説明

建機キャブ

【課題】室内や窓の開口を狭くしなくても柱の強度を向上できる建機キャブを提供する。
【解決手段】左後面ピラー48は、横断面がコ字状の2本の長尺材80、82を、横断面がロ字状となるように溶接したものである。長尺材80の両翼80a,80bのうちの片翼80aと、長尺材82の両翼82a,82bのうちの片翼82aとは、片翼80aが片翼82aの内側に位置するように重ねられている。同様に、長尺材80の片翼80bと長尺材82の片翼82bとは、片翼80bが片翼82bの内側に位置するように重ねられている。このように2本の長尺材80,82の両翼80a,80b、82a,82bを重ねた場合、これらを溶接する位置は、例えば、両翼82a,82bの先端部W、両翼80a,80b、82a,82bの長手方向中央部Wとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械を操作する操作者(オペレータ)が搭乗する建機キャブ(建設機械用キャブ)に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの建設機械は様々な地域で広く使用されている。このような建設機械は凹凸の激しい地形で使用されることもあり、転倒するおそれもある。建設機械が仮に転倒したと想定した場合、建機キャブに乗っている操作者の安全を確保する必要がある。このような安全確保のために、建機キャブの強度を向上することによりその変形を抑える構成等が知られている。
【0003】
このような構成の一例として、建機キャブの前面部分であって視野の邪魔にならない位置に補強部材を配置した建機キャブが知られている(例えば、特許文献1参照。)。ところで、建設機械は横方向(操作者からみて左右方向)に転倒する可能性が高い。従って、建機キャブの左右に位置する柱(ピラー)の強度を向上させることにより、転倒時における安全性が確保される。
【特許文献1】特願2000−89171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建機キャブの左右に位置する柱の強度を向上させる技術としては、この柱を角パイプや異形鋼管で構成し、これらの横方向のサイズを大きくする技術が考えられる。この技術によれば、柱の強度は向上するものの、その横方向のサイズが大きくなるので、室内が狭くなったり窓の開口が狭くなったりする。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、室内や窓の開口を狭くしなくても柱の強度を向上できる建機キャブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の建機キャブは、建設機械を操作する操作者が搭乗する建機キャブにおいて、
(1)横断面がコ字状の2本の長尺材を接合して横断面がロ字状となった柱を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、
(2)前記柱は、前記2本の長尺材のうち前記コ字状の両翼に相当する部分を互いに重ねて溶接したものであってもよい。
【0008】
また、
(3)前記柱は、該柱のうち前記コ字状の両翼に相当する部分が、前後方向に向くように配置されたものであってもよい。
【0009】
さらに、
(4)その後方側の左右2本の柱として前記柱を用いてもよい。
【0010】
さらにまた、
(5)前記柱は、前記2本の長尺材のうち前記コ字状の底辺に相当する部分を貫通して溶接された、左右方向に延びる補強材を備えてもよい。
【0011】
さらにまた、
(6)前記補強材は、前記柱の外側及び内側の面に溶接されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、横断面がコ字状の2本の長尺材を接合して横断面がロ字状の柱を形成する。この接合の際は、一方の長尺材のコ字の両翼に相当する2辺それぞれは、他方の長尺材のコ字の両翼に相当する2辺それぞれに重ねられる。この重なった辺の板厚は、一本の長尺材の板厚に比べて2倍となり、その分、強度が向上する。重なった辺が建機キャブの前後方向を向く(重なった辺が前後方向に直交する)ように柱を配置することにより、横方向(左右方向)からの衝撃(荷重)に対する強度が向上するので、建設機械が横方向に倒れても、建機キャブに乗った操作者の安全性を確保できる。また、建機キャブの横方向は長尺材の板幅(両翼の幅)の分しか幅が狭くならないので、室内は狭くならず、窓の開口も狭くならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、油圧を利用したショベル(油圧ショベル)のキャブ(運転室)に実現された。
【実施例1】
【0014】
図1を参照して、本発明の建機キャブの一例が組み込まれた油圧ショベルを説明する。
【0015】
図1は、本発明の建機キャブの一例が組み込まれた油圧ショベルの概略構成を示す側面図である。
【0016】
油圧ショベル10は、旋回フレーム22やその上に載せた旋回モータ(図示せず)、エンジン(図示せず)、油圧ポンプ(図示せず)、建機キャブ40などで構成される上部旋回体20と、旋回輪32、走行フレーム34、走行モータ(図示せず)などで構成される下部走行体30に大別される。また、油圧ショベル10は、ブーム36やアーム38などから構成されるフロント作業機39も備えている。なお、建機キャブ40の内部には、操作者が座る座席、運転機器類などが配置されているが、ここでは、省略している。
【0017】
図2を参照して、建機キャブの構造を説明する。
【0018】
図2は、本発明の建機キャブの一例の骨組を示す斜視図である。
【0019】
建機キャブ40は、複数本の柱(ピラー)や板状部材から構成された骨組を有する。建機キャブ40の前面には、右前面ピラー42と左前面ピラー44が配置されている。また、建機キャブ40の後面には、右前面ピラー42に並行に延びる右後面ピラー46と、左前面ピラー44に並行に延びる左後面ピラー48が配置されている。また、左前面ピラー44と左後面ピラー48のほぼ中間には、左前面ピラー44にほぼ平行に延びる左中間ピラー(図示せず)が配置されている。この左中間ピラーと左前面ピラー44の間には、建機キャブ40に出入するためのドア(図示せず)が取り付けられる。図2では、このドアを省略して、ドアが配置される空間を示している。右前面ピラー42と右後面ピラー46のほぼ中間には、右前面ピラー42にほぼ平行に延びる右中間ピラー(図示せず)が配置されている。右中間ピラーは、建機キャブ40の床から半分程度の高さであっても、ルーフまで伸展していても良い。上記した2つのピラー42,44はパイプ(鋼管)あるいは、板材を成形、組合せた閉断面部材で作製されている。また、2つのピラー46,48は、後述するように、横断面がコ字状の2本の長尺材を接合して横断面がロ字状となったものである。
【0020】
右前面ピラー42に連続して右ルーフレール50が配置されている。右後面ピラー46の上端部は継手(図示せず)を介して右ルーフレール50に継がれている。同様に、左前面ピラー44に連続して左ルーフレール52が配置されている。左後面ピラー48の上端部は継手(図示せず)を介して左ルーフレール52に継がれている。また、左ルーフレール52には、左中間ピラー(図示せず)の上端部が固定されている。上記した右ルーフレール50と左ルーフレール52は、横断面が円形(閉断面の一例である)のパイプを引抜成形して形成されたパイプあるいは、板材を成形、組合せた閉断面部材で作製されている。
【0021】
右前面ピラー42の上端部と左前面ピラー44の上端部は、ほぼ水平に延びるフロントヘッダー54で接続されている。一方、右前面ピラー42の下端部と左前面ピラー44の下端部はフロントクロスメンバー56で接続されている。フロントヘッダー54とフロントクロスメンバー56は板状の部材を成形、組合せて作製されている。上記の右前面ピラー42、左前面ピラー44、フロントヘッダー54、及びフロントクロスメンバー56で囲まれた空間には、例えば上下2分割式の窓(図示せず)が嵌め込まれる。
【0022】
上記した右後面ピラー46の上端部と左後面ピラー48の上端部は、ほぼ水平に延びるリヤヘッダー58で接続されている。同様に、右後面ピラー46の下端部と左後面ピラー48の下端部は、ほぼ水平に延びるリヤクロスメンバー60で接続されている。さらに、リヤヘッダー58とリヤクロスメンバー60の間には、これらにほぼ平行なバックパネルレインフォースメント62が配置されている。このバックパネルレインフォースメント62の長手方向両端部はそれぞれ、右後面ピラー46の長手方向中央部と左後面ピラー48の長手方向中央部に固定されている。
【0023】
右前面ピラー42の長手方向中央部と右後面ピラー46の長手方向中央部は、板状(閉断面)のサイドパネルレインフォースメント64でつながれている。また、右前面ピラー42の下端部と右後面ピラー46の下端部は右サイドメンバー66でつながれている。同様に、左前面ピラー44の下端部と左後面ピラー48の下端部は左サイドメンバー68で継がれている。
【0024】
図3と図4を参照して、右後面ピラー46と左後面ピラー48の構造を説明する。右後面ピラー46と左後面ピラー48は同じ構造であるので、ここでは、左後面ピラー48について説明する。なお、ここでは、本発明の柱を右後面ピラー46と左後面ピラー48に採用したが、右前面ピラー42と左前面ピラー44に採用してもよい。
【0025】
図3は、図2のA―A断面図である。図4は、図2のB―B断面図である。
【0026】
左後面ピラー48は、横断面がコ字状の2本の長尺材80、82を、横断面がロ字状となるように溶接したものである。長尺材80の両翼80a,80bのうちの片翼80aと、長尺材82の両翼82a,82bのうちの片翼82aとは、片翼80aが片翼82aの内側に位置するように重ねられている。同様に、長尺材80の片翼80bと長尺材82の片翼82bとは、片翼80bが片翼82bの内側に位置するように重ねられている。このように2本の長尺材80,82の両翼80a,80b、82a,82bを重ねた場合、これらを溶接する位置は、例えば、両翼82a,82bの先端部W、両翼80a,80b、82a,82bの長手方向中央部Wとする。
【0027】
左後面ピラー48では、片翼80aと片翼82aの重なった部分が建機キャブ40の前方を向いており、片翼80bと片翼82bの重なった部分が建機キャブ40の後方を向いている。即ち、2枚の片翼が重なった部分が、建機キャブ40の前後方向を向くように配置されている。換言すれば、2枚の片翼が重なった部分の面は、建機キャブ40の前後方向に直交している。
【0028】
上記のように片翼80aと片翼82aの重なった部分(辺)の板厚は、一本の長尺材80(又は82)の板厚に比べて2倍となり、その分、強度が向上する。2枚の片翼80a、82a(又は80b、82b)が重なった部分が、建機キャブ40の前後方向を向くように配置されているので、横方向(左右方向)からの衝撃(荷重)に対する強度が向上する。このため、建機キャブ40が横方向に倒れても、建機キャブ40に乗った操作者の安全性を確保できる。また、建機キャブ40の横方向は長尺材80、82の板幅(片翼の幅)の分しか幅が狭くならないので、室内は狭くならず、窓の開口も狭くならない。
【0029】
左後面ピラー48の長手方向中央部には補強材90が取り付けられている。この補強材90は、図2に示すように、右後面ピラー46にも同様に取り付けられている。補強材90は台形状で板状のものであり、2本の長尺材80,82のコ字状の底辺80c,82cに相当する部分に直交して貫通しており、建機キャブ40の左右方向に延びている。左後面ピラー48に補強材90を取り付けるに際しては、先ず、補強材90を差し込む孔を長尺材80に形成し、この孔に補強材90を差し込んでおき、図3に示すように底辺80cの内側2箇所W1,W2と、外側2箇所W3,W4で溶接を施す。その後、長尺材82に形成された孔に補強材90を差し込み、長尺材82を長尺材80に溶接で固定する。この溶接では、長尺材82の底辺82cの外側2箇所W5,W6を溶接する。上記のように補強材90を左後面ピラー48に取り付けるに際しては、長尺材80の底辺80cの内側2箇所W1,W2と、外側2箇所W3,W4で溶接できるので補強材90を強固に固定でき、補強機能を向上できる。
【0030】
図5を参照して、左後面ピラー48の変形例を説明する。
【0031】
図5(a)は、同じサイズの2本の長尺材を用いて柱を構成した例を示す横断面図であり、(b)は、右側方に位置する長尺材のサイズが左側方のものよりも大きい例を示す横断面図である。
【0032】
図3や図4に示した例では、左側方に位置する長尺材82のサイズが右側方に位置する長尺材80のサイズよりも大きい、具体的には、長尺材82の底辺82cが長尺材80の底辺80cよりも、板厚2枚分ほど長い。図5(a)に示す例では、同じサイズの長尺材100,102を組み合わせることにより、柱を構成できるので、2種類の長尺材を作製する必要は無い。また、図5(b)に示す例では、右側方に位置する長尺材110のサイズが左側方に位置する長尺材112のサイズよりも大きい、具体的には、長尺材110の底辺110cが長尺材112の底辺112cよりも、板厚2枚分ほど長い。
【0033】
上記のように2本の長尺材を適宜に組み合わせても、図3や図4に示す左後面ピラー48と同様の効果をもつものを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の建機キャブの一例が組み込まれた油圧ショベルの概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の建機キャブの一例の骨組を示す斜視図である。
【図3】図2のA―A断面図である。
【図4】図4は、図2のB―B断面図である。
【図5】(a)は、同じサイズの2本の長尺材を用いて柱を構成した例を示す横断面図であり、(b)は、右側方に位置する長尺材のサイズが左側方のものよりも大きい例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0035】
40 建機キャブ
42 右前面ピラー
44 左前面ピラー
46 右後面ピラー
48 左後面ピラー
80,82,100,102,110,112 長尺材
80a,80b、82a,82b 片翼
90 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械を操作する操作者が搭乗する建機キャブにおいて、
横断面がコ字状の2本の長尺材を接合して横断面がロ字状となった柱を備えたことを特徴とする建機キャブ。
【請求項2】
前記柱は、前記2本の長尺材のうち前記コ字状の両翼に相当する部分を互いに重ねて溶接したものであることを特徴とする請求項1に記載の建機キャブ。
【請求項3】
前記柱は、該柱のうち前記コ字状の両翼に相当する部分が、前後方向に向くように配置されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の建機キャブ。
【請求項4】
その後方側の左右2本の柱として前記柱を用いたことを特徴とする請求項1,2,又は3に記載の建機キャブ。
【請求項5】
前記柱は、前記2本の長尺材のうち前記コ字状の底辺に相当する部分を貫通して溶接された、左右方向に延びる補強材を備えたことを特徴とする請求項1から4までのうちのいずれか一項に記載の建機キャブ。
【請求項6】
前記補強材は、前記柱の外側及び内側の面に溶接されているものであることを特徴とする請求項5に記載の建機キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−189050(P2008−189050A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23246(P2007−23246)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】