説明

差動終端及び減衰回路網

【課題】回路網の入力ノードにおける直流電流をゼロにすると共に、差動測定増幅回路のダイナミック・レンジを最適化する。
【解決手段】差動終端及び減衰回路網60は、直流コモン・モード電圧VCMを有する差動入力信号IN+及びIN−を受け、第1及び第2入力終端抵抗器68及び70があり、抵抗性減衰回路76及び78と並列に接続される。回路網60の入力ノード75に接続されたモニタ回路66は、入力ノード75における直流コモン・モード電圧VCMと印加される終端電圧VTERMの組み合わせを表す出力信号VIを生成する。制御回路74は、モニタ回路66からの出力信号VIと印加終端電圧VTERMとを受けて、スケール調整終端電圧VT及びスケール調整補償電圧VAと、ドライブ電流IT及びIAを生成する。これらは、入力終端抵抗68及び70と減衰器76及び78を通して直流電流を供給することで、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号終端器が付いた差動測定プローブに関するもので、特に、直流コモン・モード電圧を補償する測定プローブ用の差動終端及び減衰回路網に関する。
【背景技術】
【0002】
高速測定システムは、一般に入力信号伝送線の特性インピーダンスと整合した入力抵抗終端器を有する。これは、入力信号の反射の問題を最小限し、非常に忠実な信号が得られるよう機能する。デュアル50オーム入力終端回路網は、高速差動システム用の最も一般的な接続形態(Topology)である。複数の50オーム入力終端器は、通常、測定システムのグランドに接続されるが、応用例としてはコモン・モード直流終端電圧への終端が要求されることもある。測定終端回路網において直流終端電圧を調整可能であれば、直流コモン・モード成分を多く含む高速シリアル・データ信号のような信号源の直流の負荷を制御できる。
【0003】
図1は、米国テクトロニクス社が製造販売するP7350SMA型差動プローブで使用されている終端回路網10の回路概念図であり、これには調整可能な直流終端電圧VTERMが用いられている。この直流終端電圧VTERMは、外部信号源から供給されるもので、終端抵抗器12及び14の共通ノードに結合される。終端抵抗器12及び14は50オーム抵抗器であり、通常、被測定デバイスの50オーム差動信号源インピーダンスと整合している。差動入力信号は、SMA入力コネクタ16及び18を介して終端抵抗器12及び14に接続され、ハイ・インピーダンス減衰器20及び22に入力される。ハイ・インピーダンス減衰器20及び22の反対側端子は、グランドに接続される。各減衰器20及び22は、容量性(capacitive)素子28及び30から構成される補償電圧分圧器が並列に接続された、抵抗素子24及び26から構成される抵抗性電圧分圧器を有する。抵抗性/容量性電圧分圧器回路網の中間ノード32は、差動増幅回路34の反転及び非反転入力端子に接続される。なお、こうしたプローブを使用するため、測定装置にはプローブを接続するためのインターフェースが設けられる。こうしたインターフェースについては、米国特許第6629048号明細書に詳しい。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6629048号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定プローブの直流終端電圧VTERMを入力信号の直流コモン・モード成分に整合させると、信号源に対する直流負荷を最小限にしながら、交流カップリング無しで、入力信号を測定プローブの入力端子に直接接続できる。高速差動増幅回路34の入力ダイナミック・レンジには一般に限界があるが、ハイ・インピーダンス入力減衰器20及び22は、高速差動増幅回路34の線形なダイナミック・レンジを拡大するために用いられる。減衰器20及び22の出力端子における直流コモン・モード電圧は、入力信号のコモン・モード成分と、終端回路網のコモン・モード終端電圧VTERMの両方を反映した結果となる。差動測定増幅回路34の設計が優れていれば、同相除去比(CMRR)が大きいので、増幅回路の出力信号から直流コモン・モード電圧の大部分を除去できる。しかし、差動増幅回路34の入力端子に直流コモン・モード電圧がわずかでもあると、増幅回路34の有効な線形ダイナミック・レンジは減少してしまう。入力信号中に大きな直流コモン・モード電圧があれば、差動増幅回路34は簡単にオーバードライブしてしまうので、小さな差動モード信号の測定ができなくなってしまう。
【0006】
そこで、増幅回路のダイナミック・レンジを最適にするための直流コモン・モード電圧出力を差動測定増幅回路の入力に供給する測定プローブ用の入力差動終端及び減衰回路網が望まれている。この入力差動終端及び減衰回路網は、入力信号に応じて入力信号源の直流成分の負荷がゼロとなるように大きさを調整した直流終端電圧を供給する。また、入力差動終端及び減衰回路網は、入力信号に応じて差動測定増幅回路が最適なダイナミック・レンジとなるようにスケール調整された補償電圧を供給する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による差動終端及び減衰回路網は、信号源抵抗を有する信号源からの直流コモン・モード電圧を受ける。差動終端及び減衰回路網は、スケール調整終端電圧及びドライブ電流と、スケール調整補償電圧及びドライブ電流を生成することで、回路網の差動入力ノードにおける直流電流をゼロにすると共に、回路網の出力端子に直流コモン・モード電圧を生成して差動測定増幅回路のダイナミック・レンジを最適化する。差動終端及び減衰回路網は第1及び第2入力終端抵抗を有し、これらは共通ノードと、夫々電圧信号源からの直流コモン・モード電圧を受ける回路網入力ノードを有する。回路網入力ノードは、共通ノードを有する第1及び第2減衰器夫々の入力ノードにも接続される。モニタ回路は、回路網入力ノードに接続され、入力電圧信号源の入力信号源抵抗における直流コモン・モード電圧と入力終端抵抗における印加終端電圧を表す電圧の組み合わせを表す出力信号を生成する。モニタ回路は、第1及び第2入力終端抵抗よりも高い入力インピーダンスを有する抵抗性電圧分圧回路網が好ましい。制御回路は、印加終端電圧とモニタ回路の出力信号を受けて、印加終端電圧と直流コモン・モード電圧に対する関係で定まるスケール調整終端電圧及びドライブ電流と、スケール調整補償電圧及びドライブ電流とを生成する。スケール調整終端電圧及びドライブ電流は第1及び第2入力終端抵抗の共通ノードに供給され、スケール調整補償電圧及びドライブ電流は第1及び第2減衰器の共通ノードに供給される。スケール調整終端電圧及びドライブ電流とスケール調整補償電圧及びドライブ電流は、入力終端抵抗及び減衰器を通して直流電流を供給することで、回路網入力ノードにおける直流電流をゼロにすると共に、第1及び第2減衰器から直流コモン・モード電圧出力信号を供給して差動測定増幅回路のダイナミック・レンジを最適化する。
【0008】
各入力終端抵抗は、夫々と対応する第1及び第2減衰器の一方と並列に結合された入力終端抵抗器として実現される。これら減衰器は第1及び第2抵抗器で実現され、第1抵抗器の一端は第1及び第2入力終端抵抗器の1つと接続され、他端は第2抵抗器の一端と減衰器の出力ノードで接続され、第2抵抗器の他端はスケール調整補償電圧及びドライブ電流の供給を受けるように第1及び第2減衰器の共通ノードで接続される。
【0009】
スケール調整終端電圧及びスケール調整補償電圧は複数のスケール係数を有し、これらは第1及び第2入力終端抵抗器と第1及び第2減衰器夫々の第1及び第2抵抗器に応じて定まる。スケール調整終端電圧は、印加された終端電圧に比例する第1電圧を供給する第1スケール係数と、第1及び第2入力終端抵抗の入力回路網ノードにおける直流コモン・モード電圧と印加された終端電圧との差分に比例した補正電圧を供給するための第2スケール係数とで定まる。スケール調整補償電圧は、印加された終端電圧に比例する第1電圧を供給する第1スケール係数と、第1及び第2入力終端抵抗の入力回路網ノードにおける直流コモン・モード電圧と印加された終端電圧の差分に比例した補正電圧を供給するための第2スケール係数とで定まる。本発明の好適な実施例では、スケール調整終端電圧及びドライブ電流と、スケール調整補償電圧及びドライブ電流によって、第1及び第2減衰器からの直流コモン・モード電圧が実質的にゼロになる。
【0010】
制御回路は、モニタ回路からの出力信号と印加された終端電圧を入力信号として受ける補正差動増幅器を有している。補正差動増幅器は、モニタ回路の出力信号と印加される終端電圧の差分を表す出力信号を生成する。第1加算ノードは、印加終端電圧と補正差動増幅器からの出力信号を受けるように接続され、印加終端電圧と補正差動増幅器からの出力信号を減衰したものとを表す出力信号を生成する。第1加算ノードからの出力信号は、スケール利得係数を有する第1ドライブ増幅器に供給され、スケール調整終端電圧の生成に利用される。第2加算ノードは、印加終端電圧と補正差動増幅器からの出力信号を受けるように接続され、印加終端電圧と補正差動増幅器からの出力信号とを表す出力信号を生成する。第2加算ノードからの出力信号は、スケール利得係数を有する第2ドライブ増幅器に供給され、スケール調整補償電圧の生成に利用される。
【0011】
本発明の好適実施例では、第1加算ノードが補正差動増幅器からの出力信号を受ける能動(Active)減衰回路と、加算増幅器とを有している。加算増幅器は、印加終端電圧と、補正差動増幅器からの出力信号の減衰したものとを受けるように接続された入力ノードを有している。このため、入力ノードは、補正差動増幅器からの出力信号を受ける減衰回路の中間ノードに接続される。加算増幅器は、印加終端電圧と補正差動増幅器からの出力信号の減衰したものとを表す出力信号を生成する。
【0012】
本発明の目的、効果、新規な点については、特許請求の範囲及び図面と併せて以下の記載を読むことによって明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2は、本発明による入力差動終端及び減衰回路網を内蔵した測定プローブを用いた測定装置の一例を示す図である。測定試験装置40は、例えば、米国テクトロニクス社が製造販売するTDS6804B型オシロスコープである。オシロスコープ40は、例えば、本発明による入力差動終端及び減衰回路網を内蔵した差動測定プローブのようなアクセサリ・デバイス44を、1つ以上接続するための複数のアクセサリ・インターフェース42を有している。各アクセサリ・インターフェース42は、米国特許第6629048B1に記載されているように、同軸信号入力ラインと、電力(電圧パワー)ライン、クロック・ライン、データ・ライン、検知(sensing)ライン及びメモリ電力ラインを有している。オシロスコープ40は、アクセサリ・インターフェース42から測定プローブ44に電源電圧を供給し、オシロスコープ40とプローブ44の間で双方向通信が行われる。差動測定プローブ44は、終端されたSMA同軸ケーブル48を介して被測定デバイス46に接続される。オシロスコープ40は表示デバイス50を有し、これにはグラフィカル・ユーザ・インターフェースと、被測定デバイス46からの処理された信号とが表示される。測定試験装置40は、一般に、装置の設定を制御するため、回転ノブ、押しボタンなどの前面パネル・コントローラ52を有する。これの代わりに、表示デバイス50に前面パネル・コントローラに相当するものをグラフィカルに表示させて、これをユーザが制御するようにしても良い。差動測定プローブ44は、外部の終端電圧VTERMを受けられるように入力コネクタ54を有している。
【0014】
図3は、差動測定プローブ44に内蔵される本発明による入力差動終端及び減衰回路網60の一例の回路図である。入力差動終端及び減衰回路網60は、入力端子62及び64に被測定デバイス46から差動入力信号IN+及びIN−を受ける。被測定デバイス46は、相補的(complementary)な差動モード信号源65と、抵抗器RSで表される差動信号源インピーダンスから構成される直流コモン・モード信号源VCMとしてモデル化できる。入力信号は、モニタ回路66と入力終端抵抗器68及び70に接続される。モニタ回路66は、信号源の入力直流コモン・モード電圧VCMを検出し、入力直流コモン・モード電圧VCMと印加された終端電圧VTERMを表す電圧の組み合わせを表す出力信号VIを発生する。入力終端抵抗器68及び70の共通ノード72は、制御回路74からスケール調整終端電圧VT及びドライブ電流ITを受ける。入力終端抵抗器68及び70の夫々は、減衰器76及び78の一方の入力ノード75に電気的に接続され、かつ、減衰器76及び78の夫々は入力終端抵抗器68及び70の一方と並列に接続される。各減衰器は、直列接続された減衰抵抗器84及び86と、抵抗器84及び86の間の出力ノード88とを有し、出力ノード88は差動増幅回路80の反転及び非反転入力端子のどちらかに接続される。減衰器76及び78には共通ノード82があり、これは制御回路74からスケール調整補償電圧VA及びドライブ電流IAを受ける。制御回路74は、モニタ回路66からの出力信号VIと外部印加終端電圧VTERMを受ける。制御回路74は、スケール調整終端電圧VT及びドライブ電流ITと、スケール調整補償電圧VA及びドライブ電流IAを生成する。これらは、外部印加終端電圧VTERMと入力直流コモン・モード電圧VCMに応じて定まる。
【0015】
本発明による入力差動終端及び減衰回路網60は、入力直流コモン・モード電圧VCMが終端電圧VTERMに等しく、かつ、入力信号源抵抗と整合したときに、入力端子62及び64における直流電流をゼロにするように働く。更に本発明では、直流コモン・モード電圧VCMと印加終端電圧VTERMのレベルが異なるときでも、増幅回路80のダイナミック・レンジが最適になるように、減衰器76及び78の出力ノード88における直流コモン・モード電圧を設定する。スケール調整終端電圧VT及びドライブ電流ITは、スケール調整補償電圧VA及びドライブ電流IAと共に、入力終端抵抗器68及び70並びに減衰器76及び78を通して直流電流を生成し、入力端子62及び64に接続された実効終端抵抗に、外部印加終端電圧VTERMと等しい電圧を生じさせる。この直流電流は、更に、減衰器76及び78の出力ノード88に直流コモン・モード電圧を生じさせ、これによって差動増幅回路80のダイナミック・レンジが最適化される。本発明の好適実施例では、減衰器76及び78の出力ノード88におけるこの直流コモン・モード電圧は、実質的にゼロ・ボルトに固定され、これによって差動増幅回路80のダイナミック・レンジが最適化される。制御回路74が終端電圧VTERMを表す電圧を設定すると共に、減衰器76及び78の出力ノード88における直流コモン・モード電圧を差動増幅回路のダイナミック・レンジを最適化するための一般化された等式は次の通りである。
【0016】
スケール調整終端電圧VTについての等式
T=A×VTERM+B×(VI−VTERM
【0017】
そして、スケール調整補償電圧VAについての等式
A=−C×VTERM−D×(VI−VTERM
【0018】
ここでA、B、C及びDはスカラー量であり、入力終端抵抗器68及び70と減衰抵抗器84及び86の抵抗値に応じて定まる。これら式は、入力の信号源インピーダンスと整合し、差動モード交流信号と一緒にコモン・モード直流成分が存在する特定条件において有効である。ここで、入力直流コモン・モード電圧VCMと印加終端電圧VTERMは等しく、電圧VT及びVAは、式の項A×VTERM及び−C×VTERMで表されるように、印加終端電圧VTERMに比例する。入力直流コモン・モード電圧VCMと印加終端電圧VTERM間の電圧差の変動は、上述のVT及びVAの等式に補正要素(Correction Factor)を加えることによって補正できる。補正要素は、モニタ回路66を用いて入力直流コモン・モード電圧VCMと終端電圧VTERMを表す電圧の組み合わせを検出し、出力信号VIを制御回路74に印加して等式の補正項B×(VI−VTERM)及び−D×(VI−VTERM)を生成することによって導かれる。入力差動終端及び減衰回路網60は、スケール調整終端電圧V及びドライブ電流ITと、スケール調整補償電圧VA及びドライブ電流IAを生成し、減衰器76及び78の出力ノード88を差動増幅回路80のダイナミック・レンジが最適となる実質ゼロ・ボルトとなるよう駆動することによって、入力直流コモン・モード電圧VCMと印加終端電圧VTERMの差を補正する。
【0019】
本発明の好適実施例における入力差動終端及び減衰回路網60は、差動50オーム・インピーダンスと直流コモン・モード電圧VCMを有する入力信号源からの差動信号を受けるのに最適化した設計となっている。入力終端抵抗器68及び70の名目抵抗値は、66.7オームである。入力終端抵抗器68及び70は、名目抵抗値が夫々120オーム及び80オームの減衰抵抗器84及び86と並列である。減衰抵抗器84及び86と並列になった入力終端抵抗器68及び70の実効入力抵抗値は、差動回路網の各サイドについてコモン・モード終端電圧VTERMに関し50オームである。減衰器76及び78夫々の減衰係数は2.5倍(2.5×)である。これら実効入力抵抗及び減衰係数の値は、本発明の1つの実施例に過ぎず、本発明の本質から離れることなく、他の実効入力終端抵抗及び減衰係数を用いても良い。
【0020】
以下では、入力の50オーム信号源インピーダンスと整合し、差動モード交流信号と一緒にコモン・モード直流成分が存在している場合において、スケール調整終端電圧VT及びスケール調整補償電圧VAを導く過程を説明する。入力端子62及び64における望ましい直流電圧は、次の式で示される。
IN+=IN−=(VCM+VTERM)/2
【0021】
ここでIN+及びIN−は入力端子62及び64におけるコモン・モード直流電圧成分、VCMは50オーム信号源インピーダンスを通して入力端子62及び64に印加されるコモン・モード電圧、VTERMは複数ある50オーム入力実効抵抗の間のコモン・モード・ノードに印加される終端電圧である。差動増幅回路80の反転及び非反転入力端子における望ましいコモン・モード直流電圧は、次の等式で示されるように、増幅回路のダイナミック・レンジを最大にする直流ゼロ・ボルトである。
INPUT+=INPUT−=0
【0022】
制御回路74からの電圧VT及びVAは、入力端子62及び64におけるコモン・モード電圧VCM次第であり、上述してきた等式を満たすことで求められる。VCM=VTERMの場合であれば、電圧VT及びVAは共にVTERMに比例する。
T=1.5556×VTERM
A=−0.6667×VTERM
ここで1.5556及び0.6667は、入力終端抵抗器68及び70と、減衰抵抗器84及び86の値によって定まる比例スカラー量である。
【0023】
もし電圧VT及びVA電圧がVTERMをスケール調整したものであれば、入力端子62及び64における入力直流コモン・モード電圧信号VCMと終端電圧VTERM間の変動は、入力信号源抵抗と終端抵抗が整合している場合における入力直流コモン・モード電圧信号VCMとVTERM間の平均電圧を表す。しかし、入力直流コモン・モード電圧信号VCMが変化すると、差動増幅回路80の反転及び非反転ノードに対する電圧入力INPUT+及びINPUT−はゼロ・ボルトに維持されず、VCMの減衰率のレンジは、次の等式で示される。
INPUT+=INPUT−=0.2×(VCM−VTERM
【0024】
モニタ回路66は、入力直流コモン・モード電圧VCMと終端電圧VTERMを表す電圧の組み合わせを検出して出力信号VIを生成して制御回路74に供給し、電圧VT及びVAの調整に利用される。入力信号が50オーム信号源から供給される場合では、検出した電圧VIと入力コモン・モード電圧VCMの間には次の関係が存在する。
I=(VCM+VTERM)/2 → VCM=2×VI−VTERM
【0025】
2.5倍(2.5×)減衰器であれば、電圧VT及びVAに次の形の補正要素を加えることで、入力のVCMについて補正できる。
ΔVT=0.1111×(VCM−VTERM
ΔVA=−0.3333×(VCM−VTERM
【0026】
ここで0.1111及び0.3333は、入力終端抵抗器68及び70と減衰抵抗器84及び86の値によって定まる比例スカラー量である。VCM及びVIの関係について先の等式を用いると、次の等式が得られる。
(VCM−VTERM)=2×(VI−VTERM
【0027】
この式を補正要素項ΔVT及びΔVAに代入すると、スケール調整終端電圧VT及びスケール調整補償電圧VAは次のようになる。
T=1.5556×VTERM+0.2222×(VI−VTERM
A=−0.6667×VTERM−0.6667×(VI−VTERM
【0028】
図4は、本発明による入力差動終端及び減衰回路網60の制御回路74の機能ブロック図である。外部終端電圧VTERMは、加算ノード94及び96に加えて、差動利得増幅器90及び92のマイナス入力ノードに供給される。入力直流コモン・モード電圧VCM及び終端電圧VTERMの組み合わせを表すモニタ回路66からの出力信号VIは、差動利得増幅器90及び92のプラス入力ノードに供給される。差動利得増幅器90は0.1428倍の利得を有し、差動利得増幅器92は1.00倍の利得を有する。差動利得増幅器90の出力信号は0.1428×(VI−VTERM)であり、これは加算ノード94に印加される。加算ノード94の出力信号は、VTERM+0.1428×(VI−VTERM)である。加算ノード94の出力信号は、1.5556倍の利得を有するドライバ増幅器98に入力される。ドライバ増幅器98の出力信号は、VT=1.5556×VTERM+0.2222×(VI−VTERM)で表されるスケール調整終端電圧VTとスケール調整終端電圧ドライブ電流ITである。差動利得増幅器92の出力信号は1.00×(VI−VTERM)であり、これは加算ノード96に印加される。加算ノード96の出力信号は、VTERM+(VI−VTERM)である。加算ノード96の出力信号は、−0.6667倍の利得を有するドライバ増幅器100に入力される。ドライバ増幅器100の出力信号は、VA=−0.6667×VTERM−0.6667×(VI−VTERM)で表されるスケール調整補償電圧VAとスケール調整補償電圧ドライブ電流IAである。
【0029】
図5は、本発明による入力差動終端及び減衰回路網60の好適な実施例の回路図である。先の図面におけるブロックと対応するブロックには同じ符号を付して説明する。差動入力信号IN+及びIN−は、入力端子62及び64を介して、モニタ回路66と、入力終端抵抗器68及び70とこれらと夫々対応する減衰器76及び78との接続点に供給される。差動入力信号IN+及びIN−は、入力終端抵抗器68及び70と減衰抵抗器84及び86とが並列になった実効終端抵抗によって終端される。減衰抵抗器84及び86間の出力ノード88は、差動増幅回路80の反転及び非反転入力端子に接続される。モニタ回路66には抵抗性素子110及び112があり、これらは入力直流コモン・モード電圧VCMに対して入力実効終端抵抗よりも高いインピーダンスを有する。好適実施例では、抵抗性素子110及び112は約5000オームの抵抗値を有する。抵抗性素子110及び112は、入力端子62及び64間に電圧分圧回路網を構成する。電圧分圧回路網の共通ノード114は出力電圧VIを供給し、これはバッファ増幅器116を介して制御回路74に供給される。
【0030】
制御回路74は、外部終端電圧VTERMも同時に受ける。外部終端電圧VTERMは、バッファ増幅器118を介して1倍の差動利得補正増幅器120のマイナス入力端子に供給される。差動利得補正増幅器120のプラス入力端子には、モニタ回路66の出力信号VIが供給される。差動補正増幅器120は、出力電圧(VI−VTERM)を生成する。出力電圧(VI−VTERM)は、減衰抵抗器128及び130で構成される能動減衰回路126を介して、加算増幅器124の入力加算ノード122に供給される。バッファされた外部終端電圧VTERMも抵抗器132を介して加算ノード122に供給される。加算増幅器124は、出力電圧=VTERM+0.1428×(VI−VTERM)を生成する。このとき、スカラー量の項0.1428は、減衰回路126の減衰係数(attenuation factor)との関係で定まる。加算増幅器124の出力電圧は、VTドライブ増幅器98の入力端子に供給される。VTドライブ増幅器98の電圧利得は抵抗器135及び136で設定されるが、ここでは1.5556のスケール係数であって、出力電圧VT=1.5556×VTERM+0.2222×(VI−VTERM)とドライブ電流ITが生成され、入力終端抵抗器68及び70の共通ノード72に供給される。
【0031】
外部終端電圧VTERMは、また、抵抗器138を介して加算ノード134に供給される。差動利得補正増幅器120の出力信号は、抵抗器140を介して加算ノード134にも供給される。ここで抵抗器138及び140は、実質的に同じ抵抗値を有する。加算ノード134への入力電圧は、VTERM+(VI−VTERM)の値を有し、これはVAドライブ増幅器100の入力端子に供給される。利得抵抗器142は、VAドライブ増幅器100の入出力間に接続されて加算ノード抵抗器138及び140とともに−0.667のスケール係数(倍率)を供給し、出力電圧VA=−0.6667×VTERM−0.6667×(VI−VTERM)とドライブ電流IAを生成し、減衰器76及び78の共通ノード82に供給する。
【0032】
上述の説明は、50オーム信号源インピーダンスとの整合を前提としていた。しかし、本発明による直流コモン・モードの補償は、他の平衡(Balanced)入力信号源インピーダンス値であっても利用できる。以下の等式は、一般的な3つの信号源インピーダンスにおける補償回路網接続形態(Topology)の電圧を記述している。交流結合(AC-coupled)信号源インピーダンスの場合は、事実上、無限大の直流信号源抵抗の結果について記述している。以下の等式は、項(VI−VTERM)の代わりに直流コモン・モード電圧VCMとの関係を示している。
【0033】
ゼロ・オーム信号源インピーダンス
T=1.3333×VTERM+0.2222×VCM
A=−0.6667×VCM
I=VCM
【0034】
50オーム信号源インピーダンス
T=1.4444×VTERM+0.1111×VCM
A=−0.3333×VTERM−0.3333×VCM
I=0.5(VTERM+VCM
【0035】
交流結合(AC-COUPLED)信号源インピーダンス
T=1.5556×VTERM
A=−0.6667×VTERM
I=VTERM
【0036】
本発明による入力差動終端及び減衰回路網60は、直流までの応答性を持っているので、差動モード直流信号の処理も可能である。不平衡(unbalanced)差動モード直流入力信号VDMがIN+信号入力端子62に印加され、ゼロ・ボルトがIN−信号入力端子64に印加された場合であっても、入力差動終端及び減衰回路網60は、減衰器76及び78の出力ノード88におけるコモン・モード直流電圧をバランスさせようとする。ゼロ・オーム信号源インピーダンスに始まる説明したばかりの差動モード直流信号の場合で得られる差動増幅回路80の入力直流電圧は次のようになる。
INPUT+=+0.2×VDM
INPUT−=−0.2×VDM
【0037】
上述の等式は、差動モード直流入力信号が2.5倍の補正減衰量を有し、差動増幅回路80の入力端子において所定のゼロ・コモン・モード信号にレベル・シフトされていることを示す。差動モード直流入力信号についてさえも、入力差動終端及び減衰回路網60は差動増幅回路80のダイナミック・レンジを最大にしようとするのである。
【0038】
上述では、本発明を実効50オーム終端抵抗及び2.5倍の減衰係数を有する差動終端及び減衰回路網60との関係で記載してきた。これら特定のパラメータは、結果として具体的な値を有するVT及びVAのスカラー量A、B、C及びDとなる。本発明は、異なる実効差動終端値及び異なる減衰係数で実現しても良く、これによればVT及びVAについて異なるスケール係数が得られる。更に、本発明は、出力差動増幅回路80のダイナミック・レンジが最大となるよう最適化する。そのためのパラメータを実現するため、実質的にゼロ・ボルトに固定された直流コモン・モード電圧を差動増幅回路80の反転及び非反転入力端子に供給するようにスケール調整補償電圧VAを設定する。
【0039】
以上説明してきたように、差動終端及び減衰回路網は、対応する抵抗性減衰回路と並列に結合された第1及び第2入力終端抵抗器を有している。モニタ回路は、回路網の入力ノードに接続され、入力ノードにおける直流コモン・モード電圧と終端電圧の組み合わせを表す出力信号を生成する。制御回路はモニタ回路からの出力信号と終端電圧とを受け、スケール調整終端電圧及びスケール調整補償電圧とこれらと関係するドライブ電流を生成する。スケール調整終端電圧及びスケール調整補償電圧とそれらのドライブ電流は、入力終端抵抗及び減衰器を介して直流電流を供給し、回路網入力ノードにおける直流電流をゼロにし、差動測定増幅回路のダイナミック・レンジを最適化する直流コモン・モード電圧出力信号を第1及び第2減衰器から供給する。
【0040】
当業者には明らかなように、特許請求の範囲の記載で定まる本発明の原理を離れることなく、本発明の上述した実施例の詳細を変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明を測定システムに採用すれば、直流コモン・モード電圧がある場合でも、差動測定増幅回路のダイナミック・レンジを最適化して測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】従来の入力差動終端及び減衰回路網の回路例を示す図である。
【図2】本発明による入力差動終端及び減衰回路網を内蔵した測定プローブを用いた測定装置の一例を示す図である。
【図3】本発明による入力差動終端及び減衰回路網の一例の回路図である。
【図4】本発明による入力差動終端及び減衰回路網の制御回路の機能ブロック図である。
【図5】本発明による入力差動終端及び減衰回路網の好適な実施例の回路図である。
【符号の説明】
【0043】
12 終端抵抗器
14 終端抵抗器
16 SMA入力コネクタ
18 SMA入力コネクタ
20 インピーダンス減衰器
22 インピーダンス減衰器
24 抵抗素子
26 抵抗素子
28 容量性素子
30 容量性素子
32 中間ノード
34 差動増幅回路
40 オシロスコープ
42 アクセサリ・インターフェース
44 差動測定プローブ
46 被測定デバイス
48 SMA同軸ケーブル
50 表示デバイス
52 前面パネル・コントローラ
54 外部終端電圧の入力コネクタ
60 差動終端及び減衰回路網
62 IN+入力端子
64 IN−入力端子
66 モニタ回路
68 入力終端抵抗器
70 入力終端抵抗器
74 制御回路
75 入力ノード
76 減衰回路
78 減衰回路
80 差動増幅回路
82 減衰器76及び78の共通ノード
84 減衰抵抗器
86 減衰抵抗器
88 出力ノード
90 差動利得増幅器
92 差動利得増幅器
94 加算ノード
96 加算ノード
98 ドライバ増幅器
100 ドライバ増幅器
110 抵抗性素子
112 抵抗性素子
114 電圧分圧回路網の共通ノード114
116 バッファ増幅器
118 バッファ増幅器
120 差動増幅器
122 加算ノード
126 減衰回路
128 減衰抵抗器
130 減衰抵抗器
132 抵抗器
134 加算ノード
135 抵抗器
136 抵抗器
138 抵抗器
140 抵抗器
142 利得抵抗器
IN+ 差動入力信号
IN− 差動入力信号
INPUT+ 差動増幅回路80の電圧入力
INPUT− 差動増幅回路80の電圧入力
S 差動信号源インピーダンス
T スケール調整終端電圧
T スケール調整終端電圧ドライブ電流
A スケール調整補償電圧
A スケール調整補償電圧ドライブ電流
DM 不平衡差動モード直流入力信号
I モニタ回路66の出力信号
TERM 印加された終端電圧
ΔVT 補正要素項
ΔVA 補正要素項

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号源抵抗を有する電圧信号源から直流コモン・モード電圧を受けると共に、差動増幅回路に接続される差動終端及び減衰回路網であって、
共通ノードと、夫々が上記電圧信号源からの上記直流コモン・モード電圧を受ける入力ノードを有する第1及び第2入力終端抵抗と、
共通ノードと、夫々が出力ノードと上記第1及び第2入力終端抵抗の1つに接続された入力ノードとを有する第1及び第2減衰器と、
上記第1及び第2入力終端抵抗の上記入力ノードに接続され、上記入力信号源抵抗における上記直流コモン・モード電圧と上記入力終端抵抗における印加終端電圧を表す電圧との組み合わせを表す出力信号を生成するモニタ回路と、
上記印加終端電圧と上記モニタ回路の出力信号を受け、上記印加終端電圧及び上記直流コモン・モード電圧に応じて定まるスケール調整終端電圧及びドライブ電流並びにスケール調整補償電圧及びドライブ電流を生成し、上記スケール調整終端電圧及びドライブ電流を上記第1及び第2入力終端抵抗の上記共通ノードに供給し、上記スケール調整補償電圧及びドライブ電流を上記第1及び第2減衰器の上記共通ノードに供給し、上記第1入力終端抵抗及び上記第1減衰器並びに上記第2入力終端抵抗及び上記第2減衰器を通して直流電流を供給し、上記第1及び第2入力終端抵抗の上記入力ノードにおける直流電流をゼロにし、上記第1及び第2減衰器の上記出力ノードに直流コモン・モード電圧を供給して上記差動増幅回路のダイナミック・レンジを最適化する制御回路と
を具える差動終端及び減衰回路網。
【請求項2】
上記制御回路が、
上記モニタ回路からの上記出力信号と上記印加終端電圧とを受けて、上記モニタ回路からの上記出力信号と上記印加終端電圧の差分を表す出力信号を生成する差動増幅器と、
上記印加終端電圧及び上記差動増幅器からの上記出力信号を受けるよう接続され、上記印加終端電圧と上記上記差動増幅器からの上記出力信号を減衰したものとを表す出力信号を生成する第1加算ノードと、
上記印加終端電圧と上記上記差動増幅器からの上記出力信号を受けるように接続され、上記印加終端電圧と上記差動増幅器からの上記出力信号とを表す出力信号を生成する第2加算ノードと、
スケール利得係数を有し、上記第1加算ノードからの上記出力信号を受けて上記スケール調整終端電圧及びドライブ電流を生成する第1ドライブ増幅器と、
スケール利得係数を有し、上記第2加算ノードからの上記出力信号を受けて上記スケール調整補償電圧及びドライブ電流を生成する第2ドライブ増幅器とを有する請求項1記載の差動終端及び減衰回路網。
【請求項3】
上記スケール調整終端電圧及びドライブ電流並びに上記スケール調整補償電圧及びドライブ電流は、上記第1及び第2減衰器からの直流コモン・モード電圧を実質的にゼロ・ボルトにすることを特徴とする請求項1又は2記載の差動終端及び減衰器回路網。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−217626(P2006−217626A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27511(P2006−27511)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(391002340)テクトロニクス・インコーポレイテッド (234)
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
【Fターム(参考)】