説明

嵩高性、柔軟性に優れた熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維成形品

【課題】不織布化時における加熱接着の際でも捲縮の形態安定性を維持することができ、不織布に嵩高性、嵩回復性を与え、且つ柔軟性にも優れる熱接着性複合繊維、及びこれを用いた繊維成形品を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂よりなる第1成分と、前記ポリエステル系樹脂の融点より20℃以上低いポリオレフィン系樹脂よりなる第2成分から構成される熱接着性複合繊維であって、下記測定方法で算出される熱処理後の嵩維持率が20%以上である事を特徴とする熱接着性複合繊維。
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
(H0は、目付200g/m2のウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態でのウェブ高さであり、H1は、同ウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で、145℃で5分間熱処理した後のウェブ高さ。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性複合繊維に関する。更に詳しくは、おむつ、ナプキン、パッド等の衛生材料用吸収性物品、医療衛生材、生活関連材、一般医療材、寝装材、フィルター材、介護用品、及びペット用品等の用途として適した嵩高性、柔軟性に優れた熱接着性複合繊維とその製造方法及びこれを用いた繊維成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱風や加熱ロール等の熱エネルギーを利用して、熱融着による成形が出来る熱接着性複合繊維は、嵩高性や柔軟性を得る事が容易である事からおむつ、ナプキン、パッド等の衛生材料、或いは生活用品やフィルター等の産業資材等に広く用いられている。特に衛生材料は、人肌に直接触れる物である事や尿、経血等の液体を素早く吸収する必要性から、嵩高性や柔軟性の重要度は極めて高い。嵩高性を得る為には、高剛性の樹脂を用いたり、繊度の太い繊維を用いる手法が代表的であるが、その場合柔軟性が低下し、肌に対する物理的な刺激が強くなる。一方で肌への刺激を抑制する為に柔軟性を優先すると、嵩高性、特に体重に対するクッション性が大幅に低下する事で、液体吸収性に劣る不織布となってしまう。
【0003】
その為、嵩高性と柔軟性の両立が可能な繊維及び不織布を得る方法が数多く提案されてきた。例えば、高アイソタクティシティーのポリプロピレンを芯成分とし、主としてポリエチレンよりなる樹脂を鞘成分とした鞘芯型複合繊維を用いる事により嵩高い不織布の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法は複合繊維の芯側に高剛性の樹脂を使用する事で、得られる不織布に嵩高性を与える物であるが、柔軟性において十分でなく、特に熱接着温度が高温となると得られる不織布の嵩高性も低下してしまい、両立は困難であった。
【0004】
また、芯成分にポリエステル、鞘成分にポリエチレンもしくはポリプロピレンを用いて嵩高性を与える手法も提案されている(例えば特許文献2、3)。特許文献2の場合、鞘成分にポリオレフィン、芯成分が前記ポリオレフィンの融点より20℃以上高いポリエステルを用いた芯鞘型複合繊維を、延伸捲縮付与後に前記ポリエステルのガラス転移温度より10℃以上高く、且つ前記ポリオレフィンの融点に対して20℃以上低い温度で熱風過熱処理を施す事により、ソフトで嵩高な不織布を与える物であるが、この場合不織布化時にポリオレフィンの融点以上の温度で熱接着を施す際、熱に対する捲縮の形態安定性が不十分である為捲縮の伸びや収縮等による厚みの低下が発生し、嵩高な不織布を得ることは困難であった。
【0005】
一方、特許文献3の場合、可接着成分にポリエチレンもしくはポリプロピレン、別の成分にポリエステルを用い、延伸捲縮付与後に所定の温度範囲でコンディショニング用熱処理を施す事により嵩高な不織布を与える物であるが、この場合嵩高性は優れているものの、得られる不織布の柔軟性が不十分であった。また、この方法ではコンディショニング工程において捲縮の伸びが発生する事があり、捲縮の形態安定性は依然不足していた。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−135549号公報
【特許文献2】特開2000−336526号公報
【特許文献3】特公平3−21648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不織布化時における加熱接着の際でも捲縮の形態安定性を維持することができ、不織布に嵩高性、嵩回復性を与え、且つ柔軟性にも優れる熱接着性複合繊維、及びこれを用いた繊維成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、下記の構成を有する繊維が、前記課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]ポリエステル系樹脂よりなる第1成分と、前記ポリエステル系樹脂の融点より20℃以上低いポリオレフィン系樹脂よりなる第2成分から構成される熱接着性複合繊維であって、下記測定方法で算出される熱処理後の嵩維持率が20%以上である事を特徴とする熱接着性複合繊維。
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
(H0は、目付200g/m2のウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態でのウェブ高さであり、H1は、同ウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で、145℃で5分間熱処理した後のウェブ高さ。)
[2]下記測定方法で算出される熱処理後の収縮率が3%以下である前記[1]項に記載の熱接着性複合繊維。
収縮率={(25(cm)−h1(cm))/25(cm)}×100 (%)
(h1は、縦25cm×横25cmで目付が200g/m2のウェブを145℃で5分間熱処理した後の縦もしくは横のいずれか短いほうの長さ。)
[3]熱接着性複合繊維中の無機物微粒子の含有量が0.3〜10質量%である前記[1]または[2]項に記載の熱接着性複合繊維。
【0010】
[4]第1成分を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
[5]第2成分を構成するポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレンを主成分とする共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
[6]上記熱接着性複合繊維の繊度が0.9〜8.0dtexである前記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
[7]上記熱接着性複合繊維の断面形状が、偏心断面である前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
【0011】
本発明はさらに、熱接着性複合繊維の製造方法にも向けられている。特に、無機物微粒子を配合した熱接着性複合繊維の製造方法であって、具体的には、第1成分及び/又は第2成分の樹脂に無機物微粒子を添加して紡糸し、延伸倍率を未延伸繊維における破断延伸倍率の75〜90%とし、加熱温度を第1成分のガラス転移点(Tg)+10℃以上〜第2成分の融点−10℃以下の範囲として延伸及び捲縮工程を行った後、第2成分の融点より低いが融点より15℃を越えて低くはない温度で熱処理することを含む、方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱接着性複合繊維は、加熱処理後の嵩維持率が20%以上に保たれる事で、不織布化時における加熱接着の際でも捲縮の形態安定性が維持され、柔軟性が高く嵩高性、嵩回復性に優れた不織布を作成する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明の熱接着性複合繊維は、ポリエステル系樹脂よりなる第1成分と、前記ポリエステル系樹脂の融点より20℃以上低いポリオレフィン系樹脂よりなる第2成分から構成される熱接着性複合繊維であって、下記測定方法で算出される熱処理後の嵩維持率が20%以上である事を特徴とする物である。
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
ここで、H0は目付200g/m2のウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態でのウェブ高さであり、H1は同ウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で、145℃で5分間熱処理した後のウェブ高さである。
【0014】
本発明の熱接着性複合繊維(以下、単に複合繊維と呼ぶ事がある)を構成するポリエステル系樹脂は、ジオールとジカルボン酸とから縮重合によって得ることができる。ポリエステル樹脂の縮重合に用いられるジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。また、用いられるジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。本発明におけるポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましく利用できる。また、上記芳香族ポリエステルの他に脂肪族ポリエステルも用いる事が出来、好ましい樹脂としてポリ乳酸やポリブチレンアジペートテレフタレートが挙げられる。これらのポリエステル樹脂は、単独重合体だけでなく、共重合ポリエステル(コポリエステル)でもよい。このとき、共重合成分としては、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸成分、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のジオール成分、L−乳酸等の光学異性体が利用できる。更に、これらポリエステル樹脂の2種以上を混合して用いても良い。
【0015】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂は、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリメチルペンテン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエンが利用できる。更にこれらの単独重合体に、単独重合体を構成する単量体以外のエチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1または4−メチルペンテン−1等のα−オレフィンが共重合成分として少量含有されていてもよい。また、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、スチレン及びα−メチルスチレン等の他のエチレン系不飽和モノマーが共重合成分として少量含有されていてもよい。また上記ポリオレフィン樹脂を2種以上混合して使用してもよい。これらは、通常のチーグラーナッタ触媒から重合されたポリオレフィン樹脂だけでなく、メタロセン触媒から重合されたポリオレフィン樹脂、及びそれらの共重合体も好ましく用いる事ができる。また、好適に使用できるポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略す)は、紡糸可能な範囲であれば特に限定されることはないが、1〜100g/10分が好ましく、より好ましくは、5〜70g/10分である。
【0016】
上記MFR以外のポリオレフィンの物性、例えばQ値(重量平均分子量/数平均分子量)、ロックウェル硬度、分岐メチル鎖数等の物性は、本発明の要件を満たすものであれば、特に限定されない。
【0017】
本発明における第1成分/第2成分の好ましい組合せとしては、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートが例示できる。またポリエチレンテレフタレートの他にも、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸を用いても良い。
【0018】
本発明に用いる熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内でさらに、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料及び可塑剤等の添加剤を適宣必要に応じて添加してもよい。
【0019】
本発明の複合繊維は、例えば、上記第1成分と第2成分を用いて溶融紡糸法により未延伸繊維を得た後、延伸工程で一部配向結晶化を進めた上で捲縮工程において捲縮を付与し、その後熱風乾燥機等を用いて所定の温度で一定時間熱処理を施して結晶化を進める事で得ることができる。
【0020】
本発明の構成要件である加熱処理後の嵩維持率について説明する。熱接着不織布の嵩高性は、例えば繊度、断面形状、捲縮形態等の繊維物性と、複合繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点、分子量、及び結晶化度等、樹脂由来の特性から判断される。しかし実際にこれらの特性を満たす複合繊維を用いて熱接着不織布を作製しても、十分な嵩高性が得られない現象がしばしば確認されていた。そこで様々な検証を行った結果、嵩高性を判断できる第1の因子として、熱接着時の温度条件下でも捲縮を維持できる捲縮形態の安定性が挙げられ、この因子を検証できる手法として下記指標を提案するに至った。
【0021】
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
ここで、H0は目付200g/m2のウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態でのウェブ高さであり、H1は同ウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で、145℃で5分間熱処理した後のウェブ高さである。
【0022】
捲縮の熱に対する安定性が高ければ、加熱後のウェブ高さH1も十分に高い。上記測定方法と実際に得られる不織布の嵩高性との関係を検証した結果、算出される熱処理後の嵩維持率が20%以上、更に好ましくは25%以上であれば、嵩高性、嵩回復性に優れる不織布を得られる事が判った。
【0023】
従来の手法は、捲縮付与後の熱処理工程で十分高い温度(最大で熱接着成分の融点より5℃以上低い温度)を掛けることでより結晶化を進めさせ、嵩回復性に優れた剛性の高い繊維を得ようとしていたが、この時予め付与された捲縮の形態安定性が十分でなければ、熱処理工程で捲縮の伸びやへたりが起こり、不織布の嵩高性に寄与する事が難しくなってしまう。例えば延伸工程で十分な繊維強度を得る為に延伸倍率を上げたり、加熱温度を上げる等の手段をとった場合、捲縮工程前で配向結晶化が進み過ぎ、剛直な捲縮が得られ難くなる。この為熱処理工程の高温条件下において捲縮の形態安定性が保てなくなってしまう。逆に、配向結晶化を抑制する為に延伸倍率や加熱温度を下げた場合、熱処理工程での熱収縮や繊維強度の低下等、好ましくない結果となる。
【0024】
従って、延伸から捲縮付与までの工程に於いては、配向結晶化を若干抑制し、且つ繊維強度を維持させて後工程で捲縮の伸びや熱収縮を起こし難い剛直な捲縮を付与し、後の熱処理工程で、結晶化を更に進めることで、不織布化における熱接着工程でも捲縮を維持し易く、嵩高性、嵩回復性に優れた不織布を得る事が可能となる。具体的には、延伸から捲縮付与までの工程は、延伸倍率は未延伸繊維における破断延伸倍率の75〜90%で延伸することが好ましく、また加熱温度は第1成分のガラス転移点(Tg)+10℃以上〜第2成分の融点−10℃以下の範囲で行うのが好ましい。その後熱風乾燥機等を用いて、好ましくは第2成分の融点より低いが融点より15℃を越えて低くはない温度、より好ましくは第2成分の融点より低いが10℃を越えて低くはない温度で熱処理して、結晶化を進行させる。熱処理には、熱風循環型乾燥機、熱風通気式熱処理機、リラクシング式熱風乾燥機、熱板圧着式乾燥機、ドラム型乾燥機、赤外線乾燥機等公知のものを用いることができる。
【0025】
また不織布化工程時に熱収縮が発生すると、捲縮形態の安定性が妨げられる為、下記測定方法で算出される熱処理後の収縮率が3%以下である事が好ましい。
収縮率={(25(cm)−h1(cm))/25(cm)}×100 (%)
ここで、h1は、縦25cm×横25cmで目付が200g/m2のウェブを145℃で5分間熱処理した後の縦もしくは横のいずれか短いほうの長さである。
【0026】
本発明の要件を達成する好ましい手法として、一定量以上の二酸化チタン等の無機微粒子を繊維中に添加する手法が挙げられる。溶融紡糸工程において溶融樹脂を吐出、巻取りにより繊維を形成する際、冷却条件や固化時に繊維軸上へ掛かる応力等により配向結晶化が促進されるが、ここで二酸化チタン等の無機微粒子が添加されている場合、微粒子が配向結晶化を一部阻害すると考えられる。この為延伸工程に於いて延伸倍率や加熱温度を上げる等の手段をとった場合でも、これら無機微粒子に起因して配向結晶化が一部抑制された状態で捲縮工程に入ることが容易となり、剛直にセットされた捲縮を付与する事が可能となる。
【0027】
また、無機微粒子の中でも比重3.7〜4.3と高い二酸化チタンは、自重に由来するドレープ感や滑らかな触感を与え、ボイドやクラック等繊維内外の空隙を生成する事により、柔軟性に優れた繊維を得る事が出来る。この中でボイドやクラック等繊維内外の空隙発生は繊維強度の低下を招きやすい為、本発明の要件を達成するには余り好ましくないと考えられたが、熱処理工程で十分高い温度を掛けることで結晶化と並行してボイドやクラック等の縮小化が図られる。その結果、繊維強度が低下せず嵩高性、嵩回復性に優れ、且つ柔軟性も有する熱接着性複合繊維を得る事が可能となる。つまり、本発明の複合繊維は、無機微粒子を添加することによって、他の構成要件と相乗的に作用し合う結果、高い延伸倍率や高い加熱温度で延伸をかけられることによる捲縮形状の剛直性付与及び熱安定性向上効果を享受しながらも、同時に、嵩高性、嵩回復性、特に柔軟性をも併せ持つという、本来の無機微粒子添加の作用効果からは予期せぬ優れた効果を奏するものとなる。
【0028】
本発明に用いる無機微粒子は、比重が高く、溶融樹脂中での凝集が起こり難い物であれば特に限定されないが、一例を挙げれば酸化亜鉛(比重5.2〜5.7)、チタン酸バリウム(比重5.5〜5.6)、炭酸バリウム(比重4.3〜4.4)、硫酸バリウム(比重4.2〜4.6)、酸化ジルコニウム(比重5.5)、ケイ酸ジルコニウム(比重4.7)、アルミナ(比重3.7〜3.9)、酸化マグネシウム(比重3.2)或いはこれらとほぼ同等の比重を持つ物質が挙げられ、中でも二酸化チタン、酸化亜鉛が好ましく用いられる。
【0029】
本発明に用いる無機微粒子は、本発明の熱接着性複合繊維の質量基準で0.3〜10質量%の範囲で含有されるのが好ましく、さらに好ましいのは0.5〜5質量%、より好ましくは0.8〜5質量%の範囲である。含有量が0.3質量%以上であるとき、十分な柔軟性を発現させる事ができ好ましい。一方、含有量が10質量%以下であれば、紡糸性の悪化や繊維強度の低下、或いは変色が起こらず、生産性と品質安定性が良好に維持される。無機微粒子は、本発明の熱接着性複合繊維の質量基準で、好ましくは0.3〜10質量%の範囲で含有されるという条件の下、第1成分のみ、第2成分のみ、もしくは、両成分に含有されていても構わないが、不織布化後の強度が維持し易い点で少なくとも第1成分に含有されるのが好ましい。無機微粒子の添加方法としては、例えば、第1成分や第2成分中にパウダーを直接添加、或いはマスターバッチ化して練り込む方法などを挙げることができる。マスターバッチ化に用いる樹脂は、第1、第2成分と同じ樹脂を用いる事が最も好ましいが、本発明の要件を満たすものであれば特に限定されず、第1、第2成分と異なる樹脂を用いても良い。
【0030】
本発明に用いる無機微粒子の含有量の混率を定性、定量的に確認する方法として、繊維表面に露出した無機微粒子を蛍光X線分析、X線光電子分光分析等により表面分析を行う方法、繊維を構成する熱可塑性樹脂を溶解可能な溶媒を用いて溶解、含有する無機微粒子を濾過、遠心分離等の手法で分離した後、先に挙げた表面分析及び原子吸光法、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法等の手法で元素分析を行う方法等が挙げられる。勿論、例示したこれらの方法に限定されず、他の手法でも確認可能である。更に、これらの手法を併用することにより、含有する無機物1種類であるか、または複数の無機微粒子を混合させた物であるかを判別し易くなる為好ましい。
【0031】
本発明の熱接着性複合繊維の断面形状としては、同心鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、同芯中空型、並列中空型、偏心中空型、多層型、放射型または海島型等が例示できるが、円形断面形状だけでなく、異形断面形状(非円形断面形状)にすることもでき、例えば、星形、楕円形、三角形、四角形、五角形、多葉形、アレイ形、T字形及び馬蹄形等を挙げることができが、捲縮への形状安定性を付与し易い事、不織布の嵩高性と強度とのバランスが取り易い事等の理由から、同心鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、同芯中空型、並列中空型、偏心中空型である事が好ましく、中でも同心鞘芯型、偏心鞘芯型、同芯中空型、偏心中空型断面である事がより好ましい。更に熱処理工程において、第1成分と第2成分の弾性収縮差に由来する自発的な捲縮の発現が可能である偏心断面、具体的には、偏心鞘芯型、偏心中空型が特に好ましい。
【0032】
本発明の熱接着性複合繊維において、第1成分と第2成分との複合比は10/90容量%〜90/10容量%の範囲にすることが好ましく、より好ましくは30/70容量%〜70/30容量%である。かかる範囲の複合比とすることにより、両成分が均一に配置された断面形状となる。尚、以下の説明においても複合比の単位は容量%である。
【0033】
本発明における熱接着性複合繊維の繊度は、0.9〜8dtexが好ましく、より好ましくは1.1〜6.0dtex、さらに好ましいのは1.5〜4.4dtexである。かかる範囲の繊度とする事により嵩高性と柔軟性との両立を可能とすることが出来る。
【0034】
この様にして得られた熱接着性複合繊維は、加工時における加熱接着の際でも捲縮の形態安定性を維持できる為嵩高性、嵩回復性に加え、且つ柔軟性にも優れる為ネット、ウェブ、編織物、不織布等を作製することができ、特に不織布として好ましく用いられる。不織布加工の方法としては、サーマルボンド法(スルーエアー法、ポイントボンド法)、エアレイド法、ニードルパンチ法、ウォータージェット法等の公知の方法を用いることができる。また、混綿、混紡、混繊、交撚、交編、交繊等の方法で混合した繊維を前記不織布加工の方法で布状の形態にすることもできる。
【0035】
本発明の熱接着性複合繊維を用いた繊維製品としては、おむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など様々な嵩高性、柔軟性を要求される繊維製品への用途に利用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、各例において物性評価は以下に示す方法で行った。
【0037】
(熱可塑性樹脂)
繊維を構成する熱可塑性樹脂として以下の樹脂を用いた。
樹脂1:密度0.96g/cm3、MFR(190℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が130℃である高密度ポリエチレン(略記号PE)
樹脂2:MFR(230℃ 荷重21.18N)が5g/10min、融点が162℃である結晶性ポリプロピレン(略記号PP)
樹脂3:MFR(230℃ 荷重21.18N)が16g/10min、融点が131℃であるエチレン含有量4.0質量%、1−ブテン含有量2.65質量%のエチレン−プロピレン−1−ブテン3元共重合体。(略記号co−PP)
樹脂4:固有粘度が0.65、ガラス転移点が70℃であるポリエチレンテレフタレート。(略記号PET)
樹脂5:固有粘度が0.92であるポリトリメチレンテレフタレート。(略記号PPT)
樹脂6:MFR(190℃ 荷重21.18N)が13.5g/10min、融点が175℃であるポリ乳酸(トヨタ自動車製「U‘z S-17」)
繊維に用いる樹脂とその組み合わせを表1に示す。
【0038】
(無機微粒子の添加方法)
繊維への無機微粒子の添加方法は、以下の方法を用いた。
無機微粒子の粉体をマスターバッチ化後、第1成分及び/または第2成分へ添加する。マスターバッチ化に用いる樹脂は、第1、第2成分と同じ樹脂を用いた。
【0039】
(メルトフローレート(MFR)の測定)
JIS K 7210に準拠し、メルトフローレートの測定を行った。ここで、MIは、附属書A表1の条件D(試験温度190℃、荷重2.16kg)に準拠し、MFRは、条件M(試験温度230℃、荷重2.16kg)に準拠して測定した。
【0040】
(嵩維持率)
試料繊維約100gを大和機工株式会社製500mmサンプルローラーカード試験機を用いて、ドラム周速432m/min、ドファー周速7.2m/min(周速比60:1)にてカードウェブとし、ドラム周速7.5m/minで巻き付けて目付200g/m2のウェブを作製した。試料繊維をローラーカード試験機にてカードウェブとし、目付200g/m2のウェブを作製した。同ウェブを25×25cmにカットし、0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で四辺の高さを測定した値の平均をH0(cm)とした。この状態で市販の熱風循環ドライヤーを用いて145℃で5分間熱処理を行った。
熱処理後のカードウェブを放冷後、H0を測定した同じ四辺の箇所を測定して値の平均H1(cm)を求め、以下の式から嵩維持率を算出した。
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
【0041】
(収縮率)
試料繊維を上記と同じ条件でローラーカード試験機にてカードウェブとし、目付200g/m2のウェブを作製した。同ウェブを縦25×横25cmにカットし、この状態で市販の熱風循環ドライヤーを用いて145℃で5分間熱処理を行った。
熱処理後のカードウェブを放冷後、縦もしくは横のいずれか短いほうの長さを3箇所に分けて測定し、値の平均h1(cm)を求め、以下の式から収縮率を算出した。
収縮率={(25(cm)−h1(cm))/25(cm)}×100 (%)
【0042】
(柔軟性)
不織布を、10人のモニターに触ってもらい、表面の滑らかさ、クッション性、ドレープ性等の観点から柔軟性を評価してもらい、その評価結果を下記のとおり分類した。
◎:8人以上が柔軟性良好と判断した。
○:6人以上が柔軟性良好と判断した。
△:4人以上が柔軟性良好と判断した。
×:柔軟性良好と判断したのは2人以下であった。
【0043】
(繊維の製造)
表1〜3に示す熱可塑性樹脂を用い、第1成分を芯側、第2成分を鞘側に配し、同様に表1〜3に示す押出温度と、複合比(容量比)、断面形状で紡糸し、その際、アルキルフォスフェートK塩を主成分とする繊維処理剤をオイリングロールに接触させて、該処理剤を付着させた。得られた未延伸繊維を、延伸温度(熱ロールの表面温度)90℃に設定し、表1〜3に示す条件で延伸工程−捲縮付与工程を経た後、熱風循環型乾燥機を用いて表1、2に示す熱処理温度で5分間熱処理工程を施して繊維を得た。次いで、該繊維をカッターでカットして短繊維とし、これを試料繊維として用いた。得られた試料繊維は、ローラーカード試験機にて目付200g/m2のカードウェブを作成し、嵩維持率、収縮率の測定に用いた。
【0044】
(不織布化)
上記工程で得られた試料繊維を、別途ローラーカード試験機にてカードウェブとし、このウェブをサクションドライヤーで、130℃でスルーエアー加工(略称TA)して、目付25g/m2の不織布を得た。
【0045】
実施例1〜12、比較例1〜4
表1〜3に示される条件に基づいて複合繊維及びその繊維を用いた不織布を得、それらの性能を前記評価方法に基づき評価、測定した。その結果を表1〜3にあわせて示す。

























【0046】
【表1】

















【0047】
【表2】

















【0048】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱接着性複合繊維は、加熱処理後の嵩維持率が20%以上に保たれる事で、不織布化時における加熱接着の際でも捲縮の形態安定性が維持され、柔軟性が高く嵩高性、嵩回復性に優れた不織布を作成する事が出来る。特に、無機微粒子を添加することによって、他の構成要件と相乗的に作用し合う結果、捲縮形状の剛直性付与及び熱安定性向上効果を享受しながらも、同時に、嵩高性、嵩回復性、特に柔軟性をも併せ持つという、本来の無機微粒子添加の作用効果からは予期せぬ優れた効果を奏するものとなる。
更に、本発明の熱接着性複合繊維から得られる不織布は優れた嵩高性、嵩回復性を有し、且つ柔軟性にも優れているので、嵩高性と柔軟性の双方を要求される用途、例えばおむつ、ナプキン、失禁パット等の吸収性物品、ガウン、術衣等の医療衛生材、壁用シート、障子紙、床材等の室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、生ゴミ用カバー等の生活関連材、使い捨てトイレ、トイレ用カバー等のトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、ペット用タオル等のペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、インクタンク用吸着材等の産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など様々な嵩高性、柔軟性を要求される繊維製品への用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂よりなる第1成分と、前記ポリエステル系樹脂の融点より20℃以上低いポリオレフィン系樹脂よりなる第2成分から構成される熱接着性複合繊維であって、下記測定方法で算出される熱処理後の嵩維持率が20%以上である事を特徴とする熱接着性複合繊維。
嵩維持率=(H1(mm)/H0(mm))×100 (%)
(H0は、目付200g/m2のウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態でのウェブ高さであり、H1は、同ウェブに0.1g/cm2の荷重を掛けた状態で、145℃で5分間熱処理した後のウェブ高さ。)
【請求項2】
下記測定方法で算出される熱処理後の収縮率が3%以下である請求項1に記載の熱接着性複合繊維。
収縮率={(25(cm)−h1(cm))/25(cm)}×100 (%)
(h1は、縦25cm×横25cmで目付が200g/m2のウェブを145℃で5分間熱処理した後の縦もしくは横のいずれか短いほうの長さ。)
【請求項3】
熱接着性複合繊維中の無機物微粒子含有量が0.3〜10質量%である請求項1または2項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項4】
第1成分を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項5】
第2成分を構成するポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレンを主成分とする共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項6】
熱接着性複合繊維の繊度が0.9〜8.0dtexである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項7】
熱接着性複合繊維の断面形状が、偏心断面である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項8】
請求項3記載の熱接着性複合繊維の製造方法であって、第1成分及び/又は第2成分の樹脂に無機物微粒子を添加して紡糸し、延伸倍率を未延伸繊維における破断延伸倍率の75〜90%とし、加熱温度を第1成分のガラス転移点(Tg)+10℃以上〜第2成分の融点−10℃以下の範囲として延伸及び捲縮工程を行った後、第2成分の融点より低いが融点より15℃を越えて低くはない温度で熱処理することを含む、熱接着性複合繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−274448(P2008−274448A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115552(P2007−115552)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】