説明

座屈拘束ブレース

【課題】 必要なエネルギー吸収性を与えつつ、剛性を高めることができ、かつ低コスト化が可能な座屈拘束ブレースを提供する。
【解決手段】 この座屈拘束ブレース1は、芯材2と、この芯材2の両面に沿って配置した拘束材3とを有する。芯材2は、拘束材3との並び方向の厚みよりも並び方向と直交する方向の幅が広い帯板状である。芯材2の長手方向の一部分に他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部7を設け、このエネルギー吸収部7に長手方向に沿う構造スリット8を1つ以上設ける。構造スリット8により隔てられた複数の芯材分割部分9,10の幅寸法を互いに異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物の骨組みに組み込まれ、地震等の際に振動エネルギーを吸収して振動を減衰させる座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
座屈拘束ブレースとしては、従来より、芯材の周囲を鋼板のみで補剛したもの、RCで補剛したもの、鋼材とモルタルやコンクリートで被覆したもの等、様々な補剛形式が提案され、実用化されている。例えば、特許文献1に記載のものは、溝形鋼材内にコンクリートを充填してなる一対の拘束材で芯材を両側から挟み付けて、芯材を補剛している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3663491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件出願人は、座屈拘束ブレースのエネルギー吸収性能および剛性を高めるために、図7に示すように、芯材2の長手方向の一部分の幅を狭い絞り部7とした座屈拘束ブレースを研究開発中である。芯材2を図の形状とすると、エネルギーを吸収する部位が明確になる。これにより、制振部材として必要なエネルギー吸収性能を与えつつ、ブレースの剛性を高めることができ、座屈拘束ブレースの効率的な設計が期待できる。
【0005】
上記座屈拘束ブレースに実際に負荷を与えて試験を行い、芯材2および拘束材(図示せず)の内部の状況を確認した。その結果、図8のように、芯材2の絞り部7がある一定の波長Inで波形に座屈し、その波形の頂部2Aで拘束材が押されて、拘束材のモルタルが圧壊することが分かった。座屈の波長Inが芯材2の幅方向で一定であると、その波長Inの周期ごとに集中的に加わる芯材2からの力に対抗するため、拘束材の補剛力を大きくする必要がある。そのため、拘束材のモルタル量を多くするか、または溝形鋼材等の鋼材部分の強度を上げなければならず、座屈拘束ブレースが重く、かつ高価になってしまう。
【0006】
この発明の目的は、必要なエネルギー吸収性を与えつつ、剛性を高めることができ、かつ低コスト化が可能な座屈拘束ブレースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の座屈拘束ブレースは、芯材と、この芯材の両面に沿って配置した拘束材とを有し、前記芯材は、前記拘束材との並び方向の厚みよりも並び方向と直交する方向の幅が広い帯板状であって、長手方向の一部分に他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部を設け、このエネルギー吸収部に長手方向に沿う構造スリットを1つ以上設け、この構造スリットにより隔てられた複数の芯材分割部分の幅寸法を互いに異ならせたことを特徴とする。拘束材は、芯材の両側にそれぞれ位置する一対のものであっても、芯材の両側に位置する部分が互いに一体化された一つの部材であってもよい。
【0008】
芯材に圧縮力が作用した場合、断面二次モーメントの小さいエネルギー吸収部がエネルギーを吸収して座屈する。座屈の波長は、芯材の断面二次モーメントによって変化する。したがって、エネルギー吸収部に長手方向に沿う構造スリットを設け、この構造スリットにより隔てられた複数の芯材分割部分の幅寸法を互いに異ならせたことにより、エネルギー吸収部のうちでも各芯材分割部分によって座屈モードが異なり、拘束材に発生する力が分散される。すなわち、座屈の波長が各芯材分割部分によって異なり、波形の頂部で押される拘束材の部分が分散する。よって、拘束材の補剛力を低減することができる。それにより、拘束材のモルタル量を少なくするか、または拘束材の溝形鋼材等の鋼材部分の材厚減等による強度低下が可能で、座屈拘束ブレースの軽量化、低コスト化が可能になる。
【0009】
この発明において、前記芯材の長手方向の一部分に他よりも幅の狭い絞り部を設け、この絞り部を前記エネルギー吸収部としてもよい。あるいは、前記芯材の前記エネルギー吸収部は、長手方向における前記構造スリットが設けられている部分から設けられていない部分にかけて幅寸法が一定であり、前記構造スリットは、前記並び方向と直交する方向の隙間を有するものとしてもよい。
いずれであっても、各芯材分割部分の座屈モードを互いに異ならせることができる。芯材に絞り部を設けることによって、前述のようにエネルギーの吸収部位が明確になるが、絞り部を設けなくても、ある程度の隙間のある構造スリットが設けられることで、その構造スリットの存在する長さ部分は、他の部分よりも断面二次モーメントが小さくなり、エネルギーの吸収部位が明確になる。
【0010】
この発明において、前記一対の拘束材のうちの少なくとも一方に固定され、前記構造スリットに挿通されて前記芯材の位置ずれを防止するボルトを設けてもよい。
この構成の場合、芯材に位置ずれ防止用の付属物を溶接で取付ける必要がないので、溶接による脆弱部分が生じることを回避でき、高いエネルギー吸収性能を発揮できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の座屈拘束ブレースは、芯材と、この芯材の両面に沿って配置した拘束材とを有し、前記芯材は、前記拘束材との並び方向の厚みよりも並び方向と直交する方向の幅が広い帯板状であって、長手方向の一部分に他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部を設け、このエネルギー吸収部に長手方向に沿う構造スリットを1つ以上設け、この構造スリットにより隔てられた複数の芯材分割部分の幅寸法を互いに異ならせたため、必要なエネルギー吸収性を与えつつ、剛性を高めることができ、かつ低コストで製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態にかかる座屈拘束ブレースの分解斜視図である。
【図2】同座屈拘束ブレースの断面図である。
【図3】(A)は同座屈拘束ブレースの芯材の全体平面図、(B)はその部分拡大図である。
【図4】同座屈拘束ブレースの芯材と拘束材とに作用する力を示す説明図である。
【図5】この発明の異なる実施形態にかかる座屈拘束ブレースの断面図である。
【図6】(A)は同座屈拘束ブレースの芯材の全体平面図、(B)はその部分拡大図である。
【図7】試作の芯材の斜視図である。
【図8】同芯材の試験後の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1はこの座屈拘束ブレースの分解斜視図、図2はその断面図である。この座屈拘束ブレース1は、芯材2と、この芯材2の両面に沿って配置した一対の拘束材3と、芯材2と拘束材3間に介在させるアンボンド材4とを有する。
【0014】
芯材2は、SN材(建築構造用圧延鋼材)やLYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鉄鋼材料からなり、拘束材3との並び方向の厚みよりも並び方向と直交する方向の幅が広い細長い帯板状である。芯材2の両端部2aは、柱や梁等の鉄骨材との継手となる部分であり、その両面の幅方向中央位置からそれぞれ垂直に突出するリブ5を有する断面十字状とされている。芯材2の両端部2aには、複数のボルト孔6が穿孔されている。
【0015】
図3に示すように、芯材2は、長手方向の中央部に他よりも幅の狭い絞り部7を有する。絞り部7は、他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部とされる。絞り部7には、長手方向に沿う1本の構造スリット8が設けられている。図例の構造スリット8は、一定の隙間幅の溝状で、両端は円弧状に形成されている。絞り部7を有する芯材2の場合、構造スリット8は隙間を有しない切れ目状であってもよい。構造スリット8は絞り部7における幅方向の片方に偏った位置に設けられており、構造スリット8により隔てられた2つの芯材分割部分9,10の幅寸法A,Bは互いに異なっている。絞り部7の両側には、スペーサ11が配置される。スペーサ11は、鋼板の切断片等の鋼材であっても、樹脂材等であってもよい。
【0016】
図2に示すように、拘束材3は、芯材2側が開口した溝形鋼材13内にモルタル14を充填したものである。溝形鋼材13は、ウェブ部13aと、このウェブ部13aの両端から垂直に立ち上がる両フランジ部13b,13cとでなる断面溝形である。一方のフランジ部13bは他方のフランジ部13cよりも長く、長い方のフランジ部13bが対向する拘束材3の短い方のフランジ部13cの外面に当接している。
【0017】
モルタル14の芯材2と対向する表面には、アンボンド材4が貼り付けられる。アンボンド材4は、例えば板状またはシート状のブチルゴム等からなる。拘束材3およびアンボンド材4は、芯材2の両端部2aの先端部分を除く芯材2の略全体を覆うように配置される。
【0018】
図4は、この座屈拘束ブレース1の芯材2と拘束材3とに作用する力を示す説明図である。座屈拘束ブレース1に長手方向の圧縮力Pが作用すると、芯材2のエネルギー吸収部である絞り部7がエネルギーを吸収し、この絞り部7が圧縮されて図のように波形に座屈変形する。そして、芯材2の波形の頂部2Aで拘束材3が外向きに押される。拘束材3には、芯材2からの力に対抗して同じ大きさ補剛力Cが芯材2に対して作用する。この補剛力Cの大きさは、式1で表される。ここで、Inは、芯材2の座屈の波長であって、式2で与えられる。Sは、芯材2の振幅である。Isは、芯材2の弱軸方向の断面二次モーメントである。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

【0021】
式1から、芯材2の座屈の波長Inは、芯材2の断面二次モーメントによって変化することが分かる。したがって、エネルギー吸収部である絞り部7に長手方向に沿う構造スリット8を設け、この構造スリット8により隔てられた2つの芯材分割部分9,10の幅寸法A,Bを互いに異ならせたことにより、エネルギー吸収部のうちでも各芯材分割部分9,10によって座屈モードが異なり、拘束材3に発生する力が分散される。すなわち、芯材2が座屈の波長Inが各芯材分割部分9,10によって異なり、波形の頂部2Aで押される拘束材3の部分が分散する。よって、拘束材3の補剛力を低減することができる。それにより、拘束材3のモルタル14の量を少なくするか、または溝形鋼材13の材厚を薄くする等して強度を下げることにより、座屈拘束ブレース1の軽量化、低コスト化を図ることが可能になる。エネルギー吸収部を絞り部7としたことにより、エネルギー吸収部の断面二次モーメントを他よりも確実に低減させることができ、エネルギーの吸収部位が明確となって、効率的な設計が行える。
【0022】
図5および図6は、この発明の異なる実施形態を示す。この座屈拘束ブレース1は、芯材2の両端部2aを除く中央部、すなわち拘束材3のある長さ範囲の部分の幅寸法が一定であり、中央部の長手方向一部分に、長手方向に沿う2本の構造スリット8が設けられている。各構造スリット8は、一定幅の溝状で、両端は円弧状に形成されている。これら構造スリット8が設けられている芯材2の長手方向部分20は、構造スリット8が存在することで、他よりも断面二次モーメントが小さくなったエネルギー吸収部とされる。2本の構造スリット8により、エネルギー吸収部は3つの芯材分割部分21,22,23に隔てられている。両側の芯材分割部分21,23の幅寸法Dは互いに同じで、中央の芯材分割部分22の幅寸法Eは両側の芯材分割部分21,23の幅寸法Dよりも大きい。
【0023】
図5に示すように、各構造スリット8内にはスペーサ24が配置される。このスペーサ24は、一方の拘束材3のモルタル14に埋め込み固定されたボルト25と、このボルト25の螺着させたナット26により拘束材3に固定される。ボルト25は、スペーサ24に設けられたボルト挿通孔内に挿通される。このように、構造スリット8内のスペーサ24を、構造スリット8を挿通して設けたボルト25等により拘束材3に固定することで、芯材2の位置ずれを防止する。この構成の場合、芯材2に位置ずれ防止用の付属物を溶接で取付ける必要がないので、溶接による脆弱部分が生じることを回避でき、高いエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0024】
この実施形態の座屈拘束ブレース1も、この構造スリット8により隔てられた複数の芯材分割部分21,22,23の幅寸法D,Eを互いに異ならせたことにより、エネルギー吸収部である長手方向部分20のうちでも両側の芯材分割部分21,23と中央の芯材分割部分22とで座屈モードが異なり、拘束材3に発生する力が分散される。よって、拘束材3の補剛力を低減することができる。それにより、拘束材3のモルタル14の量を少なくするか、または溝形鋼材13の材厚を薄くする等して強度を下げることにより、座屈拘束ブレース1の軽量化、低コスト化が可能になる。この座屈拘束ブレース1の芯材2は、幅寸法が一定であるため、エネルギー吸収部が芯材の幅方向の外側に位置し、拘束材3の設計上有利である。なお、この実施形態においても、構造スリット8を1本とし、その両側の芯材分割部分の幅を互いに異ならせてもよい。
【0025】
なお、上記各実施形態では、芯材2の両側にそれぞれ別々の拘束材3を設けたが、芯材2の両側の拘束材部分が互いに一体化した一つの拘束材としてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…座屈拘束ブレース
2…芯材
3…拘束材
7…絞り部(エネルギー吸収部)
8…構造スリット
9,10,21,22,23…芯材分割部分
20…長手方向部分(エネルギー吸収部)
25…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、この芯材の両面に沿って配置した拘束材とを有する座屈拘束ブレースにおいて、
前記芯材は、前記拘束材との並び方向の厚みよりも並び方向と直交する方向の幅が広い帯板状であって、長手方向の一部分に他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部を設け、このエネルギー吸収部に長手方向に沿う構造スリットを1つ以上設け、この構造スリットにより隔てられた複数の芯材分割部分の幅寸法を互いに異ならせたことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
請求項1において、前記芯材の長手方向の一部分に他よりも幅の狭い絞り部を設け、この絞り部を前記エネルギー吸収部とした座屈拘束ブレース。
【請求項3】
請求項1において、前記芯材の前記エネルギー吸収部は、長手方向における前記構造スリットが設けられている部分から設けられていない部分にかけて幅寸法が一定であり、前記構造スリットは、前記並び方向と直交する方向の隙間を有する座屈拘束ブレース。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記一対の拘束材のうちの少なくとも一方に固定され、前記構造スリットに挿通されて前記芯材の位置ずれを防止するボルトを設けた座屈拘束ブレース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229572(P2012−229572A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99046(P2011−99046)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【特許番号】特許第4917177号(P4917177)
【特許公報発行日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】