説明

建物における軸力支持部材とその製造方法

【課題】 材料の無駄が生じにくく、強度的にも無駄なく合理的に使用し易い建物における軸力支持部材を提供する。
【解決手段】 複数の金属製中実角材1を、それらの長手方向に沿う側面2どうしを互いに重ね合わせて、一体化してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物における柱などの軸力支持部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中実鋼棒などの金属製中実材料は、形鋼や中空鋼管などの断面積が同じで外径が大きい金属材料に比べて、断面二次モーメントや断面係数,断面二次半径などの断面性能が劣るが、断面積に関しては特に問題がないので、曲げモーメントや剪断力をほとんど作用させずに軸力を支持する、建物における柱などの軸力支持部材として使用されることがあり、この場合は、外径が小さいので、実質面積が広い床面を設けることができるとともに、意匠設計上の自由度が大きくなる利点があるが、従来、市販の中実材料をそのまま、或いは、所望の断面形状に切断加工して軸力支持部材として使用している(周知技術であり、先行技術文献情報を開示できない)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、市販の中実材料は断面積や断面形状の選択範囲が狭く、市販の中実材料をそのまま軸力支持部材として使用する場合は、強度的に無駄なく合理的に選択しにくい欠点があり、また、所望の断面形状に切断加工して軸力支持部材として使用する場合は、端材が発生するなどの材料の無駄が生じる欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、材料の無駄が生じにくく、強度的にも無駄なく合理的に使用し易い建物における軸力支持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明による建物における軸力支持部材の第1特徴構成は、複数の金属製中実角材を、それらの長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、一体化してある点にある。
【0005】
〔作用及び効果〕
複数の金属製中実角材を、それらの長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、一体化してあるので、市販の金属製中実角材を組み合わせて、材料の無駄が生じにくい状態で、所望の断面積や断面形状の軸力支持部材を製作し易く、強度的にも無駄なく合理的に使用し易い。
特に、耐火鋼(FR鋼)のような特殊鋼は市販されている断面積や断面形状の選択範囲が狭いが、このような場合でも、所望の断面積や断面形状の軸力支持部材を製作し易い。
【0006】
本発明の第2特徴構成は、前記側面どうしの重なり部における幅方向両端部を前記長手方向に沿って溶接して一体化してある点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
側面どうしの重なり部における幅方向両端部を長手方向に沿って溶接して一体化してあるので、重なり部を全幅に亘って溶接する場合に比べて、熱影響による歪みの発生を回避し易い。
【0008】
本発明の第3特徴構成は、前記側面どうしを重ね合わせてある角材の長手方向両端面に、一対の金属製板材の夫々を隣り合う前記端面に跨るように重ね合わせて、溶接で一体に固定してある点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
側面どうしを重ね合わせてある角材の長手方向両端面に、一対の金属製板材の夫々を隣り合う端面に跨るように重ね合わせて、溶接で一体に固定してあるので、軸力支持部材の両端部がばらけにくいとともに、軸力を各角材に分配できるようにそれらの端面に効率良く伝達できる。
【0010】
本発明の第4特徴構成は、前記一対の板材に、互いに嵌合自在な形状の凸球面状の第1接続面と、凹球面状の第2接続面とを振り分けて形成してある点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
軸力支持部材の両端部を構成している一対の板材に、互いに嵌合自在な形状の凸球面状の第1接続面と、凹球面状の第2接続面とを振り分けて形成してあるので、軸力支持部材を長手方向で隣り合うように配置して、一方の軸力支持部材の板材に形成してある第1接続面と、他方の軸力支持部材の板材に形成してある第2接続面とを互いに嵌合して組み付ける場合に、凸球面状の第1接続面と凹球面状の第2接続面とに沿う相対移動で、建て方誤差を容易に修正して施工能率を高めることができる。
また、側面どうしを重ね合わせる角材とは別個に、各板材を切削加工するなどにより、凸球面状の第1接続面や凹球面状の第2接続面を形成できるので、加工し易い状態で能率良く製作できる。
【0012】
本発明の第5特徴構成は、前記一対の板材に、隣接する軸力支持部材端部どうしの前記第1,第2接続面に沿う相対変位を規制可能な係合部を設けてある点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
軸力支持部材の両端部を構成している一対の板材に、隣接する軸力支持部材端部どうしの第1,第2接続面に沿う相対変位を規制可能な係合部を設けてあるので、第1接続面と第2接続面との嵌合状態を確実に維持できる。
【0014】
本発明の第6特徴構成は、第1〜第5特徴構成のいずれかの軸力支持部材の製造方法であって、複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて仮組し、その重なり部の幅方向両端部を前記長手方向に沿って溶接する点にある。
【0015】
〔作用及び効果〕
複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて仮組し、その重なり部の幅方向両端部を長手方向に沿って溶接するので、重なり部を全面に亘って溶接する場合に比べて、熱影響による歪みの発生を回避し易く、能率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は本発明による建物における、曲げモーメントや剪断力をほとんど作用させずに軸力を支持する柱に使用する軸力支持部材Aを示し、図3に示すように、二本の同一矩形断面の鋼製中実角材1を、それらの長手方向に沿う一方の幅広側面2どうしを互いに重ね合わせて、その幅広側面2どうしの重なり部18における幅方向両端部を長手方向に沿って一連に溶接して、断面形状が略正方形になるように一体化するとともに、その一体化した角材1の長手方向両端面3に、その端面3と略同じ形状の一対の鋼製端部板材4,5の夫々を、隣り合う角材1の端面に跨るように重ね合わせて、溶接で一体に固定してある。
尚、図中のWは溶接による肉盛り部分を示している。
【0017】
前記一対の端部板材4,5には、互いに嵌合自在な形状の凸球面状の第1接続面6と、第1接続面6と略同じ曲率の凹球面状の第2接続面7とを振り分けて形成してあるとともに、図2に示すように、二本の軸力支持部材Aを、第1接続面6と第2接続面7とを互いに嵌合して、同芯状又は略同芯状に上下に接続したときに、隣接する軸力支持部材端部どうしの第1,第2接続面6,7に沿う相対変位を規制可能な係合部8を設けてある。
【0018】
前記係合部8は、各端部板材4,5にその接続面6,7の中心に開口する円形の貫通孔9を軸力支持部材Aの軸芯Xと同芯状に形成して、両端部板材4,5の貫通孔9に亘って孔径方向に僅かな遊びがある状態で挿入した円柱形のダボピン10で、第1,第2接続面6,7に沿う相対変位を規制可能に構成してある。
【0019】
図2は、コンクリート製フラットスラブBの肉厚内で、二本の軸力支持部材Aを、第1接続面6と第2接続面7とを互いに嵌合して、同芯状又は略同芯状に上下に接続してある接続構造を示し、下側の軸力支持部材A1に取り付けた支持部材11でスラブBを支持してある。
【0020】
上記軸力支持部材Aの製造方法を説明する。
前記角材1の夫々は、断面形状の寸法比が略1:2(具体的には80mm×160mm)で、予め、互いに重ね合わせる幅広側面2の両側角部を全長に亘って切削或いは溶断しておき、一対の端部板材4,5には、図4に示すように、予め、第1接続面6と第2接続面7とを振り分けて切削形成しておくとともに、貫通丸9を穿設しておき、角材1側の端面3に接続する接続端面15の外周角部を全周に亘って切削或いは溶断しておく。
【0021】
そして、角材1を幅広側面2どうしが重なるように溶接で仮付けして、図3に示すように、重なり部18における幅方向両端部にV形開先部16が全長に亘って形成されるように仮組し、そのV形開先部16をサブマージアーク溶接やマグ溶接などで全長に亘って連続的に溶接して一体化する。
【0022】
次に、一体化した角材1の小口を平滑に切削加工して両端に平滑な端面3を形成するとともに、図4に示すように、一対の端部板材4,5夫々の接続端面15を端面3に当て付けて、全周に亘ってレ形開先部17を形成するように溶接で仮付けし、そのレ形開先部17をマグ溶接や被覆アーク溶接などで全周に亘って連続的に溶接して一体化する。
【0023】
〔第2実施形態〕
図示しないが、第1実施形態において示した角材1の3本以上を、それらの長手方向に沿う一方の幅広側面2どうしを互いに重ね合わせて、幅広側面2どうしの重なり部18における幅方向両端部を長手方向に沿って一連に溶接して、一体化してあっても良い。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0024】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による建物における軸力支持部材は、複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、接着や圧着,ろう付けなどで一体化してあっても良い。
2.本発明による建物における軸力支持部材は、複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしの重なり部を全幅に亘って、溶接や接着,圧着,ろう付けなどで一体化してあっても良い。
3.本発明による建物における軸力支持部材は、複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしの重なり部における幅方向両端部を必要強度に応じて長手方向に沿って断続的に溶接して一体化してあっても良い。
4.本発明による建物における軸力支持部材は、横断面形状が四角形のものに限定されず、複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしの重なり部における幅方向両端部を長手方向に沿って隅肉溶接で一体化してあっても良い。
5.本発明による建物における軸力支持部材は、複数のFR鋼(耐火鋼)製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、溶接や接着,圧着,ろう付けなどで一体化してあっても良い。
6.本発明による建物における軸力支持部材は、複数の鋳鉄製やアルミ合金製の中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、溶接や接着,圧着,ろう付けなどで一体化してあっても良い。
7.本発明による建物における軸力支持部材は、材質が互いに異なる複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、溶接や接着,圧着,ろう付けなどで一体化してあっても良い。
8.本発明による建物における軸力支持部材は、フラットスラブを貫通するように設置した軸力支持部材の上端部に、その上側に設置する軸力支持部材の下端部を接続して使用するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】軸力支持部材の側面図
【図2】軸力支持部材の接続構造を示す側面図
【図3】軸力支持部材の製造方法の説明図
【図4】軸力支持部材の製造方法の説明図
【符号の説明】
【0026】
1 角材
2 側面
3 端面
4 板材
5 板材
6 第1接続面
7 第2接続面
8 係合部
18 重なり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属製中実角材を、それらの長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて、一体化してある建物における軸力支持部材。
【請求項2】
前記側面どうしの重なり部における幅方向両端部を前記長手方向に沿って溶接して一体化してある請求項1記載の建物における軸力支持部材。
【請求項3】
前記側面どうしを重ね合わせてある角材の長手方向両端面に、一対の金属製板材の夫々を隣り合う前記端面に跨るように重ね合わせて、溶接で一体に固定してある請求項1又は2記載の建物における軸力支持部材。
【請求項4】
前記一対の板材に、互いに嵌合自在な形状の凸球面状の第1接続面と、凹球面状の第2接続面とを振り分けて形成してある請求項3記載の建物における軸力支持部材。
【請求項5】
前記一対の板材に、隣接する軸力支持部材端部どうしの前記第1,第2接続面に沿う相対変位を規制可能な係合部を設けてある請求項4記載の建物における軸力支持部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の軸力支持部材の製造方法であって、
複数の金属製中実角材の長手方向に沿う側面どうしを互いに重ね合わせて仮組し、その重なり部の幅方向両端部を前記長手方向に沿って溶接する建物における軸力支持部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−144241(P2006−144241A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331799(P2004−331799)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】