説明

延伸フィルムの製造方法、延伸フィルム、偏光板及び液晶表示装置法

【課題】全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、その幅方向の両側端を複数の把持具を用いて把持し、その長手方向への移動に伴い前記把持具の間隔を広げながら、延伸後のフィルムの巻き取り方向に対し、θ(0°<θ<50°)だけ傾いた方向から繰り出して延伸フィルムを製造する方法において、延伸前の把持具の間隔をIs、延伸後の把持具の間隔をIeとしたとき、
1.0<Ie/Is<2.0
の式を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法、該製造方法により製造された延伸フィルム、該延伸フィルムを用いた偏光板及び該偏光板を用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、性能向上のために様々な位相差フィルムなどの延伸フィルムが使用されている。この位相差フィルムは、その機能を十分に発揮するように、偏光子の偏光透過軸や、液晶セルの偏光透過軸などと、特定の種々の角度に遅相軸が傾くように、液晶表示装置に据え付けられる。その遅相軸の傾き角度は、表示装置の側辺に平行でも、垂直でもない角度となることがある。
【0003】
ところで、上述のような、側辺に平行でも、垂直でもない角度に配向した位相差フィルムを得る方法としては、透明な樹脂フィルムを、縦延伸又は横延伸により配向させて長尺の延伸フィルムを得た後、その延伸フィルムの側辺に対して所定の角度で、方形状に裁断する方法が広く知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、延伸フィルムの利用効率が低いという問題があった。
【0004】
一方、所定の角度で斜めに配向された長尺の延伸フィルムでは、側辺に対して平行に切り取ることができ、延伸フィルムの利用効率が高くなる。このような斜めに配向軸が傾いたフィルムを延伸によって得る方法が、種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、延伸方向が0°を超え90°未満であるフィルムの延伸を2回以上行なうことにより、複屈折性と旋光性を具備する延伸フィルムの製造方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、テンター延伸機の左右の把持具を独立に駆動することによりフィルムの幅方向と遅相軸のなす角度が平行でも直交でもない位相差フィルムを得ることができる旨記載されている。また、このような位相差フィルムは、パンタグラフ式やリニアモータ式の同時二軸延伸機においても、フィルムの左右に対する送り速度に差を持たせることにより得ることができる旨記載されている。
【特許文献1】特開2004-126625号公報
【特許文献2】特開2005-49619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法により、延伸フィルムを製造する場合には、延伸フィルムの幅方向で配向角のバラツキが大きくなり、また膜厚のバラツキも大きくなる。従って、全幅に亘って配向角のバラツキが小さいくかつ膜厚のバラツキが小さい延伸フィルムを工業的に大量生産することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい延伸フィルムの製造方法、該製造方法により製造された延伸フィルム、該延伸フィルムを用いた偏光板及び該偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上述目的を達成するために検討した結果、熱可塑性樹脂フィルムを延伸後のフィルムの巻き取り方向に対し、θだけ傾いた方向から繰り出して同時二軸延伸する際に、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両側端を把持する把持具の間隔を、延神の前後において所定の条件を満たすようにすることにより、全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい延伸フィルムが得られることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、その幅方向の両側端を複数の把持具を用いて把持し、その長手方向への移動に伴い前記把持具の間隔を広げながら、延伸後のフィルムの巻き取り方向に対し、θ(0°<θ<50°)だけ傾いた方向から繰り出して延伸フィルムを製造する方法において、延伸前の把持具の間隔をIs、延伸後の把持具の間隔をIeとしたとき、
1.0<Ie/Is<2.0
の条件を満たす。
【0011】
本発明の延伸フィルムの製造方法においては、前記Ie/Isが、両側端で異なることが好ましい。
【0012】
また、本発明の延伸フィルムは、本発明の製造方法により製造されたものである。
【0013】
また、本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも片面に、本発明の延伸フィルムを積層してなるものである。
【0014】
また、本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の延伸フィルムの製造方法によれば、全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい良好な光学特性を有する延伸フィルムを精度よく製造することができる。
【0016】
また、本発明の延伸フィルムは、全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい良好な光学特性を有する。
【0017】
また、本発明の偏光板は、液晶表示装置、特に反射型の液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、表示画面のコントラストの低下や着色を防止することができる。
【0018】
また、本発明の液晶表示装置によれば、全体に亘り色ムラが観察されず、良好な表示を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る延伸フィルムの製造方法について説明を行なう。本製造方法においては、熱可塑性樹脂フィルムを延伸後のフィルムの巻き取り方向に対し、θだけ傾いた方向から繰り出して同時二軸延伸する際に、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両側端を把持する把持具(把持クリップ)の間隔を、延神の前後において所定の条件を満たすようにする。
【0020】
本実施形態では、延伸フィルムの素材として、熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂としては、透明樹脂であれば特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、脂環式オレフィンポリマーなどが挙げられる。これらの中でも固有複屈折値が正である樹脂が好ましく、脂環式オレフィンポリマーがより好ましい。
【0021】
脂環式オレフィンポリマーとしては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等を挙げることができる。
【0022】
脂環式オレフィンポリマーをより具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマーは、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0023】
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィンポリマー中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の延伸フィルムにより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性及び耐熱性が向上するので好ましい。
【0024】
脂環式オレフィンポリマーとしては、ノルボルネン樹脂、単環の環状オレフィン樹脂、環状共役ジエン樹脂、ビニル脂環式炭化水素樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0025】
ノルボルネン樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、及び軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0026】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、及び極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、及びスルホン基などが挙げられる。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、及びシクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類やその誘導体;並びにシクロヘキサジエン、及びシクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンやその誘導体;などが挙げられる。
【0029】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0030】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、及び1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンやこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、及びシクロヘキセンなどのシクロオレフィンやこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、及び5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0031】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0032】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及びノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0033】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料を、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0034】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(熱可塑性樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料の機械的強度及び成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0035】
熱可塑性樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0036】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、本実施形態の製造方法を用いて製造される延伸フィルムにより得られる光学材料を、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
【0037】
また、熱可塑性樹脂の光弾性係数の絶対値は、好ましくは10×10-12Pa-1以下、より好ましくは7×10-12Pa-1以下、特に好ましくは4×10-12Pa-1以下である。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。光弾性係数がこのような範囲にある透明樹脂を用いると、延伸フィルムの面内リタデーションReのバラツキを小さくすることができる。さらにこのような延伸フィルムを液晶表示装置に適用した場合に、液晶表示装置の表示画面の端部の色相が変化する現象を抑えることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。前記配合剤の配合量は、特に制限されず、熱可塑性樹脂中0〜5重量%である。
【0039】
また、本製造方法で用いられる熱可塑性樹脂フィルム(以下、「原反」ということがある。)は、公知の方法、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち押出成形法が残留揮発性成分量が少なく、寸法安定性にも優れるので好ましい。この原反は、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、フィルムラミネーション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法が好ましい。
【0040】
本実施の形態において、延伸後の光学特性を均一にするため原反の厚みムラは極力小さくする必要があり、最大値-最小値の値で3μm以下、好ましくは2μm以下が好ましい。原反の厚みは、通常40〜500μm、好ましくは50〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。
【0041】
本製造方法において同時二軸延伸を行う場合は、図1に示す同時二軸延伸用テンター延伸機2を用いて行なう。同時二軸延伸用テンター延伸機2は、パンタグラフ式テンター延伸機と呼ばれるものである。その他の同時二軸延伸機としてはスクリュー式テンター延伸機、リニアモータ式テンター延伸機などがあるが、把持クリップの間隔を広げるための駆動方式が相違するだけである。したがって、いずれの方式の同時二軸延伸機でも適用が可能である。
【0042】
同時二軸延伸用テンター延伸機2は、引き出しロール(原反巻回体)10と、巻き取りロール12と、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1からなる恒温室(図示せず)とを備えている。同時二軸延伸用テンター延伸機2では、引き出しロール10から送り出された原反14の端部を把持する複数の把持クリップ32を原反14の両側端に具備し、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置より構成された無端リンク装置(図1においては、無端リンクの一部のみを示す。)34を設け、無端リンク装置34を入口側スプロケット36で駆動することにより、無端リンク装置34がフィルム進行方向(図1では右から左へ)に向かって左側に屈曲したガイドレール38,40,42および44に案内されて、把持クリップ32の間隔を延伸ゾーンB1において徐々に拡大させて端部が把持された原反14を縦横二方向に同時に延伸させ二軸延伸フィルム15を得、さらに二軸延伸フィルム15の端部を把持クリップ32から外して、無端リンク装置34を出口側スプロケット37により駆動して入口側スプロケット36に戻るように構成されている。
【0043】
本実施の形態に係る同時二軸延伸用テンター延伸機2においては、図1に示すように、予熱ゾーンA1のフィルム走行方向(フィルム繰り出し方向)が、固定ゾーンC1のフィルム走行方向(フィルム巻き取り方向)に対して、0°<θ<50°の範囲で傾いている。即ち、引き出しロール10から原反14が繰り出される方向と、巻き取りロール12に延伸フィルム15が巻き取られる方向は、非平行に構成されている。なお、フィルム繰り出し方向とフィルム巻き取り方向の傾きである、角度θは、10°<θ<40°の範囲で傾いていることが好ましく、15°<θ<30°の範囲で傾いていることがより好ましい。図1に示す同時二軸延伸用テンター延伸機2では、フィルムの走行方向に対して左側にガイドレール38,40,42および44が屈曲しているが、図1の予熱ゾーンA1のフィルム走行方向を軸に線対称にした、右側にガイドレールが屈曲するようにしてもよい。
【0044】
本実施の形態に係る同時二軸延伸用テンター延伸機2は、上下のガイドレール38及び40の間、42及び44の間にパンタグラフの各節を支持する部材がガイドレール長手方向に移動可能に挟持されている。ガイドレール38及び40の一組と、ガイドレール42及び44の一組とは独立にスライドすることができ、このスライドによってできるレールレイアウトによってフィルム長手方向の把持クリップの間隔の広がり方、フィルム幅方向の把持クリップの間隔の広がり方を調整できるように構成されている。
【0045】
すなわち、ガイドレール40とガイドレール44との間の距離が変わるとパンタグラフの開き幅が変化し、パンタグラフの先に付いている把持クリップ32のフィルム長手方向の間隔が調整できる。ガイドレール40とガイドレール44との間の距離が長くなるとリンク装置34のパンタグラフが閉じフィルム長手方向の把持クリップ32の間隔が狭くなる。逆にガイドレール40とガイドレール44との間の距離が短くなるとリンク装置34のパンタグラフが開きフィルム長手方向の把持クリップ32の間隔が広くなる。
【0046】
図2は、予熱ゾーンA1、即ちフィルムの延伸前における把持クリップ32の間隔を示す図(図2においては、図中フィルムの上側の無端リンク装置34、ガイドレール38,40,42,44の一部を示す。)であり、図3は、固定ゾーンC1、即ちフィルムの延伸後における把持クリップ32の間隔を示す図(図3においては、図中フィルムの上側の無端リンク装置34、ガイドレール38,40,42,44の一部を示す。)である。ここで図中フィルムの下側の把持クリップ32の間隔は、フィルムの上側の把持クリップ32の間隔と同様な間隔を有する。本実施の形態においては、延伸前における把持クリップ32の間隔をIs、延伸後における把持クリップ32の間隔をIeとした場合に、1.0<Ie/Is<2.0の条件を満たしているが、1<Ie/Is<1.8を満たすことが好ましく、1<Ie/Is<1.6の条件を満たすことがより好ましい。なお、「延伸前」とは前記延伸ゾーンB1に入る直前の部分であり、「延伸後」とは延伸ゾーンB1を出た直後の部分をいう。
【0047】
なお、両側端のIe/Isを異ならせるようにしても良い。この場合には、ガイドレールの屈曲方向の内側に位置する把持クリップの間隔の比、即ち図1におけるフィルムの下側に位置する把持クリップの間隔の比をIe/Is(1)、ガイドレールの屈曲方向の外側に位置する把持クリップの間隔の比、即ち図1におけるフィルムの上側に位置する把持クリップの間隔の比をIe/Is(2)としたとき、
Ie/Is(1)>Ie/Is(2)
かつ
1<Ie/Is(1)、Ie/Is(2)<1.6
の条件を満たすことが好ましい。
【0048】
両側端のIe/Isを異ならせるようにすることにより、得られる延伸フィルムの配向角と膜厚のバラツキをより小さくすることができる。
【0049】
なお、本実施の形態に係る把持具の間隔は、把持具の形状が円形又は楕円形の場合には、隣り合う把持具同士の中心間距離をさし、把持具形状が円形又は楕円形以外の把持具については各々の重心間の距離をさす。
【0050】
一方、上下のガイドレール38のフィルム幅方向の距離によって、把持クリップ32のフィルム幅方向の間隔が調整できる。各ガイドレールは独立にスライド移動できるので、図中上側のガイドレール38のフィルム幅方向の上側への広がり幅と、下側のガイドレール38のフィルム幅方向の下側への広がり幅とを同じにすることもできるし、異ならしめることもできる。
【0051】
延伸ゾーンB1は、この同時二軸延伸用テンター延伸機2のように、フィルム走行方向が変化せずに直線状になっていることが好ましい。フィルムの走行方向を変化させないことにより延伸フィルムの光学特性を良好なものとすることができる。
【0052】
原反14は、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1からなる恒温室内を通過している間に、把持クリップ32からの張力によって延伸される。予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1は、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。各ゾーンの温度は適宜選択できるが、未延伸フィルム14を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)(熱可塑性樹脂が二種類以上ある構成の場合は、一番高いガラス転移温度)に対して、予熱ゾーンはTg〜Tg+30(℃)、延伸ゾーンはTg〜Tg+30(℃)、固定ゾーンはTg〜Tg+30(℃)である。
【0053】
本実施の形態においては幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンB1において幅方向に温度差を付けてもよい。特に把持クリップ付近の温度をフィルム中央部よりも高めにすることが好ましい。延伸ゾーンB1において幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒータを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1の長さは適宜選択でき、通常、延伸ゾーンB1の長さに対して、予熱ゾーンA1の長さが通常100〜150%、固定ゾーンC1の長さが通常50〜100%である。
【0054】
本実施の形態に係る製造方法では、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1におけるフィルム面が互いに略平行であることが好ましい。すなわち、引き出しロール10から引き出されたフィルムは、捩れずに、平らなままで、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および固定ゾーンC1を通過し、巻き取りロール12に巻き取られるのが好ましい。
【0055】
本実施の形態に係る製造方法では、把持クリップ32の走行速度がフィルム両端で略等しい。把持クリップ32の走行速度は適宜選択できるが、通常、10〜100m/分である。把持クリップ32の走行速度は、把持クリップ32によりフィルムを把持してからフィルムを開放するまで、一定に保たれる。左右一対の把持クリップの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。把持クリップ32がこのような走行速度で移動することにより、延伸フィルムの光学特性のバラツキを防止することができる。
【0056】
延伸倍率は、通常1.3〜2.0倍、好ましくは1.5〜1.8倍である。延伸倍率Rがこの範囲にあると幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。当該延伸倍率は、延伸フィルムの幅方向の長さ変化量から求めることができる。具体的には、延伸前の原反の幅をW、延伸後のフィルムの幅をW1とすると、延伸倍率RはW/Wにより求めることができる。
【0057】
以上のようにして恒温室内を通過した延伸フィルム15は、巻き取りロール12の手前で把持クリップから開放され、巻き取りロール12に巻き取られる。
【0058】
なお、必要に応じて、巻き取りロール12に巻き取る前に、テンター延伸機2の把持クリップ32で把持されていたフィルムの両端をトリミングしてもよい。また、巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどがあげられる。
【0059】
上述の実施の形態に係る延伸フィルムの製造方法によれば、全幅に亘って配向角及び膜厚のバラツキが小さい光学特性に優れた延伸フィルムを精度よく製造することができる。
【0060】
上述の実施の形態に係る延伸フィルムは、配向角のバラツキが、幅方向の少なくとも1350mmにおいて1.0°以下であり、好ましくは0.8°以下である。配向角のバラツキが1.0°を超える延伸フィルムを、偏光子と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させてしまうことがある。なお、上述の実施の形態において、配向角は、フィルムの幅方向と配向軸(フィルム面内の遅相軸)とがなす角度のうち、小さい方の角度とする。なお、平均配向角は、市販の偏光顕微鏡を用いて、延伸フィルムの配向角を幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値とする。また、配向角のバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0061】
上述の各実施の形態において、延伸フィルムの平均膜厚は、機械的強度などの観点から、好ましくは20〜200μm、さらに好ましくは30〜80μm、特に好ましくは30〜50μmである。また、延伸フィルムの幅方向の膜厚のバラツキは巻き取りの可否に影響を与えるため、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。ここで平均厚みは、市販の厚み測定装置を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値を平均厚みとする。また、厚みムラは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0062】
上述の各実施の形態において、延伸フィルムは、幅が少なくとも1350mm、好ましくは少なくとも1500mm以上である。延伸フィルムは、その製造工程において、任意に、延伸後にその幅方向の両端を切り落として作成されるが、この場合、フィルムの幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0063】
上述の実施の形態に係る延伸フィルムは、残留揮発性成分の含有量が、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が多いと経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、面内方向リタデーションRe(=(n−n)×d;nは面内遅相軸方向の屈折率;nは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率;dはフィルムの平均厚み))や厚み方向リタデーションRth(=((n+n)/2-n)×d;nは面内遅相軸方向の屈折率;nは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率;nは厚さ方向の屈折率;dはフィルムの平均厚み)の経時変化を小さくすることができ、さらにこの延伸フィルムを備える円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
【0064】
なお、揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0065】
上述の実施の形態において、延伸フィルムは、飽和吸水率が、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、面内方向リタデーションReや厚み方向リタデーションRthの経時変化を小さくすることができ、さらには円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。ここで、飽和吸水率は、JIS K7209に準拠して、フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、試験片の質量変化、すなわち、浸漬前と浸漬後の質量の差を測定して求め、浸漬前の百分率として表される値である。
【0066】
本実施の形態に係る偏光板は、偏光子の少なくとも片面に本実施の形態に係る延伸フィルムを積層して形成される。ここで偏光子は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光子や異方性多層フィルムなどの反射性偏光子が挙げられる。偏光子の厚さは、通常5〜80μmである。
【0067】
上述の各実施の形態に係る延伸フィルムは、偏光子の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層する数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。なお延伸フィルムに偏光子を積層させる場合には、接着性を向上させるために、延伸フィルム上にポリイミドなどを塗布し、その上に偏光子を積層させることが好ましい。延伸フィルムは、偏光子の保護フィルムを兼ねることができるが、偏光子の片面のみに、延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光子の保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル重合体等が挙げられる。
【0068】
上述の偏光子を得るための好適な製造方法は、本実施の形態に係る延伸フィルムの巻回体および偏光子巻回体からそれぞれ同時にフィルムを繰り出しながら、該延伸フィルムと該偏光子とを密着させることを含む方法である。延伸フィルムと偏光子との密着面には接着剤を介在させることができる。延伸フィルムと偏光子とを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光子を一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0069】
上述の実施の形態に係る偏光板は、所望の大きさに形成され液晶表示装置に用いられる。液晶表示装置の一例としては、偏光透過軸を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される円偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、前述の延伸フィルムは位相差板として、光学補償、偏光変換などのために液晶表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。なお、バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【0070】
液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、バーティカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーティカルアラインメント(MVA)モード、オプティカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モードなどを挙げることができる。液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、導光板、拡散シート、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0073】
(1)平均配向角θ及び配向角のバラツキ
偏光顕微鏡(オリンパス社製、BX51)を用いて、フィルムの幅方向に50mm間隔で、面内の遅相軸を測定し、遅相軸の方向とフィルムの幅方向との成す角度(配向角)の平均値を求め、これを平均配向角θとした。配向角θのバラツキは、配向角の最大値と最小値の差とした。
【0074】
(2)平均膜厚及び膜厚のばらつき
市販の厚み測定装置を用いて、フィルムに幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値を平均膜厚とした。また、膜厚のバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とした。
【0075】
(3)延伸フィルムの面内方向のリタデーションRe、延伸フィルムの厚さ方向のリタデーションRth
面内方向のリタデーション又は厚さ方向のリタデーションは、位相差計(王子計測(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて幅方向に50mm間隔で測定し、その平均値を面内方向のリタデーションRe又は厚さ方向のリタデーションRthとした。
【0076】
(4)実施例に係る円偏光板を用いた液晶表示装置の表示特性
透過軸が幅方向にある長尺の偏光子(サンリッツ社製、HLC2−5618S,厚さ180μm)と、各実施例の延伸フィルムを貼り合わせて長尺の円偏光板を得、この円偏光板を所定の大きさに切り出し、市販のVA(バーティカルアライメント)モードの反射型液晶表示装置のバックライト側の偏光板と置き換え、延伸フィルムを貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように組み込み、得られた液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認した。
【0077】
(実施例1)
脂環式オレフィンポリマーの一種である熱可塑性ノルボルネン樹脂(日本ゼオン社製、ZEONOR1420、ガラス転移点137℃)のペレットを100℃で5時間乾燥した。該ペレットを押し出し機に供給し、押し出し機内で溶融させポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイから表面温度120℃のキャスティングドラム上にシート状に押出して冷却し、厚み130μm、幅1200mmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムをそのまま連続して、図1に示すようなパンタグラフ方式の同時二軸延伸用テンター延伸機(把持クリップの形状は円形)に供給し、両側端の把持クリップの走行速度は略等しく、延伸温度142℃、Ie/Is(1),Ie/Is(2)=1.4、延伸倍率1.8倍、延伸後のフィルムの巻き取り方向に対するフィルムの繰り出し角度45°の条件で、延伸を行い、幅1500mm、面内方向の平均リタデーションRe=140nm、厚さ方向の平均リタデーションRth=200nmの延伸フィルム(1)を得、巻き芯に巻き取った。得られた延伸フィルム(1)の延伸条件、光学物性、光学物性のバラツキを表1に示した。なお、Ie/Is(1)は図1におけるフィルムの下側に位置する把持クリップの間隔の比を、Ie/Is(2)は図1におけるフィルムの上側に位置する把持クリップの間隔の比を、それぞれあらわす。
【0078】
得られた延伸フィルム(1)は幅方向の配向角のバラツキ、幅方向の膜厚のバラツキが小さく、幅方向の物性が均一であった。延伸フィルム(1)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0079】
(実施例2)
表1に示すように延伸条件を変更した他は実施例1と同様にして延伸フィルム(2)、偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。この延伸フィルム(2)の評価結果を表1に示した。延伸フィルム(2)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0080】
(実施例3)
表1に示すように延伸条件を変更した他は、実施例1と同様にして延伸フィルム(3)、偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。この延伸フィルム(3)の評価結果を表1に示した。延伸フィルム(3)は、延伸フィルム(1)や延伸フィルム(2)と比べて、配向角のバラツキや膜厚のバラツキが小さくなった。延伸フィルム(3)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0081】
(比較例1)
実施例1で得られた未延伸フィルムを、そのまま連続してフロート方式の縦延伸機に供給し、延伸温度142℃、延伸倍率1.4倍で縦延伸を行って縦延伸フィルムを得、巻き芯に巻きとった。次いで、前記縦延伸フィルム102を巻き芯から引き出し、巻き取り方向に対しての繰り出し角度θが45°となるように、図4に示すテンター延伸機100に供給し、延伸温度142℃、延伸倍率1.8倍で延伸を行い、延伸フィルム103(延伸フィルム(4))を得た。延伸フィルム(4)の評価結果を表1に示した。得られた延伸フィルム(4)は、逐次で延伸を行ったことにより配向角、膜厚共に標準偏差が悪化しているため、幅方向の均一性に欠けるものであった。延伸フィルム(4)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察され表示品位が悪化した。
【0082】
(比較例2)
表1に示すように延伸条件を変更した事他は実施例1と同様に延伸フィルム(5)、円偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。延伸フィルム(5)の評価結果を表1に示した。得られた延伸フィルム(5)は、面配向が増した為、幅方向の均一性に欠けるものであった。延伸フィルム(5)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察され表示品位が悪化した。
【0083】
(比較例3)
表1に示すように延伸条件を変更し、繰り出し角度を変化させた他は実施例1と同様にして延伸フィルム(6)、偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。延伸フィルム(6)の評価結果を表1に示した。得られた延伸フィルム(6)は、繰り出し角度の増加に伴い、配向角、膜厚共にバラツキが大きくなっているため、は幅方向の均一性に欠けるものであった。また、延伸フィルム(6)を用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察され表示品位が悪化した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に係る同時二軸延伸用テンター延伸機の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るフィルム延伸前の把持クリップの間隔を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るフィルム延伸後の把持クリップの間隔を説明するための図である。
【図4】比較例1で用いるテンター延伸機の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
2…同時二軸延伸用テンター延伸機、10…引き出しロール、12…巻き取りロール、14…未延伸フィルム(原反)、15…延伸フィルム、32…把持クリップ、34…無端リンク装置、38,40,42,44…ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを、その幅方向の両側端を複数の把持具を用いて把持し、その長手方向への移動に伴い前記把持具の間隔を広げながら、延伸後のフィルムの巻き取り方向に対し、θ(0°<θ<50°)だけ傾いた方向から繰り出して延伸フィルムを製造する方法において、
延伸前の把持具の間隔をIs、延伸後の把持具の間隔をIeとしたとき、以下の式〔1〕を満たす延伸フィルムの製造方法。
1.0<Ie/Is<2.0・・・〔1〕
【請求項2】
前記Ie/Isが、両側端で異なる請求項1記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法により製造された延伸フィルム。
【請求項4】
偏光子の少なくとも片面に、請求項3に記載の延伸フィルムを積層してなる偏光板。
【請求項5】
請求項4に記載の偏光板を備える液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−162123(P2008−162123A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354112(P2006−354112)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】