVに達した。ただし、さらに厚さを増加した場合、絶縁破壊電圧は、低下した。絶縁耐力は、厚さの増加とともに、幾分低下し、54μmの層では、7乃至13×107V/m(70乃至130kV/mm)の範囲であった。
【0045】
前述のペーストにイリオジン(Iriodin)123粉末を加えて、別のペーストを調製した。イリオジンは、マイカと二酸化チタン薄膜コーティングからなる真珠光沢顔料である。粒子寸法は、5乃至25μmの範囲にあり、粒子形状は、著しく異方性で、大部分が層状である。イリオジン123粉末をペースト中に入れ、機械的撹拌法により混合し、49.1%のアルミナと、8.2%のイリオジン123と、23.8%のシルレス610と、0.6%のMTMSと、18.3%のDIBKとを含む組成物を形成した。アノダイズしたアルミニウム基板上に、層を印刷し、最大約103μmの厚さのコーティング層を形成した。この層を、415℃で2時間硬化した。絶縁破壊電圧は、厚さとともに増大し、54μmでは4kVに達した。この高い絶縁破壊電圧は、全ての厚いサンプルにおいて認められた。54μmでの絶縁耐力は、7.6×107V/m(76kV/mm)であった。
(実施例2)
24.60gのジイソブチルケトン(DIBK)中に40.95gのシルレス610を溶解させた組成物を調製し、これに、ボールミル処理により予め調製しておいたアルミナ分散液を添加した。アルミナ分散液は、MEK をベースとして、39.5%のアルミナ(粒子寸法0.5μm)と、0.4%のMTMSとを含む。MEKを減圧下で揮発させ、45.1%のアルミナと、33.5%のシルレス610と、0.5%のMTMSと、20.9%のDIBKからなる組成物を得た。組成物の粘度は、中剪断速度依存性を示し、100秒-1では1.7Pasであり、20秒-1では、2.1Pasであった。ペーストを用いて、アノダイズしたアルミニウム基板上に、スクリーン印刷により、絶縁層を調製した。この層を、415℃で2時間硬化したところ、27μmの厚さでの絶縁耐力は、63kV/mmであった。
【0046】
前述のペーストに、新たに調製したBYK-410の溶液(BYK(BYK Chemie)社、メチルイソブチルケトン中に3.5%溶解)を添加して、さらに別のペーストを調製した。BYK溶液を添加したペーストを、さらに希釈し、DIBKを添加して、43.4%のアルミナと、32.2%のシルレス610と、0.4%のMTMSと、0.42%のBYK-410と、23.6%のDIBKとを含む組成物を得た。組成物の粘度は、強剪断速度依存性を示し、100秒-1では、1.8Pasであり、20秒-1では、3.0Pasであった。ペーストを使用して、アノダイズしたアルミニウム基板上に、スクリーン印刷法により、絶縁層を調製した。この層を、415℃で2時間硬化したところ、26μmの厚さでの絶縁耐力は、106kV/mmであった。
(実施例3)
市販のプレポリマーである、ワッカー社のシルレス610を使用した。69.93gのシルレス610に、137.00gのアルミナ粉末(バイコウスキー(Baikowski Chimie)社、CR6)と、42.71gのジイソブチルケトンと、111.50gのアセトンとを混合した。混合物は、径が3mmのガラスビーズ137gを用いて、2日間ミル処理した。ビーズを分離し、残りの分散液を、浴温度80℃の真空中で揮発処理し、アセトンを除去した。得られた混合組成物は、ジイソブチルケトンおよびイリオジン123(メルク(Merck)社、マイカと二酸化チタン薄膜コーティングからなる真珠光沢の顔料)で調整し、以下の組成の最終組成物を得た:重量比で、52.02%のアルミナと、5.24%のイリオジン123と、26.55%のシルレス610と、16.19%のジイソブチルケトン。
【0047】
組成物は、更なる調整を行わなくてもスクリーン印刷法に適していた。アノダイズしたアルミニウム基板上に、325メッシュのスクリーンを用いて層を印刷し、各種膜厚のコーティング層を形成した。層を80℃で、少なくとも20分間乾燥させ、7℃/分の速度で硬化温度まで加熱し、422℃で15分間硬化させた。絶縁破壊電圧は、層の厚さとともに増大し、約50μmの厚さで、5kVに達した。50μmの層の場合、絶縁耐力は、約100kV/mmであった。
(実施例4)
市販のプレポリマーである、ワッカー社のシルレス610を使用した。30.52gのシルレス610に、50.0gの窒化アルミニウム粉末(アルドリッチ(Aldrich)社)と、19.00gのジイソブチルケトンと、43.67gのアセトンとを混合した。径が3mmのガラスビーズ55gを用いて、3日間、混合物をミル処理した。
【0048】
ミル処理が完了した後、瓶をミルから取り外し、6.02gのイリオジン123(メルク(Merck)社、マイカと二酸化チタン薄膜コーティングからなる真珠光沢の顔料)を添加した。再度瓶を密閉し、数回振動させた。その後、瓶を再度ミル内に設置して、1分間保持した。その後、メッシュフィルタを用いてガラスビーズを分離し、液体物を丸フラスコに移した。フラスコを回転式蒸発器に取り付け、アセトンの全量(定量的)と一部のDIBKを除去した。揮発処理は、90℃以下の温度で行い、必要な場合、80乃至25mmHgの減圧下で実施し、固体分が82wt%の、目的の固体濃度を得た。
【0049】
組成物は、更なる調整を行わなくても、スクリーン印刷法に適していた。アルミニウム基板上に、325メッシュのスクリーンを用いて層を印刷し、各種厚さのコーティング層を形成した。層を80℃で、少なくとも20分間乾燥し、5℃/分の速度で硬化温度まで加熱し、430℃で360分硬化させた。絶縁破壊電圧は、層の厚さとともに増大し、約60μmの厚さでは4kVに達した。コーティング層の熱膨張係数は、18ppm/Kである。
(実施例5)
市販のプレポリマーである、ワッカー社のシルレス610を使用した。34.34gのシルレス610に、28.14gの窒化アルミニウム(アルドリッチ社)と、33.64gのアルミナ粉末(バイコウスキー社、CR6)と、22.59gのジイソブチルケトンと、51.93gのアセトンとを混合した。混合物を、径が3mmのガラスビーズ65gを用いて、3日間ミル処理した。
【0050】
ミル処理が完了した後、瓶をミルから取り外し、6.78gのイリオジン123(メルク(Merck)社、マイカと二酸化チタン薄膜コーティングからなる真珠光沢の顔料)を添加した。再度瓶を密閉して、数回振動させた。その後、瓶を再度ミル内に設置して、1分間保持した。その後、メッシュフィルタを用いてガラスビーズを分離し、液体物を丸フラスコに移した。フラスコを回転式蒸発器に取り付け、アセトンの全量(定量的)と一部のDIBKを除去した。揮発処理は、90℃以下の温度で行い、必要な場合、80乃至25mmHgの減圧下で実施し、固体分が82%の、目的の固体濃度を得た。
【0051】
組成物は、更なる調整を行わなくても、スクリーン印刷法に適していた。アルミニウム基板上に、325メッシュのスクリーンを用いて層を印刷し、各種厚さのコーティング層を形成した。層は、80℃で少なくとも20分間乾燥し、5℃/分の速度で硬化温度にまで昇温し、422℃で30分間硬化させた。絶縁破壊電圧は、層の厚さとともに増大し、約50μmの厚さでは4.5kVに達した。コーティング層の熱膨張係数は、28.2ppm/Kであった。
(実施例6)
市販のプレポリマーである、ワッカー社のシルレス610を使用した。185.33gのシルレス610に、376.81gのアルミナ粉末(バイコウスキー社、CR6)と、135.07gのジイソブチルケトンと、310.50gのアセトンとを混合した。この混合物を、径が3mmのガラスビーズ320gを用いて、3日間ミル処理した。
【0052】
ミル処理が完了した後、瓶をミルから取り外し、53.15gのイリオジン123(メルク(Merck)社、マイカと二酸化チタン薄膜コーティングからなる真珠光沢の顔料)を添加した。再度瓶を密閉して、数回振動させた。その後、瓶を再度ミル内に設置して、1分間保持した。その後、メッシュフィルタを用いてガラスビーズを分離し、液体物を丸フラスコに移した。フラスコを回転式蒸発器に取り付け、アセトンの全量(定量的)と一部のDIBKを除去した。揮発処理は、温度を90℃以下の温度で行い、必要な場合、80乃至25mmHgの減圧下で実施し、固体分が82%の、目的の固体濃度を得た。
【0053】
組成物は、更なる調整を行わなくても、スクリーン印刷法に適していた。アルミニウム基板上に、325メッシュのスクリーンを用いて層を印刷し、各種厚さのコーティング層を形成した。層は、80℃で少なくとも20分間乾燥し、5℃/分の速度で硬化温度にまで昇温し、430℃で30分間硬化させた。絶縁破壊電圧は、層の厚さとともに増大し、約60μmの厚さでは5kVに達した。コーティング層の熱膨張係数は、23.8ppm/Kであった。
(実施例7)
実施例3に示したような絶縁層を備えるアルミニウム基板を加熱素子の開始材として、加熱素子を調製した。この層の上に、以下の方法で調製したペーストを用いて、2パスで導電性トラックを印刷した。
【0054】
175gのメチルトリエトキシシランと、106gの水と、0.5gの氷酢酸とから、加水分解混合液を調製した。この混合液を2時間連続撹拌した。この加水分解混合液282gに、粒子寸法が20μm未満の市販の銀フレークを、282g添加した。その後、この混合液に、282gのn−プロパノールを添加し、さらに、3時間、ローラーコンベヤ上でボールミル処理を行った。
【0055】
ボールを除去した後、80gの混合液に、6%ヒドロキシプロピルメチルセルロース水溶液を22.56g添加した。混合後、均一なペーストが得られた。これを、プレポリマー化ゾルゲル前駆体から得られた前記絶縁性ゾルゲル層上に、スクリーン印刷した。層を80℃で乾燥させ、さらに第2の導電層を80℃で硬化させ、その後、ダブルパススクリーン印刷層を350℃で硬化させた。ダブルパス層は、厚さが約10μmであり、シート抵抗は、平方当たり、約0.031Ωであった。
【0056】
この実施例の加熱素子を、67ワット/cm2の固有電力密度において230Vの電源に接続した。基板温度は、160℃に調整した。サンプルを、600時間、アクティブ試験(1時間オン、30分間オフ)のサイクルに供した。サンプルは、この寿命試験に合格した。
(実施例8)
実施例3に示したような絶縁層を備えるアルミニウム基板を加熱素子の開始材として、加熱素子を調製した。この層の上に、以下の方法で調製したペーストを用いて、2パスで導電性トラックを印刷した。
【0057】
165.5gのメチルトリエトキシシランと、100.5gの水と、0.5gの氷酢酸とから、加水分解混合液を調製した。この混合液を2時間連続撹拌した。この加水分解混合液282gに、粒子寸法が20μm未満の市販の銀フレークを、266g添加した。その後、この混合液に、282gのn−プロパノールを添加し、さらに、3時間、ローラーコンベヤ上でボールミル処理を行った。
【0058】
ボールを除去した後、80gの混合液に、6%ヒドロキシプロピルメチルセルロース水溶液を22.56g添加した。混合後、均一なペーストが得られた。これを、プレポリマー化ゾルゲル前駆体から得られた前記絶縁性ゾルゲル層上に、スクリーン印刷した。層を80℃で乾燥させ、さらに第2の導電層を80℃で硬化させ、その後、ダブルパススクリーン印刷層を350℃で硬化させた。ダブルパス層は、厚さが約10μmであり、シート抵抗は、平方当たり、約0.024Ωであった。
【0059】
この実施例の加熱素子を、25ワット/cm2の固有電力密度において140Vの電源に接続した。基板温度は、230℃に調整した。サンプルを、600時間、アクティブ試験(1時間オン、30分間オフ)のサイクルに供した。サンプルは、この寿命試験に合格した。
(実施例9)
実施例3に示したような絶縁層を備えるアルミニウム基板を加熱素子の開始材として、加熱素子を調製した。この層の上に、以下の方法で調製したペーストを用いて、1パスで導電性トラックを印刷した。
【0060】
120gの銀(フェロー(Ferro)社、D25銀フレーク)と、14.95gのシルレス610樹脂と、34.68gのアセトンと、12.17gのDIBKとを混合後、3mmのガラスビーズ120gを用いて24時間ボールミル処理を行い、銀ベースの抵抗トラックを調製した。ミル処理用ビーズを分離し、158.07gの銀分散液をフラスコに移し、真空蒸留によりアセトンを除去した。ある量のDIBKを追加添加し、重量比で77.62%の銀と、9.67%のシルレス610と、12.71%のDIBKと、からなる最終組成物を製作した。このペーストを使用して、145メッシュのスクリーンにより、螺旋形状の抵抗トラックを印刷した。抵抗コーティング層を80℃で少なくとも40分間乾燥させ、7℃/分で422℃まで昇温し、422℃で15分間硬化させた。得られたトラックは、平均厚さが25μmで抵抗率は、約2.3×10-5μcmであった。コーティング層は、平坦化熱素子の抵抗層として好適である。
【0061】
この実施例の加熱素子を、20ワット/cm2の固有電力密度において220Vの電源に接続した。基板温度は、230℃に調整した。サンプルを、600時間、アクティブ試験(1時間オン、30分間オフ)のサイクルに供した。サンプルは、この寿命試験に合格した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷法によって得られる、屋内電気機器に使用される層であって、
有機シラン化合物を含み、ゾルゲル前駆体をベースとした層。
【請求項2】
当該層は、濃縮プレポリマー化ゾルゲル前駆体から得られることを特徴とする請求項1に記載の層。
【請求項3】
前記プレポリマー化ゾルゲル前駆体は、少なくとも、有機シラン化合物および溶媒を含むことを特徴とする請求項2に記載の層。
【請求項4】
前記溶媒の量は、40%未満であることを特徴とする請求項2または3に記載の層。
【請求項5】
前記溶媒の量は、15乃至25%であることを特徴とする請求項4に記載の層。
【請求項6】
加熱素子の絶縁層を有することを特徴とする請求項1に記載の層。
【請求項7】
少なくとも、電気絶縁層および導電層を有する加熱素子であって、
前記電気絶縁層は、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の層を有することを特徴とする加熱素子。
【請求項8】
前記電気絶縁層は、非導電性粒子を含むことを特徴とする請求項7に記載の加熱素子。
【請求項9】
前記電気絶縁層は、異方性の非導電性粒子を含むことを特徴とする請求項4に記載の加熱素子。
【請求項10】
当該層は、加熱素子の導電層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の層。
【請求項11】
前記導電層は、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の層を有することを特徴とする請求項7に記載の加熱素子。
【請求項12】
前記導電層は、導電性および/または半導電性粒子を含み、さらに、体積比で0乃至20%の量の絶縁粒子を含むことを特徴とする請求項10に記載の加熱素子。
【請求項13】
前記導電層は、金属粒子を含むことを特徴とする請求項10に記載の加熱素子。
【請求項14】
前記導電層は、銀または銀合金の粒子を含むことを特徴とする請求項10に記載の加熱素子。
【請求項15】
前記導電層は、グラファイトまたはカーボンブラックの粒子を含むことを特徴とする請求項10に記載の加熱素子。
【請求項16】
当該層は、屋内電気機器の表面層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の層。
【請求項17】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の層を有する屋内電気機器であって、
ヘアードライヤー、ヘアースタイラー、スチーマー、スチームクリーナー、衣類クリーナー、加熱アイロン台、洗顔スチーマー、やかん、システムアイロンおよびクリーナー用加圧ボイラ、コーヒーメーカー、深底揚げ鍋、炊飯器、消毒器、ホットプレート、電気ポット、グリル、スペースヒータ、ワッフル焼き器、トースター、オーブンまたは水流ヒータを有することを特徴とする屋内電気機器。

【公表番号】特表2008−505435(P2008−505435A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517553(P2007−517553)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051579
【国際公開番号】WO2005/115056
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【出願人】(505327114)エスジー インスティチュート オブ マニュファクチュアリング テクノロジー (2)
【Fターム(参考)】