説明

差動変速機、変速機およびこの変速機を搭載した車両

【課題】トルクを機械的に制御して伝達することにより、さらに効率的な動力伝達を可能としエネルギーの損失を可及的に抑えることができる差動変速機、変速機およびこの変速機を搭載した車両を提供する。
【解決手段】トルク伝達部2Tからの回転力を入力するトルク伝達回転体20と、このトルク伝達回転体20に回転自在に軸支された差動回転体21と、この差動回転体21の一端側に接触し正転方向の動力伝達を行う正転回転体22と、前記差動回転体21の他端側に接触し逆転方向の動力伝達を行う逆転回転体23と、回転伝達回転体25の一端側が正転回転体22に連動連結し他端側が逆転回転体23に連動連結することにより正転伝達系24Fおよび逆転伝達系24Rを形成する回転伝達回転体25と、これら正転伝達系24Fおよび/または逆転伝達系24Rの動力伝達率を調節することによりトルク伝達回転体20から回転伝達回転体25の間で伝達する回転力の大きさを調節可能とする伝達回転力調節部26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動変速機、変速機およびこの変速機を搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変速機は動力を伝達する種々の装置に用いられている。特に、車両に採用する変速機として、いわゆるマニュアル変速機は、内燃機関などの動力源からの回転力によって回転する複数の一次側歯車、および、これに噛み合う複数の二次側歯車を有し、一次側歯車と二次側歯車の噛み合わせによって数段階(通常は3〜6段階)の段階変速を可能とする変速部と、変速時に原動機からの動力伝達を断続できるクラッチ(断続器)を有する。運転者は、このクラッチを用いて、変速部を原動機から切り離して、手動による変速を行うことにより、エネルギーロスの少ない効率的な変速を行うことができる。しかしながら、手動による変速が煩わしいという問題がある。また、クラッチを切り離しているときには動力が伝達できないという問題もある。
【0003】
このため、近年では、多くの車両が自動変速機を採用して、いわゆるオートマチック車となっている。一般的な自動変速機は流体を用いたトルクコンバータ(一般的にトルコンと呼ばれている)と3〜4段階の変速機とを組み合わせてなり、自動変速を可能としている。しかしながら流体を用いたトルクコンバータによる種々のエネルギーロスが発生するので、燃料消費率が悪くなることが問題となっており、発進時と変速時以外はロックアップさせるなど、省エネルギーを達成するために効率の良い変速機が開発され実用化されるに至っている。
【0004】
また、現在注目されている変速機として下記特許文献1に示すようなトロイダルコアを用いた無段階変速機および下記特許文献2に示すようなベルトを用いた無段階変速機が発明され、実用化されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4082562号公報
【特許文献2】特許第4082869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無段階変速装置であってもエンジンから駆動輪(タイヤ)までの間に動力伝達を断続できる断続器を必要としており、これによって動力伝達率の低下が生じることは避けられなかった。すなわち、既存の変速機は何れも駆動源から出力される駆動軸の回転速度を任意の比率で変換することにより結果的に伝達する回転力(トルク)の大きさを変換して伝達することを行なうものであるが、必要とするのはトルクの伝達であり、車両のタイヤのように回転するものに対して制御された回転力を直接的に調整して伝達するような変速を行うものがなく、これによってエネルギーロスが生じるという問題があった。
【0007】
例えば、車両が走行する場合を例に考えると、まず、停車時にはエンジンなどの動力源は本来なら回転している必要はないが、発進時に備えてエンジンの回転を保つことができるアイドリング程度の回転数で回転させ続ける必要があり、この状態では断続器を用いてエンジンとタイヤの間のトルク伝達を遮断する。つまり、エンジンの回転力を無駄に浪費することになる。近年、これを考慮して停車時のアイドリングを停止させるものもあるが、発進時に遅れが問題となるのでエンジン停止を控えめに行なう必要があるだけでなく、制御が複雑になるなどの問題がある。
【0008】
次に、ほぼ一定速度で走行しているときには、エンジンからタイヤに回転力を伝える必要はないが、変速機で定められる回転数だけエンジンが回転し続けることになり、その回転力を有効に活用することはできなかった。また、減速時にはブレーキなどを用いて車両の慣性力を摩擦によって減衰させるが、このとき、エネルギーは摩擦熱となって浪費される。有能なドライバーは、エンジンブレーキをかけて損失を低減するが、これはその間のエンジンへの燃料供給をカットできる程度の浪費削減に過ぎず、慣性力を積極的に回生するに至っていなかった。
【0009】
そこで、近年注目されているハイブリッドシステムでは余った回転力を発電機によって電気エネルギーに変換して二次電池などに蓄電する回生動作により、大幅なエネルギーロスの改善を図っているが、機械エネルギーと電気エネルギーの変換効率は発電機や電動機の大きさや用いる磁力の強度などに依存するものであり、車両に搭載できる程度の発電機や電動機では変換効率の限界があるので、十分な回生を行うことができないという問題がある。
【0010】
加えて、ハイブリッドシステムは二次電池の性能、発電機や電動機の性能に依存するものであり、二次電池の巨大化による質量増加は車両の省エネルギー化にとって不都合であるだけでなく、バッテリの自己放電が発生してエネルギーロスを発生させたり、いずれ寿命がきて使用できなくなるという問題がある。さらに、強力な磁力を用いた発電機などの製造にも多大のエネルギーや貴重資材を消費するという問題もある。つまり、効率のよい二次電池を製造するためのレアメタル、強力な磁力を得るための希土類元素(レアアース)の消費は地球環境への配慮および製造コストの削減という観点から見ても好ましくなかった。これらの課題は、不要となった回転力を機械的に回生することができないという根本的な問題を解決していないことによるものである。
【0011】
また、変速機による変換効率を上げるために考えられた上記無段階変速機は何れもトロイダルコアやベルト・プーリの摩擦接触によって動力を伝達しているので、摩擦による伝達効率の低下や滑りが問題となる。このため、摩擦接触部を強く押付けて伝達できる動力を大きくすることも考えられるが、これによって摩耗が激しくなり劣化が生じるという問題もある。加えて、摩擦による発熱を抑えるために適度に摩擦熱の発生を抑えると共に、摩擦接触部における動力伝達を妨げない特殊な潤滑油を用いる必要があるなどの問題もある。
【0012】
上述の課題は電気自転車にも共通して生じており、電動機やバッテリの重量によって電気自転車の重量が重くなることが如実に現れるため、レアアースを用いた高性能の電動機を必要としたり、充電容量の重量比の点で優れているリチウムイオンバッテリなどを採用することによる地球環境にかかる負荷や、製造コストの引き上げが問題となる。
【0013】
同様のことが、自動二輪や原動機付自転車などの車両(以下、バイクという)においても問題となるため、燃料消費効率を向上させるためにハイブリッドを用いることが現実的ではないのが現状である。とりわけ、いわゆるスクーターと呼ばれるバイクでは遠心クラッチを用いるが、この遠心クラッチはウェイトにかかる遠心力が伝達率を決めるので、スロットル開度に対するトルクの関係が直線的ではなく、ヒステリシス特性に似た特性を持ち、その調整が困難であるだけでなく、操作性が悪かった。
【0014】
この発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、トルクを機械的に制御して伝達することにより、さらに効率的な動力伝達を可能としエネルギーの損失を可及的に抑えることができる差動変速機、変速機およびこの変速機を搭載した車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、第1発明は、トルク伝達部からの回転力を入力するトルク伝達回転体と、このトルク伝達回転体に回転自在に軸支された差動回転体と、この差動回転体の一端側に接触し正転方向の動力伝達を行う正転回転体と、前記差動回転体の他端側に接触し逆転方向の動力伝達を行う逆転回転体と、一端側が正転回転体に連動連結し他端側が逆転回転体に連動連結することにより正転伝達系および逆転伝達系を形成する回転伝達回転体と、これら正転伝達系および/または逆転伝達系の動力伝達率を調節することによりトルク伝達回転体から回転伝達回転体の間で伝達する回転力の大きさを調節可能とする伝達回転力調節部とを備えることを特徴とする差動変速機を提供する。(請求項1)
【0016】
前記差動変速機はトルク伝達部に入力された回転力がトルク伝達回転体に伝わり、このトルク伝達回転体に軸支された差動回転体を入力された回転力の方向に付勢させる。この付勢力は差動回転体の一端側および他端側に接触する正転回転体および逆転回転体にも伝達されるが、差動回転体がトルク伝達回転体に対して回転自在に軸支されているので、この動力伝達は正転回転体および逆転回転体の回転速度に依存することなく行なわれる。
【0017】
次いで、正転回転体および逆転回転体は回転伝達回転体の一端側と他端側に接触することにより、前記回転力は正転回転体および逆転回転体を介して互いに逆向きの方向に伝達される。つまり、正転回転系を介して動力伝達を行なう正転伝達系と、逆転回転系を介して動力伝達を行なう逆転伝達系の動力伝達率を伝達回転力調節部によって調節することにより、両方の動力伝達率の差によって、トルク伝達部から回転伝達回転体への伝達トルクを調整することができる。
【0018】
例を挙げると、正転伝達系の動力伝達率が逆転伝達系の動力伝達率に比べて十分に高いなら、トルク伝達部から入力されたトルクは回転伝達回転体を正転方向にさらに回転させる方向に作用する。したがって、この回転伝達回転体に車両のタイヤが接続されているなら、車両は加速する。また、トルク伝達回転体は伝達しているトルクと同じ方向に回転する。
【0019】
逆に、正転伝達系の動力伝達率が逆転伝達系の動力伝達率に比べて十分に低いなら、トルク伝達部から入力されたトルクは回転伝達回転体を逆転方向(減速させる方向)に回転させる方向に作用する。したがって、この回転伝達回転体に車両のタイヤが接続されているなら、車両は減速する。同時に、トルク伝達回転体は伝達しているトルクと反対方向に回転する。
【0020】
そして、正転伝達系と逆転伝達系の動力伝達率が同じであるなら、正転伝達系と逆転伝達系によって伝達されるトルクが互いに打ち消しあうために、トルク伝達部から回転伝達回転体に作用する回転力はなく、回転伝達回転体はいわば空回り状態となる。そして、トルク伝達回転体の回転は止まる。これは、従来の断続器を切り離した状態に近いものである。
【0021】
トルク伝達部は電動機など(自転車などでは人力を含む)の動力源であってもよいが、エンジンなどの内燃機関であってもよく、この場合は、エンジンの出力を回転伝達回転体に接続し、トルク伝達回転体を中間的にトルクを伝達するトルク伝達部に接続し、さらに別の差動変速機のトルク伝達回転体に入力させて、この差動変速機の回転伝達回転体をタイヤに接続することができる。つまり、常に回り続けるタイヤと、エンジンとの間でトルク伝達だけを確実に行うことができる。
【0022】
前記伝達回転力調節部は端数の異なるギアの噛み合わせを切り替えることによって変速する変速機を備えるものであることにより、摩擦による動力伝達を避けて、動力伝達の損失を小さくすることができるが、無段階変速機を採用することによって回転力の伝達を微調整することが可能となる。また、この伝達回転力調節部は正転伝達系または逆転伝達系の何れか一方の動力伝達率を調節するものであってもよいが、両方の動力伝達率を調節するものであることにより、トルク伝達部に供給される回転力が強いときには正転伝達系および逆転伝達系の動力伝達率を低い状態で制御し、トルク伝達部に供給される回転力が弱いときには正転伝達系および逆転伝達系の動力伝達率を高めることにより、精度の高い制御を行うことができる。
【0023】
正転回転体および逆転回転体はトルク伝達回転体と同芯軸上に回転自在に支持されており、これらの外周部が回転伝達回転体に接触する部分には、例えば傘歯車を形成して回転力を確実に伝達できるので好ましいが、摩擦接触するものであっても、その他の歯車を用いて回転力を伝達させてもよい。
【0024】
前記差動回転体の正転回転体および逆転回転体と接触する接触面が略半球形状であり、前記正転回転体および逆転回転体は前記半球の中心を通り前記トルク伝達回転体の回転軸に対して約45度の角度の位置において差動回転体に接触する接触部を有し、前記伝達回転力調節部は差動回転体の回転軸の中心でかつ前記接触面に形成された半球の中心部において正転回転体側または逆転回転体側に揺動可能に支持する傾倒支持部である場合(請求項2)には、差動回転体の正転回転体および逆転回転体との接触面が略半球形状であるから、傾倒支持部によってトルク回転体の回転軸を揺動させた状態でも接触部が差動回転体の接触部に接触するので、トルクの伝達を行うことができる。伝達回転力調節部をより簡素に形成することができるので、製造コストを削減できるだけでなく、動力伝達に関係する回転体が簡素であればあるほどその動力伝達損失を小さくすることができる。
【0025】
また、傾倒支持部による揺動角度によって正転回転体および逆転回転体の接触部が接する位置と差動回転体の軸心との距離を同時に変更できる。例えば、傾倒支持部の角度を正転回転体の側に45度傾けるときに差動回転体の回転に関係なく正転回転体に動力伝達を行うことができ、逆転回転体は差動回転体の回転軸に対して約90度の角度で接するので、差動回転体の回転によって逆転回転体へのトルク伝達は阻止される。逆に、傾倒支持部の角度を逆転回転体の側に45度傾けるときに逆転回転体に動力伝達を行うことができ、正転回転体へのトルク伝達は阻止される。
【0026】
前記正転回転体および逆転回転体の前記接触部が、傾倒支持部の揺動に伴って回動自在に支持された複数のローラを備える場合(請求項3)には、傾倒支持部の揺動によって接触面が移動するときに接触部に設けたローラが回転するので、揺動にかかる抵抗を小さくすることができる。したがって、車両が停止しているときなど、回転伝達回転体が停止しているときにもトルクの伝達率を容易に調整することができる。正転回転体および逆転回転体と差動回転体の間の動力伝達はローラの側面と差動回転体の摩擦接触によるものであり、正転回転体および逆転回転体のローラを差動回転体に強く押し付けることにより滑りを防止できるが、ローラを強く押し付けた状態でも傾倒支持部を容易に揺動させることができる。
【0027】
第2発明は差動変速機のトルク伝達部に接続されて動力源からの回転力を蓄積する回転力蓄積体を備えることを特徴とする変速機を提供する。(請求項4)
【0028】
前記変速機は動力源からの回転力を回転力蓄積体に蓄積することができ、この回転力蓄積体を動力源として伝達回転体を回転させることも可能であり、例えば車両が低速走行をしている場合など、動力源(エンジンなど)からの動力供給を必要としない状態であるときには、動力源からの回転力を回転力蓄積体に蓄積させた後に、動力源を停止させることができる。また、差動変速機は回転力の伝達方向を自在に調節できるので、この差動変速機をタイヤと回転力蓄積体の間に位置させた場合には、減速時にタイヤからの回転力(運動エネルギや車両の慣性力)をトルク伝達部に回収することにより減速させながら回転力蓄積体に動力源として蓄積(回生)することができ、動力源(エンジンなど)を停止させることができる。
【0029】
加えて、回転力蓄積体に蓄積させた回転力は次に車両が加速するときに動力源として用いることができるので、加速減速を繰り返すような走行時にもエンジンなどの動力源を停止させたまま走行することが可能となる。さらに、差動変速機をエンジンと回転力蓄積体の間に介在させた場合には、回転力蓄積体に蓄積させた回転力をエンジン側に戻すことも可能であり、エンジン始動を回転力蓄積体に蓄積された回転力によって行なうことも可能となる。
【0030】
つまり、回転力蓄積体に蓄積できる回転力のエネルギ量を多くすれば、車両が高低差の無い道を走行している状態においてエンジンから供給する必要がある回転力は、車両の空気抵抗やタイヤなど車体による損失、変速機のギアなどの駆動系に発生する損失を補う程度のもので良くなり、エネルギ消費が飛躍的に少なくなる。また、従来のハイブリッドシステムのように機械エネルギを電気エネルギに変換する必要が無く、機械エネルギのままエネルギを回収して動力として回生できるので、電気変換に伴う損失をなくすことができるだけでなく、ハイブリッドシステムに必須だった二次電池や電動機などもなくすことが可能である。
【0031】
さらに、回転力蓄積体に回転力を蓄積することにより、回転力を安定させることができるので制御が容易となり、操作性が向上する。
【0032】
前記回転力蓄積体はその一次側の回転軸と二次側の回転軸の間の捩れによって回転力を蓄勢する弾性体を備える場合(請求項5)には、弾性体の弾性を利用して回転力を蓄勢するので、エネルギー損失を極めて少なくすることができる。この弾性体は弾性を有し螺旋状に巻きつけた例えば板状の鋼材からなる板状弾性体(いわゆるぜんまい)であることが考えられ、この板状弾性体の一端を固定して巻きつける軸芯と板状弾性体の他端を固定した円周壁面を備えるケースとを備える弾性体のユニット(以下、これを弾性体ユニットという)にすることにより安全性を確保しながら蓄勢できる回転力を調節できる。また、複数の弾性体ユニットを直列に接続してより多くの回転力を蓄積できるようにすることが好ましく、さらに、各弾性体ユニットにおける板状弾性体の弾性力に幾らかの差を設けて、より幅の広い回転力の蓄積を可能とするものであることが好ましい。
【0033】
前記回転力蓄積体はトルク伝達部に接続されたトルク蓄積用の差動変速機と、この差動変速機の回転伝達回転体に連結させて回転力を慣性によって蓄積する慣性力蓄積体と、前記トルク蓄積用の差動変速機の伝達回転力調節部を用いて回転力の伝達方向を制御することにより前記慣性力蓄積体への回転力の蓄積および回転力の放出を制御するトルク制御部とを備える場合には、トルク蓄積用の差動変速機を用いてトルク伝達部に供給される回転力を慣性力蓄積体に供給して、この慣性力蓄積体を回転させることにより回転力を慣性モーメントによって蓄積し、蓄積した回転力を再びトルク伝達部に放出することができる。
【0034】
なお、前記慣性力蓄積体は慣性を蓄積するに足りる質量を備える略円盤形状のはずみ車であることが好ましく、十分な剛性と質量を有する鉄、ステンレス、チタンなどの金属および比重の高い鉛などの金属を含むものであることにより総重量を抑えながら十分な慣性モーメントを得ることができるので好ましい。剛性の高い金属ははずみ車の内径部分を構成し、比重の高い金属ははずみ車の外形部分を構成することが好ましい。さらに、慣性力蓄積体は少なくともはずみ車を1対設けて互いに逆方向に回転するようにして、両方のはずみ車を回転させるときの慣性モーメントを打ち消すことが可能であるので好ましい。
【0035】
前記慣性力蓄積体の回転速度の加減によってその回転の正逆方向に慣性力を働かせて変速機の姿勢を安定させる姿勢安定制御部を有する場合(請求項7)には、慣性力蓄積体の回転速度を加減することによって慣性力蓄積体の回転速度を加減することによりその慣性を利用して回転方向の慣性モーメントを発生させて姿勢を安定させることができる。また、回転する慣性力蓄積体はいわゆるコマのように、その姿勢が安定するので、走行面の凹凸に伴う揺れを小さくすることができる。つまり、本発明の変速機を車両のように搭乗するための空間を備えるものに用いる場合には、変速機を介して車両の振動を少なくして乗り心地を向上させるものとなる。
【0036】
加えて、車両の場合、鉛直を中心とする回転方向に慣性力蓄積体を回転させることにより慣性モーメントを車両の操舵方向に作用させて運転者の操作に合わせて調節することにより、車両の姿勢が安定するので各タイヤにかかる負荷を分散させて、タイヤの滑りによる回転スリップを効果的に防止でき、たとえ全てのタイヤが滑ったとしても車両の方向を前向きに調節することが可能となる。
【0037】
慣性モーメントが車両の進行方向に対して直角な水平線を中心とする回転方向に作用するように配置することにより、加減速時における前後のタイヤにかかる負荷を均等にすることができる。さらに、車両の進行方向に平行な水平線を中心とする回転方向の慣性モーメントが作用するように配置することにより、車両の横転を防止することができる。
【0038】
なお、上述の姿勢安定制御は車輪が地面に接する乗り物のみならず、船、潜水艦のような水上および水中の移動体や、飛行機、宇宙船、衛星のような飛行物にも応用できることは言うまでもない。
【0039】
前記回転力蓄積体はトルク伝達部または回転伝達回転体に連動連結された部分に取り付けられた発電機および電動機と、この発電機および電動機に電気的に接続された蓄電部とを備える場合(請求項8)には、トルク伝達部に回収した回転力を電気エネルギに回生して蓄電部に充電し、蓄電部に充電した電気エネルギによって電動機を回転させて回転力を出力することができる。トルク伝達部において伝達される回転力の大きさを容易に調整することができるので制御が簡素化する。また、蓄電部の容量を大きくすることにより長時間にわたる安定した動力の蓄積を行うことができる。発電機および電動機は一つに纏めて発電機兼電動機とすることにより小型化と軽量化に寄与できる。
【0040】
前記伝達回転力調節部を用いて逆転伝達系の動力伝達率を正転伝達系の動力伝達率より大として回転力の出力側から回転力蓄積体への回転力の回収を制御する回生制御部を備える場合(請求項9)には、運転者が制動操作を行なうときに、ブレーキによる制動を行なう前に、回転伝達回転体における回転力(車両の慣性による)を回転力蓄積体にエネルギとして回収することができる。なお、運転者が急激な減速を行う場合(急ブレーキ時)には、プレーキを用いた制動を行なって制動を優先することが好ましい。
【0041】
前記トルク伝達部にトルク伝達回転体が接続された動力源用の差動変速機を備え、車両のエンジンがこの動力源用の差動変速機の回転伝達回転体に接続されて、前記伝達回転力調節部はエンジンとトルク伝達部の間で回転力の伝達方向と伝達率の調節を可能とするものである場合(請求項10)には、エンジンの回転力をトルク伝達部に供給する通常のトルク伝達状態と、エンジンの回転を空転させてトルク伝達部と切り離す切断状態と、トルク伝達部に伝達された回転力を用いてエンジンを回転させるエンジン始動時のトルク伝達状態を容易に切り替えて、伝達する回転力の方向および伝達率を自在に制御できる。
【0042】
動力源用の差動変速機を介してエンジンからトルク伝達部に供給される仕事量は、動力源用の差動変速機のトルク伝達回転体の回転速度と、このトルク伝達回転体を用いて供給される回転力の積によって定まり、これは動力源用の差動変速機の回転伝達回転体の回転速度と、エンジンからこの回転伝達回転体に供給される回転力の積にほぼ等しく(損失による僅かな減少は無視する)なる。
【0043】
一方、エンジンはそれぞれの特性によって、各回転数における出力仕事量(回転数×回転力)に対する燃料消費が最も少なくなる、最も効率の良い出力回転力が定まるので、エンジンは必要とする仕事量に合わせて選択された最も効率の良い回転数かつ回転力を出力するように制御してこれを動力源用の差動変速機によって任意の回転力に変換して出力させることができる。つまり、エンジンの特性を最大に活かした最も効果的な回転力の出力を行うことができるので、燃料消費利率を可及的に改善できる。
【0044】
第1軸を中心に回転自在であると共に径が異なる複数の歯車を隣接させてなる略円錐形状の第1歯車と、前記略円錐形状の母線に平行な第2軸を中心に配置され、かつ前記第1歯車を構成する歯車に対して選択的に噛み合う第2歯車と、前記第2歯車に噛み合う第1歯車側の歯車の歯がこれに隣接する歯車の歯とほぼ重なる第1歯車の回転角において、第2歯車を前記隣接する歯車に噛み合わせるように第2歯車または第1歯車を第2軸に平行する方向に移動させることにより変速する変速部とを備えて、前記差動変速機の一次側、二次側、伝達回転力調節部のうち少なくとも1カ所において動力伝達率を調節可能とする場合(請求項11)には、基本的に第1歯車に設けた各歯車のうち一つと第2歯車が噛み合うことにより動力を伝達するので、動力伝達効率が極めて高くフリクションロスを最小限に抑えることができる、従来の摩擦による動力伝達を行うときのように滑りが生じたり、無理な摩擦による発熱やエネルギロスが生じることもない。
【0045】
また、円錐形状の第1歯車に設けた各歯車は歯幅を一定にする場合、所定の回転角において隣接する歯車の歯が重なるので、変速部がこの回転角において第2歯車を隣接する歯車側に移動させることにより駆動力を伝達しながら変速を行うことが可能となる。
【0046】
なお、第2歯車の歯の形状は円筒形状であることにより、変速時に第2歯車が第2軸に平行する方向に移動しやすいので好ましく、この円筒形状の歯は第2歯車の放射線方向を中心に回動自在に支持されたローラであることにより、変速部における変速をより速やかに行うことができるので好ましい。
【0047】
差動変速機によって差動変速機の一次側、二次側、伝達回転力調節部のうち少なくとも1カ所の動力伝達効率を引き上げることにより、正転伝達系および逆転伝達系の2系統の動力伝達を行なうことによる変速機全体の動力伝達効率の低下を抑えることができる。
【0048】
前記変速部が、前記第2歯車または第1歯車を第2軸に平行な方向に移動できるようにする可動部と、第1歯車に連設されて前記隣接する歯車の歯が重なる回転角において可動部を前記隣接する歯車側に移動させる歯車切換カム機構を備える場合(請求項12)には、歯車切換カム機構によって第2歯車が移動するタイミングを確実に合わせることができるので、変速時に第1歯車の歯が第2歯車の歯と衝突することがなく、変速部における変速をスムーズかつ確実に行うことができる。
【0049】
第1軸を中心に回転自在であると共に径が異なる複数の歯車を隣接させてなる略円錐形状の第1歯車と、前記略円錐形状の母線に対して平行に配置された第2軸を中心に回転自在かつ前記第1歯車を構成する各歯車に対してそれぞれ噛み合う複数の第2歯車と、これらの第2歯車を回動自在に支持する第2歯車支持体と、これらの第2歯車のうち動力伝達に用いるものを選択できるように構成された変速部とからなり、この変速部が、各第2歯車にそれぞれ形成された複数の回転係合部と、これらの回転係合部に選択的に係合することにより選択された第2歯車を第2歯車支持体に連結させる選択係合部と、前記回転係合部に対する選択係合部の係合を切り換えて動力伝達に用いる第2歯車を切換える歯車切換部とを備えて、前記差動変速機の一次側、二次側、伝達回転力調節部のうち少なくとも1カ所において動力伝達率を調節可能とするものも容易に考えられる。この場合、第1歯車に設けた各歯車と第2歯車が噛み合い、回転係合部と選択係合部が係合することにより第1軸と第2軸の間で動力を伝達するので、従来の摩擦による動力伝達を行うときのように滑りが生じたり、無理な摩擦による発熱やエネルギロスが生じることもない。また、第2歯車に形成する回転係合部の形状を同じ形状にすることにより、動力伝達に用いる第2歯車の切り替えを容易に行うことができる。
【0050】
前記円錐形状の第1歯車に設けた各歯車はそれぞれ第2歯車と噛み合うものであるから第1歯車と第2歯車の噛み合いを調整することができ、最も効率的な変速歯車の歯の形状を、例えば、はすば歯車、やまば歯車として、動作音の低減を図り、伝達トルクの変動を抑えることができる。回転係合部および選択係合部の形状は第2歯車の歯数の定数倍の歯数の歯、ローレット、リブであることが考えられる。
【0051】
前記回転係合部または選択係合部の当接部には、第2軸の軸芯方向への移動方向への移動を助けるローラを設けることが好ましい。この場合、変速部による変速を速やかに行うことができるので好ましい。
【0052】
前記変速部が、前記選択係合部を第2軸に平行な方向に移動できるようにする可動部と、隣接する第2歯車の回転係合部が重なる回転角において可動部を前記隣接する第2歯車側に移動させる歯車切換カム機構を備えることも考えられる。この場合、歯車切換カム機構によって第2歯車が移動するタイミングを確実に合わせることができるので、変速時に選択係合部が回転係合部と衝突することがなく、変速部における変速をスムーズかつ確実に行うことができる。
【0053】
第3発明は、前記差動変速機を搭載した車両(請求項13)を提供する。すなわち、差動変速機によって車両の動力源からの回転力を効率的に駆動輪に伝達できるので、動力源の負担を少なくすることができ、エネルギ消費を削減することができ、地球の環境保全に貢献できる。また、これまで制御しにくかった回転力の制御を容易に行うことができるので、制御が容易となり操作性が向上する。
【0054】
第4発明は、前記変速機を搭載したことを特徴とする車両(請求項14)を提供する。すなわち、変速機によって動力伝達効率の改善を行い、運動エネルギを機械的に蓄積してこれを動力として用いることができるので、エネルギ消費を可及的に削減できる。
【発明の効果】
【0055】
第1発明では、これまで直接的には制御できなかった回転力を機械的に制御して伝達できるので、回転力による制御を容易に行なうことができる。つまり、停止している回転しているかに関わらず回転伝達回転体に対しても、制御された回転力を伝達することができるので、この差動変速機を用いることによりトルクコントローラが簡素になり、かつ、回転体同士の接触によって回転力を伝達するので、エネルギ損失を小さくすることができる。
【0056】
第2発明では、伝達する回転力を一旦回転力蓄積体に蓄えてから伝達するので、動力源から出力される回転力に変動があっても伝達する回転力を安定させることが可能である。また、動力源からの回転力を回転力蓄積体に蓄積することにより回転力の伝達時に動力源を停止させることも可能である。さらに、一旦出力されて運動エネルギ(慣性)になった回転力を再び回転力蓄積体に回収して再び動力として使用することも可能である。
【0057】
前記回転力蓄積体が慣性力蓄積体であり、この慣性力蓄積体の回転速度の加減によってその回転の正逆方向に慣性力を働かせて変速機の姿勢を安定させる場合には、動力伝達の効率向上のみならず姿勢の安定化を図ることができるので、とりわけ車両に搭載することにより、運転者の意図に合わせた車両の姿勢制御を行うことができる。つまり、悪路における安定走行を可能とするので、安全性が向上すると共に搭乗者の居住性が向上する。
【0058】
第3発明では、歯車同士の噛み合わせによって動力を伝達し、基本的に一対の歯車間で変速を行うことができるので、滑りや摩擦接触による損失が無く、動力伝達効率を可能な限り高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の差動変速機、変速機およびこの変速機を搭載した車両の構成を示す図である。
【図2】差動変速機の構成を示す図であり、(A)はトルク伝達回転体の軸芯を切断する方向に切断して示す断面図、(B)はトルク伝達回転体の回転軸に直角の方向に切断して示す断面図である。
【図3】前記差動変速機を用いて動力伝達を切断した空転状態を説明する図である。
【図4】前記差動変速機を用いて逆転方向の回転力を伝達する動作状態を説明する図である。
【図5】捩れの力を蓄勢する回転力蓄積体の一例を説明する図である。
【図6】慣性力によって回転力を蓄積する回転力蓄積体の一例を説明する図である。
【図7】差動変速機の変形例を示す図である。
【図8】変速機および回転力蓄積体の変形例を示す図である。
【図9】変速機の更なる変形例を示す図である。
【図10】図9の変速機の要部構成を示す図である。
【図11】前記変速機の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は本発明に係る第1実施形態の構成を概略的に示す図である。図1において、1は複数の差動変速機2A,2B…およびこれらの差動変速機2A,2B…を用いた変速機3を搭載する車両であり、エンジン4などの動力源からの回転力を前後に設けた左右の車輪の一例であるタイヤ5に適宜伝達することにより路面を走行するものである。本実施形態における各差動変速機2A,2B…は基本的に同じ構成の部材を組み合わせて形成されるものであり、以下の説明において、区別が不要であるときには各差動変速機2A,2B…を単に差動変速機2と表現して説明を簡略化する。
【0061】
6A,6Bは前後のタイヤ5に供給する回転力を弾性体の捩れによって蓄積する回転力蓄積体、7ははずみ車慣性力によって回転力を蓄積する回転力蓄積体(慣性力蓄積体)である。捩れの力によって回転力を蓄積する回転力蓄積体6A,6Bはエンジン4とタイヤ5の間に介在することにより、伝達される回転力の変動を小さくして安定走行に寄与することができ、回転力蓄積体7は瞬発的な回転力の蓄積および大きな回転力の出力を行うことができる。また、8A,8Bは前、後の車輪に伝達される回転力を左右のタイヤ5に分配する差動歯車(いわゆるデファレンシャルギア)である。
【0062】
図2は前記差動変速機2の構成を説明する図であって、図2(A)はトルク伝達側の回転軸に直行する方向から見た側面図、図2(B)はトルク伝達側の回転軸の長手方向から見た図である。
【0063】
図2に示すように、前記差動変速機2はトルク伝達部2Tにおいて図1の回転力蓄積体6A,6B,7が接続されることにより回転力の伝達を行うトルク伝達回転体20と、このトルク伝達回転体20に回転自在に軸支された差動回転体21と、差動回転体21の一端側に接触し正転方向の動力伝達を行う正転回転体22と、前記差動回転体21の他端側に接触し逆転方向の動力伝達を行う逆転回転体23と、一端側が正転回転体22に接触し他端側が逆転回転体に接触することにより正転伝達系24Fおよび逆転伝達系24Rを形成する回転伝達回転体25と、これら正転伝達系24Fおよび逆転伝達系24Rの動力伝達率を調節することによりトルク伝達回転体20から回転伝達回転体25の間で伝達する回転力の大きさを調節可能とする伝達回転力調節部26とを備える。
【0064】
前記トルク伝達回転体20は、軸受け20A,20Bによって回転自在に支持される回転軸20Cと、この回転軸20Cに連接する膨出部20Dと、前記回転軸20Cを中心とする回転方向Rに平行な回転軸20Eによってを膨出部20Dに回転自在に支持されると共に一端部に前記差動回転体21を回転自在に支持する傾倒支持部20Fと、この傾倒支持部20Fの多端側に形成されたギアの歯に勘合するギアを外周部に備え前記回転軸20Eに平行な回転軸20Gによって膨出部20Dに回転自在に支持される中間ギア20Hと、外周部に中間ギア20Hの歯に勘合する環状歯20Iを形成し回転軸20Cの中心部に摺道自在に収容される変速操作軸20Jとを備え、前記各部材20E〜20Iが伝達回転力調節部25として機能する。
【0065】
差動回転体21は正転回転体22および逆転回転体23と接触する略半球形状の接触面21Aを備え、この接触面21Aの中心に対応する内側面には前記傾倒支持部20Fの一旦部に軸支される前記回転軸21Bを備える。また、本実施形態では一つのトルク伝達回転体20にその回転角90°毎にそれぞれ設けることにより4つの差動回転体21を取り付けている。従って、この4つの差動回転体21は、それぞれがトルクを伝達することにより各部にかかる力を極力小さくするように構成している。加えて、差動回転体21は差動変速機2の全体に比べて小さすぎることがないので、回転伝達回転体25の回転に伴って回転する差動回転体21の回転数の増加が効率低下を招くということもないようにしている。
【0066】
前記正転回転体22および逆転回転体23は、前記半球の中心(回転軸20E)を通り前記トルク伝達回転体の回転軸に対して約45度の角度の位置において、差動回転体21に押し当てるようにして付勢接触する接触部22A,23Aを有し、その回転軸は伝達回転体20と同軸上に形成された軸受部22B,23Bによって回動自在に支持される。また、これら正転回転体22と逆転回転体23の外周部の回転伝達回転体25との接触部には、傘歯歯車を形成して滑りを防止している。なお、接触部22A,23Aを接触面21Aに押し付ける付勢力は伝達する接触部22A,23Aと接触面21Aの摩擦接触によって伝達できる回転力に比例するものとなるので、より強い力で安定的に付勢されることが好ましく正転回転体22、逆転回転体23に設けた任意の形状の弾性体(図示していない)によって付勢することができる。あるいは、差動回転体21側において接触部22A,23Aに押し当てる方向に付勢力を加える弾性体を設けてもよい。
【0067】
回転伝達回転体25は前記トルク伝達側2Aの回転軸20Cに対して直角に配置された回転軸25Aを軸受25Bによって支持されることにより回転自在に形成されており、かつ、前記正転回転体22および逆転回転体23との接触部には傘歯歯車に噛み合う傘歯歯車を形成している。なお、この回転伝達回転体25は差動変速機2の回転伝達部2Rとなる。
【0068】
また、本実施形態の前記伝達回転力調節部26は前記変速操作軸20Jと環状歯20Iに加えて、前記中間ギア20H、傾倒支持部20Fとを備え、変速操作軸20Jを回転軸20Cに対して出退させることにより、作動回転体21の回転軸21Bを約90°の範囲で傾倒させることができる。つまり、傾倒支持部20Fを傾倒させることにより、回転力の伝達率を、正転回転体22を介する正転伝達系24Fと逆転回転体23を介する逆転伝達系24Rにおいて変更させ、これによって回転伝達回転体25に伝達する回転力を自在に調節することができる。
【0069】
また、図1に示す3Aは前記伝達回転力調節部を用いて逆転伝達系24Rの動力伝達率を正転伝達系24Fの動力伝達率より大として回転力の出力側から回転力蓄積体への回転力の回収を制御する回生制御部として機能する制御装置である。
【0070】
より詳細には図2〜図4の状態を比較して説明する。すなわち、トルク伝達部2Tから入力した回転力をトルク伝達回転体20によって各差動回転体21に伝達し、この作動回転体21をトルク伝達回転体20の回転方向に移動させるように付勢させることができる。
【0071】
図2(A)の状態では伝達回転力調節部26を一番奥に押し込んだ状態であるから、トルク伝達回転体20のトルク伝達部2Tに入力された回転力は作動回転体21の回転軸21Bの延長線上(ほぼ軸芯上)の接触面21Aに接する接触部22Aを介して正転回転体22に伝達され、この正転回転体22をトルク伝達回転体20と同じ正転方向に回転させる。他方、前記逆転回転体23の接触部23Aは作動回転体21の回転軸21Bから最も離れた他端に接触するので、作動回転体21が回転することにより、作動回転体21から前記逆転回転体23への回転力の伝達はほとんど全く行われない。したがって、回転伝達回転体25(差動変速機2の回転伝達部2R)には正転方向のトルクが伝達されることになる。
【0072】
次いで、図3に示すように、前記伝達回転力調節部26を回転軸20Cに対して図示左方向に変位させることにより、中間ギア20Hを介して傾倒支持部20Fを傾倒させることができ、例えば差動回転体21の回転軸21Bが回転軸20Cに対して直角に配置した状態では、トルク伝達回転体20の回転を停止した状態であっても、回転伝達回転体25が正転方向に回転すると、正転回転体22が正転方向に回転し、逆転回転体23が逆転方向に回転する。このとき正転回転体22と逆転回転体23の回転数は同じであるから、これらの回転体22,23が回転軸21Bから等しい距離Dとなるように配置された差動回転体21は静止したトルク伝達回転体20の傾倒支持部20Fに支持された状態で回転する。
【0073】
上述のように、前記伝達回転力調節部26によって正転伝達系24Fと逆転伝達系24Rによる伝達回転力が同じになるように調節した場合には、トルク伝達部2Tの回転を止めて、回転伝達回転体25のみを空転させることができる。つまり、図3に示す状態では、差動変速機2のトルク伝達部2Tを静止させて、回転伝達部2Bとの間での回転力の伝達を切り離すことができるので、差動変速機2をいわば断続器として機能させることができる。したがって、図1に示すように本発明の差動変速機2B,2Cをその回転伝達部2Rが車両1のタイヤ5側に配置させることにより、車両1が惰性で走行している状態において、エンジン4を完全に停止させることも可能である。
【0074】
また、図3に示す状態から図2(A)に示す状態になるように、傾倒支持部20Fを傾倒させることにより、その角度に合わせてトルク伝達部2Tから回転伝達部2Rに供給されるトルクの伝達率を引き上げることができ、回転し続ける差動変速機2の回転伝達部2Rとトルク伝達部2Tとの間で任意の回転力を伝達させることができる。
【0075】
つまり、差動変速機2は伝達回転力調節部26によって、伝達する回転力を制御できるので、トルク制御が容易となる。特に、図1に示す実施例のように前後4輪のタイヤ5を用いて動力伝達を行なう場合、従来の駆動系では前後のタイヤ5の回転数の差によって伝達効率の低下が発生するが、本発明の差動変速機2を用いたトルク制御を行なって前後のタイヤ5への動力伝達を行なう場合には、回転速度の差による動力伝達効率の低下を招くことがない。
【0076】
さらに、図4に示すように、前記伝達回転力調節部26を回転軸20Cに対してさらに図示左方向に変位させることにより、中間ギア20Hを介して傾倒支持部20Fをさらに傾倒させることができ、図2(A)と反対方向に傾倒させた状態では、トルク伝達回転体20に伝達された回転力が差動回転体21を介して逆転回転体23に伝達され、正転回転体22への回転力の伝達はほとんど全く行なわれない。このため、差動変速機2のトルク伝達部2Tに供給された回転力は回転伝達部2Rの逆転方向に作用する。
【0077】
したがって、図1における差動変速機2B,2Cを図4に示す状態にすることにより、車両1を制動することができる。なお、図4に示す状態では、差動変速機2の回転伝達部2Rの回転方向がトルク伝達部2Tの回転方向が逆となるので、差動変速機2B,2Cのトルク伝達部2Tに回転力蓄積体6A,6Bを接続した場合には、車両1を制動すると同時に車両1の慣性エネルギを回転力蓄積体6A,6Bに回収して蓄積することができる。
【0078】
前記差動変速機2B,2Cの回転伝達回転体25には前記差動歯車8A,8Bに連結されるギア8C,8Dを連結しており、回転伝達回転体25に伝達される回転力が左右のタイヤ5に分配して伝えられるように構成している。加えて、本実施形態では差動変速機2Cの回転伝達回転体25およびギア8Dが別の差動変速機2Dの回転伝達回転体25に連結されている。
【0079】
図5は図1に示す前記回転力蓄積体6A,6Bの構成を示す図である。なお、回転力蓄積体6A,6Bの構成は同一構成であるから、以下の説明において区別する必要が無いときには回転力蓄積体6と表現する。
【0080】
これらの回転力蓄積体6は一端の回転軸6Cと他端の回転軸6Dの間の捩れによって回転力を蓄積するものであり、螺旋状に巻きつけた複数の板状の鋼材からなる板状弾性体(いわゆる渦巻きばね)30A,30B…と、これらの板状弾性体30A,30B…の一端を固定して巻きつける軸芯31A,31B…と、前記板状弾性体30…の他端を固定する円周壁面32A,32B…を備えるケース33A,33B…とかならる弾性体ユニット34A,34B…を直列に接続したものである。なお、板状弾性体は高い弾性を備える金属であることが好ましいが、高い弾性を備えるものであれば、木、樹脂、鯨のひげのような有機物、空気やガスなどの流体を利用したものであっても弾性を蓄勢するものであれば用いることができる。
【0081】
図5に示す例では7つの弾性体ユニット34A〜34Gを直列に接続することにより一つの弾性体30A〜30Gに蓄勢できる回転力の7倍の回転力を蓄勢できるように構成しており、かつ、弾性体30A、30B…の弾性力に差をつけて例えば徐々に弾性力を強くするように配置することにより小さな回転力から大きな回転力まで幅の広い回転力の蓄勢を可能としている。また、回転力蓄積体の一端の回転軸6Cは各弾性体ユニット34A〜34Gの軸芯31A〜31Gの中心部を回動自在となるように貫通しており、他端の回転軸6Dと軸芯がずれないように構成し、他端の弾性体ユニット34Gには板状弾性体30Gの飛び出しを防止するカバー35を備える。
【0082】
上述のように構成された回転力蓄積体6は一端と他端の回転軸6C、6Dの間の一方向の捩れを弾性体30A〜30Gに蓄勢するものであるから、図1におけるエンジン4(源動力源)と差動変速機2B,2Cの間にその回転方向に合わせて任意の方向に介在させることにより、エンジン4からの回転力を一旦回転力蓄積体6に蓄積し、回転力蓄積体6に蓄積した回転力を動力源としてタイヤ5に伝達することができる。
【0083】
図1に示すようにエンジン4と回転力蓄積体6の間に差動変速機2Aを介在させることにより、エンジン4と回転力蓄積体6の間における回転力の伝達率を自在に調節し、差動変速機2Aを断続器として用いることも可能である。つまり、図1に示すように回転軸21Bを蓄積側に傾倒させた通常状態ではエンジン4からの回転力を用いて回転力蓄積体6に回転力を蓄積することができ、回転軸21Bが遮断位置にある状態ではエンジン4を空転させることができる。すなわち、この空転状態ではエンジ4を停止させることによりエネルギ消費をなくすことができる。
【0084】
さらに、図1に示す差動変速機2Aの回転軸21Bをエンジン始動側に傾倒させた状態では、回転力蓄積体6に蓄積させた回転力を用いてエンジン4を正転方向に回転させることができるので、停止させたエンジン4を始動させることができる。すなわち、既存のハイブリッドシステムと同じ動作を機械的な制御によって容易に行うことができる。
【0085】
回転力蓄積体6には機械的に回転力を蓄積するので、従来のハイブリッドシステムのように回転力を電気変換する発電機や、変換された電力を蓄積するバッテリや、蓄積された電力を再び回転力に変換する電動機を不要としている。
【0086】
つまり、電気エネルギと運動エネルギとのエネルギ変換における変換効率に伴うエネルギロスを無くすことができる。また、回転力蓄積体6に蓄えられる回転力は各弾性体ユニット30A〜30Gに分散して蓄勢されるので、各弾性体ユニット30A〜30G間の捩れが少なく、隣接する弾性体ユニット30A〜30G間の摩擦によるエネルギ損失もきわめて小さくすることができる。なお、図示は省略するが回転軸6C,6D間の回転を阻止する断続器を形成して、回転力蓄積体6を単なるシャフトとする切替器を設けて瞬発的な大トルクを必要とするときにエンジン4からの回転力を蓄積することなくタイヤ5に伝達させるようにしてもよい。
【0087】
前記制御装置3Aは前記各差動変速機2A,2B…の伝達回転力調節部26を調節することにより、回転力蓄積体6に対する回転力の蓄積状態(すなわち蓄えられた回転力のエネルギ)に合わせて、エンジン4の出力を調節し、例えば、回転力蓄積体6に蓄積された回転力のエネルギが常に一定になるようにエンジン4を回転させ、このエンジン4から供給される回転力を用いて回転力蓄積体6に回転力を蓄積させる。
【0088】
このとき、エンジン4の特性に合わせて、回転力×回転速度(すなわち仕事量)に対する燃料消費量が最も少なくなるようにエンジン4を回転させ、出力される回転力を差動変速機2Aによって任意に速度調節して回転力蓄積体6に蓄積させることができる。なお、回転力蓄積体6に蓄勢するエネルギ(以下蓄勢エネルギという)は、車両1の走行速度が早く(慣性エネルギが高く)なればなるほど少なくするようにして、車両1の慣性エネルギと回転力蓄積体6の蓄勢エネルギのバランスをよくして、さらに省エネルギに貢献することが好ましい。
【0089】
さらに好ましくは、回転力蓄積体6に蓄積するエネルギの大きさを使用者(運転者)が選択できるようにすることができる。すなわち、回転力蓄積体6に大きな回転力を常に蓄積させることにより、この回転力蓄積体6に蓄えた比較的大きな回転力を即座にタイヤ5に供給できるので、それだけレスポンスが向上する。逆に回転力蓄積体6に蓄積する回転力を低く抑えて、車両1の減速時に慣性エネルギを無駄なく回収して回転力蓄積体6に戻すことができるようにし、さらなる省エネルギを実現させることも可能である。
【0090】
図6は前記回転力蓄積体7の構成を側面から見た図である。図6に示すように、本実施形態の回転力蓄積体7はその回転伝達部2Rが差動歯車8Bに連結された差動変速機2Dと、この差動変速機2Dのトルク伝達部2Tに接続された一対のトルク蓄積用の差動変速機2E,2Fと、これらの差動変速機2E,2Fを中心に上下に同心円上に配置された略円盤形状の慣性力蓄積体7A,7Bとを備える。
【0091】
前記差動変速機2D〜2Fのトルク伝達部2Tは同じ回転軸7C上に形成されており、差動変速機2E,2Fの回転伝達部2Rには前記慣性力蓄積体7A,7Bの回転軸に設けたギア7D,7Eに噛み合うギア7F,7Gを備える。また、慣性力蓄積体7A,7Bはその慣性力を大きくするために質量の大きな金属材質からなる環状の厚肉部7Hと、この肉厚部7Hを支持する薄板部7Iとを備えるものであり、その直径はその強度が確保できる可能な限り大径に形成することが好ましい。
【0092】
前記差動変速機2Dの回転軸21Bを加速側に傾倒させ、差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを出力側に傾倒させることにより、慣性力蓄積体7A,7Bの回転力を回転軸7Cを介してタイヤ5側に供給して車両1を加速させることができる。なお、差動変速機2Dの回転軸21Bを加速側に傾倒させる角度は慣性力蓄積体7A,7Bからタイヤ5に伝達させたい回転力の大きさに合わせて調節され、差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを出力側に傾倒させる角度は車両1の走行速度と慣性力蓄積体7A,7Bの回転速度の関係およびタイヤ5に伝達させる回転力の大きさに合わせて調節される。
【0093】
また、差動変速機2D〜2Fの回転軸21Bを空転位置に配置することにより回転軸7Cを停止させて回転力の伝達を阻止することができる。この状態では慣性力蓄積体7A,7Bはその慣性力によって回転し続ける。
【0094】
さらに、差動変速機2Dの回転軸21Bを減速側に傾倒させ、差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを入力側に傾倒させることにより、車両1の走行速度に応じてタイヤ5の回転力を回収して回転軸7Cを加速時とは逆転方向に回転させ、この回転力を慣性力蓄積体7A,7Bに伝達させてその回転速度を上げることができる。また、差動変速機2Dの回転軸21Bを減速側に傾倒させる角度は車両1の制動力の大きさに合わせて調節され、差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを入力側に傾倒させる角度は車両1の走行速度と慣性力蓄積体7A,7Bの回転速度の関係およびタイヤ5から回収する回転力の大きさに合わせて調節される。
【0095】
なお、上記差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを傾倒させる角度を同じにすることにより、慣性力蓄積体7A,7Bが互いに逆方向に回転するので、これら同軸線上に配置された慣性力蓄積体7A,7Bの回転速度を変化させることに伴う回転トルクを互いにキャンセルさせることができ、トルク伝達部7全体に回転力が加わることが無い。
【0096】
しかしながら、差動変速機2E,2Fの回転軸21Bを傾倒させる角度をあえて異ならせて、慣性力蓄積体の回転速度の加減によってその回転の正逆方向に慣性力を働かせることにより変速機3の姿勢を安定させる姿勢安定制御部7Jを設けることが好ましい。つまり、差動変速機2E,2Fの回転力伝達率の調節を、運転者による車両1の操舵に合わせて行ない、車両1を左または右に旋回させる操作を行なっているときには、変速機3を介して車両1全体に右周りまたは左回りの回転力をかけるように、差動変速機2E,2Fを制御することが好ましい。
【0097】
この回転力蓄積体7は慣性力蓄積体7A,7Bの慣性による回転力を回転力蓄積体6の二次側においてタイヤ5に伝達させるものであるから、瞬発的に強力な回転力を出力して加速したり、比較的強力な制動力を作用させることも可能である。つまり、図1に示すように、捩れの力を蓄勢して安定した回転力を供給する回転力蓄積体6と慣性を用いた瞬発的な回転力を供給する回転力蓄積体7を併用することが好ましい。
【0098】
なお、図示を省略するが、前記回転力蓄積体7は前輪のタイヤ5側に設けることにより前輪のタイヤ5に瞬発的な回転力をかけることができるようになる。さらに、車両1の前後両方に回転力蓄積体7を設けてさらなる走行性能の向上を図ってもよい。加えて、差動変速機2Dと差動変速機2E,2Fの間の回転軸7Cに断続器を形成し、差動変速機2Dとの間のトルク伝達部2Tの伝達を遮断させた状態で慣性力蓄積体7A,7B間で回転力の伝達を行なって、慣性力蓄積体7A,7Bの回転速度を変化させることによる回転トルクを発生させて、車両1の姿勢を安定させるようにしてもよい。
【0099】
さらに、本実施形態では鉛直方向を中心とする回転軸上に回転方向の回転力をかける例を示しているが、慣性力蓄積体7A,7Bの回転軸は車両1の走行方向に平行な中心軸上に回転自在となるように配置してもよい。この場合、車両1の横転を防止するように慣性力を働かせて、車両1の姿勢を安定させることもできる。同様に、慣性力蓄積体7A,7Bの回転軸を車両1の走行方向に直角な水平方向の中心軸上に回転自在となるように配置し、加減速時における車両1の前後のタイヤ5にかかる荷重を一定にするようにして、車両1の姿勢を安定させるようにしてもよい。
【0100】
加えて、前記慣性力蓄積体7A,7Bは高速回転させることにより、その遠心力によってその回転軸を安定させることができる。つまり、高速回転させた慣性力蓄積体7A,7Bによって、車両1の姿勢を安定させ、路面走行時に路面の凹凸に伴って発生する振動を抑えることも期待できる。
【0101】
図7は図1〜図6に示す差動変速機2の変形例を示す図である。図7に示す差動変速機2’は前記正転回転体22および逆転回転体23の接触部22A,23Aに、傾倒支持部20Fの揺動に伴って回動自在に支持された複数のローラ22C,23Cを備える。なお、ローラ22C,23Cの外周部はこれらを円形に並べて配置した状態で、接触部22A,23Aが円形となるようにその側面を湾曲させて形成している。
【0102】
22D,23Dは各ローラ22C,23Cを回転自在に軸支する支持部であり、この支持部22D,23Dが正転回転体22および逆転回転体23を回転自在に軸支しているので、前記傾倒支持部21を傾倒させるときに、ローラ22C,23Cが回転することにより摩擦抵抗がかからないので、各部材20〜25が完全に停止している状態であっても伝達回転力調節26による回転力の伝達率の調節操作を容易に行うことができる。
【0103】
図8は図1〜図7に示す差動変速機2,2’を用いた変速機3のさらなる変形例を示す図である。図8に示す変速機3’は差動変速機2の回転伝達回転体25に一体的に連動連結された発電機兼電動機30と、この発電機兼電動機30に電気的に接続された二次電池などからなる蓄電部31とを備える。
【0104】
前記発電機兼電動機30は例えば永久磁石32と、コイル33とからなり、蓄電部31に蓄積した電気エネルギを用いてコイル33に電流を流すことにより回転力を生成する電動機として機能する一方、外部から加わる回転力によって永久磁石32とコイル33の位置関係が変化するときにコイル33に生じる電流を用いて蓄電部31に電気エネルギを充電することにより発電機として機能する。したがって、以下の説明において同じ発電機兼電動機30を発電機30Gとも電動機30Mとも表現する。
【0105】
なお、図8に示す永久磁石32とコイル33は永久磁石が回転し、コイル33が固定するように配置することにより、コイル33と蓄電部31との電気的な接続が容易となるので好ましいが、永久磁石32とコイル33の位置関係が逆であってもよい。また、両方ともコイルとして片方を励磁コイルとし、この励磁コイルに電流を流した状態で発電器または電動機として機能させ、励磁コイルへの通電を止めた状態では電気エネルギとのエネルギ変換を行なわないことも可能である。
【0106】
従って、エンジン4からの回転力を電気エネルギに変換して蓄電部31に蓄えると共に、蓄電部31に蓄積した電気エネルギを用いて回転力を生成することができ、蓄電部31の容量を大きくすればするほど安定した回転力を供給し続けることが可能となる。なお、蓄電部31はニッケル・カドニウム電池、ニッケル・水素電池、リチウムイオン電池、鉛電池などの二次電池であることが考えられるが、メンテナンスが容易な高容量のコンデンサなどを用いてもよいことはいうまでもない。また、蓄電部31には入出力する電流値を回転力に合わせて調節する制御回路を備えることが好ましい。
【0107】
本実施形態では差動変速機2の回転伝達回転体25に発電機兼電動機30を形成しているので、回転力の運動エネルギを電気エネルギに変換する時にもその逆のエネルギ変換を行なうときにも電流値によって容易にトルク調節を行なうことができる。従って、発電機30Gをエンジン4の近く(図1に示す差動変速機2Aの回転伝達回転体25)に配置することによりエンジン4の出力を直接的に電気エネルギに変換でき、その間のエネルギロスを最小にすることができる。
【0108】
同様に、発電機30Gをタイヤ5の近く(図1に示す差動変速機2B,2Cの回転伝達回転体25)に配置することにより差動歯車8を介してタイヤ5から回収する回転力をできるだけ直接的に電気エネルギに変換でき、また、電動機30Mをタイヤ5の近くに配置することにより電気エネルギを回転力に変換して直接的にタイヤ5に供給することができる。
【0109】
さらに、図示は省略するが発電機兼電動機30を図1に示す回転力蓄積体6,7に連結させて差動変速機2の回転力をトルク伝達回転体20に連動連結させた部分に設けることも可能であり、この場合は回転力蓄積体6,7に蓄積しきれない回転力を用いて発電機30Gを回転させて蓄電部31に電気エネルギとして蓄積することができる。
【0110】
図9は本発明の第1実施形態に係る変速機40の一部を切断してその構成を示す図であり、図10はこの変速機40の要部構成を示す図である。第2実施形態の変速機40は、第1実施形態の差動変速機2の回転伝達回転体25と正転回転体22および逆転回転体23の間で変速を行なうものである。従って、図1〜図8と同じ符号を付した部材は同一または同等の機能を有する部材であるから、その詳細な説明を省略する。
【0111】
図9に示すように、変速機40は、第1軸41を中心に回転自在であると共に径が異なる複数の歯車42を隣接させてなる略円錐形状の第1歯車43と、前記略円錐形状の対称位置にある一対の母線44A,44Bに平行な一対の第2軸45,46のそれぞれを中心に配置され、かつ前記第1歯車43を構成する歯車42に対して選択的に噛み合う第2歯車47,48と、前記第2歯車47,48に噛み合う第1歯車43側の歯車42の歯42Aがこれに隣接する歯車42の歯42Bとほぼ重なる第1歯車43の回転角において、第2歯車47,48を前記隣接する歯車42Bに噛み合わせるように第2歯車または第1歯車を第2軸に平行する方向に移動させることにより変速する変速部49,50とを備えて、前記差動変速機2の伝達回転力調節部において動力伝達率を調節可能とするものである。
【0112】
前記歯車42を構成する各歯42は例えば基本となる円錐形状に対して、周方向に等間隔に円筒状の孔を開設させてこの孔の底面を歯の根元とした形状であり、これに対応する歯車47,48にはその外周に前記孔と同じ間隔で略円筒状の突起状の歯47A,48Aが形成されている。また、好ましくは前記歯47A,48Aはその円筒の外周がその円周方向に回動可能に形成されている。すなわち、第1歯車43の歯42A、42B…に第2歯車47,48の歯47A,48Aが噛み合った状態において各歯車43,47,48は連動して回転するが、第1歯車43と第2歯車47,48の軸42,45,46が平行でないので、各歯車43,47,48同士が僅かに回転しながら動力を伝達するが、歯47A,48Aがその円周方向に回動可能であるから大きな摩擦が発生することがなく、これにともなうフリクションロスを軽減できる。
【0113】
前記第1歯車43は略円錐形状であるから、その外周に形成された歯車42の歯数は図10の図示下方において少なく、図示上方において多く形成される。また、母線44A,44Bに対して同じ間隔Wとなるように複数の歯車42…を形成した場合、隣接する2つの歯車42の歯数の差は全て同じとなる。
【0114】
図10に示す、本実施形態の第1歯車43の場合、歯車42の歯数は内側から、6,8,10,12…となっており、隣接する歯車42の歯数の差が2であるから、第1歯車43はその円周方向の2箇所(回転角θ1、θ2)において隣接する歯車42の歯42A,42B…を完全に重ねることができる。本実施形態では、完全に隣接する歯車42と重なる回転角θ1、θ2の位置にある歯を連結して、長孔42Zを形成し、隣接する歯車42の歯を連結している。
【0115】
また、第1歯車43はその外周に連接させ、前記第2軸45、46に平行となる略円錐のカム平面49と、このカム平面49に形成させた略円周上に形成されたカム溝50U、50K、50Dとからなる歯車切換カム50を備える。また、前記第2軸45,46の中心には第2歯車47,48の位置を第2軸45,46上に移動させることにより変速操作を可能とする変速操作棒51を備え、この変速操作棒51上に前記間隔Wに合わせて形成した嵌合溝51Aに嵌合すると共に前記カム溝50U、50K、50Dにも嵌合するカムフォロア52U、52K、52Dと、これらのカムフォロア52U、52K、52Dを支持すると共に任意のカムフォロア52U、52K、52Dを嵌合溝51Aおよびカム溝50U、50K、50Dに嵌合させる変速操作部および第2軸45,46に平行に移動可能に構成されたカムフォロアユニット52A,52Bを備える。
【0116】
前記カム溝50Kは第1歯車43と同心円状に形成された周溝であり、第1歯車43を回転させてもカム溝50Kの位置が変わることがない。従って、このカム溝50Kにカムフォロア52Kを嵌合させることにより、第2歯車47,48の位置を固定させることができる。
【0117】
他方、カム溝50Dは前記カム溝50Kよりも外側において第1歯車43とほぼ同心円状に形成された円弧部分と、回転角θ1、θ2において前記カム溝50Kに合流するように湾曲させた合流部50Jとを有する。従って、このカム溝50Dにカムフォロア52Dを嵌合させることにより、第2歯車47,48を前記回転角θ1、θ2の位置において内側(図9の下側)に移動させて変速比を下げることができる。
【0118】
他方、カム溝50Uは前記カム溝50Kよりも内側において第1歯車43とほぼ同心円状に形成された円弧部分と、回転角θ1、θ2において前記カム溝50Kに合流するように湾曲させた合流部50Jとを有する。従って、このカム溝50Uにカムフォロア52Uを嵌合させることにより、第2歯車47,48を前記回転角θ1、θ2の位置において外側(図9の上側)に移動させて変速比を上げることができる。
【0119】
前記歯車切換カム50およびカムフォロアユニット52A,52Bは第1歯車43に設けた複数の歯車42に対する第2歯車47,48の噛み合い状態を切換え可能に構成された歯車切換カム機構53A,53Bであり、この歯車切換カム機構53A,53Bは、変速操作棒51を用いた変速操作によって第2歯車47,47を第2軸45,46に平行な方向に移動できるようにする可動部45A,46Aを備え、第1歯車43に連設されて前記隣接する歯車の歯42A,42Bが重なる回転角θ1、θ2において可動部45A,45Bを前記隣接する歯車側に移動させるものである。
【0120】
54,55は前記第2軸45、46に連結される傘歯歯車であり、これらの傘歯歯車54および55はそれぞれ正転回転体22および逆転回転体23に設けた傘歯歯車22E、23Eに噛み合うことによりこれらの回転体22,23に連動して回転する。さらに、本実施形態の差動回転体21はその回転軸21Bがトルク伝達回転体20の回転軸20Cに対して直角方向に固定された傘歯歯車であり、この傘歯歯車21の両端が正転回転体22および逆転回転体23に設けた傘歯歯車22F、23Fに噛み合うことにより連動する。従って、本実施形態の場合、第1歯車43が回転伝達部2Rに位置する回転伝達回転体となる。
【0121】
本実施形態の正転伝達系24Fはトルク伝達回転体20から差動回転体21、傘歯歯車54、正転回転体22、第2歯車47、第1歯車43へと動力を伝達する動力伝達系であり、逆転伝達系24Rはトルク伝達回転体20から差動回転体21、逆転回転体23、傘歯歯車55、第2歯車48、第1歯車43へと動力を伝達する動力伝達系である。
【0122】
したがって、第2歯車47、48が図9に示す状態であるとき、トルク伝達部2Tの回転を止めた状態で、回転伝達部2Rの第1歯車43を回転させることができる。また、第2歯車47を図9において上方に移動させることにより、トルク伝達部2Tから回転伝達部2Rに伝達する正転方向の回転力を大きくすることができる。逆に、第2歯車48を図9において上方に移動させることにより、トルク伝達部2Tから回転伝達部2Rに伝達する逆転方向の回転力を大きくすることができる。
【0123】
前記構成の変速機40は動力伝達部分から摩擦による動力伝達を排除することができるので、それだけフリクションロスを小さくすることができる。とりわけ、第1歯車43に対してそれぞれ一つの第2歯車47,48が噛み合うことにより動力を伝達するので、無駄なギアの嵌合が無いのでそれだけ動力伝達を効率よく行なうことができる。
【0124】
本実施形態の変速機40を図1に示す差動変速機2A,2B…に代えて用いることにより、各部におけるフリクションロスをさらに抑えて、車両1のエネルギ消費を可及的に抑えることができる。
【0125】
図11は前記変速機40の変形例を示す図である。従って、図11において図1〜図10と同じ符号を付した部材は同一または同等の機能を有する部材であるから、その詳細な説明を省略する。
【0126】
図11に示すように、前記第1歯車43と第2歯車45,46の噛み合わせによる動力伝達の代わりに、円錐形状の第1回転体43’とこれに接触する高摩擦抵抗面を備える第2回転体45’、46’を用い、第1回転体43’と第2回転体45’、46’を押し付けることにより、無段階の変速を行うことができる。56は前記第2回転体45’、46’を変速操作棒51を出退可能に摺動駆動する変速機構である。
【0127】
この変形例に示すように、高摩擦抵抗面を備える第2回転体45’、46’を用いる場合には、任意のタイミングで第2回転体45’、46’を移動させることができるので、応答速度を早くすることができる。
【0128】
上述の実施形態では本発明の変速機3を4輪車両1に搭載した例を示しているが、本発明はこの点に限定されるものではない。すなわち、自動二輪や動力付自転車に用いることにより、トルク制御を容易に行うことができ、操作性が向上し、燃料消費率を可及的に引き上げることができる。さらに、自転車に搭載して自転車の運動エネルギを次の加速時の動力源として用いることも可能である。
【0129】
さらに、変速機3を列車、船、潜水艦などの動力に用いることも可能である。また、慣性力蓄積体7A,7Bを制御することによる姿勢安定化制御を用いて4輪車両のみならず、2輪車両、列車、船、潜水艦、飛行機、ヘリコプタ、宇宙船の安定運転に貢献させることも可能である。また、この姿勢安定化制御のみを用いて、移動体のみならずゲームコントローラなどの装置の位置制御に用いてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1 車両
2 差動変速機
3、40 変速機
3A 回生制御部
6、7 回転力蓄積体
7B 慣性力蓄積体
7C トルク制御部(姿勢安定制御部)
20 トルク伝達回転体
20F 傾倒支持部
21 差動回転体
21A 接触部
22 正転回転体
22C(23C) ローラ
23 逆転回転体
25 回転伝達回転体
26 伝達回転力調節部
30 発電部および電動機
30A… 弾性体
41 第1軸
42 歯車
43 第1歯車
44A,44B 母線
45,46 第2軸
47,48 第2歯車
53A,53B 変速部(歯車切換カム機構)
θ1、θ2 回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク伝達部からの回転力を入力するトルク伝達回転体と、このトルク伝達回転体に回転自在に軸支された差動回転体と、この差動回転体の一端側に接触し正転方向の動力伝達を行う正転回転体と、前記差動回転体の他端側に接触し逆転方向の動力伝達を行う逆転回転体と、一端側が正転回転体に連動連結し他端側が逆転回転体に連動連結することにより正転伝達系および逆転伝達系を形成する回転伝達回転体と、これら正転伝達系および/または逆転伝達系の動力伝達率を調節することによりトルク伝達回転体から回転伝達回転体の間で伝達する回転力の大きさを調節可能とする伝達回転力調節部とを備えることを特徴とする差動変速機。
【請求項2】
前記差動回転体の正転回転体および逆転回転体と接触する接触面が略半球形状であり、前記正転回転体および逆転回転体は前記半球の中心を通り前記トルク伝達回転体の回転軸に対して約45度の角度の位置において差動回転体に接触する接触部を有し、前記伝達回転力調節部は差動回転体の回転軸の中心でかつ前記接触面に形成された半球の中心部において正転回転体側または逆転回転体側に揺動可能に支持する傾倒支持部である請求項1に記載の差動変速機。
【請求項3】
前記正転回転体および逆転回転体の前記接触部は、傾倒支持部の揺動に伴って回動自在に支持された複数のローラを備える請求項2に記載の差動変速機。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項の差動変速機のトルク伝達部に接続されて動力源からの回転力を蓄勢する回転力蓄積体を備えることを特徴とする変速機。
【請求項5】
前記回転力蓄積体はその一次側の回転軸と二次側の回転軸の間の捩れによって回転力を蓄勢する弾性体を備える請求項4に記載の変速機。
【請求項6】
前記回転力蓄積体はトルク伝達部に接続されたトルク蓄積用の差動変速機と、この差動変速機の回転伝達回転体に連結させて回転力を慣性によって蓄積する慣性力蓄積体と、前記トルク蓄積用の差動変速機の伝達回転力調節部を用いて回転力の伝達方向を制御することにより前記慣性力蓄積体への回転力の蓄積および回転力の放出を制御するトルク制御部とを備える請求項4または請求項5に記載の変速機。
【請求項7】
前記慣性力蓄積体の回転速度の加減によってその回転の正逆方向に慣性力を働かせて変速機の姿勢を安定させる姿勢安定制御部を有する請求項6に記載の開閉部の変速機。
【請求項8】
前記回転力蓄積体はトルク伝達部または回転伝達回転体に連動連結された部分に取り付けられた発電機および電動機と、この発電機および電動機に電気的に接続された蓄電部とを備える請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項9】
前記伝達回転力調節部を用いて逆転伝達系の動力伝達率を正転伝達系の動力伝達率より大として回転力の出力側から回転力蓄積体への回転力の回収を制御する回生制御部を備える請求項4〜請求項8のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項10】
前記トルク伝達部にトルク伝達回転体が接続された動力源用の差動変速機を備え、車両のエンジンがこの動力源用の差動変速機の回転伝達回転体に接続されて、前記伝達回転力調節部はエンジンとトルク伝達部の間で回転力の伝達方向と伝達率の調節を可能とするものである請求項4〜請求項9のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項11】
第1軸を中心に回転自在であると共に径が異なる複数の歯車を隣接させてなる略円錐形状の第1歯車と、
前記略円錐形状の母線に平行な第2軸を中心に配置され、かつ前記第1歯車を構成する歯車に対して選択的に噛み合う第2歯車と、
前記第2歯車に噛み合う第1歯車側の歯車の歯がこれに隣接する歯車の歯とほぼ重なる第1歯車の回転角において、第2歯車を前記隣接する歯車に噛み合わせるように第2歯車または第1歯車を第2軸に平行する方向に移動させることにより変速する変速部とを備えて、前記差動変速機の一次側、二次側、伝達回転力調節部のうち少なくとも1カ所において動力伝達率を調節可能とする請求項4〜請求項10のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項12】
前記変速部が、前記第2歯車または第1歯車を第2軸に平行な方向に移動できるようにする可動部と、第1歯車に連設されて前記隣接する歯車の歯が重なる回転角において可動部を前記隣接する歯車側に移動させる歯車切換カム機構を備える請求項11に記載の変速機。
【請求項13】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の差動変速機を搭載したことを特徴とする車両。
【請求項14】
請求項4〜請求項12の何れか1項に記載の変速機を搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−159104(P2012−159104A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17522(P2011−17522)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(500375796)
【出願人】(511027769)
【Fターム(参考)】