説明

建設機械の旋回装置

【課題】上部旋回体側に突出するモータや減速機をなくして上部旋回体におけるレイアウト上の自由度を高めることができると共に、駆動に必要となっていた内歯やピニオンをなくして部品点数削減並びに製造コスト削減を図ることができ、且つ内歯とピニオンの噛合いに伴うガタをなくし、組み立て時の調整作業も容易に行い得る建設機械の旋回装置を提供する。
【解決手段】旋回ベアリング3における内輪12と外輪14とをその円周方向へ相対変位させるリニアモータ手段20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の旋回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルやジブクレーン等の建設機械は、その下部走行体上に上部旋回体を旋回ベアリングを介して旋回可能に設け、該上部旋回体に、運転室を搭載すると共に、掘削作業や吊荷作業を行うためのブームやジブ等を取り付けてなる構成を有している。
【0003】
図4は建設機械としての油圧ショベルの一例を示すものであって、1はクローラ型の下部走行体、2は上部旋回体、3は下部走行体1上に上部旋回体2を旋回可能に支持する旋回ベアリング、4は上部旋回体2に搭載される運転室、5は上部旋回体2に起伏可能に取り付けられるブーム、6はブーム5の先端に回動可能に取り付けられるアーム、7はアーム6の先端に回動可能に取り付けられる掘削バケットであり、前記ブーム5の起伏や、アーム6及び掘削バケット7の回動操作はそれぞれ、運転室4内に着座したオペレータのレバー操作によるブームシリンダ8、アームシリンダ9及びバケットシリンダ10の伸縮により可能となっている。
【0004】
前記下部走行体1と上部旋回体2との間に設けられる旋回ベアリング3は、通常、図5及び図6に示される如く、前記下部走行体1にボルト11の締め付けにより取り付けられる内輪12と、前記上部旋回体2にボルト13の締め付けにより取り付けられる外輪14とを備え、該外輪14と内輪12との間には球体15が介装され、前記内輪12の内周面には内歯16が刻設されている。尚、図6中、12a,14aは内輪12と外輪14との間の隙間を塞ぐように設けられるシール部材であって、該シール部材12a,14aにより、内輪12と外輪14との間に充填される球体15潤滑用のグリースを外部に漏出させないようにしてある。
【0005】
更に、前記上部旋回体2には、油圧又は電動のモータ17並びに減速機18が配置され、該減速機18の出力軸には、前記旋回ベアリング3における内輪12の内歯16と噛み合うピニオン19が嵌着されており、これにより旋回装置が構成されている。
【0006】
前述の如き建設機械の旋回装置においては、モータ17の駆動により減速機18を介してピニオン19を回転させると、旋回ベアリング3における内輪12は下部走行体1側に固定されているため、前記ピニオン19が回転しつつ内輪12の内歯16に沿って転動する形となり、旋回ベアリング3における外輪14に支持される上部旋回体2が下部走行体1に対し旋回するようになっている。
【0007】
尚、前述の如き建設機械の旋回装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−172138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の如き従来の建設機械の旋回装置では、モータ17及び減速機18が上部旋回体2側に突出してその位置も限定されてしまうため、該上部旋回体2におけるレイアウト上の制約が大きくなるという欠点を有していた。
【0010】
又、前記旋回ベアリング3における内輪12は径が非常に大きいものとなっているが、該内輪12の内周面には精度が要求される内歯16を刻設する必要があると共に、該内歯16には高周波焼入や焼戻しといった熱処理を施す必要があり、製造面で手間と時間がかかり、コストアップにつながるという欠点をも有していた。
【0011】
更に又、前記旋回ベアリング3における内輪12に刻設された内歯16にピニオン19を噛合させる構造上どうしてもガタが生じるが、それを小さくするためのモータ17の位置合わせ等を行わなければならず、組み立て時の調整作業も面倒となっていた。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、上部旋回体側に突出するモータや減速機をなくして上部旋回体におけるレイアウト上の自由度を高めることができると共に、駆動に必要となっていた内歯やピニオンをなくして部品点数削減並びに製造コスト削減を図ることができ、且つ内歯とピニオンの噛合いに伴うガタをなくし、組み立て時の調整作業も容易に行い得る建設機械の旋回装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下部走行体上に上部旋回体を旋回ベアリングを介して旋回可能に設けてなる建設機械の旋回装置において、
前記旋回ベアリングにおける内輪と外輪とをその円周方向へ相対変位させるリニアモータ手段を備えたことを特徴とする建設機械の旋回装置にかかるものである。
【0014】
前記建設機械の旋回装置においては、前記リニアモータ手段を、
前記旋回ベアリングにおける内輪の外周と外輪の内周のいずれか一方に、N極とS極とが円周方向へ交互に並んだ状態で磁極変化が繰り返されるよう全周に亘って配設される電磁石と、
前記旋回ベアリングにおける内輪の外周と外輪の内周のいずれか他方に、前記電磁石の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるよう配設される磁石と
から構成することができる。
【0015】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0016】
前記磁石のN極に対向する電磁石をS極とし、磁石のS極に対向する電磁石をN極としておけば、内輪と外輪はその円周方向へ相対変位しないため、下部走行体に対し上部旋回体は旋回せずに静止状態に保持される一方、磁石のN極に対向する電磁石をS極からN極に変化させると共に、磁石のS極に対向する電磁石をN極からS極に変化させつつ、磁石側から見て向って左右いずれかの側に位置する電磁石の磁極を変化させ、該電磁石に磁石を吸引させ、同様の操作を繰り返していけば、内輪と外輪はその円周方向へ相対変位し、下部走行体に対し上部旋回体を所望の方向へ旋回させることが可能となる。
【0017】
この結果、従来の建設機械の旋回装置のように、モータ及び減速機を旋回ベアリングとは別に設ける必要がなくなることから、該モータ及び減速機が上部旋回体側に突出してその位置が限定されてしまうことが避けられ、該上部旋回体におけるレイアウト上の制約がなくなり、その自由度を高めることが可能となる。
【0018】
又、前記旋回ベアリングにおける内輪の内周面に精度が要求される内歯を刻設する必要がなくなると共に、該内歯に高周波焼入や焼戻しといった熱処理を施す必要もなくなり、製造面で手間と時間がかからず、ピニオン等も不要となって部品点数と製造コストを削減することが可能となる。
【0019】
更に又、前記旋回ベアリングにおける内輪に刻設された内歯にピニオンを噛合させる構造をとる必要がなくなってガタも生じなくなるため、モータの位置合わせ等を行わなくて済み、組み立て時の調整作業も面倒とならず容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の建設機械の旋回装置によれば、上部旋回体側に突出するモータや減速機をなくして上部旋回体におけるレイアウト上の自由度を高めることができると共に、駆動に必要となっていた内歯やピニオンをなくして部品点数削減並びに製造コスト削減を図ることができ、且つ内歯とピニオンの噛合いに伴うガタをなくし、組み立て時の調整作業も容易に行い得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の建設機械の旋回装置の実施例を示す概要斜視図である。
【図2】本発明の建設機械の旋回装置の実施例を示す概要平面図である。
【図3】本発明の建設機械の旋回装置の実施例における旋回ベアリングの断面図であって、図2のIII−III断面相当図である。
【図4】建設機械としての油圧ショベルの一例を示す側面図である。
【図5】従来の建設機械の旋回装置の一例を示す概要斜視図である。
【図6】従来の建設機械の旋回装置の一例における旋回ベアリングの断面図であって、図5のVI−VI断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1〜図3は本発明の建設機械の旋回装置の実施例であって、図中、図4〜図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4〜図6に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、旋回ベアリング3における内輪12と外輪14とをその円周方向へ相対変位させるリニアモータ手段20を備えた点にある。
【0024】
本実施例の場合、前記リニアモータ手段20は、図2及び図3に示す如く、前記旋回ベアリング3における内輪12の外周に、電磁石21をN極とS極とが円周方向へ交互に並んだ状態で磁極変化が繰り返されるよう全周に亘って多数配設すると共に、前記旋回ベアリング3における外輪14の内周に、永久磁石22を前記電磁石21の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるよう配設することによって構成してある。
【0025】
尚、前記電磁石21は、図3に示す如く、電源制御回路23に接続し、該電源制御回路23による+−通電方向の反転操作により電磁石21のN極とS極とを磁極変化させると共に、前記電源制御回路23による+−通電方向の反転操作の時間間隔を変化させることによって内輪12に対する外輪14の旋回速度も調節できるようにしてある。
【0026】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0027】
図2に示す状態で、永久磁石22のN極に対向する電磁石21の内輪12外周側をS極とし、永久磁石22のS極に対向する電磁石21の内輪12外周側をN極としておけば、内輪12に対し外輪14は旋回せずに静止状態に保持される。
【0028】
一方、図2に示す状態から内輪12に対し外輪14を時計回り方向へ旋回させる際には、永久磁石22のN極に対向する電磁石21の内輪12外周側をS極からN極に変化させると共に、永久磁石22のS極に対向する電磁石21の内輪12外周側をN極からS極に変化させつつ、永久磁石22のS極側から見て向って左側に位置する電磁石21(図2中、下から二番目の電磁石21)の内輪12外周側をN極とすると、永久磁石22は、前記電磁石21の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるため、内輪12に対し外輪14が時計回り方向へ動き出し、同様の操作を繰り返していけば、外輪14は時計回り方向へ旋回し続けることとなる。
【0029】
逆に、図2に示す状態から内輪12に対し外輪14を反時計回り方向へ旋回させる際には、永久磁石22のN極に対向する電磁石21の内輪12外周側をS極からN極に変化させると共に、永久磁石22のS極に対向する電磁石21の内輪12外周側をN極からS極に変化させつつ、永久磁石22のN極側から見て向って右側に位置する電磁石21(図2中、上から二番目の電磁石21)の内輪12外周側をS極とすると、永久磁石22は、前記電磁石21の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるため、内輪12に対し外輪14が反時計回り方向へ動き出し、同様の操作を繰り返していけば、外輪14は反時計回り方向へ旋回し続けることとなる。
【0030】
この結果、従来の建設機械の旋回装置のように、モータ17及び減速機18(図4参照)を旋回ベアリング3とは別に設ける必要がなくなることから、該モータ17及び減速機18が上部旋回体2(図5参照)側に突出してその位置が限定されてしまうことが避けられ、該上部旋回体2におけるレイアウト上の制約がなくなり、その自由度を高めることが可能となる。
【0031】
又、前記旋回ベアリング3における内輪12の内周面に精度が要求される内歯16を刻設する必要がなくなると共に、該内歯16に高周波焼入や焼戻しといった熱処理を施す必要もなくなり、製造面で手間と時間がかからず、ピニオン等も不要となって部品点数と製造コストを削減することが可能となる。
【0032】
更に又、前記旋回ベアリング3における内輪12に刻設された内歯16にピニオン19を噛合させる構造をとる必要がなくなってガタも生じなくなるため、モータ17の位置合わせ等を行わなくて済み、組み立て時の調整作業も面倒とならず容易となる。
【0033】
こうして、上部旋回体2側に突出するモータ17や減速機18をなくして上部旋回体2におけるレイアウト上の自由度を高めることができると共に、駆動に必要となっていた内歯やピニオンをなくして部品点数削減並びに製造コスト削減を図ることができ、且つ内歯とピニオンの噛合いに伴うガタをなくし、組み立て時の調整作業も容易に行い得る。
【0034】
尚、図1〜図3に示す実施例の場合、前記リニアモータ手段20を、前記旋回ベアリング3における外輪14の内周に、電磁石21をN極とS極とが円周方向へ交互に並んだ状態で磁極変化が繰り返されるよう全周に亘って多数配設すると共に、前記旋回ベアリング3における内輪12の外周に、永久磁石22を前記電磁石21の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるよう配設することによって構成することも可能である。一方、前記永久磁石22は必ずしも永久磁石とする必要はなく、電磁石を用いるようにすることも可能である。
【0035】
又、本発明の建設機械の旋回装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 旋回ベアリング
12 内輪
14 外輪
20 リニアモータ手段
21 電磁石
22 永久磁石(磁石)
23 電源制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体を旋回ベアリングを介して旋回可能に設けてなる建設機械の旋回装置において、
前記旋回ベアリングにおける内輪と外輪とをその円周方向へ相対変位させるリニアモータ手段を備えたことを特徴とする建設機械の旋回装置。
【請求項2】
前記リニアモータ手段を、
前記旋回ベアリングにおける内輪の外周と外輪の内周のいずれか一方に、N極とS極とが円周方向へ交互に並んだ状態で磁極変化が繰り返されるよう全周に亘って配設される電磁石と、
前記旋回ベアリングにおける内輪の外周と外輪の内周のいずれか他方に、前記電磁石の磁極変化により円周方向へ吸引・反発力を生じるよう配設される磁石と
から構成した請求項1記載の建設機械の旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−142766(P2011−142766A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2736(P2010−2736)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000198293)IHI建機株式会社 (96)
【Fターム(参考)】