説明

工具位置測定方法と装置

【課題】マイクロエンドミル等の微小工具の位置を、非接触で繰り返し精度が高く、工具刃先形状の違いによる測定誤差を受けにくく、工具刃先と被削材の位置を直接測定可能な工具位置測定方法と装置を提供する。
【解決手段】マイクロエンドミル等の刃先を有する切削加工用の工具12と被削材22との隙間を照明可能なインコヒーレントな光源と、光源により照明された工具12と被削材22及びその間隙を撮像するカメラ32を備える。工具12と被削材22の距離により光強度が変化するような、工具12と被削材22との間隙の領域で、その光強度を検出して工具12の位置を測定する演算手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、いわゆるマイクロエンドミル等の微小工具の位置を非接触で検出する工具位置測定方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロレンズアレイなどの光学部品の金型や、マイクロ流体機械の切削加工には、直径φ=0.01mm〜0.2mm程度のマイクロエンドミル等の微小な工具を用いることが多い。このような工具を使用する際、高精度な加工を行うために、工具と被削材との距離を正確に測定しなければならない。
【0003】
工具位置の検出には種々の方法があり、一般的には特許文献1に開示されているように、工具に接触する摺動体を設けて、工具への接触を電気的に検知して、工具位置の検出を行っている。また、特許文献2に開示されているように透過型レーザ測定装置と電気マイクロメータ、及び顕微鏡等を用いて工具の測定を行う装置もある。その他、特許文献3に開示されているように、CCDカメラにより工具先端を撮像して、工具の位置合わせを行う方法もある。
【0004】
また、非特許文献1に開示されているように、レーザ光の回折を利用して微小工具の測定を行う方法も提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−75908号公報
【特許文献2】特開平6−109440号公報
【特許文献3】特開2006−142412号公報
【非特許文献1】パナート カチョーンルンルアン レーザ回折を用いたマイクロ工具オンマシン計測ユニットの試作,2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,(2007)305
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている接触式の工具位置測定装置では、現実的には被削材に対して0.3N程度の測定力が加わり、極小径の工具の場合、切れ刃を破損することがしばしばある。また、特許文献2に開示されたような非接触式の工具位置測定装置のレーザ光透過方式の場合、工具刃先形状の違いによる測定誤差があるという問題があった。さらに、CCDカメラ方式では、工具刃先とベッド面の距離を直接測定することができず、タッチセンサを介する必要があるため、それに起因する誤差要因が増える。
【0007】
また、非特許文献1に開示されたレーザ光回折方式では、測定対象が工具とナイフエッジであり、工具と被削材ではない。さらに、それらのすき間は、数十μmのオーダーになるため、それ以下の精度で工具位置を検出することはできず、マイクロエンドミル等の微小工具の位置を正確に検出することができないものである。
【0008】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、マイクロエンドミル等の微小工具の位置を、非接触で繰り返し精度が高く、工具刃先形状の違いによる測定誤差を受けにくく、工具刃先と被削材の位置を直接測定可能な工具位置測定方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法では、工具刃先と被削材の接近を側面から直接観察し、そこを通過する光強度が隙間の二乗に比例することを利用して、それらの位置を高い繰り返し精度で検出できることを特徴とする。
【0010】
この発明は、マイクロエンドミル等の刃先を有する切削加工用の工具と被削材との間隔を非接触で測定する工具位置測定方法であって、前記工具と被削材との隙間をインコヒーレントな光により照明して、前記工具と被削材及びその隙間を撮像して前記工具と被削材との間隙の光強度を測定し、前記工具を前記被削材に近づけて行くに従い、前記光強度が減少するような前記工具と被削材との間隙の領域で、前記光強度の測定値を基に前記被削材に対する前記工具の位置を測定する工具位置測定方法である。
【0011】
またこの発明は、刃先を有する切削加工用の工具と被削材との間隔を非接触により測定する工具位置測定装置において、前記工具と被削材との隙間を照明可能なインコヒーレントな光源と、前記光源により照明された前記工具と被削材及びその隙間を撮像する撮像装置と、前記工具と前記被削材の距離により前記光強度が変化するような前記工具と被削材との間隙の領域で、前記光強度の測定値を基に前記被削材に対する前記工具の位置を測定する演算手段を備えた工具位置測定装置である。
【0012】
前記演算手段は、前記工具と前記被削材の距離により前記光強度が変化する領域の光強度と前記距離の対応を記憶し、前記光強度により前記距離を出力するコンピュータである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の工具位置測定方法と装置によれば、マイクロエンドミル等の微小工具の位置を、非接触で繰り返し精度が高い測定が可能であるとともに、工具刃先形状の違いによる測定誤差を受けにくいものであり、工具刃先と被削材の位置を直接高精度に検出することができる。また、コヒーレントなレーザ光の回折を利用すると、干渉性が高いためにスペックルノイズが発生するが、この発明では、インコヒーレントな光の回折を利用して、工具と被削材の隙間の画像を撮像することにより、スペックルノイズの問題もない。さらに、光源としては、レーザ光源と比較して安価なLEDやその他の一般的な光源を利用することができ、装置全体としても安価なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の工具欠陥検査装置の一実施形態について、図1、図2を基にして説明する。この実施形態の工具位置測定装置10は、図1に示すように、マイクロエンドミルである工具12とそのチャック部14を有し、チャック部14は図示しない加工機の主軸に連結されるものであるが、この実施形態では実験用に取り付け台16に固定されている。取り付け台16は、位置決め用のXYステージ18に固定され、XYステージ18には、水平方向であるXY軸方向にXYステージ18を位置合わせ可能なピエゾアクチュエータ20が設けられている。
【0015】
工具12の先端側には、加工が施される被削材22が対向して位置している。工具12の側方には、図示しないハロゲンランプ等のインコヒーレントな光の光源に接続された光ファイバ24を備え、光ファイバ24からの光の出射端には、所定波長の光を通過させるバンドパスフィルタ26、及び工具12の側方に集光用のコンデンサーレンズ28が設けられている。バンドパスフィルタ26は、例えば波長450nmの光を通過させるものである。
【0016】
工具12を挟んで反対側には、対物レンズ30と結像レンズ31が設けられている。さらに、工具12の先端部を拡大して撮影する対物レンズ30と、工具12の像を撮像するCCD等の撮像素子を内蔵したカメラ32が設けられ、カメラ32の撮像データの出力はコンピュータ等の記憶装置に出力される。
【0017】
この実施形態の工具欠陥検査装置10は、光源から光ファイバ24で導かれたインコヒーレントな光が、バンドパスフィルタ26を通り、コンデンサーレンズ28により集光され、被削材22と工具12の刃先の隙間を通過する。被削材22と工具12の刃先の隙間を通過した光は、対物レンズ30と結像レンズ31を介して、カメラ32の撮像素子に結像される。撮像素子から得られた画像情報は、画像入力ボードを経由してコンピュータに取り込まれ、光強度の測定が行われる。
【0018】
なお、この実施形態では、取り付け台16に、工具12の軸方向の位置を測定するための電気式マイクロメータ34の検知部が接触している。これにより、XYステージ18に取り付けられたピエゾアクチュエータ18により、工具12が被削材22に対して進退すると、その変位量を電気マイクロメータ34により測定される。
【0019】
次に、この発明における工具12と被削材22との距離の測定方法について説明する。ここでは、工具12の刃先と被削材22の隙間をスリットに見立て、図2に示すようにインコヒーレントな光源・レンズ・結像面が位置している場合、工具12の刃先と被削材22との距離wと、結像面中央でのフランホーファー回折による光強度との関係を求める。
【0020】
ここで、物体面での座標系をξ、結像面での座標系をxのそれぞれを一次元と考える。また、物体面から結像面までの距離をL、物体面での光の複素振幅をu、結像面での光の複素振幅をu、光源の波数をkとすると、結像面での光強度分布I(x)は、
【数1】

となり、スリット部での光の複素振幅は、
【数2】

と記述でき、さらに、X≡kx/(2L)とすると、式(1)は、
【数3】

となる。
【0021】
さらに、結像面中央(x=0)での光強度は、sinc(wX)=1から、
【数4】

となり、結像面中央でのフランホーファー回折による光強度I1(0)は、スリット部での光の複素振幅の二乗と、工具12の刃先と被削材22との距離wの二乗の積で表される。スリット部での光の複素振幅の二乗、つまり、スリット部での光強度を常に一定にすることによって、結像面中央での光強度は、工具12の刃先と被削材22の距離wの二乗に比例する。
【0022】
上述の原理により、工具12の刃先が被削材22に接近した際に、その隙間の光強度を測定することにより、隙間の距離に対して急激に光強度が減少することを利用して、繰り返し精度の高い工具位置測定が可能となる。
【0023】
図3に、この発明の実施形態において、R=0.05mmのボールエンドミルが被削材22に近接している画像を示す。この時の工具12の中心での光強度を図4に示す。工具12の刃先と被削材22の隙間が十分開いているときの最大光強度を1として、隙間からの光強度を正規化して表している。以降、正規化された光強度を単に光強度と呼ぶことにし、単位を無次元化して表す。矢印の1から6の破線で示した各光強度分布は、工具12の刃先が被削材22に近づく際の光強度分布を模式的に表したものである。図4の光強度分布の破線の左側のみが移動しているのは、工具12の刃先側のみが移動していることを示している。また、図3の工具12の刃先と被削材22の距離での光強度分布は、図4の矢印4が指示する実線に対応する。
【0024】
以上述べたように、この実施形態の工具位置測定方法と装置によれば、図4に示す矢印4の位置から矢印5,6の位置への変化を検知して、比較的簡単で安価な装置で光学的に非接触で、直接的に工具12の刃先の位置を検出することができる。
【実施例1】
【0025】
次に、この発明の工具位置測定方法と装置による工具位置の検出についての実験結果を説明する。ここでは、表1に示す2種類の工具を用い、図5に定義する3方向について実験を行った。観察される工具刃先の像を図6に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
上記実施形態で説明した理論的なスリット形状での光強度の変化について、ナイフエッジおよび表1の工具刃先と、被削材とのスリット形状の違いによる光強度の変化を測定した。まず、上述の実施形態の方法で、工具刃先と被削材の接触位置を推定し、その位置から、徐々に工具刃先を被削材から遠ざけ、その際の光強度を測定する。得られた光強度曲線を図7〜図9に示す。図の横軸は工具刃先と被削材の距離を示し、縦軸は正規化された光強度を示す。得られた曲線を、図7〜図9のように、それぞれA、B、C領域に分けて定義する。
【0028】
図7に示すナイフエッジの場合、図7のA領域でuS2=0.26μm-2の理論曲線とよく合致し、実際のボールエンドミル及びスクエアーエンドミルの場合は、図8および図9のA領域でuS2=0.6μm-2の理論曲線とよく合致している。ナイフエッジと、各エンドミルの各方向での測定結果で、それぞれ曲線が異なるのは、光の回折による要因が支配的と考えられる。
【0029】
即ち、エンドミルの測定では、3次元的な形状の工具刃先と被削材をスリットに見立てて、スリット幅に対する光強度を測定したが、実際は図6に示したように、理想的なスリットと異なり、測定している中心部でスリット幅が0に近づいても、その周辺のスリット幅は広いため、周辺部からの光の回折による影響を受ける。このため、エンドミルによって得られた光強度曲線は、光の回折による影響のために光強度が押し上げられていると考えられる。よって、ナイフエッジのuS2は、実験で得られた光強度曲線に合致する値より小さい。この要因は、回転方向により各スリット周辺形状が変わることから、光強度曲線が回転方向により変化することによると考えられる。
【0030】
また、各領域においては、A領域では工具と被削材の距離wの二乗に比例する急激な光強度の変化が生じている。一方、C領域はカメラのCCDに入射する光強度が大きいために、出力信号が飽和している。B領域では、A領域のように理論曲線と一致せず、またC領域のように出力信号が飽和していない。
【0031】
そこで、この要因として考えられるCCDのγ値について検討した。上記実施形態の測定装置から工具と被削材を取り外し、可変式NDフィルターを用いて、使用したCCDのγ曲線を求めた。その結果を図10に示す。入力される光強度が0.8以上で、γ=1.0の直線から大きく外れ、入力に対して出力が小さい。よって、図7等のB領域は、全域でγ=1.0に補正した場合、理論で求められた曲線に近づく。しかし、急激な変化のあるA領域を用いて測定する場合は、特に補正などは入れずA領域のみをもいても良い。
【0032】
次に、工具刃先が被削材に接触する直前で、高い繰り返し位置決め精度が得られることを確認した。上記実施形態の図1の装置で、光強度が0.5となる位置に表1の各工具刃先を移動させ、その位置を電気マイクロメータで測定した。これを20回繰り返し、標準偏差σ、および全測定値の最大値から最小値の差を求めた。
【0033】
表2に結果を示し、図11、図12に度数分布を示す。横軸は光強度0.5を検出した位置を示し、プラス側は被削材に接近、マイナス側は被削材から遠ざかっていることを示している。
【表2】

【0034】
繰り返し位置決め精度は、各々の工具で方向3が最も高く、順に方向2、方向1となった。測定方向により繰り返し位置決め精度に差が生じる要因を、光強度曲線との相関から考えると、おおよそ光強度曲線の合致するuS2が大きい測定方向ほど、測定感度が高くなるため、測定精度が高くなると推察される。
【0035】
次に、上記実験で得られた繰り返し位置決め精度、および全測定値の最大値から最小値の差を、従来の接触式の刃先位置測定器(カタログ値2σ=±1μm)と比較した。まず、上述の実施形態の図1の測定装置を図13に示すように再構成した。接触式の刃先位置測定器40と工具12の刃先を対向させ、工具12を被削材22に徐々に接近させ、接触式の刃先位置測定器40が検出信号を出力したときの位置を電気マイクロメータ34で測定した。これを20回繰り返し、その結果を表3に示す。
【表3】

【0036】
この表3より、接触式の刃先位置測定器40の繰り返し位置決め精度がσ=0.100μmであるのに対して、本測定装置の実験結果は表2よりσ≦0.048μmであり、本装置の精度が2倍程度良いことが分かった。
【0037】
以上の実験結果より、この発明の工具位置測定方法と装置は、非接触でかつ工具刃先と被削材の距離を直接測る位置測定装置として、十分な繰り返し位置決め精度をもつ。また、工具刃先形状を直接観察することにより工具刃先形状の違いによる誤差を受けないものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の一実施形態の工具位置測定装置を示す全体構成図である。
【図2】この実施形態の工具位置測定装置の測定原理を示す図である。
【図3】ボールエンドミルと被削材とが近接した状態を撮影した画像である。
【図4】工具中心での光強度と被削材への工具の接近による光強度分布の変化を示すグラフである。
【図5】工具刃先の正面図である。
【図6】2種類の工具刃先を異なる方向から撮影した画像である。
【図7】被削材とナイフエッジとの隙間と光強度の変化示すグラフである。
【図8】被削材とボールエンドミルとの隙間と光強度の変化示すグラフである。
【図9】被削材とスクエアーエンドミルとの隙間と光強度の変化示すグラフである。
【図10】撮像装置のCCDのγ値の測定結果を示すグラフである。
【図11】ボールエンドミルについて、光強度0.5での繰り返し位置決め精度を示す度数分布を表したグラフである。
【図12】スクエアーエンドミルについて、光強度0.5での繰り返し位置決め精度を示す度数分布を表したグラフである。
【図13】接触式の工具位置測定装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 工具位置測定装置
12 工具
22 被削材
24 光ファイバ
32 カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先を有する切削加工用の工具と被削材との間隔を非接触で測定する工具位置測定方法において、前記工具と被削材との隙間をインコヒーレントな光により照明して、前記工具と被削材及びその隙間を撮像して前記工具と被削材との間隙の光強度を測定し、前記工具を前記被削材に近づけて行くに従い、前記光強度が減少するような前記工具と被削材との間隙の領域で、前記光強度の測定値を基に前記被削材に対する前記工具の位置を測定することを特徴とする工具位置測定方法。
【請求項2】
刃先を有する切削加工用の工具と被削材との間隔を非接触により測定する工具位置測定装置において、前記工具と被削材との隙間を照明可能なインコヒーレントな光源と、前記光源により照明された前記工具と被削材及びその隙間を撮像する撮像装置と、前記工具と前記被削材の距離により前記光強度が変化するような前記工具と被削材との間隙の領域で、前記光強度の測定値を基に前記被削材に対する前記工具の位置を測定する演算手段を備えたことを特徴とする工具位置測定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記工具と前記被削材の距離により前記光強度が変化する領域の光強度と前記距離の対応を記憶し、前記光強度により前記距離を出力するコンピュータである請求項2記載の工具位置測定装置。



【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−178818(P2009−178818A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21568(P2008−21568)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】