説明

座標検出装置

【課題】 2点同時入力の検出を可能とする光学式センサを使用した座標入力装置において、2点が重なるような動作を行っても交差および折り返し動作を識別することを可能とすること。
【解決手段】 四角形状の座標入力面を照射光によって走査し、照射方向の対向する位置に設置された再帰反射材によって反射された光を受光する光学式センサを有し、前記座標入力面に挿入された座標指示物による遮光タイミングに基づき前記座標入力面に挿入された座標指示物の座標位置を検出する座標検出装置において、前記照射光の走査によって順次に検出した座標位置を記憶する位置座標記憶手段と、記憶した座標位置と新たに検出した座標位置とに基づき前記座標指示物による指示座標の移動に伴う速度ベクトルを順次算出し、算出した速度ベクトルに基づき、前記座標入力面に挿入された2つの座標指示物による座標指示の交差動作と折り返し動作の座標位置を識別する演算手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子黒板やコンピュータディスプレイ等に取り付ける光学式センサを使用した座標検出装置に係り、特に、光学式センサが検出した複数の位置座標の識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、電子黒板やコンピュータディスプレイに取り付け、専用の電子ペンあるいは指を用いることで画面上の座標を直接指定する入力装置が考えられている。
例えば、下記の特許文献1(特開平9−091094号)では、四角形状の座標入力面の2隅部に光源部を設けると共に、これら2つの光源部から照射される光を各光源部へと再帰反射する再帰反射部を光源部の対向辺部分に設け、さらに前記2つの光源部と同じ位置に設置され、再帰反射された光を受光し、その角度を検出する検出部を用い、座標入力面に挿入された指または電子ペンなどの座標指示物の位置を検出する装置を示している。
また、下記の特許文献2(特開2000−132339号)では、前記特許文献1の装置が1点のみ検出できるのに対し、2点同時入力に対しても対応した入力装置を示している。
【0003】
図9は、特許文献2に開示された座標入力装置の概略図である。
図9において、入力装置101は、四角形状の座標入力面の右側上方と左側下方にそれぞれ光ビームの発光と受光とを行う受発光装置102(上側受発光装置102a、下側受発光装置102b)と、入力装置の内側下部に反射材である反射ミラー103と、下部を除く周辺部に再帰性反射部材である再帰性反射シート104と、入力領域105と、受発光装置102a、102bで受光した受光信号に基づいて入力領域105に挿入された挿入物(座標指示物)の座標位置を検出する演算部106を備えている。
入力領域105内の所定の位置を2箇所(図1内のA、B)同時に指で指し示した場合、Aを指し示すことによって、受発光装置102aから発光された光aの反射ミラー103による反射光a’と、受発光装置102aから発光された光cが遮られるのと同時に、Bを指し示すことによって、受発光装置102aから発光された光bの反射ミラー103による反射光b’と、受発光装置102aから発光された光dが遮られる。
反射光a’、反射光b’、光c、光dが遮られた情報では、反射光a’と光dの組み合わせであるA’や反射光b’と光cの組み合わせであるB’も候補として考えられる。そこで、受発光装置102bから発光された光eと光fを用いて特定する。
このように、2つの受発光装置と再帰性反射光シートと反射ミラーを用いることで2点同時入力における座標検出を可能としている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−091094号
【特許文献2】特開2000−132339号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の技術は2つの入力点A、Bが重なるほど接近した場合に、A、Bどちらの点によって光が遮られているかを判別できず、A、Bの軌跡を正確に検出できない可能性がある。
図10は、2つの入力点A、Bを交差させるように移動させようとした状態を示している。入力点A、Bについて実際に移動させる予定の操作方向を点線矢印201a、201bで示している。
【0006】
図11はA、Bが交差しようと重なった状態を示している。この時、受発光装置102a、102bから発光された光は1点としてしか認識できず、この後、どちらがAであり、どちらがBであったかを識別できず、あいまいな状態となる。このため、AとBを取り違えた場合、図12のように、実際にはA,Bの移動軌跡は交差するような動きをしているにもかかわらず、入力点は折り返すような動きをしているように認識してしまうということが起きる。
【0007】
本発明の目的は、2点同時入力を可能とする光学式センサを使用した座標入力装置において、座標入力点の交差および折り返し動作が行われた場合に2つの座標入力点が接近して識別が曖昧となった場合でも、曖昧となった以降の座標入力点が交差動作によるものか、折り返し動作によるものかを容易に識別することができる座標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、四角形状の座標入力面を照射光によって走査し、照射方向の対向する位置に設置された再帰反射材によって反射された光を受光する光学式センサを有し、前記座標入力面に挿入された座標指示物による遮光タイミングに基づき前記座標入力面に挿入された座標指示物の座標位置を検出する座標検出装置において、前記照射光の走査によって順次に検出した座標位置を記憶する位置座標記憶手段と、記憶した座標位置と新たに検出した座標位置とに基づき前記座標指示物による指示座標の移動に伴う速度ベクトルを順次算出し、算出した速度ベクトルに基づき、前記座標入力面に挿入された2つの座標指示物による座標指示の交差動作と折り返し動作の座標位置を識別する演算手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学式センサを利用した入力装置を使用して2点同時入力を行う際に、交差動作および折り返し動作を行った場合における座標入力点の識別精度を上げることが可能となる。
また、演算部の処理方法で対応することにより、光学式センサの読取精度向上によって対応するよりも費用は抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施する場合の一形態を、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明の実施の一形態に関わるシステム全体の概略構成を示すブロック図である。
本実施形態における座標入力装置301は、四角形状の座標入力領域304の上側2隅部に設置され、2点同時入力を検出できる光学式センサ302(左側光学式センサ302a、右側光学式センサ302b)と、座標入力領域304の内側の上部を除く周辺部に設けられた再帰性反射シート303と、光学式センサ302で検出した挿入物(電子ペンまたは指などの座標指示物)の座標位置を検出する演算部305とを備える。
光学式センサ302の照射光により座標入力領域を走査し、光学式センサ302の照射方向の対向辺に設置された再帰性反射シート303で反射した光を光学式センサ302で受光する。座標入力領域304内に挿入物が置かれると、光学式センサ302に入射する反射光が遮られる。演算部305は、反射光の遮光タイミングに基づき座標入力領域304内に置かれた挿入物の位置座標を算出する。
【0011】
座標入力装置301は電子黒板やコンピュータディスプレイといった表示装置に取り付ける装置である。これらの表示装置は一般的に縦サイズよりも横サイズが長いため、2点同時入力を行う際は横並びに行うとする。すなわち1点は座標入力領域304の左側に、もう1点は右側に入力するものとする。
入力点の交差動作は1点が左から右に交点を通過して移動する動作であり、もう1点は右から左に交点を通過して移動する動作となる。折り返し動作は1点が左から右に移動し、交点で右から左に反転移動する動作であり、もう1点は右から左に移動し、交点で左から右に反転移動する動作である。
【0012】
図2は、演算部305の概略構成を示すブロック図である。
演算部305は、動作状態記憶手段401と、位置座標記憶手段402と、位置座標検出手段403と、動作状態識別手段404を有する。
動作状態記憶手段401は、現在の入力に対する動作状態を記憶する。記憶する動作状態は「識別不明」、「折り返し」、「交差」、「識別不明なし」の4状態である。初期状態では「識別不明なし」である。
位置座標記憶手段402は、1つの入力に対してこれまでに検出した座標の中で直近の3点の位置座標を記憶するものである。2点同時入力を行っている場合は各入力について記憶される。3点以上の位置座標を検出した場合、古い位置座標から破棄され、新しい位置座標が記憶される。
【0013】
位置座標検出手段403は、光学式センサ302より挿入物の検出情報を位置座標に変換する手段であり、既存技術である。入力点が接近していて識別できない2つの入力点を検出した場合、動作状態記憶手段401に「識別不明」を記憶させる。
識別できない2点が重なっていない場合は折り返し動作と判断できる。
また、交差動作を行う場合、入力した2点が接近する地点の前後での速さの変化は小さい。これに対して、折り返し動作の場合、2点が接近する地点の直前で速さは減少する。すなわち、2点が接近する地点の直前で速度ベクトルの速さが減少傾向にある場合は折り返し動作である可能性が高く、それ以外の場合は交差動作である可能性が高い。
【0014】
図3〜図5は、交差動作および折り返し動作に関する入力点とその速さの関係を示す図である。
交差動作について光学式センサ302が時間的に等間隔で検出した位置座標は、図3のa、b、c、d、e(aは始点、eは入力2点が重なる地点)のようになる。折り返し動作について光学式センサ302が時間的に等間隔で検出した位置座標は、図4のa’、b’、c’、d’、e’(a’は始点、e’は入力2点が重なる地点)のようになる。
図5は、交差動作および折り返し動作について各検出点とその速さの関係を示している。
折れ線501aが交差動作における検出点とその速さを示しており、入力2点が重なる地点まで速さは増加していく傾向にある。
折れ線501bが折り返し動作における検出点とその速さを示しており、入力2点が重なる地点の前から速さは徐々に減少していく傾向にある。
【0015】
動作状態識別手段404は、上記のような傾向を交差動作と折り返し動作の判定基準として、以降の処理を行う。
動作状態記憶手段401が「識別不明」を記憶していた場合、入力2点が重なっていなければ動作状態記憶手段401に「折り返し」を記憶する。入力2点が重なっている場合、現在検出した位置座標の直前の位置座標までの速度ベクトルを算出してその速さを比較し、速度ベクトルの速さが減少の場合は折り返し動作と判断し、動作状態記憶手段401に「折り返し」を記憶させる。速さが減少していない場合は「交差」を記憶させる。
動作状態記憶手段401が「折り返し」を記憶していた場合、現在検出した2点の位置座標を折り返し動作になるように識別する。
動作状態記憶手段401が「交差」を記憶していた場合、現在検出した2点の位置座標を交差動作になるように識別する。
動作状態記憶手段401が「識別不明なし」を記憶していた場合、速度ベクトルの比較や入力点の識別は行わない。
【0016】
図6は、動作状態識別手段404の処理手順を示すフローチャートである。
まず、動作状態識別手段404は、動作状態記憶手段401を参照して現在の動作状態を取得(ステップ601)し、動作状態が「識別不明」であるかを判定する(ステップ602)。
「識別不明」である場合、2つの入力点が重なっているかを判定する(ステップ603)。2つの入力点が重なっていない場合、動作状態記憶手段401に「折り返し」を記憶し(ステップ604)、現在検出した位置座標を記憶する(ステップ615)。
2つの入力点が重なっている場合、位置座標記憶手段402からこれまでの位置座標を取得(ステップ605)し、速度ベクトルの速さを算出する(ステップ606)。
【0017】
算出方法は、これまでの座標位置を(x0,y0)、(x1,y1)、(x2,y2)とし、位置座標の検出が時間的に等間隔で行われるとして、距離を算出することによって速さv1、v2とする。
【数1】

v1、v2を比較し、減少しているかを判定する(ステップ607)。減少の場合は動作状態記憶手段401に「折り返し」を設定し(ステップ608)、減少でない場合は「交差」を設定する(ステップ609)。
【0018】
ステップ602の判定で「識別不明」でない場合、動作状態記憶手段401に設定されている状態によって場合分けを行う(ステップ610)。
動作状態記憶手段401に「折り返し」が記憶されている場合、現在の2点の位置座標が折り返し動作になるように2点を識別する(ステップ611)。すなわち、図7に示すように、2点が重なる地点Xの直前の2つの入力点をa1、a2、直後の2つの入力点をa2、b2とすると、入力領域304の左側から入力した点a1の場合は、Xの左側にある点a2へと遷移するようにする。
入力領域304の右側から入力した点b1の場合には、Xの右側にある点b2へと遷移するようにする。そして、動作状態記憶手段401に「識別不明なし」を記憶させる(ステップ612)。
【0019】
動作状態記憶手段401に「交差」が設定されている場合、次の入力2点の位置座標が交差動作になるように識別する(ステップ613)。すなわち、図8に示すように、2点が重なる地点Xの直前の2つの入力点a1、a2、直後の2つの入力点をa2、b2とすると、入力領域304の左側から入力した点a1の場合は、Xの右側にある点b2へと遷移するようにする。
入力領域304の右側から入力した点b2の場合は、左側にある点a2へと遷移するようにする。そして、動作状態記憶手段401に「識別不明なし」を記憶させる(ステップ614)。
動作状態記憶手段401に「識別不明なし」が設定されている場合、何も行わない。
最後に、現在検出した2点の位置座標を位置座標記憶手段402に記憶させる(ステップ615)。
【0020】
なお、本実施の形態において、記憶する位置座標の点数を直近の3点としているがこれに限るものではなく、座標入力装置の検出時間間隔などにより、増やしても良い。記憶する位置座標を増やした場合、速さの減少比較判定(ステップ607)は、隣接する点の間の速さが増加している場合は+1、減少している場合は−1とカウントし、総カウントがプラスかマイナスかで判定できる。マイナスならば速さは減少傾向にあるため、動作状態記憶手段401に「折り返し」を記憶させ(ステップ608)、プラスならば減少傾向にないため、「交差」を記憶させる(ステップ609)ことで対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態である座標入力装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態に関わる演算部の概略構成を示す図である。
【図3】入力座標点の交差動作に関する入力点の関係を示す図である。
【図4】入力座標点の折り返し動作に関する入力点の関係を示す図である。
【図5】入力座標点の交差動作および折り返し動作に関する入力点とその速さの関係を示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態に関わる動作状態識別手段の処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施の形態に関わる折り返し動作識別時の入力点の遷移を示す図である。
【図8】本発明の一実施の形態に関わる交差動作識別時の入力点の遷移を示す図である。
【図9】光学式センサを利用した2点同時の座標入力装置の従来例を示すブロック図である。
【図10】2点同時に入力した点が交差する状況を示す説明図である。
【図11】2点同時に入力した点が交差状態でほぼ重なった位置にある状況を示す説明図である。
【図12】2点同時に入力した点が折り返す状況を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
101 座標入力装置
102 受発光装置
103 反射ミラー
104 再帰性反射シート
105 演算部
301 座標入力装置
302 光学式センサ
303 再帰性反射シート
304 入力領域
305 演算部
401 動作状態記憶手段
402 位置座標記憶手段
403 位置座標検出手段
404 動作状態識別手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形状の座標入力面を照射光によって走査し、照射方向の対向する位置に設置された再帰反射材によって反射された光を受光する光学式センサを有し、前記座標入力面に挿入された座標指示物による遮光タイミングに基づき前記座標入力面に挿入された座標指示物の座標位置を検出する座標検出装置において、
前記照射光の走査によって順次に検出した座標位置を記憶する位置座標記憶手段と、記憶した座標位置と新たに検出した座標位置とに基づき前記座標指示物による指示座標の移動に伴う速度ベクトルを順次算出し、算出した速度ベクトルに基づき、前記座標入力面に挿入された2つの座標指示物による座標指示の交差動作と折り返し動作の座標位置を識別する演算手段を備えることを特徴とする座標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−3670(P2009−3670A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163343(P2007−163343)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】