説明

干渉計のステップ走査システムおよび方法

【課題】ステップ走査干渉計を、最適に機能させる方法を提供する。
【解決手段】いくつかの実施形態では、ステップ走査赤外線(IR)分光干渉計における路長差(遅延)は、ステップ変更に続く第1の期間について交流サーボ機構(サーボ)制御下で、および、第1の期間に続く第2の期間について直流サーボ制御下で維持される。データは、直流サーボ制御期間中および/または直流サーボ制御期間後に取得される。データ取得前に交流サーボ制御を停止することで、ディザー周波数ノイズを制限することができる。さもないと、ディザー周波数ノイズは、高速時間分解分光法(TSR)などの高速時間スケール用途で特に、対象となる信号に影響を与える可能性がある。鏡位置制御回路は、鏡位置ステップ、および、交流から直流への鏡サーボ制御の切り換えを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計に関し、特に、ステップ走査分光干渉計において光路差を制御するためのサーボ制御システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換分光計は通常、単色の参照ビーム(例えばレーザ光線)の反射された部分の間の干渉、および、対象となる広帯域の赤外線ビームの反射された部分の間の干渉を発生させるのに使用される干渉計を含んでいる。干渉計は、1つ以上の可動式の鏡を含んでいてもよく、可動式の鏡の位置は、干渉計を通る光路長を制御するのに使用される。高速走査では、データが取得されている間、干渉する光線部分の間の行路長差(遅延)が、対象となる時間間隔にわたって一定の速度で増加する。ステップ走査では、遅延はステップで(段階的に)変化し、データが各ステップにおいて取得される。遅延は、鏡などの1つ以上の光学素子を移動させることにより、変更することができる。
【0003】
ステップ走査干渉計では、ディザーを使用して、直線状に可動の鏡と圧電変換器(PZT)などのアクチュエータに取り付けられた鏡との間の行路差をわずかに周期的に変化させることができる。ディザーにより、単色の参照ビームおよび広帯域の赤外線ビームの両方が変調される。単色の光線を参照として使用し、2つの鏡の間の平均行路差を正確にサーボ制御することができる。1つのやり方では、干渉計からの変調された単色の光線が、出力が交流結合された検知器に向けられる。2倍のディザー周波数で作動する復調器を使用して、ディザー信号の第2調波を検知し、可動式の鏡と固定された鏡との間の時間平均された行路差を単色光のゼロ交差へと調節するサーボの誤差入力として適用する。ディザーおよび交流結合の適用により、単色光源強度、ビームスプリッタ効率および検知器強度の時間変化によって生じるドリフト(変移)に対するシステム性能の依存が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に使用される干渉計は、時間分解分光法(TRS)などのいくつかのIR分光法用途において、最適以下で機能する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの局面によれば、本方法は、ステップ走査干渉計において、光路長差を第1の値から第2の値へとステップ的に変化させる工程と、前記第2のステップ値で前記路長差を安定させるために、第1の時間間隔について、交流サーボ制御下で、干渉計鏡ディザーを有効にする工程と、前記第1の時間間隔に続く第2の時間間隔について、交流サーボ制御下で、前記鏡ディザーを無効にし、干渉計鏡位置直流サーボ制御を有効にする工程と、交流サーボ制御下での前記鏡ディザーを無効にしている間に、干渉計データ収集を行う工程とを含んでいる。
【0006】
別の局面によれば、本装置は、ステップ走査干渉計において、光路長差を第1の値から第2の値へとステップ的に変化させるように構成された少なくとも1つのアクチュエータと、前記少なくとも1つのアクチュエータに接続されたシステム制御器とを含んでいる。前記システム制御器は、前記第2のステップ値で前記路長差を安定させるために、第1の時間間隔について、交流サーボ制御下で、干渉計鏡ディザーを有効にするように構成され、前記第1の時間間隔に続く第2の時間間隔について、交流サーボ制御下で、前記鏡ディザーを無効にし、干渉計鏡位置直流サーボ制御を有効にするように構成され、交流サーボ制御下での前記鏡ディザーを停止している間に、干渉計データ収集を行うよう構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のいくつかの実施形態に係る、例示的なステップ走査分光干渉計を示す。
【図2】本発明のいくつかの実施形態に係る、干渉計光路差(遅延)、ディザー源信号および赤外線(IR)データ収集信号の時間依存性を示す。
【図3】本発明のいくつかの実施形態に係る干渉計制御器を示す。
【図4】本発明のいくつかの実施形態に係る、直流オフセットドリフトの存在下での検知器信号および増幅器出力の時間依存性を示す。
【図5】本発明のいくつかの実施形態に係る、復調器入力、制御および出力信号の時間依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の上記局面および利点は、以下の詳細な説明を読み、図面を参照することで、よりよく理解されるであろう。
以下の説明において、一式の要素は1つ以上の要素を含んでいる。複数の要素は2つ以上の要素を含んでいる。ある要素への言及は、1つ以上の要素を包含するものと理解されたい。言及された各要素または構造体は、単体の構造体もしくは単体の構造体の一部により構成されていてもよく、または、複数の別個の構造体により構成されていてもよい。特に説明のない場合、言及した電気的または機械的な接続は、直接的な接続であってもよく、また、中間的な構造体を介した間接的な駆動的接続であってもよい。2つの事象が同時に(同期して)起きるという記述は、これら2つの事象が同一のクロック周期で起きることを意味している。特に説明のない場合、「論理」という用語は、特定用途向けのハードウェア(例えば、特定用途向け集積回路ASICの一部)およびプログラマブル論理回路(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイFPGA、プログラマブルデジタル信号処理器DSP、または、マイクロコントローラなどの他のプログラマブル処理器の一部)を包含する。
【0009】
以下の説明では、本発明の実施形態が、必ずしも限定のためでなく、例として示される。
図1は、本発明のいくつかの実施形態に係る、例示的なステップ走査分光干渉計システム10を示している。干渉計システム10は、広帯域の赤外線光源20と、レーザなどの単色の参照光源22と、広帯域の赤外線光源20およびレーザ22に光学的に結合された干渉計24と、干渉計24に電気的に結合された制御器26とを含んでいる。図1に示す例示的な干渉計は、90°マイケルソン干渉計であるが、以下に説明するシステムおよび方法は、他の干渉計構成とともに使用されてもよい。干渉計24は、ビームスプリッタ30と、ビームスプリッタ30に光学的に結合された、2つの可動式の、横断する方向に向けられた(例えば、互いに直交する)平面鏡32、34と、それぞれビームスプリッタ30に光学的に結合された、赤外線および参照光学検知器46、48とを含んでいる。鏡32は、その反射面に垂直な方向に沿って、直線的に移動することができる。鏡34の位置および方位は、2つの回転軸に沿って調節することが可能であり、鏡32、34の間の相対角および光路に沿った1つの並進方向を制御することができる。鏡32は、リニアモータ(LM)40に機械的に結合されており、リニアモータ40は、鏡32の直線運動(並進)を制御する。鏡34は、3つの素子の圧電変換器(PZT)44に機械的に結合されており、PZT44は、鏡32に対する鏡34の方位および距離を制御し、鏡34のディザーを可能にする。いくつかの実施形態では、PZT44の3つの素子は、鏡34の後面に沿って、三角形状に等間隔に配置されている。3つのPZT素子すべてを同等に駆動することにより並進が実現され、一方、3つのPZT素子を非同等に駆動することにより(例えば、1つまたは2つの要素を、所望の角度変化に従って駆動することにより)鏡の方位の変更を実現する。3つのPZT素子すべてにシヌソイド(正弦曲線)の駆動信号を同等に適用することにより、ディザーを実現してもよい。制御器26は、LM40、PZT44および検知器48に電気的に接続されている。制御器26は、以下に説明するように、検知器48から受信した信号に応答して、LM40およびPZT44の作動を制御する。
【0010】
広帯域の赤外線光源20は、広帯域の赤外線ビーム50を出力して、対象となる分光学的情報を符号化(エンコード)し、一方、レーザ22は、単色の参照ビーム52を生成する。ビーム50、52は、ビームスプリッタ30に入射する。各ビーム50、52について、ビームスプリッタ30は、入射光を分割し、一方の部分を鏡32に、他の部分を鏡34に向ける。鏡32、34により反射された光は、戻って、ビームスプリッタ30を通過し、検知器46、48により検知される。2つの光路に沿って移動する光の間の干渉のために、各検知器46、48により検知される光の強度は、各ビームの干渉部の光路の間の路長差(遅延)を決定する鏡32、34の位置に依存する。
【0011】
単色の参照ビーム52は、干渉計遅延を正確にサーボ制御するために使用される。これは、鏡32の直線位置を制御することにより実現できる。いくつかの実施形態では、鏡32、34の両方が、各鏡での局所的な光路に沿って直線的に移動されてもよい。簡略化のために、以下の説明では、鏡32のみが遅延ステップの間で直線的に移動され、鏡34はディザーされる、システムに注目する。
【0012】
測定を行うために、鏡32の位置が、複数の位置の間でステップ(段階的に移動)され、その際、各位置は、検知器48での単色光のゼロ交差に相当する。各直線並進ステップに続いて、鏡位置をゼロ交差に安定させるために、鏡34は、第1の期間について、交流サーボ制御化でディザーされる。次いで、ディザーが停止され、鏡34の位置は、直流サーボ制御下で維持される。ディザーが停止されており、鏡34が直流サーボ制御下にある間に、対象となるIRデータが収集される。ディザーが停止されている間にデータを収集することによって、検知された信号へディザーにより人為結果が導入されることを低減することができる。このような人為結果を低減することは、時間分解分光法などの高速の用途にとって、特別な関心事である。同時に、位置遅延は、データ取得間隔にわたって、直流サーボ制御を使用することにより維持される。
【0013】
いくつかの実施形態では、鏡32の傾斜を補正するために、鏡34の角度を調節するための備えが設けられている。このような実施形態では、検知器48は、三角形に配列された3つの検知器ユニットを含んでいてもよく、PZT44は、対応する配列の3つのPZTアクチュエータを含んでいてもよい。レーザ22からの拡張されたビームは、干渉計24を通過し、3つの検知器ユニットに入射する。3つの検知器ユニットに接続された位相検知電気回路であって、検知器信号の間の固定的な位相関係を維持し、それによって鏡32に対する傾斜の変動を補正するために、3つのPZTアクチュエータおよび鏡34を角度方向へと駆動するための電気信号を生成するため、3つの検知器ユニットの間の位相差を測定するよう構成された位相検知電気回路を、制御器26は含んでいてもよい。このような多軸の方式を使用して鏡32、34の間の角度を安定させることは、当該技術で公知であり、本発明の実施形態において、上述した交流および直流サーボ時間間隔の両方で、行うことができる。明瞭にするために、以下の説明では、遅延精度を測定するための単一の検知器と、遅延を調節するための単一のPZT(3つの協調されたPZTアクチュエータを含んでいてもよい)に注目する。
【0014】
図2は、本発明のいくつかの実施形態に係る、干渉計光路差(遅延)、ディザー源信号および赤外線(IR)データ収集信号の時間依存性を示している。遅延点に大略的に相当するステップ時間間隔60について考察する。傾斜した期間(インターバル)62中に、所望の位置に鏡32を移動させることにより、行路差が大きくなる。いくつかの実施形態では、傾斜した期間62は、数十マイクロ秒(μs)のオーダの持続時間を有していてもよい。傾斜した期間の端での路長は、単色光のゼロ交差に大略的に相当する。傾斜した期間中、サーボ制御は停止されている。次いで、交流サーボ期間66用の交流サーボ制御、および、第1の期間の直後の直流サーボ期間68中の直流サーボ制御を使用して、平均の鏡位置が、平坦な期間64中、固定されたままとされる。交流サーボ期間66中、ディザーが有効にされる。ディザー周波数は、kHz〜数十kHzのオーダ(例えば、約10 kHz〜20 kHz、より詳しくは16 kHz)であってもよい。交流サーボ制御に使用される第2調波は、ディザー周波数の2倍である。交流サーボは、サーボが停止するまで維持されてもよく、これは、1ms〜10msのオーダで起きてもよい。簡略化のために、図2の行路長差の表示は、交流サーボ期間中のディザーを示していない。ディザーは、直流サーボ期間68中、停止される。過度現象が停止するのに十分な期間(例えば、約1ms〜数ms)ののち、データ収集期間70中に、IRデータが取得される。データ収集期間70の持続時間は、数ナノセカンド(ns)のオーダ(例えば、高速時間分解分光法などの用途用に約5ns)から、他の用途用にmsまたは秒のオーダの範囲までであってもよい。現在の遅延値に関してデータ取得が完了すると、路長が、次の遅延値へと増大され、ディザーが有効にされ、上記サイクルが繰り返される。
【0015】
上記の路長差制御作動は、検知器48から受信したフィードバックデータを使用して、制御器26(図1)により行われる。図3は、本発明のいくつかの実施形態に係る制御器26の構造を示している。図3の回路は、以下に説明するように、交流から直流結合への移行を、ディザーの停止と同時に可能にする。図3の回路はまた、交流から直流結合への切り換え時の中域において、その出力信号の公称値を維持する。制御器26は、アナログ-デジタル(A/D)変換器82、増幅器86およびハイパスフィルタ88を介して検知器48に接続されている入力部を有する復調器80を含んでいる。いくつかの実施形態では、ハイパスフィルタ88は、(直流遮断とは別個の)直流フィードバックにより実現される。復調器80の出力部は、直接に、またはその代わりに、ゲイン(減衰)ステージ92を介して、サーボ制御器90の入力部に接続されているが、これは、ゲイン制御スイッチ102の位置により決定される。図3に示す実施形態では、復調器80、ゲインステージ92およびサーボ制御器90は、以下に説明する作動を行うよう構成されたデジタルハードウェア(論理回路)および/またはソフトウェアを使用して実現されている。A/D変換器がサーボ制御器の前に使用されていない実施形態では、とりわけ復調器80、ゲインステージ92およびサーボ制御器90などの例示的なユニット用のデジタル部品の代わりに、対応するアナログ回路が使用されてもよい。
【0016】
ゲインステージ92は、信号ゲイン(増倍率)Kを導入する。以下に説明するように、ゲインステージ92は、復調器80により2つの態様で行われる異なる作動により生じる交流および直流サーボ態様の間のループゲインの差を補正する。印加されたディザーの強度および/または位置誤差に対する誤差信号感度に従って、適切なK値が決定されてもよい。いくつかの実施形態では、0<K<1であり、より詳しくは0.01<K<0.1であり、特に0.04<K<0.05であり、例えばK=0.043である。例えば、位置誤差信号が、図5を参照して以下に説明する(すなわち、復調器80により設定される位置誤差信号が、交流サーボ動作中は-A+B-C+D領域に比例し、直流サーボ動作中は+A+B+C+D領域に比例する)ように決定され、ディザーが±π/6ラジアンであり、かつ、例示的な位置誤差が0.2ラジアンであるいくつかの実施形態では、約0.043のK値により、交流および直流サーボ動作中の同一の位置誤差について、サーボ制御器90に伝達される、類似の強度の、または実質的に同一の誤差信号が生成されてもよい。
【0017】
サーボ制御器90は、プログラマブル処理器上で駆動する専用の特定用途向けのハードウェアおよび/またはソフトウェアを使用して、実現されていてもよい。サーボ制御器90の直線運動出力部は、LM40に接続されて、LM40の動作を制御している。サーボ制御器90の第2の制御出力部は、加算ブロック112を介して、ディザー源(ディザーエネーブル)回路94の出力部に結合され、PZT44に接続されている。PZT44は、1つ以上の適切に補正された増幅器を介して、加算ブロック112に接続されていてもよい。加算ブロック112は、線形加算増幅器を含んでいてもよい。加算ブロック112は、2つ以上の入力信号の電流を加算してもよい。ディザー源回路94の入力部は、スイッチ100を介して、クロック信号発生器98に接続されている。ディザー源回路94は、所望のディザー周波数(例えば16kHz)で信号を生成することができ、一方、クロック信号発生器98は、ディザー周波数(例えば32kHz)の第2調波で、復調器80用のクロック信号を生成する。シーケンサ96が、クロック信号発生器98からクロック信号を受信し、ハイパスフィルタ88のスイッチ104、スイッチ100、ゲイン制御スイッチ102および復調器80へとシーケンス信号を送信する。シーケンサ96は、復調器80およびスイッチ100、102、104の状態を、交流および直流結合状態の間で変更する。スイッチ104は、レジスタ108に並列接続された時定数制御スイッチ106を備えた交流結合時定数制御ステージを介して、積分器110の入力部を増幅器86の出力部に接続している。積分器110および検知器48の出力部は、加算ブロック114を介して、増幅器86の入力部に接続されている。加算ブロック114は、加算ブロック112について説明したように実現されていてもよい。汎用プロセッサ(CPU)120が、シーケンサ96およびスイッチ106に接続されて、シーケンサ96およびスイッチ106の動作を制御している。スイッチ106は、ハイパスフィルタ88に対して、第1の相対的に低い遮断周波数(例えば、約5Hz)を生成するための高速走査動作のために開き、ハイパスフィルタ88に対して、第2の相対的に高い遮断周波数(例えば、約2kHz)を生成するためのディザー交流結合ステップ走査動作のために閉じる。
【0018】
制御器26の動作は、まず交流結合状態および直流結合状態を順番に考慮することで、よりよく理解できるであろう。交流結合状態と直流結合状態との間の移行は、クロック信号生成器98から受信したクロック信号に従って決定される期間に従い、シーケンサ96によって制御される。交流結合状態では、ディザー源スイッチ100は閉じられており、ディザー源回路94は、スイッチ100を通じて受信したクロック信号を、フィルタリングし、かつ増幅する。ディザー源回路94は、PZT44の周期運動を制御するためのディザー信号を生成する。スイッチ104および106も閉じられており、ハイパスフィルタ88は増幅器86に接続されている。復調器80は交流結合状態に設定されている。ゲイン制御スイッチ102は、ゲインステージ92をバイパスして、復調器80をサーボ制御器90に直接接続している。検知器48により生成されたアナログ信号は、ハイパスフィルタ88によりフィルタリングされ、増幅器86により増幅され、A/D変換器82によりデジタル化される。得られたデジタル信号は復調器80により復調され、ディザー信号の検知された第2調波は、サーボ制御器90への入力として使用される。復調器80の出力は、位置誤差範囲の少なくとも一部に対する位置誤差におおよそ比例している。PZT44の中央位置を調整して、受信した第2調波示標をほぼゼロに低減する制御信号を、サーボ制御器90は生成する。サーボ制御器90はまた、LM40の位置を制御する。いくつかの実施形態では、調整された動的フィードバックを使用して、LM40の位置を制御してもよい。
【0019】
所定の期間が経過したのち(図2を参照)、シーケンサ96は直流結合状態へと切り換える。スイッチ100が開き、ディザー源回路94がオフになる。スイッチ104が開き、ハイパスフィルタ88が接続解除される。復調器80は直流結合状態に設定される。ゲイン制御スイッチ102は、ゲインステージ92をサーボ制御器90に接続する。直流信号が、復調器80を通って伝わり、PZT44に制御信号を印加するために、サーボ制御器90によって使用される。直流サーボ制御信号が、LM40とPZT44との間の行路差を調節して、検知器48のゼロ交差または中点に対応する、検知器48についての固定された出力水準を維持する。
【0020】
図4は、本発明のいくつかの実施形態に係る、交流結合期間および直流結合期間に対する直流オフセットドリフトの存在下での検知器48および増幅器86の出力の時間依存性を示している。直流ドリフトの強度は図4において、説明の目的で誇張されている。交流結合期間中、ディザーは起動され、検知器48の出力は、不変の直流ドリフトに重畳された大略的にシヌソイドの変動を示す。続く直流結合期間中、検知器48および増幅器86の出力は、単色光源強度、ビームスプリッタ効率および検知器感度などの変数について、ドリフトの影響を受けやすくなる。このような時間変化は、秒ないし分のオーダの時間尺度で生じ、直流結合態様で経過する(通常、ミリ秒のオーダの)個々の期間よりも、一般的に緩やかである。
【0021】
いくつかの実施形態では、交流結合と直流結合との間で、制御器26の制御ループパラメータを動的に変化させることにより、過度現象が光学系に導入されて鏡位置決めの精度を乱す場合がある。いくつかの実施形態では、このような過度現象は、図5を参照して以下に説明する復調器制御方法を実施することにより、低減される。
図5は、本発明のいくつかの実施形態に係る、復調器80に関する入力信号、制御信号および出力信号の例示的な時間依存性を示している。図5に示すシステム/方法により、交流サーボ制御から直流サーボ制御への切り換え時に、過度現象を低減することができる。A/D変換器82(図3)から受信した復調器入力は、第2調波周波数変調に重畳されたディザー周波数で、大略的にシヌソイドの変動を示す。クロック信号生成器98(図3)により生成された復調器制御信号は、ディザー周波数の第2調波において、矩形波となっている。
【0022】
ディザー周波数の第2調波の量に比例する直流復調器出力を生成するための交流結合中、復調器80は、A、B、C、Dで示された時間間隔それぞれについて、図5に示す復調器入力曲線下の領域を決定し、時間間隔についての対応する領域を加算することにより、以下のように位置誤差信号を生成する: -A+B-C+D(式中、A、B、C、Dは、図5に示す復調器入力波形により区画された斜線部を示す)。光路差がディザーゼロ交差を中心としている場合、ディザー周波数復調器出力正弦波に対する第2調波ひずみは存在せず、復調器80の出力はゼロとなる。おおよその領域算定が行われてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、A/D変換器82の変換時間が、各領域A/B/C/Dを算出するのに使用されるサンプル/読み出しの数を制限し、それによって領域算出の精度を制限してもよい。例示的な実施形態では、約5ADC読み出しが、各領域を算出するのに使用されている。位置誤差測定の感度を向上させるために、このような読み出しは、計時されて、検知器信号の山/谷およびゼロ交差の周囲に集められてもよい。
【0023】
直流結合中、ディザーは停止されており、復調器80およびサーボ制御器90は、A/D変換器82により生成された被検知信号のサンプリング(または通過)のみを行うよう構成されていてもよい。復調器80は、復調器入力領域+A+B+C+Dを加算して、位置誤差信号を生成する。復調器出力は、位置誤差に対して交流結合中よりも感度がよく、ゲインステージ92(図3)を使用してループゲインの増加を補正し、所望のサーボループ過度現象挙動を維持することができる。復調器80、ゲインステージ92およびスイッチ102により形成された複合回路の出力の倍率変更は、作動の交流態様および直流態様の両方で同じであり、サーボ制御器90の作動は、2つの態様中に変化しないままとすることができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、ディザーが停止され、制御器26が交流サーボ制御から直流サーボ制御に切り換わった時点で、残余位置誤差が存在しているかもしれない。電子増幅器の固有の入力オフセットにより、残余オフセットが生じるかもしれず、積分器110の入力の切り換えにより、容量電荷が導入されるかもしれない。残余オフセットは、ハイパスフィルタ88によって固定されていても、増幅器86の出力に出現する場合がある。また、検知器信号がゼロ交差を通過しなかった時点でディザーが停止された場合、オフセットが起こる場合がある。直流が交流結合処理により中央目盛りに制限されている場合、このような残余位置誤差が直流サーボ制御電気回路に伝達されない場合がある。各遅延ステップでの再現可能な位置誤差(例えば、不変の直流オフセット)は、分析結果の質に限定的な影響しか及ぼさない場合もあるが、過渡振動により生じる誤差などの非反復性の誤差は、交流サーボ制御から直流サーボ制御への切り換え時に補正されない場合、重大な位置誤差につながる可能性がある。
【0025】
いくつかの実施形態では、交流サーボ制御態様で復調器80により行われる最後の位置誤差算出が、直流サーボについての基準として使用される。次いで、直流サーボ下での第1の測定をサーボ基準入力に加算して、電子的なオフセットを補正することができる。その結果、直流サーボシステムは、オフセットに照準を合わせて、所望の干渉計路差を実現することになる。特に、交流サーボ制御から直流サーボ制御への切り換えがディザーゼロ交差と同時に計時された場合、交流作動の終了時のハイパスフィルタ88の出力は、おおよそゼロとなる。次いで、残余位置誤差のために、いくらかのディザー第2調波が依然存在していた場合であっても、直流水準はゼロとなる。これは、第2調波の存在が、ゼロ交差の相対的なタイミングに重大な影響を与えないからである。第2調波信号がこのようにして存在するのは、振動などの外的な影響のためである場合がある。サーボ制御が直流に切り換わったときに、ゼロの検知器出力値が位置誤差を示しておらず、それゆえに、交流サーボ制御態様で復調器80により行われた最後の位置誤差算出が、基準として使用されなかった場合、サーボ90は、遅延が補正されなかった場合であっても、位置補正を適用しないことになる。交流サーボ制御態様で復調器80により行われた最後の位置誤差算出が、(ゼロの代わりに)基準として使用された場合、直流サーボが、復調器80の出力を基準水準に等しくなるように設定する位置へと、遅延を駆動する。
【0026】
明瞭にするために、図3を参照する例示的な制御器構造の説明では、ステップ走査干渉計制御器の参照(遅延制御)チャネルに注目する。いくつかの実施形態では、干渉計制御器は、上述したようにシステム遅延を制御する参照(R)サーボチャネルと、鏡32、34の相対角度を制御するための角度制御(A、B)チャネルとを含んでいてもよい。このようなシステムでは、各角度制御チャネルは、別体の(専用の)光検知器、ハイパスフィルタ、A/D変換器、復調器、サーボ制御器およびPZT素子を含んでいてもよい。このような角度制御チャネルは、クロック、CPU、ディザー源回路およびシーケンサなどの多数の構成要素と、参照チャネル接続を共有していてもよい。シーケンサは、上述したように、交流サーボ制御と直流サーボ制御との間で、各角度制御チャネルの切り換えを制御する。
【0027】
上記システムおよび方法は、対象となる分光データに対するディザーの影響を軽減することができる。この影響は、高速時間分解分光法などの高速用途で特別に懸念される場合がある。高速用途では、ディザー周波数は、対象となる赤外線周波数の範囲より必ずしもはるかに高いわけではなく、それゆえに、容易に低域(ローパス)フィルタリングすることができない。ディザーは依然として、調整の初期期間用に使用されるが、次いで停止されて、ディザーノイズのない状態でデータ取得ができるようにする。次いで、サーボ制御が直流に切り換えられ、交流サーボがオフにされてデータが取得されている間、遅延位置に保持される。
【0028】
いくつかの実施形態では、ステップ走査干渉計は、その遅延をナノメートル以下(サブナノメートル)の精度に維持することができるが、外乱の影響を受けやすい。特に、サーボシステムからの電気的な過度現象は、PZTアクチュエータにエネルギーを注入する場合があり、これは干渉計機械構造中に共振を励起する場合がある。このような共振は、光源の追加の変調につながる場合があり、これは分析結果に悪い影響を及ぼす場合がある。このような共振は、サーボ制御システムの帯域を超える場合があり、それゆえに、サーボにより補正することができない。このような共振は、自然に減衰するのに時間がかかる場合がある。
【0029】
図5に示す方法により、交流サーボ制御から直流サーボ制御へと切り換わったときに、過度現象を低減することができる。図5に示す方法では、復調器80によって行われる算出を切り換え、選択可能なゲイン係数Kを適用して単一の二重態様(デュアルモード)交流/直流サーボ制御器用に共通の入力換算を維持する。サーボ制御器は、関連する内部遅れを有していてもよい。例えば、比例積分(PI)または比例積分微分(PID)制御器が、定常状態に達するために時間がかかる積分器などの記憶素子を含んでいてもよい。交流および直流サーボ制御用に別体のサーボ制御器を使用することは、交流サーボ制御と直流サーボ制御との間での切り換え後に、サーボ出力過度現象挙動へとつながる場合がある。これは、サーボ記憶素子が充電し、サーボ制御器が平衡状態に達するためである。交流サーボ制御態様および直流サーボ制御態様の両方に対し、同一のサーボ制御器および入力倍率変更を使用することで、定常状態の交流および直流作動について、サーボ内部記憶素子コンテンツに同一または類似の値を持たせることができ、それゆえに、交流サーボ制御態様および直流サーボ制御態様の間の切り換えにより生じるサーボ出力に対する影響を低減することができる。
【0030】
上記実施形態を、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの仕方で変更できることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲およびその法的な均等物により決定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップ走査干渉計において、光路長差を第1の値から第2の値へとステップ的に変化させる工程と、
前記第2のステップ値で前記路長差を安定させるために、第1の時間間隔について、交流サーボ制御下で、干渉計鏡ディザーを有効にする工程と、
前記第1の時間間隔に続く第2の時間間隔について、交流サーボ制御下で、前記鏡ディザーを無効にし、干渉計鏡位置直流サーボ制御を有効にする工程と、
交流サーボ制御下での前記鏡ディザーを無効にしている間に、干渉計サンプルデータ収集を行う工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記第1の時間間隔について、-A+B-C+Dに比例する交流サーボ入力信号を設定する工程であって、式中、A、B、CおよびDは、それぞれがディザー期間の4分の1に等しい4つの等しくかつ連続した時間間隔にわたる、路長差光検知器信号の時間積分を示す工程と、
前記第2の時間間隔について、A’+B’+C’+D’に比例する直流サーボ入力信号を設定する工程であって、式中、A’、B’、C’およびD’は、それぞれが前記ディザー期間の4分の1に等しい4つの等しくかつ連続した時間間隔にわたる、前記路長差光検知器信号の時間積分を示す工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の時間間隔中に、交流サーボ入力信号を生成するために、第1の値を有する交流サーボ入力信号ゲインを前記路長差光検知器信号に与える工程と、
前記第2の時間間隔中に、直流サーボ入力信号を生成するために、前記第1の値と異なる第2の値を有する直流サーボ入力信号ゲインを前記路長差光検知器信号に与える工程とをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の時間間隔中に測定された最後の誤差位置を、前記第2の時間間隔についてオフセットされた初期位置になるように設定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の時間間隔中および前記第2の時間間隔中に、路長差光検知器信号をサーボ入力として提供する工程と、
前記第1の時間間隔について、前記路長差光検知器信号にハイパスフィルタを適用する工程と、
前記第2の時間間隔について、前記路長差光検知器信号にハイパスフィルタを適用しない工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記光路長差を前記ステップ的に変化させることを行うために、リニアモータに取り付けられた第1の干渉計鏡の位置を制御する工程と、
前記干渉計鏡ディザーを行うために、圧電変換器に取り付けられた第2の干渉計鏡の位置を制御する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ走査干渉計において、光路長差を第1の値から第2の値へとステップ的に変化させるように構成された少なくとも1つのアクチュエータと、
前記少なくとも1つのアクチュエータに接続されたシステム制御器とを含み、前記システム制御器が、
前記第2のステップ値で前記路長差を安定させるために、第1の時間間隔について、交流サーボ制御下で、干渉計鏡ディザーを有効にし、
前記第1の期間に続く第2の時間間隔について、交流サーボ制御下で、前記鏡ディザーを無効にし、干渉計鏡位置直流サーボ制御を有効にし、
交流サーボ制御下での前記鏡ディザーを無効にしている間に、干渉計サンプルデータ収集を行うように構成されている、装置。
【請求項8】
前記システム制御器が、
前記第1の時間間隔について、-A+B-C+Dに比例する交流サーボ入力信号を設定するように、さらに構成されており、式中、A、B、CおよびDは、それぞれがディザー期間の4分の1に等しい4つの等しくかつ連続した時間間隔にわたる、路長差光検知器の時間積分を示し、
前記第2の時間間隔について、A’+B’+C’+D’に比例する直流サーボ入力信号を設定するように、さらに構成されており、式中、A’、B’、C’ およびD’は、それぞれが前記ディザー期間の4分の1に等しい4つの等しくかつ連続した時間間隔にわたる、前記路長差光検知器の時間積分を示す、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記システム制御器が、
前記第1の時間間隔中に、交流サーボ入力信号を生成するために、第1の値を有する交流サーボ入力信号ゲインを前記路長差光検知器信号に与えるように、さらに構成されており、
前記第2の時間間隔中に、直流サーボ入力信号を生成するために、前記第1の値と異なる第2の値を有する直流サーボ入力信号ゲインを前記路長差光検知器信号に与えるように、さらに構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記システム制御器が、前記第1の時間間隔中に測定された最後の誤差位置を、前記第2の時間間隔についてオフセットされた初期位置となるように設定するように、さらに構成されている、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記システム制御器が、
前記第1の時間間隔中および前記第2の時間間隔中に、路長差光検知器信号をサーボ入力として提供するように、さらに構成されており、
前記第1の時間間隔について、前記路長差光検知器信号にハイパスフィルタを適用するように、さらに構成されており、
前記第2の時間間隔について、前記路長差光検知器信号にハイパスフィルタを適用しないように、さらに構成されている、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
前記システム制御器が、
前記光路長差を前記ステップ的に変化させることを行うために、リニアモータに取り付けられた第1の干渉計鏡の位置を制御するように、さらに構成されており、
前記干渉計鏡ディザーを行うために、圧電変換器に取り付けられた第2の干渉計鏡の位置を制御するように、さらに構成されている、請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−169891(P2011−169891A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−5030(P2011−5030)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】