説明

希土類酸化物含有溶射基板の製造方法及び積層板の製造方法

【解決手段】基材に希土類含有酸化物を5mm以下の厚さで溶射した後、基材から該溶射膜を剥離させることを特徴とする厚さ5mm以下の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【効果】本発明によれば、成形、焼成、焼結工程なしで、所定寸法の基材に溶射することで希土類含有酸化物セラミックスの薄板を容易に作製することができる。また、基材形状の選択により、多角形状、円盤形状、リング形状、三角形状などさまざまな形状の薄板を容易に作製することが可能である。更に、穴の複数個開いた基材に溶射することで、複数個の穴の開いた溶射薄板を作製することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種希土類酸化物を含有するセラミックス溶射薄膜基板の製造方法及び積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類含有酸化物セラミックスの製造方法として、金型プレス法、ラバープレス法(静水圧プレス法)、スリップキャスト法、ドクターブレード法などの成形方法等が挙げられる。これら各種成形用の希土類含有酸化物粉を準備し、上記成形方法でセラミックス成形体を得た後、焼成、焼結、加工工程を経て、所定寸法の製品に仕上げることができる。
【0003】
しかしながら、希土類含有酸化物セラミックス薄板を作製する場合、特に厚み5mm以下で製品体積50cm3以上の薄板成形体を作製する際、成形時にクラックが発生し、成形体を得ることが困難である。そのため、成形体の厚みを厚くし、歩留まりよく成形体を得た後、焼成、焼結を行い、加工研磨により5mm以下の厚みの薄板に仕上げる方法が一般的である。
【0004】
しかし、このような方法は、得ようとする薄板の厚みが薄く、体積が大きくなるほど、多くの原料を使い、製品の加工時間も増えてしまう。また、焼結時のクラックやそりなど工程中での製造歩留まりの大幅な低下などが発生し、コストアップにつながり、製作上、課題となっていた。
なお、本発明に関連する公知文献としては、下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−204655号公報
【特許文献2】特開平6−33215号公報
【特許文献3】特開2004−346374号公報
【特許文献4】特公平6−55477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐反応性、耐熱性、耐摩耗性、耐食性、耐プラズマ性、耐薬品性等を必要とする機種材料等に用いられる希土類含有酸化物セラミックスの薄板を容易に作製することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、所望の基材上に溶射を行い、溶射により基材に付着堆積した希土類含有酸化物セラミックス皮膜を剥離、特に自然剥離させた後、必要に応じ剥離面側から更に溶射を行い、そりを矯正しながら剥離した溶射皮膜の表面と裏面を交互に溶射していき、所定の厚みになるまで溶射を行うことで、そり変形の少ないフラットな希土類酸化物セラミックス薄板を作製することができることを知見し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記希土類酸化物含有溶射基板の製造方法、及び積層板の製造方法を提供する。
〔1〕 基材に希土類含有酸化物を5mm以下の厚さで溶射した後、基材から該溶射膜を剥離させることを特徴とする厚さ5mm以下の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔2〕 基材がカーボンであることを特徴とする〔1〕記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔3〕 溶射膜を自然剥離することを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔4〕 基材から剥離した溶射膜の剥離面及び/又はその反対面に更に希土類含有酸化物を溶射することを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔5〕 希土類含有酸化物が希土類酸化物である〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔6〕 希土類含有酸化物が希土類酸化物と他の金属酸化物との混合物もしくは複合酸化物である〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
〔7〕 〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の方法で得られた溶射基板面に金属又は金属化合物を溶射することを特徴とする積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形、焼成、焼結工程なしで、所定寸法の基材に溶射することで希土類含有酸化物セラミックスの薄板を容易に作製することができる。また、基材形状の選択により、多角形状、円盤形状、リング形状、三角形状などさまざまな形状の薄板を容易に作製することが可能である。更に、穴の複数個開いた基材に溶射することで、複数個の穴の開いた溶射薄板を作製することも可能である。
【0010】
本発明によれば、特に所定のカーボン基材に希土類含有酸化物粒子を溶射していき、希土類含有酸化物溶射皮膜が基材から自然剥離した後、希土類含有酸化物溶射皮膜の剥離面側から更に溶射を行い、そり変形の少ない希土類含有酸化物セラミックス薄板を製造することができる。
【0011】
本発明で製造された希土類含有酸化物セラミックス薄板は、耐熱性、耐摩耗性、耐食性、耐プラズマ性、耐薬品性を必要とするあらゆる分野の機種部材として適用することが可能である。希土類含有酸化物セラミックス粉以外の一般の酸化物セラミックス市販粉にも同手法が適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の希土類酸化物を含有する溶射基板は、厚さが5mm以下、好ましくは4mm以下、より好ましくは3.5mm以下、更に好ましくは2.5mm以下である。この場合、最低厚さは、ハンドリングによる損傷防止の点から0.2mm以上、特に0.5mm以上とすることが好ましい。
【0013】
溶射基板の形状は特に限定されず、四角形板状、五角以上の多角形板状、円形板状、楕円形板状、三角形板状などや、これらの板に貫通孔が形成されたリング形状など、種々の形状に形成されるが、この場合、体積は50cm3以上、より好ましくは100cm3以上、更に好ましくは200cm3以上とすることが好ましい。その上限は特に制限されるものではないが、通常、ハンドリングによる損傷防止の点から2000cm3以下、特に1000cm3以下とすることが好ましい。
【0014】
上記希土類酸化物は、Y元素又はランタノイド元素の酸化物であり、Y及び原子番号57〜71の希土類元素から選ばれる元素の酸化物の1種又は2種以上が用いられるが、希土類酸化物としては、Y、Erの酸化物が好ましい。この場合、希土類酸化物に他の金属、特に3B族金属元素の酸化物を混合してもよく、また希土類金属酸化物と他の金属、特に3B族金属元素の酸化物との複合酸化物でもよい。なお、3B族金属元素としては、B、Al、Ga、In、Ti元素が挙げられる。
【0015】
上記他の金属酸化物との混合物又は上記複合酸化物を用いる場合、希土類酸化物の含有量は、希土類金属含有量と他の金属含有量との総量中10〜90質量%、特に30〜80質量%である。
また、剥離前の状態で基材上には複数層の希土類酸化物層を形成することができる。
【0016】
上記の溶射基板(希土類含有酸化物セラミックス薄板)を得るに際しては、所定形状及び寸法の基材と希土類含有酸化物の溶射用原料粉を準備する。
【0017】
所定寸法基材の材種は任意であり、金属、セラミックス、カーボン等が挙げられる。これら基材のうち、溶射皮膜との離型性の面からカーボンを使用することが好ましい。カーボン基材は、CIP材、押し出し材、モールド材、繊維状のカーボンを押し固めたコンポジット材等があるが、特に、CIP材が好ましい。
【0018】
また、溶射用原料粉としては、上記希土類酸化物、これと他の金属、特に3B族金属元素の酸化物との混合物あるいは複合酸化物の粉体を用いるものであるが、この場合この粉体の平均粒径は3〜70μm、特に15〜60μmが好ましい。なお、この平均粒径はマイクロトラック法(分散なし:D50)による値である。
【0019】
本発明に係る製造方法においては、上記原料粉を用いて上記基材に溶射を行う。この場合、はじめに、必要に応じて、所定形状の基材の表面をブラスト等で表面処理を行う。ここでいう、所定形状の基材とは、一般のセラミックス成形工程における金型に該当する。一度準備された基材は、繰り返し再利用することが可能である。
【0020】
次に、準備された基材に溶射を行う。溶射の種類は任意であるが、特にプラズマ溶射が好ましい。溶射条件は例えばアルゴンガス、水素ガスを使用し、電流500A、出力35kWの条件で、溶射皮膜を基材に積層していくことが好ましい。
【0021】
溶射により積層した皮膜の厚みがある一定の厚みになると、溶射皮膜は基材から自然剥離する。これは、基材のもつ形状(大きさ、厚み等)、物性(熱膨張率、弾性率等)、ブラストによる表面状態と溶射皮膜のもつ物性(熱膨張率、弾性率等)との差によって生ずる熱応力を利用したものである。この溶射皮膜の基材からの自然剥離力を利用して、所望の薄板を得ることができるが、強制的に機械剥離を行ってもよい。大型基材になると、基材材種、基材厚み、基材の表面状態が溶射皮膜とうまく適合しないと、溶射皮膜の基材からの自然剥離時に皮膜にクラックが入り、所定の薄板を得ることができない。また、自然剥離するときの溶射皮膜の厚みは、基材の材種や形状、厚み、基材の表面状態、溶射材料の種類により大きく異なるが、厚さ1mm以上になると自然剥離が発生する。また、溶射皮膜の剥離面部には、基材材種が付着している場合がある。これらの付着物は、ブラスト処理や研磨加工、薬液処理、焼成処理などにより除去することが可能である。
【0022】
基材から自然剥離した溶射皮膜には、熱応力による変形(そり、ゆがみ等)を伴う場合があるが、基材形状に工夫をこらして変形を防止することが可能である。また、自然剥離した溶射皮膜の剥離面側から更に積層したり、熱処理を行うことができ、好ましくは溶射を行って積層することで変形を矯正できる。なお、熱処理としては、800〜1700℃、1〜10時間の処理条件とすることができる。
【0023】
剥離した溶射皮膜の剥離面側へ皮膜を積層させていくことで、熱応力による変形が矯正され、ある厚みまでくると、そり変形がほぼなくなる。また、そり変形がなくなった時点から、更に表面、裏面に交互に溶射していくことで、所定厚みの薄板に仕上げることが可能である。剥離表面に形成させる材料は特に限定されるものではなく、上記希土類含有酸化物の溶射用原料粉のほか、金属又は金属化合物や樹脂等が挙げられる。薄板の状態ではそりが発生している場合が多いので、特に溶射による積層を施すことでそりを矯正できる。その他の積層方法としてもスパッタやメッキ、蒸着等の積層方法によっても溶射基板上への積層は可能である。多層物の場合の積層厚は特に限定しないが、0.01〜5mm程度の積層が可能である。
【0024】
なお、上記金属、金属化合物、樹脂としては、特に限定されるものではなく、Al、Fe、W、Si、Mo、Ti、Ni、Cu、SUS、チタニア、アルミナ、ジルコニア、WC、SiC、SiO2、窒化ケイ素、希土類酸化物、希土類フッ化物、希土類窒化物、またYAG,YIGなどの複合酸化物、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられ、特には密着性の点から希土類化合物を積層させることが好ましい。
【0025】
得られた希土類含有酸化物薄板については、使用目的に応じてそのまま使用することもできるし、切断加工、研削加工、研磨加工、鏡面研磨などの機械加工を施し、所定の形状、表面状態に仕上げることができる。
【0026】
この手法の応用として、多種酸化物を交互に積層された薄板を作製することも可能である。例えば、酸化イットリウムや酸化エルビウムが200μmの厚みで積層された厚み3mm程度の薄板を作製することも可能である。また、溶射皮膜間に金属など希土類酸化物とは別の元素、化合物を挟むこともできる。一般のセラミックス成形方法では作製できない希土類含有酸化物複合薄板の作製が可能である。更に、高純度を必要とする分野では、カーボン基材や溶射原料粉を高純度化し、クリーンな環境下で溶射し、後処理として、酸洗浄、アルカリ洗浄、有機溶剤による洗浄や熱処理、精密洗浄などを実施することで、製品の高純度化を図ることも可能である。
【0027】
本発明で得られた基板は、耐プラズマ性を必要とする半導体装置用チャンバー部材、静電チャックなど積層膜中にWなどの電極パターン形成による静電力を必要とする部材、磁石合金などの焼結に用いるセッター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
[実施例1]
250×250×5mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Y23溶射皮膜の厚みが1.2mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23セラミックス薄板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で1mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたY23薄板の剥離面側に溶射を実施した。溶射皮膜を0.8mm積層させたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ない、250×250×2mmのY23セラミックス薄板を作製することができた。
【0030】
なお、溶射薄板のそり測定に関しては、大理石定盤上に溶射薄板を置き、角板の場合には、角板の外輪時計回り方向に12点(1辺3ポイント)ずつ、隙間ゲージを挿入してそりの大きさを測定した。表面側について測定した後、反転させて裏面側についても測定を行い、全測定値の平均値をそり値とした。円板の場合には、円板の外輪時計回り方向に8点ずつ、隙間ゲージを挿入してそりの大きさを測定した。表面側について測定した後、反転させて裏面側についても同様の測定を行い、全測定値の平均値をそり値とした。
【0031】
[実施例2]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Y23溶射皮膜の厚みが1.5mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で3mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたY23薄板円板の剥離面側に溶射を実施した。溶射皮膜を1.0mm積層させたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×2.5mmのY23セラミックス薄板円板を作製することができた。そり矯正後、更に表面、裏面に交互に溶射を行い、φ400×3.5mmのY23セラミックス薄板円板を作製した。その後、表面加工研磨により、そりが0mmで厚み2.5mmのφ400mm Y23セラミックス薄板円板に仕上げた。
【0032】
[実施例3]
OD400×ID200×5mmのカーボンリングCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、YAG溶射用原料を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。YAG溶射皮膜の厚みが1.3mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、YAGセラミックス薄板円形リング板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で2mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたYAG薄板リング板の剥離面側に溶射を実施した。溶射皮膜を0.7mm乗せたところで、そりが1mm以下の変形の少ない、OD400×ID200×2mmのYAGセラミックス薄板リング板を作製することができた。
【0033】
[比較例1]
250×250mm角の金型を準備した。Y23プレス用原料粉を充填し、キャビティを調整して、厚み2mmの成形体の作製を試みたが、金型プレス脱型時にクラックが入り、250×250mm角成形体を得ることができなかった。
【0034】
[比較例2]
φ400×10mmのネオプレンゴム型を準備した。Y23プレス用原料粉をゴム型に充填し、静水圧プレス機を用いて水圧2トン/cm2で成形した。円周端部に一部欠けが発生したが、φ400×8mm成形体を得ることができた。得られた成形体は強度が弱く、焼結時にそり変形によるクラックが発生し、φ400mmの希土類酸化物セラミックス円板焼結体を作製することができなかった。
【0035】
[実施例4]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Er23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Er23溶射皮膜の厚みが1.2mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Er23薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で3mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたEr23薄板円板の剥離面側に溶射を実施した。溶射用原料粉としてタングステン粉を使用した。タングステン溶射皮膜を0.7mm乗せたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×1.9mmのEr23/タングステン薄板円板を作製することができた。
【0036】
[実施例5]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。溶射皮膜を200μm乗せた後、Er23溶射用原料粉に切り替え、同条件で200μmの溶射を行った。Y23とEr23を200μmずつ交互に溶射し、Y23/Er23溶射皮膜の厚みが1.4mmのところで、カーボン基板とY23の界面において溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23/Er23積層セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で2mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたY23/Er23積層薄板円板の剥離面側にEr23/Y23積層溶射を引き続き実施した。溶射皮膜を1.0mm乗せたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×2.4mmのY23/Er23の交互に積層された積層セラミックス薄板円板を作製することができた。そり矯正後、断面観察のために試料を2分割に切断した。切断面をマイクロスコープで観察したところ、Y23層が約200μm、Er23層が約200μmの積層板であることが確認できた。
【0037】
[実施例6]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。溶射皮膜を800μm乗せた後、電極パターン形成用のマスキングを行い、マスキング上から、タングステン溶射用原料粉を用いて、約200μmのタングステン溶射を行った。その後、電極端子部分だけを残し、Y23に切り替えて溶射を行い、Y23+タングステン溶射皮膜の厚みが1.4mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、タングステン内蔵Y23セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で4mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたタングステン内蔵Y23薄板円板の剥離面側にY23溶射を実施した。溶射皮膜を0.8mm乗せたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×2.2mmのタングステン電極内蔵Y23セラミックス薄板円板を作製することができた。
【0038】
[実施例7]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Y23溶射皮膜の厚みが1.5mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で3mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたY23薄板円板の剥離面側に溶射を実施した。溶射用原料粉としてフッ化イットリウム粉(YF3粉)を使用した。YF3溶射皮膜を1.0mm乗せたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×2.5mmのY23/YF3薄板円板を作製することができた。
【0039】
[実施例8]
φ400×20mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Y23溶射皮膜の厚みが1.5mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で3mm以上のそりが発生した。そり変形を矯正するために、得られたY23薄板円板の剥離面側に溶射を実施した。溶射用原料粉としてアルミナ粉(Al23粉)を使用した。アルミナ溶射皮膜を0.5mm乗せたところで、そりが0.5mm以下の変形の少ないφ400×2.0mmのY23/Al23薄板円板を作製することができた。
【0040】
[実施例9]
φ400×5mmのカーボンCIP基板を準備した。表面をプラズマ溶射する前に、ブラストで基板表面を荒らし、次いで、Y23溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素でプラズマ溶射を実施した。Y23溶射皮膜の厚み0.9mmのところで、基材からの溶射皮膜の自然剥離が起こり、Y23セラミックス薄板円板を得ることができた。隙間ゲージによる測定で、両端部で10mm以上のそりが発生した。剥離面に付着したカーボン除去とそり変形を矯正するために酸化雰囲気炉による熱処理を実施した。熱処理により、そりが0.5mm以下に矯正できた。そり矯正されたY23薄板円板の剥離面、表面側に溶射を実施していき、そりが0.5mm以下でφ400×2mmのY23薄板円板を作製することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に希土類含有酸化物を5mm以下の厚さで溶射した後、基材から該溶射膜を剥離させることを特徴とする厚さ5mm以下の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項2】
基材がカーボンであることを特徴とする請求項1記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項3】
溶射膜を自然剥離することを特徴とする請求項1又は2記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項4】
基材から剥離した溶射膜の剥離面及び/又はその反対面に更に希土類含有酸化物を溶射することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項5】
希土類含有酸化物が希土類酸化物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項6】
希土類含有酸化物が希土類酸化物と他の金属酸化物との混合物もしくは複合酸化物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の希土類酸化物含有溶射基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法で得られた溶射基板面に金属又は金属化合物を溶射することを特徴とする積層板の製造方法。

【公開番号】特開2012−167372(P2012−167372A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42710(P2012−42710)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【分割の表示】特願2007−133669(P2007−133669)の分割
【原出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】