説明

希土類添加フツリン酸ファイバ

【課題】ファイバ損失が低損失であって、かつ石英ファイバとの垂直カット面での融着接続が可能となるとともに、低非線形で実用的なL帯光増幅器の増幅媒体として使用可能な非石英系ガラスの光ファイバを提供する。
【解決手段】光ファイバは、一つのコアとその周りに2重のクラッドを有するフツリン酸ファイバであって、少なくともコアガラスに希土類を添加しており、コア、第1クラッド及び第2クラッドの屈折率をn、n、nとすると、n≧n>nの関係になり、接続対象の石英ガラス製ファイバとコアおよび第1クラッドガラスの屈折率が0.2%以内で一致し、かつ、ガラスの屈伏温度が450℃以上である。外側の第2クラッドは、その断面積がファイバ断面積に対して70%以上を占め、かつアルカリ元素を含まない組成をもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用希土類添加光ファイバ増幅器や高パワー加工レーザに用いられる光ファイバであって、特に希土類添加フツリン酸ガラスファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの伝送容量の拡大及び機能向上のために、1本の光ファイバの中に複数の波長の光信号を合波して伝送したり、逆に1本の光ファイバを伝搬してきた複数の波長の光信号を、各波長ごとに分波したりする波長多重伝送技術(WDM:Wavelength Division Multiplexing)の研究開発が現在行われている。この伝送方式では、1本の光ファイバで複数の異なる波長の光信号を伝送し、伝送距離に応じて中継増幅する必要がある。そこで、光信号波長を増して伝送容量を上げるには、より多くのチャンネル数の信号を伝送させる必要がある。
【0003】
Er3+添加光ファイバ増幅器(EDFA:Erbium-Doped Fiber Amplifier)では、従来1530−1565nmの帯域を持つC帯が使われてきたが、更なる大容量化のため、1565−1625nmの帯域を持つL帯への拡張が進められてきた。EDFAをL帯で動作させるためには、Erイオンの反転分布を40%程度に低下させる必要があり、そのためにはC帯に比べて5−20倍程度の長いファイバを使用する必要がある。
【0004】
L帯EDFAの動作中、EDF(Er3+添加光ファイバ)の中では信号増幅により信号パワーが増大し、長いファイバ長の中を伝搬するため、信号間の非線形相互作用である四光波混合(FWM:Four-Wave Mixing)によるノイズ光が発生する。このノイズ光は、信号クロストークを発生させ、伝送品質を著しく劣化させる。このFWMの発生を抑制するために、カットオフ波長の長波長化(非特許文献1)やErの高濃度化(非特許文献2)により、ファイバ長を短くする試みが進められ、従来200m程度必要であったファイバ長が40m程度に短尺化され、現在標準的に使用されている。
【0005】
しかしながら、伝送容量は益々大規模化しており、ROADM(Reconfigurable Optical Add Drop multiplxer;再構成可能な光信号の分岐/挿入を行う多重化装置)等の複合デバイスによる10dB以上のロスを補償するため、更に高い出力特性が必要になっていることから、40m程度のEDFのファイバ長でもFWMによる信号劣化が避けられなくなっているという問題がある。
【0006】
フツリン酸ガラスは、希土類を高濃度に添加でき、非線形屈折率係数が小さいという特徴から、レーザガラスに応用された(特許文献1)。同様に、希土類が高濃度に添加できる光ファイバ増幅器のホストガラスとして研究が進められた(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。しかしながら、レーザガラスに使用された組成ガラスは、粘性の温度依存性が急激に変化するため、そのままファイバ化することは困難であり、実用に耐えうる低損失化を図ることができない。そこで、特許文献2,特許文献3,特許文献4では、レーザガラスに使用されている希土類添加フツリン酸ガラスに対して、Li,Na,Kなどのアルカリ元素を5mol%以上添加することにより、ガラスの粘性を低下させてファイバ化に成功している。しかしながら、これらのガラスは耐水性に問題があり、光通信部品の標準的な信頼性試験であるTelcordia-GR468をクリアすることは困難である。
【0007】
石英ファイバと低融点多成分ガラスファイバとの接続技術として融着接続がある。この異種ファイバの融着接続は、石英ファイバ同士のように両方のファイバガラスが溶融して接続する技術ではなく、低融点ガラスファイバ側の先端部分は溶融または軟化するが、石英ファイバ側はファイバ先端部分が溶融されていない状態で接続する(特許文献5)。このような融着技術を利用した研究開発は、フッ化物ファイバ、テルライトファイバ、ビスマス系ファイバで進められている。
【0008】
フッ化物ファイバでは、石英ファイバと屈折率をほぼ等しく出来るため、ファイバを垂直にカットして、接続しても反射減衰量は50dB以上を実現できる。しかし、フッ化物ファイバは、ガラスの屈伏温度が300℃以下と低く、ガラス成分の陰イオンがフッ素であるため、接続強度は弱く、実用的ではない。
【0009】
一方、テルライトファイバ及びビスマス系ファイバでは、ガラスの屈伏温度が300℃以上であり、ガラス成分の陰イオンが酸素であるため、接続強度は比較的強い。しかしながら、これらのテルライトファイバ及びビスマス系ファイバのガラスの屈折率はn(D線での屈折率)で2以上あり、そのため50dB程度の反射減衰量と0.5dB以下の低い接続損失を実現するには、斜めカット接続するだけではなく、接続面の角度をスネルの法則に従うように設定する必要がある(特許文献5)。このような接続は、製品の歩留まりが悪いだけでなく、接続後のファイバに角度が付いてしまうために、融着補強スリーブを装着することも難しく、アセンブリ上でもより大きな空間を必要としてしまうという可能性がある。
【0010】
【非特許文献1】S. Ishikawa et al. "High Gain Per Unit Length Silica-Based Erbium Doped Fiber for 1580nm Band Amplification", OAA1998 TuC4 pp.1-4(111-114)
【非特許文献2】Keiichi Aiso et al. "Erbium Lanthanum co-doped fiber for L-band amplifier with high efficiency, low non-linearity and low NF", OFC2001 TuA6 pp.1-3
【非特許文献3】泉谷徹郎著「光学ガラスとレーザガラス」日刊工業新聞社発行 1998年3月24日刊行 pp. 203
【特許文献1】特公昭54−006047号公報
【特許文献2】特開平05−238775号公報
【特許文献3】特開平09−211505号公報
【特許文献4】特開平10−12952号公報
【特許文献5】特許第3396422号号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の解決すべき課題に鑑みてなされたもので、その目的は、垂直にファイバをカットして融着接続しても低反射・低損失接続が実現でき、信頼性が高く、高濃度にErを添加可能であるフツリン酸ガラスを用いた低損失な希土類添加フツリン酸ファイバを提供することにある。
【0012】
また、本発明を適用したフツリン酸ガラスは、純石英ガラスよりも非線形屈折率係数が小さいため、上記の目的を同時に満たすEr高濃度添加フツリン酸ファイバにより、これまでにない低非線形で実用的なL帯Er3+添加光ファイバ増幅器(EDFA)を提供することを本発明の付随する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明によるフツリン酸ファイバ、該ファイバを構成するフツリン酸ガラスは、以下の構成からなる。
【0014】
(1)中心のコアの周りに第1クラッド、第2クラッドが順に配置された二重構造のクラッドを有し、該コアガラスに少なくとも希土類を添加したフツリン酸ファイバであって、前記コア、前記第1クラッド及び前記第2クラッドの屈折率をn、n、nとすると、n≧n>nの関係になり、接続対象の石英ガラス製ファイバとコアおよび第1クラッドガラスの屈折率がそれぞれ0.2%以内で一致し、かつ、ガラスの屈伏温度が450℃以上であることを特徴とする。
【0015】
(2)(1)に記載のフツリン酸光ファイバであって、前記第2クラッドガラスの断面積が、前記フツリン酸ファイバのファイバ断面積の少なくとも70%以上を占め、該第2クラッドガラスはアルカリ元素を含まない組成をもつことを特徴とする。
【0016】
(3)(1)または(2)に記載のフツリン酸ファイバであって、前記フツリン酸ファイバの前記コアおよび前記第1クラッドガラスの組成として、モル%で
+Al+Y 5〜20mol%,AlF+YF 5〜40mol%,
MgF+CaF+SrF+BaF 40〜70mol%,Li+NaF+KF 0〜5mol%の範囲内にあり、前記コアおよび前記第1クラッドともに、O(酸素)/F(鉄)の原子比が0.1〜0.45の範囲内で、かつ2価および1価のフッ化物元素を酸化物元素に置換可能であることを特徴とする。
【0017】
(4)前記フツリン酸ファイバの前記第2クラッドガラスの組成として、モル%で
+Al+Y 10〜25mol%,AlF+YF 5〜40mol%,MgF+CaF+SrF+BaF 40〜70mol%の範囲内にあり、前記コアおよび前記第1クラッドともに、O/Fの原子比が0.2〜0.6の範囲内で、かつ2価および1価のフッ化物元素を酸化物元素に置換可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記のような構成により、本発明によれば、ファイバを垂直カットし、融着接続することで低反射・低損失の接続が可能であり、信頼性が高く、高濃度にErを添加できる低損失なファイバ化が可能であるフツリン酸ガラスを提供することにある。また、本フツリン酸ガラスは、純石英ガラスよりも非線形屈折率係数が小さい特徴がある。これらの課題を同時に満たすEr高濃度添加フツリン酸ファイバにより、これまでにない低非線形で実用的なL帯EDFAを提供することができ、波長多重光伝送システムにおいて高密度化、高性能化を進めることができる。その結果、特に中距離系、幹線系においてそれらのシステムを用いたサービスの高度化、経済化に大きく寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して、本発明に従うフツリン酸ファイバの好適な実施形態について説明する。
【0020】
本発明のフツリン酸ファイバは、中心のコアの周りに第1クラッド、第2クラッドが順に配置された二重構造のクラッドを有し、コアガラスに少なくとも希土類を添加した光ファイバであって、コア、第1クラッド及び第2クラッドの屈折率をn、n、nとすると、n≧n>nの関係になり、接続対象の石英ガラス製ファイバとコアおよび第1クラッドガラスの屈折率がそれぞれ0.2%以内で一致し、かつ、ガラスの屈伏温度が450℃以上であることを特徴としている。
【0021】
石英ガラスファイバとフツリン酸ファイバを融着接続する場合には、背景技術の項で説明したように、両方のガラスが溶け合っての屈折率の均一化は行われない。このため、接続面における屈折率に差がある場合には、反射率Rは次式(1)に従う。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、nは石英ファイバの屈折率、nはフツリン酸ファイバの屈折率とする。
【0024】
通信デバイス、とりわけ利得媒体である増幅用ファイバの反射減衰量は、WDM用増幅器で50dB以上であることが必要とされる。その値は、多重散乱による信号品質の劣化を防ぐために必要とされる最低限の値である。上記の屈折率差が0.2%以内で一致していれば、ファイバを垂直にカットし、ファイバ同士を真っ直ぐに接続しても、反射減衰量は50dB以上を確保することが出来る。
【0025】
一方、市販の石英ファイバは、Δn(コアとクラッドの屈折率差の割合)が0.3%の単一モードファイバ(SMF)から3.7%程度の分散補償ファイバまで多岐に富んでいるが、実際にはΔnが3.7%程度と高くなると、コア径は2μm程度となり、石英系ファイバとフツリン酸ファイバとの接続が難しくなるだけでなく、高Δn石英ファイバとフツリン酸ファイバのSMFとの間に、熱拡散技術により光ファイバのMFD(モードフィールド径)を局所的に拡大させたTEC(Thermally diffuse expanded core)ファイバを挟む必要があり、そのため損失が0.2dB程度上昇する。
【0026】
従って、フツリン酸ファイバに対向する石英ファイバのΔnとしては、0.3から1.5%程度が適切であり、そのコアガラスの屈折率は、1.448〜1.47の範囲となる。フツリン酸ファイバのコアガラスの屈折率をこの値にあわせ、また石英ファイバとコアおよび第1クラッドガラスの屈折率差をそれぞれ上記の0.2%以内にあわせる必要がある。
【0027】
上述のように、石英ファイバとフツリン酸ファイバの融着接続は、両端のガラスが溶け合って融合した融液が冷却され、再ガラス化するものではなく、フツリン酸ファイバの端面ガラスが溶け、その成分が石英ガラス端面へ侵入してその端面内の石英と反応するため、温度が高い方がその反応長がより長くなり、接続強度が強くなる。ガラスの屈伏点は、剛性状態から粘性状態へと変化する温度域の温度であるが、この温度を指標として、ガラスの屈伏温度が450℃以上であると、陰イオンはフッ素成分が主であるフツリン酸ファイバにおいても、引張強度で200MPa(すなわち、200N/mm)以上の強度を得ることができ、融着補強スリーブを装着する作業も破断なく扱うことが可能となる。
【0028】
上述した多成分ガラスファイバでは、アルカリ元素を添加してガラスの粘性を低くし、結晶化を抑制することによって線引き加工を容易にすることが一般に行われる。しかしながら、背景技術の項で上述したように、アルカリ元素を添加したガラスは耐水性が劣化するため、長期信頼性の観点から問題がある。
【0029】
石英ガラスは、結晶化しない安定なガラスであるため、アルカリ元素の添加無しに容易にファイバ加工ができ、光通信用のファイバとして標準となっている。フツリン酸ファイバにおいても、これまでアルカリ元素を添加したガラスでファイバ化が進められていたが、光通信部品の標準的な信頼性試験であるTelcordia-GR468をクリアするためには、少なくともファイバ外周のガラスにおいてアルカリ元素の添加無しのガラスでファイバ化することが必要である。
【0030】
本発明を適用した光ファイバの作製においては、最初にコアと第1クラッド母材を作製し、次に第1クラッドガラスによるジャケット延伸を行い、続いて第2クラッドガラスによるジャケット線引きをすることによって、所望のコア・クラッド径比を得ることを想定している。その際、ジャケット線引きをする第2クラッドガラスジャケット管は、外周を構成するガラスであるため、少なくともアルカリ元素無しの組成で構成する必要がある。また、その第2クラッドガラスの厚さも、外周からの水分の浸入や接続点における強度を考慮する必要があり、そのためファイバ断面積にして70%以上に相当する厚さであることが必要である。
【0031】
請求項1および請求項2を満たし、低損失ファイバを作製できるフツリン酸ガラスの組成範囲を図1に示す。図1は三角図と呼ばれるもので、頂点に示す成分は酸化物P(+Alなど)、3価のAlF(+YF)、および2価のRF(Rは、Ba,Ca,Srなど)の和である。図1における実線の曲線は、非特許文献3に開示されているガラス化範囲である。
【0032】
図1において、Xは1dB/m以下の損失が得られなかったコアガラス組成、Δは1dB/m以下の損失が得られたが、融着接続により40dB以上の反射減衰量となったコアガラス組成、Oは1dB/m以下の損失と、融着接続による反射減衰量が50dB以上となったコアガラス組成である。
【0033】
図1から、請求項1と請求項2を満たすガラスは、P(+Al,BaOなど)が10〜20mol%、AlF(+YFなど)が12〜40mol%、RF(Rは、Ba,Ca,Sr,Mgなど)が42〜70mol%であり、O/Fの比は0.1〜0.45である。
【0034】
一方、P(+Al,BaOなど)が10〜20mol%、または、O/Fの比が0.1〜0.45を逸脱すると、ガラスの屈折率が1.448〜1.47の範囲から0.2%以上ずれてしまうため、50dB以上の反射減衰量を得ることが出来ない。また、AlF(+YFなど)またはRF(Rは、Ba,Ca,Sr,Mgなど)の和が上記の値を逸脱すると、1dB/m以下のファイバ損失が得られない。
【実施例1】
【0035】
次に、図面と表を参照して、本発明に基づく希土類添加フツリン酸ガラスファイバの実施例を比較例とともに詳細に説明する。
【0036】
下記の表1は、本発明を適用したフツリン酸ガラスの実施組成例(mol%表示)(No.1−20)及び本発明から外れているが失透(冷却時に結晶が検出して透明さを失う現象)しないガラスの得られる比較組成例(A−D)、O/F比、これらガラスのガラス転移温度(Tg:℃)、屈伏点温度(Tc:℃)、熱安定性(Tx−Tg:℃)、屈折率(n)、高温高湿試験(120℃、90RH、100時間)による表面劣化状態についての測定試験結果(O:劣化が認められない、×:劣化が認められる)を示す。
【0037】
ガラスは、窒素ガスを充填したグローブボックス内で原料を混合し、白金坩堝(るつぼ)を用いて窒素雰囲気下1000℃で溶融した。その後、400℃に予加熱した鋳型中に融液を流し込むことにより作製した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1を参照すると、表1のNo.1−20のガラスと、比較例B,C,Dを除いた比較例Aのガラスとは、Tx−Tg(熱安定性)が119℃以上となり、単一モードファイバに加工するに十分な熱安定性を有していることがわかる。
【0040】
既に示した図1の三角図において、No.1−20のガラスをコア・第1クラッドに用いたファイバは高温高湿試験の表面劣化状態の測定試験結果が全て丸印となり、ファイバ損失では1dB/m以下、融着接続による反射減衰量は50dB以上となった。
【0041】
一方、比較例のAのガラスをコアに用いた光ファイバでは、ファイバ損失としては1dB/m以下の良好な値となったが、コアガラスの屈折率が接続したΔn1.5%の石英ファイバのコアガラスよりも0.2%以上高かったために、反射減衰量は50dB以下となった。
【0042】
比較例のBをコアガラスとしてファイバを作製した場合、ファイバ線引きの再加熱時にコアガラスに結晶が析出することにより、散乱損失が増大し、10dB/mの損失となった。このファイバを用いてEDFAを構成しても、損失が大きいために十分にL帯増幅をすることができなかった。
【0043】
比較例のCガラスをコアに用いたファイバでは、ファイバ損失が1dB/m以下の良好な値となったが、コアガラスの屈折率が接続したΔnが1%の石英ファイバのコアガラスよりも0.2%以上低かったため、反射減衰量は50dB以下となった。
【0044】
最後に、比較例Dをコアガラスとしてファイバを作製した場合では、比較例Bを用いた場合と同様ファイバ線引き時に、コアが結晶化し、ファイバ損失が8dB/mとなった。このファイバを用いてEDFAを構成しても、損失が大きいために十分にL帯増幅をすることができなかった。
【0045】
表1に挙げたガラス組成を用いて作製したファイバを、高温高湿試験(120℃、90RH、100時間)を行ったが、その際の測定結果を図2に示す。図2に示すように、試験前後の損失測定により、比較例Cを用いたファイバのみが、OH基によるファイバ損失の増大が見られた。図2において、実線の曲線は高温高湿試験前の測定結果を示し、破線の曲線は高温高湿試験後の測定結果を示す。
【実施例2】
【0046】
本発明を適用したフツリン酸ガラスの実施組成例(mol%表示)(No.1−10)、及び本発明から外れているが失透しないガラスの得られる比較組成例(A−C)、O/F比、これらガラスのガラス転移温度(Tg:℃)、屈伏点温度(Tc:℃)、熱安定性(Tx−Tg:℃)、屈折率(n)、高温高湿試験(120℃、90RH、100時間)による表面劣化状態についての測定試験結果(O:劣化が認められない、×:劣化が認められる)を下記の表2に示す。
【0047】
ガラスは、窒素ガスを充填したグローブボックス内で原料を混合し、白金坩堝を用いて窒素雰囲気下1000℃で溶融した。その後、400℃に予加熱した鋳型中に融液を流し込むことにより作製した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2を参照すると、表2のNo.1−10のガラスは、結晶化による発熱ピークが見られない安定なガラス組成であり、ファイバに加工するに十分な熱安定性を有していることがわかる。これらのガラスをファイバの第2クラッドに使用するため、表2のNo.1−10のガラスを用いて、ローテーショナル・キャスティング法(回転成形法)によりジャケット管を作製し、サクション・キャスティング法(吸引成形法)を用いて表1のNo.1−20のガラスでコア・第1クラッドを作製した延伸母材(ロッド)を、そのジャケット管に挿入し、線引きによりファイバ化した。これにより、一つのコアとその周りに2重のクラッドを有する本実施例のフツリン酸ファイバ(光ファイバ)を得た。
【0050】
その際、ジャケット管は外径15mm内径5mmのX管と、外径15mm内径10mmのY管とを用いた。X管を用いたファイバの断面積は、外側89%が表2のNo.1−10のガラスであるのに対し、Y管を用いたファイバの断面積は、外側56%が表2のNo.1−10のガラスとなる。これらのファイバは、コア径が6μm程度であるのに対し、第2クラッド内径は40μm程度であり、クラッド光は十分減衰しているため、第2クラッドガラスを信号光が伝搬することはなく、更に高い屈折率を有するUV被覆(これは第2クラッドガラスの外側に被覆されている)により、クラッドモードは減衰する。従って、第2クラッドガラスの屈折率への要請は第1クラッドよりも高く、第2クラッドガラスの屈折率がUV被覆の屈折率よりも低ければ、接続損やクラッドモード伝搬を避けることが出来る。
【0051】
表2のNo.1のガラスで作製したX管およびY管を用いたファイバの石英ファイバとの融着接続強度を比較した。この評価は引張強度によって行った。
【0052】
X管を用いたファイバでは、引張強度が平均150MPaであったのに対し、Y管を用いたファイバでは、引張強度が平均60MPaであった。引張強度が100MPa以下では、融着接続機からファイバ接続部を取り出し、これを補強チューブで保護する作業中にファイバを破損してしまうのに対し、100MPa以上ではファイバ保護の作業でファイバを破損することがなくなった。図3にファイバの融着接続部の引張強度のファイバ断面積依存性を示す。図3のグラフから、引張強度が平均100MPaを超えるには、表2のガラスが占める断面積が70%以上必要なことがわかる。
【実施例3】
【0053】
表2のNo.2ガラスと比較例Aとガラスでジャケット管をそれぞれ作製し、表1のNo.15コア、No.16クラッドで作製した延伸母材を、それらジャケット管にそれぞれ挿入して、ファイバ線引きを行った。その結果、No.2ガラスのジャケット管を使用した場合は、1dB/m以下の低損失ファイバが作製できたが、比較例Aのガラスのジャケット管を使用した場合は、線引き温度が高くなり、内部の母材に結晶が発生したために、損失が18dB/mへ上昇してしまった。
【実施例4】
【0054】
表2のNo.3ガラスと比較例B,Cのガラスでジャケット管をそれぞれ作製し、表1のNo.1−20ガラスで作製した延伸母材をそれらジャケット管にそれぞれ挿入してファイバ線引きを行った。その結果得られた各ファイバ50mを巻き取ったものを、高温高湿試験(120℃、90RH、100時間)にかけた前後のファイバの引張強度を測定した。ここで、「RH」は相対湿度(%)である。表2のNo.3ガラスで作られたファイバの引張強度の平均は、700MPaから690MPaとほとんど変化しなかったが、比較例Bのガラスで作られたファイバの場合の引張強度の平均は630MPaから210MPaへと、また比較例Cの場合では引張強度の平均は580MPaから120MPaへと、それぞれ大きく平均強度が劣化した。
【0055】
表2のNo.3ガラスで作製したファイバと比較例Cガラスで作製したファイバとをそれぞれ石英ファイバと融着接続を行った。そのとき、これらの各ガラス(第2クラッドガラス)のファイバ断面積を占める割合は70%を超えていた。接続強度を引張強度で評価した結果、表2のNo.3ガラスで第2クラッドを作製したファイバの接続強度は平均180MPaとハンドリングに十分であるのに対し、比較例Cガラスのファイバで第2クラッドを作製したファイバの接続強度は平均70MPaであり、不十分であった。
【実施例5】
【0056】
表1のNo.11をコア、表1のNo.12を第1クラッドとして母材を作製し、この母材を第1クラッドと同じ組成のジャケット管に挿入して延伸した後、得られたファイバをさらに表2のNo.6ガラスで作製した線引き用ジャケット管に挿入し、線引きしてファイバを作製した。
【0057】
完成したその光ファイバの断面図と屈折率分布を図4に示す。コア径、第1クラッドの外径、第2クラッドの外径はそれぞれ6.1μm、60μm、120μmであった。また、Δnおよびカットオフ波長は、0.61%及び1.3μmであった。最外ジャケットガラス(第2クラッド)の断面積は75%を占めていた。
【0058】
この光ファイバをΔn:1%の石英ファイバと融着接続を行った。融着接続は市販のアーク放電型の接続装置を用いて行った。融着接続部の引張強度は平均172MPaであり、接続装置からの取り出し、接続補強チューブ(図示しない)の装着もスムーズにハンドリングできた。接続損失は0.2dB、反射減衰量は56dBであり、図4の屈折率分布におけるnの高い屈折率は光学的に接続損失や反射減衰量には影響を与えなかった。さらに、上記と同一条件で融着接続した接続ファイバを11本用意し、温度サイクル試験(−40℃から75℃、500サイクル)を行った。その結果、全てのファイバにおいて損失の変動は0.1dB以下であった。
【0059】
次に、本発明のフツリン酸ファイバの長さ6mのものと、MFDを拡大し、四光波混合の発生を抑制した石英系EDFの40mのものとを用いて、25dBのL帯増幅動作を行なった。その結果、50GHz間隔90チャネルの信号増幅中に中央45チャネル目の信号を抜き、FWM(4光波混合)光を測定した。その結果、石英系EDFを用いた場合では、信号パワー/FWMパワーが25dBであったのが、本発明のフツリン酸EDFでは、45dBとなり、FWM光の発生が20dB抑制された。
【0060】
以上の実施例では光ファイバの組成として具体例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
(他の実施形態と実施例)
上記では、本発明の好適な実施形態および実施例を例示して説明したが、本発明の実施形態と実施例は上記例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内であれば、その構成部材等の置換、変更、追加、個数の増減、形状の設計変更等の各種変形は、全て本発明の実施形態に含まれる。また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても良いし、1つの機器からなる装置に適用してもよい。また、上記実施形態例に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種種の発明を形成できる。例えば、必要に応じて実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施例に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ファイバ損失、接続の反射量に対する本発明によるフツリン酸ガラスの組成依存性を示す特性図である。
【図2】高温高湿試験(120℃、90RH、100時間)前後のフツリン酸ファイバの損失スペクトルの一例を示す特性図である。
【図3】本発明によるフツリン酸ファイバと石英ファイバの融着接続部の引張強度に対する、フツリン酸ファイバの第2クラッドガラスファイバ断面積比依存性を示す特性図である。
【図4】本発明によるフツリン酸ファイバの断面および屈折率プロファイルを表す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心のコアの周りに第1クラッド、第2クラッドが順に配置された二重構造のクラッドを有し、該コアガラスに少なくとも希土類を添加したフツリン酸ファイバであって、
前記コア、前記第1クラッド及び前記第2クラッドの屈折率をn、n、nとすると、
≧n>n
の関係になり、
接続対象の石英ガラス製ファイバとコアおよび第1クラッドガラスの屈折率がそれぞれ0.2%以内で一致し、
かつ、ガラスの屈伏温度が450℃以上であることを特徴とするフツリン酸ファイバ。
【請求項2】
前記第2クラッドガラスの断面積が、前記フツリン酸ファイバのファイバ断面積の少なくとも70%以上を占め、該第2クラッドガラスはアルカリ元素を含まない組成をもつことを特徴とする請求項1に記載のフツリン酸ファイバ。
【請求項3】
前記フツリン酸ファイバの前記コアおよび前記第1クラッドガラスの組成として、モル%で
+Al+Y 5〜20mol%,
AlF+YF 5〜40mol%,
MgF+CaF+SrF+BaF 40〜70mol%,
Li+NaF+KF 0〜5mol%
の範囲内にあり、
前記コアおよび前記第1クラッドともに、O/Fの原子比が0.1〜0.45の範囲内で、かつ2価および1価のフッ化物元素を酸化物元素に置換可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のフツリン酸ファイバ。
【請求項4】
前記フツリン酸ファイバの前記第2クラッドガラスの組成として、モル%で
+Al+Y 10〜25mol%,
AlF+YF 5〜40mol%,
MgF+CaF+SrF+BaF 40〜70mol%
の範囲内にあり、
前記コアおよび前記第1クラッドともに、O/Fの原子比が0.2〜0.6の範囲内で、かつ2価および1価のフッ化物元素を酸化物元素に置換可能であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフツリン酸ファイバ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−194171(P2009−194171A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33554(P2008−33554)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】