説明

座席のリクライニング装置用軸受ブッシュおよび座席のリクライニング装置

【課題】鉛レスの座席のリクライニング装置用軸受ブッシュおよびこの軸受ブッシュを用いた耐久性のよい座席のリクライニング装置を提供する。
【解決手段】内歯車1と、外歯車2とを噛み合わせ、外歯車2の軸孔3と内歯車1の軸4との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片6、6´をそれらの先細り端部6a、6´aが互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片6、6´が離れる方向にバネを設け、楔形片6、6´が内歯車の軸4に設けたカム5に押されて上記弧状の間隙内で摺動移動した際、外歯車2が内歯車1から離れて開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置の外歯車の軸孔3に配置され、楔形片6、6´と摺接される差動伝動機構を有する軸受ブッシュ10であって、軸受ブッシュ10は滑り面がフッ素樹脂に、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、二硫化モリブデンとを少なくとも配合してなるフッ素樹脂組成物で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、座席のリクライニング装置用軸受ブッシュおよび座席のリクライニング装置に関し、詳しくは自動車シートのリクライニング装置などに適する座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ、およびそれを用いた座席のリクライニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な座席のリクライニング装置は、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために、歯車の差動伝動機構を用いて、背もたれ傾斜角度を調整可能とする方式が周知である。座席のリクライニング装置における歯車を用いた差動伝動機構を従来のリクライニング装置の要部の一部切り欠き断面図である図2に基づき説明する。説明の中で内歯車1については本発明の一実施形態である座席のリクライニング装置の一部切り欠き断面図である図1を用いる。
【0003】
従来の座席のリクライニング装置は、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジに歯車の差動伝動機構を設けている。この差動伝動機構は、内歯車1(図1)と、これより歯数の少ない外歯車2とを噛み合わせて外歯車2の軸孔にリング状の軸受ブッシュ10を嵌め入れている。そして、リング状の軸受ブッシュ10と内歯車1(図1)の軸4とその軸受ブッシュ11との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片16、16´をそれらの先細り端部16a、16a´が互いに反対向きになるよう配置し、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与する圧縮コイルバネ7を設けている。楔形片16、16´が、内歯車1(図1)の軸4に設けた軸受ブッシュ11とその突起部11aの操作により、弧状の間隙内で摺動移動した際には、外歯車2が、内歯車1(図1)から離れて背もたれ傾斜角度が調整可能となる。
【0004】
このような差動伝動機構は、タウメル機構とも別称され、これを用いた自動車シートのリクライニング装置には、上述のように外歯車2の内部に軸受ブッシュ10が設けられており、この軸受ブッシュ10に楔形片16、16´が摩擦摺接する構造となっている(特許文献1および特許文献2参照)。軸受ブッシュ10に楔形片16、16´が摩擦摺接する構造の自動車シートのリクライニング装置は、いずれも軸受ブッシュ10を外歯車2の内部に圧入して、楔形片16、16´の動作を円滑にする必要があった。このような軸受ブッシュ10、11は、摺動面が摺動性に優れる樹脂で形成されたものであり、例えば、図3に示す積層構造からなり、裏金10aと、その上に重ねて焼結成形体からなる多孔質焼結層10bと、この多孔質焼結層10bの細孔に一部が充填された摺動性樹脂組成物からなる樹脂層10cとからなる複層軸受(軸受ブッシュ)がある。
【0005】
従来、座席のリクライニング装置用の複層軸受には、高面圧用固体潤滑剤として鉛または鉛酸化物を配合したポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂を樹脂層に有する複層軸受が使用されていたが、ELV指令、RoHS指令等による鉛化合物の使用禁止により、鉛レスの複層軸受の使用が義務付けられている。例えば、そのような鉛レスの複層軸受として、PTFE樹脂を主成分とする樹脂に平均粒子径1〜50μmの粒状無機充填材を少なくとも配合してなる複層軸受が知られている(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、特許文献3に開示されたPTFE樹脂を主成分とする樹脂に平均粒子径1〜50μmの粒状無機充填材を少なくとも配合してなる複層軸受を、自動車などの座席のリクライニング装置に使用した場合、鉛含有の複層軸受と比較して高面圧での摺動特性が劣るため、複層軸受の樹脂層と楔形片とが繰り返し摩擦接触することにより、複層軸受の樹脂層が剥離や摩耗する場合があるという問題点があった。このため、ワンサイズ大きな軸受ブッシュを採用することで摩耗対策を行なっている。あるいは、楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成する提案もなされている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−237904号公報
【特許文献2】特開2004−033401号公報
【特許文献3】特開2002−327750号公報
【特許文献4】特開2008−006265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように従来の自動車などの座席のリクライニング装置用軸受ブッシュとして、鉛や鉛化合物を配合しない環境対応型の軸受ブッシュでは、鉛や鉛化合物を配合する軸受ブッシュに匹敵する特性を有するものが得られていないという問題があった。また、上記した従来の自動車などの座席のリクライニング装置には、摺動する楔形片と軸受ブッシュの樹脂層が繰り返し摩擦接触することにより、樹脂層が剥離する場合があるという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、ワンサイズ大きな軸受ブッシュを採用しなくても、あるいは、楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成しなくても使用可能な、自動車シートなどに適用できる座席のリクライニング装置用軸受ブッシュを提供することを目的とする。また、軸受ブッシュが取り付けられた外歯車や内歯車を有する差動伝動機構(タウメル機構)の使用耐久性を改善し、外歯車内部や内歯車軸部の軸受ブッシュの樹脂層が表面から剥離せず、また層間剥離を起こさず、耐久性のよい差動伝動機構による自動車シートなどに適用できる座席のリクライニング装置を提供することを目的とする。この座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材、多孔質焼結層および樹脂層に、鉛または鉛化合物を一切使用しないことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を設け、この差動伝動機構は、内歯車と、これより歯数の少ない外歯車とを噛み合わせ、該外歯車の軸孔と上記内歯車の軸との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片をそれらの先細り端部が互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与するバネを設け、上記楔形片が上記内歯車の軸に設けたカムに押されて上記弧状の間隙内で摺動移動した際、上記外歯車が上記内歯車から離れてヒンジの開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置の上記外歯車の軸孔に配置され、上記楔形片と摺接される軸受ブッシュにおいて、上記軸受ブッシュは、滑り面が、フッ素樹脂に、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、二硫化モリブデンとを少なくとも配合してなるフッ素樹脂組成物で形成された軸受ブッシュであることを特徴とする。
【0011】
上記軸受ブッシュは、上記外歯車の軸孔に固定して設けられ、上記外歯車用の軸受ブッシュの滑り面と、上記楔形片の摩擦摺接面が摺接されることを特徴とする。あるいは、上記軸受ブッシュは、上記内歯車の軸に固定して設けられ、上記内歯車用の軸受ブッシュの滑り面と、上記楔形片の摩擦摺接面が摺接されることを特徴とする。
【0012】
上記軸受ブッシュは、金属基材と、該金属基材の一方の表面に形成された多孔質層と、該多孔質層に含浸被覆された上記フッ素樹脂組成物とからなることを特徴とする。また、上記多孔質層に上記フッ素樹脂組成物を圧入することで含浸させることを特徴とする。
【0013】
上記フッ素樹脂は、PTFE樹脂であることを特徴とする。
【0014】
上記熱可塑性樹脂は、上記フッ素樹脂の融点の−50℃〜+20℃の範囲の融点を有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする。また、上記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記す)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと記す)樹脂から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする。
【0015】
上記炭素繊維は、平均繊維長が100μm以下であることを特徴とする。また、上記炭素繊維は、PAN系炭素繊維であることを特徴とする。
【0016】
上記フッ素樹脂組成物は、上記フッ素樹脂100重量部に対して、上記熱可塑性樹脂0.5〜13重量部、上記炭素繊維2〜20重量部、上記二硫化モリブデン4〜35重量部を、少なくとも配合することを特徴とする。また、上記フッ素樹脂組成物は、実質的に上記フッ素樹脂、上記熱可塑性樹脂、上記炭素繊維、上記二硫化モリブデンの4成分からなることを特徴とする。実質的に上記4成分からなるとは、故意に他の配合物を配合しないことをいう。
【0017】
上記多孔質層は、非鉄金属の焼結層または溶射層であることを特徴とする。また、上記金属基材は鋼板であり、上記多孔質層の非鉄金属は上記鋼板より軟質の金属であることを特徴とする。また、上記非鉄金属は、銅または銅を主成分とする銅合金であることを特徴とする。また、上記鋼板には、上記非鉄金属と同等の金属がメッキされていることを特徴とする。
【0018】
上記金属基材の他方の表面には防錆用メッキが付けられていることを特徴とする。また、上記防錆用メッキは、錫メッキであることを特徴とする。
【0019】
本発明の座席のリクライニング装置は、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を設け、この差動伝動機構は、内歯車と、これより歯数の少ない外歯車とを噛み合わせ、該外歯車の軸孔と上記内歯車の軸との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片をそれらの先細り端部が互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与するバネを設け、上記楔形片が上記内歯車の軸に設けたカムに押されて上記弧状の間隙内で摺動移動した際、上記外歯車が上記内歯車から離れてヒンジの開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置において、上記楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが上記外歯車の軸孔に固定して設けられた上記軸受ブッシュであることを特徴とする。あるいは、上記楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが上記内歯車の軸に固定して設けられた上記軸受ブッシュであることを特徴とする。
【0020】
上記楔形片が金属粉末の焼結成形体であることを特徴とする。また、上記楔形片が含油焼結成形体であることを特徴とする。また、上記楔形片の摩擦摺接面はフッ素樹脂被膜が形成されていることを特徴とする。
【0021】
上記座席のリクライニング装置において、座席が自動車用シートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ(請求項1)は、滑り面が、フッ素樹脂に、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、二硫化モリブデンとを少なくとも配合してなるフッ素樹脂組成物で形成された軸受ブッシュであるので、鉛や鉛化合物を配合していなくても、高荷重特性に優れており、ワンサイズ大きな軸受ブッシュを採用しなくても、または、楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成しなくても、座席のリクライニング装置用軸受ブッシュとして使用可能である。このため、請求項2に記載のとおり、外歯車に固定される外歯車用軸受ブッシュとして好適に使用できる。または、請求項3に記載のとおり、内歯車に固定される内歯車用軸受ブッシュとして好適に使用できる。
【0023】
請求項4に記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材と、該金属基材の一方の表面に形成された多孔質層と、該多孔質層に含浸被覆された上記フッ素樹脂組成物とからなる軸受ブッシュであるので、滑り面のフッ素樹脂組成物が金属基材に強固に密着し耐剥離性が優れる。
【0024】
請求項5に記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、多孔質層にフッ素樹脂組成物が圧入されて含浸しているため、耐剥離性がさらに向上する。
【0025】
請求項6に記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、フッ素樹脂がPTFE樹脂であるので、摩擦による耐熱性と優れた摺動特性を有し、コストパフォーマンスに優れる。
【0026】
請求項7に記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、熱可塑性樹脂がフッ素樹脂の融点の、−50℃〜+20℃の範囲の融点を有する熱可塑性樹脂であるので、樹脂組成物を多孔質層に含浸被覆する際に、熱可塑性樹脂がフッ素樹脂、炭素繊維、二硫化モリブデンを三次元網目構造的に保持することができる。このため、フッ素樹脂組成物の耐摩耗特性を向上させることができる。
【0027】
請求項8記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、熱可塑性樹脂がPPS樹脂、PEEK樹脂、PFA樹脂から選ばれる少なくとも一つの熱可塑性樹脂であるので、フッ素樹脂組成物の摩擦特性と耐摩耗特性を向上させることができる。
【0028】
請求項9記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、炭素繊維の平均繊維長が100μm以下であるので、フッ素樹脂組成物における炭素繊維の分散性に優れるとともに多孔質層への含浸性に優れる。このため、フッ素樹脂組成物の耐剥離性がさらに優れるようになる。
【0029】
請求項10記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、炭素繊維がPAN系炭素繊維であるので、フッ素樹脂組成物の強度向上を図ることができる。耐圧縮特性に優れるので使用感が低下しない。
【0030】
請求項11記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、フッ素樹脂組成物がフッ素樹脂100重量部に対して、熱可塑性樹脂0.5〜13重量部、炭素繊維2〜20重量部、二硫化モリブデン4〜35重量部を少なくとも配合するので、より確実に低摩擦特性、耐摩耗性、耐剥離性が得られる。
【0031】
請求項12記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、フッ素樹脂組成物が実質的にフッ素樹脂、熱可塑性樹脂、炭素繊維、二硫化モリブデンの4成分からなるので、低摩擦特性および耐摩耗特性が安定する。
【0032】
請求項13記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、多孔質層が非鉄金属の焼結層または溶射層であるので、焼結層または溶射層としての金属基材への接着強度に優れる。
【0033】
請求項14記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材が鋼板であり、多孔質層の非鉄金属が上記鋼板より軟質の金属であるので、フッ素樹脂組成物が摩耗した場合でも軟質金属からなる多孔質層によって焼き付きを防止でき、リクライニング装置のロック状態を未然に防止できる。
【0034】
請求項15記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、多孔質層の非鉄金属が銅または銅を主成分とする銅合金であるので、焼き付き防止効果がさらに高くなる。
【0035】
請求項16記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、鋼板には多孔質層の非鉄金属と同等の金属がメッキされているので、鋼板と多孔質層との接着強度がさらに高くなる。
【0036】
請求項17記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材の他方の表面には防錆用メッキが付けられているので、防錆効果が高まり長寿命化に貢献できる。
【0037】
請求項18記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材の他方の表面に付けられる防錆用メッキが錫メッキであるので、環境負荷の懸念が無く、ELV規制に適応する。
【0038】
請求項19記載の座席のリクライニング装置は、楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが上記外歯車の軸孔に固定して設けられており、上記軸受ブッシュが上述の軸受ブッシュであるので、外歯車に設ける軸受ブッシュの小径化が可能であり、楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成しなくてもよい。その結果、座席のリクライニング装置の小型化、低コスト化が達成できる。
【0039】
請求項20記載の座席のリクライニング装置は、楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが上記内歯車の軸に固定して設けられており、上記軸受ブッシュが上述の軸受ブッシュであるので、内歯車に設ける軸受ブッシュの小径化が可能であり、楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成しなくてもよい。その結果、座席のリクライニング装置の小型化、低コスト化が達成できる。
【0040】
請求項21記載の座席のリクライニング装置は、楔形片が金属粉末の焼結成形体であるので、楔形片の製造が簡略的にでき、座席のリクライニング装置がさらに低コスト化できる。
【0041】
請求項22記載の座席のリクライニング装置は、楔形片が含油焼結成形体であるので軸受ブッシュとの摺動特性が向上することで軸受ブッシュの耐摩耗性が高くなる。
【0042】
請求項23記載の座席のリクライニング装置は、楔形片の摩擦摺接面にフッ素樹脂被膜が形成されているので軸受ブッシュとの摺動特性が向上することで軸受ブッシュの耐摩耗性が高くなる。
【0043】
請求項24記載の座席のリクライニング装置は、座席が自動車用シートであるのでリクライニング動作および耐久性に優れた自動車シートのリクライニング装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の座席のリクライニング装置の一部切り欠き断面図である。
【図2】従来のリクライニング装置の要部の一部切り欠き断面図である。
【図3】従来の軸受ブッシュの積層構造を示す断面図である。
【図4】本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュの断面図である。
【図5】往復動試験機の概略図である。
【図6】摩耗量の測定結果を示す図である。
【図7】摩擦係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュおよび座席のリクライニング装置の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態である座席のリクライニング装置の一部切り欠き断面図である。図1に示すように、本発明のリクライニング装置は、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために所定の差動伝動機構を有するものである。その差動伝動機構は、内歯車1と、これより僅かに歯数の少ない外歯車2とを噛み合わせ、外歯車2の軸孔3に配置した滑り面が樹脂で形成された軸受ブッシュ10と内歯車1の軸4と一体のカム5の小径部分の間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片6、6´をそれらの先細り端部6a、6´aが互いに反対向きになるよう配置している。
【0046】
それとともに、両楔形片6、6´が離れる方向に弾性力を付与する圧縮コイルバネ7を設け、楔形片6、6´が内歯車1の軸4と一体に設けたカム5に押されて弧状の間隙内で摺動移動した際、外歯車2が内歯車1から離れて噛み合わせが外れ、ヒンジの開き角度が調整可能となる。
【0047】
軸受ブッシュ10の滑り面は、耐荷重性を向上するために裏金上に形成されたブロンズ焼結層などの多孔質層に、所定の樹脂層を含浸被覆することにより形成されている。内歯車1の軸4にも軸受ブッシュを設ける場合もあり、その場合、一対の楔形片6、6´の内周面と軸4に形成した軸受ブッシュの外周面が摺接する。このため、内歯車1の軸4に設けられる軸受ブッシュは外周面に滑り面が形成されている。
【0048】
外歯車2は、内歯車1より1以上歯数が少なければよく、敢えて範囲を例示すれば1〜10、好ましくは2〜5程度、通常1〜3程度の歯数が少ないものであり、特にこのような歯数の関係は限定されるものではない。
【0049】
楔形片6、6´は、先細りの端部6aが一端に形成されているものであればよく、その全体形状の細部や曲がりの程度などは特に設計によって適宜に変更できるものである。また、楔形片6、6´は、金属粉末の焼結成形体などで形成される。2つの楔形片6、6´が離れる方向に弾性力を付与するバネの形態は、圧縮コイルバネ7を図示したが、その他にも例示すれば、一部切り欠きのリング状バネ、またはダンパーやゴム、弾性樹脂などの弾性作用のある周知の部品を採用できるものである。
【0050】
楔形片6は、外歯車2の軸受ブッシュ10と摺接する外側面6bと、内歯車1の軸4と一体のカム5と摺接する内側面6cが主たる摩擦摺接面である。通常、軸受ブッシュ10と摺接する外側面6bには特に耐摩耗性が要求され、低摩擦摺動材を形成する必要があるが、本発明の軸受ブッシュを用いる場合では、このような低摩擦摺動材を形成しなくても使用可能となる。
【0051】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ10の一例を図4に示す。図4は軸受ブッシュ10の断面図である。軸受ブッシュ10は、鋼板などの金属基材12の表面に焼結金属などの多孔質層13を形成し、この多孔質層13中にフッ素樹脂組成物14が含浸被覆された三層構造体となっている。含浸被覆面が滑り面となり、高面圧下での摺動特性に優れた軸受ブッシュ10が得られる。このフッ素樹脂組成物14は、フッ素樹脂に、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、二硫化モリブデンとを少なくとも配合してなる組成物である。以下、フッ素樹脂組成物について詳細に説明する。
【0052】
フッ素樹脂組成物のベース樹脂であるフッ素樹脂は、合成樹脂の中でも優れた摺動特性を有する合成樹脂として周知であり、PTFE樹脂、PFA樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(以下、ETFEと記す)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂、ポリビニリプロピレン−パーフルオロオレフィン共重合樹脂等が上市されている。これらのフッ素樹脂の中で、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂は、いずれも融点が260℃以上を有し、連続使用温度も150℃以上あるため摺動摩擦による発熱に対し耐熱性が十分に確保されるため、座席のリクライニング装置用軸受ブッシュのベース樹脂として好ましい。
【0053】
上述のPTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂の中でもPTFE樹脂は、融点327℃、連続使用温度260℃以上の高い耐熱性を持ち、摺動特性が最も高く、さらに価格も比較的安価なため特に好ましい。
【0054】
PTFE樹脂は、−(CF−CF−で表される一般のPTFE樹脂を用いることができ、また、一般のPTFE樹脂にパーフルオロアルキルエーテル基(−C2p−O−)(pは1−4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF−)(qは1−20の整数)などを導入した変性PTFE樹脂も使用できる。上記の変性PTFE樹脂は、耐圧縮特性が一般のPTFE樹脂より優れているため、好適に使用できる。なお、一般のPTFE樹脂と変性PTFE樹脂を併用してもよい。
【0055】
これらのPTFE樹脂および変性PTFE樹脂は、一般的なモールディングパウダーを得る懸濁重合法、ファインパウダーを得る乳化重合法のいずれを採用してもよいが、数平均分子量(Mn)は約50万から1000万が好ましく、さらに限定すれば50万から300万が好ましい。PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)7J(三井・デュポンフロロケミカル社製)を、変性PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)TG70J(三井・デュポンフロロケミカル社製)、ポリフロンM111、ポリフロンM112(ダイキン工業社製)、ホスタフロンTFM1600、ホスタフロンTFM1700(ヘキスト社製)等を例示できる。
【0056】
フッ素樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂は、ベース樹脂であるフッ素樹脂の融点の−50℃〜+20℃の融点を有する熱可塑性樹脂であることが望ましい。熱可塑性樹脂は、結着作用の乏しいフッ素樹脂や、結着作用を持たない炭素繊維や二硫化モリブデンを三次元網目構造的に保持することができる。このため、熱可塑性樹脂を配合したこのフッ素樹脂組成物は、PTFE樹脂の焼結体以上にお互いを強固につなぎ合わせることができる。フッ素樹脂を熱可塑性樹脂の三次元網目構造で保持することで、フッ素樹脂の欠点である耐摩耗性、耐クリープ特性が改善できる。熱可塑性樹脂がフッ素樹脂の融点の−50℃より低い融点の熱可塑性樹脂の場合、フッ素樹脂組成物の焼成工程で熱劣化するおそれがあり、+20℃より高い融点を有する熱可塑性樹脂の場合では、フッ素樹脂組成物の焼成工程で溶融せず、熱可塑性樹脂の三次元網目構造が形成されない場合がある。
【0057】
フッ素樹脂にPTFE樹脂(融点327℃)を用いた場合は、熱可塑性樹脂として、PPS樹脂(融点288℃)、PEEK樹脂(融点334℃)、PFA樹脂(融点310℃)が使用できる。PPS樹脂はPTFE樹脂の耐摩耗性、耐クリープ特性の改善効果が高く、安価であることから最も使用に適している。
【0058】
熱可塑性樹脂の配合量は、フッ素樹脂100重量部に対して0.5〜13重量部であることが好ましい。熱可塑性樹脂の配合量が、0.5重量部未満では三次元網目構造を形成することが困難であり、フッ素樹脂の耐摩耗性、耐クリープ特性の改善効果が得られない。熱可塑性樹脂の配合量が、13重量部をこえるとフッ素樹脂の低摩擦特性を阻害するようになる。
【0059】
フッ素樹脂組成物に用いる炭素繊維は、炭素繊維を粉砕処理して短繊維化したミルドファイバーであって、平均繊維長が100μm以内の短繊維が樹脂組成物における分散性が優れ、多孔質層への含浸性が高いので望ましい。なお、繊維長の下限値は特に設ける必要は無いが、繊維形状が保たれる20μm程度が妥当である。平均繊維長が100μm以下の炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維あるいはPAN系炭素繊維のいずれでも用いることができるが、PAN系炭素繊維は弾性率が高く補強効果が高いので好ましい。また、糸種は特に限定しないが、2000℃焼成、あるいはそれ以上の温度での処理品(黒鉛化品)より1000℃焼成品(炭化品)の方が好ましい。なお、焼成温度については低弾性を狙った低温焼成品あるいは高弾性を狙った高温焼成品も使用できる。
【0060】
炭素繊維の配合量は、フッ素樹脂100重量部に対して2〜20重量部であることが好ましい。炭素繊維の配合量が、2重量部未満では、フッ素樹脂組成物の耐摩耗性向上の効果が乏しい。炭素繊維の配合量が、20重量部をこえると混合による均一分散性、多孔質層への含浸工程では含浸性が悪くなり、未含浸部が発生するおそれがあり好ましくない。なお、さらに好ましくはフッ素樹脂100重量部に対して炭素繊維5〜16重量部である。
【0061】
炭素繊維の市販品としては、トレカMLD30(東レ社製、PAN系、平均繊維長30μm、平均繊維径7μm)、ベスファイトHTA-CMF0040−0H(東邦テナックス社製、PAN系、平均繊維長40μm、平均繊維径7μm)、ザイラスGM100J(大阪ガス社製、ピッチ系、平均繊維長100μm、平均繊維径12μm)等が挙げられる。
【0062】
フッ素樹脂組成物に用いる二硫化モリブデンは、樹脂すべり軸受やグリース等の固体潤滑剤として広く用いられており、その潤滑機構としては、層状格子構造を持ち、すべり運動により薄層状に容易に剪断して、摩擦抵抗を低下させることが知られている。
【0063】
二硫化モリブデンの配合量は、フッ素樹脂100重量部に対して4〜35重量部であることが好ましい。二硫化モリブデンの配合量が、4重量部未満では、摩擦係数低減、耐摩耗性向上を得ることができない。二硫化モリブデンの配合量が、20重量部をこえると混合による均一分散性、多孔質層への含浸工程で含浸性が悪くなるので未含浸部が発生するおそれがあり、さらにフッ素樹脂組成物の機械強度が低下するおそれがある。市販品としては、モリコートマイクロサイズ(ダウコーニング社製)、モリパウダーPA(住鉱潤滑剤社製)等が挙げられる。
【0064】
なお、フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂、熱可塑性樹脂、炭素繊維、二硫化モリブデンの他に、耐摩耗性、低摩擦特性、耐圧縮クリープ特性等の必要特性を著しく低下させない範囲であれば他の添加材を配合しても構わないが、最も顕著に低摩擦特性や耐摩耗特性が安定するのは、フッ素樹脂、熱可塑性樹脂、炭素繊維、二硫化モリブデンの4成分のみによる樹脂組成物である。
【0065】
上述の各原材料を溶媒に溶解あるいは分散させてディスパージョン液等とし、このディスパージョン液等を撹拌することによりペースト状にした後、加熱・加圧などにより多孔質層に含浸させて、溶媒を除去することにより、本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュに用いるフッ素樹脂組成物が得られる。
【0066】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュにおいて、多孔質層は、金属基材に対し優れた接着強度を確保するために、非鉄金属の焼結層または溶射層として形成することが好ましい。非鉄金属としては、銅または銅を主成分とする銅合金が摩擦摩耗特性に優れ好ましい。非鉄金属(銅合金)の焼結層は、例えば、鋼板上に、銅合金粉末を厚さ0.3mmで散布し、次いで、還元雰囲気中で750〜900℃の温度に加熱して銅合金粉末を焼結することによって得ることができる。
【0067】
また、金属基材に対する多孔質層の密着強度をさらに高めるために、金属基材の多孔質層を形成する表面に、この多孔質層の非鉄金属と同等の金属をメッキすることが好ましい。
【0068】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュにおいて、金属基材としては、鋼(SPCC等の構造用圧延鋼等)あるいは鋼以外の金属、例えばステンレス鋼または青銅などの銅系合金等を使用できる。運転時に異常摩耗が発生した場合でも、焼き付きを未然に防止するため、金属基材を鋼板とし、多孔質層の非鉄金属を上記鋼板より軟質の金属とすることが好ましい。また、多孔質層の非鉄金属を、上述の銅または銅を主成分とする銅合金とすることで、焼き付き防止効果をさらに向上できる。なお、銅合金は鉛類を含まない銅合金である。
【0069】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、防錆効果を高めるために、金属基材の他方の表面(多孔質層3を形成する面の反対面)に防錆用メッキを付けることが好ましい。また、環境負荷を生じる懸念を無くし、ELV規制等の制限を受けることなく使用可能とするためには、この防錆用メッキを錫メッキとすることが好ましい。
【0070】
以上のように構成された座席のリクライニング装置は、座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を作用させる際、手動レバーなどによる軸4の回転により、軸4と一体に設けたカム5に押されて楔形片6、6´が弧状の間隙内で摺動移動し、上記角度調節を可能な状態または角度固定状態になるが、その状態の切換えの際に楔形片6、6´の外側面6b、6´bは、軸受ブッシュ10の滑り面に摺接して差動伝動機構(タウメル機構)を作用させる。
【0071】
軸受ブッシュ10の滑り面が上述の構成であることから、楔形片との摺接の際に、該滑り面が表面から層状に剥離し難くなり、または焼結層である中間層もしくは裏金から剥離し難くなる。
【0072】
また、耐摩耗性をより向上させるため、本発明の座席のリクライニング装置では、楔形片6を含油焼結成形体とする、または、楔形片6の摩擦摺接面にフッ素樹脂被膜などの低摩擦摺動材を形成することもできる。
【実施例】
【0073】
各実施例および各比較例に用いた樹脂組成物の配合材料を以下に示す。
(1)PTFE樹脂:三井・デュポンフロロケミカル社製;テフロン(登録商標)7J
(2)PPS樹脂:東ソー社製;B160(融点288℃)
(3)PEEK樹脂:ビクトレックス・エムシー社製;PEEK450P(融点334℃)
(4)ポリイミド樹脂:宇部興産社製;UIP−R(融点400℃)
(5)PAN系炭素繊維:東レ社製;トレカMLD30(繊維長30μm、繊維径7μm)
(6)ピッチ系炭素繊維1:大阪ガス社製;ザイラスGM−100J(繊維長100μm、繊維径12μm)
(7)ピッチ系炭素繊維2:呉羽化学社製;クレカミルドM101S(繊維長130μm、繊維径14.5μm)
(8)二硫化モリブデン:ダウコーニング社製;モリコートZパウダー
(9)四酸化三鉛:鉛市化学工業社製;鉛丹1号
(10)硫酸カルシウム:大日精化工業社製;硫酸カルシウム
【0074】
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例4
両面に銅メッキの付けられたSPCC鋼板(日新製鋼社製;カッパータイト)の片方の表面に青銅粉末(#100メッシュパス、#200メッシュオン)を散布し、加熱・加圧することにより鋼板上に均一な層厚の多孔質性層(焼結金属層)を形成した。この多孔質層の上に、表1に示す配合割合で調整したPTFE樹脂組成物のディスパージョン液を撹拌してペースト状にしたのち、これを塗布し、乾燥炉中で溶媒を蒸発させ、加熱・加圧により固形成分を多孔質層に含浸被覆した。このようにして得られた軸受ブッシュの板材を幅25mm×長さ50mm×厚さ1mmの形状に加工し、往復動試験片を得た。得られた往復動試験片を以下に示す往復動試験に供し、摩擦係数および摩耗量を測定した。結果を摩耗量を図6に、摩擦係数を図7に、それぞれ示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
<往復動試験>
往復動試験片26を図5に示す往復動試験機15を用いて、摩擦摩耗試験を実施した。図5に示すように往復動試験機15は、往復動試験片26を固定する固定治具17と、相手材18を保持し、針状ころ20を介して固定台21上を往復動する相手材ホルダー19と、カップリング22を介して往復動を相手材ホルダー19に付与する油圧サーボ機構23と、摩擦力を検出するロードセル24とを備える。往復動試験片26を固定治具17に取り付け、荷重25を印加して表2に示す面圧条件で相手材18に押し付け、相手材18を往復動させたときの両者の摺動面に生じる摩擦係数をロードセル24により測定する。往復動試験終了後に試験片26を取り出し、摩耗量を測定する。往復動試験は表2に示す低面圧条件である往復動試験Aおよび高面圧条件である往復動試験Bの2種類について実施する。
【0078】
往復動試験の結果、本発明の実施例1〜実施6の軸受ブッシュは、図6および図7に示す試験結果のとおり、低面圧条件、高面圧条件の何れにおいても低い摩擦係数を有し、耐摩耗特性に優れていた。各比較例の場合、各実施例より耐摩耗性が劣ることが明らかである。また、鉛化合物が配合された比較例1であっても耐摩耗性では実施例よりも劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュは、金属基材や多孔質焼結層および樹脂層のいずれにも鉛や鉛化合物を配合していなくても、高荷重特性が優れており、ワンサイズ大きな軸受ブッシュや楔形片の摩擦摺接面に低摩擦摺動材を形成しなくても、軸受ブッシュの樹脂層が表面から剥離せず、また層間剥離を起こさず、自動車用シートなどの座席のリクライニング装置用軸受ブッシュとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 内歯車
2 外歯車
3 軸孔
4 軸
5 カム
6、6´、16、16´ 楔形片
6a、6´a 先細り端部
6b 外側面
6c 内側面
7 圧縮コイルバネ(バネ)
10、11 軸受ブッシュ
10a 裏金
10b 多孔質焼結層
10c 樹脂層
11a 突起部
12 金属基材
13 多孔質層
14 フッ素樹脂組成物
15 往復動試験機
17 固定治具
18 相手材
19 相手材ホルダー
20 針状ころ
21 固定台
22 カップリング
23 油圧サーボ機構
24 ロードセル
25 荷重
26 往復動試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を設け、この差動伝動機構は、内歯車と、これより歯数の少ない外歯車とを噛み合わせ、該外歯車の軸孔と前記内歯車の軸との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片をそれらの先細り端部が互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与するバネを設け、前記楔形片が前記内歯車の軸に設けたカムに押されて前記弧状の間隙内で摺動移動した際、前記外歯車が前記内歯車から離れてヒンジの開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置の前記外歯車の軸孔に配置され、前記楔形片と摺接される軸受ブッシュにおいて、
前記軸受ブッシュは、滑り面が、フッ素樹脂に、熱可塑性樹脂と、炭素繊維と、二硫化モリブデンとを少なくとも配合してなるフッ素樹脂組成物で形成されることを特徴とする座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項2】
前記軸受ブッシュは、前記外歯車の軸孔に固定して設けられ、前記外歯車用の軸受ブッシュの滑り面と、前記楔形片の摩擦摺接面が摺接されることを特徴とする請求項1記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項3】
前記軸受ブッシュは、前記内歯車の軸に固定して設けられ、前記内歯車用の軸受ブッシュの滑り面と、前記楔形片の摩擦摺接面が摺接されることを特徴とする請求項1記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項4】
前記軸受ブッシュは、金属基材と、該金属基材の一方の表面に形成された多孔質層と、該多孔質層に含浸被覆された前記フッ素樹脂組成物とからなることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項5】
前記含浸被覆は、前記多孔質層に前記フッ素樹脂組成物を圧入することで含浸させることを特徴とする請求項4記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項6】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、前記フッ素樹脂の融点の−50℃〜+20℃の範囲の融点を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項9】
前記炭素繊維は、平均繊維長が100μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項10】
前記炭素繊維は、PAN系炭素繊維であることを特徴とする請求項9記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項11】
前記フッ素樹脂組成物は、前記フッ素樹脂100重量部に対して、前記熱可塑性樹脂0.5〜13重量部、前記炭素繊維2〜20重量部、前記二硫化モリブデン4〜35重量部を、少なくとも配合することを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項12】
前記フッ素樹脂組成物は、実質的に前記フッ素樹脂、前記熱可塑性樹脂、前記炭素繊維、前記二硫化モリブデンの4成分からなることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項13】
前記多孔質層は、非鉄金属の焼結層または溶射層であることを特徴とする請求項4ないし請求項12のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項14】
前記金属基材は鋼板であり、前記多孔質層の非鉄金属は前記鋼板より軟質の金属であることを特徴とする請求項13記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項15】
前記非鉄金属は、銅または銅を主成分とする銅合金であることを特徴とする請求項13または請求項14記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項16】
前記鋼板には、前記非鉄金属と同等の金属がメッキされていることを特徴とする請求項14または請求項15記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項17】
前記金属基材の他方の表面には防錆用メッキが付けられていることを特徴とする請求項4ないし請求項16のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項18】
前記防錆用メッキは、錫メッキであることを特徴とする請求項17記載の座席のリクライニング装置用軸受ブッシュ。
【請求項19】
座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を設け、この差動伝動機構は、内歯車と、これより歯数の少ない外歯車とを噛み合わせ、該外歯車の軸孔と前記内歯車の軸との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片をそれらの先細り端部が互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与するバネを設け、前記楔形片が前記内歯車の軸に設けたカムに押されて前記弧状の間隙内で摺動移動した際、前記外歯車が前記内歯車から離れてヒンジの開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置において、
前記楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが前記外歯車の軸孔に固定して設けられており、前記軸受ブッシュが請求項2または請求項4ないし請求項18のいずれか一項記載の軸受ブッシュであることを特徴とする座席のリクライニング装置。
【請求項20】
座席の座面部分と背もたれ部分を結合するヒンジの開き角度の調節のために差動伝動機構を設け、この差動伝動機構は、内歯車と、これより歯数の少ない外歯車とを噛み合わせ、該外歯車の軸孔と前記内歯車の軸との間に形成される弧状の間隙に、一対の楔形片をそれらの先細り端部が互いに反対向きになるよう配置するとともに、両楔形片が離れる方向に弾性力を付与するバネを設け、前記楔形片が前記内歯車の軸に設けたカムに押されて前記弧状の間隙内で摺動移動した際、前記外歯車が前記内歯車から離れてヒンジの開き角度が調整可能となる座席のリクライニング装置において、
前記楔形片の摩擦摺接面と摺接する軸受ブッシュが前記内歯車の軸に固定して設けられており、前記軸受ブッシュが請求項3ないし請求項18のいずれか一項記載の軸受ブッシュであることを特徴とする座席のリクライニング装置。
【請求項21】
前記楔形片が金属粉末の焼結成形体であることを特徴とする請求項19または請求項20記載の座席のリクライニング装置。
【請求項22】
前記楔形片が含油焼結成形体であることを特徴とする請求項21記載の座席のリクライニング装置。
【請求項23】
前記楔形片の摩擦摺接面はフッ素樹脂被膜が形成されていることを特徴とする請求項21記載の座席のリクライニング装置。
【請求項24】
請求項19ないし請求項23のいずれか一項記載の座席のリクライニング装置において、座席が自動車用シートであることを特徴とする座席のリクライニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159809(P2010−159809A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1911(P2009−1911)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】