説明

廃自動車の処理システムおよび処理方法

【課題】 排ガス中の亜鉛蒸気が冷却により固化して排ガス処理施設の各所に付着するのを防止できる好ましい廃自動車の処理システムを提供する。
【解決手段】 少なくとも亜鉛を含む廃自動車10を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する熱分解炉1と、燃焼用空気を供給して前記熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉2と、二次燃焼炉2で生じた排ガスを浄化する排ガス処理施設を備える廃自動車の処理システムにおいて、二次燃焼炉2の空気過剰率は、熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化可能な値に設定されており、且つ、炉内温度は、酸化された亜鉛の融点以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃自動車の処理システムおよび処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は従来の廃自動車の処理システムを示している。
この処理システムは、予めプレス処理された廃自動車を炉内温度600℃程で熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する熱分解炉31と、熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉32と、二次燃焼炉32で発生した排ガスを浄化する排ガス処理施設(減温塔33、熱交換機34、集塵機35)を備える。また、図示しないが、熱分解炉31で生じた熱分解残さは、破砕機で細断された後、鉄、非鉄金属、ガラス、炭化物等に選別される。
このように、廃自動車を廃棄処理するに当たり、プレス処理された廃自動車を熱分解した後に、その熱分解残さを破砕するようにした処理方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
他方、熱分解で生じた熱分解ガスは、二次燃焼炉32において燃焼され、その際に生じた900℃程の排ガスは、減温塔33で400℃程に冷却され、さらに熱交換機34を経て熱回収された後、集塵機35によって排ガス中の塵埃等の異物が捕集・除去され、最終的に煙突36より大気中に排出される。
【0004】
ところで、二次燃焼炉32において熱分解ガスを完全に燃焼させるためには、二次燃焼炉32のバーナに供給する燃焼用空気の空気過剰率を適切な値に設定することが大切である。
空気過剰率とは、燃料(熱分解ガス)を完全燃焼させるのに必要な空気量と、実際にバーナに供給される空気量との割合であり、空気過剰率が小さ過ぎると炉内での燃焼は不十分となり、空気過剰率が大き過ぎると供給空気により炉内温度が低下して実質熱効率が悪化することから、通常、空気過剰率は1.05未満に設定されている。
【0005】
一方、廃自動車には、鉄材(例えば、車体等)に施されたメッキ用の亜鉛や半田材としての鉛等が含まれており、熱分解炉において炉内温度500℃程にて熱分解が行われると、融点の低い亜鉛(融点:約419℃)や鉛(融点:約327℃)が溶融され、これらが一部気化されて熱分解ガス中に浮遊した状態になっている。尚、廃自動車の場合は、鉛の量は極めて少なく、大半がメッキ用の亜鉛であり、且つ、亜鉛メッキ層は通常20μm程とされており、廃自動車に含まれている亜鉛はかなりの量である。
【0006】
また、上述したように、二次燃焼炉32では、空気過剰率1.05未満で燃焼を行うため、気化された亜鉛(亜鉛蒸気)や鉛(鉛蒸気)は酸化されずに亜鉛蒸気や鉛蒸気の状態で排ガス中に混在している。このような状態では、後段の排ガス処理施設において、排ガスが900℃程度から400℃程度以下に冷却されていく過程で、特に量の多い亜鉛蒸気が液化され、次いで固化される過程で減温塔33や熱交換機34等の内部に付着し、この結果、それぞれの運転に支障を来すという問題があった。
例えば、減温塔33においては、内部に配設された冷却水の噴霧パイプ等に亜鉛が大量に付着して排ガスの冷却に支障を来したり、また、熱交換機34においては、内部の排ガス流路に亜鉛が付着してガスの流通性や熱交換性が阻害されるといった問題である。
【特許文献1】特許第3785540号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み成されたもので、排ガス中の亜鉛蒸気が冷却過程で固化して排ガス処理施設の各所に付着するのを防止できる好ましい廃自動車の処理システムおよび処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、少なくとも亜鉛を含む廃自動車を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する熱分解炉と、燃焼用空気を供給して前記熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉と、前記二次燃焼炉で生じた排ガスを浄化する排ガス処理施設を備える廃自動車の処理システムにおいて、前記二次燃焼炉の空気過剰率は、前記熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化可能な値に設定されており、且つ、炉内温度は、酸化された亜鉛の融点以下に設定されていることを特徴としている。
ここで、熱分解とは、乾留、部分燃焼、炭化等の可燃分の全部または一部を熱分解してガス化することを示し、熱分解炉とは、このような作用を行うための各種の炉を示す。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の廃自動車の処理システムにおいて、前記空気過剰率が1.1以上であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の廃自動車の処理システムにおいて、前記空気過剰率が1.5以上であることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4に記載の発明によれば、少なくとも亜鉛を含む廃自動車を熱分解した際に生じる熱分解ガスを二次燃焼炉において燃焼する際に、空気過剰率を1.1以上として前記熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化させることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の廃自動車の処理方法において、前記空気過剰率を1.5以上とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気過剰率を1.1以上、好ましくは、1.5以上に設定して熱分解ガスを燃焼させることにより、熱分解ガス中に浮遊する気化された亜鉛は酸化され、酸化亜鉛に変質する。酸化亜鉛は、亜鉛に比べて融点が高いため、排ガス中において常に粉末状の固体として存在し、後段の排ガス処理施設(集塵機)において、確実に捕獲・除去することができる。
これにより、従来のように、排ガス中に混在する亜鉛蒸気が排ガス処理施設において冷却過程で液化され、固化される過程で排ガス処理施設の各部に付着し、それぞれの運転に支障を来すといった問題は回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1に基づいて本発明の廃自動車の処理システムの実施形態を説明する。図1は本実施形態による廃自動車の処理システムの概略構成を示している。
【0015】
本実施形態による廃自動車処理システムは、図1に示すように、廃自動車10を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さ11とに分離する熱分解炉1を備え、且つ、この熱分解ガスの処理施設として、熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉2と、二次燃焼炉2の排ガスを冷却する減温塔3と、減温塔3で冷却された排ガスを熱源とする熱交換機4と、熱交換機4を経た排ガスに含まれる塵埃等の異物を捕集除去するバグフィルタ5と、バグフィルタ5を経た排ガスを排出する煙突6を備え、また、上記熱分解残さ11の処理施設として、熱分解炉1と独立して設けられて熱分解残さ11を冷却する水冷却室7と、冷却された熱分解残さ11を乾燥させる乾燥室8とを備えている。尚、水冷却室7内には、熱分解残さ11を浸して冷却するための水槽が設けられている。
【0016】
ここで、熱分解炉1の排気口と二次燃焼炉2は配管21により接続され、この配管21を介して熱分解炉1で生じた熱分解ガスが二次燃焼炉2に導入されるようになっている。また、この配管21は途上で分岐されて熱分解炉1のバーナに接続されている。
二次燃焼炉2内には、熱分解ガスを燃焼させるためのバーナが設けられており、且つ、燃焼の際には、このバーナに空気過剰率1.1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上となるように燃焼用空気が供給されるように設定されている。但し、上述したように、空気過剰率が大き過ぎると二次燃焼炉2の燃焼効率が悪化するため、空気過剰率の上限が4.0以下になるように空気の供給量が規制されている。
【0017】
また、二次燃焼炉2より排ガスの流れ方向の下流側に向かって、減温塔3、熱交換機4、バグフィルタ5、煙突6が順番に設けられており、それぞれの出口と入口が配管22〜25により接続されることにより、二次燃焼炉2で発生した排ガスが各施設において処理されながら最終的に煙突6より外部に排出されるようになっている。
【0018】
また、熱交換機4は、チューブ式、或いはプレート式の熱交換機であり、その入口側には、熱交換用の外部空気が導入される配管26が接続され、出口側には、配管27が接続されている。そして、この配管27の他端部が煙突6、熱分解炉1、水冷却室7の排気塔7a、乾燥室8等にそれぞれ導入されている。
【0019】
次に、本実施形態による廃自動車の廃棄処理を説明する。
【0020】
先ず、本実施形態による廃自動車の処理方法は、少なくとも亜鉛を含む廃自動車10を熱分解した際に生じる熱分解ガスを二次燃焼炉2において燃焼する際に、空気過剰率を1.1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上として熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化させることであり、係る処理方法が適用された廃自動車の処理システムの動作について以下に説明する。
【0021】
本実施形態においては、予め使用済み自動車からエンジン、バッテリー、タイヤ、燃料タンク等が取り除かれた後、車体、シート、内装品等が塊状にプレス処理され、減容化されたもの(廃自動車10)が熱分解炉1に供給される。熱分解炉1はバッチ炉である。
【0022】
廃自動車10の熱分解は炉内温度600℃程にて行われ、有機物の熱分解で発生した水素、一酸化炭素、メタン等が含まれる500℃程の熱分解ガスと、鉄、非鉄金属(銅やアルミニウム)、ガラス、炭化物等が塊状となった熱分解残さ11とに分離される。尚、熱分解ガス中には、上記の他、熱分解炉1内において溶融し、気化した亜鉛(亜鉛蒸気)が含まれている。
【0023】
ここで、熱分解炉1において生じた熱分解ガス中の可燃分は、先ず、配管21を介して二次燃焼炉2に導入されて燃焼処理されるが、熱分解ガスの一部は熱分解炉1においてバーナの燃料として再利用されるようになっている。
【0024】
二次燃焼炉2では、外部よりバーナに燃焼用空気が供給され、バーナの燃焼により熱分解ガスに含まれる可燃ガスが燃焼される。この際の空気過剰率は1.1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上であるから、炉内の酸化雰囲気中において、熱分解ガス中の亜鉛蒸気は酸化されて酸化亜鉛に変質し、付着性のない粉末状の固体となって燃焼ガス(排ガス)中に混在するようなる。
この二次燃焼で生じた900℃程の排ガスは、配管22を介して減温塔3に導かれ、減温塔3において排ガスに冷却用の水が噴霧されることにより、排ガスの温度を一気に400℃程に低下させる。
【0025】
冷却された排ガスは、配管23を介して熱交換機4に導かれ、熱交換機4において外部導入の空気と熱交換されることにより、250℃程の予熱空気が生成される。
【0026】
空気と熱交換した後の排ガスは、配管24を介してバグフィルタ5(集塵機)に導入され、バグフィルタ5において排ガス中の塵、埃、金属酸化物(粉末状の酸化亜鉛)等が捕獲・除去された後、配管25を介して煙突6に導入され、煙突6を通して外部に排出される。
【0027】
この際、バグフィルタ5より煙突6に導入される排ガス中に、熱交換機4で生成された予熱空気を配管27を介して送り込み、排出ガス温度を220℃程に上昇させると共に、予熱空気を混合して排ガスの相対湿度を低下させて露点温度を下げることにより、煙突6から放出される排ガス中の水分が煙突6の出口近傍で露結して白煙となることが防止される。
また、予熱空気は、配管27を介して熱分解炉1に導入されて熱分解炉1内においてバーナの燃焼用空気として使用され、熱分解炉1の燃焼効率の向上に寄与している。
【0028】
一方、熱分解を終えた熱分解炉1内の廃自動車10(すなわち、熱分解残さ11)は、熱分解炉1と別体に設けた水冷却室7に移送され、この水冷却室7において、水が貯留された水槽中に浸されることにより、600℃程の熱分解残さが70℃程に急速に冷却され、固形化される。この急速冷却により水冷却室7内に発生した大量の水蒸気は、排気塔7aより外部に排出される。
この際、排気塔7aより水蒸気が白煙となって排出されないように、排気塔7a内に配管27を介して予熱空気が送り込まれ、水蒸気が120℃程に昇温される。
【0029】
本実施形態では、熱分解炉1内の熱分解残さ11は、順次この水冷却室7に移送され、水冷却室7において熱分解残さ11の冷却が行われている間も、前段の熱分解炉1において新たな廃自動車10の熱分解処理が行われている。
【0030】
水冷却室7において冷却された熱分解残さ11は、順次乾燥室8に移送され、乾燥室8において乾燥させる。これは、熱分解残さ11に含まれている金属類の酸化・腐食を防止するためである。
乾燥室8には、乾燥用の熱源として上述した熱交換機4からの予熱空気が配管27を介して導入され、室内は少なくとも100℃以上、好ましくは120℃程度に昇温されている。乾燥の際に発生した水蒸気は排気塔8aより排出される。
【0031】
尚、図示しないが、乾燥を終えた熱分解残さ11は、破砕機にて細断された後、選別行程を経て、鉄、非鉄金属、ガラス、炭化物等に選別される。熱分解残さ11は乾燥室8において乾燥されているため、破砕処理、選別処理は容易であり、且つ、金属類の酸化・腐食が防止されるため、鉄類の回収率が向上すると共に、その分、廃棄処分されるスラグの量も低減されることになる。
【0032】
以上、本実施形態による廃自動車の処理システムでは、二次燃焼炉2の空気過剰率を1.1以上、好ましくは、1.5以上に設定して熱分解ガスを燃焼させることにより、熱分解ガス中に浮遊する亜鉛蒸気は酸化され、酸化亜鉛に変質させることができる。酸化亜鉛は、亜鉛に比べて融点が高く(酸化亜鉛の融点は約2000℃)、排ガス中において常に粉末状の固体となって存在するため、後段のバグフィルタ5により、確実に捕獲・除去することができる。
これにより、従来のように、排ガス中に混在する亜鉛蒸気が排ガス処理施設において冷却されることにより液化し、固化する過程で排ガス処理施設の減温塔33や熱交換機34の内部に付着してそれぞれの運転に支障を来すといった問題は回避される。
【0033】
また、本実施形態による廃自動車の処理方法では、熱分解ガスを二次燃焼炉2で燃焼する際、空気過剰率を1.1以上、好ましくは1.5以上として熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化させるようしたので、熱分解ガス中に浮遊する亜鉛蒸気は酸化され、酸化亜鉛に変質させることができる。
これにより、従来のように、排ガス中に混在する亜鉛蒸気が排ガス処理施設において冷却されることにより液化し、固化する過程で排ガス処理施設の各所に付着してそれぞれの運転に支障を来すといった問題は回避される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る廃自動車処理システムの概略構成を示す図。
【図2】従来の廃自動車処理システムの概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 熱分解炉
2 二次燃焼炉
10 廃自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも亜鉛を含む廃自動車を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する熱分解炉と、燃焼用空気を供給して前記熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉と、前記二次燃焼炉で生じた排ガスを浄化する排ガス処理施設を備える廃自動車の処理システムにおいて、
前記二次燃焼炉の空気過剰率は、前記熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化可能な値に設定されており、且つ、炉内温度は、酸化された亜鉛の融点以下に設定されていることを特徴とする廃自動車の処理システム。
【請求項2】
前記空気過剰率が1.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の廃自動車の処理システム。
【請求項3】
前記空気過剰率が1.5以上であることを特徴とする請求項2に記載の廃自動車の処理システム。
【請求項4】
少なくとも亜鉛を含む廃自動車を熱分解した際に生じる熱分解ガスを二次燃焼炉において燃焼する際に、空気過剰率を1.1以上として前記熱分解ガス中に含まれる亜鉛を酸化させることを特徴とする廃自動車の処理方法。
【請求項5】
前記空気過剰率を1.5以上とすることを特徴とする請求項4に記載の廃自動車の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−39331(P2008−39331A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216680(P2006−216680)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】