干渉計、復調器及び光通信モジュール
【課題】 差動位相偏移変調信号の復調器を作製するにあたり、位相調整を高速に行い、かつ装置の寿命を長く保つ必要がある。
【解決手段】 復調器内部の遅延干渉計において、干渉させる2つの分岐光の位相差の調整をピエゾ素子などの位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度が遅い発熱体などの位相調整手段とを用いて行う。
【解決手段】 復調器内部の遅延干渉計において、干渉させる2つの分岐光の位相差の調整をピエゾ素子などの位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度が遅い発熱体などの位相調整手段とを用いて行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学干渉計、光通信システムにおける差動位相偏移変調信号を復調する復調器、及びそれを用いた光通信装置(モジュール)に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野では、信号変調として強度変調を行い、復調として光検出器を用いて光強度を直接電気信号に変換する、という最も単純な方式が長らく用いられてきた。しかし近年、40Gb/sを上回る高ビットレートに対応するために、信号変調として位相変調を行う方式が注目されている。位相変調信号の復調方法には、信号変調されて送信された光を受信器側に備えた局部発振光からの光と干渉させて復調させる方法(コヒーレント方式)、信号変調された光を2分岐して信号変調1ビット分だけタイミングをずらして合波して干渉させ、位相の偏移を光強度信号に変換して復調する方法(差動位相偏移変調方式)の2通りがある。このうち差動位相偏移変調方式は、コヒーレント方式とは異なり信号光と局部発信光の周波数を同期させる必要がないなど、比較的実装が容易なことから、実用化に近い方式として注目されている。本方式は、変調される位相の数によって差動2値位相偏移変調(Differential Binary Phase Shift Keying、DBPSKもしくはDPSK)、差動4値位相偏移変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying、DQPSK)などと呼ばれる。
【0003】
DPSKにおける復調方法を、図1を用いて説明する。差動位相偏移変調された被変調光101は遅延干渉計102に入射し、まずハーフビームスプリッタ103のような分岐素子で2分割される。2分割された一方の分岐光はミラーで構成される遅延部104によって他方の分岐光に対して1ビット分(例えば信号変調周波数が40GHzの場合、約7.5mm)の光路長が加えられ、かつ分岐光の光路長差が光の波長の整数倍(すなわち位相差が0)となるように設定される。その後、2つの分岐光はハーフビームスプリッタ105で再び合波され、2つの干渉光106,107が生成される。このとき、干渉光106に注目すると、隣接ビット間の位相偏移量が0の時は建設的干渉、πの時は破壊的干渉となっているため、結果として隣接ビット間の位相偏移量に対応して干渉光の強度に変換される。干渉光107は干渉光106と位相がπ異なる状態での干渉光となっているため、干渉光106が建設的干渉のときは破壊的干渉、干渉光107が破壊的干渉のときは建設的干渉となり、光強度の強弱が反転したものが出力される。これらの干渉光の強度差を、平衡型光検出器108とトランスインピーダンスアンプ109からなる差動検出器110によって検出することによって復調された信号を得る。
【0004】
DQPSKにおける復調方法は、図2のように、DPSKの復調に用いるものと同様の遅延干渉計を2つ用いることによって行う。より正確には、差動位相偏移変調された被変調光200をハーフビームスプリッタ201で2分岐し、それぞれの分岐光を別々の遅延干渉計202、203に導き、それぞれの遅延干渉計で発生した干渉光を差動検出器204、205で検出する。但し、遅延干渉計202は、2つの分岐光の光路長差が波長の整数倍になるように遅延部206を設定するのに対し、遅延干渉計203は、2つの分岐光の光路長差が(n+1/4)λ(nは整数、λは光の波長)だけ異なるように遅延部207を設定する。このとき、隣接ビット間の位相偏移量が0,πのときは遅延干渉計202で建設的干渉または破壊的干渉が生じ、π/2、3π/2のときは遅延干渉計203で建設的干渉または破壊的干渉が生じる。従って差動検出器204、205の出力から4値の差動位相偏移変調信号を復調することが可能になる。更に、同じ構成で任意のM値の差動位相偏移変調信号を復調することが可能である。
【0005】
上に述べた遅延干渉計の実装形態として、主に光導波路を用いる形態と、バルク光学素子を用いた空間光学系を用いる形態が考えられる。前者は大量生産が容易である反面、温度制御が必要で消費電力が高いこと、サイズが大型になることなどのデメリットを有する。これに対し後者は低消費電力化が可能で、比較的小型に構成できることから、有力な実装形態として注目されている。
【0006】
ところで、上記の差動偏移変調された被変調光を復調する遅延干渉計において、被変調光の波長は一定ではなく、一般には通信システムの構成によって異なる波長の光が入射する。遅延干渉計に入射する波長が異なれば、当然のごとく光路長差の設定値が変化するため、遅延干渉計には光路長を調整する手段が必要となる。また、波長が一定であっても温度変化により光路長差がドリフトする場合には、これを相殺するための光路長調整が必要である。この光路長調整手段として、特許文献1、特許文献2にはそれぞれ、熱光学効果を用いた方法と、圧電アクチュエータ(ピエゾ素子)を用いた方法が示されている。熱光学効果を用いた方法は、遅延干渉計の光路中にシリコン単結晶など、屈折率の温度依存性(dn/dT)が大きな媒質を挿入し、この媒質の温度を制御することによって光路長差(位相差)の制御を行うものである。圧電アクチュエータを用いた方法は、遅延干渉計における分岐光を反射するミラーをピエゾ素子に取り付け、ピエゾ素子の駆動電圧に応じてミラーの位置を変化させることによって位相差の制御を行うというものである。
【0007】
特許文献1、特許文献2は空間光学系を用いた遅延干渉計であるが、光導波路を用いた遅延干渉計においては、基本的に温度制御によって位相調整を行う。例えば特許文献3において、遅延干渉計に取り付けられたヒータによって導波路の屈折率変化や熱膨張変化を引き起こし、これによって導波路を通過する光の光路長を実質的に変化させることで位相調整を実現している。また、特許文献3には、電気光学効果を用いて位相調整を行う方法も記されている。この場合、電気光学素子に電圧を駆動することで素子の屈折率を変化させ、通過させる光の位相調整を行う。
【0008】
また、特許文献4,5には、光送信装置において、位相シフト量を適切に調整するために、一組の光導波路に配置される電極、薄膜ヒータ、圧電素子などの位相シフト部への印加電圧、温度などを非対称とし、相対的な位相差を与えることが記載されている。
【0009】
なお、特許文献6,7は分散スロープ補償装置に関するものであるが、ヒータや圧電素子を用いて、分散の中心波長の制御を行うことが記載されているが、分散スロープ補償装置にかかるもので、本願とは分野が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−306371(対応US2007/0264029号公報)
【特許文献2】特表2008−537652(対応US2006/0268277号公報)
【特許文献3】特開2007−67955(対応US2009/0027683号公報)
【特許文献4】特開2007−082094(対応US2007/0065161公報)
【特許文献5】特開2007−043638(対応US2006/0263098公報)
【特許文献6】特開2004−286783
【特許文献7】WO04/099848(対応US2006/0013530公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
差動位相偏移変調を用いた光通信システムにおいて、構成する各遅延干渉計に入力される光の波長が変化するのは、システムの起動時である。システム起動時においてはネットワーク構成を最適化するために、各受信器に入射する光の波長を切り替え、その都度遅延干渉計の位相調整を行って信号を受信する、といった動作を繰り返す。ここで発明者は、従来技術においては上記の位相調整の速度が遅いために、システム起動時間が非常に長くなってしまうという課題を見出した。例えば位相調整手段として特許文献1、特許文献3のごとく温度制御を用いる場合(位相調整速度:数10ms〜数s)、システム起動時間には数分以上の時間を要する。一方、特許文献2のピエゾ素子を用いると位相調整を比較的高速(位相調整速度:1ms以下)に行うことができ、システム起動時間を短くすることが可能になるが、一般にピエゾ素子は駆動し続けることによって特性が劣化し、所定の駆動電圧に対する位相調整量が減少してやがて不足する。このため遅延干渉計の装置としての寿命(すなわち使用し続けた時に所定の仕様を満たす期間)が短くなるという課題がある。特許文献2においては遅延干渉計がアサーマル化されており、システム起動完了後の入力波長が一定の状況では駆動電圧のフィードバック制御は不要であるが、入力波長における所望の位相を維持する必要から、一定の駆動電圧を常に供給し続ける必要があり、基本的にシステムの動作中は常にピエゾ素子に駆動電圧が供給されるため、遅延干渉計の寿命が著しく短くなる。また、特許文献3に記載の電気光学素子を用いて位相調整を行う場合は、位相調整速度が高速で寿命も比較的長いが、素子自体が非常に大型かつ高価のため、遅延干渉計の実装には適さない。
【0012】
なお、特許文献4,5は、DQPSK向けの送信器中の位相変調器に、ヒータやピエゾなどを用いるもので、本願の受信器に関するものではない。しかも、ヒータとピエゾ素子とを、同時に用いることも明記されていない。
【0013】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、位相調整が高速で、小型・安価で、長寿命な遅延干渉計、また、当該遅延干渉計を備えた、差動位相偏移変調信号の復調器、更には、それを用いた光通信モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的を達成するために以下の手段を用いた。
【0015】
被測定光をハーフビームスプリッタなどの分割手段によって第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐し、第一の分岐光と第二の分岐光の位相差の調整を、ピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度の遅い、シリコン単結晶などの第二の位相調整手段とを用いて行い、第一の分岐光と第二の分岐光をハーフビームスプリッタなどの合波手段に入射して合波し、第1の干渉光と第2の干渉光を生成させる構成とした。ここで劣化速度とは、位相調整手段を連続して駆動し続けた時に、所定の駆動信号量(電圧、電流などの大きさ)に対して生じる位相調整量が所望の値を下回るまでの時間を言う。
【0016】
このような構成とすることで、必要に応じて位相調整を高速に行うことができ、かつ装置の寿命を十分に長く保つことが可能になる。
【0017】
上記の第一の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するミラーを搭載したピエゾ素子を用いた。これにより、1ms以下の高速な位相調整が可能となり、本装置を用いた光通信システムの起動時間を短くすることができる。
【0018】
上記の第二の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかの光路中に挿入されたシリコン単結晶などの発熱体を用いた。これにより、簡易な構成での位相調整が可能となる。
【0019】
別の手段において、第二の位相調整手段として液晶素子を用いた。これにより、位相制御に必要な消費電力を小さく抑えることが可能となる。
【0020】
別の手段において、第二の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するミラーを搭載した、銅などの膨張体を用いた。これにより、分岐光の光路中に挿入される素子の数を少なくすることが可能になり、挿入損失を低く抑え、また装置の組立調整を容易に行うことができる。
【0021】
別の手段において、第一の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するMEMSミラーを用いた。これにより、小さい駆動電圧で高速に位相調整を行うことが可能になり、駆動回路の実装が容易になる。
【0022】
また、復調器に関しては、被測定光をハーフビームスプリッタなどの分割手段によって第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐し、第一の分岐光と第二の分岐光の位相差の調整を、ピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度の遅い、シリコン単結晶などの第二の位相調整手段とを用いて行い、第一の分岐光と第二の分岐光をハーフビームスプリッタなどの合波手段に入射して合波し、第1の干渉光と第2の干渉光を生成させ、これらを差動検出器で受光し、第1の干渉光と第2の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する構成とした。
【0023】
このような構成とすることで、位相調整を必要に応じて高速に行うことが可能になり、被測定光の波長が変化する場合などにおいても正確な再生信号の取得に必要な位相調整を高速に行うことができる。
【0024】
別の構成として、被測定光をまずハーフビームスプリッタなどの分割手段によって分岐し、それぞれの分岐光に対して上記復調器の構成により電気信号を出力する構成とした。
【0025】
これにより、一般の差動M値位相偏移変調信号に対しても位相調整を高速に行うことが可能になる。
【0026】
また、光通信モジュールに関しては、パルス状の差動位相偏移変調された光を送信する送信部と、差動位相偏移変調された被測定光が入力され、複数のデータ信号とクロック信号とを生成する受信部とからなり、前記受信部は、被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐するハーフビームスプリッタなどの光分割手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波するハーフビームスプリッタなどの光合波手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整するピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅いシリコン単結晶などの第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器と、前記検出器にて出力された電気信号から、複数のデータ信号を生成する信号処理部と、前記第一の位相調整手段への調整信号を生成する第一のドライバと、前記第二の位相調整手段への調整信号を生成する第二のドライバと、前記第一のドライバと前記第二のドライバとが発生する調整信号を制御する制御部と、を有する構成とした。
【0027】
このような構成とすることで、位相調整を必要に応じて高速に行うことが可能になり、被測定光の波長が変化する場合などにおいても正確な再生信号の取得に必要な位相調整を高速に行うことができる。
【0028】
また、上記の光通信モジュールにおいて、当該光通信モジュールが含まれる光通信システムの起動時には第一のドライバを駆動し、第二のドライバを駆動せず、通常使用時においては第二のドライバを駆動し、第一のドライバを駆動することとした。
【0029】
このようにすることで、高速な位相調整が必要となるシステム起動時において高速な位相調整を実現し、かつ装置の寿命を長く保つことが可能になる。
【0030】
また、前記制御部は、前記光通信システムの起動時から通常使用時へと切り替わる際に、前記第一のドライバの調整信号を、前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度か、もしくは遅い速度でゼロにし、同時に前記第二のドライバによる位相調整を行うこととした。
【0031】
このようにすることで、システム起動時から通常使用時に移行する際に干渉光の位相を一定に保つことができ、連続的に再生信号を取得することが可能となる。
【0032】
また、前記制御部は、前記光通信システムの通常使用時から起動時へと切り替わる際に、前記第二のドライバの生成する調整信号をゼロにし、その後の前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度かそれ以上の時間において前記第一のドライバと前記第二のドライバのいずれも調整信号をゼロに保ち、その後前記第一のドライバにより位相制御を行い、前記第二のドライバによる位相調整を行わないこととした。
【0033】
このようにすることで、第一の位相調整手段に必要とされるストローク、すなわち位相変調の範囲を最小にすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、従来に比べて位相調整速度が高速で、かつ長寿命な、差動位相偏移変調信号の復調器や光通信モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】DPSKの復調器の概略図。
【図2】DQPSKの復調器の概略図。
【図3】本発明の干渉計を実現する光学系の例を示す図。
【図4】システム起動時と通常使用時の間の切り替え時における、位相調整手段の駆動方法を説明する図。
【図5】楔形プリズム対によって位相調整を行う場合の構成図。
【図6】楔形プリズムの詳細説明図。
【図7】膨張体によって位相調整を行う別の実施形態を表す図。
【図8】膨張体がピエゾ素子の背後に配置されている場合の構成図。
【図9】MEMSミラーによって位相調整を行う別の実施形態を示す図。
【図10】本発明の差動位相偏移変調信号の復調器の例を示す図。
【図11】本発明のDQPSKの復調器の例を示す図。
【図12】本発明の差動位相偏移変調信号の送受信器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0036】
以下、図3を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0037】
図3は本発明の基本的な実施形態である。差動位相偏移変調された被変調光301はハーフビームスプリッタ302に入射し、第一の分岐光303と第二の分岐光304に強度比1対1で分離される。第一の分岐光303はミラー305に90度に近い角度で入射し、ミラー305からの反射光は再びビームスプリッタ302に入射する。ここで第一の分岐光の往復の光路中にλ/4板306が挿入されており、その進相軸方向はハーフビームスプリッタ302の分離面によって定義されるp偏光に対して45度の方向を向いている。その結果第一の分岐光303の偏光成分のうちp偏光成分は再びハーフビームスプリッタ302に入射する時点でs偏光に変換され、同様にs偏光成分はp偏光成分に変換される。第二の分岐光304はピエゾ素子311に搭載されたミラー307に90度に近い角度で入射し、ミラー307からの反射光が再びビームスプリッタ302に入射し、往復の光路中にλ/4板308(進相軸方向はp偏光に対して45度)が挿入されているためにp偏光成分とs偏光成分が逆転する。また往復の光路中にはシリコン単結晶312が挿入されており、後述のように位相調整に用いられる。第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302に再び入射する際に合波され、第一の干渉光309と第二の干渉光310が生成される。ここで第一の分岐光303と第二の分岐光304の光路長の差が、被変調光の信号変調の1ビット分に相当するようにミラー305、307が配置される。例えば変調周波数が40Gb/sの場合、光路長の差は約7.5mmとなる。またさらに、干渉の位相差が一定になるようにシリコン単結晶312の温度制御またはピエゾ素子311への駆動電圧の制御を行う(この動作の詳細については後述する)。このため、第一の干渉光309と第二の干渉光310は、被測定光の隣接ビット間の位相偏移量が0かπかによって、建設的干渉もしくは破壊的干渉の状態になり、結果的に差動位相偏移変調信号が光強度信号に変換される。
【0038】
ここで、第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302で分岐、合波される時点でそれぞれのp偏光成分とs偏光成分の間に相対的な位相差が生じる。これはそれぞれの分岐光が、偏光成分によって異なる光路長となることを意味する。しかし、本実施例では二つの分岐光がλ/4板を往復してp偏光、s偏光成分を逆転させることにより、被測定光が分岐される時点で発生する相対的位相差と、分岐光が合波される時点で発生する相対的位相差とが互いに相殺し合い、結果的に偏光状態によらない干渉状態を得ることができる。
【0039】
ここで、λ/4板306,308の機能について詳細に説明する。一般に、ビームスプリッタの2つの入力ポートから入射する光の電場をE1、E2とし、
【0040】
【数1】
【0041】
のようにベクトルで表すと、ビームスプリッタ通過後に生成される2つの光電場は下記のベクトルで表される。
【0042】
【数2】
【0043】
本数式における2x2の行列がビームスプリッタの作用を表し、R、Tはそれぞれビームスプリッタの強度反射率と強度透過率の絶対値、φは透過光と反射光の間に発生する位相差に対応する。このφがp偏光とs偏光とで異なることで干渉の位相が偏光状態によって異なり、偏光状態によって光の周波数がシフトしたかのように観測される現象(Polarization Dependent Frequency Shift、PDFS)の発生要因となる。このためp偏光とs偏光に対するφの値をそれぞれφp、φsと書く。また、被測定光がp偏光であると仮定する。
【0044】
数2において、被測定光がハーフビームスプリッタ302で分岐される状況においては、E2=0であり、またハーフビームスプリッタでの損失が無く1対1に分岐すると仮定するとT=R=1/2となるので、分岐後の光の電場は
【0045】
【数3】
【0046】
のように表される。このベクトルの第一成分は反射光(すなわち実施例中の第一の分岐光303)を、第二成分は透過光(すなわち実施例中の第二の分岐光304)をそれぞれ表している。ここで反射光と透過光が再び同一のハーフビームスプリッタで合波されるまでの光路長をそれぞれl1、l2とおくと、分岐から合波までの過程は下記の行列で表される。
【0047】
【数4】
【0048】
また、2つの分岐光は進相軸方向がp偏光に対して45度に設定されたλ/4板を往復で通過するため、p偏光がs偏光に変換される。このため分岐光が合波される過程は数2中の2x2行列においてT=R=1/2、φ=φsとした行列で表現される。以上より、得られる干渉光の電場は
【0049】
【数5】
【0050】
と表される。これを整理すると、第一の干渉光309、第二の干渉光310の電場はそれぞれ上記ベクトルの第一成分、第二成分となるので
【0051】
【数6】
【0052】
【数7】
【0053】
と表され、それぞれの干渉光の強度はこれらの絶対値の二乗なので
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
【0056】
となる。例えば数8においてコサインの内部がゼロの場合が建設的干渉、πの場合が破壊的干渉にそれぞれ対応する。従って、二つの分岐光の光路長差l1-l2の値として、およそ変調信号の1ビット分に相当する値とした上で、上記コサインの内部がゼロとなるように設定することで、信号の復調が可能となる。
【0057】
ここで、入力偏光がs偏光の場合を考える。この場合、ハーフビームスプリッタ302での発生位相φは、被測定光の分岐時にはφ=φs、分岐光の合波時にはφ=φpとなる。ここで数8、数9においてφsとφpを交換しても不変であることから、被測定光がs偏光の場合も、干渉光強度はp偏光の場合と同じく数8、数9で表される。更に、一般の偏光状態はp偏光とs偏光の重ね合わせで表されることから、被測定光が任意の偏光状態の場合にも、干渉光の強度は数8、数9で表される。すなわち、干渉状態が偏光依存性を持たないために、PDFSが発生しない。
【0058】
ここで比較のためにλ/4板が挿入されない場合を考えると、入力偏光がp偏光の場合の干渉光強度は、数9においてφsをφpに置き換え、
【0059】
【数10】
【0060】
【数11】
【0061】
となる。同様に、被測定光がs偏光の場合は、
【0062】
【数12】
【0063】
【数13】
【0064】
となる。従って、ハーフビームスプリッタ302において発生する位相φが偏光によって異なる、すなわちφp≠φsのとき、偏光によって干渉光の干渉状態が異なるため、PDFSが発生する。
【0065】
次に、シリコン単結晶312とピエゾ素子311による干渉位相の調整の詳細について説明する。
【0066】
シリコン単結晶312の温度を高めると、屈折率が上昇するために分岐光304の光路長が長くなる。シリコン単結晶屈折率の温度依存性(dn/dT)はおよそ1.0×10^−4[K^-1]であり、本実施例においてシリコン単結晶312の厚さを0.5mmとすると、シリコン単結晶312の温度を1K上昇させたときに、光路長が100nm変化する。位相調整速度はシリコン単結晶の熱容量によって決まっており、およそ秒オーダである。
【0067】
ピエゾ素子は、電圧を加えることにより伸縮する素子であり、本実施例では伸縮によってミラー307が光の進行方向に移動することを利用し、駆動電圧によって分岐光304の光路長を制御する。ピエゾ素子による位相調整速度は、ピエゾ素子とそれに取り付けられたミラー307の合成共振周波数によるが、およそ1ms以下の速度で位相調整が可能である。
【0068】
さて、干渉位相の調整が必要となる場面については主に2通りあり、(1)温度によって光路長差がドリフトする場合、(2)入射する波長が変わる場合、の2通りである。本実施例では基本的に、(1)の場合にシリコン単結晶312の温度調整による位相制御を行い、(2)の場合にピエゾ素子311の駆動電圧の調整による位相制御を行う。(2)は通信システムの起動時のみに起こり、システム起動が完了した後は入射する波長は一定であるため、(1)の場合のみを考慮すればよい。このため、通信システム起動時にはピエゾ素子311を用いて位相調整を行うため、位相調整を高速に行うことができ、システム起動時間を短くすることが可能である。これに対し、システム起動が完了した後にはピエゾ素子311には電圧が駆動されず、シリコン単結晶312の温度制御によって位相調整を行う。従って、ピエゾ素子はシステム起動以外のほとんどの時間は電圧が駆動されないため、素子の寿命を長く保つことが可能である。なお、(1)の位相調整に要求される速度は、温度変化に由来するために秒オーダであり、シリコン単結晶312を用いても速度の点では十分である。
【0069】
ここで、システム起動時とシステム起動完了時(通常使用時)の位相調整素子の駆動の切り替えについて詳細に述べる。まず、システム起動時から通常使用時に移行する場合について図4(a)を用いて説明する。システム起動時はピエゾ素子311が駆動され、シリコン単結晶312の温度制御はなされていない。ここでシステム起動が完了すると、入力される波長が固定される。ここで、シリコン単結晶312の温度制御を開始する。そして、ピエゾ素子の駆動電圧を、シリコン単結晶312の位相調整速度と同程度の速度で徐々に下げていき、最終的にはほぼゼロにする。この間にもシリコン単結晶312は温度制御がされているために位相はほぼ一定に保たれており、位相をほぼ一定に保ったまま位相制御をピエゾ素子311からシリコン単結晶312へ移行することができる。図4(a)では、ピエゾ素子の駆動電圧を、シリコン単結晶312の位相調整速度と同程度の速度で下げたが、移行期間において位相がほぼ一定になるように、遅い速度で下げても、構わない。ここで、ほぼ一定とは、結果的に干渉光309、310の強度より被変調光の位相が推定可能な程度に位相が一定であればよいことを意味する。次に、通常使用時からシステム起動時への移行について図4(b)を用いて説明する。この場合、通常使用時はシリコン単結晶312のみが温度制御されており、システム起動時にはシリコン単結晶の温度制御をオフにし、十分時間が経過してシリコン単結晶の発熱による位相変化が十分小さくなってからピエゾ素子を駆動する。すなわち、シリコン単結晶の動作速度と同程度かそれ以上の時間、シリコン単結晶への調整信号もピエゾ素子駆動電圧への調整信号もゼロに保ち、その後、ピエゾ素子の駆動電圧を印加する。このようにすることで、ピエゾ素子のストロークを余分に設けることなく位相調整を行うことができる。(逆に、シリコン単結晶による位相変化が残っている状態でピエゾ素子を駆動すると、残った位相変化分だけ余分にピエゾ素子のストロークが必要になる場合がある)
なお、本実施例では位相調整素子としてピエゾ素子とシリコン単結晶を用いたが、形態はこの限りではない。例えばシリコン単結晶の代わりにシリコン多結晶を用いても良い。また、図5はシリコン単結晶の代わりに楔形プリズム対501により位相調整を行う場合の構成図である。この場合、楔形プリズム対501を構成する1つの楔形プリズムを、分岐光303の光軸方向に移動させることにより、図6のごとく分岐光303の光路を変化させ、光路長を変化させて位相調整を行う。(なお、光束の光軸と直交する方向への変位は往復の光路で相殺される。)例として使用する光の波長を1550nm、楔形プリズムの媒質をBK7(屈折率1.50)、頂角を2.5度とすると、楔形プリズム502を光軸方向に10mm変位させたときに発生する光路長差は4.77μmであり、19.34ラジアンの位相調整が行われる。
【実施例2】
【0070】
本実施例は、実施例1のシリコン単結晶312を液晶素子に置き換えた別の実施形態である。この場合、液晶素子への駆動電圧によって分岐光304の光路長が変化し、位相調整が可能となる。液晶素子は同等の厚さのものが、光学軸が互いに90度異なる状態で張り合わせたものになっており、分岐光の偏光状態によらない位相差を発生することが可能である。実施例1のシリコン単結晶を用いる場合には、シリコン単結晶をヒータ等によって加熱するために数100mW〜数W程度の高い消費電力が必要とされるが、液晶素子は駆動時に電流がほとんど流れないため、消費電力は非常に小さい(1mW以下)。従って本実施例は装置の消費電力を低く抑えることが可能である。
【実施例3】
【0071】
図7は、実施例1のシリコン単結晶312の代わりに、分岐光の一方を反射するミラーを搭載した膨張体の熱膨張によって位相調整を行う別の実施形態を示す図である。この場合、膨張体701を加熱することにより膨張させ、ミラー305を変位させることによって位相調整を行う。例として使用する光の波長を1550nm、膨張体として銅(線膨張係数16.8)を用い、膨張体の厚さを5mmとしたとき、膨張体を1℃加熱したときの光路長変化は168nmであり、0.68ラジアンの位相調整が行われる。本実施例のごとく光路中に挿入しない膨張体で位相調整を行うことにより、光路中に挿入される媒質の数を最小限にすることができ、装置の挿入損失を低く抑えることができ、また組立調整が容易になる。
【0072】
なお、膨張体701の配置は本実施例の通りに限らず、例えば図8のごとくピエゾ素子311の背後に搭載してもよいし、ミラー307とピエゾ素子311の間に搭載しても構わない。勿論、膨張体は、銅以外の材料を用いても良い。
【実施例4】
【0073】
図9は、実施例1のピエゾ素子の代わりに、分岐光の一方を反射するMEMSミラーによって位相調整を行う別の実施形態を示す図である。この場合、分岐光304はレンズ901によってMEMSミラー902へと集光され、MEMSミラー902により反射された光は再びレンズ901に入射して平行光とされる。また、分岐光303はミラー対903により反平行に反射される。MEMSミラー902は駆動電圧によってミラー面の法線方向に変位が生じるミラーである(例えばUS6341039号公報を参照のこと)。従って、MEMSミラー902への駆動電圧に応じて分岐光304の光路長が変化し、位相調整が可能になる。実施例1のピエゾ素子は一般に駆動電圧が高い(数10V〜数100V)のに対し、MEMSミラーは数V程度の低い駆動電圧で駆動可能である。したがって本実施例の構成により、位相調整が容易となる。
【実施例5】
【0074】
図10は、本発明の差動位相偏移変調信号の復調器の構成を示すものである。光ファイバ1001から送られてきた差動位相偏移変調された被変調光はコリメータ1002によって平行光となり、ハーフビームスプリッタ302に入射し、第一の分岐光303と第二の分岐光304に強度比1対1で分離される。第一の分岐光303はミラー305に90度に近い角度で入射し、ミラー305からの反射光は再びビームスプリッタ302に入射する。ここで第一の分岐光303の往復の光路中にλ/4板306が挿入されており、その進相軸方向はハーフビームスプリッタ302の分離面によって定義されるp偏光に対して45度の方向を向いている。その結果、第一の分岐光303の偏光成分のうちp偏光成分は再びハーフビームスプリッタ302に入射する時点でs偏光に変換され、同様にp偏光成分はs偏光成分に変換される。同様にして第二の分岐光304はミラー307に90度に近い角度で入射し、ミラー307からの反射光が再びビームスプリッタ302に入射し、往復の光路中にλ/4板308(進相軸方向はp偏光に対して45度)が挿入されているためにp偏光成分とs偏光成分が逆転する。また、分岐光304の往復の光路中にはシリコン単結晶312が挿入されており、図示しないヒータで過熱することによって2つの分岐光303、304の位相差の調整が行われる。また分岐光304を反射する見たー307はピエゾ素子311に搭載されており、ピエゾ素子への駆動電圧を制御することにより2つの分岐光303、304の位相差の調整が行われる。第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302に再び入射する際に合波され、第一の干渉光309と第二の干渉光310が生成される。ここで第一の分岐光303と第二の分岐光304の光路長の差が、被変調光の1ビット分に相当するようにミラー305,307が配置される。例えば変調周波数が40Gb/sの場合、光路長の差は約7.5mmとなる。このため、第一の干渉光309と第二の干渉光310は、被測定光の隣接ビット間の位相偏移量が0かπかによって、建設的干渉もしくは破壊的干渉の状態になり、結果的に位相変調信号が光強度信号に変換される。これらの干渉光は集光レンズ803,804によって平衡型光検出器805の二つの受光部にそれぞれ集光される。平衡型光検出器805はこれらの干渉光の強度差に相当する電流信号を出力し、この出力はトランスインピーダンス805によって電圧信号に変換され。最終的な出力807を得る。
【0075】
本実施例はDPSK信号の復調器であるが、DQPSKもしくは一般のDMPSKの復調器に容易に拡張することができる。本復調器の構成を図11に示す。本構成では光ファイバ801から送られてきた位相変調された被測定光はコリメータ802によって平行光となった後、ハーフビームスプリッタ901によって2分岐され、それぞれの分岐光がDPSKの復調器と同様に処理され、2つの出力信号807,915を出力する。但し、シリコン単結晶312、1118、ピエゾ素子311,1117による位相調整は、2つの遅延干渉計の位相差が90度となるように制御される。
【実施例6】
【0076】
図12は、本発明の差動位相偏移変調信号の送受信器(光通信モジュール)の構成を示すものである。本時実施例はDQPSKの場合である。図12に示すように、本送受信器1201は送信部1202と受信部1203からなる。送信部1202は複数のデータ信号1204とクロック信号1205とマルチプレクサ1206より第一のデータ変調信号1207と第二のデータ変調信号1208と、クロック信号1209を生成する。第一のデータ変調信号1207と第二のデータ変調信号1208は、それぞれ第一のドライバ1210と第二のドライバ1211によって第一の位相変調器1212と第二の位相変調器1213を変調し、レーザ光源1214から出射された光に対して差動位相偏移変調を行う。クロック信号1209は第三のドライバ1215に送られ、差動位相偏移変調された光に対してパルス状の変調が加えられる。このようにして変調された光1216が送信される。
【0077】
受信部は差動位相偏移変調された光1217が入力され、実施例4に示したものと同様の復調器1218によって同相成分と直行成分に相当する2つの出力信号1219,1220が生成され、これらはデマルチプレクサ1221(信号処理部)において複数のデータ信号1222とクロック信号1223に分離される。また、制御部1224は、実施例に1に示したように、システム起動時、通常使用時と両者の切り替え時に応じてシリコン単結晶を加熱するヒータへの駆動信号を発生するドライバ1226、1228と、ピエゾ素子への駆動電圧信号を発生するドライバ1225,1227とを制御する。なお、ここでは、DQPSKでのモジュールを説明したが、上記実施例の何れを適用してもよいことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、大容量光通信システムの受信器を簡易で小型・安価に構成することができ、通信容量の大容量化に貢献することができる。
【符号の説明】
【0079】
101:被変調光、102:遅延干渉計、103:ハーフビームスプリッタ、104:遅延部、105:ハーフビームスプリッタ、106,107:干渉光、108:平衡型光検出器、109:トランスインピーダンスアンプ、110:差動検出器、200:被変調光、201:ハーフビームスプリッタ、202,203:遅延干渉計、204,205:差動検出器、206,207:遅延部、301:被変調光、302:ハーフビームスプリッタ、303:第一の分岐光、304:第二の分岐光、305、307:ミラー、306,308:λ/4板、309第一の干渉光、310:第二の干渉光、311:ピエゾ素子、312:シリコン単結晶、501:楔形プリズム対、502:楔形プリズム、701:膨張体、901:レンズ、902:MEMSミラー,903:ミラー対、1001:光ファイバ、1002:コリメータ、1003,1004:レンズ、1005:平衡型光検出器、1006:トランスインピーダンスアンプ、1007:出力信号、1101,1102:ハーフビームスプリッタ、1103,1104:分岐光、1105、1107:ミラー、1106,1108:λ/4板、1109,1110:干渉光、1111,1112:レンズ、1113:平衡型光検出器、1114:トランスインピーダンスアンプ、1115:出力信号、1117:ピエゾ素子、1118:シリコン単結晶、1201:受信器、1202:送信部、1203:受信部、1204:データ信号、1205:クロック信号、1206:マルチプレクサ、1207,1208:データ変調信号、1209:クロック信号、1210、1211:ドライバ、1212,1213、1215:位相変調器、1214:レーザ光源、1216,1217:被変調光、1218:復調器、1219,1220:出力信号、1221:デマルチプレクサ、1222:データ信号、1223:クロック信号、1224:制御部、1225、1226、1227、1228:ドライバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学干渉計、光通信システムにおける差動位相偏移変調信号を復調する復調器、及びそれを用いた光通信装置(モジュール)に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野では、信号変調として強度変調を行い、復調として光検出器を用いて光強度を直接電気信号に変換する、という最も単純な方式が長らく用いられてきた。しかし近年、40Gb/sを上回る高ビットレートに対応するために、信号変調として位相変調を行う方式が注目されている。位相変調信号の復調方法には、信号変調されて送信された光を受信器側に備えた局部発振光からの光と干渉させて復調させる方法(コヒーレント方式)、信号変調された光を2分岐して信号変調1ビット分だけタイミングをずらして合波して干渉させ、位相の偏移を光強度信号に変換して復調する方法(差動位相偏移変調方式)の2通りがある。このうち差動位相偏移変調方式は、コヒーレント方式とは異なり信号光と局部発信光の周波数を同期させる必要がないなど、比較的実装が容易なことから、実用化に近い方式として注目されている。本方式は、変調される位相の数によって差動2値位相偏移変調(Differential Binary Phase Shift Keying、DBPSKもしくはDPSK)、差動4値位相偏移変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying、DQPSK)などと呼ばれる。
【0003】
DPSKにおける復調方法を、図1を用いて説明する。差動位相偏移変調された被変調光101は遅延干渉計102に入射し、まずハーフビームスプリッタ103のような分岐素子で2分割される。2分割された一方の分岐光はミラーで構成される遅延部104によって他方の分岐光に対して1ビット分(例えば信号変調周波数が40GHzの場合、約7.5mm)の光路長が加えられ、かつ分岐光の光路長差が光の波長の整数倍(すなわち位相差が0)となるように設定される。その後、2つの分岐光はハーフビームスプリッタ105で再び合波され、2つの干渉光106,107が生成される。このとき、干渉光106に注目すると、隣接ビット間の位相偏移量が0の時は建設的干渉、πの時は破壊的干渉となっているため、結果として隣接ビット間の位相偏移量に対応して干渉光の強度に変換される。干渉光107は干渉光106と位相がπ異なる状態での干渉光となっているため、干渉光106が建設的干渉のときは破壊的干渉、干渉光107が破壊的干渉のときは建設的干渉となり、光強度の強弱が反転したものが出力される。これらの干渉光の強度差を、平衡型光検出器108とトランスインピーダンスアンプ109からなる差動検出器110によって検出することによって復調された信号を得る。
【0004】
DQPSKにおける復調方法は、図2のように、DPSKの復調に用いるものと同様の遅延干渉計を2つ用いることによって行う。より正確には、差動位相偏移変調された被変調光200をハーフビームスプリッタ201で2分岐し、それぞれの分岐光を別々の遅延干渉計202、203に導き、それぞれの遅延干渉計で発生した干渉光を差動検出器204、205で検出する。但し、遅延干渉計202は、2つの分岐光の光路長差が波長の整数倍になるように遅延部206を設定するのに対し、遅延干渉計203は、2つの分岐光の光路長差が(n+1/4)λ(nは整数、λは光の波長)だけ異なるように遅延部207を設定する。このとき、隣接ビット間の位相偏移量が0,πのときは遅延干渉計202で建設的干渉または破壊的干渉が生じ、π/2、3π/2のときは遅延干渉計203で建設的干渉または破壊的干渉が生じる。従って差動検出器204、205の出力から4値の差動位相偏移変調信号を復調することが可能になる。更に、同じ構成で任意のM値の差動位相偏移変調信号を復調することが可能である。
【0005】
上に述べた遅延干渉計の実装形態として、主に光導波路を用いる形態と、バルク光学素子を用いた空間光学系を用いる形態が考えられる。前者は大量生産が容易である反面、温度制御が必要で消費電力が高いこと、サイズが大型になることなどのデメリットを有する。これに対し後者は低消費電力化が可能で、比較的小型に構成できることから、有力な実装形態として注目されている。
【0006】
ところで、上記の差動偏移変調された被変調光を復調する遅延干渉計において、被変調光の波長は一定ではなく、一般には通信システムの構成によって異なる波長の光が入射する。遅延干渉計に入射する波長が異なれば、当然のごとく光路長差の設定値が変化するため、遅延干渉計には光路長を調整する手段が必要となる。また、波長が一定であっても温度変化により光路長差がドリフトする場合には、これを相殺するための光路長調整が必要である。この光路長調整手段として、特許文献1、特許文献2にはそれぞれ、熱光学効果を用いた方法と、圧電アクチュエータ(ピエゾ素子)を用いた方法が示されている。熱光学効果を用いた方法は、遅延干渉計の光路中にシリコン単結晶など、屈折率の温度依存性(dn/dT)が大きな媒質を挿入し、この媒質の温度を制御することによって光路長差(位相差)の制御を行うものである。圧電アクチュエータを用いた方法は、遅延干渉計における分岐光を反射するミラーをピエゾ素子に取り付け、ピエゾ素子の駆動電圧に応じてミラーの位置を変化させることによって位相差の制御を行うというものである。
【0007】
特許文献1、特許文献2は空間光学系を用いた遅延干渉計であるが、光導波路を用いた遅延干渉計においては、基本的に温度制御によって位相調整を行う。例えば特許文献3において、遅延干渉計に取り付けられたヒータによって導波路の屈折率変化や熱膨張変化を引き起こし、これによって導波路を通過する光の光路長を実質的に変化させることで位相調整を実現している。また、特許文献3には、電気光学効果を用いて位相調整を行う方法も記されている。この場合、電気光学素子に電圧を駆動することで素子の屈折率を変化させ、通過させる光の位相調整を行う。
【0008】
また、特許文献4,5には、光送信装置において、位相シフト量を適切に調整するために、一組の光導波路に配置される電極、薄膜ヒータ、圧電素子などの位相シフト部への印加電圧、温度などを非対称とし、相対的な位相差を与えることが記載されている。
【0009】
なお、特許文献6,7は分散スロープ補償装置に関するものであるが、ヒータや圧電素子を用いて、分散の中心波長の制御を行うことが記載されているが、分散スロープ補償装置にかかるもので、本願とは分野が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−306371(対応US2007/0264029号公報)
【特許文献2】特表2008−537652(対応US2006/0268277号公報)
【特許文献3】特開2007−67955(対応US2009/0027683号公報)
【特許文献4】特開2007−082094(対応US2007/0065161公報)
【特許文献5】特開2007−043638(対応US2006/0263098公報)
【特許文献6】特開2004−286783
【特許文献7】WO04/099848(対応US2006/0013530公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
差動位相偏移変調を用いた光通信システムにおいて、構成する各遅延干渉計に入力される光の波長が変化するのは、システムの起動時である。システム起動時においてはネットワーク構成を最適化するために、各受信器に入射する光の波長を切り替え、その都度遅延干渉計の位相調整を行って信号を受信する、といった動作を繰り返す。ここで発明者は、従来技術においては上記の位相調整の速度が遅いために、システム起動時間が非常に長くなってしまうという課題を見出した。例えば位相調整手段として特許文献1、特許文献3のごとく温度制御を用いる場合(位相調整速度:数10ms〜数s)、システム起動時間には数分以上の時間を要する。一方、特許文献2のピエゾ素子を用いると位相調整を比較的高速(位相調整速度:1ms以下)に行うことができ、システム起動時間を短くすることが可能になるが、一般にピエゾ素子は駆動し続けることによって特性が劣化し、所定の駆動電圧に対する位相調整量が減少してやがて不足する。このため遅延干渉計の装置としての寿命(すなわち使用し続けた時に所定の仕様を満たす期間)が短くなるという課題がある。特許文献2においては遅延干渉計がアサーマル化されており、システム起動完了後の入力波長が一定の状況では駆動電圧のフィードバック制御は不要であるが、入力波長における所望の位相を維持する必要から、一定の駆動電圧を常に供給し続ける必要があり、基本的にシステムの動作中は常にピエゾ素子に駆動電圧が供給されるため、遅延干渉計の寿命が著しく短くなる。また、特許文献3に記載の電気光学素子を用いて位相調整を行う場合は、位相調整速度が高速で寿命も比較的長いが、素子自体が非常に大型かつ高価のため、遅延干渉計の実装には適さない。
【0012】
なお、特許文献4,5は、DQPSK向けの送信器中の位相変調器に、ヒータやピエゾなどを用いるもので、本願の受信器に関するものではない。しかも、ヒータとピエゾ素子とを、同時に用いることも明記されていない。
【0013】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、位相調整が高速で、小型・安価で、長寿命な遅延干渉計、また、当該遅延干渉計を備えた、差動位相偏移変調信号の復調器、更には、それを用いた光通信モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的を達成するために以下の手段を用いた。
【0015】
被測定光をハーフビームスプリッタなどの分割手段によって第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐し、第一の分岐光と第二の分岐光の位相差の調整を、ピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度の遅い、シリコン単結晶などの第二の位相調整手段とを用いて行い、第一の分岐光と第二の分岐光をハーフビームスプリッタなどの合波手段に入射して合波し、第1の干渉光と第2の干渉光を生成させる構成とした。ここで劣化速度とは、位相調整手段を連続して駆動し続けた時に、所定の駆動信号量(電圧、電流などの大きさ)に対して生じる位相調整量が所望の値を下回るまでの時間を言う。
【0016】
このような構成とすることで、必要に応じて位相調整を高速に行うことができ、かつ装置の寿命を十分に長く保つことが可能になる。
【0017】
上記の第一の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するミラーを搭載したピエゾ素子を用いた。これにより、1ms以下の高速な位相調整が可能となり、本装置を用いた光通信システムの起動時間を短くすることができる。
【0018】
上記の第二の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかの光路中に挿入されたシリコン単結晶などの発熱体を用いた。これにより、簡易な構成での位相調整が可能となる。
【0019】
別の手段において、第二の位相調整手段として液晶素子を用いた。これにより、位相制御に必要な消費電力を小さく抑えることが可能となる。
【0020】
別の手段において、第二の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するミラーを搭載した、銅などの膨張体を用いた。これにより、分岐光の光路中に挿入される素子の数を少なくすることが可能になり、挿入損失を低く抑え、また装置の組立調整を容易に行うことができる。
【0021】
別の手段において、第一の位相調整手段として、第一の分岐光と第二の分岐光のいずれかを反射するMEMSミラーを用いた。これにより、小さい駆動電圧で高速に位相調整を行うことが可能になり、駆動回路の実装が容易になる。
【0022】
また、復調器に関しては、被測定光をハーフビームスプリッタなどの分割手段によって第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐し、第一の分岐光と第二の分岐光の位相差の調整を、ピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ劣化速度の遅い、シリコン単結晶などの第二の位相調整手段とを用いて行い、第一の分岐光と第二の分岐光をハーフビームスプリッタなどの合波手段に入射して合波し、第1の干渉光と第2の干渉光を生成させ、これらを差動検出器で受光し、第1の干渉光と第2の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する構成とした。
【0023】
このような構成とすることで、位相調整を必要に応じて高速に行うことが可能になり、被測定光の波長が変化する場合などにおいても正確な再生信号の取得に必要な位相調整を高速に行うことができる。
【0024】
別の構成として、被測定光をまずハーフビームスプリッタなどの分割手段によって分岐し、それぞれの分岐光に対して上記復調器の構成により電気信号を出力する構成とした。
【0025】
これにより、一般の差動M値位相偏移変調信号に対しても位相調整を高速に行うことが可能になる。
【0026】
また、光通信モジュールに関しては、パルス状の差動位相偏移変調された光を送信する送信部と、差動位相偏移変調された被測定光が入力され、複数のデータ信号とクロック信号とを生成する受信部とからなり、前記受信部は、被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐するハーフビームスプリッタなどの光分割手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波するハーフビームスプリッタなどの光合波手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整するピエゾ素子などの第一の位相調整手段と、前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅いシリコン単結晶などの第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器と、前記検出器にて出力された電気信号から、複数のデータ信号を生成する信号処理部と、前記第一の位相調整手段への調整信号を生成する第一のドライバと、前記第二の位相調整手段への調整信号を生成する第二のドライバと、前記第一のドライバと前記第二のドライバとが発生する調整信号を制御する制御部と、を有する構成とした。
【0027】
このような構成とすることで、位相調整を必要に応じて高速に行うことが可能になり、被測定光の波長が変化する場合などにおいても正確な再生信号の取得に必要な位相調整を高速に行うことができる。
【0028】
また、上記の光通信モジュールにおいて、当該光通信モジュールが含まれる光通信システムの起動時には第一のドライバを駆動し、第二のドライバを駆動せず、通常使用時においては第二のドライバを駆動し、第一のドライバを駆動することとした。
【0029】
このようにすることで、高速な位相調整が必要となるシステム起動時において高速な位相調整を実現し、かつ装置の寿命を長く保つことが可能になる。
【0030】
また、前記制御部は、前記光通信システムの起動時から通常使用時へと切り替わる際に、前記第一のドライバの調整信号を、前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度か、もしくは遅い速度でゼロにし、同時に前記第二のドライバによる位相調整を行うこととした。
【0031】
このようにすることで、システム起動時から通常使用時に移行する際に干渉光の位相を一定に保つことができ、連続的に再生信号を取得することが可能となる。
【0032】
また、前記制御部は、前記光通信システムの通常使用時から起動時へと切り替わる際に、前記第二のドライバの生成する調整信号をゼロにし、その後の前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度かそれ以上の時間において前記第一のドライバと前記第二のドライバのいずれも調整信号をゼロに保ち、その後前記第一のドライバにより位相制御を行い、前記第二のドライバによる位相調整を行わないこととした。
【0033】
このようにすることで、第一の位相調整手段に必要とされるストローク、すなわち位相変調の範囲を最小にすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、従来に比べて位相調整速度が高速で、かつ長寿命な、差動位相偏移変調信号の復調器や光通信モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】DPSKの復調器の概略図。
【図2】DQPSKの復調器の概略図。
【図3】本発明の干渉計を実現する光学系の例を示す図。
【図4】システム起動時と通常使用時の間の切り替え時における、位相調整手段の駆動方法を説明する図。
【図5】楔形プリズム対によって位相調整を行う場合の構成図。
【図6】楔形プリズムの詳細説明図。
【図7】膨張体によって位相調整を行う別の実施形態を表す図。
【図8】膨張体がピエゾ素子の背後に配置されている場合の構成図。
【図9】MEMSミラーによって位相調整を行う別の実施形態を示す図。
【図10】本発明の差動位相偏移変調信号の復調器の例を示す図。
【図11】本発明のDQPSKの復調器の例を示す図。
【図12】本発明の差動位相偏移変調信号の送受信器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0036】
以下、図3を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0037】
図3は本発明の基本的な実施形態である。差動位相偏移変調された被変調光301はハーフビームスプリッタ302に入射し、第一の分岐光303と第二の分岐光304に強度比1対1で分離される。第一の分岐光303はミラー305に90度に近い角度で入射し、ミラー305からの反射光は再びビームスプリッタ302に入射する。ここで第一の分岐光の往復の光路中にλ/4板306が挿入されており、その進相軸方向はハーフビームスプリッタ302の分離面によって定義されるp偏光に対して45度の方向を向いている。その結果第一の分岐光303の偏光成分のうちp偏光成分は再びハーフビームスプリッタ302に入射する時点でs偏光に変換され、同様にs偏光成分はp偏光成分に変換される。第二の分岐光304はピエゾ素子311に搭載されたミラー307に90度に近い角度で入射し、ミラー307からの反射光が再びビームスプリッタ302に入射し、往復の光路中にλ/4板308(進相軸方向はp偏光に対して45度)が挿入されているためにp偏光成分とs偏光成分が逆転する。また往復の光路中にはシリコン単結晶312が挿入されており、後述のように位相調整に用いられる。第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302に再び入射する際に合波され、第一の干渉光309と第二の干渉光310が生成される。ここで第一の分岐光303と第二の分岐光304の光路長の差が、被変調光の信号変調の1ビット分に相当するようにミラー305、307が配置される。例えば変調周波数が40Gb/sの場合、光路長の差は約7.5mmとなる。またさらに、干渉の位相差が一定になるようにシリコン単結晶312の温度制御またはピエゾ素子311への駆動電圧の制御を行う(この動作の詳細については後述する)。このため、第一の干渉光309と第二の干渉光310は、被測定光の隣接ビット間の位相偏移量が0かπかによって、建設的干渉もしくは破壊的干渉の状態になり、結果的に差動位相偏移変調信号が光強度信号に変換される。
【0038】
ここで、第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302で分岐、合波される時点でそれぞれのp偏光成分とs偏光成分の間に相対的な位相差が生じる。これはそれぞれの分岐光が、偏光成分によって異なる光路長となることを意味する。しかし、本実施例では二つの分岐光がλ/4板を往復してp偏光、s偏光成分を逆転させることにより、被測定光が分岐される時点で発生する相対的位相差と、分岐光が合波される時点で発生する相対的位相差とが互いに相殺し合い、結果的に偏光状態によらない干渉状態を得ることができる。
【0039】
ここで、λ/4板306,308の機能について詳細に説明する。一般に、ビームスプリッタの2つの入力ポートから入射する光の電場をE1、E2とし、
【0040】
【数1】
【0041】
のようにベクトルで表すと、ビームスプリッタ通過後に生成される2つの光電場は下記のベクトルで表される。
【0042】
【数2】
【0043】
本数式における2x2の行列がビームスプリッタの作用を表し、R、Tはそれぞれビームスプリッタの強度反射率と強度透過率の絶対値、φは透過光と反射光の間に発生する位相差に対応する。このφがp偏光とs偏光とで異なることで干渉の位相が偏光状態によって異なり、偏光状態によって光の周波数がシフトしたかのように観測される現象(Polarization Dependent Frequency Shift、PDFS)の発生要因となる。このためp偏光とs偏光に対するφの値をそれぞれφp、φsと書く。また、被測定光がp偏光であると仮定する。
【0044】
数2において、被測定光がハーフビームスプリッタ302で分岐される状況においては、E2=0であり、またハーフビームスプリッタでの損失が無く1対1に分岐すると仮定するとT=R=1/2となるので、分岐後の光の電場は
【0045】
【数3】
【0046】
のように表される。このベクトルの第一成分は反射光(すなわち実施例中の第一の分岐光303)を、第二成分は透過光(すなわち実施例中の第二の分岐光304)をそれぞれ表している。ここで反射光と透過光が再び同一のハーフビームスプリッタで合波されるまでの光路長をそれぞれl1、l2とおくと、分岐から合波までの過程は下記の行列で表される。
【0047】
【数4】
【0048】
また、2つの分岐光は進相軸方向がp偏光に対して45度に設定されたλ/4板を往復で通過するため、p偏光がs偏光に変換される。このため分岐光が合波される過程は数2中の2x2行列においてT=R=1/2、φ=φsとした行列で表現される。以上より、得られる干渉光の電場は
【0049】
【数5】
【0050】
と表される。これを整理すると、第一の干渉光309、第二の干渉光310の電場はそれぞれ上記ベクトルの第一成分、第二成分となるので
【0051】
【数6】
【0052】
【数7】
【0053】
と表され、それぞれの干渉光の強度はこれらの絶対値の二乗なので
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
【0056】
となる。例えば数8においてコサインの内部がゼロの場合が建設的干渉、πの場合が破壊的干渉にそれぞれ対応する。従って、二つの分岐光の光路長差l1-l2の値として、およそ変調信号の1ビット分に相当する値とした上で、上記コサインの内部がゼロとなるように設定することで、信号の復調が可能となる。
【0057】
ここで、入力偏光がs偏光の場合を考える。この場合、ハーフビームスプリッタ302での発生位相φは、被測定光の分岐時にはφ=φs、分岐光の合波時にはφ=φpとなる。ここで数8、数9においてφsとφpを交換しても不変であることから、被測定光がs偏光の場合も、干渉光強度はp偏光の場合と同じく数8、数9で表される。更に、一般の偏光状態はp偏光とs偏光の重ね合わせで表されることから、被測定光が任意の偏光状態の場合にも、干渉光の強度は数8、数9で表される。すなわち、干渉状態が偏光依存性を持たないために、PDFSが発生しない。
【0058】
ここで比較のためにλ/4板が挿入されない場合を考えると、入力偏光がp偏光の場合の干渉光強度は、数9においてφsをφpに置き換え、
【0059】
【数10】
【0060】
【数11】
【0061】
となる。同様に、被測定光がs偏光の場合は、
【0062】
【数12】
【0063】
【数13】
【0064】
となる。従って、ハーフビームスプリッタ302において発生する位相φが偏光によって異なる、すなわちφp≠φsのとき、偏光によって干渉光の干渉状態が異なるため、PDFSが発生する。
【0065】
次に、シリコン単結晶312とピエゾ素子311による干渉位相の調整の詳細について説明する。
【0066】
シリコン単結晶312の温度を高めると、屈折率が上昇するために分岐光304の光路長が長くなる。シリコン単結晶屈折率の温度依存性(dn/dT)はおよそ1.0×10^−4[K^-1]であり、本実施例においてシリコン単結晶312の厚さを0.5mmとすると、シリコン単結晶312の温度を1K上昇させたときに、光路長が100nm変化する。位相調整速度はシリコン単結晶の熱容量によって決まっており、およそ秒オーダである。
【0067】
ピエゾ素子は、電圧を加えることにより伸縮する素子であり、本実施例では伸縮によってミラー307が光の進行方向に移動することを利用し、駆動電圧によって分岐光304の光路長を制御する。ピエゾ素子による位相調整速度は、ピエゾ素子とそれに取り付けられたミラー307の合成共振周波数によるが、およそ1ms以下の速度で位相調整が可能である。
【0068】
さて、干渉位相の調整が必要となる場面については主に2通りあり、(1)温度によって光路長差がドリフトする場合、(2)入射する波長が変わる場合、の2通りである。本実施例では基本的に、(1)の場合にシリコン単結晶312の温度調整による位相制御を行い、(2)の場合にピエゾ素子311の駆動電圧の調整による位相制御を行う。(2)は通信システムの起動時のみに起こり、システム起動が完了した後は入射する波長は一定であるため、(1)の場合のみを考慮すればよい。このため、通信システム起動時にはピエゾ素子311を用いて位相調整を行うため、位相調整を高速に行うことができ、システム起動時間を短くすることが可能である。これに対し、システム起動が完了した後にはピエゾ素子311には電圧が駆動されず、シリコン単結晶312の温度制御によって位相調整を行う。従って、ピエゾ素子はシステム起動以外のほとんどの時間は電圧が駆動されないため、素子の寿命を長く保つことが可能である。なお、(1)の位相調整に要求される速度は、温度変化に由来するために秒オーダであり、シリコン単結晶312を用いても速度の点では十分である。
【0069】
ここで、システム起動時とシステム起動完了時(通常使用時)の位相調整素子の駆動の切り替えについて詳細に述べる。まず、システム起動時から通常使用時に移行する場合について図4(a)を用いて説明する。システム起動時はピエゾ素子311が駆動され、シリコン単結晶312の温度制御はなされていない。ここでシステム起動が完了すると、入力される波長が固定される。ここで、シリコン単結晶312の温度制御を開始する。そして、ピエゾ素子の駆動電圧を、シリコン単結晶312の位相調整速度と同程度の速度で徐々に下げていき、最終的にはほぼゼロにする。この間にもシリコン単結晶312は温度制御がされているために位相はほぼ一定に保たれており、位相をほぼ一定に保ったまま位相制御をピエゾ素子311からシリコン単結晶312へ移行することができる。図4(a)では、ピエゾ素子の駆動電圧を、シリコン単結晶312の位相調整速度と同程度の速度で下げたが、移行期間において位相がほぼ一定になるように、遅い速度で下げても、構わない。ここで、ほぼ一定とは、結果的に干渉光309、310の強度より被変調光の位相が推定可能な程度に位相が一定であればよいことを意味する。次に、通常使用時からシステム起動時への移行について図4(b)を用いて説明する。この場合、通常使用時はシリコン単結晶312のみが温度制御されており、システム起動時にはシリコン単結晶の温度制御をオフにし、十分時間が経過してシリコン単結晶の発熱による位相変化が十分小さくなってからピエゾ素子を駆動する。すなわち、シリコン単結晶の動作速度と同程度かそれ以上の時間、シリコン単結晶への調整信号もピエゾ素子駆動電圧への調整信号もゼロに保ち、その後、ピエゾ素子の駆動電圧を印加する。このようにすることで、ピエゾ素子のストロークを余分に設けることなく位相調整を行うことができる。(逆に、シリコン単結晶による位相変化が残っている状態でピエゾ素子を駆動すると、残った位相変化分だけ余分にピエゾ素子のストロークが必要になる場合がある)
なお、本実施例では位相調整素子としてピエゾ素子とシリコン単結晶を用いたが、形態はこの限りではない。例えばシリコン単結晶の代わりにシリコン多結晶を用いても良い。また、図5はシリコン単結晶の代わりに楔形プリズム対501により位相調整を行う場合の構成図である。この場合、楔形プリズム対501を構成する1つの楔形プリズムを、分岐光303の光軸方向に移動させることにより、図6のごとく分岐光303の光路を変化させ、光路長を変化させて位相調整を行う。(なお、光束の光軸と直交する方向への変位は往復の光路で相殺される。)例として使用する光の波長を1550nm、楔形プリズムの媒質をBK7(屈折率1.50)、頂角を2.5度とすると、楔形プリズム502を光軸方向に10mm変位させたときに発生する光路長差は4.77μmであり、19.34ラジアンの位相調整が行われる。
【実施例2】
【0070】
本実施例は、実施例1のシリコン単結晶312を液晶素子に置き換えた別の実施形態である。この場合、液晶素子への駆動電圧によって分岐光304の光路長が変化し、位相調整が可能となる。液晶素子は同等の厚さのものが、光学軸が互いに90度異なる状態で張り合わせたものになっており、分岐光の偏光状態によらない位相差を発生することが可能である。実施例1のシリコン単結晶を用いる場合には、シリコン単結晶をヒータ等によって加熱するために数100mW〜数W程度の高い消費電力が必要とされるが、液晶素子は駆動時に電流がほとんど流れないため、消費電力は非常に小さい(1mW以下)。従って本実施例は装置の消費電力を低く抑えることが可能である。
【実施例3】
【0071】
図7は、実施例1のシリコン単結晶312の代わりに、分岐光の一方を反射するミラーを搭載した膨張体の熱膨張によって位相調整を行う別の実施形態を示す図である。この場合、膨張体701を加熱することにより膨張させ、ミラー305を変位させることによって位相調整を行う。例として使用する光の波長を1550nm、膨張体として銅(線膨張係数16.8)を用い、膨張体の厚さを5mmとしたとき、膨張体を1℃加熱したときの光路長変化は168nmであり、0.68ラジアンの位相調整が行われる。本実施例のごとく光路中に挿入しない膨張体で位相調整を行うことにより、光路中に挿入される媒質の数を最小限にすることができ、装置の挿入損失を低く抑えることができ、また組立調整が容易になる。
【0072】
なお、膨張体701の配置は本実施例の通りに限らず、例えば図8のごとくピエゾ素子311の背後に搭載してもよいし、ミラー307とピエゾ素子311の間に搭載しても構わない。勿論、膨張体は、銅以外の材料を用いても良い。
【実施例4】
【0073】
図9は、実施例1のピエゾ素子の代わりに、分岐光の一方を反射するMEMSミラーによって位相調整を行う別の実施形態を示す図である。この場合、分岐光304はレンズ901によってMEMSミラー902へと集光され、MEMSミラー902により反射された光は再びレンズ901に入射して平行光とされる。また、分岐光303はミラー対903により反平行に反射される。MEMSミラー902は駆動電圧によってミラー面の法線方向に変位が生じるミラーである(例えばUS6341039号公報を参照のこと)。従って、MEMSミラー902への駆動電圧に応じて分岐光304の光路長が変化し、位相調整が可能になる。実施例1のピエゾ素子は一般に駆動電圧が高い(数10V〜数100V)のに対し、MEMSミラーは数V程度の低い駆動電圧で駆動可能である。したがって本実施例の構成により、位相調整が容易となる。
【実施例5】
【0074】
図10は、本発明の差動位相偏移変調信号の復調器の構成を示すものである。光ファイバ1001から送られてきた差動位相偏移変調された被変調光はコリメータ1002によって平行光となり、ハーフビームスプリッタ302に入射し、第一の分岐光303と第二の分岐光304に強度比1対1で分離される。第一の分岐光303はミラー305に90度に近い角度で入射し、ミラー305からの反射光は再びビームスプリッタ302に入射する。ここで第一の分岐光303の往復の光路中にλ/4板306が挿入されており、その進相軸方向はハーフビームスプリッタ302の分離面によって定義されるp偏光に対して45度の方向を向いている。その結果、第一の分岐光303の偏光成分のうちp偏光成分は再びハーフビームスプリッタ302に入射する時点でs偏光に変換され、同様にp偏光成分はs偏光成分に変換される。同様にして第二の分岐光304はミラー307に90度に近い角度で入射し、ミラー307からの反射光が再びビームスプリッタ302に入射し、往復の光路中にλ/4板308(進相軸方向はp偏光に対して45度)が挿入されているためにp偏光成分とs偏光成分が逆転する。また、分岐光304の往復の光路中にはシリコン単結晶312が挿入されており、図示しないヒータで過熱することによって2つの分岐光303、304の位相差の調整が行われる。また分岐光304を反射する見たー307はピエゾ素子311に搭載されており、ピエゾ素子への駆動電圧を制御することにより2つの分岐光303、304の位相差の調整が行われる。第一の分岐光303と第二の分岐光304は、ハーフビームスプリッタ302に再び入射する際に合波され、第一の干渉光309と第二の干渉光310が生成される。ここで第一の分岐光303と第二の分岐光304の光路長の差が、被変調光の1ビット分に相当するようにミラー305,307が配置される。例えば変調周波数が40Gb/sの場合、光路長の差は約7.5mmとなる。このため、第一の干渉光309と第二の干渉光310は、被測定光の隣接ビット間の位相偏移量が0かπかによって、建設的干渉もしくは破壊的干渉の状態になり、結果的に位相変調信号が光強度信号に変換される。これらの干渉光は集光レンズ803,804によって平衡型光検出器805の二つの受光部にそれぞれ集光される。平衡型光検出器805はこれらの干渉光の強度差に相当する電流信号を出力し、この出力はトランスインピーダンス805によって電圧信号に変換され。最終的な出力807を得る。
【0075】
本実施例はDPSK信号の復調器であるが、DQPSKもしくは一般のDMPSKの復調器に容易に拡張することができる。本復調器の構成を図11に示す。本構成では光ファイバ801から送られてきた位相変調された被測定光はコリメータ802によって平行光となった後、ハーフビームスプリッタ901によって2分岐され、それぞれの分岐光がDPSKの復調器と同様に処理され、2つの出力信号807,915を出力する。但し、シリコン単結晶312、1118、ピエゾ素子311,1117による位相調整は、2つの遅延干渉計の位相差が90度となるように制御される。
【実施例6】
【0076】
図12は、本発明の差動位相偏移変調信号の送受信器(光通信モジュール)の構成を示すものである。本時実施例はDQPSKの場合である。図12に示すように、本送受信器1201は送信部1202と受信部1203からなる。送信部1202は複数のデータ信号1204とクロック信号1205とマルチプレクサ1206より第一のデータ変調信号1207と第二のデータ変調信号1208と、クロック信号1209を生成する。第一のデータ変調信号1207と第二のデータ変調信号1208は、それぞれ第一のドライバ1210と第二のドライバ1211によって第一の位相変調器1212と第二の位相変調器1213を変調し、レーザ光源1214から出射された光に対して差動位相偏移変調を行う。クロック信号1209は第三のドライバ1215に送られ、差動位相偏移変調された光に対してパルス状の変調が加えられる。このようにして変調された光1216が送信される。
【0077】
受信部は差動位相偏移変調された光1217が入力され、実施例4に示したものと同様の復調器1218によって同相成分と直行成分に相当する2つの出力信号1219,1220が生成され、これらはデマルチプレクサ1221(信号処理部)において複数のデータ信号1222とクロック信号1223に分離される。また、制御部1224は、実施例に1に示したように、システム起動時、通常使用時と両者の切り替え時に応じてシリコン単結晶を加熱するヒータへの駆動信号を発生するドライバ1226、1228と、ピエゾ素子への駆動電圧信号を発生するドライバ1225,1227とを制御する。なお、ここでは、DQPSKでのモジュールを説明したが、上記実施例の何れを適用してもよいことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、大容量光通信システムの受信器を簡易で小型・安価に構成することができ、通信容量の大容量化に貢献することができる。
【符号の説明】
【0079】
101:被変調光、102:遅延干渉計、103:ハーフビームスプリッタ、104:遅延部、105:ハーフビームスプリッタ、106,107:干渉光、108:平衡型光検出器、109:トランスインピーダンスアンプ、110:差動検出器、200:被変調光、201:ハーフビームスプリッタ、202,203:遅延干渉計、204,205:差動検出器、206,207:遅延部、301:被変調光、302:ハーフビームスプリッタ、303:第一の分岐光、304:第二の分岐光、305、307:ミラー、306,308:λ/4板、309第一の干渉光、310:第二の干渉光、311:ピエゾ素子、312:シリコン単結晶、501:楔形プリズム対、502:楔形プリズム、701:膨張体、901:レンズ、902:MEMSミラー,903:ミラー対、1001:光ファイバ、1002:コリメータ、1003,1004:レンズ、1005:平衡型光検出器、1006:トランスインピーダンスアンプ、1007:出力信号、1101,1102:ハーフビームスプリッタ、1103,1104:分岐光、1105、1107:ミラー、1106,1108:λ/4板、1109,1110:干渉光、1111,1112:レンズ、1113:平衡型光検出器、1114:トランスインピーダンスアンプ、1115:出力信号、1117:ピエゾ素子、1118:シリコン単結晶、1201:受信器、1202:送信部、1203:受信部、1204:データ信号、1205:クロック信号、1206:マルチプレクサ、1207,1208:データ変調信号、1209:クロック信号、1210、1211:ドライバ、1212,1213、1215:位相変調器、1214:レーザ光源、1216,1217:被変調光、1218:復調器、1219,1220:出力信号、1221:デマルチプレクサ、1222:データ信号、1223:クロック信号、1224:制御部、1225、1226、1227、1228:ドライバ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波して、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、
を備えることを特徴とする干渉計。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉計において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載したピエゾ素子であることを特徴とする干渉計。
【請求項3】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された発熱体であることを特徴とする干渉計。
【請求項4】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された液晶素子であることを特徴とする干渉計。
【請求項5】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載した膨張体であることを特徴とする干渉計。
【請求項6】
請求項1に記載の干渉計において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するMEMSミラーであることを特徴とする干渉計。
【請求項7】
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波する光合波手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、
前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器とを有することを特徴とする差動位相偏移変調信号の復調器。
【請求項8】
請求項6記載の復調器において、前記光分割手段は、第一の光分割手段と第二の光分割手段を有し、前記第一の光分割手段及び前記第二の光分割手段とに分岐させる第三の光分割手段を有し、
前記干渉計は、前記第一の光分割手段を含む第一の干渉計と、前記第二の光分割手段を含む第二の干渉計有し、
前記検出器は、第一の検出器と第二の検出器を有し、前記第一の検出器は、前記第一の干渉計によって生成された光を検出し、前記第二の検出器は、前記第二の干渉計によって生成された光を検出することを特徴とする復調器。
【請求項9】
請求項7に記載の復調器において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載したピエゾ素子であることを特徴とする復調器。
【請求項10】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された発熱体であることを特徴とする復調器。
【請求項11】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入されたシリコンまたは楔形プリズム対であるであることを特徴とする復調器。
【請求項12】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された液晶素子であることを特徴とする復調器。
【請求項13】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載した膨張体であることを特徴とする復調器。
【請求項14】
請求項7に記載の復調器において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するMEMSミラーであることを特徴とする復調器。
【請求項15】
パルス状の差動位相偏移変調された光を送信する送信部と、
差動位相偏移変調された被測定光が入力され、複数のデータ信号とクロック信号とを生成する受信部とを有し、
前記受信部は、
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波する光合波手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、
前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器と、
前記検出器にて出力された電気信号から、複数のデータ信号を生成する信号処理部と、
前記第一の位相調整手段への調整信号を生成する第一のドライバと、
前記第二の位相調整手段への調整信号を生成する第二のドライバと、
前記第一のドライバと前記第二のドライバとが発生する調整信号を制御する制御部と、
を有することを特徴とする光通信モジュール。
【請求項16】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、当該光通信モジュールが含まれる光通信システムの起動時において、前記第一のドライバを駆動し、前記第二のドライバの駆動を行わず、
前記光通信システムの通常使用時において、前記第二のドライバを駆動し、前記第一のドライバの駆動を行わないことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項17】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、前記光通信システムの起動時から通常使用時へと切り替わる際に、前記第一のドライバの調整信号を、前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度か、もしくは遅い速度でほぼゼロにする第一の調整動作を行い、トータルの位相がほぼ一定となるように前記第二のドライバによる位相調整を行う第二の調整動作を、前記第一の調整動作とほぼ同時に開始することを特徴とする光通信モジュール。
【請求項18】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、前記光通信システムの通常使用時から起動時へと切り替わる際に、前記第二のドライバの生成する調整信号をゼロにし、その後の前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度かそれ以上の時間において前記第一のドライバと前記第二のドライバのいずれも調整信号をゼロに保ち、その後前記第一のドライバにより位相制御を行い、前記第二のドライバによる位相調整を行わないことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項1】
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波して、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、
を備えることを特徴とする干渉計。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉計において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載したピエゾ素子であることを特徴とする干渉計。
【請求項3】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された発熱体であることを特徴とする干渉計。
【請求項4】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された液晶素子であることを特徴とする干渉計。
【請求項5】
請求項1に記載の干渉計において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載した膨張体であることを特徴とする干渉計。
【請求項6】
請求項1に記載の干渉計において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するMEMSミラーであることを特徴とする干渉計。
【請求項7】
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波する光合波手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、
前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器とを有することを特徴とする差動位相偏移変調信号の復調器。
【請求項8】
請求項6記載の復調器において、前記光分割手段は、第一の光分割手段と第二の光分割手段を有し、前記第一の光分割手段及び前記第二の光分割手段とに分岐させる第三の光分割手段を有し、
前記干渉計は、前記第一の光分割手段を含む第一の干渉計と、前記第二の光分割手段を含む第二の干渉計有し、
前記検出器は、第一の検出器と第二の検出器を有し、前記第一の検出器は、前記第一の干渉計によって生成された光を検出し、前記第二の検出器は、前記第二の干渉計によって生成された光を検出することを特徴とする復調器。
【請求項9】
請求項7に記載の復調器において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載したピエゾ素子であることを特徴とする復調器。
【請求項10】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された発熱体であることを特徴とする復調器。
【請求項11】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入されたシリコンまたは楔形プリズム対であるであることを特徴とする復調器。
【請求項12】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光の光路中に挿入された液晶素子であることを特徴とする復調器。
【請求項13】
請求項7に記載の復調器において、前記第二の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するミラーを搭載した膨張体であることを特徴とする復調器。
【請求項14】
請求項7に記載の復調器において、前記第一の位相調整手段が、前記第一の分岐光または前記第二の分岐光を反射するMEMSミラーであることを特徴とする復調器。
【請求項15】
パルス状の差動位相偏移変調された光を送信する送信部と、
差動位相偏移変調された被測定光が入力され、複数のデータ信号とクロック信号とを生成する受信部とを有し、
前記受信部は、
被測定光を第一の分岐光と第二の分岐光とに分岐する光分割手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光とを合波する光合波手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整する第一の位相調整手段と、
前記第一の分岐光と前記第二の分岐光の位相差を調整し、前記第一の位相調整手段よりも低速で動作し、かつ前記第一の位相調整手段よりも劣化速度の遅い第二の位相調整手段と、を備え、第一の干渉光と第二の干渉光を生成する干渉計と、
前記第一の干渉光と前記第二の干渉光をそれぞれ検出し、前記第一の干渉光と前記第二の干渉光の強度差に相当する電気信号を出力する検出器と、
前記検出器にて出力された電気信号から、複数のデータ信号を生成する信号処理部と、
前記第一の位相調整手段への調整信号を生成する第一のドライバと、
前記第二の位相調整手段への調整信号を生成する第二のドライバと、
前記第一のドライバと前記第二のドライバとが発生する調整信号を制御する制御部と、
を有することを特徴とする光通信モジュール。
【請求項16】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、当該光通信モジュールが含まれる光通信システムの起動時において、前記第一のドライバを駆動し、前記第二のドライバの駆動を行わず、
前記光通信システムの通常使用時において、前記第二のドライバを駆動し、前記第一のドライバの駆動を行わないことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項17】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、前記光通信システムの起動時から通常使用時へと切り替わる際に、前記第一のドライバの調整信号を、前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度か、もしくは遅い速度でほぼゼロにする第一の調整動作を行い、トータルの位相がほぼ一定となるように前記第二のドライバによる位相調整を行う第二の調整動作を、前記第一の調整動作とほぼ同時に開始することを特徴とする光通信モジュール。
【請求項18】
請求項15に記載の光通信モジュールにおいて、前記制御部は、前記光通信システムの通常使用時から起動時へと切り替わる際に、前記第二のドライバの生成する調整信号をゼロにし、その後の前記第二の位相調整手段の動作速度と同程度かそれ以上の時間において前記第一のドライバと前記第二のドライバのいずれも調整信号をゼロに保ち、その後前記第一のドライバにより位相制御を行い、前記第二のドライバによる位相調整を行わないことを特徴とする光通信モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−158683(P2011−158683A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19875(P2010−19875)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】
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