説明

弁におけるアーマチュアの動作を制御するためのシステム及び方法

【課題】スプールが接合要素の物理的表面に選択的かつ物理的に接触する前において、ソフトランディングを提供すること。
【解決手段】弁において移動可能なコア(12)の動作を制御するためのシステムは、第1コイル(14)及び第2コイル(16)と、第1コイル(14)に対する第1位置と、第2コイル(16)に対する第2位置との間で選択的に移動できる移動可能コアと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁におけるアーマチュアの動作を制御するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソレノイド弁(すなわち、1個以上のソレノイドによって駆動される弁)は、完全に開かれた又は完全に閉じられた構造体の中の、流体又は気体の流れを制御するのに使用される電気機械式装置である。ソレノイド弁は、1個以上のコイルに電流を送ることにより動作し、もって、所望の方向(一般的には、開状態を示す第1位置から閉状態を示す第2位置の方向、又はこの逆の方向)に、磁性材料からなるコア又はスプールを移動する電磁力を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
公知のソレノイド弁の構造体では、スプールが一方の弁位置から他方の弁位置に移動する動作は、スプールが第2位置に近づくにつれてスプールの速度が増加し続けるために制御されず、高速度による衝撃を生じさせる。特に、スイッチングが速いと、この制御されない動作及び高い衝撃のランディングが、動作上の雑音、部品の劣化、機械的ストレス、及び望まれないスプールの振動を創出する。従って、以下に記載の実施形態は、ソレノイド弁における非制御のスプールの動作に関連するこれら及び他の欠点を鑑みて開発された。
【課題を解決するための手段】
【0004】
デュアルコイル弁におけるスプールの動作を制御するためのシステム及び方法が提供されている。該システム及び方法は、所定かつ任意の動作プロファイルに従い、弁の両コイル間に電流を分配させることによって、スプールの動作を制御することを含む。換言すれば、動作プロファイルは、第1コイルに流れる電流と、第2コイルに流れる電流との間の最適な関係を定めており、その結果、両コイルが協働してスプールの動作を制御することによって、下記に論じられるような、スプールが接合要素の物理的表面に選択的かつ物理的に接触する前において、「ソフトランディング」を提供している。動作プロファイルの進行には、所望のスプール挙動及び許容電流と利用可能な駆動電圧レベルにおける制限等の実用的な制約並びにエネルギー及び衝撃速度等を示す性能指標に基づいた、オフラインにおける最適な動作プロファイルを発生させることを含んでいる。一旦、オフラインにおける動作プロファイルが発せられると、動作プロファイルを制御かつ安定させると共に、モデル及び測定の不確かさを明らかにするために、フィードバックのアルゴリズムが適用される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、実施形態に従う、デュアルコイル弁の組立体の一例である。
【図2】図2は、実施形態に従う、動作形態を生じさせるステップの一例を示す工程図である。
【図3A】図3Aは、実施形態に従う、位置プロファイルの一例を示すグラフである。
【図3B】図3Bは、実施形態に従う、速度プロファイルの一例を図示するグラフである。
【図3C】図3Cは、実施形態に従う、弁組立体における電流と力との関係の一例を示すグラフである。
【図3D】図3Dは、実施形態に従う、電圧プロファイルの一例を示すグラフである。
【図4】図4は、実施形態に従う、典型的な制御フィードバック体系の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[例示的なシステム]
デュアルコイル弁におけるスプールの動作を制御するための1以上のシステム及び方法は、特にソレノイド弁を例として以下に述べられているが、当業者であれば、この例示的な詳述は、スプリング負荷弁に限定されることなく、この負荷弁を含む他の機械的弁の設計に適用できることを理解するであろう。
【0007】
図1は、第1コイル14と第2コイル16との間に配置された移動可能なスプール12を有する例示的なソレノイド弁組立体10の断面図である。各々のコイルは、電流が供給されたときに電磁力を発生することができる。第1コイル14及び第2コイル16は、長手方向の軸A−Aに沿って延在するハウジング21の円筒状端部キャップ18、20の中にそれぞれ部分的に配置されている。スプール12の第1端部22は、第1コイル14の最内部周辺によって形成された内部空間を移動し、一方、該スプールの第2端部24は、第2コイル16の最内部周辺の内部を移動する。図1に示された実施形態では、空隙Zは、端部キャップ18とスプール12の第2端部24との間の距離に等しい。一方、空隙Z´は、端部キャップ20とスプール12の第2端部24との間の距離に等しい。Zは、Zがとり得る最大値であり、かつ、ZとZ´との合計値である。Zが時間の関数であること、並びに、スプール12の位置、すなわち、Zは一定のまま維持されるが、空隙Z、Z´は動作中に変化することを、当業者は認めるであろう。空隙Zの全体は弁組立体10の構造の特徴によって変わる。
【0008】
コイル14及び16を例とするハウジングの固定要素に対するスプール12の相対的な動作は、第1コイル14及び第2コイル16のいずれか1つ又はその両方によって発生した磁力の強さに依存する。磁力の強さは、一部は、第1及び第2コイル14、16に供給される電流の作用による。他の要因としては、スプール12の長さ及び質量、空隙Zの大きさ、対応する空隙Z及びZ´の相対的寸法、並びにコイル14、16を流れる電流によって創出されるコイル14、16を通る磁束が影響する。これらの関係は、iを、第1コイル14又は第2コイル16のいずれか1つを流れる電流、λを磁束結合、Zを上述されたような端部キャップ18に対するスプール12の位置、Vdrvをコイル14、16の駆動電圧、mをスプール12の質量、Cμを粘性摩擦係数、及び、Fmagを磁力とすると、次の微分方程式を用いて表すことができる。
【数1】

【0009】
式1は、印加される駆動電圧Vdrvに基づくコイル14、16の一方を通る電流変化を表す。この電流変化は、スプール12のスタート位置に依存して、すなわち、第1コイル14から第2コイル16に移動する位置、又は、その逆の方向に移動する位置により決まる時刻において、一方のコイルに対してのみ演算が行われることに注目する。
式1の第1括弧内は、コイルのインダクタンスを表す。第2括弧内の第1要素は、供給された電流iに基づくコイルのオーム抵抗(R)による電圧降下である。第2項の第2要素は、zの1階微分(zドット)がスプール12の速度である磁束結合λの微分係数(コイルを流れる電流とスプールの位置との関数)の誘導電圧である。第2項の第3要素(最終要素)は、コイル駆動電圧を表す。
【数2】

【0010】
式2は、ニュートンの第2運動法則(すなわち、F=ma、Fは全ての外力の合計、mは質量、及びaは加速度である)から導出される。加速度について解くと、式2は、スプールの位置の2階微分によって表され、かつ、スプール12のための全ての力の合計に等しい。括弧内の第1項は、コイルを通る電流とスプール12の位置との関数としての、コイル(第1コイル14又は第2コイル16のいずれか1つ)による磁力である。第2項は、電流がゼロのときの残余磁束によって、他方側からスプールに作用する力である。第3項(最終項)は、スプール12の速度に比例する粘性摩擦力である。
【0011】
[例示的なプロセス]
図2は、デュアルコイル弁におけるスプールの動作を制御するための動作形態を生じさせる例示的なプロセスを示すフローチャートである。物理的構成要素に付された参照符号は、図1で示した例示的な要素の参照符号と対応している。ステップ100では、適正なコスト関数が選択される。該コスト関数は、制限はないが、エネルギーの消費及び衝撃速度等の一定の設計基準に重み付けをするか、又はそこに制限を加える。スプール12の位置に基づく任意の動作プロファイル及び所望のスプールの軌跡は、ステップ102で選択される。例示的な動作プロファイルは、図3A及び図3Bで示されている。ここでは、図3Aが、時間tに関するスプールの位置Zを示し、かつ、図3Bが、上述のようにスプールの第1端部22が端部キャップ18に近づくので、時間tにわたる速度(dz/dt)の関数としてのスプール12に関する速度を示す。
図3Bにおける速度は、スプールの位置(すなわち空隙Z)が繰り返し減少してゆくことから、負であることに注目してほしい。図3A及び図3Bを見ると、空隙が減少するので、例えば0.4msの時間でスプール12の速度の絶対値は実質的に最大になる。空隙は、さらに減少するので、スプール12の絶対速度も、実質的に最大になる。以下にさらに詳述するように、スプールの速度減少、その結果として得られるソフトランディングは、第2コイルに供給される電流による。それは、空隙の長さに基づいており、スプール12の速度を減少させるための対向する磁力を創出する。一実施形態では、空隙の長さはスプール速度に基づき概算されるが、これは電圧及び電流の測定に基づく。他の実施形態では、空隙の長さは、端部キャップ18、20の内部に配置された近接センサによって決定される。スプリング負荷弁において、測定値は、測定されるばね力の結果によって得られたものである。
【0012】
図2を参照すると、ステップ104では、第1コイル14及び第2コイル16における公称電圧Vdrv(t)及び公称電流i(t)、並びに得られる力のプロファイルは、式1及び式2を用いてステップ102から読み出され、かつ、図3A及び図3Bのそれぞれに示されているスプールの位置及び所望のスプールの軌跡に基づいて演算される。これは、システムが異なるフラットネス特性を有するので、式1及び式2から演算が可能である。測定誤差やモデルの不確実さにより、ステップ104では、公称値を補正する必要がある。結果として、ステップ106では、第1コイル14と第2コイル16の両コイルのための電流及び電圧の実際値が、下の式3の組を用いて演算される。
【数3】

【0013】
ステップ108では、電流及び電圧のプロファイルは、従前に決めたコスト関数及び弁組立体10の物理的制限に従い、設計通りに実現可能か否かについてチェックされる。ステップ110では、標準的なフィードバック制御ループに基づいてオフラインにおいて立案した、電流及び電圧に対して補正がなされる。例えば、上記式3の組のictrl(t)及びVdrv(t)は、フィードバックループ(すなわち、制御法則)を示し、このフィードバックループは、動作プロファイルを安定化するのに用いることができ、さらに、推定値又は測定値(例えば、電流、電圧、摩擦係数、その他の当該値)における不確かさによるいかなる誤差も補正することができる。式3の組における制御法則は、非線形力学を補償するための、フィードフォワード量としての電圧及び電流のための公称値を使用する。フィードバックは、式3の組による公称量(*の記号によって式3の組の中で示されている)と現実の測定値との間の差に、重み付けすることによって導かれる。この制御構造は、一般に、力学的な補償項を用いた、状態空間のフィードバック制御器として知られている。
【0014】
図4は、電流基準プロファイル40(オフラインで発生したプロファイル)が、測定又は推定された電流プロファイル42(実際のプロファイル)と比較されて、その差を演算する制御体系の全体を示すが、この差は、電流の補正を生じさせる。同様に、速度基準プロファイル44は、速度の補正要因を決定するために、スプール12の測定又は推定された速度46と比較される。同じ法則が、位置補正要因を得るためには、位置の基準プロファイル48、及びスプール12の測定又は推定された位置50に適用される。スプール動作がソフトランディングとなるように制御されるように、弁組立体10のために最適化された動作プロファイルを示す制御電圧を創出するために、補正要因のそれぞれが合算される。
【0015】
図3C及び図3Dは、第1コイル14及び第2コイル16のそれぞれのための、両コイル(図3C)に流れる電流と、その結果得られる電圧分布(図3D)の関数として得られる力のプロファイルを示す。弁10のための全体動作プロファイルは、図3Aから図3Dにおけるグラフにまとめて示されている。図3Cは、コイル14、16のそれぞれに流れる電流間の関係、各コイル14、16に対して得られる磁力、さらに、その結果得られるスプール12の速度に対する衝撃を最も良く示す。時刻ゼロから約0.4msに略等しい時間に注目すると、結果として得られる力は、第1コイル14における電流によるものである。図3A及び図3Bを参照することによって、この時間は、空隙が小さくなり、かつ、理想的な最大速度がピークに達した時間であることを理解できるであろう。ソフトランディングを達成するために、第1コイル14における電流はゼロに向かうが、一方、第2コイル16における電流は第1コイル14の磁場と対向する第2コイル16における磁力を創出しながら増加する。空隙Zがゼロに向かって減少するので、上記の対向する力が、スプール12の速度を減少させる。その結果が、ソフトランディングである。
【0016】
本発明は、上記の好適実施形態を参照して、特に示されかつ記載されてきたが、当業者によって、ここに記載した本発明の実施形態に対して様々な変形例が、以下に添付する請求項で限定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を実施して使用することができる。以下に添付する請求項が、本発明の範囲を画定し、かつ、それによって包含される請求項又はその均等の範囲で、本発明の方法及びシステムを定めることが意図されている。本発明の当該記載は、ここで記載された全ての新規かつ非自明な組み合わせを含むことを理解されるべきである。上記の実施形態は例示的なものであって、1つの特徴又は要素は、本出願又は後の出願において請求項とされうるすべての可能性のある組み合わせに必須なものである。請求項が、それに均等の「1つ」又は「第1」の要素を規定する場合は、このような請求項は、1又はそれ以上の要素を合体させたものを含むものと理解されるべきであり、2つ又はそれ以上の要素を必要とするものでも、除外するものではないことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コイル及び第2コイルと、
前記第1コイルに対する第1位置と、前記第2コイルに対する第2位置との間で、選択的に移動可能なスプールと、
を含み、
該スプールの前記第1位置及び前記第2位置が、動作プロファイルに従って制御されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記第1コイル及び前記第2コイルに供給される電流が、前記第1位置と、前記第2位置との間で、前記スプールの動作を制御する磁力を生じさせることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記動作プロファイルは、前記第1コイルに供給された第1電流と、前記第2コイルに供給された第2電流と、
を含み、
前記第1位置から前記第2位置に動くような前記スプールの動作が、前記動作プロファイルに従って制御されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1電流及び前記第2電流が、前記第1コイル及び前記第2コイルに供給されて、前記スプールの速度を制御し、
前記スプールが、前記第1位置から移動して前記第2位置に近づくように速度を低減させることを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記動作プロファイルは、所望のスプールの挙動にしたがって選択される任意の動作プロファイルであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1コイルに供給される第1電流が、前記第1位置から前記第2位置までスプールを移動させる磁力を生じさせ、
前記第2コイルに供給される第2電流が、前記スプールが前記第2位置に近づくときに前記スプールの前記速度を減じるように、反対方向の磁力を生じさせることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記弁が、ソレノイド弁であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記弁が、スプリング負荷弁であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2位置が、接触のための物理的表面を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
弁におけるスプールを制御する方法であって、
スプールを第1位置から第2位置に移動させ、
該スプールが第2位置に近づくときに減速させるようにスプールの動作を制御する任意の動作プロファイルを選択し、
前記動作プロファイルを、第1コイルと第2コイルとの間のスプール位置及び所望のスプール軌道に位置付け、
前記任意の動作プロファイルに基づいて、前記第1コイル及び前記第2コイルのそれぞれに対して、電流値及び電圧値を演算し、
前記電流値及び前記電圧値に基づいて、力のプロファイルを生じさせる、各工程を含むこと特徴とする方法。
【請求項11】
前記電流値が第1電流を含み、該第1電流を前記第1コイルに供給し、
これによって、前記スプールを前記第1位置から前記第2位置の方に移動する磁力を創出し、
さらに、前記電流値は第2電流を含み、該第2電流を前記第2コイルに供給し、
これによって、反対方向の磁力を創出して、前記スプール速度を低減させ、前記第2位置に、前記スプールをソフトランディングさせることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1演算電流値を前記第1コイルに供給して、第1磁力を生じさせることによって、前記スプールが、第1位置から第2位置に移動するように前記スプールの速度を制御し、
さらに、第2演算電流値を前記第2コイルに供給して、前記第1磁力に対向する第2磁力を生じさせることによって、前記スプールが前記第2位置に近づくときに、前記スプールの速度を低減することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
弁におけるスプールを制御する方法であって、
前記スプールが、第1位置から第2位置に移動するときに、
前記第1コイルと第2コイルとの間のスプールの位置、及び、所望のスプールの軌道に基づく、前記スプールの動作を制御する任意の動作プロファイルを選択し、
前記任意の動作プロファイルに基づく、前記第1コイル及び前記第2コイルのそれぞれのための公称電流値及び公称電圧値を演算し、
前記公称電流値及び前記公称電圧値に基づく、力のプロファイルを演算し、
実現性のある基準を設計するために前記公称電流値と前記公称電圧値とを比較し、
前記第1コイル及び前記第2コイルの各々に対する実電流値と実電圧値とを演算し、
前記公称電流値及び前記公称電圧値を、前記実電流値及び前記実電圧値と比較し、前記公称電流値及び前記公称電圧値を、前記実電流値及び前記実電圧値と比較した結果から得られた差に基づいて、測定誤差及びモデルの不確かさを補償する補正係数を決定する、各工程を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1971(P2011−1971A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−143367(P2009−143367)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(390033020)イートン コーポレーション (290)
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
【Fターム(参考)】