説明

廃プラスチックからの軽質油製造方法

【課題】
廃プラスチックから高品質の液体燃料を効率的に、低コストで製造する軽質油製造方法を提供するものであり、すなわち少ない水素消費量でより多くの軽質油分の収率が得られる、廃プラスチックからの軽質油製造方法を提供する。
【解決手段】
廃プラスチックを粉砕してスラリー化する工程1と、廃プラスチックスラリーを予熱する工程2と、高温高圧水素雰囲気下の二段階反応工程8とからなる軽質油製造方法で、前記二段階反応工程8がポリスチレンやポリプロピレン等の反応性の高い廃プラスチックを、水素雰囲気下で軽質化する熱分解主体反応工程3と、ポリエチレンや塩化ビニル等の反応性の低い廃プラスチックを、水素雰囲気下でかつ前記熱分解主体反応工程3より高温で軽質化する水素化反応主体工程4とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃プラスチックに水素を加えて水素化分解反応させ、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの原料となる軽質油を生成させる廃プラスチックの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や一般ゴミ廃棄物として、OA機器やカーシュレッダー、家電製品、飲料容器や食品包装容器などに使用されたプラスチックが大量に廃棄されている。この廃棄されたプラスチックは、沿岸部や山間部へ埋立処分や、ゴミ焼却炉での焼却処分が行われていた。
【0003】
埋立処分は、廃プラスチックを含む種々の廃棄物が混合状態で埋め立てられており、土壌汚染や地下水汚染といった環境問題の原因となっており、また、焼却処分は廃プラスチックが燃料として高カロリーであることから焼却炉内が高温となってしまい耐火煉瓦の劣化を早めてしまい、焼却炉の寿命が設計段階よりも大幅に短くなってしまうという問題があった。
【0004】
さらに、近年の原油価格の高騰や、地球環境保護の観点から、プラスチック製品を粉砕してチップ状とし、これを原料として再利用するマテリアルリサイクルが一般的に行われるようになってきた。
【0005】
ところが、前述のようなマテリアルリサイクルにおいて、廃棄されたプラスチックは、使用される用途に応じて種々のプラスチックが用いられており、これらを回収後に、各種プラスチック毎に分別するには人手がかかり、手間とコストがかかるという問題があった。
【0006】
また、純粋な原料と比較すると、使用済みの廃プラスチックは、成形時に加熱処理される等しているので、品質が低下していることがある。さらに、何度も繰り返してリサイクルされたプラスチックは、上述の理由から品質が劣化し、再生不能となってしまう問題もあった。加えて、再生不能となった廃プラスチックは、廃棄物として埋立処理されるか、焼却処分されていた。
【0007】
このようなことから、廃プラスチックを窒素雰囲気下で熱分解する方法や、高温高圧下で水素を添加して水素化反応を行う方法により、軽質油(ナフサ相当)などの化学原料に戻し、この化学原料から新たなプラスチックや化学製品等を製造するケミカルリサイクルが提案されている。
【0008】
例えば、熱分解により廃プラスチックから液体燃料を製造する方法として、廃プラスチックを窒素雰囲気下で加熱し、熱分解により油化して液体燃料を得る方法や、廃プラスチックを熱分解槽で加熱して熱分解ガス化し、生成した炭化水素ガスを、合成ゼオライト触媒を充満した接触分解槽で接触分解して、軽質分(ナフサ相当)を含んだ液体燃料を得る方法等がある。
【0009】
これらの方法では、重質残渣分の生成が多く、その処理にコストがかかる。また、得られる液体燃料は重質油分(C重油相当)が多く、また不飽和成分を多く含んだ低品質のものであり、高品質の軽質油にするには、更に水素化等のアップグレーディングが必要である。更に熱分解プロセスでは多量の分解熱が必要であり熱効率が悪く、多大の運転コストが必要となる。
【0010】
上記の熱分解プロセスの欠点を解決する方法として、廃プラスチックを高温高圧下で水素化して高品質の液体燃料とするプロセスが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0011】
図2に特許文献1に記載の軽質油製造方法の工程を示す。
【0012】
まず、一定の粒度に粉砕した廃プラスチックに一定温度に加熱したコールタール油等の溶剤と、鉄−イオウ系触媒、ゼオライト系触媒等の触媒を混合してスラリー化する廃プラスチックスラリー調製工程1を経る。ここで、触媒は廃プラスチックの高温高圧反応器内での水素化を促進するために添加している。
【0013】
次に、廃プラスチックスラリーは水素とともに、廃プラスチックスラリー予熱工程2を経て予熱され、高温高圧反応器の水素化反応工程7を経る。水素化反応工程7では、例えば450℃、15MPaの高温高圧、水素雰囲気下で水素化分解され、パラフィン類、芳香族類及びそれらの異性体からなる液体燃料が得られ、不飽和炭化水素(オレフィン類)の大部分は直ちに接触的に水素化、異性化される。
【0014】
次に、生成ガス及び軽質油を分離する気液分離(高温分離)工程5、残渣(カーボン及び廃触媒等の固形分等)を取り除き、生成物を軽質油と中重質油に分ける固液分離(蒸留)工程6を経て、製品である軽質油を得るに至る。
【0015】
ここで、廃プラスチックを水素雰囲気中、例えば450℃で15MPaの高温高圧下で接触液化(水素化)することで、熱分解法と比較して高品質の軽質油を、高い収率で得ることを可能としている。
【特許文献1】特開平5−186632号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に記載のケミカルリサイクルは、高温高圧下の水素雰囲気中において、触媒を用いて廃プラスチックを水素化分解して液化し、軽質油を製造するものである。
【0017】
特許文献1に記載の方法においては、高温高圧下の水素雰囲気で高温の水素化を比較的長い時間行うため、本来、軽質油として回収されるべき反応性の高い軽質分であるポリスチレン(PS),ポリプロピレン(PP)等が、反応性の低い重質分生成の多い廃プラスチックの水素化分解のために供給される水素を消費して、炭化水素ガスまで過度に分解されてしまい、その結果、軽質油の収率が少なくなり、更に水素の消費量が多くなる欠点があると言える。
【0018】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、廃プラスチックから高品質の液体燃料を効率的に、低コストで製造する軽質油製造方法を提供するものであり、すなわちより多くの軽質油分の収率がより少ない水素消費量で効率的な得られる廃プラスチックからの軽質油製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係る軽質油製造方法は、廃プラスチックを粉砕してスラリー化する工程1と、廃プラスチックスラリーを予熱する工程2と、高温高圧水素雰囲気下の二段階反応工程8とからなる軽質油製造方法で、前記二段階反応工程8がポリスチレンやポリプロピレン等の反応性の高い廃プラスチックを、水素雰囲気下で軽質化する熱分解主体反応工程3と、ポリエチレンや塩化ビニル等の反応性の低い廃プラスチックを、水素雰囲気下でかつ前記熱分解主体反応工程3より高温で軽質化する水素化反応主体工程4とから成ることを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明に係る軽質油製造方法は、廃プラスチックを粉砕してスラリー化する工程1と、廃プラスチックスラリーを予熱する工程2と、高温高圧水素雰囲気下の二段階反応工程8とからなる軽質油製造方法で、前記二段階反応工程8が前記廃プラスチックを水素雰囲気下で軽質化する熱分解主体反応工程3と、前記熱分解主体反応工程3で軽質化されなかった廃プラスチックを水素雰囲気下でかつ前記熱分解主体反応工程3より高温で軽質化する水素化反応主体工程4とからなることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明に係る軽質油製造方法は、前記熱分解主体反応工程3の温度を390℃から430℃、圧力を5MPaから15MPaとし、前記水素化反応主体工程4を440℃から480℃、圧力を5MPaから15MPaとすることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明に係る軽質油製造方法は、前記二段階反応主体工程4において、鉄系、ゼオライト系、塩化鉄系又は、ニッケルコバルトやコバルトモリブデン等の貴金属系を触媒として使用することを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明に係る軽質油製造方法は、前記熱分解主体反応工程3で、攪拌槽型、懸濁床型、気泡塔型のいずれかの反応器を使用し、前記水素化主体反応工程4では単一又は複数の気泡塔型、単一又は複数の懸濁床型のいずれかの反応器を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
二段階反応工程8として、熱分解主体反応工程3と水素化反応主体工程4とに分けて、廃プラスチックを分解するため、PS,PP等の比較的反応性の高い廃プラスチックが、まず一段目の比較的低温の過度の水素分解の起きない熱分解主体反応工程3で軽質化され、それから得られる軽質油分のガス化が最小限に抑制されて、水素消費量を減少させるとともに、軽質分収率を増加させる効果が得られる。その結果として、少ない水素消費量で高い軽質油収率が得られる効率的な軽質油製造方法となる。
【0025】
熱分解主体反応工程3における軽質化により、生成した軽質油(ナフサ相当)は、より高温である水素化反応主体工程4では蒸気状で存在して素通りし、軽質油の過度の水素化によるガス化が起きず、そのため、比較的反応性の低い重質分(C重油相当)の生成の多いポリエチレン(PE)、塩化ビニル(塩ビ)等の、水素化主体反応工程4における実質滞留時間が増加し、水素化主体反応工程4での比較的反応性の低い廃プラスチックの水素化分解による軽質油化の反応がより効果的に行われ、その結果として高い軽質油収率が得られる。
【0026】
さらに、水素化主体反応工程4における水素化反応効率が上がるため、重質残渣(カーボン等)や重質油(C重油相当)の収率が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明の軽質油製造方法の工程を示している。本発明の特徴は、従来の水素化反応工程7を高温高圧水素雰囲気下で行われる熱分解主体反応工程3と水素化主体反応工程4の二段階反応工程8にしたことにある。
【0029】
図1に示す廃プラスチックスラリー調製工程1は、一定粒度に粉砕した廃プラスチックと、溶剤、触媒を混合してスラリーを形成する。後述する二段階反応工程8まで、高温高圧容器に圧送する必要があるため、ここで廃プラスチックのスラリー化を行っている。
【0030】
本発明の対象となる廃プラスチックは、一般都市ゴミ中の廃プラスチックを一定粒度に粉砕したものがそのまま適応できる。廃プラスチックは、熱分解反応や水素化分解反応で低分子の炭化水素を生成し得るものであればよく、殆どのプラスチック及びそれらの混合物が対象となる。これらは、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂や塩素含有樹脂も対象となる。
【0031】
前記溶剤は、コールタール系溶剤、石油系重質油、水添溶剤などが用いられ、具体的には、コールタール系溶剤は、コークス炉で生じた各種タールを使用することができる。前記触媒としては、鉄系、塩化鉄系、鉄−硫黄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、又はニッケル−モリブデン系のものが使用される。また、廃プラスチックの種類によっては、異性体の多い、より高品質な液体燃料を得るために、シリカ・アルミナ、硫化ニッケル、酸化ニッケル等の水素化異性化触媒を単独で、或いは上記触媒と組み合わせて使用することもできる。
【0032】
触媒の添加量には特に制限はないが、本実施例においては、廃プラスチックに対して0.1から10重量%の割合で添加している。
【0033】
廃プラスチックスラリー予熱工程2は、後工程である熱分解主体反応工程3及び水素化主体反応工程4が高温高圧であるため、廃プラスチックスラリーの予熱を行っている。
【0034】
熱分解主体反応工程3では、温度を390℃から430℃、圧力を5MPaから15MPaと、比較的低温条件としている。熱分解を主体とした本工程では、軽質化の比較的容易な廃プラスチック(PS、PP等)を対象に軽質化を行う。本工程では、軽質油の生成を主に行うことを主目的としており、特に炭素量が6から9程度の軽質油の回収を目的としている。
【0035】
水素化主体反応工程4では、温度を440℃から480℃、圧力を5MPaから15MPaと、比較的高温条件としている。水素化分解を主体とした本工程では、比較的反応性の低い重質分の生成の多い廃プラスチック(PE,塩ビ等)を対象に軽質化を行う。ここでの水素化反応を促進するために、鉄系、ゼオライト系、塩化鉄系、貴金属系(Ni−Co、Co−Mo系等)などの触媒を、廃プラスチックスラリー調製工程1で添加している。なお、水素化主体反応工程4では、熱分解主体反応工程3で得られた軽質油は蒸気状で素通りして、過度の水素化によるガス化が防止される。
【0036】
また、水素化主体反応工程4では、反応器内での水素化反応を促進するために、水素ガス循環を伴う懸濁床型反応器又は、水素ガス循環を伴う気泡塔型反応器等の、水素と廃プラスチックスラリーの接触を積極的に高める構造の反応器を用いるのが望ましい。
【0037】
本発明により、廃プラスチックを、コールタールと触媒と共に混合してスラリーを形成し、このスラリーに水素を添加するように構成し、かつ反応工程を熱分解主体反応工程3と水素化主体反応工程4との温度環境の異なる2段階で行うよう構成しため、スラリー中に含まれている廃プラスチックの水素化反応が効率的に促進される上に、既に水素化反応して生成された軽質油が、それ以上に水素化されて炭化水素ガスとなることを防止している。
【0038】
結果、軽質油の過剰な水素化反応に伴う水素の消費量増加の防止、及び軽質油が水素化されて発生する炭化水素ガスの生成量増加の防止がなされる。
【0039】
以上、本発明の軽質油製造方法により、廃プラスチックから高品質の液体燃料を効率的に、低コストで製造する軽質油製造方法を提供すること、すなわち、より多くの軽質油分の収率がより少ない水素消費量で得られる、廃プラスチックからの軽質油製造方法の提供を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明における軽質油製造方法の工程を示した工程図である。
【図2】従来の軽質油製造方法の工程を示した工程図である。
【符号の説明】
【0041】
1 廃プラスチックスラリー調製工程
2 廃プラスチックスラリー予熱工程
3 熱分解主体反応工程
4 水素化主体反応工程
5 気液分離工程
6 固液分離工程
7 水素化反応工程
8 二段階反応工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを粉砕してスラリー化する工程と、廃プラスチックスラリーを予熱する工程と、高温高圧水素雰囲気下の二段階反応工程とからなる軽質油製造方法で、前記二段階反応工程がポリスチレンやポリプロピレン等の反応性の高い廃プラスチックを、水素雰囲気下で軽質化する熱分解主体反応工程と、ポリエチレンや塩化ビニル等の反応性の低い廃プラスチックを、水素雰囲気下でかつ前記熱分解主体反応工程より高温で軽質化する水素化反応主体工程とから成ることを特徴とする廃プラスチックからの軽質油製造方法。
【請求項2】
廃プラスチックを粉砕してスラリー化する工程と、廃プラスチックスラリーを予熱する工程と、高温高圧水素雰囲気下の二段階反応工程とからなる軽質油製造方法で、前記二段階反応工程が前記廃プラスチックを水素雰囲気下で軽質化する熱分解主体反応工程と、前記熱分解主体反応工程で軽質化されなかった廃プラスチックを水素雰囲気下でかつ前記熱分解主体反応工程より高温で軽質化する水素化反応主体工程とからなることを特徴とする廃プラスチックからの軽質油製造方法。
【請求項3】
前記熱分解主体反応工程の温度を390℃から430℃、圧力を5MPaから15MPaとし、前記水素化反応主体工程を440℃から480℃、圧力を5MPaから15MPaとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軽質油製造方法。
【請求項4】
前記二段階反応主体工程において、鉄系、ゼオライト系、塩化鉄系又は、ニッケルコバルトやコバルトモリブデン等の貴金属系を触媒として使用することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の軽質油製造方法。
【請求項5】
前記熱分解主体反応工程で、攪拌槽型、懸濁床型、気泡塔型のいずれかの反応器を使用し、前記水素化主体反応工程では単一又は複数の気泡塔型、単一又は複数の懸濁床型のいずれかの反応器を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の軽質油製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−242485(P2009−242485A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88571(P2008−88571)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】