説明

希土類永久磁石およびその製造方法

【課題】炭化物を含有することによって磁石成分を減少させることなく結晶粒を微細化し、これにより飽和磁化を低下させずに保磁力を向上させることができる希土類永久磁石およびその製造方法を提供する。
【解決手段】R−Fe−B系合金(R:希土類元素)中に、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%分散させた。製造方法は、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%含有するR−Fe−B系合金溶湯を急冷することにより非晶質または平均結晶粒径が5μm以下の磁石材料を得る工程と、前記磁石材料を熱間で塑性加工することにより磁気異方性を付与する工程とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類永久磁石およびその製造方法に係り、特に、結晶粒を微細化して保磁力を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系合金からなる永久磁石の製造方法としては、単結晶の合金粉末を金型に充填した状態で磁場配向させ、その後、成形及び焼結を行う粉末冶金法が知られている。しかしながら、粉末冶金法では、原料粉末を微細にすると比表面積が増加するので酸化防止のための処置が煩雑になるという不都合があり、焼結磁石の結晶粒を微細化して保磁力を高めるには限界があった。
【0003】
粉末冶金法以外の製造方法としては、溶湯を急冷して得られた合金粉末に熱処理を施し、樹脂と共に固化成形することで等方性ボンド磁石とする方法や、溶湯を急冷して得られた合金粉末をホットプレスにより熱間圧縮成形することで等方性バルク磁石を得る方法などがあり、例えば特許文献1には、この等方性バルク磁石に熱間加工を施すことで異方性バルク磁石を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−100402号公報
【特許文献2】特開昭63−196014号公報
【特許文献3】特開平2−4941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように溶湯を急冷して得られた合金粉末を用いて製造したNd−Fe−B系合金永久磁石においては、微細な結晶粒が保磁力の発現に密接に関わっていると考えられているが、製造方法の中の例えば熱間塑性加工などの熱が加わる工程で結晶粒が成長し、これに伴い保磁力が低下することが判っている。しかしながら、これまでのところ、特許文献2に記載されているように、Ti、Zr、Hfなどの遷移金属元素単体を添加することや、特許文献3に記載されているように、HfBなどのホウ化物を添加することによる結晶粒粗大化の抑制および組織の均質化が提案されているものの、炭化物の添加による微細化手法は報告されていない。その主な理由は、炭化物を添加するとNdFe14CやNdが形成されたり主相のNdFe14Bの元素がCで置換されたりすることにより、磁石成分を減少させて飽和磁化を低下させる要因になっているためである。
【0006】
したがって、本発明は、炭化物を含有することによって磁石成分を減少させることなく結晶粒を微細化し、これにより飽和磁化を低下させずに保磁力を向上させることができる希土類永久磁石およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、結晶粒の成長をいわゆるピン止め効果で抑制することができる化合物について鋭意研究を重ねた。そして、Nb、Mo、Cr、およびHfとB、C、およびSiとの化合物に対して検討した結果、炭化物生成反応のためのエネルギーが低いHfCに着目した。HfCの生成エネルギーが低いため、NdFe14CやNdが形成されたり主相のNdFe14Bの元素がCで置換されたりする可能性が低いであろうとの推測のもとに実験を重ねた結果、所定の粒径のHfC粒子をある範囲で含有すると、加熱による結晶粒の成長が抑制されるとともに、主相のNdFe14Bと化合物を形成しないとの知見を得た。
【0008】
本発明の希土類永久磁石は上記知見に基づいてなされたもので、R−Fe−B系合金(R:希土類元素)中に、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%分散させたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の希土類永久磁石の製造方法は、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%含有するR−Fe−B系合金(R:希土類元素)溶湯を急冷することにより非晶質または平均結晶粒径が5μm以下の磁石材料を得る工程と、前記磁石材料を熱間で塑性加工することにより磁気異方性を付与する工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
以下、本発明の数値限定の根拠を本発明の作用とともに説明する。なお、以下の説明において「%」は「atom%」を意味するものとする。
HfC:0.2〜3.0%
HfCの含有量が0.2%未満ではピン止め効果が不充分となり加熱により結晶粒が成長し易くなる。一方、HfCの含有量が3.0%を超えると、磁石成分としての主相の割合が少なくなって飽和磁化が低下する。よって、HfCの含有量は0.2〜3.0%とした。なお、HfCの含有量は0.6%以上であるとさらに好適である。
【0011】
HfCの平均結晶粒径:5〜100nm
HfCの平均結晶粒径が5nmを下回ると、主相の結晶粒に対して小さすぎるためピン止め効果が不充分となり、その結果、加熱により結晶粒が成長し易くなる。一方、HfCの平均結晶粒径が100nmを超えると、HfCの分散が不充分となり、ピン止め効果が不充分となる。よって、HfCの平均粒径は5〜100nmとした。
【0012】
本発明の製造方法では、まず、溶湯を急冷することにより非晶質または平均結晶粒径が5μm以下の磁石材料を得る。この磁石材料は、主相の結晶粒界にHfC粒子が析出し分散したものである。溶湯を急冷する手段としては、例えば溶湯抽出法を採用することができる。溶湯抽出法は、内側に水冷ジャケットを備えたロールを回転させながら、ロールの表面にR−Fe−B系合金の溶湯をノズルから供給して急冷し凝固させる方法である。この溶湯抽出法では、ロールに供給された溶湯が瞬時に冷却固化し、非晶質または微細な結晶粒の薄帯を得ることができる。なお、このようにして得られる薄帯の幅は0.1〜10mm、厚さは1〜100μmである。
【0013】
次いで、磁石材料を熱間で塑性加工することにより磁気異方性を付与する。磁石材料の状態では主相の結晶粒ごとに磁化容易軸の方向が異なっているが、磁石材料を熱間で塑性加工することにより、各結晶粒の磁化容易軸が変形を受けた方向に揃う。したがって、熱間塑性加工で得られた磁石材料に対して加圧方向に磁化することにより、磁力線が加圧方向を向く永久磁石を得ることができる。この場合において、本発明では、磁石材料の主相の結晶粒界にHfC粒子が分散しているので、加熱に伴う結晶粒の成長が抑制される。
【0014】
なお、磁石材料が薄帯の場合には、熱間塑性加工の前に薄帯を粉砕して粉末とし、次いで熱間で成形を行うと好適である。この場合の成形法としては、粉末に熱間で全方向からほぼ等しい圧力を与える粉末射出成形(HIP処理)や、金型のキャビティで粉末を圧縮成形するホットプレス法を用いることができる。そのような工程を経ることにより、熱間塑性加工を容易に行うことができる。また、熱間で成形を行うことにより、非晶質の組織は結晶化する。さらに、ホットプレスを行うことにより、結晶粒の磁化容易軸を加圧方向を向くようにある程度揃えることができる。これにより、次の熱間塑性加工により磁化容易軸の配向度がさらに高められ、磁化後に高い磁束密度を得ることができる。
【0015】
熱間塑性加工の温度は800℃以下が望ましく、より望ましくは750℃以下、さらに望ましくは700℃以下がよい。より、低い温度で熱間塑性加工を行うことにより、磁石材料の結晶粒をより微細化することができる。ただし、温度が低すぎると熱間塑性加工時に磁石材料に亀裂や割れが発生するので、600℃以上とするのが望ましい。
【0016】
希土類元素としてはNdが一般的であるが、Dy(ディスプロシウム)やTb(テルビウム)などのような他の希土類元素も用いることができる。そして、各成分の割合としては、例えばR:5〜20%、Fe:65〜85%、B:3〜10%、HfC:0.2〜3.0%とすることができる。
【0017】
また、溶湯を急冷する方法としては、溶湯抽出法に限らず種々の方法を用いることができる。たとえば、連続鋳造法においてモールドでの冷却速度を速くすることにより、溶湯抽出法で得られる薄帯と同等のビレットを得ることができる。あるいは、アトマイズ法により粉末の磁石材料を得ることができる。
【0018】
熱間塑性加工により主相の結晶粒が変形を受け、結晶粒界が乱れる。結晶粒界が乱れると、保磁力が低下する。そこで、熱間塑性加工後に熱処理を行って結晶粒界を滑らかにすることが望ましい。この場合、熱処理の温度は、600〜900℃が望ましい。
【0019】
以上の工程により得られた希土類永久磁石は、R−Fe−B系合金(R:希土類元素)中に、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%分散させたものである。この希土類永久磁石は、HfCの生成エネルギーが低いために安定して存在するから、Cが他の成分と結合ないし置換して磁石成分を減少させるのを抑制するとともに、HfC粒子のピン止め効果により結晶粒が微細なままであるから、飽和磁化を低下させずに保磁力を向上させることができる。なお、このような希土類永久磁石の組織の平均粒径は10〜500nmが望ましく、HfC粒子の平均粒径は5〜20nmが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭化物を含有することによって磁石成分を減少させることなく結晶粒を微細化し、これにより飽和磁化を低下させずに保磁力を向上させることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例におけるHfC、Hf、Cの添加量と保磁力との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例における希土類永久磁石の平均結晶粒径と保磁力との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における希土類磁石のTEM写真であり、(A)はHfCを添加しないもの、(B)はHfCを添加したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
Nd13.2Fe(80.9−x)5.9の組成の合金を溶解し、溶湯をロールの表面にノズルから供給した。ただし、MはHf、C、HfCのいずれかであり、xは0〜0.8の範囲で種々設定した。ロールは、内蔵した水冷ジャケットにより冷却され、回転速度(周速度)は17.5m/sとした。ロール上で冷却固化した合金を剥離して厚さ25μm程の薄帯試料を作製した。電子顕微鏡による観察の結果、急冷直後の試料は結晶相とアモルファス相の混在した組織であり、結晶相の粒径は100nm以下であった。
【0023】
得られた薄帯の試料に対して700℃、750℃、800℃の保持温度で10分間保持する熱処理を行い、アモルファス相を結晶化させて磁気特性への影響をなくすとともに、結晶粒の成長度合いを観察した。それぞれの試料に対して試料振動型磁力計により磁化測定を行った。各元素の添加量と保磁力との関係を図1に示す。電子顕微鏡により試料組織の観察を行った。組織観察により算出された平均結晶粒径と保磁力との関係を図2に示す。また、組織のTEM写真を図3に示す。
【0024】
図1は、700℃の熱処理を行った試料の各元素の添加量と保磁力との関係を示している。図1から判るように、HfCの添加量が増加するに従って保磁力が増加する。これに対して、Hfを単体で添加した場合には保磁力は殆ど変化せず、Cを単体で添加した場合には、Cの添加量が増加するに従って保磁力は減少している。このことから、HfおよびCを同時に添加すると保磁力の増加に効果的であることが推察できる。
【0025】
図2は、HfCを添加した試料とHfCを添加しない試料における結晶粒径と保磁力との関係を示している。図2に矢印で示すように、同じ熱処理温度ではHfCを添加した試料の方がHfCを添加しない試料と比較して結晶粒径が小さく保磁力が大きい。このことは、結晶粒の成長速度がHfCの添加により抑制されることを意味している。
【0026】
図3は、HfCを添加しない試料とHfCを添加した試料であって700℃で熱処理を行ったものの組織のTEM写真を示している。組織のTEM写真においてもHfCを添加した試料の方が結晶粒が微細であることが確認できる。また、HfCを添加した試料に対して元素マッピングを行った結果、Hfを含む10nm程度の微細結晶粒が均一に析出し分散していることが確認された。この析出物が主相結晶粒の成長を抑制することにより、結晶粒を微細にし保磁力を向上させている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、結晶粒を微細化して飽和磁化を低下させずに保磁力を向上させることができるので、モータ等の技術分野
利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−Fe−B系合金(R:希土類元素)中に、平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%分散させたことを特徴とする希土類永久磁石。
【請求項2】
平均粒径が5〜100nmのHfC粒子を0.2〜3.0atom%含有するR−Fe−B系合金(R:希土類元素)の溶湯を急冷することにより非晶質または平均結晶粒径が5μm以下の磁石材料を得る工程と、
前記磁石材料を熱間で塑性加工することにより磁気異方性を付与する工程と、
を備えたことを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222601(P2010−222601A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68418(P2009−68418)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】