説明

平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法、および製造装置

【課題】長時間鋳造を行っても黒筋故障の発生を防止することができる平版印刷板用アルミニウム合金板の製造方法および製造装置の提供。
【解決手段】アルミニウム溶湯を、濾過手段、該濾過手段に連結した溶湯流路、該溶湯流路に連結した液面制御手段、および該液面制御手段に連結した溶湯供給ノズルを順次通過させる工程を含む、連続鋳造法による平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記アルミニウム溶湯が、アルミニウム原材料を溶解して得られた溶湯に、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金を添加溶融させたアルミニウム溶湯であり、前記アルミニウム溶湯が前記流路を通過するtが下記式(1)を満たす、平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法。
t(sec)≧270×1.2×D ・・・(1)
(式(1)中、Dは前記流路の溶湯深さ(m)である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法に関する。また、本発明は、該平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法に用いる平版印刷版用アルミニウム合金板の製造装置に関する。また、本発明は、該平版印刷版用支持体の製造方法により得られる平版印刷版用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造法による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法、すなわち、アルミニウム原材料を溶解し、得られたアルミニウム溶湯に濾過処理を施した後、該アルミニウム溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、該一対の冷却ローラによってアルミニウム溶湯を凝固させつつ圧延を行ってアルミニウム合金板を形成する鋳造工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、仕上げ冷間圧延工程、および平面性矯正工程を経て板厚0.1〜0.5mmのアルミニウム合金板とする、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、その工程がシンプルであることから、いわゆる、DC鋳造工程、面削工程、均熱工程、加熱工程、熱間圧延工程からなる従来の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法に比べて、ロスが少なく得率が優れる、工程の変動を受けにくい、初期設備コスト、ランニングコストが安い等のメリットがあるが、その一方、黒筋故障のような、連続鋳造法特有の故障が発生しやすい問題があるため、平版印刷版のように表面品質の要求レベルが高い材料には適用が難しいと言われており、これまでに本願出願人らは、この問題を解決するため鋭意検討を重ねてきた。
【0003】
連続鋳造を実施する際、アルミニウム溶湯には、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金が添加される。アルミニウム溶湯中に添加溶融されたチタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金から生じたTiB2粒子が鋳造時の結晶組織微細化材として作用する。TiB2粒子は、単独では1〜2μm、厚さ0.1〜0.5μmの薄板状の粒子であるが、この粒子は集合体を形成しやすく、粒径100μm以上の集合体(以下、本明細書において、「TiB2粗大粒子」という。)が鋳造板に混入すると、該鋳造板に圧延や焼純、あるいはそのいずれかを行って薄板に仕上げたとき、薄板の表面に断続的に黒い筋状の故障が発生することがあり、この黒い筋状の故障のことを黒筋故障という。
【0004】
例えば、これまでに、本願発明者らは、黒筋故障を防止する方法として、特許文献1に、Ti及びBを含むアルミニウム合金を添加してなるアルミニウム溶湯を、フィルタ槽を用いてろ過した後、連続鋳造圧延を行う工程を有し、ここで前記アルミニウム溶湯は、前記フィルタ槽内のフィルタ前室、Ti及びBを含む合金中に存在するTi及びBの化合物よりなる粒径10μm以上の単一粒子もしくは該化合物が複数個集合してなる粒径10μm以上の凝集物の通過を阻止するフィルタ、およびフィルタ後室の順に通過するとともに、前記フィルタ前室、フィルタおよびフィルタ後室は、ヒータによって加熱されていることを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法を開示しており、前記フィルタが直径5mm以下の耐熱性を有する粒子の集合体からなること、および前記フィルタが直径0.5〜2.0mmの耐熱性を有する粒子を焼結してなるセラミックチューブフイルタであることを開示している。
しかしながら、このような精密なろ材を用いても長時間鋳造を行うと(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行うと)黒筋故障が発生することがわかった。
【0005】
そこで、本願発明者らは、先に、特許文献2にて、黒筋故障を防止する方法として、溶湯を溶湯供給ノズルから鋳造圧延手段に供給し、前記鋳造圧延手段にて前記溶湯を鋳造圧延して鋳造板を形成する連続鋳造圧延装置において、前記溶湯が前記溶湯供給ノズルまで流れる流路の底面に凹部を形成して、前記溶湯に含まれる不純物を前記凹部に沈降させることを特徴とする連続鋳造圧延装置、及び前記凹部の深さは前記流路の深さの2〜5倍で、前記凹部の流れ方向の開口部長さは前記流路の深さの1〜10倍であることを特徴とする前記連続鋳造圧延装置を開示している。ところが、この装置を用いても、長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、凹部に沈降しなかったTiB2粗大粒子が鋳造板に混入し、黒筋故障発生に繋がる不具合があることがわかった。
【0006】
更に、本願発明者らは、この凹部に工夫をして黒筋故障を防止する方法として、特許文献3にて、アルミニウム溶湯の流路底面に、流れ方向に対して前の上端部に切欠を有する凹部を設けた連続鋳造圧延装置を用いたアルミニウム板の製造方法、さらに、流れ方向に対して後の上端部にも切欠を有する凹部を設けた連続鋳造圧延装置を用いたアルミニウム板の製造方法を開示している。ところが、この方法でも長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、黒筋故障を防止できないことがわかった。
【0007】
そこで、本願発明者らは、更にこの凹部に工夫をして黒筋故障を防止する方法として、特許文献4にて、溶湯をノズルから鋳造圧延手段に供給し、鋳造圧延手段で連続鋳造圧延を行う装置において、凹部に撹拌手段を設け、該攪拌手段によって凹部近傍の溶湯を攪拌することにより溶湯のよどみを防止する連続鋳造圧延装置を開示している。ところが、この装置を用いても、長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、一旦凹部に沈降したTiB2粗大粒子を再度巻き上げ、下流に送ってしまうことで、黒筋故障に繋がる不具合があることがわかった。
【0008】
【特許文献1】特許第3549080号公報
【特許文献2】特開平11−47892号公報
【特許文献3】特開平11−254093号公報
【特許文献4】特開2000−24762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、長時間鋳造を行っても(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行っても)、黒筋故障の発生を防止することができる平版印刷板用アルミニウム合金板の製造方法、および該平版印刷板用支持体用アルミニウム合金板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上述べたように、本願発明者らは、黒筋故障を防止するためには、TiB2粗大粒子の通過を阻止する精密な濾過手段を用いることはそれ自体望ましいことではあるが、長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、黒筋故障を防止するには、精密な濾過手段の使用のみでは不十分であることを確認した。この知見に基づいて、更に鋭意検討を進めた結果、本願発明者らは、濾過手段よりも下流におけるTiB2粒子の挙動に着目することが重要であることを見出し、本願発明に至った。
本願発明者らは、模擬流路及び模擬液を用いた実験により、濾過手段よりも下流におけるTiB2粒子の挙動に関して以下の知見を得た。
【0011】
第1の知見は、いかに精密な濾過手段であっても、その設置方法、濾過手段と溶湯流路との嵌め合い精度によっては数100μmオーダーの隙間が生じる場合が皆無ではなく、長時間鋳造を行う中では(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中では)、このような隙間から粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が流出する可能性を皆無にはできないことである。
濾過手段をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子は、時間と共に沈降し、流路の底に沈むが、アルミニウム溶湯の流速が大きい場合や、溶湯流路の長さが短い場合、TiB2粗大粒子は流路の底に沈むことなく、液面制御手段や溶湯供給ノズルを通過して、鋳造板に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合を生じる。
【0012】
一方、粒径100μm未満のTiB2粒子は、単独では黒筋故障の原因とはならず、溶湯供給ノズル経て冷却ロールでアルミニウム溶湯を連続鋳造する際に、結晶組織微細化材として機能する。しかしながら、第2の知見として、TiB2粒子はその比重が約4.4g/cm2であり、溶解中のアルミニウムの比重約2.4g/cm2に比べて大きいため、粒径100μm未満のTiB2粒子であっても、下流へと移動する過程で徐々に流路の底に向かって沈降し、その一部は溶湯流路や液面制御手段、及び液面制御手段に連結された溶湯供給ノズルの底に蓄積する。
長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、溶湯流路や液面制御手段、及び液面制御手段に連結された溶湯供給ノズルの底に蓄積した粒径100μm未満のTiB2粒子は、やがて、凝集して粒径100μm以上のTiB2粗大粒子となる。このTiB2粗大粒子がアルミニウム溶湯の流速の変化等によって下流へと流出して、鋳造板に混入することにより黒筋故障を発生する不具合を生じる。
【0013】
また、濾過手段をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が溶湯流路や液面制御手段、及び液面制御手段に連結された溶湯供給ノズルまで到達して、それらの底に沈降した場合、このTiB2粗大粒子、またはTiB2粗大粒子が核になって凝集して一層粗大化した粒子が、アルミニウム溶湯の流速の変化等によって下流に流出して、鋳造板に混入することにより黒筋故障を発生する不具合を生じる。
【0014】
以上の知見に基づいて、実際のアルミニウム溶湯を用いた連続鋳造試験を行い、以下に述べる本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法によれば、粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が下流に流出して鋳造板に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合が生じることを防止できることを見出した。
すなわち、以下に述べる本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法によれば、濾過装置よりも下流におけるTiB2粒子の挙動に関する、上記した2つの状況が発生した場合であっても、TiB2粗大粒子が下流に流出して鋳造板に混入することにより黒筋故障を発生する不具合が生じるのを防止することができる。
【0015】
本発明は、アルミニウム溶湯を、濾過手段、該濾過手段に連結した溶湯流路、該溶湯流路に連結した液面制御手段、および該液面制御手段に連結した溶湯供給ノズルを順次通過させる工程を含む、連続鋳造法による平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法であって、
前記アルミニウム溶湯が、アルミニウム原材料を溶解して得られた溶湯に、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金を添加溶融させたアルミニウム溶湯であり、
前記アルミニウム溶湯は、前記流路を下記式(1)で表される時間tで通過するものである、平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法を提供する。
t(sec)≧270×1.2×D ・・・(1)
(式(1)中、Dは前記流路の溶湯深さ(m)である。)
【0016】
また、本発明は、上記した平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法に用いる平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置であって、濾過手段、該濾過手段に連結した溶湯流路、該溶湯流路に連結した液面制御手段、および該液面制御手段に連結した溶湯供給ノズルを有し、前記溶湯流路における前記アルミニウム溶湯の流速をV(m/sec)、前記溶湯流路の溶湯深さをD(m)とした場合に、前記溶湯流路の長さL(m)が下記式(2)を満たす長さである、平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置を提供する。
4≧L≧V×270×1.2×D ・・・(2)
【0017】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造装置において、前記液面制御手段内に、アルミニウム溶湯中に存在する沈降粒子をトラップする手段を1カ所以上設けることが好ましい。
また、本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造装置において、前記溶湯供給ノズル内に、アルミニウム溶湯中に存在する沈降粒子をトラップする手段を1カ所以上設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法によれば、長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、濾過手段をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が、液面制御手段及び溶湯供給ノズルに到達することなく、第2の溶湯流路の底に沈降するため、該TiB2粗大粒子が鋳造板に混入して黒筋故障を発生する不具合を防止することができる。また、第2の溶湯流路の長さLが4m以下であるため、第2の溶湯流路を通過する途中でアルミニウム溶湯100の温度が低下して、アルミニウム溶湯100の一部が凝固を始めるおそれがない。
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、液面制御手段内にアルミニウム溶湯中に存在するTiB2粗大粒子をトラップする手段を1カ所以上設けることにより、第2の溶湯流路や液面制御手段の底に沈降した粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が、アルミニウム溶湯の流速の変化等によって流出して鋳造板に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合を防止することができる。
また、溶湯供給ノズル内にアルミニウム溶湯中に存在するTiB2粗大粒子をトラップする手段を1カ所以上設けることにより、溶湯供給ノズル内に沈降した粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が、アルミニウム溶湯の流速の変化等によって流出して鋳造板に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法の好ましい実施形態について説明する。図1は本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法に用いる連続鋳造圧延装置の1実施形態を示した模式図である。図1に示す連続鋳造圧延装置1において、溶解保持炉2には、アルミニウム合金のインゴットが溶解されたアルミニウム溶湯100が溜められている。
平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する場合、溶湯はアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含有する。異元素の具体例としては、Fe、Si、Cu、Zn、Mg、Mn、B、Ti等が挙げられる。溶湯中の異元素の含有量は合計で10質量%以下である。以下、本明細書において、パーセント表記は全て質量%を示す。
【0020】
各微量元素の望ましい添加量について説明する。
Fe:Feは強度とアルカリエッチング速度に関係する元素であり、意図的に含有させることが望ましい。0.15%≦Fe≦0.5%が望ましく、より望ましくは0.20%≦Fe≦0.45%。更に望ましくは0.25%≦Fe≦0.40%とする。
Siは電解粗面化性と、アルカリエッチング速度に関係する元素であり、意図的に含有させることが好ましい。0.05%≦Si≦0.35%が望ましく、より望ましくは0.08%≦Si≦0.20%、更に望ましくは0.09%≦Si≦0.15%とする。
Cu:Cuは任意の元素であるが、電解粗面化性に大きく関係する。Cu≦0.1%が望ましく、より望ましくはCu≦0.05%。更に望ましくは0.001%≦Cu≦0.04%以下とする。
Zn:Znはアルミニウム合金板の電気化学的粗面化処理性を所望の範囲に制御するために、Zn≦0.05%以下含有することができる。
Mg,Mn:MgおよびMnは、所望の機械的特性のアルミニウム合金板を得るために、それぞれMg≦1.5%以下、Mn≦1.5%以下含有することができる。
TiおよびBは、鋳造時の割れ発生防止のために、結晶組織微細化材として溶湯に供給される。結晶組織微細化材については後ほど詳述する。
【0021】
溶湯の残部は、アルミニウムおよび不可避不純物からなる。不可避不純物としては、例えば、Cr、Zr、V、Be、Gaが挙げられる。これらはそれぞれ0.05%以下の範囲で含有することができる。不可避不純物の大部分は、アルミニウム合金インゴット中に含有される。不可避不純物は、例えば、アルミニウム純度99.7%のインゴットに含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structurand properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0022】
溶解保持炉2は、溶解保持炉傾動機21を備え、この溶解保持炉傾動機21の電動モーターを駆動することによって傾動される。これにより、溶解保持炉2内に溜められたアルミニウム溶湯(以下、「溶湯」とする。)100が第1の流路3に注入される。第1の流路3には該流路3内の液位を検出するレベル計(図示しない)が設けられ、このレベル計は、制御装置(図示しない)を介して溶解保持炉傾動機21に接続されている。制御装置は、レベル計の検出液位に基づいて溶解保持炉傾動機21を制御して、第1の流路3内の液位を調整する。
【0023】
第1の流路3において、溶湯100には、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金からなる結晶組織微細化材ワイヤ200が添加される。溶湯100に添加された結晶組織微細化材ワイヤ200は、溶湯100中で溶融し、TiB2粒子を生じる。このTiB2粒子が鋳造時に結晶組織微細化材として機能する。TiB2粒子は、単独では長さ1〜2μm、厚さ0.1〜0.5μmの薄板状の粒子であるが、この粒子は集合体を作りやすく、100μm以上の集合体が鋳造板に混入すると、圧延、表面処理を行った後に、黒筋故障として視認される。
チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金からなる結晶組織微細化材ワイヤ200を添加する際、溶湯100に含まれるチタンおよびホウ素の量が以下を満たすように添加することが望ましい。
Ti:0.005%≦Ti≦0.1%が望ましく、より望ましくは0.01%≦Ti≦0.05%、更に望ましくは、0.012%≦Ti≦0.03%とする。
B:0.001≦B≦0.02%が望ましく、より望ましくは0.002%≦B≦0.01%、更に望ましくは0.0024%≦B≦0.006%とする。
なお、図1では、第1の溶湯流路3で結晶組織微細化材ワイヤ200を添加溶融する例を示したが、これに限らず、例えば、溶解保持炉2で結晶組織微細化材ワイヤ200を添加してもよい。
【0024】
第1の流路3で結晶組織微細化材ワイヤ200が添加された溶湯100は、TiB2粒子を分散させた状態で濾過手段4へと送られる。
なお、図示しないが、第1の溶湯流路3の途中に脱ガス装置を設け、結晶組織微細化材ワイヤ200を添加した後、濾過処理を行う前に溶湯100中の脱ガス処理(脱水素ガス処理)が行うことが好ましい。脱ガス装置としては、SNIFF式、GBF等の市販されている方式の回転式脱ガス装置を使用できる。
【0025】
図1では濾過手段4として、連続鋳造圧延装置においてアルミニウム溶湯の濾過手段に通常使用されるセラミックフォームフィルタ41を用いた濾過手段を示している。この目的で使用されるセラミックフォームフィルタ41としては、例えば、厚さ50mm、メッシュ30ppiのセラミックフォームフィルタが例示される。
【0026】
濾過手段4として、セラミックフォームフィルタ41、例えば、厚さ50mm、メッシュ30ppiのセラミックフォームフィルタを使用した場合、確率的に粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が通過して、下流に流出する可能性がある。また、セラミックフォームフィルタ41の取り付けに100μmを超える隙間がある場合、粒径100μm以上のTiB2粗大粒子がこの隙間をすり抜けて下流に流出することになる。
このようなTiB2粗大粒子の流出の可能性を減らすためには、特許文献1に記載の濾過手段、すなわち、フィルタ前室、TiおよびBの化合物よりなる粒径10μm以上の粒子の通過を阻止するフィルタ、およびフィルタ後室からなり、フィルタ前室、フィルタおよびフィルタ後室がヒータによって加熱される濾過手段を用いることが好ましい。フィルタとしては、直径5mm以下の耐熱性を有する粒子の集合体からなるものを用いることが好ましく、直径0.5〜2.0mmの耐熱性を有する粒子を焼結してなるセラミックチューブフイルタを用いることがより好ましい。
但し、このような精密な濾過手段を用いた場合であっても、その設置方法、濾過手段と溶湯流路との嵌め合い精度によっては数100μmオーダーの隙間が生じる場合が皆無ではなく、長時間鋳造を行う中では(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中では)、このような隙間から粒径100μmのTiB2粗大粒子がすり抜けることを皆無にはできない。
濾過手段4をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子は、時間と共に沈降し、第2の溶湯流路5の底に沈むが、溶湯100の流速が大きい場合や第2の溶湯流路5の長さが短い場合には、TiB2粗大粒子は第2の溶湯流路5の底に沈むことなく、液面制御手段6や溶湯供給ノズル7を通過して、鋳造板300に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合を生じる。
【0027】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法では、第2の溶湯流路5における溶湯100の通過時間t(sec)を、溶湯100の平均流速V(m/sec)、第2の溶湯流路5の溶湯深さD(m)、溶湯100の密度および粘性係数、TiB2粗大粒子の密度および粒径に応じて計算される実験式によって設定される時間以上にすることで、濾過手段4をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子を第2の溶湯流路5の底に沈降させ、該TiB2粗大粒子が、下流、図1では、液面制御手段6に到達することを防止する。
具体的には、第2の溶湯流路5における溶湯100の通過時間t(sec)が、下記式(1)を満たすようにする。
t(sec)≧270×1.2×D ・・・(1)
式(1)中、Dは第2の溶湯流路5の溶湯深さ(m)である。
【0028】
以下式(1)の技術的な意義を説明する。
一般に粘性流体中で 物質が液抵抗を受けながら落下する際、Stokes則による終末速度が存在することが知られている。即ち、落下後速度が増すと共に流体から受ける抵抗が増え、一定の落下速度に収斂したものが終末速度と呼ばれ、レイノルズ数(以下、「Re」と表記)に応じて下式(3)により求めることができる。なお、本願の溶湯100の条件、および問題となるTiB2粗大粒子の粒径から、Reは1未満になるため、ここではRe<1の場合のみを検討した。
Re<1 の時
終末速度vt(m/s)=g(ρp−ρf)d2/(18×μ)・・・(3)
式(3)において、それぞれ以下を表す。
g:重力加速度(m/s2
ρp:落下する粒子の密度(kg/m3
ρf:流体の密度(kg/m3
d:落下する粒子の径(m)
μ:粘性係数(Pa・s)
また、Re=v×d×ρf/μであり、式中のvは流体と粒子の相対速度を表す。
【0029】
式(3)において、g=9.8(m/s2)、TiB2粗大粒子のρp=4400(kg/m3)、溶湯100のρf=2400(kg/m3)、TiB2粗大粒子の粒子径d=100μm=0.0001(m)、溶湯100のμ=0.0029(Pa・s)で計算すると、終末速度vt=3.75×10-3 (m/s)となる。
【0030】
この終末速度vtにて、第2の溶湯流路5における溶湯100の最表層から第2の溶湯流路5の底までの距離(すなわち、第2の溶湯流路の溶湯深さD)をTiB2粗大粒子が移動する時間tは、
t=D/vt ≒ 270D となる。
【0031】
これを参考にしながら、図1の第2の溶湯流路5および液面制御手段6を模して、透明な塩化ビニルを用いて作成した模擬流路実験装置で、模擬流体(水にPVAを添加し、粘性係数μ=0.0029Pa・sに合わせた液、密度=約1000kg/m3)と、該模擬流体との密度差をTiB2粗大粒子と溶湯100との密度差=4400−2400=2000と同じになるように調整した模擬粒子(窒化珪素(Si34)、粒径=約100μm、密度=約3000kg/m3)と、を使って、模擬流体を水平方向に流れながら、模擬粒子が第2の溶湯流路5における溶湯100の表層から第2の溶湯流路5の底まで沈降するのに掛かる時間を測定したところ、
t=D/vt ≒ 270Dに対して、若干時間が掛かることが分かった。
各種条件で実験を重ねた結果、t=1.2×D/vt ≒ 270×1.2×Dとすることで、粒径約100μmの模擬粒子は第2の溶湯流路5内で沈降し、模擬液面制御手段まで到達しないことが分かった。
【0032】
したがって、溶湯100が第2の溶湯流路5を通過する時間tを、上記式(1)を満たすようにすることで、粒径100μm以上のTiB2粗大粒子を第2の溶湯流路5の底に沈降させ、該TiB2粗大粒子が液面制御手段6に到達するのを防止できる。この考え方によれば、tの値が大きければ大きいほど、第2の溶湯流路5の底にTiB2粗大粒子が沈降するので好ましいことになるが、実際にはtの値を過度に大きくすると、第2の溶湯流路5を通過する途中で溶湯100の温度が低下し、溶湯100の一部が凝固を始める懸念がある。この点からtは150秒以内が望ましく、より望ましくは120秒以内、更に望ましくは90秒以内とする。
ここで、溶湯100が第2の溶湯流路5を通過する時間tの制御は、第2の溶湯流路5の溶湯深さDを変える方法、鋳造速度を変えることで、アルミニウム溶湯100の流速を変える方法、および次に説明する第2の溶湯流路5の長さLを変える方法のいずれか、またはこれらの組み合わせを使用することで可能となる。
なお、第2の溶湯流路5の溶湯深さDは、どのような値でも良いわけではなく、溶湯100の温度安定性の面からD=0.05〜0.4mであることが望ましく、より望ましくはD=0.10〜0.30m、更に望ましくはD=0.10〜0.25mとする。
【0033】
第2の溶湯流路5の長さLを変える方法では、下記式(2)を満たすように、第2の溶湯流路5の長さL(m)変えればよい。
4≧L≧V×270×1.2×D ・・・(2)
上記式(2)中、Vは第2の溶湯流路5における溶湯100の流速(m/sec)、Dは第2の溶湯流路5の溶湯深さ(m)を表す。
なお、第2の溶湯流路5における100の流速Vは、溶湯100の単位時間あたりの供給量を第2の溶湯流路5の断面積で除することで、第2の溶湯流路5内の平均流速として求まる。溶湯100の単位時間あたりの供給量は、鋳造板300の単位時間あたりの質量を基に、鋳造板300の密度(2700kg/m3)、及び溶湯100の密度(2400kg/m3)を使って正確に算出することができる。
第2の溶湯流路5での溶湯100の水平方向の平均流速をV(m/s)とすると、時間t(TiB2粗大粒子が第2の溶湯流路5の溶湯深さDを移動する時間)で、溶湯100が第2の溶湯流路5を水平方向に移動する距離は、
L=V×t=270×1.2×D×Vとなる。
したがって、第2の溶湯流路5の長さLを270×1.2×D×Vよりも大きくすれば、粒径100μm以上のTiB2粗大粒子を第2の溶湯流路5の底に沈降させ、液面制御手段6に到達するのを防止できる。この考え方によれば、Lの値が大きければ大きいほど、第2の溶湯流路5の底にTiB2粗大粒子が沈降するので好ましいが、実際には、Lの値を過度に大きくすると、第2の溶湯流路5を通過する途中で溶湯100の温度が低下し、溶湯100の一部が凝固を始める懸念がある。このため、Lは4mを超えないようにする必要があり、望ましくは3m以内である。
【0034】
図中の6は液面制御手段である。ここでは、液面レベルセンサ61に応じてバルブ62を開閉して溶湯100の供給量を制御することで、溶湯100の液面を略一定に保つ。液面制御手段6の出口側開口部は溶湯供給ノズル7と連通している。該溶湯供給ノズル7は、一定間隔の距離(例えば、数mmから10mm程度)を保って位置決めされた二つの冷却ローラ8,8の間に溶湯100を供給する。
【0035】
粒径100μm未満のTiB2粒子は、溶湯供給ノズル7経て冷却ロール8,8で溶湯100を連続鋳造する際に結晶組織微細化材として機能するものであるが、TiB2粒子はその比重が約4.4g/cm2であり、溶解中のアルミニウムの比重約2.4g/cm2に比べて大きいため、粒径100μm未満のTiB2粒子であっても、下流へと移動する過程で徐々に流路の底に向かって沈降し、その一部は第2の溶湯流路5、液面制御手段6、および溶湯供給ノズル7の底に蓄積する。
長時間鋳造を行う中で(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行う中で)、第2の溶湯流路5、液面制御手段6、および溶湯供給ノズル7の底に蓄積した粒径100μm未満のTiB2粒子は、やがて、凝集して粒径100μm以上のTiB2粗大粒子となる。このTiB2粗大粒子が溶湯100の流速の変化等によって下流へと流出して、鋳造板に混入することにより黒筋故障を発生する不具合を生じる。
また、濾過手段4をすり抜けた粒径100μm以上のTiB2粗大粒子は、その長さLが上記式(2)を満たす第2の溶湯流路5の底に沈降するが、このTiB2粗大粒子、またはTiB2粗大粒子が核になって凝集して一層粗大化した粒子が、アルミニウム溶湯の流速の変化等によって下流に流出して、鋳造板に混入することにより黒筋故障を発生する不具合を生じる。
【0036】
第2の溶湯流路5、液面制御手段6および溶湯供給ノズル7の底に沈降したTiB2粒子に起因する上記不具合を防止するため、液面制御手段6内および溶湯供給ノズル7のうち、少なくとも一方にアルミニウム溶湯100内に存在する沈降粒子のトラップ手段を設けることが好ましい。
図2は、液面制御手段6および溶湯供給ノズル7の好適態様を示した図である。図2において、溶湯供給ノズル7と連通する液面制御手段6出口側の開口部は、液面制御手段6底面に対して高い位置に設けられており、該開口部と該底面との間には段差63が存在している。この段差63が、アルミニウム溶湯中の沈降粒子のトラップ手段、より具体的には、第2の溶湯流路5の底や液面制御手段6の底に沈降したTiB2粒子が、溶湯100の流速の変化等によって流出することを防止するトラップ手段として機能する。
図中、溶湯供給ノズル7内には、幅方向に渡り堰堤状の段差71が設けられている。該段差71は、溶湯100中の沈降粒子のトラップ手段、より具体的には、第2の溶湯流路5の底、液面制御手段6の底、および溶融供給ノズル7の底に沈降したTiB2粒子が、溶湯100の流速の変化等によって、下流側へと流出することを防止するトラップ手段として機能する。
【0037】
図3は、液面制御手段6および溶湯供給ノズル7の好適態様の別の一形態を示した図である。図3において、液面制御手段6の下流側の底面には凹部64が設けられている。この凹部64の存在により、溶湯100中の沈降粒子のトラップ手段として機能する段差63が大きくなっている。また、凹部64自体が、溶湯100中の沈降粒子のトラップ手段として機能する。
また、図3において、溶湯供給ノズル7内には、溶湯100中の沈降粒子のトラップ手段として機能する堰堤状の段差71,72が2つ設けられている。
【0038】
なお、液面制御手段6において、溶湯100中の沈降粒子のトラップ手段として機能する段差63の大きさは特に限定されず、必要に応じて適宜選択することができる。また、溶湯供給ノズル7内に設けるトラップ手段、すなわち、幅方向に渡って設ける堰堤状の段差71,72の数も特に限定されず、必要に応じて適宜選択することができる。但し、溶湯供給ノズル7内に堰堤状の段差71,72の高さは、溶湯供給ノズル7内で溶湯100の流れを滞らせないために、溶湯供給ノズル7内の溶湯流路の上下幅の1/2の高さを上限とすることが望ましい。
【0039】
また、非常に長い時間連続鋳造を行った場合、溶湯供給ノズル7内にトラップ手段、すなわち、堰堤状の段差71,72を設けていても、該ノズル7の底に蓄積したTiB2粗大粒子が流出する可能性が高くなるため、鋳造工程の途中で溶湯供給ノズル7を交換することが望ましい。
【0040】
冷却ロール8,8は、表面が鉄製で、内部が水冷される構造を持ち、溶湯供給ノズル7から供給された溶湯100の凝固と熱間圧延を同時に行うことが出来る。図示した鋳造ロール8,8は通常知られる圧延機の様に地面に対し垂直な線上に配置方式であるが、これに限定されず、ハンターエンジニアリング社が市販しているタイプの連続鋳造機として一般に知られる、2つの冷却ロールが地面に対して垂直な線から約15度傾斜して配置される方式であってもよく、二つの冷却ロールが地面に対して平行な位置に配置される方式(ハンターエンジニアリング社が初期に市販したタイプの連続鋳造機)であってもよい。
【0041】
鋳造圧延により得られる連続鋳造板(アルミニウム合金板)300の厚さは、後で実施される冷間圧延の効率の点で薄い方が好ましく、通常、1〜10mmとする。連続鋳造板(アルミニウム合金板)300は、巻き取り装置10によってコイル状に巻き取られる。また、適宜、切断機9により切断される。
【0042】
本発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法では、上記した手順で鋳造工程を実施し、連続鋳造板(アルミニウム合金板)300を作成した後、通常の手順で冷間圧延、中間焼鈍、仕上げ冷間圧延および平面性矯正を実施する。これらの手順について以下に説明する。
【0043】
<冷間圧延>
図1に示す連続鋳造圧延装置1において、切断機9により適宜切断され、巻き取り装置10によってコイル状に巻き取られた連続鋳造板(アルミニウム合金板)300に対して冷間圧延を行う。冷間圧延は、図1に示す連続鋳造圧延装置1で製造された連続鋳造板(アルミニウム合金板)300の厚さを減じさせる手順である。これにより、連続鋳造板(アルミニウム合金板)300を所望の厚さにする。なお、冷間圧延は、従来公知の方法により行うことができる。図4は、冷間圧延に用いられる冷間圧延機の例を示す模式図である。図4に示される冷間圧延機11は、送り出しコイル12および巻き取りコイル13の間で搬送される連続鋳造板(アルミニウム合金板)300に、それぞれ支持ローラ15により回転される一対の圧延ローラ14により圧力を加えて、冷間圧延を行う。
【0044】
<中間焼鈍工程>
冷間圧延工程後、中間焼鈍工程を行う。中間焼鈍工程は、冷間圧延工程の連続鋳造板(アルミニウム合金板)に熱処理を行う工程である。
本来、連続鋳造工程は、従来の固定鋳型を用いる方法と異なり、溶湯を極めて急速に冷却凝固させることができる。その結果、連続鋳造を経て得られた連続鋳造板(アルミニウム合金板)中の結晶粒は、従来の固定鋳型を用いる方法に比べて格段に微細化されうる。ただし、そのままでは結晶粒の大きさがまだ大きく、仕上げ冷間圧延後、更に、粗面化処理を経て平版印刷版用支持体としたときに、結晶粒の大きさに起因する外観故障(表面処理ムラ)が発生しやすい。
そこで、上述した冷間圧延工程で加工歪みを蓄えたうえで、中間焼鈍工程を行うことで、冷間圧延工程で蓄積された転位が解放されて、再結晶が起こり、結晶粒を更に微細化することができるようになる。具体的には、冷間圧延工程の加工率および中間焼鈍工程の熱処理条件(中でも、温度、時間および昇温速度)の条件によって、結晶粒を制御することができる。
例えば、通常は、昇温速度を0.5〜500℃/分程度とするが、連続焼鈍方式において、昇温速度を10℃/秒以上とし、かつ、昇温後の保持時間を短時間(10分以内、好ましくは2分以内)とすることにより、結晶粒の微細化を促進することができる。バッチ焼鈍方式では昇温速度を連続焼鈍方式のように速くすることができないが、保持温度を制御することで結晶粒の制御ができる。
【0045】
<仕上げ冷間圧延工程>
中間焼鈍工程後、仕上げ冷間圧延工程を行う。仕上げ冷間圧延工程は、中間焼鈍後の連続鋳造板(アルミニウム合金板)の厚さを減じさせる工程である。仕上げ冷間圧延工程後の厚さは、0.1〜0.5mmであるのが好ましい。
冷間圧延工程は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、上述した中間焼鈍工程前に行われる冷間圧延工程と同様の方法により行うことができる。
【0046】
<平面性矯正工程>
平面性矯正工程は、連続鋳造板(アルミニウム合金板)の平面性を矯正する工程である。
平面性矯正工程は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、ローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置を用いて行うことができる。
図5は、矯正装置の例を示す模式図である。図5に示される矯正装置30は、送り出しコイル32および巻き取りコイル33の間で搬送される連続鋳造板(アルミニウム合金板)300に、ワークロール34を含むレベラ部31にて、張力を加えながら平面性を改善する。その後、スリッタ35により板幅が所定の幅に調整される。
【0047】
上記した本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を用いることで、長時間鋳造を行った場合であっても(長尺鋳造、例えば、50トン以上の鋳造を行った場合であっても)、粒径100μm以上のTiB2粗大粒子が流出して鋳造板に混入することにより、黒筋故障を発生する不具合が生じるのを防止することができる。
但し、連続鋳造法により平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する場合、黒筋故障以外にも連続鋳造特有の故障が発生することがある。
例えば、アルミニウム合金板表面にFeの偏在を伴う組成の不均一が発生すると、表面処理時に外観上の不具合となって現れる。また、溶湯から直接凝固させて板厚10mm以下の薄板とするために、凝固時の安定性が崩れると表面処理時の外観上不具合になりやすい。
また、従来製法と異なり、熱間圧延工程が無いため、凝固時の金属結晶に不均一が発生した場合それが圧延を重ねて薄板になった場合もその不均一の影響が残りやすい。
また、溶湯を直接凝固させて薄板とするために、従来製法に比べてきわめて急速な冷却工程を経る結果、アルミニウム合金板中に発生する金属間化合物の寸法、分布が、従来製法を用いて製造したアルミニウム合金板と異なると共に、アルミニウム合金板への微量元素の固溶量も異なりやすく、平版印刷版用アルミニウム合金板に加工した際、電気化学的な粗面化特性が従来法で製造したアルミニウム合金板とは一致しない場合がある。
【0048】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、これら黒筋故障以外の故障防止策を組み合せて用いることで、一層、故障が少なく優れた得率の平版印刷版用アルミニウム合金板を製造することができる。
黒筋故障以外の故障防止策としては、例えば、溶湯供給ノズル7における溶湯100の温度分布をノズル7先端において30℃以内とすることで、鋳造時に発生する、Feの分布や結晶粒の不均一を防止でき、ストリーク故障や面質ムラ故障を抑制できる。
【0049】
また、一対の冷却ローラ8,8によって溶湯100を凝固させつつ圧延を行った直後の鋳造板(アルミニウム合金板)300の温度を再結晶温度以上とすることで、結晶粒の不均一を防止でき、面質ムラ故障を抑制できる。
【0050】
また、アルミニウム原材料として、JIS1050成分のアルミニウム原材料を使用し、一対の冷却ローラ8,8によって溶湯100を凝固させつつ圧延を行ってアルミニウム合金板300を形成した後、冷間圧延工程で、厚さ1.5〜3.0mmに冷間圧延し、中間焼鈍を450〜600℃で10分〜10時間行った後に、仕上げ冷間圧延工程、および平面性矯正工程を経て板厚0.1〜0.5mmのアルミニウム合金板300とすることにより、引張り強度が15kg/mm2以上で、かつ加熱温度300℃で7分間保持して熱処理した際の耐力が10kg/mm2以上の平版印刷版用アルミニウム合金板を製造することができる。このアルミニウム合金板は、機械的強度が安定しており、電気化学的な粗面化処理を行った際に均一な粗面化を行うことができることから、平版印刷板用支持体として好適である。上記の手順で製造したアルミニウム合金板が、上記した優れた特性を有するのは、アルミニウム合金中に溶け込むFe、Siの固溶量が安定化するためである。特に、中間焼鈍時の昇温速度を10℃/sec以下と遅くすることで、アルミニウム合金へのFe、Siの固溶量および析出量をより安定化する。
【0051】
また、故障対策ではないが、アルミニウム原材料として、感光層、感光層保護材、包装材料もしくは粘着テープが付着した、使用済の平版印刷版を1%以上含有する溶解原材料を用い、鋳造前にAr、窒素等の不活性であり、耐熱性に優れたガスによるアルミニウム溶湯処理と、濾材による濾過と、を行って、不純物及びH2ガスを除去した後に鋳造を行うことで原材料の利活用も有効にできる。
【0052】
また、板幅方向での表面処理外観の均一性を向上させる上で好ましいアルミニウム合金の組成は、0.15%≦Fe≦0.5%、0.05%≦Si≦0.35%、0.01%≦Ti≦0.1%、その他の合金成分合計≦0.3%であり、最終板厚、すなわち、板厚0.1〜0.5mmにおいて、アルミニウム合金板表面層のFe合金成分の濃度分布が、平均濃度±0.05%以内となるようにすることが望ましく、アルミニウム合金板表面層のFe濃度が1%以上である箇所が、全表面の0.01〜10%となるようにすることが望ましい。また、そのためには、溶湯供給ノズル7における溶湯100の温度分布をノズル7先端において30℃以内とすること、中間焼鈍を450〜600℃で10分〜10時間行うことが有効であるが、これら以外にも、中間焼鈍工程後に行う仕上げ冷間圧延工程を、冷間圧延中のアルミニウム合金の温度が100〜250℃になるように行うことが有効である。
【0053】
また、鋳造前の溶湯100に脱H2ガス処理を施し、脱H2ガス処理直後の溶湯100中のH2ガス濃度を0.12cc/100g以下とし、かつ、濾過処理後の溶湯100中のH2ガス濃度を0.15cc/100g以下とすることで鋳造起因の欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【0054】
また、電気化学的粗面化をより一層安定化させる上で、溶湯100中にCuを0.01〜0.20%の範囲で含有させることも有効である。
【0055】
また、更に以下の方法を組み合わせることで、鋳造の安定性を一層増すことも可能である。具体的には、アルミニウム合金原材料として、Tiを含有するものを使用し、鋳造開始する際の溶湯供給ノズル7直前の溶湯100の温度と、溶湯100中に含まれるTi量と、の関係を次の3式を満たす範囲とすることで、鋳造開始時の安定性を増すことができる。
式A:{Ti}≧2×10-6×(T−700)2−3×10-4×(T−700)+0.015
式B:{Ti}≦2×10-5×(T−700)2−2.4×10-3(T−700)+0.1
式C:700≦T≦790
ここで、{Ti}は溶湯100中に含まれるTi濃度(%)、Tは溶湯供給ノズル7直前の溶湯100の温度(℃)を示す。
【0056】
また、鋳造中に冷却ロール8,8表面に不均一が発生すると、幅方向の同一箇所に、延々と冷却速度が不均一な部分が発生し、異常部が残ってしまうため、冷却ロール8,8表面には、溶湯100との接触状態を均一にする離型材として、微細な粒子を含む懸濁液を連続的または断続的に塗布することが望ましい。懸濁液に含まれる微細な粒子は、平均粒径=0.7〜1.5μmであり、メジアン径=0.5〜1.2μmであり、0.2μm以下の粒子が粒子全体の5%未満であり、0.4μm以下の粒子が粒子全体の10%未満であり、2μm以上の粒子が粒子全体の10%未満であり、3μm以上の粒子が粒子全体の5%未満であり、かつ懸濁液の冷却ローラ8,8表面への塗布量が60〜1200mg/m2であることが望ましく、更には冷却ローラ8,8にかかる荷重をモニタし、荷重の変動に応じて懸濁液の塗布量を変更することで鋳造板300と冷却ローラ8,8とが固着するのを未然に防ぐことが望ましい。
また、冷却ローラ8,8に塗布する懸濁液は、前述の粒度分布を持ったカーボン粒子であることが好ましい。
【0057】
また、鋳造中に、溶湯供給ノズル7内で溶湯100の部分的な凝固が発生すると、幅方向の同一個所に延々と凝固異常部が発生することになり、平版印刷版用の表面処理を行った際に、強い外観上の不具合につながる。これに対しては、溶湯供給ノズル7内面の溶湯100とのぬれ性を低下させ、溶湯100の部分的な凝固が起こらないようにすることが有効であり、具体的には、溶湯100と接する面にメジアン径が5〜20μmで、モード径が4〜12μmの粒度分布で骨材粒子を含む離型材を塗布した溶湯供給ノズル7を用いることが望ましい。離型材の骨材粒子としては窒化ボロンが特に好ましい。
また、溶湯供給ノズル7の内面は、平均表面粗さRaが1.0〜3.0μmであることが、溶湯100の固着が起こりにくく望ましい。
【0058】
このようにしても、溶湯100の凝固は、溶湯供給ノズル7を出た溶湯100が非常に狭い空間で、溶湯100のメニスカスを形成し、溶湯供給ノズル7と接触して凝固する中で、時には凝固開始点が前後に移動し、鋳造上の不具合に繋がることがある。例えば、凝固点が下流側にずれた場合は、凝固不十分な溶湯100が溶け出し、鋳造が中断する場合がある。一方、凝固点が上側にずれた場合は、溶湯供給ノズル7内で溶湯100の凝固が起こる場合があり、この場合、鋳造板300の表面にはタイガーマークと称する異常な凝固組織が発生することが知られている。これを防止するためには、凝固点を安定させることが重要で、具体的には、冷却ローラ8,8の冷却能力に関与する冷却ローラ8,8の直径、凝固温度に影響する鋳造板300の板厚に応じて、溶湯100の供給速度に関与する冷却ローラ8,8の周速を安定領域にすることが望ましい。具体的には次の実験式を満たすような冷却ローラ8,8の周速にすることが好ましい。
式:V≧5×10-5×(Droller/t2)(m/min)
ここで、冷却ローラ8,8の周速をV(m/min)、鋳造板300の板厚をt(m)、冷却ローラ8,8の直径をDroller(m)とする。
【0059】
また、ここで、溶湯100のメニスカスを安定させる上で、溶湯供給ノズル7と冷却ローラ8,8間の隙間は、ゼロ(つまり接触状態)または小さいことが望ましい。これを達成するため、溶湯供給ノズル7を構成する部材のうち、溶湯100に上面から接触する上板部材と、溶湯100に下面から接触する下板部材とが、それぞれ上下方向から可動自在に構成され、該上板部材及び下板部材が溶湯100の圧力によって加圧され、それぞれ隣接する冷却ローラ8,8表面に押し付けられる装置を用いることが望ましい。また、上板部材、下板部材が常に先端で接触するようにするため、溶湯供給ノズル7の口部外縁が、冷却ローラ8,8に接触され、口部外周に冷却ローラ8,8との接触を避ける逃げ部を凹設されることが好ましい。溶湯供給ノズル7の破損を防止するため、ノズル7を構成する材質より曲げ強度が大きい材料からなる支持部材を、ノズル7の幅方向に対し200mm以下の間隔で配置して、ノズル7先端部を支持することが望ましい。また、溶湯供給ノズル7は、曲げ強度が10MPaである耐熱材料を使用することが望ましい。溶湯供給ノズル7を構成する耐熱材料は、ZrO2、Al23、Si34、SiC、SiO2およびアルミノリチウムシリケートから選ばれる1種以上を含むセラミック材料であることが望ましい。
【0060】
上記手順で作製した連続鋳造板(アルミニウム合金板)から平版印刷版用支持体を製造する際、該連続鋳造板(アルミニウム合金板)に対して以下に述べる表面処理が施される。これらの表面処理を全て施すことは必ずしも要求されないが、粗面化処理および陽極酸化処理は必須である。また、これらの表面処理の回数は特に限定されず、2回以上の複数回施してもよい。
【0061】
<粗面化処理(砂目立て処理)>
アルミニウム合金板は、好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的砂目立て、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム合金板表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム合金板表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。
【0062】
ブラシグレイン法の場合、研磨剤として使用される粒子の平均粒径、最大粒径、使用するブラシの毛径、密度、押し込み圧力等の条件を適宜選択することによって、平版印刷版用支持体表面の長い波長成分(大波)の凹部の平均深さを制御することができる。ブラシグレイン法により得られる凹部は、平均波長が2〜30μmであるのが好ましく、平均深さが0.3〜1μmであるのが好ましい。
【0063】
電気化学的粗面化方法としては、塩酸電解液中または硝酸電解液中で化学的に砂目立てする電気化学的方法、すなわち、塩酸電解液または硝酸電解液を用いた電解粗面化処理が好ましい。好ましい電流密度は、陽極時電気量50〜400C/dm2である。更に具体的には、例えば、0.1〜50%の塩酸または硝酸を含む電解液中で、温度20〜100℃、時間1秒〜30分、電流密度100〜400C/dm2の条件で直流または交流を用いて行われる。塩酸電解液または硝酸電解液を用いた電解粗面化処理によれば、表面に微細な凹凸を付与することが容易であるため、画像記録層と支持体との密着性を高くすることができる。
【0064】
<アルカリエッチング処理>
このように砂目立て処理されたアルミニウム合金板は、アルカリ性の表面処理液により化学的にエッチングされるのが好ましい。本発明において好適に用いられるアルカリ性の表面処理液は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。アルカリエッチング処理の条件は、アルミニウムの溶解量が0.05〜5.0g/m2となるような条件で行うのが好ましく、特に、電気化学的粗面化の後に行う場合は、アルミニウムの溶解量が0.5g/m2以下となるような条件で行うのが好ましい。また、他の条件も、特に限定されないが、アルカリ性の表面処理液の濃度は1〜50%であるのが好ましく、5〜30%であるのがより好ましく、また、アルカリ性の表面処理液の温度は20〜100℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。アルカリエッチング処理は、1種の方法に限らず、複数の工程を組み合わせることができる。
【0065】
アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する水酸化物、あるいは酸化物等からなる生成物(スマット)が存在する。これを除去するために酸洗い(デスマット処理)が行われる。用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。特に、電解粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65%の硫酸水溶液と接触させる方法が挙げられる。
【0066】
<陽極酸化処理>
以上のように処理されたアルミニウム合金板には、更に、表面硬化、および画像記録層との密着性向上を目的に、陽極酸化処理が施される。この処理では、陽極酸化皮膜が形成され、その表面にはマイクロポアというきわめて微細な凹部が形成される。具体的には、硫酸を主成分とし、必要に応じて、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の他の酸を組み合わせた硫酸電解液中で、アルミニウム合金板に直流または交流を流すことで、アルミニウム合金板の表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。このマイクロポアには、画像記録層との密着性を向上させる効果がある。
【0067】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜15%、液温−5〜40℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜200V、電解時間10〜200秒であるのが適当である。
陽極酸化皮膜の量は1〜5g/m2であるのが好ましい。1g/m2未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2 であるのがより好ましい。
【0068】
<アルカリ金属ケイ酸塩処理>
上記の処理によって、陽極酸化皮膜が形成された平版印刷版用支持体は、必要に応じて、親水化処理として、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液を用いて浸せき処理する。
処理条件は、特に限定されないが、例えば、濃度0.01〜5.0%の水溶液を用いて、温度5〜40℃で、1〜60秒間浸せきし、その後、流水により洗浄する。より好ましい浸せき処理温度は10〜40℃であり、より好ましい浸せき時間は2〜20秒間である。
【0069】
本発明に用いられるアルカリ金属ケイ酸塩は、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0070】
上記の手順で得られた平版印刷版用支持体に感光性塗膜を設け、画像露光し、現像して製版し、感光性平版印刷版が完成する。この感光性平版印刷版は、連続鋳造板(アルミニウム合金板)の表面品質の向上に伴い、高品質に製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
(実施例1)
図1に示す連続鋳造圧延装置1を用いて連続鋳造板(アルミニウム合金板)を作成した。
溶解保持炉2で、Fe=0.3%、Si=0.1%、Cu=0.01%、他は不可避不純物及びアルミニウムに調整した溶湯100を第1の溶湯流路3に注入した。第1の溶湯流路3通過中に、Ti=5%、B=1%、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる、結晶組織微細化材ワイヤ(直径10mm)200を添加し、溶湯100中のTi量が0.015%、B量が0.003%になるようにした。
第1の溶湯流路3上に設けられた脱ガス装置(図示しない)で脱ガス処理を行い、濾過手段4で濾過処理を行った。フィルタ41にはセラミックフォームフィルタ(厚さ約50mm、メッシュ30ppi)を用いた。
第2の溶湯流路5、液面制御手段6、溶湯供給ノズル7を経て、冷却ローラ8,8で、板幅670〜2000mm、板厚5mmの連続鋳造板(アルミニウム合金板)300を作成した。ここで、作成する連続鋳造板(アルミニウム合金板)300の板幅を変えることで、冷却ローラ8,8の回転速度を変えずに、溶湯100が第2の溶湯流路5を通過する時間tを変えて、連続鋳造板(アルミニウム合金板)300を作成した。冷却ローラ8,8の回転速度は約1.85m/分であった。
第2の溶湯流路5は幅が0.1mで、深さが0.30mの流路を使用し、第2の溶湯流路5の溶湯深さDは表1に示すように4通りに変え実施した。
なお、鋳造は第2の溶湯流路中にTiB2を含む溶湯残渣が残らないよう、流路内の掃除を行い、電気掃除機で流路内の掃除を行ってから鋳造を開始した。鋳造開始時の溶湯100の温度は730℃とした。
鋳造量50ton目のコイルについて、2mmまで圧延、550℃×5時間の条件でバッチ焼鈍、仕上げ圧延で厚さ0.3mmに仕上げ、黒筋故障の発生頻度を調べた。黒筋故障発生頻度は、コイル全長に表面処理を施し、カット長800mmのシートを1000枚目視で検査して確認した。黒筋故障の発生の確認は、各例で得られたシートについて、表面にアルカリエッチング処理(溶解量2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、塩酸電解処理(アノード反応に寄与する電気量500c/dm2)、アルカリエッチング処理(溶解量0.2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、および陽極酸化処理(酸化皮膜量=約2g/m2)を行い、表面観察を行った。
結果を表1−1に示す。
【表1】


各溶湯深さDに応じて下記式で求められる最低限の通過時間tの値を表2に示す。
t=270×1.2×D
【表2】


以上のように、アルミニウム溶湯100が第2の溶湯流路5を通過する時間tを、実験式により求められる最低限の流路通過時間以上の値にすることで、黒筋故障の発生を防止できる。
【0072】
(実施例2)
次に、溶湯100中のTi量、B量を変えて実施し、Ti量、B量の影響を調べた。
結晶組織微細化材ワイヤ(直径10mm)200添加後の溶湯100中のTi量、B量を以下の3通りになるように変えて実施したことを除いて、実施例1と同様に実施した。なお、第2の溶湯流路5の溶湯深さDは0.15mとした。
(Ti,B)=(0.06%,0.012%)
(0.04%,0.01%)
(0.025%,0.005%)
結果を表1−2に示す。
【表3】


以上のように、Ti,B量が大きくなると、流路通過時間tが短い時に黒筋発生頻度が増すが、流路通過時間tを実験式により求められる最低限の流路通過時間よりも大きくすることで黒筋故障の発生を回避できる。なお、上記例で採用した(Ti,B)=(0.06%,0.012%)は、鋳造開始時の安定性が悪く、安定して鋳造できるまでに時間を要した。これは、先に述べた、下記式A〜Cにより求まる、鋳造開始時の安定性を増す方法うえで望ましいTi量が、鋳造開始時の温度が730℃の場合、0.008〜0.046%であるのに対し、上記例ではTi量が多いためである。
式A:{Ti}≧2×10-6(T−700)2−3×10-4×(T−700)+0.015
式B:{Ti}≦2×10-5(T−700)2−2.4×10-3(T−700)+0.1
式C:700≦T≦790
ここで、{Ti}は溶湯100中に含まれるTi濃度(%)、Tは溶湯供給ノズル7直前の溶湯100の温度(゜C)を示す。
【0073】
(実施例3〜10、比較例1〜8)
次に、第2の溶湯流路5における100の平均流速V(m/sec)、第2の溶融流路5の幅(m)、第2の溶湯流路5の溶湯深さD(m)および第2の溶湯流路5の長さLを表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様に実施した。
【表4】

【0074】
(実施例11〜13、比較例9)
次に第2の溶湯流路5の長さLの上限を求める実験を行った。
本件の考え方によると、第2の溶湯流路5の長さLが大きいほど、黒筋故障の原因となるTiB2粗大粒子が下流に流出するのを防止する上では好適である。但し、第2の溶湯流路5の長さLを過度に大きくすると、第2の溶湯流路5を通過する途中で溶湯100の温度が下がり、溶湯100の一部が凝固するおそれがあり、非現実的である。
そこで実施例10の条件のうち、第2の溶湯流路5の長さLを変えて実施し、第2の溶湯流路5通過時の溶湯100の温度低下を観察した。なお、溶湯100の温度低下は、第2の溶湯流路5の上流側端部と、下流側端部と、で通過する溶湯100の温度を比較することで求めた。表中、問題なしとは、溶湯100の温度低下が30℃以内の場合を指す。温度低下40℃以内の場合を許容内とし、50℃超の場合を許容外とした。
結果を表4に示す。なお、表には示していないが、実施例11〜13、および比較例9のいずれにおいても黒筋故障は発生しなかった。黒筋故障防止効果は予想通り、式(2)を満たしている限り問題はないが、第2の溶湯流路5の長さLが大きすぎると、溶湯100が第2の溶湯流路5を通過する時間tが長くなり過ぎるため、溶湯100の許容範囲外の温度低下が起こることがわかり、第2溶湯流路5の長さLの上限を4mとした。
【表5】

【0075】
(実施例14〜20)
次に、図1に示す連続鋳造圧延装置1において、液面制御手段6および/または溶湯供給ノズル7内にトラップ手段を設けて、黒筋故障の発生を抑制する効果を確認した。
溶解保持炉2で、Fe=0.3%、Si=0.12%、Cu=0.005%、他は不可避不純物及びアルミニウムに調整したアルミニウム溶湯を第1の溶湯流路3に注入した。第1の溶湯流路3通過中に、Ti=5%、B=1%、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる、結晶組織微細化材ワイヤ(直径10mm)200を添加し、溶湯100中のTi量を0.015%、B量を0.003%とした。
第1の溶湯流路3上に設けられた脱ガス装置(図示しない)で脱ガス処理を行い、濾過手段4で濾過処理を行った。フィルタ41には、セラミックフォームフィルタ(厚さ約50mm、メッシュ30ppi)を用いた。
第2の溶湯流路5、液面制御手段6、溶湯供給ノズル7を経て、冷却ローラ8,8で、板幅2000mm、板厚5mmの連続鋳造板(アルミニウム合金板)300を作成した。ここで、冷却ローラ8,8の回転速度は約1.85m/分であった。
第2の溶湯流路5は幅=0.1m、溶湯深さD=0.15m、長さL=1.2mとし、第2の溶湯流路5を通過する溶湯100の流速V=0.023m/secとした。この条件は式(1)(t≧49秒)、式(2)(4m≧L≧1.1m)を満たしている。
液面制御手段6において、図2に示す段差63の高さを、0mm(トラップ手段無し)、50mm、100mmの3条件で実施した。
溶湯供給ノズル7については、上下幅30mmの部分に、高さ15mmの堰堤状のトラップ手段71,72を0箇所(トラップ手段無し)、1箇所(図2に示すように)、または2箇所(図3に示すように)設けた。
鋳造量50ton目のコイルについて、2mmまで圧延、550℃×5時間の条件でバッチ焼鈍、仕上げ圧延で厚さ0.3mmに仕上げ、上記と同様の手順で黒筋故障の有無を確認した。黒筋故障が認められなかった場合、さらに鋳造量を増やして実施し、黒筋故障が1個見つかった時の鋳造量を調べた。
結果を表6に示す。
【表5】


液面制御手段6および溶湯供給ノズル7内にトラップ手段を設けなかった実施例12では、比較的鋳造量が少ない場合(本例では、鋳造量50トン以内)、黒筋故障の発生を防止できるが、100トン以上の長尺の鋳造板を製造した際には、第2の溶湯流路5、液面制御手段6、または溶湯供給ノズル7の底面に蓄積した粗大TiB2粒子が、溶湯の流速変化等により流出して、黒筋故障を発生させることが確認された。一方、液面制御手段6および/または溶湯供給ノズル7内にトラップ手段を設けることにより、100トン以上の長尺の鋳造板を製造する場合に、黒筋故障の発生を抑制できることが確認できた。
【0076】
(実施例21、22)
次に、黒筋故障の発生を更に抑制する方法として、好適な濾過手段との組み合わせによる効果を確認するため、実施例17、18の濾過手段(セラミックフォームフィルタ(厚さ約50mm、メッシュ30ppi)を使用するもの)から、特許文献1に記載の濾過手段、すなわち、フィルタ前室、TiおよびBの化合物よりなる粒径10μm以上の粒子の通過を阻止するフィルタ、およびフィルタ後室からなり、フィルタ前室、フィルタおよびフィルタ後室がヒータによって加熱される濾過手段を用いることが好ましい。フィルタとしては、直径5から直径0.5〜2.0mmの耐熱性を有する粒子を焼結してなるセラミックチューブフィルタ(TKR社製)を用いた。
結果を表6に示す。
【表7】


表6に示すように、濾過手段として特許文献1に記載の濾過手段を用いることにより、
長尺鋳造時の黒筋故障発生が一層抑制される。これは濾過手段をすり抜けて下流側に流出TiB2粗大粒子が大幅に減少することにより、鋳造の役に立たず、第2の溶湯流路5の底に沈降するTiB2粗大粒子が減少した結果、200トン以上の長尺鋳造においても黒筋発生が起こりにくくなったと考えられる。
【0077】
また、上記の各実施例、比較例について、50トン鋳造時のコイルから、実施例1と同様の手順で作成した厚さ0.3mmの鋳造板について、アルカリエッチング処理(溶解量2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、塩酸電解処理(アノード反応に寄与する電気量500c/dm2)、アルカリエッチング処理(溶解量0.2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、および陽極酸化処理(酸化皮膜量=約2g/m2)をこの順に行った。表面処理後の鋳造板から得た表面観察用のサンプルについて、その表面をEPMAで、Ti、Bについて面分析を行った。EPMAは(日本電子製JXA−8800を使用し、測定条件は加速電圧20keV、測定面積8.5×8.5mm、分解能20μmとし、各3カ所の測定を行い、圧延方向に沿ってレンズ状に伸ばされたTi粒子の幅が100μmを超えるものがないことを各実施例について確認した。
【0078】
(実施例23)
次に、黒筋故障以外の連続鋳造特有の故障防止策との組み合わせ効果を確認した。
前述の実施例の条件のうち、液面制御手段6内の段差63の高さ=100mm、溶湯供給ノズル7内にトラップ手段71を1カ所設置、第2の溶湯流路5における溶湯100の平均流速V=0.035m/sec、第2の溶湯流路5の長さL=2.5m、第2の溶湯流路5の幅=0.05m、第2の溶湯流路5の溶湯深さD=0.2m、第2の溶湯流路5における溶湯100の通過時間t=71秒(計算値)の条件で連続鋳造を行った。
溶解保持炉2で、Fe=0.3%、Si=0.12%、Cu=0.005%、他は不可避不純物とアルミニウムに調整した溶湯100を第1の溶湯流路3に注入した。第1の溶湯流路3通過中に、Ti=5%、B=1%、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる、結晶組織微細化材ワイヤ(直径10mm)200を添加し、溶湯100中のTi量が0.015%、B量が0.003%になるようにした。
第1の溶湯流路3上に設けられた脱ガス装置(図示しない)で脱ガス処理を行った。具体的には、溶湯100中のH2ガス濃度が溶湯100gにつき、0.12cc以下になるように、溶湯100中にArガスを回転式脱ガス装置で吹き込むことで行った。
濾過手段4は、セラミックフォームフィルタ(厚さ50mm、メッシュ30ppi)を使用した。
以上の条件を共通条件とした。
【0079】
以下に、それ以外の条件について示す。各条件の組み合わせは表8に示す。
原材料には、アルミニウム99.7%の新地金と各種添加元素を含む母合金、及び工場内で発生した組成の分かっているアルミ屑を添加して上記の組成にしたケース(水準A−1)。更に望ましい形として、母合金添加量を削減しかつ材料を有効に活用するために、使用済みの平版印刷版を原材料に投入するケースとして、原材料に、Fe=0.29%、Si=0.08%、Cu=0.015%、他はアルミニウムと不可避不純物からなる平版印刷版を全溶湯量の5%相当添加したケース(水準A―2)の2通りで実験を行った。
脱ガス処理後の溶湯100は、濾過手段4、第2の溶湯流路5、液面制御装置6および溶湯供給ノズル7を経て冷却ロール8,8に送られ、溶湯供給ノズル7出口での幅方向の溶湯100の温度差が30℃以内になるように幅方向均一に送液される。ここで幅方向の温度を均一にするためには、溶湯供給ノズル7内に整流板の機能を持つブロックを配置することで、幅方向の流れを均一化し、幅方向の温度差を30℃以内にできる。ここでは、整流板を配置しないで、溶湯供給ノズル7出口での幅方向の温度差が30℃以内を満たさない場合(水準B―2)と、整流板を配置することで溶湯供給ノズル7出口での幅方向の温度差が30℃以内を満たす場合(水準B―1)の2通りについて実験を行った。
【0080】
また、溶湯供給ノズル7の内面は、溶湯100とのぬれ性を悪くし、溶湯100の固着が起こりにくくする必要がある。そのため、溶湯供給ノズル7の内面には、メジアン径が5μm〜20μmでモード径が4μm〜12μmの粒度分布で骨材粒子を含む離型剤を塗布する。具体的には窒化ホウ素BNを骨材とした離型材を塗布した。このケース(水準C−1)と、ノズル内面に、メジアン径=3μm、モード系=2μmからなる、酸化亜鉛系の離型材を塗布したケース(水準C−2)の2通りで実験を行った。
【0081】
また冷却ロール8,8は、その表面に溶湯100の固着防止のための専用の離型材を塗布した。離型材は平均粒径=0.7〜1.5μm、メジアン径=0.5〜1.2μmであり、0.2μm以下の粒子が粒子全体の5%未満であり、0.4μm以下の粒子が粒子全体の10%未満であり。2μm以上の粒子が10%未満であり、3μm以上の粒子が5%未満であり、かつ上記離型材の冷却ローラ8,8上への塗布量が60〜1200mg/m2の範囲になるようにカーボン粒子を分散させた水性の液をスプレイで塗布した(水準D−1)。逆に、離型材の塗布量の望ましい範囲外の例として、塗布量を50mg/m2と少なくした場合(水準D−2)、および塗布量を1300mg/m2と多くした場合(水準D−3)について同様に実験を行った。離型材を塗布しない場合は、鋳造開始直後から冷却ロール8,8への溶湯100の固着が発生し、清浄な鋳造開始が出来なかった。
離型材の塗布は、上記の一定量を安定範囲にすることで良好な結果が得られるが、冷却ローラ8,8にかかる圧延加重を監視し、加重が大きくなった場合には塗布量を増すことで、更に鋳造を安定させることができた。
【0082】
冷却ロール8,8の周速度は、冷却ロール8,8と接触する前に、溶湯供給ノズル7内で溶湯100が凝固する不具合をふせぐために重要である。冷却ロール8,8の径と板厚に応じて速度の下限を
式:V≧5×10-5×(D/t2)(m/min)を満たすようにした。具体的には、t=0.005m、D=0.8m。このとき、5×10-5×(D/t2)=1.6m/min となるのでV=1.85m/minとした。このときの条件を水準E−1。V=1.5m/minと小さくした場合を水準E−2。V=2.0m/minと大きくした場合を水準E−3として実験を行った。
【0083】
鋳造を開始する際は、溶湯温度を、Ti量に応じて、次の式を満たすようにすることで安定して鋳造を開始することができた。
式A:{Ti}≧2×10-6(T−700)2−3×10-4×(T−700)+0.015
式B:{Ti}≦2×10-5(T−700)2−2.4×10-3(T−700)+0.1
式C:700≦T≦790
上記式中、{Ti}は溶湯100中に含まれるTi濃度(%)、Tは溶湯供給ノズル7直前の溶湯100の温度(℃)である。
本実施例ではT=720℃、Ti量=0.015%で行った。
鋳造後の鋳造板300は、冷却ロール8,8で冷却されるが、過度に急冷されることは好ましくなく、その温度は再結晶温度280℃以上がよく、実施例は320℃とした。これを水準F−1とした。一方、出口で水ミストをかけることで再結晶温度以下まで急冷することを行い、これを水準F−2とした。
【0084】
出来上がった鋳造板300は巻き取られ、室温まで低下後、冷間圧延で板厚を1.5〜3mmまで圧延される。本実施例では2mmまで圧延した。
その後、バッチ式の中間焼鈍を行い、450℃〜600℃の範囲で5時間行った後に、冷間圧延工程、矯正工程を経て板厚0.1〜0.5mmのアルミニウム合金板とすることにより、引張り強度が150N/mm2以上であり、かつ加熱温度300℃、7分間保持で熱処理した場合の耐力が100N/mm2以上のアルミニウム合金支持体を製造する。バッチ焼鈍の昇温速度は、10℃/sec以下にするのが好ましい。
本実施例では、中間焼鈍温度=480℃、510℃、550℃、580℃で実施し、それぞれ水準G−1,2,3,4とした。また、望ましい温度範囲外の水準として、中間焼鈍温度=400℃で実施したものを水準G−5とした。
中間焼鈍温度600℃を超える水準は、コイル表面が変色する不具合と、焼鈍炉の負荷大のために行えなかった。バッチ焼鈍は昇温速度=8℃/secで行った。焼鈍後、室温まで低下後、板厚0.3mmに仕上げ冷間圧延を行った。その引っ張り強度、及び加熱温度300℃、7分間保持で熱処理したあとの耐力を評価した。
以上のようにして仕上げた後、テンションレベラで平面性を矯正して平版印刷版用アルミニウムコイルに加工する。
以下表7,表8に、上記各水準の組み合わせを示す。
【表8】


【表9】

【0085】
各テスト番号の水準組み合わせに関して、鋳造量10ton目、50ton目のコイルについて、鋳造板の外観を評価した。また、鋳造板を2mmまで圧延、各中間焼鈍の条件でバッチ焼鈍、仕上げ圧延で厚み0.3mmに仕上げ、表面処理後の外観を調べた。黒筋故障の発生頻度は前述の実施例と同じ方法、すなわち、コイル全長に表面処理を施し、カット長800mmのシートを1000枚目視で検査して確認した。黒筋故障の発生の確認は、各例で得られたシートについて、表面にアルカリエッチング処理(溶解量2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、塩酸電解処理(アノード反応に寄与する電気量500c/dm2)、アルカリエッチング処理(溶解量0.2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/L×30℃)、および陽極酸化処理(酸化皮膜量=約2g/m2)を行い、表面観察を行った。この条件を表面処理条件1と称する。また、もう一つの表面処理条件として、表面にアルカリエッチング処理(溶解量約3g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/l×30℃)、硝酸電解処理(アノード反応に寄与する電気量250c/dm2)、アルカリエッチング処理(溶解量約0.2g/m2)、デスマット処理(硫酸200g/l×30℃)、および陽極酸化処理(酸化皮膜量=約2g/m2を行い、表面観察を行った。この条件を表面処理条件2と称する。
【0086】
表9に、各サンプルを表面処理条件1,2で表面処理を行い、外観の確認、及び粗面化形状の確認を行った結果を示す。評価は鋳造板の外観、圧延板の表面処理後の外観については、黒筋故障、ストリーク(黒筋故障以外の筋状故障を総称した。)、粗面化形状(以下砂目と称する)の均一性を評価した。黒筋故障以外は表面処理板各3枚について目視観察とSEM(日本電子(株)製 走査型電子顕微鏡 型式JSM5500)観察による。SEM観察は750倍、2000倍、10000倍の3通りで行った。砂目は均一性を4段階で評価した。良4点〜悪1点とし、2点以上が合格とした。表面処理後の外観評価(ストリーク)は、9段階で、良9点〜悪1点までの評価を行った。5点以上を合格とした。鋳造板の外観評価は、3段階で、良3点〜悪1点までの評価を行った。2点以上を合格とした。
各サンプルの内、テスト番号8については、鋳造板が安定せず、10ton目のコイルはサンプリングできたが、その後溶断が発生したために鋳造を中止した。そのため50ton目のサンプルは採取出来なかった。
【表10】

【0087】
以上のように、本願の方法と、他の連続鋳造材の外観を改善する技術、砂目形状を改善する技術を組み合わせることで、良好な平版印刷版支持体を得ることが出来ること、及び、これらの方法と組み合わせても黒筋発生防止と両立が出来ることが確認された。
テスト番号2は材料に使用済みの平版印刷版を5%添加したが、結果は全く問題ないことが確認された。
テスト番号3は溶湯供給ノズル7の出口温度の均一性を低下させた水準であるが、鋳造板外観の均一性が幅方向で低下し、圧延後表面処理を行った場合、筋状の外観不均一が発生し、ストリークの評価レベルが下がった。
テスト番号4は溶湯供給ノズル7内面に塗布する離型材を、酸化亜鉛系の離型材で本願の望ましい範囲の骨材粒子を含まない離型材を使った水準であるが、幅方向の一部に強いスジが発生しストリークの評価レベルが下がった。これは、鋳造板では判別不能だが圧延、表面処理を行うことで顕在化した。これは溶湯供給ノズル7内で部分的に溶湯100の固着が発生し、溶湯100の流れが乱れ、凝固不均一になったものと考えられる。ストリーク部は、EPMAで解析の結果、FeとSiの偏析、及びスジ部をけがき、機械研磨、HFエッチングを行って偏光式光学顕微鏡で結晶組織を観察した結果、結晶組織が不均一になっていることが確認された。
テスト番号5は、冷却ロール8,8表面に塗布する離型材が非常に少ない量、逆にテスト番号6は冷却ロール6,6表面に塗布する離型材が非常に多い量の場合の水準であるが、前者は鋳造板表面にささくれたような跡が発生し、その部分は、圧延、表面処理後、筋状の故障になって現れストリークの評価レベルが下がった。後者は、鋳造板表面に、離型材が厚塗りの部分が発生し、同様にその部分は、圧延、表面処理後、筋状の故障になって現れストリークの評価レベルが下がった。前述の手法と同じ方法で、圧延表面処理後のスジ部を解析すると、前者(テスト番号5)のスジは、部分的にFeが検出されるとともに、結晶組織が周囲より細かくなっていることが分かった。これは、鉄製のロール8,8が部分的に固着し、鋳造板300に転写されたこと、及び、カーボン離型材が過度少ないために、部分的に急冷され、結晶組織が細かくなりすぎたためと考えられる。一方後者(テスト番号6)のスジは結晶組織が周囲より粗大になっており、これはカーボン離型材が過剰に塗布されたため、部分的にロール8,8との熱伝達が低下し、徐冷されたことで結晶が粗大になったものと考えられる。
テスト番号7,8は冷却ロール8,8の周速度を小さくした場合と大きくした場合を示すが、前者(テスト番号7)では、鋳造初期(10ton相当時)には何ら問題なかったが、途中で、凝固が溶湯供給ノズル7内で発生する現象が起こり、鋳造板300の結晶がきわめて不均一になった。これは鋳造板300の外観に縞々状の模様として確認され、特に鋳造板300をタッカー液でマクロエッチングを行うと顕著な模様として確認された。これはタイガーマークという故障で、冷却ロール8,8の周速が遅いと、鋳造途中から凝固点が上流(溶湯供給ノズル7)側に移動することで発生する致命的な外観故障である。圧延板自体の結晶組織が粗大になるため、きわめて強いスジ状故障が発生しストリークの評価レベルが下がった。
後者の速度を大きくした場合(テスト番号8)は、冷却ロール8,8の冷却能力が足りなくなるため、鋳造が安定しない。
テスト番号9は、鋳造後の冷却を強くしたが、これにより鋳造板300の結晶粒が不均一になり、圧延、表面処理後の結晶組織も不均一になると思われストリークの評価レベルが下がった。スジ部をけがいて結晶組織を観察すると、周囲に対して結晶が粗大になっているものと、周囲に対して微細になっているものが混在していることが分かった。
テスト番号10〜13は中間焼鈍温度に関する水準である。焼鈍温度が低い13は電解粗面化形状が不均一で、これはアルミニウム合金中に固溶するSi量が少なくなるためである。ストリーク外観は、砂目形状が不均一になることで若干低下する傾向が見られた。
【0088】
次に、砂目形状以外の焼鈍温度の効果を確認するため、表10に記載のテスト番号について、圧延板の機械的強度(引っ張り強度、300℃7分加熱後の0.2%耐力)を評価した。結果を表10に示した。
【表11】


以上のように、引っ張り強度は殆どかわらないが、望ましい実施態様のテスト番号(1,10,11,12)では300℃7分加熱後の0.2%耐力が高いことが確認された。300℃7分加熱後の0.2%耐力が高いことは、平版印刷版が露光後に耐刷力を高める目的で行われるバーニング処理に対して、強度低下が起こりにくい優れた支持体であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、本発明の連続鋳造圧延装置の1実施形態を示した模式図である。
【図2】図2は、図1に示す連続鋳造圧延装置における、液面制御手段および溶湯供給ノズルの好適態様を示した図である。
【図3】図3は、液面制御手段および溶湯供給ノズルの別の好適態様を示した図である。
【図4】図4は、冷間圧延に用いられる冷間圧延機の例を示す模式図である。
【図5】図5は、矯正装置の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0090】
1:連続鋳造圧延装置
2:溶解保持炉
21:溶解保持炉傾動機
3:第1の溶湯流路
4:濾過手段
41:フィルタ(セラミックフォームフィルタ)
5:第2の溶湯流路
6:液面制御手段
61:センサ
62:バルブ
63:段差(トラップ手段)
64:凹部
7:溶湯供給ノズル
71,72:トラップ手段
8:冷却ローラ
9:切断機
10:巻き取り装置
11:冷間圧延機
12:送り出しコイル
13:巻き取りコイル
14:圧延ローラ
15:支持ローラ
30:矯正装置
31:レベラ部
32:送り出しコイル
33:巻き取りコイル
34:ワークロール
35:スリッタ
100:アルミニウム溶湯
200:結晶組織微細化材ワイヤ
300:連続鋳造板(アルミニウム合金板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム溶湯を、濾過手段、該濾過手段に連結した溶湯流路、該溶湯流路に連結した液面制御手段、および該液面制御手段に連結した溶湯供給ノズルを順次通過させる工程を含む、連続鋳造法による平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法であって、
前記アルミニウム溶湯が、アルミニウム原材料を溶解して得られた溶湯に、チタンおよびホウ素を含むアルミニウム合金を添加溶融させたアルミニウム溶湯であり、
前記アルミニウム溶湯が前記溶湯流路を通過する時間tが下記式(1)を満たす、平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法
t(sec)≧270×1.2×D ・・・(1)
(式(1)中、Dは前記溶湯流路の溶湯深さ(m)である。)
【請求項2】
請求項1に記載の平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法に用いる平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置であって、濾過手段、該濾過手段に連結した溶湯流路、該溶湯流路に連結した液面制御手段、および該液面制御手段に連結した溶湯供給ノズルを有し、前記溶湯流路における前記アルミニウム溶湯の流速をV(m/sec)、前記溶湯流路の溶湯深さをD(m)とした場合に、前記溶湯流路の長さL(m)が下記式(2)を満たす長さである、平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置。
4≧L≧V×270×1.2×D ・・・(2)
【請求項3】
前記液面制御手段内に、前記アルミニウム溶湯中に存在する沈降粒子をトラップする手段を1カ所以上設けた請求項2記載の平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置。
【請求項4】
前記溶湯供給ノズル内に、前記アルミニウム溶湯中に存在する沈降粒子をトラップする手段を1カ所以上設けた請求項2又は3記載の平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法により得られる平版印刷版支持体用アルミニウム合金板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−6386(P2009−6386A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172285(P2007−172285)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】