説明

差動増幅回路

【課題】本発明は、広い入力電圧範囲に対して適切に動作可能であり、且つ低い電源電圧でも適切に動作可能な差動増幅回路を提供することを目的とする。
【解決手段】差動増幅回路は、第1の負荷と、第1の負荷にドレイン端が結合された第1のMOSトランジスタと、第2の負荷と、第2の負荷にドレイン端が結合された第2のMOSトランジスタと、第1及び第2のMOSトランジスタのソース端に共通に結合される第1の定電流源と、第1の負荷にソース端が結合された第3のMOSトランジスタと、第2の負荷にソース端が結合された第4のMOSトランジスタと、第3及び第4のMOSトランジスタのドレイン端に共通に結合される第2の定電流源を含み、第1及び第2のMOSトランジスタは第1の導通タイプであり、第3及び第4のMOSトランジスタは第2の導通タイプであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に信号を増幅する増幅回路に関し、詳しくは差動入力信号を増幅する差動増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の差動増幅回路の回路構成の一例を示す図である。この回路例はNMOSトランジスタを用いた構成であるが、PMOSトランジスタを用いても同様に差動増幅回路を構成することができる。
【0003】
図1に示す差動増幅回路10は、NMOSトランジスタ11、NMOSトランジスタ12、定電流源13、抵抗14、及び抵抗15を含む。NMOSトランジスタ11のゲート端が入力端IN+であり、NMOSトランジスタ12のゲート端が入力端IN−である。NMOSトランジスタ11のドレイン端と抵抗14との接続点が出力端OUT−であり、NMOSトランジスタ12のドレイン端と抵抗15との接続点が出力端OUT+である。定電流源13を流れる電流の電流値をIsrc1とし、NMOSトランジスタ12を流れる電流の電流値をIdn−とする。
【0004】
図2は、図1の差動増幅回路10の動作を説明するための図である。(a)は入力端IN+及びIN−に入力される入力電圧波形を示し、(b)はNMOSトランジスタ12を流れる電流Idn−を示し、(c)は出力端OUT+及びOUT−から出力される出力電圧波形である。
【0005】
図2(a)において、実線で示す電圧波形21は、差動増幅回路10が良好に動作する入力電圧条件の入力電圧である。入力端IN+に入力される電圧をVin+、入力端IN−に入力される電圧をVin−として示してある。なおVin_cmは入力コモンモード電圧であり、Vin+とVin−との平均に等しい。図2の(a)においては、図面左端から図面右に行くに従い(例えば時間経過に従い)、電圧Vin+が上昇し、電圧Vin−が下降している。
【0006】
図2(b)において、実線で示す電流波形31は、電圧波形21の入力電圧を印加したときの電流Idn−の変化を示している。図1において、入力端IN+に印加する電圧Vin+が上昇するとNMOSトランジスタ11の導通性が増加し、入力端IN−に印加する電圧Vin−が低下するとNMOSトランジスタ12の導通性が減少する。定電流源13に流れる電流Isrc1が一定であるとすると、NMOSトランジスタ11を流れる電流が増加するとともに、その増加分に等しい分だけNMOSトランジスタ12を流れる電流が減少する。このNMOSトランジスタ12を流れる電流Idn−の減少が、図2(b)において、電流波形31として示される。
【0007】
図2(c)において、実線で示す電流波形41は、電圧波形21の入力電圧を印加したときの出力電圧の変化を示している。出力端OUT+に出力される電圧をVout+、出力端OUT−に出力される電圧をVout−として示してある。NMOSトランジスタ11を流れる電流が増加するに従い、その電流が流れる抵抗14における電圧降下が増大し、出力電圧Vout−が低下する。またNMOSトランジスタ12を流れる電流が減少するに従い、その電流が流れる抵抗15における電圧降下が減少し、出力電圧Vout+が上昇する。出力電圧Vout−及びVout+の変化の度合いは、それぞれ抵抗14及び15の抵抗値R1及びR2に比例する。抵抗値R1及びR2が大きいほど、増幅率が高くなる。
【0008】
図2(a)において、点線で示す電圧波形22は、入力電圧値がVin+及びVin−ともに、電圧波形21の場合に比較して低くなった場合を示す。この場合、(b)に点線で示す電流波形32のように、電流Idn−の変化量は、電流波形31の場合と比較して小さくなる。これに応じて、(c)に点線で示す電圧波形42のように、出力電圧Vout−及び出力電圧Vout+の変化量が電圧波形41の場合と比較して小さくなる。即ち、増幅率が減少してしまう。
【0009】
また図2(a)において、一点差線で示す電圧波形23は、入力電圧値がVin+及びVin−が双方ともに更に低くなった場合を示す。このとき、NMOSトランジスタ11及び12のソース側の電位をVn1とし、NMOSトランジスタの閾値電圧をVthとして、入力電圧Vin+及びVin−がVn1+Vthと同程度或いはそれ以下になってしまうと、差動増幅回路10が殆んど正常な増幅動作を行わなくなる。即ち、(b)に一点差線で示す電流波形33のように、電流Idn−は殆んど変化しなくなる。これに応じて、(c)に一点差線で示す電流波形43のように、出力電圧Vout−及び出力電圧Vout+の変化は殆んどなくなり、差動増幅回路10の増幅動作が損なわれてしまう。
【0010】
入力電圧値Vin+及びVin−が完全にVn1+Vth以下になってしまうと、出力電圧Vout−及び出力電圧Vout+の変化は実質的に消滅し、差動増幅回路10の増幅動作が完全に損なわれることになる。即ち差動増幅回路10には、入力電圧に関して閾値電圧Vth分の不感帯が存在し、正常な増幅動作を行うために入力電圧が変化可能な範囲がこの不感帯により制限される。
図3は、従来の差動増幅回路の回路構成の別の一例を示す図である。この回路は、上記の閾値電圧Vth分の不感帯の問題を解消するよう構成されたものである。図3において、図1と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は省略する。
【0011】
図3に示す差動増幅回路10Aは、NMOSトランジスタ11、NMOSトランジスタ12、定電流源13、PMOSトランジスタ16、PMOSトランジスタ17、及び定電流源18を含む。この差動増幅回路10Aでは、PMOSトランジスタ16のゲート端はNMOSトランジスタ11のゲート端と同一の入力端IN+であり、同一の入力電圧Vin+が印加される。またPMOSトランジスタ17のゲート端はNMOSトランジスタ12のゲート端と同一の入力端IN−であり、同一の入力電圧Vin−が印加される。PMOSトランジスタ16、PMOSトランジスタ17、及び定電流源18はPチャネルの差動増幅回路を構成し、NMOSトランジスタ11、NMOSトランジスタ12、及び定電流源13から構成されるNチャネルの差動増幅回路と同様の動作をする。
【0012】
この構成の場合、入力電圧Vin+及びVin−が低下しても、PMOSトランジスタ11及び12に十分大きなゲート・ドレイン間電圧が印加されるので、Pチャネルの差動増幅回路が適切な増幅動作を行う。これにより、Nチャネルの差動増幅回路が適切な増幅動作を実行できないような入力電圧条件であっても、Nチャネル側とPチャネル側を合わせた全体として、適切な増幅動作を実現することができる。なお入力電圧Vin+及びVin−が高い場合(図2(a)の入力電圧波形21のような場合)には、PMOSトランジスタ11及び12に十分なゲート・ドレイン間電圧が確保できないので、Pチャネルの差動増幅回路は適切な増幅動作を実行できない。しかしこの場合には、Nチャネルの差動増幅回路が適切な増幅動作を実行するので、Nチャネル側とPチャネル側を合わせた全体として、適切な増幅動作を実現することができる。
【0013】
図3の回路構成の場合、2つの定電流源と、1つのPMOSトランジスタと、1つのNMOSトランジスタが、電源電位VDDと接地電位GNDとの間で多段に積み重ねられており、多段積みの段数は4段である。図1の回路構成の多段積みの段数が3段であるのに対して、一段多くなっている。
【0014】
回路構成に関わらず、電源電圧VDDが何らかの原因により低下し、各素子に十分な電圧が印加されなくなる程の状態になると、正常な動作が損なわれる。図1の回路構成では、3段積みであるので、1つの素子が正常に動作するに必要な電圧の3段分の電源電圧VDDが確保されれば、差動増幅回路10は正常に動作する。しかしこの差動増幅回路10が正常に動作する電源電圧VDDであっても、1つの素子が正常に動作するに必要な電圧の4段分の電源電圧が必要な図3の差動増幅回路10Aは、正常に動作することができない。即ち、図3の差動増幅回路10Aは、図1の差動増幅回路10に比較して、電源電圧VDDの低下に対する影響を受けやすい。
【0015】
特許文献1には、図3の回路と同様の構成の差動増幅回路として、入出力電圧範囲を広くとることが可能であり、且つ高い精度で増幅することができるCMOS演算増幅回路が示される。
【特許文献1】特開2002−344261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上を鑑みて、本発明は、広い入力電圧範囲に対して適切に動作可能であり、且つ低い電源電圧でも適切に動作可能な差動増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による差動増幅回路は、一端が第1の基準電位に結合される第1の負荷と、該第1の負荷の他端にドレイン端が結合された第1のMOSトランジスタと、一端が該第1の基準電位に結合される第2の負荷と、該第2の負荷の他端にドレイン端が結合された第2のMOSトランジスタと、該第1のMOSトランジスタのソース端及び該第2のMOSトランジスタのソース端と第2の基準電位との間に結合される第1の定電流源と、該第1の負荷の該他端にソース端が結合された第3のMOSトランジスタと、該第2の負荷の該他端にソース端が結合された第4のMOSトランジスタと、該第3のMOSトランジスタのドレイン端及び該第4のMOSトランジスタのドレイン端と該第2の基準電位との間に結合される第2の定電流源を含み、該第1及び該第4のMOSトランジスタのゲート同士が結合され、該第2及び該第3のMOSトランジスタのゲート同士が結合され、該第1及び第2のMOSトランジスタは第1の導通タイプであり、該第3及び第4のMOSトランジスタは第2の導通タイプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の少なくとも1つの実施例によれば、差動増幅回路において、第1の導通タイプのMOSトランジスタで構成される回路部分と第2の導通タイプのMOSトランジスタで構成される回路部分とが並列に設けられているので、入力電圧の高低に関わらず何れか一方の回路部分は正常に動作することができる。従って、入力電圧に関して閾値電圧Vth分の不感帯が存在することはなく、広い入力電圧範囲に対して適切に動作することができる。また差動増幅回路において、多段積みの段数が3段となっており、1つの素子が正常に動作するに必要な電圧の3段分の電源電圧が確保されれば、正常に動作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施例を添付の図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
図4は、本発明による差動増幅回路の第1の実施例の回路構成を示す図である。図4の差動増幅回路50は、NMOSトランジスタ51、NMOSトランジスタ52、定電流源53、抵抗54、抵抗55、PMOSトランジスタ56、PMOSトランジスタ57、及び定電流源58を含む。
【0021】
抵抗54、NMOSトランジスタ51、及び定電流源53が、電源電圧VDDと接地電圧との間に、この順に直列に接続される。また更に、この直列接続と定電流源53を共有する形で、抵抗55、NMOSトランジスタ52、及び定電流源53が、電源電圧VDDと接地電圧との間にこの順番に直列に接続される。
【0022】
NMOSトランジスタ51のゲート端が入力端IN+として機能し、NMOSトランジスタ52のゲート端が入力端IN−として機能する。NMOSトランジスタ51のドレイン端と抵抗54との接続点が出力端OUT−として機能し、NMOSトランジスタ52のドレイン端と抵抗55との接続点が出力端OUT+として機能する。定電流源53を流れる電流の電流値をIsrc1とし、NMOSトランジスタ52を流れる電流の電流値をIdn−とする。
【0023】
出力端OUT−(NMOSトランジスタ51のドレイン端と抵抗54との接続点)と接地電位との間には更に、PMOSトランジスタ57と定電流源58とがこの順に直列に接続される。また更に、この直列接続と定電流源58を共有する形で、出力端OUT+(NMOSトランジスタ52のドレイン端と抵抗55との接続点)と接地電位との間には、PMOSトランジスタ56と定電流源58とがこの順に直列に接続される。定電流源58を流れる電流の電流値をIsrc2とし、PMOSトランジスタ56を流れる電流の電流値をIdp+とする。
【0024】
PMOSトランジスタ56のゲート端もまた入力端IN+として用いられ、同様にPMOSトランジスタ57のゲート端もまた入力端IN−として用いられる。即ち、NMOSトランジスタ51のゲート端とPMOSトランジスタ56のゲート端とは同一の入力端IN+に接続され、NMOSトランジスタ52のゲート端とPMOSトランジスタ57のゲート端とは同一の入力端IN−に接続される。
【0025】
図5は、図4の差動増幅回路50の動作を説明するための図である。(a)は入力端IN+及びIN−に入力される入力電圧波形を示し、(b)はNMOSトランジスタ52を流れる電流Idn−を示し、(c)はPMOSトランジスタ56を流れる電流Idp+を示し、(d)は出力端OUT+及びOUT−から出力される出力電圧波形である。
【0026】
図5(a)において、実線で示す電圧波形61は、入力電圧条件として電源電圧VDDに近い電圧範囲の入力電圧が与えられた場合の電圧波形である。入力端IN+に入力される電圧をVin+、入力端IN−に入力される電圧をVin−として示してある。なおVin_cmは入力コモンモード電圧であり、Vin+とVin−との平均に等しい。図5の(a)においては、図面左端から図面右に行くに従い(例えば時間経過に従い)、電圧Vin+が上昇し、電圧Vin−が下降している。
【0027】
図5(b)において、実線で示す電流波形71は、電圧波形61の入力電圧を印加したときの電流Idn−の変化を示している。図4において、入力端IN+に印加する電圧Vin+が上昇するとNMOSトランジスタ51の導通性が増加し、入力端IN−に印加する電圧Vin−が低下するとNMOSトランジスタ52の導通性が減少する。定電流源53に流れる電流Isrc1が一定であるとすると、NMOSトランジスタ51を流れる電流が増加するとともに、その増加分に等しい分だけNMOSトランジスタ52を流れる電流が減少する。このNMOSトランジスタ52を流れる電流Idn−の減少が、図5(b)において、電流波形71として示される。
【0028】
図5(c)において、実線で示す電流波形81は、電圧波形61の入力電圧を印加したときの電流Idp+の変化を示している。図4において、入力端IN+に印加する電圧Vin+が上昇するとPMOSトランジスタ56の導通性が減少し、入力端IN−に印加する電圧Vin−が低下するとPMOSトランジスタ57の導通性が増大する。定電流源58に流れる電流Isrc2が一定であるとすると、PMOSトランジスタ56を流れる電流が減少するとともに、その減少分に等しい分だけPMOSトランジスタ57を流れる電流が増加する。このPMOSトランジスタ56を流れる電流Idp+の減少が、図5(c)において、電流波形81として示される。
【0029】
但しこの場合、電圧波形61に示す入力電圧(図5(a))が電源電圧VDDに近いので、PMOSトランジスタ56及び57は弱くしか導通しない。しかもPMOSトランジスタ56が導通する条件、即ち入力端IN+に印加する電圧Vin+が低い場合には、IN−に印加する電圧Vin−が相対的に高くNMOSトランジスタ52が導通して出力端OUT+の電圧が低下している。従って、PMOSトランジスタ56のソース端(OUT+)とゲート端(IN+)との間にトランジスタの閾値電圧を十分に超えるような電圧は印加されずに、電流Idp+の量は電流波形81に示されるように極めて小さい。
【0030】
図5(d)において、実線で示す電圧波形91は、電圧波形61の入力電圧を印加したときの出力電圧の変化を示している。出力端OUT+に出力される電圧をVout+、出力端OUT−に出力される電圧をVout−として示してある。NMOSトランジスタ51を流れる電流が増加するに従い、その電流が流れる抵抗54における電圧降下が増大し、出力電圧Vout−が低下する。またNMOSトランジスタ52を流れる電流が減少するに従い、その電流が流れる抵抗55における電圧降下が減少し、出力電圧Vout+が上昇する。出力電圧Vout−及びVout+の変化の度合いは、それぞれ抵抗54及び55の抵抗値R1及びR2に比例する。抵抗値R1及びR2が大きいほど、増幅率が高くなる。
【0031】
図5(a)において、点線で示す電圧波形62は、入力電圧値がVin+及びVin−ともに、電圧波形61の場合に比較して低くなった場合を示す。この場合、(b)に点線で示す電流波形72のように、電流Idn−の変化量は、電流波形71の場合と比較して小さくなる。逆に、(c)に点線で示す電流波形82のように、電流Idp+の変化量は、電流波形81の場合と比較して大きくなる。但し、電流Idp+の変化量の増大は、電流Idn−の変化量の減少に比較して小さい。これに応じて、(d)に点線で示す電圧波形92のように、出力電圧Vout−及び出力電圧Vout+の変化量が電圧波形91の場合と比較して若干小さくなる。しかし、電流Idp+の変化量の増大の効果により、図2(c)の出力電圧波形42の場合ほどには増幅率は減少しない。
【0032】
図5(a)において、一点差線で示す電圧波形63は、入力電圧値がVin+及びVin−が双方ともに更に小さくなった場合を示す。このとき、NMOSトランジスタ51及び52のソース側の電位をVn1とし、NMOSトランジスタの閾値電圧をVthとして、入力電圧Vin+及びVin−がVn1+Vthと同程度或いはそれ以下になってしまうと、差動増幅回路50のNチャネル側の回路は、殆んど正常な増幅動作を行わなくなる。即ち、(b)に一点差線で示す電流波形73のように、電流Idn−は殆んど変化しなくなる。
【0033】
しかし入力電圧Vin+及びVin−が十分に小さくなったことで、PMOSトランジスタ56及びPMOSトランジスタ57のうちで導通する側のトランジスタは十分に導通することになる。従って、(c)に一点差線で示す電流波形83のように、電流Idp+はゼロから電流量Isrc2までの範囲いっぱいに変化する電流となる。
【0034】
これに応じて、(d)に一点差線で示す電圧波形93のように、電圧波形91の場合と比較して若干増幅率は低下するが、差動増幅器としての動作自体が損なわれることはなく、正常な増幅動作が保たれることになる。即ち、入力電圧が低下した場合、NMOSトランジスタ51、NMOSトランジスタ52、及び定電流源53で構成されるNチャネル側の差動増幅器においては適切な増幅動作が損なわれるにも関わらず、PMOSトランジスタ56、PMOSトランジスタ57、及び定電流源58で構成されるPチャネル側の回路が適切に動作して、差動増幅回路50の全体としては適切な増幅動作が行われる。
【0035】
入力電圧値Vin+及びVin−が完全にVn1+Vth以下になってしまっても、出力電圧Vout−及び出力電圧Vout+の変化が消滅してしまうことはない。即ち差動増幅回路50には、入力電圧に関して閾値電圧Vth分の不感帯が存在することはなく、正常な増幅動作を行うために入力電圧が変化可能な範囲がこの不感帯により制限されることもない。
【0036】
図4の差動増幅回路50において、出力電圧Vout+は、Vdd−R2×{(Idn−)+(Idp+)}となる。Vout+が上昇すると、PMOSトランジスタ56の導通の度合いが増し、Vout+のレベルを引き下げる方向に機能する。従って、差動増幅回路50の増幅率は、図1に示す差動増幅回路10の増幅率に比較して若干小さくなる。その代わりに、入力電圧の変動によって、出力電圧レベルが変動するのを抑える効果があることになる。
【0037】
また、定電流源53及び58の電流値が等しい場合(Isrc1=Isrc2)、差動増幅回路50のNチャネル側の回路が動作してPチャネル側の回路が殆んど動作していないときと、差動増幅回路50のPチャネル側の回路が動作してNチャネル側の回路が殆んど動作していないときとで、同一の出力電位を確保することができる。即ち、出力端OUT+の電圧Vout+及び出力端OUT−の電圧Vout−のうちで、高いほうの電圧レベルを、入力電圧の高低に関わらずに一定にすることができる。
【0038】
また図4に示す差動増幅回路50においては、電源電位VDDと接地電位との間には、1つの抵抗(54又は55)、1つのトランジスタ(51,52,56,又は57)、及び1つの定電流源(53又は58)が設けられており、多段積みの段数が3段となっている。従って、図3に示す従来の回路構成よりも少ない段数であり、図3の回路が正常に動作できないような低電圧であっても、1つの素子が正常に動作するに必要な電圧の3段分の電源電圧VDDが確保されれば、差動増幅回路50は正常に動作することができる。
【0039】
図6は、本発明による差動増幅回路の第2の実施例の回路構成を示す図である。図6の差動増幅回路50Aは、PMOSトランジスタ101、PMOSトランジスタ102、定電流源103、抵抗104、抵抗105、NMOSトランジスタ106、NMOSトランジスタ107、及び定電流源108を含む。
【0040】
抵抗104、PMOSトランジスタ101、及び定電流源103が、接地電圧と電源電圧VDDとの間に、直列に接続される。また更に、この直列接続と定電流源103を共有する形で、抵抗105、PMOSトランジスタ102、及び定電流源103が、接地電圧と電源電圧VDDとの間に直列に接続される。
【0041】
PMOSトランジスタ101のゲート端が入力端IN+として機能し、PMOSトランジスタ102のゲート端が入力端IN−として機能する。PMOSトランジスタ101のドレイン端と抵抗104との接続点が出力端OUT−として機能し、PMOSトランジスタ102のドレイン端と抵抗105との接続点が出力端OUT+として機能する。
【0042】
出力端OUT−(PMOSトランジスタ101のドレイン端と抵抗104との接続点)と電源電位VDDとの間には更に、NMOSトランジスタ107と定電流源108とが直列に接続される。また更に、この直列接続と定電流源108を共有する形で、出力端OUT+(PMOSトランジスタ102のドレイン端と抵抗105との接続点)と電源電位VDDとの間には、NMOSトランジスタ106と定電流源108とが直列に接続される。
【0043】
NMOSトランジスタ106のゲート端もまた入力端IN+として用いられ、同様にNMOSトランジスタ107のゲート端もまた入力端IN−として用いられる。即ち、PMOSトランジスタ101のゲート端とNMOSトランジスタ106のゲート端とは同一の入力端IN+に接続され、PMOSトランジスタ102のゲート端とNMOSトランジスタ107のゲート端とは同一の入力端IN−に接続される。
【0044】
図6の回路構成の差動増幅回路50Aは、図4の回路構成の差動増幅回路50と比較して、NMOSとPMOSとを入れ替えた構成となっている。このような構成の差動増幅回路50Aによっても、Nチャネル側とPチャネル側との役割が入れ替わっている以外は、差動増幅回路50と同様に動作して、同様の効果を齎すことができる。即ち、差動増幅回路50Aには、入力電圧に関して閾値電圧Vth分の不感帯が存在することはなく、正常な増幅動作を行うために入力電圧が変化可能な範囲が不感帯の存在により制限されることがない。
【0045】
また図4に示す差動増幅回路50Aにおいては、多段積みの段数が3段となっており、図3の従来の回路が正常に動作できないような低電源電圧であっても、1つの素子が正常に動作するに必要な電圧の3段分の電源電圧VDDが確保されれば、差動増幅回路50Aは正常に動作することができる。
【0046】
図7は、本発明による差動増幅回路の第3の実施例の回路構成を示す図である。図7において、図4と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は省略する。
【0047】
図7の差動増幅回路50Bにおいては、図4の差動増幅回路50の抵抗54及び55がPMOSトランジスタ54A及び55Aで置き換えられている。それ以外の構成は図7と図4とで同一である。PMOSトランジスタ54A及び55Aのゲート端には、共通のバイアス電圧VBIAS1が印加されている。
【0048】
PMOSトランジスタ54A及び55Aのソース・ゲート間電圧は一定であるので、ドレイン電流を殆んど変化させることなく、ソース・ドレイン間電圧を大きく変化させることができる。即ち、PMOSトランジスタ54A及び55Aは、非常に大きな抵抗値を有する抵抗として機能することができる。また図7の構成では、PMOSトランジスタ54A及び55Aのゲート端には共通のバイアス電圧VBIAS1が印加されているので、このバイアス電圧VBIAS1を調整することで、差動増幅回路50Bの増幅率を容易に制御することができる。
【0049】
図8は、本発明による差動増幅回路の第4の実施例の回路構成を示す図である。図8において、図7と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は省略する。
【0050】
図8の差動増幅回路50Cにおいては、図7の差動増幅回路50BのPMOSトランジスタ54A及び55Aに対して、それぞれ、PMOSトランジスタ54B及び55Bが並列に接続されている。それ以外の構成は図8と図7とで同一である。PMOSトランジスタ54Bのゲート端は出力端OUT−に接続され、PMOSトランジスタ55Bのゲート端は出力端OUT+に接続される。
【0051】
PMOSトランジスタ54A及び55Aは、非常に大きな抵抗値を有する抵抗として機能し、バイアス電圧VBIAS1を調整することで、差動増幅回路50Bの増幅率を容易に制御することができる。また更に、Vout+が上昇すると、PMOSトランジスタ55Bの導通性が低下し、Vout+のレベルを引き下げる方向に機能する。Vout−とPMOSトランジスタ54Bとの関係も同様である。従って、PMOSトランジスタ54B及び55Bは、差動増幅回路50Cの増幅率を抑制するように機能する。これにより、差動増幅回路50Cの動作をより安定させることができる。
【0052】
図9は、本発明による差動増幅回路の第5の実施例の回路構成を示す図である。図9において、図4と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は省略する。
【0053】
図9の差動増幅回路50Dにおいては、図4の差動増幅回路50の定電流源53及び58がNMOSトランジスタ53A及び58Aで置き換えられている。それ以外の構成は図9と図4とで同一である。NMOSトランジスタ53A及び58Aのゲート端には、共通のバイアス電圧VBIAS2が印加されている。
【0054】
PMOSトランジスタ53A及び58Aのソース・ゲート間電圧は一定であるので、PMOSトランジスタ53A及び58Aは、略一定の電流を流す定電流源として機能することができる。またバイアス電圧VBIAS2を調整することで、差動増幅回路50Dの増幅率を容易に制御することができる。
【0055】
またNMOSトランジスタ53A及び58Aのゲート端を共通のバイアス電圧に設定することで、NMOSトランジスタ53Aを流れる電流量とNMOSトランジスタ58Aを流れる電流量とを、実質的に同一に設定することができる。即ち、差動増幅回路50DのNチャネル側の回路が動作してPチャネル側の回路が殆んど動作していないときと、差動増幅回路50DのPチャネル側の回路が動作してNチャネル側の回路が殆んど動作していないときとで、同一の出力電位を確保することができる。即ち、出力端OUT+の出力電圧及び出力端OUT−の出力電圧のうちで、高いほうの電圧レベルを、入力電圧の高低に関わらずに一定にすることができる。
【0056】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来の差動増幅回路の回路構成の一例を示す図である。
【図2】図1の差動増幅回路の動作を説明するための図である。
【図3】従来の差動増幅回路の回路構成の別の一例を示す図である。
【図4】本発明による差動増幅回路の第1の実施例の回路構成を示す図である。
【図5】図4の差動増幅回路の動作を説明するための図である。
【図6】本発明による差動増幅回路の第2の実施例の回路構成を示す図である。
【図7】本発明による差動増幅回路の第3の実施例の回路構成を示す図である。
【図8】本発明による差動増幅回路の第4の実施例の回路構成を示す図である。
【図9】本発明による差動増幅回路の第5の実施例の回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
50 差動増幅回路
51 NMOSトランジスタ
52 NMOSトランジスタ
53 定電流源
54 抵抗
55 抵抗
56 PMOSトランジスタ
57 PMOSトランジスタ
58 定電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が第1の基準電位に結合される第1の負荷と、
該第1の負荷の他端にドレイン端が結合された第1のMOSトランジスタと、
一端が該第1の基準電位に結合される第2の負荷と、
該第2の負荷の他端にドレイン端が結合された第2のMOSトランジスタと、
該第1のMOSトランジスタのソース端及び該第2のMOSトランジスタのソース端と第2の基準電位との間に結合される第1の定電流源と、
該第1の負荷の該他端にソース端が結合された第3のMOSトランジスタと、
該第2の負荷の該他端にソース端が結合された第4のMOSトランジスタと、
該第3のMOSトランジスタのドレイン端及び該第4のMOSトランジスタのドレイン端と該第2の基準電位との間に結合される第2の定電流源
を含み、該第1及び該第4のMOSトランジスタのゲート同士が結合され、該第2及び該第3のMOSトランジスタのゲート同士が結合され、該第1及び第2のMOSトランジスタは第1の導通タイプであり、該第3及び第4のMOSトランジスタは第2の導通タイプであることを特徴とする差動増幅回路。
【請求項2】
該第1及び第2のMOSトランジスタはNチャネルのトランジスタであり、該第3及び第4のMOSトランジスタはPチャネルのトランジスタであることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項3】
該第1及び第2のMOSトランジスタはPチャネルのトランジスタであり、該第3及び第4のMOSトランジスタはNチャネルのトランジスタであることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項4】
該第1の負荷は第5のMOSトランジスタであり、該第2の負荷は第6のMOSトランジスタであることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項5】
該第5のMOSトランジスタのゲート端と該第6のMOSトランジスタのゲート端は共通のバイアス電位に結合されることを特徴とする請求項4記載の差動増幅回路。
【請求項6】
該第1の定電流源は第7のMOSトランジスタであり、該第2の定電流源は第8のMOSトランジスタであることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項7】
該第7のMOSトランジスタのゲート端と該第8のMOSトランジスタのゲート端は共通のバイアス電位に結合されることを特徴とする請求項6記載の差動増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−180796(P2007−180796A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375680(P2005−375680)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】