説明

廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法

【課題】塊状に絡み合った廃棄物を効率良く解して、廃棄物の燃焼の促進及び燃焼の安定化を図るとともに、生成されるスラグの融点を低下させて鋳付き等のトラブルを未然に防止することが可能な廃棄物の処理方法及びこの廃棄物の処理方法を利用した廃棄物からの金属回収方法を提供する。
【解決手段】ロータリーキルン炉10を用いて廃棄物を燃焼・溶融し、スラグSを生成させる廃棄物の処理方法であって、ロータリーキルン炉10の炉本体11に、廃棄物と、概略平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片とを、投入し、炉本体11を回転させることによって、前記貝殻又は貝殻の破砕片を前記廃棄物中で移動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば可燃物付スクラップ等の廃棄物をロータリーキルン炉の炉本体に投入し、炉本体内部で廃棄物を燃焼、溶融させて処理するロータリーキルン炉を用いた廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物等を処理する方法として、例えば特許文献1に示すように、ロータリーキルン炉を用いた廃棄物の処理方法が広く利用されている。例えば自動車のシュレッダーダストや廃家電品をはじめとする金属を含有する産業廃棄物を処理する場合には、炉本体の内部に投入された廃棄物のうち、例えばウレタンなどの可燃物を燃焼、ガス化し、金属を含む不燃物を溶融してスラグとする。ここで生成されたスラグは、炉本体の出口から排出され、冷却器で水冷されるとともに破砕されて砕塊が生成され、生成された砕塊の中から、鉄(Fe)をはじめとして銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)などの有用または高価な金属を回収する。一方、生成されたガスは、二次燃焼室で高温に燃焼され、有害物質などが分解されて二次燃焼室から排出される。その後、熱交換工程、クエンチ工程、煤塵・有害ガス除去工程などを経て大気中に排出される。
【0003】
このようなロータリーキルン炉においては、生成したスラグの融点が高すぎると、ロータリーキルン炉の内部温度が低下した際に、スラグが炉壁に付着して鋳付きを生じることになる、すると、この鋳付きに溶融前のスクラップ屑等が巻き込まれて堆積し、ダムを形成してしまい、廃棄物の処理を安定して行うことができなくなってしまう。
そこで、例えば特許文献2に開示されているように、スラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO](いわゆる塩基度)を所定の範囲内となるように成分調整を行い、スラグの融点を低下させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−020105号公報
【特許文献2】特開2001−152217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の可燃物付スクラップ等の廃棄物は様々な形状をなしており、これらの廃棄物が複雑に絡み合って塊状をなしていることがある。このような塊状の廃棄物をロータリーキルン炉に投入した場合、単にロータリーキルン炉の炉本体を回転させても廃棄物が解れずに塊状のままとなり、熱が廃棄物の内部へと伝わりにくく、十分に燃焼させることができないおそれがあった。
【0006】
さらに、可燃物付スクラップ等の廃棄物としては、例えば、硬質、軟質、重量、フィルム状、発泡材等があり、これらが混合した状態とされており、さらに、廃棄物の混合状態も安定しておらず、廃棄物の燃焼状態は大きくばらつくことになる。このような廃棄物をロータリーキルン炉に投入した場合、可燃物の量によって投入口から加熱により着火する燃焼帯がばらついてしまい、燃焼状態が安定せずに、炉本体の内部温度分布が変動してしまうことになる。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、塊状に絡み合った廃棄物を効率良く解して、廃棄物の燃焼の促進及び燃焼の安定化を図るとともに、生成されるスラグの融点を低下させて鋳付き等のトラブルを未然に防止することが可能な廃棄物の処理方法及びこの廃棄物の処理方法を利用した廃棄物からの金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係る廃棄物の処理方法は、ロータリーキルン炉を用いて廃棄物を燃焼・溶融し、スラグを生成させる廃棄物の処理方法であって、前記ロータリーキルン炉の炉本体に、廃棄物と、概略平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片とを、投入し、前記炉本体を回転させることによって、前記貝殻又は貝殻の破砕片を前記廃棄物中で移動させることを特徴としている。
【0009】
この構成の廃棄物の処理方法においては、ロータリーキルン炉の炉本体に、廃棄物とともに概略平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片を投入し、炉本体を回転させることによって前記貝殻又は貝殻の破砕片を前記廃棄物中で移動させる構成としているので、平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片が廃棄物を分断し、絡み合った廃棄物を効率的に解すことが可能となる。これにより、廃棄物の燃焼が促進され、廃棄物中に含まれる可燃物の未燃焼を防止することができる。また、廃棄物の混合が促進され、炉本体内部の燃焼の安定化を図ることができる。
【0010】
さらに、炉本体に投入される貝殻は、炭酸カルシウムを主成分としていることから、貝殻及び貝殻の破砕片の投入量を調整することによって、生成されるスラグの組成を調整でき、スラグの低融点化を図ることができる。
また、食品加工業において産業廃棄物として処理されている貝殻を利用しているので、この廃棄物の処理方法を低コストで行うことが可能となる。また、産業廃棄物として処理されていた貝殻の有効利用を図ることができる。
【0011】
ここで、前記スラグの組成を測定し、前記スラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の投入量を調整することが好ましい。
自動車のシュレッダーダストや廃家電品をはじめとする金属を含有する産業廃棄物を溶融した場合、スラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]が比較的低くなる傾向にある。そこで、炭酸カルシウムを主成分とする貝殻又は貝殻の破砕片の投入量を調整することで、スラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように調整することが可能となる。
【0012】
このようにスラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]を調整することによって、酸化カルシウムと酸化ケイ素と酸化アルミニウムとを主に含むスラグを共晶点近傍の組成とすることができ、スラグの融点を確実に低下させることができる。よって、スラグの鋳付きやこの鋳付きに起因したトラブルを未然に防止でき、ロータリーキルン炉の操業を安定させることができる。
【0013】
また、前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の大きさが、3cm以上20cm以下とされていることが好ましい。
貝殻又は貝殻の破砕片の大きさが3cm未満の場合、重量が比較的軽くなり、廃棄物中を貝殻及び貝殻の破砕片が移動したとしても廃棄物を十分に解すことができなくなる。一方、貝殻又は貝殻の破砕片の大きさが20cmを超えると、廃棄物中を移動しにくくなって、やはり、廃棄物を十分に解すことができなくなる。このため、炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の大きさは、3cm以上20cm以下とすることが好ましい。なお、本発明における貝殻又は貝殻の破砕片の大きさとは、ひとつの貝殻及び貝殻の破砕片のうちの最大寸法長さのことである。
【0014】
さらに、前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の比重が、1.2g/cm以上3.5g/cm以下とされていることが好ましい。
貝殻又は貝殻の破砕片の比重が1.2g/cm未満の場合、重量が比較的軽くなり、廃棄物中を貝殻及び貝殻の破砕片が移動したとしても廃棄物を十分に解すことができなくなる。一方、貝殻又は貝殻の破砕片の比重が3.5g/cmを超えると、炉本体を回転させても移動しにくくなり、廃棄物を十分に解すことができなくなる。このため、炉本体に投入される貝殻又は貝殻の比重は、1.2g/cm以上3.5g/cm以下とすることが好ましい。
【0015】
また、前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の水分量が、0.1%以上25%以下とされていることが好ましい。
貝殻又は貝殻の破砕片の水分量が0.1%以上とされているので、貝殻又は貝殻の破砕片中の水分の蒸発に熱が使用されることになり、廃棄物の昇温が遅くなる。これにより、廃棄物の燃焼が緩やかになり、燃焼帯が大きく広がって炉本体内部の局所的な温度上昇が抑制され、炉壁等を構成する耐火物の劣化を防止できる。
また、貝殻又は貝殻の破砕片の水分量が25%以下とされているので、貝殻又は貝殻の破砕片中の水分の蒸発に必要以上の熱が消費されないため、廃棄物の溶融を効率的に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る廃棄物からの金属回収方法は、前述の廃棄物の処理方法によって、金属を含む前記スラグを生成し、このスラグから金属を回収することを特徴としている。
この構成の廃棄物からの金属回収方法によれば、廃棄物を効率的に燃焼・溶融させてスラグを生成させることができ、かつ、取り扱いが容易な低融点のスラグを得ることが可能なため、金属の回収を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塊状に絡み合った廃棄物を効率良く解して、廃棄物の燃焼の促進及び燃焼の安定化を図るとともに、生成されるスラグの融点を低下させて鋳付き等のトラブルを未然に防止することが可能な廃棄物の処理方法及びこの廃棄物の処理方法を利用した廃棄物からの金属回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態である廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法に用いられるロータリーキルン炉を示す説明図である。
【図2】酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウムの3元状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照にして説明する。図1に、本発明の実施形態である廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法に用いられるロータリーキルン炉を示す。
ここで、処理される廃棄物としては、例えば、自動車のシュレッダーダスト、廃家電品及びプリント基板などが挙げられる。なお、本実施形態では、金属を含む廃棄物を処理することになる。
【0020】
図1に示すロータリーキルン炉10は、廃棄物が投入される炉本体11と、この炉本体11の内部で燃焼する燃焼バーナー12と、炉本体11から排出される排気ガスが導入される二次燃焼室18と、炉本体11の内部で生成したスラグSが冷却される冷却器19と、炉本体11に廃棄物を投入するための投入部20と、を備えている。
【0021】
炉本体11は、軸線Lに沿って延びる円筒状をなしており、上流側(図1において左側)の端面には蓋部13が設けられ、この蓋部13に燃焼バーナー12が配設されている。また、下流側(図1において右側)の端面は開口され、二次燃焼室18及び冷却器19へと連通されている。この炉本体11は、図示しない駆動手段によって軸線Lを中心に回動するように構成されている。また、炉本体11の軸線Lは、下流側に向かうにしたがい漸次下方に向かうように、水平方向に対して傾斜させられており、炉本体11内部で生成したスラグSが、自重によって下流側に流れるように構成されている。
【0022】
二次燃焼室18は、炉本体2から排出される排気ガスをさらに燃焼するための二次バーナー(図示なし)を備えている。
冷却器19は、炉本体11溶解された不燃物成分(金属等)で構成されたスラグSを冷却する水冷手段(図示なし)を備えている。
【0023】
投入部20は、廃棄物が貯留される廃棄物貯留槽21と、貝殻又は貝殻の破砕片が貯留される貝殻貯留槽22と、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片との混合物が貯留される混合槽23と、この混合槽23に貯留された原料を炉本体11に投入する原料投入部24と、廃棄物、貝殻又は貝殻の破砕片を把持して移送するクレーン25と、を備えている。
本実施形態においては、廃棄物貯留槽21には、集荷された様々な性状の廃棄物を粉砕したものが貯留されている。
【0024】
そして、貝殻貯留槽22には、食品業界等で廃棄された貝殻又はこれらの貝殻の破砕片が貯留されている。
貝殻貯留槽22に貯留される貝殻又は貝殻の破砕片は、概略平板状をなしており、その大きさ(最大寸法長さ)が、3cm以上20cm以下とされている。また、貝殻及び貝殻の破砕片の比重は、1.2g/cm以上3.5g/cm以下とされている。なお、さらに好ましくは、貝殻又は貝殻の破砕片の大きさが5cm以上15cm以下、貝殻及び貝殻の破砕片の比重が1.5g/cm以上3.0g/cm以下とされている。
【0025】
また、これらの貝殻又は貝殻の破砕片は、貝殻貯留槽22に貯留される前に、水洗等によって表面に付着した塩分等が除去されている。
水洗された貝殻又は貝殻の破砕片は完全に乾燥させる必要はなく、貝殻貯留槽22内において水分量が0.1%以上25%以下となるように調整される。
なお、廃棄物に混合される貝殻としては、例えば、アワビ、カキ、カラスガイ、サザエ、トコブシ、バイガイ、ハマグリ、バカガイ、ホタテガイ、ウバガイ、ツブガイ、アコヤガイ等が挙げられる。
【0026】
混合槽23では、クレーン25によって、廃棄物貯留槽21から廃棄物が移送され、貝殻貯留槽22から貝殻又は貝殻の破砕片が移送される。そして、クレーン25によって攪拌され、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片とが混合されることになる。
ここで、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片との混合比(重量比)が、10≦廃棄物/貝殻又は貝殻の破砕片≦15となるように混合される。なお、この混合比率は廃棄物の性状に合わせて設定することが好ましい。
【0027】
以下に、上述のロータリーキルン炉10を用いた廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法の手順について説明する。
まず、混合槽23には、廃棄物貯留槽21から廃棄物のみを移送し、貯留しておく。
炉本体11を軸線Lを中心として回転させるとともに、燃焼バーナー12を点火して炉本体11の内部を1100〜1300℃程度に加熱する。なお、炉本体11の耐火物等の劣化を抑制する観点から炉本体11の内部温度は1200℃以下とすることが好ましい。
さらに、二次燃焼室18の二次バーナーを点火するとともに、冷却器19の水冷手段に冷却水を流通する。
【0028】
この状態で、混合槽23から、原料投入部24を介して廃棄物のみを炉本体11内部に投入する。すると、廃棄物に含有された可燃物が燃焼して炉本体11の内部温度が上昇することになる。この廃棄物の投入量を徐々に増加させるとともに、燃焼バーナー12の燃焼量を減少させていく。そして、炉本体11の内部温度が1200℃程度で安定するようになった時点で燃焼バーナー12の燃焼を停止し、廃棄物の燃焼のみで炉本体11の内部温度が維持されることになる。
【0029】
このように炉本体11の内部温度が安定したら、混合槽23内に、廃棄物とともに貝殻又は貝殻の破砕片を移送し、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片の混合物を生成させる。そして、混合槽23から原料投入部24を介して廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片の混合物を炉本体11内部に投入していく。
炉本体11の内部に投入された混合物は、廃棄物中の可燃物が分解されてガス化するとともに、金属を含む不燃性成分が溶融状態または半溶融状態のスラグSとなる。また、貝殻又は貝殻の破砕片に含まれる水分が蒸発される。
【0030】
生成したガス成分は、炉本体11の下流側開口部から二次燃焼室18に送られ、二次バーナーによってさらに高温に燃焼され、排出口から煤煙処理工程(図示なし)に向けて排出される。
また、炉本体11の内部で生成したスラグSは、炉本体11の下流側開口部から流下し、冷却器19で冷却されて破砕され、例えば磁気選別装置(図示なし)、テーブル浮選などの比重分離装置、篩い分けなどによって金属の砕塊とスラグの砕塊とに分別され、分別物の性状に応じて銅製錬炉等に投入され、有用な金属が回収、製造される。
【0031】
このようにして廃棄物の処理を実施している際には、生成したスラグSから試料をサンプリングし、成分分析を行う。なお、本実施形態では、蛍光X線分析により、ケイ素、アルミニウム、カルシウム等の元素を定量分析する。そして、この分析結果から、スラグS中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]を推定し、この質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の混合比率を調整する。なお、さらに好ましくは、酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]が0.37(目標値)となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の混合比率を調整することになる。
【0032】
このような構成とされた本発明の実施形態であるロータリーキルン炉10を用いた廃棄物の処理方法及び金属の製造方法においては、投入部20から炉本体11内部に、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片との混合物が投入されるので、炉本体11の回動によって貝殻又は貝殻の破砕片が廃棄物中を移動することになり、概略平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片が廃棄物を分断し、絡み合って塊状となった廃棄物を効率的に解すことができる。このように、廃棄物が解されることによって廃棄物の燃焼が促進され、廃棄物中の可燃物を確実に燃焼させてガス化することができる。また、様々な性状の廃棄物がよく混合されて均一化され、炉本体11内部での燃焼が安定することになる。
【0033】
さらに、炉本体11に投入される貝殻又は貝殻の破砕片は、炭酸カルシウムを主成分としていることから、この貝殻又は貝殻の破砕片と廃棄物との混合比率を調整することによって、生成されるスラグSの組成を調整でき、スラグSの低融点化を図ることができる。よって、スラグの鋳付きやこの鋳付きに起因したトラブルを未然に防止でき、ロータリーキルン炉の操業を安定させることができる。
また、食品加工業において産業廃棄物として処理されている貝殻を利用しているので、この廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属の回収方法を低コストで行うことが可能となる。また、産業廃棄物として処理されていた貝殻の有効利用を図ることができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、生成されたスラグSの組成を蛍光X線分析法によって測定し、スラグS中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]を推定し、この質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の混合比率を調整しているので、図2の3元状態図に示されるように、スラグSを融点の低い組成(共晶点近傍)とすることが可能となる。なお、図2においてA点が、貝殻又は貝殻の破砕片を混合しない場合のスラグ組成の一例であり、B点が、質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の混合比率を調整した場合のスラグ組成である。
【0035】
また、廃棄物に混合される貝殻又は貝殻の破砕片の大きさ(最大寸法長さ)が、3cm以上20cm以下とされ、さらに好ましくは、5cm以上15cm以下とされているので、貝殻又は貝殻の破砕片を廃棄物中で十分に移動させることができ、塊状の廃棄物を効率的に解すことが可能となる。
さらに、貝殻又は貝殻の破砕片の比重が、1.2g/cm以上3.5g/cm以下とされ、さらに好ましくは、1.5g/cm以上3.0g/cm以下とされているので、貝殻又は貝殻の破砕片の重量が比較的重くなり、廃棄物の分断が促進されることになる。
【0036】
また、貝殻又は貝殻の破砕片は、貝殻貯留槽22内において水分量が0.1%以上25%以下となるように調整されているので、貝殻又は貝殻の破砕片中の水分の蒸発に熱が使用されることになり、廃棄物の昇温が遅くなる。これにより、廃棄物の燃焼が緩やかになり、燃焼帯が大きく広がって炉本体内部の局所的な温度上昇が抑制され、炉壁等を構成する耐火物の劣化を防止できる。
【0037】
さらに、本実施形態では、貝殻又は貝殻の破砕片を水洗して塩分を除去しているので、炉本体11内部に塩分が混入するおそれがなく、炉壁の耐火物の劣化を防止することができる。
また、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片とを予め混合した混合物を炉本体11内部に投入しているので、貝殻又は貝殻の破砕片が塊状の廃棄物中を確実に移動することになり、炉本体11の回転によって廃棄物を効率的に解すことが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態であるロータリーキルン炉を用いた廃棄物の処理方法及び廃棄物からの金属回収方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、処理する廃棄物の性状については、実施形態に限定されることはなく、様々な性状のものを適用することができる。
【0039】
また、混合槽において廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片とを予め混合して炉本体に投入するものとして説明したが、これに限定されることはなく、廃棄物、貝殻又は貝殻の破砕片をそれぞれ単独で炉本体の内部に投入するような構成としてもよい。但し、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片とを予め混合した上で炉本体に投入することにより、廃棄物を効率的に解すことが可能となる。
さらに、炉本体の内部で生成したスラグを、冷却・破砕した後、金属とスラグに分別するものとして説明したが、破砕後、破砕物の性状に応じて銅製錬炉等に投入することも可能である。
【0040】
また、貝殻として、アワビ、カキ、カラスガイ、サザエ、トコブシ、バイガイ、ハマグリ、バカガイ、ホタテガイ、ウバガイ、ツブガイ、アコヤガイ等を例に挙げて説明したがこれに限定されることはなく、他の貝殻であってもよい。
さらに、生成したスラグの成分分析を蛍光X線分析法によって行うものとして説明したが、他の分析法を適用してもよい。
【0041】
また、クレーンによって廃棄物、貝殻又は貝殻の破砕片を移送・混合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、廃棄物貯留槽や貝殻貯留槽をホッパー構造とし、それぞれの貯留槽から混合槽へと配管を介して廃棄物、貝殻又は貝殻の破砕片を移送する構成であってもよい。この場合、貝殻又は貝殻の破砕片の混合比率をバルブ操作によって調整することが可能となる。
さらに、炉本体の内部温度が安定するまで廃棄物のみを投入し、燃焼バーナーの燃焼を停止した後に、廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片との混合物を投入する者として説明したが、これに限定されることはなく、最初から廃棄物と貝殻又は貝殻の破砕片との混合物を投入してもよい。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために行った確認実験の結果について説明する。以下に示す条件で廃棄物(スクラップ塊)をロータリーキルン炉で燃焼・溶融させ、スラグを得た。そして、炉本体内部の燃焼状態、炉壁へのスラグの鋳付き状態を目視で評価した。さらに、得られたスラグ中の炭素濃度を測定し、未燃焼炭素量を評価した。すなわち、スラグ中に含まれる炭素量が多いほど、廃棄物(スクラップ塊)の燃焼が不十分であったことになる。
【0043】
〔本発明例〕
シュレッダーダスト2000kg、金銀滓456kg、廃基板26kg,家電ダスト146kg、を混合してスクラップ塊(塊状の廃棄物)を調製した。このスクラップ塊に、牡蠣がら196kgを加えて混合し、貝殻とスクラップ塊との貝殻混合物を得た。
ロータリーキルン炉の炉本体を回転数1rpmで回転させるとともに燃焼バーナーを燃焼させた。放射温度計によって炉本体内部の温度を測定し、1100℃となった時点から、貝殻混合物の投入を開始し、徐々に貝殻混合物の投入量を増加させるとともに燃焼バーナーの燃焼量を減少させていき、最終的には貝殻混合物の燃焼のみで炉内温度が1100℃に安定するようにした。そして、すべての貝殻混合物を炉本体に投入して燃焼させ、スラグを得た。
【0044】
〔比較例1〕
シュレッダーダスト2000kg、金銀滓456kg、廃基板26kg,家電ダスト146kg、を混合してスクラップ塊(塊状の廃棄物)を調製した。
ロータリーキルン炉の炉本体を回転数1rpmで回転させるとともに燃焼バーナーを燃焼させた。放射温度計によって炉本体内部の温度を測定し、1100℃となった時点から、スクラップ塊の投入を開始し、徐々にスクラップ塊の投入量を増加させるとともに燃焼バーナーの燃焼量を減少させていき、最終的にはスクラップ塊の燃焼のみで炉内温度が1100℃に安定するようにした。そして、すべてのスクラップ塊を炉本体に投入して燃焼させ、スラグを得た。
【0045】
〔比較例2〕
シュレッダーダスト2000kg、金銀滓456kg、廃基板26kg,家電ダスト146kg、を混合してスクラップ塊(塊状の廃棄物)を調製した。このスクラップ塊に、直径5〜10cm程度の石灰石196kgを加えて混合し、石灰石混合物を得た。
ロータリーキルン炉の炉本体を回転数1rpmで回転させるとともに燃焼バーナーを燃焼させた。放射温度計によって炉本体内部の温度を測定し、1100℃となった時点から、石灰石混合物の投入を開始し、徐々に石灰石混合物の投入量を増加させるとともに燃焼バーナーの燃焼量を減少させていき、最終的には石灰石混合物の燃焼のみで炉内温度が1100℃に安定するようにした。そして、すべての石灰石混合物を炉本体に投入して燃焼させ、スラグを得た。
【0046】
これら本発明例、比較例1、2における炉本体内部の燃焼状態の目視評価、スラグの鋳付き状態の目視評価、スラグ中の未燃焼炭素量評価の結果を、表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
スクラップ塊のみを炉本体に投入した比較例1においては、スクラップ塊が塊状のままで大きく広がらず、局所的な燃焼が認められた。また、炉壁へのスラグの鋳付きが観察された。さらに、スラグ中の炭素量が5%であって、廃棄物(スクラップ塊)の燃焼が不十分であることが確認された。
また、スクラップ塊に石灰石を混入した比較例2においては、スクラップ塊が塊状のままで大きく広がらず、局所的な燃焼が認められた。さらに、スラグ中の炭素量が4%であって、廃棄物(スクラップ塊)の燃焼が不十分であることが確認された。なお、スラグは炉壁に固着することなく下流側へと流動しており、スラグの流動性が確保されていた。
【0049】
これに対して、スクラップ塊に貝殻又は貝殻の破砕片を混入した本発明例においては、スクラップ塊が炉本体内部で大きく広がり、燃焼も炉本体全体に広がっていた。スラグは炉壁に固着することなく下流側へと流動しており、スラグの流動性が確保されていた。さらに、スラグ中の炭素量が1%未満であって、廃棄物(スクラップ塊)の燃焼が十分に行われていることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
10 ロータリーキルン炉
11 炉本体
12 燃焼バーナー
20 投入部
21 廃棄物貯留槽
22 貝殻貯留槽
23 混合槽
24 原料投入部
25 クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルン炉を用いて廃棄物を燃焼・溶融し、スラグを生成させる廃棄物の処理方法であって、
前記ロータリーキルン炉の炉本体に、廃棄物と、概略平板状をなす貝殻又は貝殻の破砕片とを、投入し
前記炉本体を回転させることによって、前記貝殻又は貝殻の破砕片を前記廃棄物中で移動させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記スラグの組成を測定し、前記スラグ中の酸化カルシウムと酸化ケイ素との質量比率[CaO]/[SiO]が、0.36≦[CaO]/[SiO]≦0.41となるように、貝殻又は貝殻の破砕片の投入量を調整することを特徴とする請求項1に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の大きさが、3cm以上20cm以下とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の比重が、1.2g/cm以上3.5g/cm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記炉本体に投入される貝殻又は貝殻の破砕片の水分量が、0.1%以上25%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の廃棄物の処理方法によって、金属を含む前記スラグを生成し、このスラグから金属を回収することを特徴とする廃棄物からの金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−216763(P2010−216763A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66264(P2009−66264)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】