説明

工作機械用軸受の防錆包装体および防錆包装方法

【課題】 包装状態での錆の発生の問題がなく、かつ軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができ、包装作業にも手間のかからない工作機械用軸受の防錆包装体、およびその防錆包装方法を提供する。
【解決手段】 工作機械用軸受2を気化性防錆シート3で包装する。工作機械用軸受2は軸受油を塗布したものであっても良い。前記油としては、工作機械用軸受2を運転するときに使用する潤滑油を用いることが好ましい。工作機械用軸受2は、形式、大きさ、形状等を問わないが、例えばエアオイル潤滑、オイルミスト循環に代表される微量潤滑用の精密軸受であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械用軸受、例えば高速回転・高精度が要求される工作機械主軸に使用される工作機械用軸受、特にエアオイル潤滑やオイルミスト潤滑等の油潤滑で使用される精密軸受である工作機械用軸受の防錆包装体および防錆包装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械用軸受に使用される精密軸受は、軸受洗浄後に防錆油を塗布し、フィルム状のビニルシートで包み、厚紙製等の小箱に入れる包装形態を取っている。その軸受を使用する際は、軸受に塗布された防錆油を除去する必要があり、軸受を洗浄する必要がある。
工作機械主軸用に使用する精密軸受の潤滑方法は、エアオイル潤滑(オイルおよびエア潤滑)またはオイルミスト潤滑等、ごく少量の潤滑油を供給するため、軸受に塗布された防錆油が残ったままでであると、潤滑性能への影響があり、軸受の発熱など問題を起こす必要がある。そのため、防錆油は洗浄することが必要となる。
【0003】
この他に、不飽和脂肪族化合物及び触媒を含む組成物を通気性包装材料に包装してなる防錆剤包装体とともに、ガスバリアー性の袋に軸受を密封する軸受保存方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
なお、一般の物品の防錆包装方法としては、気化性防錆剤を含浸させた防錆ポリエチレンシートと共に、物品を通常のポリエチレン袋に入れて梱包する防錆梱包方法も提案されている(例えば特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−186832号公報
【特許文献2】特許第3028966号公報
【特許文献3】特開2003−312748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の防錆油を塗布する方法では、防錆油除去のために軸受の洗浄が必要であり、洗浄装置が必要となる点、洗浄油のゴミ・汚れ等の管理が必要な点、および洗浄油の廃棄管理が必要な点等の問題があり、また洗浄時間が必要であり、作業効率が悪いという点の問題があった。特に、洗浄油の使用および廃油の問題は、近年の作業環境の改善および環境負荷の低減という点では、出来れば使用したくないものである。
また、近年の工作機械の主軸軸受の高速化に伴い、潤滑性能の向上が必要である。さらに工作機械メーカ等の客先で上記のような洗浄工程が必要な場合では、洗浄度レベルの管理が潤滑性能へ影響する問題もある。
そこで、軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用できれば、上述の種々の問題は解消し、環境にやさしい製品となる。
【0005】
上記の防錆剤包装体とともに、ガスバリアー性の袋に密封する方法は、防錆剤包装体を同封する必要があって、手間がかかるうえ、防錆剤包装体の同封忘れによって、防錆性が得られなくなる恐れがある。
【0006】
この発明の目的は、包装状態での錆の発生の問題がなく、かつ軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができ、包装作業にも手間のかからない工作機械用軸受の防錆包装体、およびその防錆包装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の工作機械用軸受の防錆包装体は、工作機械用軸受に軸受油を塗布し、気化性防錆シートで包装したことを特徴とする。気化性防錆シートは、樹脂フィルム等のシートに気化性防錆剤を混練加工,含浸,または塗工等により施したものである。
気化性防錆シートで包装されていると、この気化性防錆シートから防錆剤が気化したり、侵入した水分に溶け込んだりして工作機械用軸受の金属表面に防錆剤の膜を形成し、防錆効果を発揮する。この金属表面の防錆剤の膜は、潤滑油等の潤滑剤に影響を与えない。そのため、軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができる。気化性防錆シートで包むだけで良く、防錆剤等を同封する必要がないため、包装時の作業も容易であり、防錆剤の同封忘れ等により錆を発生させる恐れもない。
【0008】
軸受油を工作機械用軸受に塗布して包装すると、包装状態における工作機械用軸受の錆の発生がより確実に防止される。その油として、工作機械用軸受を運転するときに使用する潤滑油を用いると、包装時に塗布された油をそのまま軸受使用時の潤滑に用いることができる。軸受の客先となる工作機械メーカによって使用潤滑油が異なることがあり、また使用形態によって使用潤滑油が異なることがあるが、その場合は、客先から工作機械用軸受への使用潤滑油の情報を得て、その使用潤滑油を、包装する工作機械用軸受に用いる。または、使用潤滑油が異なる場合でも使用可能とするため、低粘度(ISOのVG2から10)鉱油系軸受油を用いる。
【0009】
この発明において、前記工作機械用軸受は、エアオイル潤滑、オイルミスト循環に代表される微量潤滑用の精密軸受であっても良い。
微量潤滑用の精密軸受である場合、軸受の転走面や転動体に残っている潤滑油の性状が潤滑性能に大きく影響する。そのため、従来のように防錆油を塗布した場合は高度な洗浄度を要求され、手間のかかる洗浄作業となる。したがって、気化性防錆シートの採用より開封後にそのまま使用できることによる効率向上の効果が高い。
【0010】
この発明の工作機械用軸受の防錆包装方法は、工作機械用軸受に軸受油を塗布し、この工作機械用軸受を気化性防錆シートで包装することを特徴とする。
この方法によると、この発明の工作機械用軸受の防錆包装体について説明したように、包装状態での錆の発生の問題がなく、かつ軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の工作機械用軸受の防錆包装方法は、工作機械用軸受に軸受油を塗布し、この工作機械用軸受を気化性防錆シートで包装する方法であるため、包装状態での錆の発生の問題がなく、かつ軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。この工作機械用軸受の防錆包装体1は、工作機械用軸受2を気化性防錆シート3で包装したものである。気化性防錆シート3により工作機械用軸受2を包み込む形態は、例えば図1(C)のように広げた気化性防錆シート3上に工作機械用軸受2を置き、気化性防錆シート3で同図(B)のように、工作機械用軸受2が隙間なく覆われるように包み込む形態とされる。この包み込みは、気化性防錆シート3を工作機械用軸受2に対して十分に広いものとし、1枚の気化性防錆シート3で工作機械用軸受2を何層かに包むようにしても良い。
【0013】
包み込み形態は、この他に、例えば図3に示すように、気化性防錆シート3をヒートシール等で密封し、工作機械用軸受2を密封状態に包装するものとしても良い。
いずれの包み込み形態の場合も、その気化性防錆シート3で包装した工作機械用軸受2の防錆包装体1は、厚紙等の箱(図示せず)に入れて保管され、運搬される。
【0014】
工作機械用軸受2は、その形式、大きさ、形状等を問わないが、例えば図2に示す深溝玉軸受であっても良い。同図の工作機械用軸受2は、内輪5と外輪6の転走面5a,6aの間にボールからなる複数の転動体7を介在させたものである。各転動体7は、リング状の保持器9に設けられた円周方向複数箇所のポケットに保持される。内輪5,外輪6,および転動体7の材質は、例えば軸受鋼等からなる。
この工作機械用軸受2は、エアオイル潤滑、オイルミスト循環に代表される微量潤滑用の精密軸受であっても良い。エアオイル潤滑は、搬送エア中にオイルを噴霧状態に含ませたものである。
【0015】
また、包装する工作機械用軸受2は、軸受油を塗布したものであっても良い。前記軸受油としては、その工作機械用軸受2を運転するときに使用する潤滑油を用いることが望ましい。
【0016】
気化性防錆シート3は、ポリエチレンフィルム等の樹脂フィルムに、気化性防錆剤を混練加工,含浸,または塗工等により施したものである。
気化性防錆剤を混練加工した気化性防錆シート3の場合は、表裏の区別なく使用できるものがあり、包装の作業がより容易となる。また、ポリエチレンフィルムを用いた気化性防錆シート3の場合、ポリエチレンフィルムの柔軟な特性がそのまま残り、包装の作業性が良い。
気化性防錆シート3は、ヒートシール材として用いられるエチレン系樹脂を樹脂フィルムに用いたものや、複数種類の樹脂フィルム、または樹脂フィルムと紙フィルム等を重ねたラミネートフィルムを用いたものであっても良い。気化性防錆シート3は、ストレッチフィルム型のものであっても良い。気化性防錆シート3は、これらの他にアルミ箔ラミネートフィルムであっても良い。
【0017】
気化性防錆シート3に使用する気化性防錆剤としては、室温でも蒸発・昇華性を有し、防錆効果を発揮するものであれば特に制限されない。例えば、有機カルボン酸アミン塩、亜硝酸アミン塩、リン酸アミン塩、炭酸アミン塩、あるいはベンゾトリアゾール、3−アミノー1,2,4ートリアゾール等の複素環式アミン等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0018】
この主の気化性防錆シート3としては、自動車部品や機械部品の防錆包装用のシートとして各種のものが市販されており、それらを使用することができる。例えば、アイセロ化学株式会社製の「ボーセロン」や、大洋液化ガス株式会社製の「ゼラスト」等が使用できる。これら「ボーセロン」および「ゼラスト」は、いずれもポリエチレンフィルムに防錆機能を付加させたものである。
【0019】
この構成の防錆包装体1によると、気化性防錆シート3で包装されているため、気化性防錆シート3から防錆剤が気化したり、侵入した水分に溶け込んだりして工作機械用軸受2の金属表面に防錆剤の膜(図示せず)を形成し、防錆効果を発揮する。例えば、気化した防錆剤はイオン化して金属表面のアノードやカソードに吸着し、分子膜を形成する。この防錆剤分子膜は、水等の電解質を遮断し、アノードでの酸化反応とカソードでの還元反応を同時に抑制する。そのため金属の腐食が抑制される。この金属表面の防錆剤の膜は、潤滑油やグリース等の潤滑剤に影響を与えない。そのため、軸受を包装から取り出した後、洗浄することなくそのまま使用することができる。
【0020】
つぎに、各試験例を説明する。
(1)予備試験
予備試験では、包装形態として、図1に示すように工作機械用軸受2をフィルムで包み込む形態とした。防錆剤を使用する場合は、図4に概略的に示すように、工作機械用軸受2を包装フィルム3′で包装すると共に、防錆剤10を同封した。同封の防錆剤10としてシート状のものを用いる場合は、そのシート状防錆剤10により工作機械用軸受2を包装し、その外側から包装フィルム3′で包装する形態とした。なお、図4では概略的に示したが、包装フィルム3′は、図1の例のように包み込む形態とした。
【0021】
試験軸受:深溝玉軸受(呼び番号:6007P4)、(n=2(それぞれの試験条件種 類毎に2個使用))
環境条件:温度40℃、湿度90%(高温,高湿槽内)
試験条件:試験軸受を、次の3つの条件A〜Cの組み合わせ(A.表面状態、B.包装 フィルム、C.同封防錆剤)により14種類のサンプルを製作。次の表1に は、上記A〜Cの該当する箇所に●を付した。
試験期間:2か月。
試験結果:次の表1
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、「A.表面状態」としては、軸受油塗布と絶乾の種類とした。
包装フィルムcと同封防錆剤cの組み合わせは、防錆能力は優れているが、必ず包装フィルムcと同封防錆剤cの組み合わせが必要であり、コスト面でも防錆剤a,bの使用に比べて5倍程度と高い。
予備試験の結果、組み合わせによる手間およびコスト面を考慮し、サンプル(6) (軸受油塗布、包装フィルムb、および同封防錆剤bの組み合わせ)を第1候補とし、本試験を実施した。
【0024】
(2)本試験
試験軸受:深溝玉軸受(呼び番号:6007P4)およびアンギュラ玉軸受(呼び番号 :7206CP5)の2種類
環境条件:温度40℃、湿度90%(恒温高湿度槽内)
防錆条件:通常洗浄→軸受油(※洗浄液15%混入)浸漬、→包装
(※洗浄液を混入したのは、実際の工程において、洗浄後にスピンドル油へ 浸漬するに当たり、軸受に付着した洗浄液の軸受油槽への混入が防錆 能力への影響を与えるか否かの確認のため)
包装条件:
I.同封梱包剤(気化性防錆シート)で包装の後、さらに包装フィルムで包装(予備試験の評価サンプル(6) と同じ。)
II. 同封梱包剤(気化性防錆シート)のみで包装
(手間のかかる二重包装を避けるべく、気化性防錆シートのみで効果確認するため) 試験期間:約8か月
【0025】
本試験の結果
いずれの条件の場合も、軸受表面、転走面、転動体に発錆は認められない。
表面付着の軸受油にも劣化・水分吸収は認められない。
なお、並行して実施していた倉庫への放置試験においても、この本試験の包装条件のものは、発錆が認められなかった。
【0026】
以上の試験結果から分かるように、工作機械用軸受2に軸受油を塗布し気化性防錆シート3で包装することにより、包装状態での錆の発生の問題がなくせる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかる工作機械用軸受の防錆包装体の内容物を示す斜視図、(B)はその外観斜視図、(C)はその開封状態の斜視図である。
【図2】同工作機械用軸受の防錆包装体の断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態にかかる工作機械用軸受の防錆包装体につき、シートのみを破断した断面図である。
【図4】予備試験に用いた包装形態の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…防錆包装体
2…工作機械用軸受
3…気化性防錆シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械用軸受を気化性防錆シートで包装したことを特徴とする工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項2】
請求項1において、前記工作機械用軸受は軸受油を塗布したものである工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項3】
請求項2において、前記軸受油として、前記工作機械用軸受を運転するときに使用する潤滑油を用いる工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項4】
請求項2において、前記軸受油として、潤滑油メーカ、銘柄が異なる場合でも使用可能とするため、低粘度(ISOのVG2から10)鉱油系軸受油を用いる工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記工作機械用軸受は、エアオイル潤滑、オイルミスト循環に代表される微量潤滑用の軸受である工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項6】
工作機械用軸受に軸受油を塗布し、この工作機械用軸受を気化性防錆シートで包装することでより防錆効果を向上させた工作機械用軸受の防錆包装方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械用軸受と、この工作機械用軸受を包装した気化性防錆シートとでなる工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項2】
請求項1において、前記工作機械用軸受は軸受油を塗布したものである工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項3】
請求項2において、前記軸受油として、前記工作機械用軸受を運転するときに使用する潤滑油を用いる工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項4】
請求項2において、前記軸受油として、潤滑油メーカ、銘柄が異なる場合でも使用可能とするため、低粘度(ISOのVG2から10)鉱油系軸受油を用いる工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記工作機械用軸受は、エアオイル潤滑、オイルミスト循環に代表される微量潤滑用の軸受である工作機械用軸受の防錆包装体。
【請求項6】
工作機械用軸受に軸受油を塗布し、この工作機械用軸受を気化性防錆シートで包装することでより防錆効果を向上させた工作機械用軸受の防錆包装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−200658(P2006−200658A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14353(P2005−14353)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】