説明

帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】弾性層からの低分子量成分の表面への染み出しの抑制と、電子写真感光体の帯電性能とを高いレベルで両立した帯電部材を提供する。
【解決手段】基体、弾性層および表面層を有し、該表面層は、下記式(1)、(2)及び(3)で示される構成単位を有し、かつ、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ta結合、及びSi−O−Ta結合を有している高分子化合物を含む帯電部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真装置の接触帯電に用いる帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体と当接して該電子写真感光体を帯電させる帯電部材は、電子写真感光体と帯電部材との当接ニップを十分かつ均一に確保するためにゴムを含む弾性層を有する構成が一般的である。かかる弾性層中には低分子量成分が不可避的に含まれることから、長期の使用によって、当該低分子量成分が帯電部材の表面に染み出し、電子写真感光体の表面を汚染することがある。このような課題に対して特許文献1には、弾性層の周面を無機酸化物被膜あるいは無機−有機ハイブリッド被膜で被覆し、低分子量成分が帯電部材の表面に染み出すことを抑制した構成が提案されている。
【0003】
ところで、近年の電子写真画像形成プロセスの高速化に伴って、電子写真感光体と帯電部材との接触時間が相対的に短くなってきており、これは、電子写真感光体を安定かつ確実に帯電させるうえで不利な方向である。かかる状況の下では、周面に低分子量成分の染み出しを抑制するための膜が厚く形成されているような帯電部材は、電子写真感光体を安定かつ確実に帯電させる上では不利な構成といえる。
【0004】
一方、電子写真感光体から紙等にトナー像が転写された後にも電子写真感光体の表面にはトナーや外添剤などが残留していることがある。このような残留物は、長期の使用により、帯電部材の表面に付着し、帯電部材の帯電性能を低下させ、ひいては電子写真画像の品位を低下させることがある。このようなトナーの付着によるトナーフィルミングを抑制するために、特許文献2は、特定のシリコーングラフトポリマーを含む最外層を有する導電ローラを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−173641号公報
【特許文献2】特開2000−337355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、弾性層からの低分子量成分の染み出しの抑制や表面へのトナー等の付着の抑制によって、表面層の汚れが少なく帯電性能が優れた帯電部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を安定して形成可能な電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、基体、弾性層および表面層を有し、該表面層は、下記式(1)、(2)及び(3)で示される構成単位を有し、かつ、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ta結合、及びSi−O−Ta結合を有している高分子化合物を含む帯電部材が提供される。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に以下の式(4)〜(7)のいずれかを示す。
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
式(4)〜(7)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示し、x及びyは、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0017】
また本発明は、電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている前記帯電部材とを有することを特徴とする電子写真装置に関する。
【0018】
更に本発明は、電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている前記帯電部材とを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、帯電不良を引き起こす原因となる、表面層の汚れが少ない帯電部材、並びに、該帯電部材を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る帯電部材の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明に係るプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の断面図である。
【図3】動摩擦係数測定装置を示す図である。
【図4】29Si−NMRのスペクトルを示す図である。
【図5】13C−NMRのスペクトルを示す図である。
【図6】本発明に係る表面層の形成工程における架橋反応の説明図である。
【図7】本発明に係る高分子化合物の化学構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示す本発明に係る帯電部材は、基体101、導電性の弾性層102及び表面層103がこの順で積層されている構成を有する。
【0022】
〔基体〕
基体としては、鉄、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金又はニッケルで形成されている金属製(合金製)の基体を用いることができる。
【0023】
〔弾性層〕
弾性層を構成する材料としては、従来の帯電部材の弾性層(導電性弾性層)に用いられているゴムや熱可塑性エラストマーの如き弾性体を1種または2種以上用いることができる。ゴムとしては以下のものが挙げられる。ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびアルキルエーテルゴム等。
【0024】
また、弾性層は、導電剤を含むことによって所定の導電性を有するように構成されている。弾性層の電気抵抗値の好適な範囲は102Ω以上108Ω以下であり、より好適な範囲は103Ω以上106Ω以下である。導電性弾性層に用いられる導電剤としては、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、帯電防止剤、電解質などが挙げられる。
【0025】
陽イオン性界面活性剤としては以下のものが挙げられる。第四級アンモニウム塩(ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよび変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウム等)、過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、エトサルフェート塩およびハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩や塩化ベンジル塩など)。陰イオン性界面活性剤としては以下のものが挙げられる。脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコール燐酸エステル塩および高級アルコールエチレンオキサイド付加燐酸エステル塩等。
【0026】
帯電防止剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルおよび多価アルコール脂肪酸エステルの如き非イオン性帯電防止剤が挙げられる。電解質としては、例えば、周期律表第1族の金属(Li、Na、Kなど)の塩(第四級アンモニウム塩など)が挙げられる。周期律表第1族の金属の塩としては、具体的には、LiCF3SO3、NaClO4、LiAsF6、LiBF4、NaSCN、KSCNおよびNaClなどが挙げられる。
【0027】
また、導電性弾性層用の導電剤として、周期律表第2族の金属(Ca、Baなど)の塩(Ca(ClO42など)やこれから誘導される帯電防止剤を用いることもできる。また、これらと多価アルコール(1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)もしくはその誘導体との錯体や、これらとモノオール(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等)との錯体の如きイオン導電性導電剤を用い得る。
【0028】
また、弾性層用の導電剤として炭素系材料(導電性カーボンブラック、グラファイト等)、金属酸化物(酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛等)、金属(ニッケル、銅、銀及びゲルマニウム等)を用いることもできる。
【0029】
導電性弾性層の硬度は、帯電部材と被帯電体である電子写真感光体とを当接させた際の帯電部材の変形を抑制する観点から、MD−1硬度で60度以上85度以下であることが好ましく、特には70度以上80度以下であることがより好ましい。また、導電性弾性層は、感光体と幅方向で均一に当接させるために、中央部の層厚が端部の層厚よりも厚い、いわゆるクラウン形状とすることが好ましい。
【0030】
〔表面層〕
本発明に係る帯電部材の表面層は、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ta結合、及びSi−O−Ta結合を有している高分子を含み、該高分子は、下記式(1)、(2)及び(3)で示される構成単位を有している。
【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に以下の式(4)〜(7)のいずれかを示す。
【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
式(4)〜(7)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示し、x及びyは、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0040】
本発明に係る高分子化合物の一例として、式(1)中のR1が式(4)で示される構造であり、R2が式(5)で示される構造であるときの高分子化合物の構造の一部を図7(a)に示す。
【0041】
また本発明に係る高分子化合物の他の例として、式(1)中のR1が式(4)で示される構造であり、R2が式(7)で示される構造であるときの高分子化合物の構造の一部を図7(b)に示す。
【0042】
Si−O−Ti結合、Ti−O−Ti結合、Si−O−Si結合および、式(1)で示される構成単位をもつ高分子化合物を表面層に用いた帯電部材は、その誘電率の高さから、画像印刷時のドラム回転速度に影響されず安定して電位を供給することができる。本発明の帯電部材は、当該高分子化合物中に更にTa原子が存在してTi−O−Ta結合及びSi−O−Ta結合を有することから、前記特徴に加えて更に表面層の動摩擦係数が低下するという特徴を有する。またSi、Ti及びTa原子が分子レベルで混合されているために摩擦のムラがない。この特性はSiとTiのみ、SiとTaのみでは発現せず、Si、Ti及びTaの3原子が互いに酸素を介して結合している高分子化合物のみに特有のものである。このような高分子化合物で構成される表面層は緻密であり、薄膜化しても弾性層からの低分子成分等のブリーディングを抑制することができる。
【0043】
本発明の帯電部材における前記高分子化合物は、前記式(1)のR1及びR2が各々独立に下記の式(8)〜(11)で示される構造から選ばれる何れかであることが好ましい。
【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
式(8)〜(11)中、N、M、L、Q、S及びTは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、x’及びy’は、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0049】
〔原子比〕
本発明の帯電部材の前記高分子化合物における、チタニウムとタンタルの総和とケイ素の原子数比(Ti+Ta)/Siが0.1以上5.0以下であることが好ましい。この範囲内であれば、表面層の動摩擦係数を大いに低減させることができる。
【0050】
本発明の帯電部材における前記高分子化合物は、式(12)で示される構造を有する加水分解性化合物と、式(13)及び式(14)で示される構造を有する加水分解性化合物との架橋物であることが好ましい。本発明の高分子化合物がこのような架橋物である場合は各成分が分子レベルで混合・結合することにより膜に組成の偏りができにくい。また分子同士の結合が密であるために染み出し等を防止することに効果的である。
【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

【0053】
【化21】

【0054】
式(12)中、R33は、エポキシ基を有する式(15)〜(18)のいずれかを示し、R34〜R36は、各々独立に炭化水素基(炭素数1〜4のアルキル基等)を示す。炭化水素基としては、鎖状、分岐状、環状であってもよく、不飽和結合を有していてもよい。式(13)及び(14)中、R37〜R45は、各々独立して、炭化水素基又は酸素若しくは窒素の少なくともいずれか1つで置換された炭化水素基を示す。炭化水素基としては、鎖状、分岐状、環状であってもよく、不飽和結合を有していてもよい。
【0055】
【化22】

【0056】
【化23】

【0057】
【化24】

【0058】
【化25】

【0059】
式(15)〜(18)中、R46〜R48、R51〜R53、R58、R59、R64及びR65は、各々独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R49、R50、R54〜R57、R62、R63及びR68〜R71は、各々独立して水素、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。R60、R61、R66及びR67は、各々独立して水素、炭素数1〜4アルコキシル基、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。n’、m’、l’、q’、s’及びt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’及びr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。また、*は、式(12)のケイ素原子との結合位置を示す。
【0060】
また、本発明の帯電部材における前記高分子化合物は、式(12)、(13)及び(14)で示される加水分解性化合物と、下記式(19)で示される加水分解性化合物との架橋物であることが好ましい。
【0061】
【化26】

【0062】
式(19)中、R72は、炭素数1〜21のアルキル基又はフェニル基を示し、R73〜R75は、各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0063】
本発明に係る高分子化合物がこのような架橋物である場合は、式(19)で示される加水分解性化合物の量により膜硬度を調整することができる。またR72の種類により様々な特性を付与することができる。特にR72が炭素数1〜21のアルキル基の場合、溶解性、塗工性の改善として好ましい。また、R72がフェニル基の場合は、電気特性、特に体積抵抗率向上に寄与するので好ましい。
【0064】
〔表面層の製造〕
本発明に係る高分子化合物は、式(12)、(13)及び(14)で示される加水分解性化合物から合成される加水分解縮合物を調製し、当該加水分解縮合物のR33のエポキシ基を開裂させて該加水分解縮合物を架橋させることで得られる。又は、式(12)、(13)、(14)及び(19)で示される加水分解性化合物から合成される加水分解縮合物を調製し、当該加水分解縮合物のR33のエポキシ基を開裂させて該加水分解縮合物を架橋させることで得られる。そして、本発明に係る帯電部材は、上記の加水分解縮合物を含む塗料の塗膜を弾性層上に形成した後に、該塗膜中の加水分解縮合物を架橋させて表面層とすることによって形成することができる。
【0065】
ここでは、本発明に係る高分子化合物の製造例として、弾性層上に表面層を形成させる方法をより具体的に説明する。当該高分子化合物は、次の工程(1)〜工程(6)を経て製造される。尚、成分(A)は式(12)の加水分解性シラン化合物であり、成分(B)は式(19)の加水分解性シラン化合物、成分(C)は式(13)の加水分解性チタニウム化合物、成分(D)は式(14)の加水分解性タンタル化合物である。
(1):成分(A)、(B)と(C)、(D)のモル比{(C)+(D)}/{(A)+(B)}を0.1以上5.0以下に調整する工程。
(2):成分(A)と(B)を混合し、成分(E)の水、成分(F)のアルコールを添加した後、加熱還流により加水分解・縮合を行う工程。
(3):前記加水分解・縮合を行った溶液に成分(C)、(D)を添加し混合する工程。(4):成分(G)の光重合開始剤を添加し、成分(F)のアルコールで濃度を希釈してコーティング剤(塗料)を得る工程。
(5):基体上に形成された弾性層上にコーティング剤を塗布する工程。
(6):加水分解縮合物を架橋反応させてコーティング剤を硬化する工程。
【0066】
尚、工程(2)において成分(A)、(B)、(C)及び(D)を同時に添加してもよい。また加水分解性シラン化合物は、成分(A)の1種類のみを使用してもよく、また成分(A)を2種類以上、もしくは成分(B)を2種類以上併用してもよい。
【0067】
式(12)の化合物の具体例を以下に示す。
4−(1,2−エポキシブチル)トリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、8−オキシラン−2−イルオクチルトリメトキシシラン、8−オキシラン−2−イルオクチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリエトキシシラン。
【0068】
式(19)の化合物の具体例を以下に示す。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン。
【0069】
式(13)の化合物の具体例を以下に示す。
チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトラi−プロポキシド、チタニウムテトラn−ブトキシド、チタニウムテトラt−ブトキシド、チタニウムテトラn−ノニロキシド、チタニウムテトラステアリルオキシド、チタニウムビス(トリエタノールアミン)−ジイソプロポキシド。
【0070】
式(14)の化合物の具体例を以下に示す。
タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタ−n−ブトキシド、タンタルテトラエトキシドジメチルアミノエトキシド。
【0071】
上記成分のモル比を、{(C)+(D)}/{(A)+(B)}は0.1以上5.0以下に調整することが好ましく、低摩擦化に効果的である。このモル比は更に好ましくは0.5以上3.0以下である。このモル比が5.0を超えると、合成後の液が白濁や沈殿がおこりやすくなり、保存性が悪い。尚、このモル比は、原子数比(Ti+Ta)/Siで表すことができる。
【0072】
成分(E)の水の添加量は、(E)/{(A)+(B)}モル比が、0.3以上6.0以下が好ましい。更に1.2以上3.0以下が好ましい。このモル比が0.3以上であれば縮合が十分に進行して未反応の残存モノマーが少ない。また6.0以下であれば縮合の進行が早すぎることがなく、白濁化や沈殿が抑制される。また、成分(E)の水が多いとアルコールとの混合時の相溶性も、極性の高い状態となり、縮合物との相溶性も悪くなる為、これも先と同様に白濁化や沈殿が生じ易くなる方向となる。
【0073】
成分(F)のアルコールとしては、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコール、第1級アルコールと第2級アルコールの混合系、第1級アルコールと第3級アルコールの混合系を用いることが好ましい。特にエタノール、メタノールと2−ブタノールの混合液、エタノールと2−ブタノールの混合液が好ましい。
【0074】
成分(G)の光重合開始剤は、ルイス酸あるいはブレンステッド酸のオニウム塩を用いることが好ましい。その他のカチオン重合触媒としては、例えば、ボレート塩、イミド構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、アゾ化合物、過酸化物が挙げられる。光重合開始材はコーティング剤との相溶性を向上させるために事前にアルコールやケトンなどの溶媒で希釈することが好ましい。溶媒は、メタノールやメチルイソブチルケトンが好ましい。各種カチオン重合触媒の中でも、感度、安定性および反応性の観点から、芳香族スルホニウム塩や芳香族ヨードニウム塩が好ましい。特には、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩、下記式(20)で示される構造を有する化合物(商品名:アデカオプトマ−SP150、旭電化工業(株)製)や、下記式(21)で示される構造を有する化合物(商品名:イルガキュア261、チバスペシャルティーケミカルズ社製)が好ましい。
【0075】
【化27】

【0076】
【化28】

【0077】
以上のように合成された高分子化合物は、塗布性向上のために、適当な濃度に調整され、コーティング剤とされる。濃度調整に適当な溶剤としては、例えば、エタノール、メタノールおよび2−ブタノールなどのアルコールや、酢酸エチルや、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン、あるいは、これらを混合したものが挙げられる。特にエタノールまたはメタノールと2−ブタノールの混合液、エタノールと2−ブタノールの混合液が好ましい。
【0078】
〔表面層の形成〕
このように調製されたコーティング剤は、ロールコーターを用いた塗布、浸漬塗布、リング塗布などの手法によって導電性弾性層の上に塗布されてコーティング層が形成される。コーティング層に活性化エネルギー線を照射すると、コーティング剤に含まれるシラン縮合物中のカチオン重合可能な基が開裂・重合する。これによって、該シラン縮合物同士が架橋して硬化し表面層が形成される。このようなカチオン重合により得られる高分子化合物は、式(1)で表される架橋構造を有し、有機基(R1またはR2)に結合したSi原子が、それぞれ酸素を介して他の3原子(Si、Ti、Ta)と結合されている。
【0079】
本発明に係る高分子化合物の形成過程において生じる架橋および硬化反応について図6を用いて具体的に説明する。例えば、前記した成分(A)としての、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、成分(B)と、成分(C)とを加水分解させて得られる縮合物は、カチオン重合可能な基としてエポキシ基を有する。このような加水分解縮合物のエポキシ基は、カチオン重合触媒(図6中、R+と記載)の存在下で、エポキシ環が開環し、連鎖的に重合が進む。その結果、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ta結合およびSi−O−Ta結合を有するポリシロキサン同士が架橋し、硬化して本発明に係る高分子化合物が形成される。なお、図6中、nは1以上の整数を表す。
【0080】
活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。表面層の硬化を紫外線で行うことで、余分な熱が発生しにくく、熱硬化のような溶剤の揮発中における相分離やシワが生じにくく、非常に均一な膜状態が得られる。このため、感光体への均一で安定した電位を与えることができる。
【0081】
帯電部材の置かれる環境が温湿度の変化が急激な環境である場合、その温湿度の変化による導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従しないと、表面層にシワやクラックが発生することがある。しかしながら、架橋反応を熱の発生が少ない紫外線によって行えば、導電性弾性層と表面層との密着性が高まり、導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従できるようになるため、環境の温湿度の変化による表面層のシワやクラックも抑制することができる。また、架橋反応を紫外線によって行えば、熱履歴による導電性弾性層の劣化を抑制することができるため、導電性弾性層の電気的特性の低下を抑制することもできる。
【0082】
紫外線の照射には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、エキシマUVランプなどを用いることができ、これらのうち、紫外線の波長が150nm以上480nm以下の光を豊富に含む紫外線源が用いられる。なお、紫外線の積算光量は、以下のように定義される。
紫外線積算光量[mJ/cm2]=紫外線強度[mW/cm2]×照射時間[s]
紫外線の積算光量の調節は、照射時間や、ランプ出力や、ランプと被照射体との距離で行うことが可能である。また、照射時間内で積算光量に勾配をつけてもよい。低圧水銀ランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやUVD−S254(いずれも商品名)を用いて測定することができる。また、エキシマUVランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやVUV−S172(いずれも商品名)を用いて測定することができる。
【0083】
表面層の厚みの目安としては、10nm以上、100nm以下が好ましい。この厚みの範囲内であれば、塗工ムラ、硬化収縮によるクラック等を生じにくく、また、導電性弾性体層からのブリードをより有効に抑制し得る。
【0084】
〔動摩擦係数の測定〕
帯電部材の表面層の動摩擦係数は対ポリエチレンテレフタレート(PET)シートでの測定において0.1以上0.3以下が好ましい。この動摩擦係数をこのような範囲内とすることで、感光体ドラムとの従動が良好でスリップが生じにくく、感光体ドラムへ安定して帯電付与することができる。図3に動摩擦係数測定装置を示す。図3において、測定対象である帯電部材201は、ベルト(厚さ100μm、幅30mm、長さ180mm、PET製(商品名:ルミラーS10 #100、東レ(株)製))202に所定の角度θで接触している。ベルト202の一端には重り203が繋がれ、他端には荷重計204が繋がれている。また荷重計204には記録計205が接続されている。図3に示す状態で、帯電部材201を所定の方向および所定の速度で回転させたとき、荷重計204で測定された力をF[g重]、重りの重さとベルトの重さとの和をW[g重]とすると、動摩擦係数は以下の式で求められる。なお、この測定方法は、オイラーのベルト式に準拠している。
動摩擦係数=(1/θ)ln(F/W)
本発明においては、W=100[g重]とし、帯電部材の回転速度を115rpmとし、測定環境を23℃、相対湿度50%とする。
【0085】
〔電子写真装置及びプロセスカートリッジ〕
図2によって、本発明の帯電部材が帯電ローラとして使用される電子写真装置及びプロセスカートリッジの概略構成について説明する。21は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(感光体)である。この感光体21は、図中の矢印が示す時計回りに所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動する。感光体21には、例えばロール状の導電性基体と該基体上に無機感光材料または有機感光材料を含有する感光層とを少なくとも有する公知の感光体等を採用すればよい。また、感光体21は、感光体表面を所定の極性及び電位に帯電させるための電荷注入層を更に有していてもよい。
【0086】
帯電ローラ22と帯電ローラ22に帯電バイアスを印加する帯電バイアス印加電源S1とによって帯電手段が構成されている。帯電ローラ22は、感光体21に所定の押圧力で接触させてあり、本例では感光体21の回転に対して順方向に回転駆動する。この帯電ローラ22に対して帯電バイアス印加電源S2から、所定の直流電圧(本例では─1050Vとする)が印加される(DC帯電方式)ことで、感光体21の表面が所定の極性電位(本例では暗部電位─500Vとする)に一様に帯電処理される。
【0087】
露光手段23には公知の手段を利用することができ、例えばレーザービームスキャナー等を好適に例示することができる。Lは露光光である。感光体21の帯電処理面に該露光手段23により目的の画像情報に対応した像露光がなされることにより、感光体帯電面の露光明部の電位(本例では明部電位─150Vとする)が選択的に低下(減衰)して感光体21に静電潜像が形成される。
【0088】
反転現像手段としては公知の手段を利用することができる。例えば本例における現像手段24は、トナーを収容する現像容器の開口部に配設されてトナーを担持搬送するトナー担持体24aと、収容されているトナーを撹拌する撹拌部材24bと、トナー担持体のトナーの担持量(トナー層厚)を規制するトナー規制部材24cとを有する。現像手段24は、感光体21表面の静電潜像の露光明部に、感光体21の帯電極性と同極性に帯電しているトナー(ネガトナー)を選択的に付着させて静電潜像をトナー像として可視化する(本例では現像バイアス─400Vとする)。現像方式としては、公知のジャンピング現像方式、接触現像方式及び磁気ブラシ方式等を用い得る。そして、カラー画像を出力する電子写真装置においては、トナーの飛散性を改善できる接触現像方式の使用が好ましい。
【0089】
転写ローラ25としては、金属等の導電性基体上に中抵抗に調製された弾性樹脂層を被覆してなる転写ローラ等を用い得る。転写ローラ25は、感光体21に所定の押圧力で接触させてあり、感光体21の回転と順方向に感光体21の回転周速度とほぼ同じ周速度で回転する。また、転写バイアス印加電源S4からトナーの帯電特性とは逆極性の転写電圧が印加される。感光体21と転写ローラの接触部に不図示の給紙機構から転写材Pが所定のタイミングで給紙され、その転写材Pの裏面が転写電圧を印加した転写ローラ25により、トナーの帯電極性とは逆極性に帯電される。これにより、感光体21と転写ローラの接触部において感光体21面側のトナー画像が転写材Pの表面側に静電転写される。
【0090】
トナー画像の転写を受けた転写材Pは感光体面から分離して、不図示のトナー画像定着手段へ導入されて、トナー画像の定着を受けて画像形成物として出力される。両面画像形成モードや多重画像形成モードの場合は、この画像形成物が不図示の再循環搬送機機構に導入されて転写部へ再導入される。転写残余トナー等の感光体21上の残留物は、ブレード型等のクリーニング手段26により、感光体上より回収される。本発明に係るプロセスカートリッジは、感光体21と、感光体21に接触配置された本発明に係る帯電部材22とを一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されている。
【実施例】
【0091】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0092】
(実施例1)
〔1〕導電性弾性層の形成及び評価
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示す成分を、6L加圧ニーダー(使用装置:TD6−15MDX、トーシン社製)にて、充填率70体積%、ブレード回転数30rpmで24分混合して、未加硫ゴム組成物を得た。この未加硫ゴム組成物174質量部に対して、加硫促進剤としてのテトラベンジルチウラムジスルフィド[商品名:サンセラーTBzTD、三新化学工業(株)製]4.5部、加硫剤としての硫黄1.2部を加えた。そして、ロール径12インチのオープンロールで、前ロール回転数8rpm、後ロール回転数10rpm、ロール間隙2mmで、左右の切り返しを合計20回実施した。その後、ロール間隙を0.5mmとして薄通し10回を行い、導電性弾性体層用の混練物Iを得た。
【0095】
次に、直径6mm、長さ252mmの円柱形の鋼製の支持体(表面をニッケルメッキ加工したもの)を準備した。そして、この支持体の、円柱面軸方向中央を挟んで両側115.5mmまでの領域(あわせて軸方向幅231mmの領域)に、金属およびゴムを含む熱硬化性接着剤(商品名:メタロックU−20、(株)東洋化学研究所製)を塗布した。これを30分間温度80℃で乾燥させた後、さらに1時間温度120℃で乾燥させた。
【0096】
次にクロスヘッド押出機を使用して、上記接着層付き基体上に混練物Iを同軸状に外径8.75〜8.90mmの円筒形に押出し、端部を切断して、基体の外周に未加硫の導電性弾性層を積層した導電性弾性ローラを製造した。押出機はシリンダー径70mm、L/D=20の押出機を使用し、押出時の温調はヘッドの温度を90℃とし、シリンダーの温度を90℃とし、スクリューの温度を90℃とした。
【0097】
次に上記ローラを異なる温度設定にした2つのゾーンをもつ連続加熱炉を用いて加硫した。第1ゾーンを温度80℃に設定し、30分で通過させ、第2ゾーンを温度160℃に設定し、こちらも30分通過させ、加硫された導電性弾性ローラを得た。
【0098】
次に、表面研磨前の導電性弾性ローラの導電性弾性層部分(ゴム部分)の両端を切断し、導電性弾性層部分の軸方向幅を232mmとした。その後、導電性弾性層部分の表面を回転砥石で研磨(ワーク回転数333rpm、砥石回転数2080rpm、研磨時間12秒)した。こうすることで、端部直径8.26mm、中央部直径8.50mmのクラウン形状で、表面の十点平均粗さ(Rz)が5.5μmで、振れが18μm、硬度が73度(MD−1)の導電性弾性ローラ(表面研磨後の導電性弾性ローラ)を得た。
【0099】
十点平均粗さ(Rz)はJISB0601(1994)に準拠して測定した。振れの測定は、ミツトヨ(株)製高精度レーザー測定機LSM−430vを用いて行った。詳しくは、該測定機を用いて外径を測定し、最大外径値と最小外径値の差を外径差振れとし、この測定を5点で行い、5点の外径差振れの平均値を被測定物の振れとした。
【0100】
MD−1硬度の測定は、測定環境25℃、相対湿度55%で、測定対象の表面にMD−1型硬度計(高分子計器(株)製)の押針を当接し、1000g加重の条件で行った。
【0101】
〔2〕縮合物の製造及び評価
次に表面層を形成する処理剤を合成した。
【0102】
(合成−1)
まず以下の表2に示す成分を混合した後、室温で30分攪拌した。
【0103】
【表2】

【0104】
続いてオイルバスを用い、120℃で20時間加熱還流を行うことによって、縮合物中間体Iを得た。この縮合物中間体Iの理論固形分(加水分解性シラン化合物が全て脱水縮合したと仮定した時のポリシロキサン重合物の、溶液全重量に対する質量比率)は28.0質量%である。
【0105】
(合成−2)
次に、室温に冷却した縮合物中間体I:73.89gに対し、チタニウムイソプロポキシド(以降Ti−1と示す)(加水分解性チタニウム化合物)[Gelest(株)製]:87.49g(0.324mol)、及びタンタルエトキシド(以降Ta−1と示す)(加水分解性タンタル化合物)[Gelest(株)製]:19.80g(0.049mmol)を添加し、室温で3時間攪拌し最終的な縮合物1を得た。一連の攪拌は750rpmで行った。Si:Ti:Taのmol比は30:60:10であり、(Ti+Ta)/Si=2.33である。
【0106】
〔評価1〕縮合物の液外観の評価:
縮合物1について合成直後から1ヶ月後の液外観を以下の基準で評価した。その結果を表4に示す。
A:1ヶ月放置しても白濁・沈殿が無い。
B:2週間程度から白濁気味になる。
C:1週間程度から白濁気味になる。
D:合成時に白濁・沈殿を生じる。
【0107】
〔評価2〕縮合物の化学構造の評価:
次に29Si−NMR、13C−NMR測定を用いて、縮合物1が式(1)の構造を有していることを確認した[使用装置:JMN−EX400、JEOL社]。測定用試料の作成方法は以下のとおりである。まず、25gの縮合物1に光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(商品名:アデカオプトマーSP−150、株式会社アデカ製)をメタノールで10質量%に希釈したものを0.7g加えた。さらに、これに、エタノールと2−ブタノールの混合液(エタノール:2−ブタノール=1:1(質量比))を加えて、理論固形分を7.0質量%に希釈した。厚みが100μmのアルミニウム製シートの脱脂した表面に、上記縮合物1の希釈液をスピンコート法で塗布した。スピンコート装置としては1H−D7、[ミカサ(株)]を用いた。スピンコートの条件としては、回転数を300rpm、回転時間を2秒間とした。
【0108】
アルミニウム製シートの表面上に塗布した上記液体の塗膜を乾燥させた後、該塗膜に対して、波長が254nmの紫外線を積算光量が9000mJ/cm2になるように照射し、縮合物1を架橋させて該塗膜を硬化させた。なお、紫外線の照射には、低圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング(株)製)を用いた。硬化した該塗膜をアルミニウム製シートから剥離し、メノウ乳鉢を用いて粉砕したものをNMR測定用試料とした。29Si−NMR測定で得られたスペクトルを図4に示した。同図内にスペクトルを波形分離したピークを同時に示した。−64ppm〜−74ppm付近のピークがT3成分を示す。ここでT3成分とは有機官能基との結合を1つもつSiが、Oを介した他の原子(Si、Ti、Ta)との結合を3つもつ状態を示す。図4より、エポキシ基を含む有機鎖をもつ加水分解性シラン化合物が縮合し、−SiO3/2の状態で存在する種があることを確認した。
【0109】
また13C−NMR測定で得られたスペクトルを図5に示した。開環前のエポキシ基を示すピークは44ppm、51ppm付近に現れ、開環重合後のピークは69ppm、72ppm付近に現れる。図5より未開環のエポキシ基がほとんど残存せずに重合していることを確認した。以上の29Si−NMR、13C−NMRより縮合物1が式(1)の構造を硬化膜内に有していることを確認した。
【0110】
〔3〕表面層の形成及び評価
先ず、表面層形成用の塗料の製造方法について述べる。25gの縮合物1に光カチオン重合開始剤としての芳香族スルホニウム塩[商品名:アデカオプトマーSP−150、旭電化工業(株)製]をメタノールで10質量%に希釈したものを0.7g加えた。さらに、これにエタノールと2−ブタノールの混合液(エタノール:2−ブタノール=1:1(質量比))を加えて、固形分を3.0質量%に希釈した。これを、表面層形成用の塗料1とした。
【0111】
続いてこの塗料1を用いて以下の方法で帯電ローラ−1を製造した。先ず、導電性弾性ローラ−1(表面研磨後のもの)の導電性弾性層上に塗料1を、リング塗布(吐出量:0.120ml/s、リング部のスピード:85mm/s、総吐出量:0.130ml)した。これに、254nmの波長の紫外線を積算光量が9000mJ/cm2になるように照射し、塗料1の塗膜を硬化(架橋反応による硬化)させて表面層を形成した。紫外線の照射には低圧水銀ランプ[ハリソン東芝ライティング(株)製]を用いた。このようにして得られた帯電ローラ−1を用いて以下の〔評価3〕〜〔評価7〕を行った。
【0112】
〔評価3〕帯電ローラの塗工性評価:
帯電ローラ表面の外観状態を目視にて以下の基準にて評価した。評価結果を表4に示す。
A:帯電ローラの表面に全く塗工不良がない。
B:帯電ローラの表面の一部に塗工不良が生じた。
C:帯電ローラの表面の全領域に塗工不良が生じた。
【0113】
〔評価4〕動摩擦係数の評価:
図3の測定機を用いて帯電ローラ−1の動摩擦係数を測定した。測定条件は前述の通りである。評価結果を表4に示す。
【0114】
〔評価5〕Si−O−Ti、Si−O−Ta、Ti−O−Ta結合の確認:
続いて帯電ローラの表面層内においてSi−O−Ti、Si−O−Ta、Ti−O−Ta結合の存在をESCAで確認した。[使用装置:Quantum2000、アルバックファイ社]ローラ表面にX線が照射されるようにし、表面層内の結合様式を評価した。検出されたO1sスペクトルより、Si−O−Ti、Si−O−Ta、Ti−O−Ta結合の存在が確認された。
【0115】
〔4〕耐久試験
帯電ローラをレーザービームプリンター[商品名:LBP7200C、キヤノン(株)製]に使用するプロセスカートリッジに装着して、高温高湿環境(温度40℃、相対湿度95%)下に1ヶ月間放置した。その後、低温低湿環境(温度15℃、相対湿度10%)にて10000枚の画像を出力した。
【0116】
〔評価6〕耐久試験後の出力画像の評価:
以下の基準にて10000枚目の出力画像を評価した。結果を表4に示す。出力した電子写真画像としては、A4サイズの紙上に、サイズが4ポイントのアルファベット「E」の文字が、印字率が1%となるように形成されるものとした。また、電子写真画像の形成は、間欠モードにて行った。具体的には、上記の電子写真画像を2枚出力する毎に電子写真画像の出力を行うことなく電子写真感光体ドラムを10秒間回転させた。このような間欠モードでの画像形成は、連続的な画像形成と比べて、出力枚数が同じであっても帯電ローラと電子写真感光体ドラムとの摺擦回数が多くなる。そのため、帯電ローラ表面の汚れに対しては、より厳しい評価条件である。なお、プロセススピードは、115.5mm/sとした。
A:帯電ローラの表面上の汚れによる帯電スジが画像上確認できない。
B:帯電ローラの表面上の汚れによる帯電スジが画像端部3cm内に軽微に確認できる。C:帯電ローラの表面上の汚れによる帯電スジが画像端部5cm内に軽微に確認できる。D:帯電ローラの表面上の汚れによる帯電スジが画像端部5cm内に確認でき、その帯電スジの程度が大きいもの。
E:帯電ローラの表面上の汚れによる帯電スジが画像全面に確認でき、その帯電スジの程度が大きいもの。具体的には、白く細かい横スジ状の帯電ムラが確認できるもの。
【0117】
〔評価7〕耐久試験後のローラの外観評価:
10000枚の画像を形成後、プロセスカートリッジから帯電ローラを取り出し、目視で観察して、表面の汚れの程度を以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
A:汚れが確認できない。
B:ローラ端部にのみ軽微な汚れが確認できる。
C:ローラ端部にのみ汚れが確認できる。
D:ローラ全体に汚れが確認できる。
【0118】
(実施例2)〜(実施例48)
加水分解性シラン化合物、加水分解性チタニウム化合物、加水分解性タンタル化合物として表5に示す化学構造のものを用いた。これらの成分と水、アルコールの配合量を表3に示す値に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、縮合物を合成した。更に実施例1と同様にして、表面層形成用の塗料を調製し、帯電ローラ−2〜48を製造した。合成時の(Ti+Ta)/Si値を、表3−1及び表3−2に示す。また実施例1と同様に行った各評価の結果を表4に示す。尚、いずれの実施例においても、実施例1の場合と同様に、一般式(1)の構造及びSi−O−Ti、Si−O−Ta、Ti−O−Ta結合が確認された。またいずれの実施例においても、〔評価8〕ポジゴーストの評価はAAランクであった。
【0119】
(比較例1)
縮合物製造時(合成1)の各成分の配合を表6の値とし、加水分解性チタニウム化合物と加水分解性タンタル化合物を加える合成2を省いた以外は実施例1と同様にして、帯電ローラ−49を製造した。実施例1と同様に行った各評価の結果を表6に示す。
【0120】
(比較例2)
Ti−1、水、エタノールを表6に示す配合で混合し、室温で3時間攪拌した。得られた縮合物は沈殿物となり、塗工液として適さなかったことから帯電ローラの試作には至らなかった。
【0121】
(比較例3)
Ta−1、水、エタノールを表6に示す配合で混合し、室温で3時間攪拌した。得られた縮合物は沈殿物となり、塗工液として適さなかったことから帯電ローラの試作には至らなかった。
【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
【表5】

【0125】
【表6】

【0126】
【表7】

【符号の説明】
【0127】
101 基体
102 導電性弾性層
103 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体、弾性層および表面層を有している帯電部材であって、該表面層は、下記式(1)、(2)及び(3)で示される構成単位を有し、かつ、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ta結合、及びSi−O−Ta結合を有している高分子化合物を含むことを特徴とする帯電部材:
【化1】

【化2】

【化3】

[式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に以下の式(4)〜(7)のいずれかを示す:
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

[式(4)〜(7)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示し、x及びyは、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。]]。
【請求項2】
前記高分子化合物において、前記式(1)のR1及びR2が、各々独立に下記式(8)〜(11)で示される構造から選ばれる何れかである請求項1に記載の帯電部材:
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

[式(8)〜(11)中、N、M、L、Q、S及びTは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、x’及びy’は、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。]。
【請求項3】
前記高分子化合物における、チタニウムとタンタルの総和とケイ素の原子数比(Ti+Ta)/Siが0.1以上5.0以下である請求項1または2に記載の帯電部材。
【請求項4】
前記高分子化合物が、式(12)で示される構造を有する加水分解性化合物と、式(13)及び式(14)で示される加水分解性化合物との架橋物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電部材:
【化12】

【化13】

【化14】

〔式(12)中、R33は、式(15)〜(18)のいずれかを示し、R34〜R36は、各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。式(13)及び(14)中、R37〜R45は、各々独立して、炭化水素基又は酸素若しくは窒素の少なくともいずれか1つで置換された炭化水素基を示す。炭化水素基としては、鎖状、分岐状、環状であってもよく、不飽和結合を有していてもよい:
【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

[式(15)〜(18)中、R46〜R48、R51〜R53、R58、R59、R64及びR65は、各々独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R49、R50、R54〜R57、R62、R63及びR68〜R71は、各々独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基を示す。R60、R61、R66及びR67は、各々独立して水素、炭素数1〜4アルコキシル基、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。n’、m’、l’、q’、s’及びt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’及びr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。また、*は、式(12)のケイ素原子との結合位置を示す。]]。
【請求項5】
前記高分子化合物が、前記式(12)、(13)及び(14)で示される加水分解性化合物と、下記式(19)で示される加水分解性化合物との架橋物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電部材:
【化19】

[式(19)中、R72は、炭素数1〜21のアルキル基又はフェニル基を示し、R73〜R75は、各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。]。
【請求項6】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の帯電部材とを有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項7】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の帯電部材とを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−63759(P2012−63759A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177181(P2011−177181)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】